シナリオ詳細
<総軍鏖殺>かぼちゃ頭の殺人鬼。或いは、飾り立てられた駅<トリグラフ作戦>
オープニング
●飾り立てられた駅
鉄帝。とある丘の上。
どこか明るく、どこか不気味に、飾り立てられた駅がある。
かぼちゃで作ったランタンに、蝙蝠を模した布飾り、それから駅の周囲に突き立てられた無数の案山子たち。
鉄道だ。
平時であれば鉄帝各地の補給網を支えると言った役割を担っていたが……政変に伴う混乱で、現在は鉄道を支える施設などと連絡が取れない状態が続いていた。
やっと調査に来てみれば、どういうわけかご覧の有様。
恐らく新皇帝派の者に制圧されているのだろうと予想していたイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)も、思わずそれに驚いた。
「これは……これは、いったい?」
何の目的で、駅をこんな風に飾り立てるのか。
困惑しながらも、イフタフは茂みに身を伏せたままゆっくりと駅に近づいていく。
「うげ……湿地帯っすか、これ?」
移動を開始して数十秒。
さっそくイフタフは後悔していた。
腹と胸が冷たい。ぬかるんだ地面を這ったことで、衣服に泥が染み込んだのだ。
全身泥塗れになりながら、どうにかイフタフは駅の近くまで辿り着く。
そして、彼女は異臭に気付いた。
血と汚泥の混じったような臭い。
肉の腐ったような臭い。
突き立っている案山子には、無数のカラスが集っている。
「……案山子の意味、なしてない……っす、よね?」
集うカラスが案山子を突いた。
ぶち、と肉の千切れる音がした気がする。
否、それは案山子ではない。
頭からズタ袋を被せられ、鉄杭に突き刺された誰かの遺体だ。
血と泥に塗れて判然としないが、案山子の纏っている衣服は駅員の制服ではないか?
「マジっすか」
血の気が引いた。
直後、ドアの開く音。イフタフは肩を跳ねさせて、息を殺して泥の中に顎まで沈めた。
引き摺るような不気味な足音。現れたのは、針金細工のような体躯の奇妙な男だ。膝から下には、鉄の杭で作った義足。両の腕には、錆びた鋏や刃物を無数に巻き付けている。
そして何より、頭を覆うかぼちゃの被り物。
「こいつ……スクワッシュ?」
その容貌にイフタフは覚えがあった。
新皇帝バルナバスの放った勅令により、野に放たれた犯罪者。
連続愉快殺人で名の知れた、通称“スクワッシュ”と呼ばれる男だ。
●殺人かぼちゃ
「どういう理由で殺人鬼が駅を占拠しているのか……単なる愉快犯ってわけでも無さそうでしたっす。たぶん新皇帝バルナバスの手の者に雇われでもしたんでしょうね」
スクワッシュは言葉を話さない。
そして、スクワッシュは凝り性だ。
「自分の拠点や、牢屋の中や、殺めた人の遺体まで、あぁいう風に飾り立てるそうっすよ」
かぼちゃのランタン、蝙蝠を模した布飾り、そして遺体で作った案山子に、線路の上には無数に散らばる何かの骨と、なんとも奇妙な有様だ。
遠目から、目を薄くして眺めれば少し明るく、楽しそうにさえ見える。
「駅のホームはけっこう広いっすね。10両編成の汽車でも停車できるように造られているっす。それから、建物の2階には売店や休憩室、それと駅員の控室とか駅員の宿舎も……駅の広さはさほど大きいわけでもないっすけど、小さな店舗や部屋がたくさん並んでいるって感じっすね」
元々は小さな駅だったのだろう。少しずつ増改築を繰り返して大きくなったのだ。そのせいか、柱や意味不明な壁などがあちこちに目立つ。
「つまり死角が多いんっすよね。それから、スクワッシュの手下たちもそこらへんをうろついています」
手下の数は、5人程度だろうか。
イフタフ曰く、全員が頭から薄汚れた布を被ってゴーストに扮していたそうだ。彼らは非常に気配が希薄で、足音もなく滑るように駅内を動き回っているらしい。
「本当に生きている人間かどうかも不明っすけどね。あと【魔凶】や【呪い】を付与するナイフや斧を持っていたっす」
