PandoraPartyProject

シナリオ詳細

章姫奮闘記~TypeG~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

「ああっ……だめぇ……だめなのぉ……」
 美しい瞳に涙を浮かべるゴスロリ美少女。上気してほんのりと染まった頬は水蜜桃のようで、そのやわらかな手触りさえ簡単に想像がついた。
「だめなのぉ……いや、いやぁ……」
 しゃくりあげるたびに頬を落ちる水滴は宝石か、それとも蜜か。きっと近寄って口にすれば甘味が味わえるに違いない。
「章殿……すまぬがもう待てぬ。……さあ」
 夫である黒影 鬼灯 (p3p007949)はそっと章姫へ近寄り……。

「そのGをこの虫かごに! さあ! さあ! さあ!!」
「いやー! 連れて行かないで、かわいそうなの!」
「ちょっと、章さん、その、言いづらいけど、いくらなんでもGは……」
 リア・クォーツ (p3p004937)はひきつった顔で言い添えた。
「踏まれたらかわいそうなの! だから抱っこしてるだけなの!」
 想像してほしい。TOP絵で鬼灯の腕に居る、巻き毛の美しい身の丈30cmほどの自律型幼女ドールが、Gを抱きしめているところを。ちなみにGは小さな腕の中で、元気よくカサカサしている。
「虫かごに入れた虫さんが帰ってきたことなんてないの! 知ってるの!」
 これを聞いた『暦』たち全員が顔をそらした。覚えがあるらしい。
「と、とにかくだな」
 伏見 行人 (p3p000858)は場を収めようと口出しした。
「Gは不衛生で繁殖力も強い。一匹見たら三十匹いると思えと言われているくらいだ。だからGを保護するのはよくないことなんだよ、章さん」
「ちょうちょさんはよくてゴキブリ(ああ言っちゃった)さんはダメなんておかしいの! この子を放っておけないの!」
「奥方、なんとお優しい……」
 金銀のオッドアイが美しい文月が感極まったようにつぶやいた。
「文月君、これ以上話をややこしくしないでくれる?」
 隣では小金井・正純 (p3p008000)が一生懸命文月を黙らせようとしている。が、そんなもの聞くわけがない。
「そのとおりだな文月、このままでは奥方がかわいそうだ。それに奥方の言うことにも一理あるし……」
「葉月さま、落ち着いて」
 散々・未散 (p3p008200)がなんとかしようとして失敗した。文月の兄である葉月まで裏切ったとあらばめんどくさいことこのうえない。普段はおとなしい方なんだが、やはり章姫が関わるとなんか『暦』のメンツはてんでバラバラに動き出す。
「なんというか、まァ、虫ごときにとは思うけれども、えっ、あそこに居るのもGじゃないかい?」
「ほんとだー! ちょっとまってまだまだGがいるってこと? たしかに平屋だから虫が入ってきやすいけれど、だからってGー!」
 武器商人 (p3p001107)の言葉に流星 (p3p008041)が壁をカサカサしているGに背筋をぞわっとさせる。
「ちょっとおー。『暦』の子たち、ちゃんとお掃除してるの? 一匹居たら三十匹ってことはいま二匹目発見だから六十匹ってことなんだからね?」
 アーリア・スピリッツ (p3p004400)が苦言を呈した瞬間、誰かがフリーのGをパシッと捕まえた。素手である。
「……Gだって奥方が愛でれば聖蟲だが?」
 そうのたまった弥生は捕まえたGをそっと章姫へさしだした。
「わかってくれるのね、ありがとう弥生さん」
「お褒めいただき光栄です」
 二匹のGをだっこする章姫。近くで遠い目をしている水無月。優秀な鷹匠であり、諜報の頭といえば彼のことだ。その彼はいま究極の選択を迫られていた。
「師匠、まさかその……Gを保護するなんて言い出しませんよね?」
「水無月さん、水無月さんならわかってくれるとおもうの」
 かわいい弟子と崇拝する章姫に。
「すまん、流星、俺は奥方の忍だ」
 断腸の思いでそう言い放った水無月は、ふと頭領である鬼灯へ振り向いた。
「それで、頭領はどうなさるので?」
「えっ」
「えっ、ってなに、ふざけるなの連続だよ、さすがの霜月さんも怒り心頭だよォ。俺がちょっとでかけてる間、誰も掃除してなかったってことォ?」
 オカンの風格を漂わせる男、霜月が赤いオーラを吹き上げながらずいと一歩進み出た。鬼灯はだらだらと汗を流しつつ章姫をながめ、虫かごに手をやった。
「章殿、なにとぞ、なにとぞ、そのGをこの虫かごに」
「いやなの。鬼灯くんのお願いでも受けられない時があるの」
 撃沈。うなだれる鬼灯へ武器商人がからかいの声を投げつける。
「どうする気なんだい? 姫には拒まれる。部下には怒鳴られる。ヒヒ、管理職ってのはつらいねぇ」
「うーむ……」
 鬼灯はたっぷりと時間をかけて考え、考え、考え抜いた結果。

