PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<総軍鏖殺>あまねくものへの愚味礼賛<獄樂凱旋>

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 透き通ったコンソメスープ。丁寧に煮出したスープ。
 ヴィーザル極地にしかない珍しいキノコは、丁寧に水で戻されていて、嗅ぐだけでもなんともかぐわしい香りをしていた。時間をかけて仕上げたリゾットは、米粒のひとつひとつまでも完璧だった。
 料理人の男は思う。
 あんな男に従いたくはない。
 あんな男のために料理を作りたくはない。
――けれども、ああ、気味の悪いトカゲがこちらを見ている。手に包丁を持っている。一挙手一投足、見られている。下手な真似はできない……。
 表情の見えない天衝種は、なぜだかあの男には大人しく付き従っている。出来上がりを確認すると、包丁を振り、まだあどけなさの残るメイドに運ぶように指示をした。
……瞳の奥には人類への怒りが燃えている……。

 メイドの足取りは震えている。何度も腹が鳴っていた。よだれがあふれ出しそうになるけれど、目の前の料理を食べることは許されない。隠れて料理をくすねようとした使用人が――死体となって脇に転がっている。
「よーしよし、よーし」
 男――グラハドフォックはさも満足そうに笑い、手づかみで料理を口に運んだ。
「ん、うんんんっ! ヒャハハ、合格だ、いいぞ!! うっまい!」
 あっというまに鍋いっぱいのリゾットを平らげた。ゆうに10人前はあろうかという量ではあったが、グラハドフォックの胃袋は無尽蔵である。あちこち食べ散らかした料理の山がテーブルの上には山積みになっており――そして、こいつのせいで、おおぜいが飢えている。

 新皇帝バルナバスは、恩赦の名のもとに、死刑囚のくびきを解き放った。

 死刑囚グラハドフォックの罪は捕虜虐待だ。捕虜数十名をずらりと並べ、食料を与えず、自分は美食をむさぼった。軍事裁判で問われて曰く、「他人の空腹」こそ、最高のスパイスである……と。
 皿をこっそりと舐めるメイドの後ろで、料理人はなおもそこにいた。
「ああ? まだいたのか? なんだ、なにかようか?」
「お願いします、妻は、幼い子供がいるんです。でも、もう乳も出なくなって……」
「……」
 どうか、どうかお恵みを、と、料理人は頭を下げ続ける。
 グラハドフォックは枝で歯をこすりながら何か考えるそぶりをした。
「ふつうだったら、俺は俺から食べ物を奪うようなねがいをするやつはぶっ殺すことにしてるんだがな。俺は特別、コックには優しくすることにしてるんだ。そーら、もってっていいぞ。残飯ならな! ほら、ちょうどよかった、カビたパンがある!」
「……っ、ありがとうございます」
「ああ、美味、美味、美味、やっぱりシャバの飯は最高だ」
 肩を震わせ、もはや黒くなった食べ物ではないパンをふところにおさめた。

 弱肉強食。弱者は飢えて死ぬべきであるし、強者はその分食べるべきである。
 そして何よりも美食家を自称している。
 だから、気に食わない。
 避難民のほうが、「美味いもの」を食べているなどという話は。

 そんな中、舞い込んだ仕事はちょうどよいものに思えた。
「総裁ねえ。ま、美味い思いができるなら、どうだっていいね」


「美味い!」
 避難民であふれかえるラド・バウは活気づいていた。
 その中でも人だかりのできている一角があった。
「あら、ほんとね。とんでもなく美味しいわ。ろくに食べ物があるわけじゃないのに……これはちょっとしたものよ」
『Sクラスの番人』ビッツ・ビネガーは配給される食糧に舌鼓をうつ。食にも美にもうるさいビッツがいうのだから相当なものだろう。
「あたしもなにか、できることがあるんじゃないかと思ったんです」
 幻想王都の料理人、「虹の架け橋」のホープ・エヴィニエスはうれしそうに語る。
「たくさんの人たちに、もっと暖かい食べ物を……戦うことはできないけど、でも、助けになれるって思ったんです」
 逃げてきたメイドが、スープを飲んでぽろぽろと涙をこぼした。
「おかわりもありますよ。骨も煮込んで柔らかくすることで、量を出していて……」
 うなずいて、スプーンで食べ物をかっこんでいる。
「ありがとう。ほんとうにありがとう。子供が大きくなったら、絶対あんたの店に行くよ。エヴィニエスさん」
「幻想の、「虹の架け橋」だったわね?」