5体のゴースト兵。
そして、主犯格のスクワッシュ。
以上6名が、今回のターゲットである。
「スクワッシュは【滂沱】【呪縛】【致命】の付いた技を使うっす。今でこそ駅占拠の主犯をやっていますが、元々は連続愉快殺人犯……逮捕されるまでに、数十名の人間を夜闇に紛れて殺して来た凶悪犯っすよ」
殺した相手を飾り立てるという猟奇的な犯行に、恐怖した者は多いだろう。
犯行はすべて、被害者の自宅で行われている。
夜道のような野外での犯行よりも、室内のような閉鎖的な空間での殺傷の方が得意ということだろう。
「……とまぁ、そんなわけで。鉄道網の奪還作戦の一環として、駅を取り返して来てほしいんっすよ。あぁ、建物を焼いたりするのは駄目っすよ? またすぐに使うんだから」
- <総軍鏖殺>かぼちゃ頭の殺人鬼。或いは、飾り立てられた駅<トリグラフ作戦>完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年10月31日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●案山子
突然、床に引き倒された。
次いで背中に激痛が走る。
それから、ぬるりとした感触。背中から血が流れだしているのだと、自覚した瞬間に体温が下がった。
悲鳴をあげる間も無いままに、首を刃物ですっぱりと裂かれる。首に空いた穴からは、空気の漏れる音がしていた。
最後の瞬間、彼が見たのは“嗤うかぼちゃ”の顔だった。
「獲物の動揺を誘い、視界の悪い状況ではデコイにもなる。コストは高くつきましたが、実用品として評価はします」
ぬかるんだ地面に並べられた死体が8つ。
鉄の杭に突き立てられて、駅の周りにずらりと並べられていたものだ。そのうち1つに手を触れて『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)は首を振る。
死体の記憶を覗き見た彼女は、突然に、唐突に命を奪われた哀れな犠牲者たちの冥福を祈った。
それから死体の記憶を仲間たちへと語って聞かせる。
時刻は深夜。
夜闇に紛れて駅へと近づき、周辺に飾り立てられていた案山子……もとい、駅員たちの遺体を地面へと降ろしたところだ。
「あんな…あんな風に死体を飾り付けて、辱めるなんて……」
「ふん。こういう手合いはな、嫌悪感を示したら示したで喜ぶのだ。下らん」
『見たからハムにされた』エル・ウッドランド(p3p006713)は顔を俯け、遺体の傍に座り込む。一方、罪人の余興になど付き合ってはいられない、と冷めた態度で『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は吐き捨てた。けれど、握りしめた拳は小さく震えている。
恐怖の感情によるものか。
否、それは胸の内に収めきれない強い怒りと悲しみによるものだろう。
「まったく、人の命を蔑ろにするにも限度があるんじゃないかしら……」
遺体はどれも激しく損傷しているようだ。強い恐怖に引き攣った顔と、腐敗が進み、血と泥に塗れた身体で飾られるなど、人体に対する冒涜に等しい。『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)の表情に嫌悪感が滲む。
ヴァイスだけではない。その場にいる者のほとんどの者が暗い感情を抱かずにはいられなかった。
「殺人鬼のすること、理解不能。最低、最悪、悪趣味」
「あぁ、悪趣味だ。その一言に尽きる」
『新たな可能性』シャノ・アラ・シタシディ(p3p008554)と『ザーバ派南部戦線』解・憂炎(p3p010784)は、短い言葉を吐き捨ててそれぞれの得物を手に取った。
そうして2人が視線を向けた先にあるのは、明るく飾り建てられた駅舎である。まるで遊園地か何かのようにライトアップされた駅舎だが、現在はスクワッシュと名乗る連続殺人鬼に占拠されていた。
殺人鬼を討ち取ること。