「二時間G護りぬいたら殺さないってことでOK?」
 
「「は?」」
 その場にいる全員が固まり、次の瞬間動きだした。
「奥方、俺が奥方を守ります! Gだからって差別するのはよくないですよね!」
「すみません、頭領、そういうわけで俺たち双子は奥方へ付きます……」
 すたこらさっさとその場をあとにする文月と葉月。水無月も無言のままナナシを従え、そのあとを追う。
「援護するつもりか。なら俺にもその役をゆずってもらおうか……」
 弥生もまた凶悪な笑みを浮かべ、マキビシを廊下へばらまいた。
「なっ、ちょっと、師匠! 師匠ー!」
 足止めされた流星の悲鳴じみた声が響き渡る。
「なにやってんのもー! マキビシなんかまいちゃって、お掃除大変なんだからねェ!」
 別なところで頭にきている霜月。
 イレギュラーズたちは顔を見合わせた。
 章姫の前でGを殺すのはやめたほうがいいだろう。まちがいなく本人が悲しむし、それを知った『暦』たちが鬼灯を袋叩きにするのが目に見えている。
 まあ、それはべつにかまわないが。小さい子が悲しむ姿というのは健康に悪い。
 なにより、Gを殺すにはまず、Gを取り返さないといけないってことで。あの妙につやっとしたカサカサ動く、不潔極まりない、虫を、素手で。
「や、や、やったろーじゃん……」
 リアがため息をついた。

GMコメント

傾向:与太(原文ママ)

やること
1)二時間以内に章姫の手から二匹のゴキブリを奪い取ろう。

やっちゃだめなこと
1)章姫の目の前でGを殺す。

●戦場
平屋の日本家屋です。庭付きのかなりのお屋敷。風情あるいわゆる古民家です。部屋数が多くて広いよ。
弥生が魔改造しており、そこかしこに隠し通路がありますが、その弥生が敵側についているので、今回敵に地の利があります。

●エネミー?
基本的に逃げ回ります。スキルは使ってきません。通常攻撃くらいはしてきます。ほら屋敷の中だしね、あんまり汚すとあとが大変。

章姫@元凶?
鬼灯のお嫁さんのお人形。とってもかわいい。たぶん生きてる。心優しいが今回それが裏目に出てしまった感じ。移動能力は人間の子供程度です。二匹のGを守るための使命感にかられています。

文月
金銀双子の金色の方。奥方(章姫)大事。G平気。怖くなーい。だから奥方のためになんでもするよ! 奥方をだっこして逃げ回るメインNPC。

葉月
金銀双子の銀色の方。奥方大事。文月も大事。だからGくらい、我慢しないとって思ってる。ほんとはちょっと苦手。お仕事モードだと平気だけど、いまは通常モードなのでヒーヒー言ってる。

弥生
サディスト&耽美主義者。奥方のしもべを自称している。とうぜんGは愛でるものである。だって奥方がそうしてるからね! 隠し通路をよく知っており、またマキビシ・クナイなどで妨害してきます。ん? 急所外すんだから傷の内に入らないよ?

