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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>悪意あり、害意あり、されど民意なく<トリグラフ作戦>

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 煙草の煙がゆらゆらと天井に向かっていく。
「はぁ……ったくよぉ、メンドクセェなぁ」
 豪奢な椅子へと深々と腰を掛け、女は苛立ちながら呟いた。
「ぐっ……ぁっ……」
 まだ吸い始めたばかりのそれを女は『灰皿』に押し付ける。
 小さな呻き声を苛立つように女は『灰皿』を蹴り飛ばした。
 よろめき崩れ落ちた『灰皿』を一瞥すると、椅子をくるりと回転させて『灰皿』に足を乗せてぼんやりと虚空を見る。
「デボラ少尉! 帝都よりご報告がございます!
 入室の許可を頂きたく!」
「さっさと入んな」
 女――デボラの言葉を受けて、扉が開く。
「で? 何の用だい?」
 崩れ落ちて四つん這いになった『灰皿』の横腹を蹴り飛ばし、入ってきた兵に告げれば。
「はっ! 現在、先代の御世を良しとする諸軍閥が鉄道網の奪還を望んでいるようです」
「あーあー……なるほどねぇ……うちらにも何か命令があったのかい?」
「はっ! 西方にある帝政派などと名乗る連中がボーデクトンを狙っているようです」
「ってぇことは、確実にここを通るねぇ。はぁ、ウザったい……」
「それからもう1つ。オートンリブスを中核に置いた魔獣の群れがここから少し西に巣を張ったようです」
 続けての報告を受け、にやりとデボラが笑う。
 その笑みはどこまでも邪悪につり上がっている。
「こりゃは面白いことを聞いた――遊んでやるとしようかねぇ」
 デボラが静かに立ち上がる。

――――――――
――――――
――――
――

 それから数時間後。
 町の広場にてデボラが演説を始めていた。
「おい、腰抜けの民衆ども! よく聞きな!
 今からここに、てめぇらを潰さんとしてる連中が顔を出す」
 集まった群衆はボロボロで、濃い疲労を滲ませる者、何かを恐れる者がほとんどだ。
 それらの群衆をぐるりと鉄帝正規軍の装いを持った兵士達が取り囲む。
 彼らは皆、デボラの配下の連中である。
「そいつらに負けねえためにも、まずは西だ。西に、魔獣が巣を作ったらしい。
 てめえらも分かってるだろうが、この町は『うちらが保護してやってる』んだ。
 弱っちぃ雑魚ども、てめぇらも武器を取れ。わかるな?
 死ぬぐらいの覚悟を見せてみろ!」
 そう笑って言えば群衆の中から、ちらほらと声が上がる。


「もうすぐのはずだ」
 そう小さく呟くのはゲレオンとか言ったか、鉄帝軍の将校だ。
 君達はゲレオンの小隊の招聘を受ける形で、サングロウブルクから東へ進んでいた。
「あんたらも準備してくれ。情報が確かなら、そろそろ――」
 その時だった。人の断末魔が響く。
 ゲレオンは顔を上げ――ただでさえ厳めしい顔を険しくしかめた。
「――オートンリブス……ってことは」
 それは、巨大なカブトムシとでもいうべき存在だ。
 鉄道の路線を破壊するように動くオートンリブスと戦って――返り討ちに遭っている人々がいる。
「――今ならまだ間に合う! 行こう!!」
 ゲレオンとその兵士達が愛馬に鞭を入れて速度を上げる。
 彼らを突出させぬように、君達も速度を上げた。