それが今回の依頼の内容である。
「この戦いが始まってから、祈ることが増えたわ。死者に、どうか救いあれと」
けれど今は冥福を祈る時間さえもが惜しまれる。『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が、1歩ずつ駅舎へ近づいていく。
「だから――今止めるわよ」
神がそれを望まれる。
囁くような一言が、作戦開始の合図であった。
駅舎へ近づく仲間たちの背を眺め『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)が足を止めた。
それから彼女はくるりと背後を、地面に横たえられた遺体を見やって笑う。
●スクワッシュ
マリカは問うた。
「つらいなぁ、かなしいなぁ。あなたはどうしてしんじゃったのかな?」
手には大鎌。
歌うような調子を付けた問いかけは、遺体へ向けられたものだ。
「よぉく思い出してみてよ。 刺された? 引き裂かれた? 燃やされた? 吊るされた? 弄ばれた?」
遺体は何も答えない。
「屈辱だったよねぇ、悔しかったよねぇ。殺されるだけに飽き足らず尊厳までも踏み躙られたよね?」
くるりと鎌を旋回させて、マリカはそれを肩に担いだ。
それから彼女は、遺体の1つを覗き込み、差し伸べるように手を伸ばす。
「いいんだよ、恨みつらみ全部吐き出して。つらかったね、かなしかったね、誰にもわかって貰えなかったよね。マリカちゃんにはよ~くわかるよ」
彼女の手を取る者は無い。
遺体はもう動かない。
「ねぇ。どうせ怒りをぶつけるのなら、あなたをそんなにした本人にぶつけてみない? せっかくのハロウィンだもの、サプライズを用意しなきゃね」
傍から見れば独り言。
遺体の前で微笑む少女の姿を見れば、誰も正気とは思うまい。
事実“ソレ”はマリカを異常なものであると認識していた。
ソレ……つまり、湿地帯に音もなく降りた白い布を被った何か。ゴースト兵と呼ばれる者だ。マリカは視線をゴースト兵の方へと向ける。
「誰に用意するかって? 決まってるじゃない」
ゴースト兵が布の内で何かを構えた。
シャラン、と金属の擦れる音。
刃物か何かを隠し持っているのだろう。
「あなたを殺したのはスクワッシュだよ」
瞬間、マリカは弾かれたように駆け出した。
布の内に隠した刃を構えた刹那、ゴースト兵はそれを見る。
マリカの背後に付き従う、都合8人の駅員たちのゴーストの姿を。
駅構内は閑散としていた。
そして、至るところにランプやかぼちゃが悪趣味に飾り付けられている。それらの飾りのせいで視界が通らないうえ、元々の増改築の結果として無駄な壁や柱の多い造りをしていた。
「足音……でしょうか」
足を止めて瑠璃は言う。
耳に届くのは、カツンカツンという金属の杖で床を叩くみたいな音だ。
「あぁ、気を付けないと。スクワッシュの足音に気を取られて、音を立てないゴースト兵の不意打ちを受けては元も子もありませんからね」
背後に続く憂炎を振り返りながら、瑠璃は囁く。
刹那、憂炎の瞳が見開かれるのを瑠璃は目にした。
翡翠に似た色の瞳に映るのは、訝し気な瑠璃の顔と、そのすぐ後ろに白い影。
「っ!?」
咄嗟に瑠璃は鞘ごと刀を背後へ振った。
鉄筒のような鞘が何かを強かに叩く。鳴り響く金属音と、飛び散る銀色の欠片。包丁か何かの刃が砕けたのだろう。
「さっそく……っ! そら、おいでなさったぞ! 囲んでめった刺しにする気だ!」
瑠璃を襲ったのはゴースト兵だ。
その思考を読み取って憂炎が注意を促す。瑠璃は無言のまま頷くと、片目を閉じて転がるように壁際へ。
空いた空間を剣を構えた憂炎が駆け抜け、勢いのままにそれを一閃。
「浅い……っ!」
剣が裂いたのはゴースト兵の纏う布の一部だけ。
破れた布の間から、包丁を持った灰褐色の腕が伸びる。
包丁が憂炎の腹を貫く、その寸前……。
「こっちを見なさい!」
閃光と共に爆音が辺りに鳴り響く。