水無月
優れた鷹・ナナシと以心伝心の鷹匠。不本意ながらもGの守護者に。やっぱり奥方には逆らえない。奥方大事、流星に関しては済まないと思っている。そのへんつっつくといいことがあるかもしれない。

●友軍?
霜月
みんなのオカン。任務で遠出をしていた間、だれも掃除をしてなかったことに怒り心頭。あるていど隠し通路を把握しており、とっても頼りになるのですが、へたなスキルで屋敷損壊あるいは汚すと、仲間だろうとなんだろうと頭ぶっ叩いてきます。

他の暦
奥方を泣かすなんて罪悪感で死ぬので関わりたくない皆さん。応援くらいはしてくれます。

まじめに戦闘プレ書くとがっかりするのでやめたほうがいいです。

  • 章姫奮闘記~TypeG~完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年10月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
武器商人(p3p001107)
闇之雲
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
流星(p3p008041)
水無月の名代
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士

リプレイ


「鬼灯(くん)が袋叩きになれば解決するのでは?」
『北辰の道標』伏見 行人(p3p000858)と『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は異口同音にそう言った。
「それを言っちゃあ、おしめえよ!」
「なあに長月くん、何しに来たのぉ?」
「リプレイが3行で終わるのを防ぎに来たんやで。感謝しぃ」
「構想段階では、ツッコミは俺のセリフだったんだが」
 頭領こと『報恩の絡繰師』黒影 鬼灯(p3p007949)がどこか切なげにつぶやいた。背中がさみしげだ。
「リプレイにおいて、セリフとは出番。PCの出番が減るのは厳禁。NPC劇場と化すのはさらに許されない」
「そういわれても暦たちもNPCだよ?」
「か、関係者はいいんだっ! 関係者だから!」
 鬼灯のぼやきにのっかった『闇之雲』武器商人(p3p001107)がケラケラ笑う。
「でもやっぱり鬼灯が袋叩きになれば、章姫ちゃん、俺たち、暦連中の三方良しということにならないか?」
「まあ実際、なるなあ」
「そこでうなずくな長月! リプレイが唐突に終わるのを防ぎに来たんじゃないのか、裏切り者ぉ!」
 行人がむしかえし、長月が保証し、鬼灯が訴える。
「なんなの、もうぐだぐだなんだけど。ぐるぐる回ってバターになっちゃったってくらいぐだぐだなんだけど」
『玲瓏の旋律』リア・クォーツ(p3p004937)は頭痛がするのかこめかみをもんだ。
「ではそのバターを使ってGの揚げ料理でも作りましょうか」
『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)がにっこり提案すると全員そろってイヤイヤと首を振った。
「うーん、某国では高級食材として徹底した衛生管理の元、飼育されるらしいね。供されるならばいただこう……と普段の我(アタシ)ならいうところだけど、さすがに今回の生きの良すぎる個体は遠慮するよ」
 章姫も泣くだろうしね。そう武器商人は言い添えた。
「番さまもおそらくドン引かれるかと思います」
『魔女の騎士』散々・未散(p3p008200)が真面目な顔して思いを馳せた。その俊足で物語を駆け巡ってきた彼女には、なんかこう、どちらへ分岐しても、ろくでもない未来が見えていた。
「そう、それがねえ、いちばん怖い」
「そうですよね。ここはやはり早期解決を目指しましょう。生憎か幸いか存じませんが、ぼくは追いかけっこなら得意です、どなたがGを奪取したならぼくへあずけていただければ……」
 未散はしばらくおしだまり、がんばります、とだけ言った。
「それにしてもなんというか、お嫁さんは……その、慈悲深いようで……。ていうか、G出るまで掃除しないってどういう事よ」
 そういうリアだって、じつはそんなに片付け得意じゃないのは内緒だ。いや、やろうと思ったらできるんだけど、ほら、帰ってきて座ったら尻に根が生えるっていうか。特にいまは季節柄あんまり動きたくないっていうか。多少部屋の隅にホコリがあっても死にゃしないっていうか。
「なに勝手にアテレコしてんのよ! そりゃあたしかに部屋の片付けするの結構サボるけど! どうでもいいところをふくらませるのやめてくれない!?」
「あらあらまあまあこれはリアさんもお説教対象かもしれませんね」
「ひいっ!」
 正純の冷ややかな笑顔に霜月も腕を組んだまま同意している。
「章姫さんの生き物を慈しむ気持ちは分かりますけれど、今回のこれ、そもそも屋敷を不衛生にしていたのが原因ですから。ねえ……?」
「そうなんだよねェ。平屋の豊穣風家屋だから虫が入りやすいのをさっぴいてもねェ? 許せないよなァ」
 漆黒のオーラをまとうひとりの忍と化した霜月の様子に、その場に居る誰もが感じた。ヤバイ。と。
(このまま放っておいたら母上の低気圧が台風になる)
 崇敬すべき奥方と敬愛する師匠を敵に回す、そんなあまりのことに意識を飛ばしていた『水無月の名代』流星(p3p008041)すら戻ってきた。
(だいたい母上の圧がね~ヤバめなんですよね~母上が「俺」って言ってる時大概本気(マジ)だから~ヤバめなんですよね~)
「あ、また俺のセリフとられた」
「頭領、俺の心読まないでください。ともかく、母上! 留守を預かりながら侵入を許す失態、誠に申し訳御座いませんっ!! 掃除は事が終われば必ず!」
「流星ちゃん、あんたほんとにいい子だねェ。どっかの頭領もこうあってほしいよねェ?」
 床に額を擦る勢いで土下座する流星の頭をなでなでしながら、つめたーい視線が鬼灯を刺す。
「事が終わったら霜月さんと一緒にお説教しましょうか。まずは何とかしてGを奪い取らねば」
 正純がきれいにまとめたので、一行はこの流れに乗っかることにした。
「あ、霜月さん。内部の間取りとか隠し通路の構造とかある程度教えて頂けます?」
「いーよォ。てか地図いる?」
「持ち歩いてらっしゃるんですか?」
「弥生がねェ。おいたするからねェ……」
「苦労してらっしゃるのですね」
 正純は細かく書き込まれた地図を手にすると、さらに情報を補強しようとした。
「いざっ、広域俯瞰!」
 しーん。正純は片腕を上げたまま立ち尽くしている。
「しまった、屋内ではるーらができないの法則。ま、まあこの地図があればある程度、敵の行き先がわかるでしょう。霜月さん、人数分持ってたりしません?」
「あるよォ?」
 ……便利な男だ。正純の好感度が3あがった。なお、上限値は不明である。正純のような清濁併せ呑む女子というものは、フラグ全折りルートも十分ありえるので今後についてはなんとも言えない。