 ――エーデンブリュックと言う町がある。
 サングロウブルクからボーデクトンへと至る路線上に作られた町の1つだ。
 駅舎を中心に宿場町として広がったその町から、這う這うの体で逃げ伸びて来た難民がいた。
 彼はエーデンブリュックを占領したデボラなる新皇帝派の軍人により町は制圧下に置かれていること。
 デボラは暴虐の限りを尽くしており、民衆は疲弊していること。
 『英雄狩り』と評して民衆を兵士として取り立て、町近郊の魔獣と戦わせていること。
 表向き『自分の町は自分で守れ』と言わせておきながら、その実それがただの『人減らし』にすぎないことを涙ながらに語った。
 そうした結果として、彼の調査とある種の尋問を担ったゲレオンが君達へ同行を要請したのである。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 トリグラフ作戦、やっていきましょう

●オーダー
【1】『雷拳』デボラの撃退
【2】デボラ隊の撃退
【3】魔獣隊の撃破
【4】民兵の救出

【4】のみ努力条件です。

●フィールドデータ
 鉄道路線の走る雪原部です。
 遮蔽物などはありません。
 皆さんは以下に魔獣を挟んで民兵、デボラ隊と相対する形で戦場に到着します。
 デボラ隊の更に向こうにエーデンブリュックの町並みが微かに見えています。

イレギュラーズ陣営  魔獣  民兵  デボラ隊

●エネミーデータ
・『雷拳』デボラ
 元ラドバウ闘士。皆さんはリプレイ開始後、何となくですが『魔種』と気づきます。
 より強い相手との戦いを求めて新皇帝派に付きました。
 比較的辺鄙な田舎にあたるエーデンブリュックを占領する任務に苛立っています。
「こんなくだらねえ田舎を守るだぁ? くそだりぃ」とのこと。
 そのため、皆さんとの戦闘では嬉々として戦うでしょう。

 二つ名から想像するに【痺れ】系列、【麻痺】などのBSを使うでしょう。
 同様の理由から【スプラッシュ】【追撃】【邪道】などの連撃を駆使する可能性も高いです。
 気功を駆使した自己回復の手段も持っていそうです。

・デボラ隊×5(剣×3、銃×2)
 元ラドバウ闘士。
 デボラの部下であり、実戦経験の豊富な強力な部隊です。
 剣身がビームの剣と盾を持つ剣兵、
 レーザーを放つ狙撃銃と盾を装備した銃兵で構成されます。
 デボラ隊は基本的にデボラの周囲を固めており、魔獣とは敵対していません。

・魔獣隊×3
 オートンリブス1体とラースドール5体で構成されたチームが3つあります。

 オートンリブス×3
 それぞれの群れに1体存在する、人よりも遥かに巨大なカブトムシ型魔獣です。

 その巨体に見合った鈍重さの代わり、圧倒的な防技と抵抗を持ちます。
 近接範囲には角や足による攻撃を加え、【乱れ】系列のBSを与えます。
 また、定期的に不可解な羽音を立てて注意を引いており、
 【怒り】が付与される可能性があります。

 ラースドール×5
 パワードスーツに怒りが宿り、動き出した怪物です。
 全個体が背中に機銃を持ち、ハンマーのような腕を持ちます。

 兵士に向けて【中扇】に弾丸をばらまく他、
 射角を調整して広域へ弾丸を撃ち込む【遠域】攻撃を持ちます。
 弾丸は【致死毒】が仕込まれ、【失血】することもあるでしょう。

 また、ハンマーによる近接攻撃の威力は馬鹿にできない火力があります。
 ハンマーに打たれれば【乱れ】系列のBSや
 衝撃による【痺れ】【ブレイク】なども引き起こされるでしょう。

・民兵×30
 エーデンブリュックの民衆から取り立てられた民兵です。
 装いは一般的な鉄帝人の庶民の物で武器も農具などで構成されています。
 民兵ではありますが、『何の訓練も受けてない一般人』です。
 鉄帝人らしく一般人にしては強いですが、
 所詮は一般人なので普通に魔獣隊による攻撃で殺されていきます。
 以下の特殊ルールに関係します。