それは瑠璃が肩に担いだ、銃砲型のクラッカーから放たれた。
「ところで、えっと……その……作戦何だったっけ???」
憂炎と瑠璃が駅へ立ち入ってから暫く、おそるおそるといった様子でエルはそう問いかけた。やっと怒りが多少収まって来たのだろう。自分の思考を整理して、他人の話に耳を傾けるだけの余裕が生まれたらしい。
「話を聞いていなかったのね。憂炎たちが駅へ突入してスクワッシュを牽引して来てくれるから、ここで待ち構えて囲みましょう……って感じよ」
「数、こっち、多い。でも、油断、禁物。頑張る」
イーリンとシャノがエルの問いに答えを返す。
けれど、エルからは返答が無い。
「? エルさん?」
初めに違和感を感じたのはヴァイスだった。
言葉数が少ない者もイレギュラーズの中にはいるが、会話の成立しない者は滅多にいない。ましてや先の問いはエルが発したものである。答えをもらって無言のままなど、エルらしくないではないか。
顔を上げ、視線を左右へ巡らせる。
1人、2人……いつの間にかエルがいない。
「……いない? え?」
代わりとばかりに、ぬかるんだ地面には何かを引き摺った痕跡があった。
突然口を塞がれた。
藻掻く手足を抑え込まれて、暗がりへ引き摺り込まれたことは理解している。
音もなく、ほんの少しの呼吸の音さえ零すことなく、ソイツはそれをやってのけたのである。白い布を頭から被ったゴースト兵。足を布で縛られて、両手を掴まれ引きずられ、十分に仲間たちと作った拠点から離れたところで、それはナイフを取り出した。
「っ……!?」
口に布を詰め込まれた。
振り下ろされたナイフが肩に突き刺さる。咄嗟に首を傾げたことで致命傷を避けたのだ。
偶然だ。そして、偶然は二度続かない。
どうするべきだ。
どうするのが正解だ。
(えっと、たしか見つけた敵に鉛玉を撃ち込む……うん、やるか)
手首を捻って拘束を抜けた。
腰に差した銃を取り出し、ゴースト兵へ突き付ける。
引き金がやけに軽かった。
銃声。火花と硝煙の臭いが散った。
銃弾がゴースト兵の身体を撃ち抜く。よろけて後ろへ踏鞴を踏んだ。途端、布に血が広がった。
「ぷはっ! このっ! このこのっ!」
詰められていた布を吐き出し、二度、三度と立て続けに発泡。そのうち1発は弾かれて、1発はゴースト兵の肩を撃ち抜く。だが、ゴースト兵は止まらない。ナイフを手に、滑るように前進を開始した。
けれど、しかし……。
ストン、とその背に矢が突き刺さり、ゴースト兵はぬかるみの中へ倒れ込んだ。
「罠、張る、お前だけじゃない。いざ、ふるぼっこ」
頭上から声が降って来た。
エルが顔をそちらに向けると、翼を大きく広げたシャノがそこにいた。
ゴースト兵の死体が2つ。
マリカと、エルとシャノが討伐したのである。
布を剥がされたゴースト兵の身体は、骨と皮ばかりである。灰褐色に変色した皮膚と抜かれた舌に、ぎょろりとした目。足元は裸足だ。
「妙な外見をしてるよね」
まじまじと遺体を見下ろしマリカが言った。
「薬物……か?」
遺体の衣服や被っていた布を探りエッダは呟く。湿地と、案山子にされていた遺体の臭いで分かりづらいが、ゴースト兵からは違法薬物特有の鼻粘膜にこびり付くような甘い臭いが漂っていた。
「これで残るはスクワッシュとゴースト兵が3体ね。どうする? ここで待機するか、それとも突入するか……」
イーリンが言った、その直後。
ズドン、と駅の構内で何かの弾ける音がした。
「単独行動は避けた方が良さそうね……こちら側が個人で向こう側の複数人に当たることがないよう気をした方がいいわ」
なんとなく嫌な予感がする。
眉間に皺を寄せたヴァイスが、駅の方へ視線を向けた。
カツン、コツンと足音が響く。
駅の1階。改札付近の柱の影に身を隠している瑠璃と憂炎の眼前を、足音もなくゴースト兵が通り過ぎる。
「少し拙いかもしれません」
「あぁ、外に出れさえすればお得意の奇襲戦術は使えないはずだが……こうも死角が多いとな」
声を潜めて言葉を交わした。
