シナリオ詳細
暗殺令嬢(トリコロール)
オープニング
●ギィ、バタン。じゃあそういう事でさようなら!
幸せなモノローグを冷徹な声が追いかけた。
「……何故、扉を閉めて帰ろうとなさっていますの?」
ギィ……
蝶番が音を立て、再び重厚な応接間の扉が開く。
「……………ですよねー……」
見間違いであれば、どんなにか幸福だった事だろう。
下を向き、深呼吸をしたイレギュラーズが意を決して面を上げれば、そこには案の定、先程見るなり帰りかけた面白愉快で禍々しい――何とも言えない光景が広がっていた。
改めて説明するのもサニティに触る事実ではあるが、端的に言えば。今日、薔薇の邸宅への招きを不運にも受けてしまったイレギュラーズの前には三人居た。
……主語が不適切なのは意図してのものである。
御覧の通り、三人居た。自身に不吉を与えるとも言われる映し身(ドッペルゲンガー)の逸話は有名だが、平然と佇む屋敷の主――リーゼロッテ・アーベントロートは狼狽した様子はない。取り敢えず三人居る事を肯定しないと何ら話は進みそうも無いのであった。
人生はハードモードである。現実逃避もおちおち許してはくれないらしい。
「……うーむ」
改めて見れば三人のリーゼロッテはそれぞれに纏う空気が別々だった。
イレギュラーズから見て右側のリーゼロッテは零下の表情を湛え、その逆左側のリーゼロッテは彼女においては見た事もないような美少女(シノポコ)顔を見せている。
「……用件は、それ?」
「そうなりますわね」
イレギュラーズにそう頷いた中央のリーゼロッテは比較的何時もの彼女に近い。もう色々と頭痛がしてきたイレギュラーズを慮ってか、彼女は前置きも早々にこのイカレたトリコロールの顛末を話し出す。
「要するに、嫌がらせ――或いは報復といいましょうか。
まぁ、私の政敵に或る貴族がいたのですけれども。当主を失ったその残党共が、カースド・アイテムに手を出したらしく。そんなもの、概ね眉唾の玩具ばかりなのですけれど、何とも幸運と言うか不運と言うか――今回は本物を引き当ててしまったみたいなのですわ」
「……呪われて、そんな風になった?」
「有り体に言えば」
おぜう様の政敵とやらが何故当主を失ったか、とか。
そもそもその仕返しは正当なものではないのか、とか。
様々な疑問はあれど、要約すればアーベントロート家に武力で抗し得ない政敵貴族の残党は魔法の道具(アーティファクト)を用いて彼女に呪いをかけたとの事。その結果がこの面白トリコロールであり、おぜう様は絶賛不機嫌中という事であろう。
「……いや、待てよ」
ここで聡明なるイレギュラーズが思い当たる。
「魔法道具で強力な呪いを掛ける……何てのは効果はともかく有り触れた話だが。
そういったモンは大体ターゲットを定めるのに触媒なんかを使うもんだよな」
「……」
「……すわ」
中央のリーゼロッテが凍りつき、右側零下のリーゼロッテが唾棄するかのように呟いた。
「今、何て?」
「……ですわ」
「ええと――」
「私の――ですわ、と言ったのですけれど。お耳が飾りなら、取ってしまおうかしら」
「理不尽だな、君は!」
彼女の――が闇市場で取引されており、それで事件が起きたのは記憶に新しい所である。詳しくは『暗殺令嬢(ブルーハワイ)』を参照してね!
「……総集編的にぶち込んでくるなあ」
下手人の貴族は例の伯爵では無いらしいが、散逸したアイテムはまだ残っていたのだろう。ともあれそれは大きな問題ではない。右の彼女は溜息を吐きながら言う。
「身共の調査で解決手段の解明は済んでおります。
旧アサイラム邸――結界の中心の術式、つまり怪異を引き起こしている諸悪の根源(アーティファクト)を破壊すればこの馬鹿げた事態は収束するでしょう」
「それを壊してこいって?」
「……そう言えたらどんなにか良かったのに」
深い深い溜息を吐くリーゼロッテ(右)に代わり屈託の無いリーゼロッテ(左)が笑顔で言った。
「私が参加しないとダメなのですって!」
キラキラと瞳を輝かせる素直な美少女はハプニングにも輝かんばかりだ。
「薔薇十字のお兄様達が既に追い返されていますのね。私が居ないと結界は開かないらしく。これだけの効果と強い結界を維持する制約を考えたら、そう長い時間持たない呪いなのかも知れませんけど。うふふ、私ったら困っているみたいで!