●友軍データ
・ゲレオン隊×30
 帝政派所属、鉄帝軍将校ゲレオン率いる小隊です。
 機動力と突撃力に優れた騎馬隊です。
 ゲレオンに任せておいても勝手に魔獣隊と戦いますが、
 ゲレオンは皆さんの判断を優先するようです。

●特殊ルール『民兵』
 戦闘開始時、魔獣隊の付近には兵士として取り立てられたばかりの民衆がいます。

 彼らは現時点ではデボラ隊の影響下にある『敵対勢力』です。
 開幕直後に範囲攻撃を行うと普通に巻き込まれます。
 【4】を達成するのであれば何とかして引き剥がし、投降させる必要があります。
 とはいえ、ただ『投降しろ!』だけで言う事を聞いてくれるとは限りません。

 民兵たちは現在、『西の方にある敵対勢力が侵攻してきている』、
 『魔獣や敵を止めないと町が襲われる』と認識しており、イレギュラーズも敵と判断しています。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <総軍鏖殺>悪意あり、害意あり、されど民意なく<トリグラフ作戦>完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年11月14日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
熾煇(p3p010425)
紲家のペット枠
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

リプレイ


 雪原を黒塊が動く。
 鋭く伸びた角が空へ伸びて、積雪に濡れて輝いている。
 その周囲にあるは人型のナニカ。
 それらが黒塊へ迫る民兵を打ち据えんと機銃を構える。
(これ以上の非道な行いは止めてみせる。
 その為に守るべき民達と刃を交えないといけないのが悲しい所だけど
 誠心誠意尽くして話をすればわかってくれるはず!)
 その姿を見据え、『蒼輝聖光』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はセラフィムを起動する。
 その視線の先には、民兵の姿。
「サクラちゃん、そっちはお願いっ!」
 魔力は旋律へ変わり、福音は鮮やかに戦場を包む。
 美しく洗練された音色は民兵たちの意識を絡めとる。
「もちろん――自分の快楽の為に民衆を犠牲にするなんて絶対に許せない!」
 スティアへと頷いた『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は愛刀を抜き駆け抜ける。
 熱く、けれど冷静に、サクラの視線はオートンリブスを観察していく。
 圧倒的な速度より振り抜かれた斬撃が1匹を背中から斬り上げる。
 桜花の軌跡を紡ぐ斬撃は堅牢な甲冑の如き皮膚の僅かな関節を削り切り開いた。
『キィィィイイイ!!!!』
 背中が開いて不協和音が響かせゆっくりとオートンリブスがこちらを向こうと動き出す。
「――な、なんだ!?」
「あ、新手だ!」
 オートンリブスに、ラースドールに蹴散らされていた民兵たちの声が響いた。
(徴兵した町民を魔獣と戦わせる……
 間違いなく、背後に新皇帝派が督戦として展開していますね。
 対処は手間取りそうですが、うまくやるしかない)
 その声を聞きながら、『氷月玲瓏』久住・舞花(p3p005056)は落ち着いてこちらに向かって振り向きつつあるオートンリブスを見る。
 その身体が横を向いた時、民兵たちの向こう側でこちらを見ている集団を見た。
(恐らくあれが新皇帝派……)
 美しき軌跡を描く銀麗なる閃光を振り抜いて、オートンリブスの側面を削り落としていく。
「強くなりてーっていうのはよくわかるんだけどなー?」