それにさえ気を使う。何しろ相手は足音のしないゴースト兵だ。
「止血は出来ているでしょうか?」
「まぁ……でも、少しぐらいは零れていても仕方ないよな」
押さえた肩から血が零れている。
布で縛って止血しているが、瑠璃の負った傷は決して軽くない。ズタズタに引き裂かれた皮膚の間から、白い骨が覗いていた。
それはスクワッシュによって付けられた傷だ。
駅の入り口、散開して武器を構える者たちがいた。
扉の左右に分かれて並んだイーリンとエッダが、視線を交わし頷きを交わす。
「では……準備はいいわね?」
順番に仲間たちを見回してイーリンは問う。
返って来るのは5つ分の頷きだ。
「総員突撃!」
エッダの号令が放たれた。
それと同時に、先陣を務めるエッダとイーリンが駆け出していく。
と、その時だ。
「待って!」
2人を止めるヴァイスの声が響き渡った。
●総員突撃
まずは1匹の黒猫が。
それから、もつれるようにして2人。
瑠璃と憂炎が駅から湿地へ飛び出して来た。
2人の背や肩には、幾つもの杭が突き刺さっている。
「撃ってください!」
瑠璃が叫んだ。
咄嗟に反応したシャノが、駅の入り口へ向けて矢を放つ。
何かを狙ったわけではない。
ただ、仲間の指示を信じただけである。
かくしてシャノの放った矢は、ゴースト兵の腹を射貫いた。
「案山子、された人、気持ち、少しでも、思い知れ」
次いで2本目の矢が、もう1体のゴースト兵の肩に刺さった。
2人を折って来たゴースト兵は2体。
そのうち1体の元へヴァイスが駆け寄り短剣を一閃。布の上から、喉の辺りを深く切り裂く。
「1体は駅内で仕留めた!」
憂炎が叫ぶ。
頷き、エッダは疾駆した。
「スクワッシュを含め残るは2体……いや、1体でありますな」
転倒していたゴースト兵の顔面に、鋼の拳を振り下ろす。
骨の砕ける音がして、白い布が血に染まった。
ヴァイスが倒した1体と、今しがたエッダが仕留めた1体でゴースト兵は全滅だ。
そして、残るはスクワッシュだけ。
コツン、コツン、と硬い足音を響かせながらスクワッシュが姿を現す。
「さて、貴方の予定は知らないけれど……他人を貶めたぶん、貴方の身に災厄が降り掛かっても文句はないでしょう?」
真正面からスクワッシュを睨みつけ、ヴァイスはそう問いかけた。
数の不利を知りながら、スクワッシュは悠然とした足取りで一行の前まで歩いて来る。見せつけるように両腕を広げて、長い指を1本ずつ開いた。
腕に取りつけた無数の刃が血に濡れている。
「こうなった以上、逃げることはしないはずだけれど……念のため外周を囲んでちょうだい」
スクワッシュの右方向へ移動しながらイーリンは言った。
その指示に従い、マリカとエルが数メートルほど後ろへ下がった。翼を広げたシャノが頭上から、戦場全体を見下ろしている。
包囲網は完成だ。
「カボチャは叩いたら簡単に割れるな。試してみるか」
なんて。
そう問いかけたエッダの方へ顔を向けると、スクワッシュはゆっくりと両腕を頭上へとあげた。
一見すれば「降参」のポーズにも見えた。
だが、そうじゃない。
「こっちよ!」
旗をなびかせイーリンが駆けた。
剣を一閃。
スクワッシュが両の腕を振り下ろし、イーリンの剣を弾き飛ばした。
瞬間、スクワッシュより放たれたのは禍々しく、そして純粋な殺気であった。至近距離から殺気を浴びて、イーリンの背筋が凍り付く。
あまりにも悍ましい。
思想の伴わないさっきとは、こうも悍ましいものか。
後退しそうになる足を必死に前へ動かして、旗を大きく薙ぎ払う。それはスクワッシュの側頭部を打ち据え、細長い身体を揺らがせた。
転倒しながらも、スクワッシュは長い腕を振り回す。
腕に巻きつけられた刃物が、イーリンの肩から頬にかけての肉を削ぎ取った。
「隙だらけね!」
スクワッシュの意識がイーリン1人に向いている。