薔薇十字のお兄様達と行くのは恥ずかしいから嫌なんですって!
えへへ、でも――皆さんとなら安心。だって、皆さんは――」
屈託なく喋る美少女に残りの美少女がげんなりした顔をしている。
自分が相手では何をどうする事も出来ない。リーゼロッテをの多側面を切り分けたというその呪いは成る程、主人格からすれば一刻も早く解決したいものになろう。この極めて馬鹿馬鹿しい事件に自分の麾下を使いたくない気持ちも良く分かる。
「……先に断っておきますけれど、今の発言についての言及は不要ですわ。
本日のオーダーは『私と共に旧アサイラム邸へ乗り込み、アーティファクトを破壊する事』です。先に申し上げておきますけれど、私の戦闘能力には期待しない事。非常に言いたくないお話ではあるのですけれど、『気を抜いたら増えそう』な予感がしていますの。何と言うか本能的に止めている自覚がございますのね。つまり、期待しないように」
「はぁ、それは……」
リーゼロッテの依頼に対しての拒否権は無さそうである。
斯様な事件に巻き込まれたイレギュラーズは己が不運を嘆き、それからふと尋ねた。
「そういえば」
「はい?」
「どうして水着なの?」
――そりゃ、差分を余分に作ったからさ!
- 暗殺令嬢(トリコロール)Lv:5以上完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年09月16日 21時55分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●おかしな話もあるもんだ
――青天の霹靂(せいてんのへきれき)。
青天の霹靂とは、予想もしなかったような事件や変動が、突然起きる事。
青く晴れ渡った空に突然激しい雷鳴が起こる事から、予期しない突発的な事件が起きる時に使われる。所謂地球人類、地球文明における古典・陸游の詩『九月四日鶏未だ鳴かず起きて作る』に「青天に霹靂を飛ばす」とあるのに基づく。
『霹靂』とは激しい雷鳴の事を指し、かの筆勢の激しさを表した言葉とされる。
閑話休題。
「では、皆さん宜しくて?」
……鈴の鳴るような美声でそんな言葉をかけられたイレギュラーズが今日相対している局面は全くそんな『青天の霹靂』を思わせるようなとんでもない事態であった。
「宜しくなくて『はい、そうですか』ってタマじゃないだろ、お嬢様は」
深い溜息を吐いた『寄り添う風』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)の様は全く今日この場に集められた――関わる事になってしまった八人のイレギュラーズの共通認識であった事だろう。ローレットが本拠を構えるレガド・イルシオンの実力者である所の依頼人――リーゼロッテ・アーベントロートがギルドの上得意めいているのは事実だが、彼女の依頼は何時だって予断を許さず、その人物像は多くが知っての通りである。
薔薇十字のお姫様は何時だって嗜虐的で、関わる者の大半をその茨でズタズタに傷付ける――その風評よりは随分と当たりが優しいのは確かなのだが、それはそれ。どれ程好意的であろうとも彼女との付き合いは非常に気力を消耗するそれなのだった。
……そして、本日最大の問題は実はそういった彼女の基本属性とは余り関係が無かったりする。
(ただでさえアーベントロートのお嬢様と関わりたくなかったってのに……!
何でこんなに面白愉快な事になってンのー!?
仮にも年頃の女の子にこんなふざけた呪いかけるとか何考えてンのサ!)