「役に立てたらうれしいよ」
 解・憂炎(p3p010784)の手に持った生ハムの原木は、これ以上にないくらい稼働していた。
「お湯さえあれば塩気のあるスープができます。これはほんとうにすごいのでは……」
 首をひねるホープ。
「世界には、不思議なことがいっぱいですね」
「限られた状況でこんなに成果をあげるなんて。さすがね、ホープ」
 美咲・マクスウェル(p3p005192)は微笑んだ。
「うん、おいしい」
(でも……美咲さんの顔を見ながら食べる料理が、いちばん……なーんて)
 なんてことを考えているヒィロ=エヒト(p3p002503)。
「ヒィロ、ほっぺにご飯粒」
「あっ。えへへ」
「少しでも力になれれば、と……わがままを聞いてくださって。ありがとうございます。鉄帝はあたしの故郷でもあるんです。ほうっておけなくて」
 和やかに食事をとり、和気あいあいとした空気が漂っていたときのことである。
 突如として、炊き出しの一角から、悲鳴が上がった。
「おい、ここに美味い飯があるんだって?」
 大柄な男が何かがなり立てている。
「よこせ、ぜんぶ。全部俺のもんだ。コックも取り立ててやるよ!」

GMコメント

●目標
囚人『グラハドフォック』の討伐

●敵
死刑囚『グラハドフォック』
 筋肉質な大男であり、無尽蔵かと思えるほどの胃袋を持ちます。
「強いものは美味を独占し、弱いものは粗食に甘んじるべき」という独特の価値観を持ちます。
美味しいものを食べられる人間=強いものということです。
 食事のとりかたはかなり粗野です。大食らいの乱暴者。
 食事をとればとるほど、体力が回復します。

 周りの人が飢えているところを見ながら自分だけが美食を貪ることが至上の喜び。
 狙いは食料やコックの奪取ですが、邪魔であれば人殺しも行います。食べながら戦うスタイルではありますが、料理があれば一般人から気を引くことができるでしょう。

ベリトンコック×20
 背の低いトカゲのような天衝種(アンチ・ヘイヴン)です。フードをかぶり、グラハドフォックにせっせと奪った食料を運びます。動きはのろく、反撃が強め。

●場所
ラド・バウ 避難所
 あたりには避難民が押しかけています。食料を強奪されてしまえば犠牲が出ることは間違いありません。

●味方関係者
ホープ・エヴィニエス
「おいしいご飯は、みんなのものです!」
鉄帝出身のイレギュラーズ。
幻想王都に小さな料理店「虹の架け橋」を持つ料理人です。明るく元気で、飢えている人を見かけると手を差し伸べるような人物です。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <総軍鏖殺>あまねくものへの愚味礼賛<獄樂凱旋>完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月15日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ユイユ・アペティート(p3p009040)
多言数窮の積雪
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
シェンリー・アリーアル(p3p010784)
戦勝の指し手

リプレイ

●食事の前には、テーブルの上を片付けて
「うーん、南部戦線にスカウトしようと思っていたんだけど……。まあ食に困っている人は国中にいるだろうし、それは良しよね。で……この空気読めずに喚いてるあの獣は何?」
『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)は、下品に暴れる大男に眉をひそめた。
「なにあの下品なデカブツ」
『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)の声もまた、冷たい。
「そ、それが……」
 ホープがおずおずと状況を説明する。
「……ハァ? 死刑囚?」
 ここ混沌にはさまざまな生き物がいる。人であるか否かは、見た目の問題ではない。
 けれども、あれは少なくとも、社会の一員ではない。
……同じ人間とは思えない。
「美味しいお料理で「みんな」を幸せにしてくれるホープちゃんを、あんな意地汚そうなヤツに独り占めなんてさせるわけないじゃん」
「そうよね。ヒィロ。役人の怠慢分を肩代わりとか趣味じゃないけど、食事の場は衛生的でないとね?」
「お二人がいてくれて良かった……!」
「まかせて、ホープちゃんもホープちゃんの夢も、絶対守るよー!」