 ワイバーンに乗って空を行く『紲家のペット枠』熾煇(p3p010425)は戦場を見下ろすとオートンリブスへと飛び込んでいく。
 魔力が揺蕩い、黒い尾を引きながら地上へと降りて行けば、やがて熾煇を包み込み。
 魔力で出来た黒き竜と化してオートンリブスへ食らいつく。
 そのままオートンリブスの身体を蹴り飛ばすように空へと舞い上がれば、ワイバーンが熾煇を迎えにきた。
「かってー……でも、俺の牙には負けるなー」
 舞い上がった空、熾煇は見下ろすままに小さく呟いた。
「やっぱりこの位置からだとあの人たちも巻き込んじゃう……」
 オートンリブスの内、2匹がこちらに振り返りつつあるその最中、『猛獣』ソア(p3p007025)は速度を一気に上げた。
(それならいっそ――)
 敵の間を縫うように駆け抜ければ、目を瞠る民兵たちの顔がある。
 それを視認したところで、軸足を駆使して一気に振り返り。
 地面を踏み込み、跳ねるようにオートンリブスへ飛び込んだ。
「かったい甲羅だね、それでもっ!」
 猛る虎爪から繰り出される連撃が幾つもの傷をオートンリブスの身体に刻んでいく。
「チッ、クソが、民兵の人数が多すぎんだろ!」
 それに続く『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は空よりオートンリブスとラースドールの群れを飛び越えれば、民兵たちには決して当たらぬ位置へ銃弾をぶちまける。
「待ってやがれ。全員わからせて、面倒見てやっから!」
 それが民兵たちに届いたかは分からない。
 だが、驚きつつも顔を上げた民兵たちの意識は完全にアルヴァを捉えている。
 その時だ。
 イレギュラーズの奇襲ともいえる猛攻に反応しなかった1匹のオートンリブスが一歩前に出た。
 振り下ろされた角が民兵に迫る。
「クソがっ、やらせるかよ!」
 飛び込んだアルヴァの身体が民兵とオートンリブスの間へ割り込み、オートンリブスの自重を兵器とした突撃を受け止める。
「魔獣に加えて俺達まで利用して町の民を脅かすなど、許さない……!
 見てくれ、俺達が本当は何者なのかを。……こんな戦い、終わらせてやる!」
 駆け抜ける騎兵隊の傍、四足歩行の亜竜に曳かれるチャリオットの上で『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は剣を握る。
「まずは仲間をデボラ隊側まで通す。行くぞ、突き抜けろ!!」
 雪を散らし、雪原をかける騎兵隊は一個の塊となって突撃していく。
「ラースドールを自由にさせるな!」
 イズマの言葉を受けてゲレオンが叫び、馬に鞭を打って突っ込んでいく。
 ゲレオン隊がラースドールへと突撃をかけるのと同時、イズマは剣を振るう。
 奏でる旋律は衝撃波となって波を打ち、民兵たちを後方へ吹き飛ばす。
『キィィイィィ!!!!』
 オートンリブスが、ラースドールがいよいよとイレギュラーズ達へと反撃を見舞い。
 倒れこむようにして体当たりしてきたオートンリブスが大地を揺らし、ラースドールより放たれた壮絶な弾幕が戦場を包み、雪が舞い上がる。
(メイは、人間が笑ってる姿が好き。
 なのにあの人たちは怯えた顔。笑顔にするには、どうしたらいい?)
 自問自答するように『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)は戦場の奥を見る。
 怯えたように武器を構える民兵たち。
 その手には一般に武器と言われて思い浮かべるような剣や槍ではない。
 鍬やら鋤、木こりが使うような斧しか持っていない彼らは、兵としての力量など感じられぬ。
「……彼らを守らなきゃ」
 その思いを祈りを籠めて、メイは葬送者の鐘を鳴らす。
 優しい音色は攻撃を受けた仲間達を癒していく。