「……あっ、霜月さま、アレですキッチン手袋とか借りれませんか?」
「ビニールのが沢山あるよォ」
「ナイスゥ~! 5枚位重ねて嵌めておきましょうね」
 素手はかんべんしてくれという心の声を聞き取った未散は、女性陣にビニテを配った。
『さあ、準備も万端。そんな感じで両者位置につきまして、G争奪戦、スタートやで!』
 マイクチェックOK、小指をピッと立てたまま長月が両者を煽る。
『ある意味血も涙もない、おいかけっこが始まったで! 一気に前へ出たのはやはり未散。速い速い、めちゃくちゃ速い。さすが騎界士、防御は捨ててるだけあるな!』
「長月いいいいいいいいい! あとでビンタだこらあああああああああ!」
『頭領に睨まれても怖くないねんで。奥方に睨まれるのは勘弁やけどな』
 文月組を追いかけ、未散はまっすぐに廊下をつっぱしっていき、そういえば忘れていた、廊下は直角に曲がるものだということを。この世には遠心力というものがあるということを。
「きゃん!」
 べちーん。タペストリーと化したお姫様はそれはもう美しかったという。
「だいじょうぶ未散さん!?」
「……きゅう」
「時速90kmで壁にぶつかったら常人なら即死してるところ。それでも平気とはさすがイレギュラーズ。じゃ、あたしはあたしなりにGを追いかけますか」
 未散へ応急手当をすると、リアはざっと床の上へ紙を広げ、薬草を調合し始めた。
「なにをしているのですかリアさま」
「クオリアでGの旋律を探して聴いてるのよ。これは虫除けのお香。これで追い込み漁してやる」
 それにしてもまさかこんな美しいギフトを、Gのために使うだなんて、しかもけっこういい音たてやがる、頭痛がするでやんの。
「ああーストレスたまるー! もうこの家を放火する勢いでお香を置いてまわるわよ!」