「やれやれ、人間を食うほどの悪食ではなかったことが救いかね。ヒヒヒ!」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)は肩をすくめる。救いようのない悪党であることは確かだが、それでもまだまだより深い深淵はある。
「なんとも卑しい奴がいたものだな
他人の空腹が最高のスパイス、美味な物はすべて自分の物」
『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)はため息をついた。
「呆れて何も言えないよ」
「うーん、ボクは正義感とかないけど、飢えを娯楽みたいにする奴は許せないな……」
『多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)は、食べ物がなかったときのつらさを思い出す。冬の冷たさを、あの男は分かっているのだろうか。
「俺の故郷は豊かな地ではなく、水や食料を巡る揉め事もそれなりにあったそうだ
もし故郷にこのような輩が居たら……『俺達』の『仕事』だったのだろうな」
『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はしみじみと言った。
『仕事』、という響きに、武器商人はうなずいた。
「では蛇巫女殿、今回はどうかな?」
「ああ。つまり、ぶちのめすのに躊躇う理由はないという訳だ……食事は大事だからな」
「うん。……状況、わかった……」
『玉響』レイン・レイン(p3p010586)はふわふわと周りを見回して、こくりとうなずいた。
「まず、避難してもらう……」
「そうだな。そんな輩に避難してきた皆の食料が奪われてはたまらない
さぁ、マナーというものを教えてやろうじゃないか」
 教えてやることなら、得意だ。なんたってブレンダは、希望ヶ浜では教師なのだ。
『ああ、なんだぁ!? しょぼくれた顔はどうしたあ?』
「どうしたもなにも。僕の生ハムは焼けない限り永久に稼働する」
『ザーバ派南部戦線』解・憂炎(p3p010784)の手に持った生ハムの原木から、次々とハムが生み出されている。
「食料危機の解決には程遠いが、一役を担えるなら嬉しい限りだ」
『テメェ、俺の楽しみを邪魔しようってのか!?』
「うん? 死刑囚に食わせる生ハムも飯も無いな」
「そうだよ……やっとご飯食べれた人達なんだから、邪魔しないでよね!」

●テーブルクロスを引き抜くには?
「商人殿、レインさん。避難誘導は任せるよ」
 憂炎は高らかに名乗り口上を挙げた。
 薄く切られた生ハムが、ひらひらとベリトンコックたちを挑発する。聖なるかな、奇跡の生ハムは英霊の魂をまとい、悪しきものの食べ物ではないのである。
(よしよし、こうやって引き寄せておけば……)
「待って」
 慌て出す避難民たちを、レインが押しとどめる。
「……一気に移動すると、アイツにバレるから……ゆっくり落ち着いて……数人ずつ……あの人に着いて行こう……」
 レインが指し示したのは武器商人。
 ひらひらと手を振る武器商人のハイテレパスが、避難民たちに響き渡る。
(良いコたち、そのままゆっくり安全な位置に)
「おっと、危ないよ。こっち! こっち」
 転んで動けなくなっている幼い兄弟を、ユイユが担ぎ上げて走って行く。
「パス」
「必ず皆で……脱出しよう……? そして、アイツから取り戻したご飯……皆で食べようね……」
 レインのゆったりとした声のトーンは、人々を落ち着かせるものだった。