 圧倒的な速度での先制攻撃のままに流れを作ったイレギュラーズは、その勢いをそのままに開戦した。
「どうした、新手が出たってだけでびびってんのか?
 死ぬくらいの覚悟があるんだろ? なぁ、雑魚ども」
 戦場に低い女の声が響く。
 それは後方に陣取り様子を窺うデボラ隊の方から聞こえた声だ。
「……ッ! う、うわあああ!!」
 ちらりと後ろを見て、息を呑んだ民兵が叫びながら突っ込んでくる。
 振り下ろされた鍬を体捌きで受け流して、ソアは民兵に余裕を見せて笑った。
「ふふん、怒ってないよ。相手が優しいボクでよかったね?」
「うっ……」
 そのまま民兵のことなど気にせず、ソアは鋭く剥いた爪をオートンリブスに振り抜いた。
 ラースドールの機銃を受け流し、その視線を奥へ。
 民兵を督戦するようにその後ろにいるデボラ隊。
 2人の銃兵の銃口は常にこちら――正確には民兵を見据えている。
 それはまるで、退くことは許さぬとばかりに。
「……意地が悪いなぁ」
 ぽつりと呟いて、ソアは爪を突き立てる。
 落ちてきたオートンリブスから逃れるように飛び出した。
「死ぬくらいの覚悟だって? ざけんなよ、お前ら」
 状況に苛立つアルヴァがグンと速度を上げて行く。
「――俺はもう、圧制で民が死ぬ様子を見たくねえんだよ……」
 爆ぜるように突撃し、銃床で殴りつけた。
 雷鳴の如き音を立て、雷霆の如き鋭さ速度を以って撃ち抜いた一撃がオートンリブスの図体を撃ち抜く。
「だから――だから頼む、俺たちと来て生きる道を選んでくれ。
 義賊の名に懸けて、お前らのことは悪くしねえって約束するから!」
 眼前に身をさらし、発狂しながらアルヴァを打つ民兵を魔獣から庇うようにして立ち続ける。
 1人1人の攻撃など痛くもかゆくもない。
 連続する攻撃となって降り注いでもそれは変わらない。
「……っ!」
 そんなアルヴァの姿に民兵の息を呑む声がしていた。
「メイたちは敵じゃないです!
 敵ならばとっくに、魔獣と合わせて皆を攻撃してるです!
 メイたちは、皆に笑顔になってもらう為に来たですよ!
 武器を下ろして。ここから逃げて欲しいです!」
 メイは民兵たちに声をかけていた。
 その身には流れ弾や範囲攻撃の巻き込みを受けそうになった民兵たちを庇った傷がある。
「た、たしかに……」
 声が届いた範囲の民兵たちが動揺しているのがわかる。
「メイ、この戦いが終わったら、おっきな鍋にスープ作って、皆であったまりたいです!
 死ぬときは今じゃない。メイ達が何とかするから! だから、まずはあっちへ」
 そう言ってメイの指さす方には、ドレイクチャリオットがある。
「倒れてる人はあそこの荷台で休ませてあげてほしいのです!」
 そう言いながらも、鐘の音を鳴らして仲間達の保護は忘れない。
「デボラ隊をよく見ろ!
 民を無理に戦わせ、しかも自分達は魔獣と戦わない!
 町を守る気の無い奴等の言う『敵』など、信じる価値も無いはずだ!!」
 イズマは苛烈に攻め立て、魔獣隊へとビートを刻むかの如き魔術を叩き込んでいた。