「勿論」と頷いた彼女『達』を見たミルヴィは内心だけで悲鳴めいていた。
何度目を擦っても現実は変わらない。ミルヴィの視線の先には彼女『達』。
(リーゼロッテ嬢が本当に増えている……実に興味深いな)
そう、此方は好奇心が勝っているようだが――紳士……というか王子たる『君に禦の誉』クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)が淑女の姿をまじまじと見つめてしまう程に、状況は色々おかしかった。
「さてさて。面白い事が起こっているようだ。
私は全てを是とするが、依頼は依頼だからね。
それでも何がどう転ぶのかが楽しみだ――それくらいの余裕は持たないと上手くいくものもいかなくなる。
……くく、それにしても呪い、か。まぁ、呪いである事に間違いはないな」
「リーゼロッテちゃん呪われて大変だね!」
『霧の主』ミストリア(p3p004410)と『見習いパティシエ』ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)の一言が状況を綺麗にまとめた。。
政争、暗闘の結果、とある貴族を排除し、蹴落とした彼女は或る意味で因果応報を受ける事になったらしい。
つまる所――
『イレギュラーズの前には三人のリーゼロッテが居る』。
「……その内に、草の根かき分けても見つけ出して一族郎党根絶やしにして差し上げますわ」
左のリーゼロッテは腰に手を当て苛立ったような表情を隠していない。
「……………本当に、どうしてこんなになってしまったやら」
真ん中のリーゼロッテは苦笑交じりの――何処か疲れた顔をしている。
「うふふ! 皆さんとお出かけなんて――私、嬉しいです!」
右のリーゼロッテはその宝石のような美貌に彼女らしからぬ屈託ない笑顔を浮かべ、事もあろうに旧知の『星を追う者』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)の手をぎゅっと握り、駆け出しそうな位にはしゃいでいる。
「暗殺令嬢サマが増えるとこうなるんだなあ……
なんか、こう、可愛い方は……恋話の事を考えると、そう言う事なんだろうか。
いや、待て。怖い方、俺を睨むな。不可抗力だ、不可抗力だから――!」
慌てて弁明をするウィリアムは眼の前に広がる深淵を覗き込む事が如何に危険であるかを知っていた。
そう、実はリーゼロッテが自身の手を握り、小首を傾げる超絶美少女が如き本質一面を持っていたとしても関係ない。
表面をコーティングする地雷原をタップダンスで駆け抜けてその場所に到達するのは己じゃない。
ギャルゲーの主人公っぽいとか言われても知らない――!
「ま、幸か不幸か。復讐にしては随分と……面白い呪いだな。
状況によっては洒落にならのだろうが、うっかり手間取って怖い方のお嬢様のご機嫌を損ねる前に、とっとと終らせるとすっかね」
「使い捨ての道具にすら知性。付喪神のようなものでしょうか。
これを作った御仁は随分と、冗句がお上手なようで――
リーゼロッテ様が対象故に、この程度で済んだとも。常人なら、万華鏡の如しでしょうか。
……観る側でいるうちは多少は、興も乗るでしょうが、体験はぞっとしませんね」
『風来の博徒』ライネル・ゼメキス(p3p002044)の言葉に『朱鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)が相槌を打った。
この事態を引き起こしたのは『悪気の聖杯(バッドジョーク・ジャンク・ウィッシュ)』という魔法の品である。
『スターテクノクラート』の異名を持つシュペル・M・ウィリーの作品は、所謂願望機の一種だがその効果は限定的で――何とも性質が悪い事に、『効果対象が嫌がりそうな奇跡を面白おかしく真剣に引き起こす』という一点のみに特化している使い捨てだという。
今日のイレギュラーズ達の仕事は簡単だ。
その傍迷惑な聖杯を増えてしまったお嬢様と共に破壊し、彼女に降って湧いたこの面白おかしい災難を何とかする事。
「生まれて来なければ良かったという目に遭わせて差し上げます」
「えへへ! 今日は宜しくお願いしますね!」
「……お願いですから、右のには構わないで下さいまし……」
三者三様の彼女が同行したのも、本人が居なければ結界がやぶれないという聖杯のオプション(いやがらせ)に起因するばかり。
「えー、結構このままでも可愛くて良いと思うのですが!」
『ロリ宇宙警察忍者巡査下忍』夢見 ルル家(p3p000016)の言葉に右ははにかみ、頬を薔薇色に染めていた。
「兎に角、まずは仕事です! いざ、決戦! いざ、アサイラム男爵邸!」
真ん中と左が何かを言うよりも早くルル家は目前に聳える立派な邸宅を見上げて拳を突き上げた。
彼女は概ね本能で生きているタイプだ。だが、その本能も処世術の一種と言えるのだろうか。
文句を言うタイミングを失ったリーゼロッテは「はあ」と溜息を吐き、頭痛を堪えるようにこめかみを抑えていた。
●ひでぇ話もあるもんだ
「ああああああああああああ!」
『悪気の聖杯』は本人にとっての悪夢を演出するアーティファクトである。
「わああああああああああああああああ!」
他人に己が内を見透かされる事を嫌うリーゼロッテが『増えた』のと同じように。
「それだけは嫌だって言いました! 言いましたよね!?」
――関係ないですけど拙者には宇宙警察忍者のかつての先輩がいまして!
スク水という衣装に心を奪われ拙者を裏切った憎き相手でして!