「どうしよう弥生、みんながガチめに追いかけてくるよ……」
「気にするな葉月、奥方の清廉なる御心に触れれば、何者も追いかけることはかなわない」
「といいつつマキビシ撒くんだ……」
「ほかにもトラバサミ、はねつるべ、剃刀の刃、いろいろとしかけてみた」
「やりすぎではないか?」
「特異運命座標相手だぞ水無月? どんな重傷でもケロッと治るやつらだぞ?」
「まあ、うん、それを言われると身も蓋もないが」
「弥生、弥生!」
「どうした文月」
「なんかみんな飛び越えてきてる!」
「チッ、設置系の罠は無効ということか。ならばいっそのこと」
「弥生さん、ケガさせるのはだめなのだわ?」
「かしこまった奥方!」

「なーんか楽しそうだなぁ。俺もあっちにつきたい」
 鬼灯がため息をついた。スパァンと霜月がその頭を叩く。
「もとはと! 言えば! 掃除しなかったせい!」
「痛い痛い母上。わかった、章殿を泣かせるのは不本意このうえないが、こうなったのも夫たる俺の責任。全力で義務を果たす」
「うんうん最初からそういえばいいんだよォ」
(今日の母上、本気で怖い)
 鬼灯と流星の心がひとつになった。
「玄。ナナシ殿の妨害だ、できるか?」
 まずは忍一の秀才にして、相手方の司令塔である水無月の足止め。流星は自分こそが適任と信じて拳を握る。流星の命令に相棒は力強く鳴いた。はばたき、空中でこちらの動きを監視していたナナシへと襲いかかる。
「くっ、引き上げろナナシ! 落とされてくれるな!」
「師匠! 師匠聞いてください!」
 流星の叫びに水無月が足を止めた。
(師匠の選択は衝撃だが、俺も奥方殿に請われれば断れない。だが今回ばかりは! あの麗しい方の腕に今この時もアレがいるという事実が! 無理だ!)
 流星は腹をくくって師匠の目を見据えた。
「師匠はその2匹で済むとお思いか? やはりGの住処と言えば厨……きっと、まだ『いる』。このままでは霜月殿も安心して甘味を作れず、作り置いたおやつも狙われてしまうに違いない……」
「ぬ、ぬぬぬぬ」
「考えてもみてくれ。きちんと掃除をして霜月殿の怒りを鎮めねば、このままでは甘味どころか食事全般が危ういのでは?」
「流星、言うようになったな」
 水無月が覆面の下で目を細める。
(わー、師匠怒った? 怒った!? 俺破門される!?)
「……心を殺して、主の過ちを正すのも忍の仕事、だと……俺、は……」
 必死に連ねた言葉。うってかわって水無月はほんわりした雰囲気を醸し出した。
「ふっ、そうだな。奥方かわいさのあまり俺は誤った道を選んでしまったのかもしれん」
「師匠……」
 流星の心があたたかくなる。が。
「だが断る」
「師匠ー!」
「すまん、流星。俺は奥方は裏切れん。だが師匠の行動を諫めるお前の成長を、むげに切り捨てることもできん」
「いや、いま切り捨てたよな?」
「切り捨てることもできん」
「あ、そこはもう押し通すんだ」
「というわけで俺は他の暦連中と同じく応援に回る。あとは頼んだぞ、文月、葉月、弥生」
 そんなあ! と、双子が叫ぶ。弥生だけがニタアと不吉に微笑んだ。どうやらナナシが邪魔で自由にクナイが投げれなかったようだ。
「すまんな、頭領。これも奥方のためだ」
「ひゃっ、危なっ!」
 アーリアたちめがけ、クナイが襲う。それの前へ、するりと影が入り込んだ。
 めり、幾本ものクナイがソレへめりこむ。壁の隠し通路から出てきた武器商人は、全身でクナイを受けると、無造作にそれを抜いた。たしかにその身で受けたはずなのに、クナイの切っ先は乾いたままだ。最後に頬へ刺さったクナイを放り捨て、武器商人は弥生に劣らぬ不吉な笑みを浮かべる。
「そっちへ逃げようったって無駄だよ。我(アタシ)が先んじて埋めてしまったからね」
『ここで別行動をとっていた武器商人の地道な努力が炸裂ッ! 文月組、行き先を封じられてしまったぁ! さあどうする、どないや!』
「ならば押し通るまで!」
 弥生がまたもクナイを投げる。武器商人がそれを受け止め、小さく笑った。
「我(アタシ)がいるかぎりここを抜けられると思ったら大間違い……」
「いったぁい!」
『突然上がった大きな声、ああっと、アーリア選手やー! マキビシにかかってるでー!』
「くすん」
 ほろんと大粒のナミダがアーリアの頬を滑り落ちた。その軌跡、水晶のごとく。みがきあげられた玻璃の類か。
「いたぁい、酷いわこんなことって……」
 アーリアはゆっくりとマキビシを取るとまた一粒ナミダをこぼした。豊かな胸を強調するようにうつむき、安産型の尻からふとももへのラインを床へすりつける。なよやかな躯へ長い髪が垂れ落ちた。
『なんという色香や、これには弥生選手もタジタジか!?』
 立ち上がったアーリアは、痛そうに足を引きずりながら進み、弥生の近くまで寄ると壁ドンした。
「ね、よぉく考えて? このままこのお屋敷が奴らに占領されちゃったら……嫌でしょう?」
 化粧の似合う、芳醇な顔立ち。甘い唇から発せられる蜜の味。
「おねーさんからのお願い、聞いてくれる?」
「アーリア」
 弥生は目を閉じてうつむいた。
「忘れられているだろうが、俺は女性恐怖症だ」
「えええー!? ここまできて? ここまでさせて!? それはないわよ弥生くん!」
「だめなものはだめだそうだ」
「今頃初期設定の口調に戻ってもだめよ! がんばったんだからご褒美ちょうだい!」
「頭領は裏切れても奥方は裏切れない」
「ああん、そんなあ」
『アーリア選手まさかの脱落やでー』
「霜月!」
「なんだい行人ちゃん?」
「これは、こんなことが、許されるのか! 章さんのために身を切るのが暦本来の姿じゃないのか、さあ判定は? 霜月チェック!」
「ダメに決まってるだろォ! 奥方のためにまずは快適で清潔な環境づくりから! Gを保護するなんてとんでもない!」