 激しく鳴らすビートはオートンリブスの堅牢なる装甲を浸透し、狂気のもとへ絡めとる。
 それに巻き込まれたラースドールたちがその身を狂気に侵され、自らをハンマーで叩きつける。
 そこへイズマの指示を待っていたゲレオン隊が突っ込んでいく。
 ラーズドールを踏みしめ、踏破する騎兵隊がボーリングのピンの如くラーズドールを吹き飛ばしていく。
 その姿を観察しながら、イズマはさらなる旋律を描く。
 魔術の音色は質量を帯び、鮮やかに走る旋律の弾丸となって一気に魔獣たちを薙ぎ払っていく。
「今すぐに信じて欲しいとは言わないけど私達は貴方達を助けにきたんだよ。
 新皇帝派の人達が暴虐の限りを尽くしていると聞いたから……」
 怯えながらその手に農具を握る民兵へ、スティアは自然体のままに声をかける。
 真摯に、聖職者としての自らを前面に出してスティアは声をかけて行く。
 その周囲には鮮やかな花弁が舞い踊る。
 驚いている民兵たちの傷に花弁が触れれば、そこにあった傷が癒えて行く。
「な、なぁ……もしかして、本当なんじゃ……」
「で、でも……」
「だって、俺達の傷まで治療してくれて……」
 民兵たちの動揺は明らかだった。
「もし少しでも信じて貰えたなら、下がってほしいんだ。
 魔獣の攻撃が当たらないように」
 真摯に、1人1人に目を合わせるぐらいの心持で、真剣に声をかける。
「私達はエーデンブリュックを横暴なるデボラ達から解放する為に来た!
 だから、民を傷つけるつもりはないよ! 戦闘に巻き込まれない位置に避難して!」
 サクラはスティアの言葉に補足するように宣言しながらオートンリブスへと愛刀を振り抜いた。
 放たれる桜花の斬撃は残像をも質量を抱き、鋭く食らいつくように斬痕を残す。
「――はっはっ、いいねぇ、そうでなくちゃ!」
 それは歓喜の声だった。
「じゃあ、うちらも呑気に見てる場合じゃないよなぁ!」
 笑う声がスティアの耳を打つ。
 雷光が爆ぜ、純白の戦場を眩くくらませる。
 それが牙を剥く前に雷光へと飛び込む影がある。
「貴女、ラド・バウで見覚えがある気がする」
 閃光を切り拓き、愛刀を上段より振り下ろした舞花はそこにいる女の姿に見覚えがあった。
「占領者はデボラ……ふむ、闘士の『雷拳』デボラ?」
「へぇ、うちの名前を憶えるたぁ、あんたも戦闘狂の部類かい?」
 無刀取りの要領で拳を払った女が目を輝かせた。
「新皇帝に降って……そう、反転したのね。
 そんなに戦いたいのなら、私達がお相手致しましょう」
 こちらへと圧をかけるように放たれる憤怒の呼び声がその正体を如実に表している。
 その身が抱くは剱神残夢。
 果てのその先、微かにでも到達すれば、真っすぐに魔種を見据えてその身を高めていく。
「そこまで言われちゃあしゃあねえ、出来るだけ長く付き合ってくれよなぁ!」
 笑みを刻んで、放たれる連撃の多くを受け流していく。
 本の僅かでもその身に傷が走れば、デボラの今の実力もしれようというもの。