「ホープちゃんを狙うなら、まずボクを倒すことだね!」
『ほう?』
「ホープちゃんは、後ろにいて」
「でも……」
「大丈夫、まかせて」
 舌鼓を打っているグラハドフォックの横から、ヒィロは素早くふかふかのパンを取り上げる。
「あー美味しー! 味も分からなそうなヤツにはもったいないから、ボクがぜーんぶもらっちゃおっと!」
『テメェ。この俺の食卓に手を出そうとは、死ぬってことでいいか?』
「え? 何を言ってるか分からないよ。ああごめん、言葉はわからないかな」
 好戦的な笑み。挑発的な目線。そうすれば相手がどう反応するか、ヒィロはさんざん見てきた。
 押しこまれているフリをして、それで徐々に居所を変える。
 美味しい料理。あれは、みんなを幸せにするためのものだ。だから、多少の危険を被ったとしても……かまわない。
(……ホープちゃんの優しさがこもったお料理、少しでも守りたいもん)
 なにかの声に、ベリトンコックが包丁を取り落とした。
 破滅の呼び声。
 飢えよりも耐えがたいナニカの声。
「和やかな食事を邪魔する輩には、土の味を味わってもらおうとしようかね」
 武器商人は純然たる『力』を振るう。
 それはグラハドフォックがこれ見よがしに振り回す暴力とは違う。もっと純粋な、研ぎ澄まされた力。
「ビッツさん、あなたも避難誘導をお願いできる?」
「ええ、まかせてちょうだい」
(ありがとう、ヒィロ。ヒィロがあの男を引きつけてくれるおかげで、存分に狙えるわ)
 まずは取り巻きの排除。
 やることの順位にはまよわない。不確定要素を一つずつ潰していくのみだ。そうすれば結果はおのずと手に入る。
「食べ物を粗末にするともったいないゴーストが夜な夜な枕元に立つからな……」
 アーマデルは微笑んだ。
(市民は巻き込まないよう
食品は出来ればなるべくあまり損ねないよう)
 この先も、一人も、飢えぬように。
 アーマデルの手にかかれば、影響範囲の操作はお手の物。
 この土地にはずいぶんと勇ましい英雄の魂も多いようだ。
 名もなきラド・バウの闘士たちが怒っているのが分かる。――彼らは、この催しは市民を楽しませるものであると怒り、また、あるものは力を誇るが、卑劣なやり方に憤っている。
 逡巡。刃が軋り歌うその音を響かせれば、ベリトンコックたちの手に持つ包丁は色あせてゆく。綻びて欠け、精彩を失っていく。
 慌てた彼らの前に、ブレンダが立ち塞がっていた。
「遅い。動きが遅いな」
 駆け抜ける刃、斬婀娜の諧謔曲が、ブレンダのリズムに塗り替える。ベリトンコックをなぎ倒す。いきおい、斬がいくつか跳ね返ってくるが、ブレンダは引かない。
(何、問題はない。それを踏まえて倒してしまえばな!)
 エインフェリアの鎧覇は、鋭く攻撃を受け止める。
「早く、効率良く倒すためには適材適所が一番だよね〜!」
 ユイユのグリード・ラプターの音。ベリトンコックを散らし、仲間を鼓舞するその一撃は戦士の福音だった。
「ありがとう。よし、まだまだ戦える!」
 自分の身よりも他者を優先し、反撃をものともせずにブレンダは勇ましく敵陣に斬り込んでいく。
「せーのっと」
 ユイユのプラチナムインベルタが、雨を降らす。
 そして、弾丸の雨があがれば……。虹があるように、美咲が立っている。
 美咲が見据えるのは、虹のその先。
 どこをどう切り抜ければいいかは見えている。
 H・ブランディッシュが敵を斬り裂く。
 憂炎ははりきって漆黒の蛇腹剣を振り上げた。
 討ち漏らしはない。
 そして、けが人はいないようだった。それがなによりも憂炎は嬉しい。