故に拙者、スク水にだけは絶対になりたくないです!
ルル家がこんな「押すなよ」みたいな呪い(プレイング)をかければ、彼女がわあきゃあなるのも自明の理であった。
「犯人は貴方ですか……」
「あまつさえ拙者のせいでリーゼロッテ殿までスク水に!」
説明台詞とか言うない。
「ボク達の装備も水着に変わっちゃうとか……びっくりしちゃったかも!」
三角座りでゴロゴロ転げるルル家をおぜうさまは死んだ魚の目で眺めており、対照的にミルキィは目を丸くしながらも何処か楽しそうに見えなくもない。まぁ、『水着』なる呪いを呼び寄せた半分は彼女だからして、ルル家の場合、自白したのが自爆である。
文字通り悲惨極まるシーンからのスタートとなったが、『悪気の聖杯』は自律型のアーティファクトで防衛機能を有している。
リーゼロッテの参戦で結界が解除されたアサイラム邸に乗り込んだ一行は、
――ひゅー! 美少女のスク水セット、豪華仕様だね! 一杯居るし!!!
空中に浮遊し、軽薄な言葉を吐くそれと、それのもたらすストレスと早速激しいバトルを展開する羽目になっていた。
「やはり、冗句好きな方が作ったのでしょうね」
呆れ半分、感心半分で漏らした雪之丞が脳裏に描いたのは開幕、誰よりも早く殺気を爆発させて聖杯に襲いかかったリーゼロッテの姿である。
――ほれ、ほれ。返して欲しいのはこの布かな???
カップから黒いアレをひらひらさせ、煽ったそれに彼女はキレた。秒速で。
「期待するな」と言いつつやってしまった彼女はまさに気品と獰猛を兼ね備えた獣の如く地面を蹴ったのだが……その直後に見事な位にすっ転んだ。小さいお尻を上に持ち上げる格好で地面とキスをした彼女は全く貴族の令嬢を思わせない惨状で(その時は)ドレスの向こうに黒い布をサービスしていた。
ちなみにその後、「息をするのもめんどくさい」という四人目の彼女が出現したのは余談としておく。
――いやー、先程といい良いものを頂戴しまして!
「んなっ――」
「――お願いだから煽らないで貰える!?」
聖杯の言葉にミルヴィが悲鳴を上げた。
戦場(笑)の雰囲気は内容に比べて酷く尖りまくっている。
肌を突き刺すような殺気の発生源は言うに及ばず――冗談の類を別にしても、『シャドウ』なるパーティの分身を作り出し、同時にファンブル地獄に守られるそれは決して容易い相手では無い。
「あー、もーっ! 上手くいかない!」
ミルキィのマギシュートがファンブルに塗れてとんでもない明後日への飛んでいった。
「にしても……こんな呪い、当事者になったらと思うとぞっとするぜ」
続くウィリアムの星剣召喚――射出された幻想の大剣が『自身』を射抜く。
幸いに今の攻撃は成功したが、それは完全な運頼みではない。
「ふふ、不吉に不運ね……まあ僕には効きはしないんだけど、ねっ!」
ウィリアムに加え、パーティのフロントを支えるクリスティアンは広範囲に不幸をばら撒くかの敵が支配する領域に抗う不吉への耐性を持ち合わせていた。完全に敵の意図を阻む事は難しくても、この場で八割方行動を成功させ堅実に戦う事が出来るのはかなり大きい。
「フフ! 同じ姿をしていたって所詮は劣化版だな! 痛くも痒くもないさ!」
『フフフ! 僕には分かる! その顔色はやせ我ま――』
「やめようね! 僕! と、言うかだ!
君はね! 妙に鼻が高かったり、眼の彫りが異様に深かったり、あごが変にとんがっていたり!
僕をッ馬鹿にッしているのかアアアアアッ!?!?!?」←王子芸人
『二人のクリスティアン』による戦いの応酬は置いといて。
「この技術がどれ程高等なのかは知れようもの――されど。
道化の如きたちの悪い怪異は、さっさと祓うに限るのでございます。
余り、自身の影というのも、眺めていたいものでもありませぬし――それが粗悪品なら尚の事」
「されて嫌な物は然程、無いと思いますが」なる雪之丞も服を弄られる――スク水は流石に堪えている。
(何だか全てが拙者の責任というのは酷い冤罪のような)
ルル家のモヤモヤも置いといて。
このパーティはその実、敵の能力をかなり良く把握し、対策を打てる面々だったとも言える。
実を言えばこの戦場で最も効果的に働くであろう不幸への備えは、
「言っただろう。余裕位は持ち合わせておくものだって」
初手で聖杯を挑発するように手持ちの『お守り』を投げつけたミストリア、
(変に放置して機嫌損ねたら後が怖いじゃん……!)