「強くなりてーなら一人でやれよな。
 徒党組んでおれつえーってしててもかっこよくないんだよなぁ」
 熾煇は遂に動き出したデボラ隊目掛けて飛翔する。
「はっ、言うじゃねえか、徒党組んでるのはあんたらもだろうにさ!」
 挑発を愉快そうに聞き流したデボラへ熾煇は視線を向けた。
 全身に纏う魔力が黒竜を形取り、放たれた魔力が雄叫びを上げる竜へと変質する。
 口を開いた漆黒の竜の大顎がデボラを呑みこんだ。
「俺は弱いけど、お前より強いぞ?」
 静かに見下ろすようにして告げれば、黒光の向こう側から笑う声がした。
「いいねえ、いい。これでこそ戦いってもんだ!
 くそ田舎で雑魚ども抑えてる日々なんざくだらねぇ、飽き飽きしてたんだ」
 爛々と輝く魔種の目が、熾煇を見上げている。
「やっぱりお前、弱いな。心が、凄く弱い。
 だって、魔種になったし、力で押さえつけて威張ってるんだもんな」
 続けた熾煇の言葉に、じとりとしたデボラの目が向く。
「そこまで言うんだ、直ぐに死ぬんじゃねえぞ、ガキ」
 ぎらつく殺意が熾煇を射抜いてくる。
「――後は貴女達だけね。とはいえ何が変わる訳でも無し……さあ、続けましょうか『雷拳』?」
 舞花は見上げた状態のデボラの懐へと飛び込んでいく。
 その身体には複数の傷痕が残っているが、その程度、仲間の支援でどうとでもなる。
 そのうちへと絶えず練り上げた気を刀身へと注ぎ込み、振り払う紫電の閃光が苛烈に魔種の身体を打つ。
「貴女に今の私の力がどの程度通じるか分からないけど……」
 自らの用いる全ての手札を注ぎ込むようにして、サクラは愛刀を握る。
「――全力でいくよ!」
 一拍、刹那に跳ね上げた全身全霊。
 紅にも似た桜花の火花が散り、残像すら置き去りにした斬撃がデボラ目掛けて駆け抜ける。
 大禍を斬り裂き、竜をも撃ち落とす居合抜き。
「――ッ!!」
 受け止めんとしたデボラが、息を呑んで、咄嗟の退避行動をとるが――
(捉えた!)
 既に遅い。奇跡的に紡いだもう一手が到達する。
 鋭い軌跡を描いた斬撃がデボラの身体を真っすぐに切り開く。
「つぅ――あっ!?」
 あまりの速度に一瞬の沈黙の後、鮮血が雪原に赤いしぶきを散らせた。
「は、はは、あぶねえ……まともに喰らったら腕が飛んでたじゃねぇの」
 余裕を見せつつも引き攣った笑みが見えた。
 歯を剥いて威嚇していたソアが続くように到達する。
「このっ……!」
 ここにきて、それまで温存に温存を重ねていた全力を、デボラ隊の隊員を撃ち抜いた。
 その鋭利なる獣の爪が数多の傷を描き、抉り、刻みつければ、守りを固めていた隊員の盾を、アーマーを粉砕してけずり切った。
「――貴女を倒して、あの人達が笑ってくれる毎日を取り戻すのです!」
 鳴り響く幻想福音。メイはデボラの猛攻を受ける仲間へと幻想たる音色を響かせながら声をあげる。
「あぁ、愉しいねえ、ようやく楽しくなってきたけどなぁ……!」
 連続するイレギュラーズの猛攻を受けなお、デボラは楽しそうに笑う。
 鳴りを潜めた稲光が、呼吸を整えたかの如く再び質量を増していく。
「まだやるの? 私たちは貴女には負けないから!」
 スティアはそんなデボラと視線を合わせるようにしながらセラフィムの輝きをさらに強めて行く。
 神意を照らす光が戦場を包み、連撃を紡ぐ仲間に魔力を循環させていく。
「はっ、たしかにね、このままやるのもいいが……雑魚どものお守をしながら戦われちゃあ面白くねえ。
 しゃらくせぇ上からの命令もあるからなぁ……ここらでお暇ってことにしようぜ、英雄さん」
 そう呟いたデボラの視線がイレギュラーズの外を向いた。
 その視線がドレイクチャリオットを見据えていることに気付いた辺りで、肩を竦めたデボラが隊ごと撤退していった。


 戦いが終わった後、イレギュラーズは民兵たちをサングロウブルクへ保護するべく一度撤退した。
 ――日付を改めてエーデンブリュックへと向かった時のことだ。
 その町には何故かデボラ隊の姿はなかった。
 町庁舎の中で縛られていた町長によれば、イレギュラーズとの交戦の翌日、彼女たちは町を出たのだという。
 その時の様子は苛立ちながらも命令に従っているようだったと、彼は語った。
 その話を脳裏に反芻しながら、メイは町の人達へとスープを配っていた。
 長蛇の列を描く住民たちの数は多く、1人1人と顔を合わせてお椀に注いでいく。
「すぐ帝政派の人達が来てくれるのです。だから、もう大丈夫なのです!」
「ありがとう、ありがとうございます……」
 ほっと一息を吐く様子をみせる町の人々を見て、メイも胸を撫でおろした。

成否

成功

MVP

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮

状態異常

久住・舞花(p3p005056)[重傷]
氷月玲瓏
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)[重傷]
航空指揮

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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