●飢え、満たされず
 雷が降ってくる。
 すさまじい雷撃に、ベリトンコックは包丁を取り落とす。レイン。
……いままで、気がつかなかった脅威がある。かかれ、と何人かが包丁を振り上げるが、遅かった。
 ベリトンコックは、逆向きに、ゆっくりと朽ち果てていく。
『……あ?』
 いかにも儚げな少女が。いかにもか弱い少女が。これ見よがしに、憂炎から受け取った生ハムを1枚、見せびらかして食べるのである。
「ん……美味し……」
「だよな?」
『アアア!? 小娘が……っ! ソイツは俺の、俺の、俺のだろうが!』
「弱肉強食……それが普通……だと僕も思うけど……
お前は……食べ過ぎだよ……」
『なんだとぉ!?』
「ながら食べは行儀が悪いぞ?」
 ブレンダの一直線に投擲した緋剣が、食事を粗野に貪るグラハドフォックの手を撃ちぬいた。
『ぐっ……貴様。良くも俺の食事を邪魔しやがって』
「貴様の悪行はここまでだ!」
 この場には、未練もまた漂っている。成し遂げられなかった者たちの未練。アーマデルの奏でる残響は、ゆっくりとコックを蝕んでいく。食事を運ぼうとした足取りは乱れる。
『ぐっ……かはっ』
 アーマデルの持つ、ハーブバタークッキーの香り。
 取り落としたフルーツを、グラハドフォックは恨みがましく見ていた。
 這いつくばってでも食べたい。しかし今、そんな真似はプライドがゆるさない。
「お前の理屈は分かったよ。……もし、お前が僕達にぶちのめされて死のうが……自然な事……だよね……?」
 か弱く見えたレインは、この場においてはまごうことなき強者だった。
 侮り、対処を怠った。食べ物に気を取られているすきに、いつのまにか取り巻きはほとんどいない。
 ぐうううう、と、腹が鳴る。
「お前の信条……弱者は飢えて死ぬべき……なんでしょ……?
じゃあ、お前の目の前で僕が食べても、文句無いよね……」
 聖女の心で。慈悲の心で、……とまあそんなふうにして奇跡は引き寄せるものだ。武器商人は運命をたどる。良い行いをしたら褒められるものである。少なくとも、このモノガタリは勧善懲悪であるはずだ。
 痛みを引き受け続けていた武器商人は、静かに、静かに、相手に送り返す破滅をため込んでいた。
「大丈夫」
 ハーフ・アムリタに唇をぬらし、美咲は気丈に微笑んだ。
「燃え盛った報復の炎……たらふく食うといい」
 武器商人が、渾身の魔力を振り絞る。創造した神滅の魔剣は、ベリトンコックの包丁とは比べものにならないほどに研ぎ澄まされている。
 あたりを、ないだ。
「すまないが回復は任せる
こちらは攻撃に専念しよう」
 アーマデルに、ユイユが「任せて」と胸を張った。
「こっちだって、補給はできるんだよ」
 ユイユは回復に専念する。そうすれば破壊力を出してくれる仲間がいる。盾になって、立ち続ける仲間がいる。
 だから、自分はやるべきことをやればいい。
「いくぞ! まだまだ……甘い!」
 ブレンダは仲間の応援をうけ、まだ戦えると確信する。自分はこの場に立ち続けることができると信じて、長剣を交差させ、敵中に突撃していく。
 攻撃は、入ったはずだったのだ。
 ブレンダを斬り付けたはずの斬が、ない。結果だけがない。感触があったのに、効果がない。何が起こったのかもわからず、ベリトンコックは己の包丁を見つめていた。
「よし……」
 美咲は、「負傷」という事実そのものを切断し、なかったことにする。
 レインは自分で傷を再生し、代わりに絶対零度を叩きつけた。扇動者は、声を張り上げることはなく……たゆたうようにして、流れをつむいでいく。
『俺の飯はまだかぁ!』
 グラハドフォックが荒々しく声を上げ、拳をテーブルに叩きつけている。
 ベリトンコックが、倒れる。
 武器商人の一撃。包丁を弾き飛ばし、そのまま貫いた。恨みつらみの負の感情、それもまた力の使い方。激情に身を委ねなくても、仕組みさえを知っておけばいい。
「ヒヒヒ……腹が空いてきたかい?」
 なんとかして切れ端やスープのこぼし残りを持っては来るが、飢えた男を鎮めるには足りない。
『クズ、クズ、どいつもクズばっかりだ……っ!』
 グラハドフォックは飢えている。傷を治すための食事は足りない。
 ユイユはジュエリー・ナイトを口に運んだ。
『そいつは俺の、だろうがあ!』
「なんで? あげないよ? だってあげないんでしょ?」
 ユイユの脳裏に、やさしい家族の姿が浮かんだ。弱かった自分にも、ご飯を分けてくれた大切な存在。自分が今生きているのは、強い姉様や兄様のおかげ。
(だから、その証明に! 絶対、お前は倒すよ!)
 キツイ一撃を入れてやらないと気が済まない。
 ユイユが解き放った斬神空波が、グラハドフォックを、持っていた骨ごと打ち砕いた。
 レインは、グラハドフォックに逆再生をたたき込む。
 食っても食っても、傷が癒えない。どころか、飢えていく。傷口から流出する力が、ひたすらに飢えを悪化させていく。
「ヒィロさん、抑えありがとう。後は一緒に」
 憂炎は、グラハドフォックの鳩尾を集中的に殴打した。
『かはっ……』
「持続的な痛みが走るだろう? レバーを喰らったら腹が痛くて食えなくなるんだ。
お前にも空腹の恐怖を味合わせてやる」
『俺が、俺を、食材のように扱いやがって……』
「お前の様なのは美食家とは言わない。
食とは衣食住の一つ。基礎の心を疎かにして何が美食だ」
「料理を運んでくる者がいなくなりさぞご機嫌斜めだろうな?」
 ブレンダは強気に笑って見せた。美しい瞳は、輝きを失ってはいない。
「強い者が美味を独占していいというのなら私たちがお前に勝てばいいだけの話」
「この国の風土ということもあるがどいつもこいつも似たような思考だな?
強ければ何をしていいわけではあるまい。強き者ほど他者に施しをする。それがノブレスオブリージュというものだ」
 ノブレスオブリージュ。グラハドフォックが、生涯で一度も考えたことのないような言葉だ。
『なぜ、そうも……』
 憂炎はなおも打撃を入れる。
「テーブルマナーを学んでから物を食べるべきだったな。それともそんな機会すら無かったか?
まあ、死刑囚だもんな」
「感謝の気持ちで「いただきます」って言えないヤツは絶対美食家じゃないよね
それに、皆でお料理食べればもっと美味しくなるもんね!」
 ヒィロは笑った。
 ソニック・インベイジョンが、風のように好きな気配が駆けてくる。わかっていた。
 一人じゃない。
「美咲さん! 美咲さん美咲さん美咲さん!」
「嬉しいのは分かるけど。ヒィロ。どう? 辛かった?」
「ぜーんぜん!」
『コイ……ツ!』
「お待たせ。さて、害獣駆除の仕上げしましょ!」
 微笑み、手を取り合い、二人はグラハドフォックに向き合った。ヒィロの挑発が、再びグラハドフォックの注意を引いた。
(見た攻撃っ!)
「ねね、さっきと同じだと思った? でもね、ね、一人じゃないんだよ? わからない?」
 ラグナ・クラフトの残影が、目の端に焼き付いている。
 三光梅舟。
 未完成でありながらも美しい技。その一撃の不完全さは、ヒィロが作った隙が埋め合わせたように思われる。最後のピースがかち合うように、技がなった。