依頼(せんとう)以外にも随分と気の配り先の多いミルヴィ、
「あんまり下手を打つのも困るし、今回の博打は確実にいくとしよう」
クールに一撃を決めたライネルといった面々も準備万端であった。
「わー、拙者! 今回は終始こんな役割ですか!?」
足が縺れてカプリースダンス(コケ)たルル家にライネルはもう一言だけを付け足した。
「なぁに、ギャンブルってのは必ずしも自分で賽を振る必要はないものさ」
……パーティの作戦はシャドウの数を二体か五体にキープしつつ、積極的に聖杯を狙っていくというものである。
加えて積極的に破壊していくのはウィリアム>クリスティアン>耐久能力の低い者と決めているが、これは危険度や倒しやすさを考えての作戦。
聖杯の行動パターンを読んだ的確な動きであると言えるが、敵は『狙ったように長期戦を強いる』厄介者である。パーティは緻密な聖杯対策を取っているから大いに軽減されているのだが、それを加味してもやはり簡単な相手にはなりよう筈もない。
「ああ、もう! ツッコミ疲れたけど――ニセモンの好きにはさせねェってば!」
ミルヴィがシャドウを引きつけ、間合いをライネルが駆ける。
「嫌だなと思う事か。そりゃ勿論博打が面白くなくなるのは嫌だが――」
取り分けこの聖杯に相性のいい彼は今日ばかりは『運を殺す』戦い方を徹底する。
「中でも運に逃げられるのは最悪だな。
今でも別に持っちゃいない女運に逃げられるのも困るが……ま、無いもんがさらに悪くなることはないだろ?」
シャドウをすり抜け格闘術式をもって肉薄する彼は輝く聖杯を攻め立てる。
冗談のようなそれの魔力もライネル(ファンブル0)を前には無力である。
「まぁ今回に限っていうなら、間違えて持ってきた船が何故か自己主張して戦闘中に飛び込んできたり。
その拍子に令嬢が増えまくって、もう限界にチャレンジだ状態でそれはそれでひょっとして楽しいんじゃないかと思うのだが」
まんじゅうこわい。
「ああ、もう!」
「大丈夫ですか!? 私!」
「(イラッ)」
今日は徹底的に運に見放された令嬢がまたコケた一方で、
「まぁ、聞いていた通りの代物な訳だけど、折角意志疎通が出来るなら話の一つも聞いてみたいね」
そんな風に言ったのはシェルピアで戦線を支えながらも――何処か面白がっている所もあるミストリアだった。
――美人との会話は楽しみたいねえ!
「例えば、そう。
何故このような事ばかりするのか。意志があるのであれば、人の言いなりというわけではないのだろう?
もしかして、そこの暗殺令嬢が気に入ったとか――」
霧の旅人は捉え難い微笑を浮かべたまま続ける。
「――この世界は退屈か、とか」
●雑な話もあるもんだ
「造物主は退屈屋か。そりゃあ、そうだ。あんなものを作るくらいだし――」
「世は全て事もなし、ってな」
ミストリアと人心地ついたライネルが長いようで短く、短いようで長かった時間の先にそう呟いた。
かくて、クソシナリオ――ではない、高貴なる令嬢を襲った数奇な困難は終わりを告げたのだ。
「何だかメチャクチャ疲れたけどね……」
お嬢様がコケる度、増える度に一番いいリアクションをしていたミルヴィである。
疲労困憊の彼女は「ふー」と大きく息を吐き、思わず座り込んでいる。
「せめて一枚だけでも写真に取っておきたかった――とも言い切れない。うん」
許可を求めすげもなく却下されたクリスティアンがリーゼロッテの視線に言葉の後半を入れ替えている。
「あのリーゼロッテ殿は、持ち帰りたかった位ですけど」
――私は、素直ではないので、ご迷惑をかけると思いますけど。皆さん、大好きですよ!