ヴァイスとエッダは、スクワッシュの死角へ駆けた。一瞬、2人を追いかけたスクワッシュの意識は、頭上より振った1本の矢と、前方より放たれた1発の銃声、そしてマリカの伴うゴーストたちによって千々に乱された。
「あれ? もしかして“見え”てるの♪」
マリカの問いにスクワッシュは答えない。
代わりに彼は、鉄杭の義足でイーリン目掛けて蹴りを放った。
刃物を纏った腕をがむしゃらに振り回す。
長い腕の届く範囲がスクワッシュの殺傷区域というわけだ。けれどエッダは、頭の上に鋼の両腕を被せることで強引にそれを突破した。
体勢を立て直すべくスクワッシュが後ろへ下がる。
その足元をイーリンの旗が薙ぎ払う。
踏鞴を踏んだスクワッシュの杭脚が、湿地に深く突き刺さる。元より沼地での戦闘には適していない杭の義足だ。
身動きの取れなくなったスクワッシュが、ほんの僅かに慌てた様子を見せていた。
「応報あるべし」
エッダの拳がスクワッシュの片腕を折った。
スクワッシュは折れた腕を振り回し、エッダの頬を深く抉った。
2度目の拳が、スクワッシュの腹を打つ。
骨の砕ける音がした。
身体をくの字に折りながら、スクワッシュは折れた腕を横に薙ぐ。
巻きつけられた無数の刃がエッダの胸部から喉にかけてを切り裂いた。
喉を殴られたことによってか、エッダは口から血を零す。
血を吐きながらエッダは吠えた。
瞬間、エッダの全身を黄金色の雷が包む。
「ああしたからには、貴様もああなるのだ」
地上を駆ける雷獣のようだ。
1つ、2つ。
放った殴打がスクワッシュの両肩を砕く。
直後、その側頭部をイーリンの旗が強かに打った。
スクワッシュの視線がイーリンへ向く。
その隙に、腹部へ向けてエッダが拳を叩き込む。
後方からマリカが前線へと駆けあがる。
左右と正面、どの敵に狙いを定めればいいのか……そんな判断を出来るほど、スクワッシュに余裕は無かった。
そして、何より……。
「…………!?」
声にならない悲鳴をあげて、スクワッシュが膝を突く。
割れたかぼちゃ頭の隙間から、血走った目が覗いている。
見下ろす先は自身の胸だ。
風穴の空いた胸部を見下ろし視線を後ろへ。そこにいたのは真白い女だ。
ヴァイスへ向けて腕を伸ばした。
飛び散った血が白い髪を斑に染める。
1発、銃声が鳴った。
首元に矢が突き刺さる。
エルとシャノの攻撃を受けてなお、スクワッシュは生きている。
生きているだけだ。
そして、きっとすぐに死ぬ。
首元に添えられた大鎌に気付いて、彼は己の敗北を悟った。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
スクワッシュおよびゴースト兵の殲滅が完了し、辺境の駅を奪還しました。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
スクワッシュおよびゴースト兵の討伐
●ターゲット
・スクワッシュ×1
かぼちゃの被り物を被った長身の男。元連続殺人犯。
左右の足は、膝から下が鉄杭状の義足となっており、両腕には錆びた刃物を巻き付けている。
室内での戦闘を得意とするようだ。
殺傷:物近単に大ダメージ、滂沱、致命
威圧:神中範に小ダメージ、呪縛
・ゴースト兵×5
白い布を頭から被った何者か。生きている人間かどうかも怪しい。
気配が希薄で、足音を立てずに動き回る。
音のない犯行:物近単に中ダメージ、魔凶、呪い
●フィールド
鉄帝国の辺境の駅。
駅はかぼちゃのランタンなどで明るく飾り立てられている。また、駅周辺は湿地帯。湿地帯には、鉄杭に突き立てられた駅員の遺体が並んでいる。
駅のホームはけっこう広い。建物の2階には売店や休憩室、それと駅員の控室とか駅員の宿舎。
無理な増改築を繰り返したせいで、駅内には柱や意味のない壁が多い。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
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