 グラハドフォックは、その場にドサリと倒れ伏した。
『なにか……』
 誰もいない。
『誰か、食べ物を……』
 誰も、グラハドフォックに食糧を差し出すものはいない。
「そうそう、面白いことを一つ教えてやるよ」
 憂炎が、己を見下ろしている。
「此処に生ハムがある。一生腐らないし新鮮な生ハムだ。
一枚欲しいか? ダメだな。「状況」を考えろ。
僕が「上」でお前が「下」だ。
この場合なんて言えばいいかわからないか?」
『く……』
 おなじ事を言ってきた人間に、この男はなんと答えたのだろう。
『ください……ください』
「答えは「NO」だ」
 歯を折る勢いのアイアース。

●分け合う幸せ
 かくして、暴虐者グラハドフォックは破れたのだった。
「生産者と調理者に感謝できない者に、食の幸せは勿体ないものね?」
「だよね美咲さん」
「ねぇ、私の分残ってるー?」
「はい! ヒィロさんが守ってくれたので……」
 料理は、まだ十分に残っている。
 アーマデルは微笑んだが、避難民たちの手伝いにまわることにした。調理は、あいにく自分の領分じゃない。
「皆腹が減ってるだろうし急く気持ちはわかるが、落ち着いて並んでくれ」
「うん、そう、こっち……」
 レインが手を挙げて、避難民たちを呼び寄せる。
「食べよう……」
「さっきのヤツを見ただろう? 慌てる何とかは貰いが少ないというやつだ。皆に……強さなど関係なく皆が飯を食えるよう頑張ってくれてる、どうか皆も協力してくれ」
 ブレンダは微笑み、スープをすくってやった。
「最高のスパイスなんてものがあるならそれは
他人の空腹などではなく共に料理を食べてくれる誰かの存在だろうな」

「さあさ、元通りだ」
 荒れた避難民たちのテントを、武器商人が魔法のように直していく。……荒らされる前よりもかなり頑丈になっていた。
「さて、商人殿。サヨナキドリへの憂炎ブランドによる生ハム提供のビジネスについて何だが……」
「ほう?」
 武器商人は話を聞こうとどこからか椅子を引っ張ってきた。卓につき、熱心に商談を始める。

「無事だった~?」
 ユイユが子どもたちを探し出す。彼らも、助けてくれたユイユを探していたらしい。
「ケガ? なーんにもしてないよ。だってボク、ほら、お手伝いしかしてないからね。支援役ーだったからね」
 ぽろぽろとこぼれ出てくる氷砂糖を、手のひらにのせてやる。
「カロリーだけはあるから冬に備えて、ね」
 冬がやってくる。厳しい冬が。
 けれども、きっと、彼らならば大丈夫だろう……。

成否

成功

MVP

シェンリー・アリーアル(p3p010784)
戦勝の指し手

状態異常

なし

あとがき

それではみなさん、手を合わせまして……。
ごちそうさまでした!

●運営による追記
 本シナリオの結果により、<六天覇道>ラド・バウ独立区の求心力が+10されました!

PAGETOPPAGEBOTTOM