少し寂しそうな笑顔を浮かべて小さく手を振った『令嬢』の面立ちがそう言ったルル家の脳裏を過ぎった。
「余り苛めないで下さいまし」
珍しい苦笑を見せたリーゼロッテにルル家は屈託なく笑う。
「……とは言え、可愛いところも怖いところも全部含めてリーゼロッテ殿ですから!」
何とも複雑な顔をしたリーゼロッテは向けられた素直過ぎる言葉が面映ゆかったのか、長い睫毛を僅かに伏せた。
「あー、リーゼロッテちゃんが呪いかけた相手を追いかけるんだったら手伝おうかな!」
内心だけで「ほっとくと相手をやりすぎちゃいそうだし、ストッパーも必要だよねきっと」と付け足したミルキィにリーゼロッテは首を振る。
「……………まぁ、今回は疲れましたから。元気が出たら、出るかしら?」
空気が緩んだタイミングで不意に雪之丞が言う。
「あぁ、それはそうと。件の、触媒となった品は――」
「――ああ、そうだ」
応じたのはウィリアムだった。
「……放置しとく訳にもいかない、よなあ。だから、その」
わしっと――を掴んだ彼は視線を逸しながら『それ』を令嬢へ突きつけた。
「な、な、な……」
ウィリアムのそれは100%の善意であり、ウィリアムの懸念は「これが裏目に出たら嫌だなあ」だった。
つまる所、それは出ない訳が無いという話で。
悪気の聖杯はなくても、ここには悪気のねこたんが居る訳でして。
「う、ウィリアムさんのえっち――!」
「えええええ!?」
ばちこーん!
若干おかしさの名残の残ったおぜうさまの平手打ちでこの物語は幕を閉じる。
やーい、ラブコメギャルゲの主人公ー!
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
YAMIDEITEIっす。
クソシナリオ、お疲れ様でした!
不吉耐性5/8じゃちょっとどうしようもないですね!
でも重傷を付与するねこたんなのであった。
シナリオ、お疲れ様でした。
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
呪いのアーティファクトで増えたおぜうさまを伴い事件を解決しましょう。
以下詳細。
●依頼達成条件
・旧アサイラム邸のアーティファクトを破壊し、おぜう様の呪いを解く。
※効果が強力な為、時限式で解ける可能性もありますが本依頼で解けないと失敗です。
●アサイラム男爵家
リーゼロッテの政敵。当主は故人。
フィッツバルディ派の中堅であり蛇の紋章を持つ貴族。
兎に角一族郎党執念深い事で有名で転んでもタダでは起きないタイプ。
アサイラム家は当主と力を失いましたが、一派は家宝のアーティファクトでリーゼロッテに呪いを掛けたようです。ちなみに掛けた後、速やかに逃げ出しているので大変賢明です。こんなの敵に回さなければいいのに……
戦闘現場は一階ホールで広々とした空間です。
動くに支障はありませんが、室内なりの制約はあります。
●悪気の聖杯(バッドジョーク・ジャンク・ウィッシュ)
『スターテクノクラート』の異名を持つシュペル・M・ウィリーの作品。
願望機の一種だがその効果は限定的。効果対象が嫌がりそうな奇跡を面白おかしく真剣に引き起こすという一点のみに特化している使い捨て。
起動すれば自律型アーティファクトとなり、知性と自己防衛機能も持つ。
相手がされたら困る事を何となく連発してくる非常に困った能力を持つ。
以下、能力詳細。
・PC陣営のファンブル値は常に(現在値)二倍で判定する。
・ターン開始時、参加者の何れかを模したシャドウを三体召喚する。
但し五体以上居る場合は召喚しない。
・バッドジョーク&プレッシャー(神中域:中ダメージ、不吉、不運)
・EX バッドジョーク&ウィッシュ(神超単:対象に面白おかしい呪いを掛けます)
シャドウは能力をある程度模倣しますが戦闘力はオリジナルに劣ります。
ちなみにファンブル10で不吉不運を喰らい、二倍効果を受けると……えっと。
●リーゼロッテ
三人同行しますが『気を抜くと増えそう』なので期待しないで下さい。
リーゼロッテ(中央)は皆さんの良く知る彼女。
リーゼロッテ(右)は彼女の怖い側面。
リーゼロッテ(左)は彼女の純粋かつ好意的な側面を司ります。
司った所で場をぐちゃぐちゃグダグダさせる以上の意味はないのですが。
コメディですが一応ちゃんと判定するやつです、が……
プレイングに「こうなったら嫌だなあ!」というのを書くと聖杯が積極的に叶えてくれたりするかも知れませんので、是非酷い目にあって下さい。
以上、宜しくご参加下さいませませ。
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