「う、母上があんなこと言ってるよ。どうする?」
「どうするって文月が奥方を連れて逃げ出したんじゃないか」
 こそこそ話し合う双子。そこに鬼灯が目をつけた。
「葉月、貴殿の弟想いなところと章殿を大切にしてくれる点は本当に美徳だ。頭領として鼻が高い。だが、本当にいいのか。Gだぞ、しかも二匹だぞ。いいのか本当に!!」
 心からの叫びだった。そしてそれは、地味に優柔不断な葉月の胸へ芯まで届いた。
「お、奥方。俺、俺は、その……」
「なぁに葉月さん?」
「うわああああああああああむりだだああああああああああああ! 奥方は裏切れないいいいいいいいいいいい!!!」
「葉月さん? 葉月さん?」
「むりだああ! 奥方が二匹もGを抱いてるなんて、でもっ、でもっ、俺は奥方は裏切れない、どうすればいいんだああああー!」
「葉月さまがパニクってる、いまです!」
『おーっと、ここで未散選手乱入やー!』
「因みにGは時速300kmで移動するそうです、ちるっ!」(トーリービーアー)(これはどうしてもいれたかった)
 未散が章姫の手からGをもぎとった。
「モード・シューティングスター起動! あとはおまかせを皆さま! なぁに、鬼灯さまは一寸今回頼りないけれど此処に居るお人達は皆、皆さま、ぼくが尊敬している人達だもの。ぼくは自分自身の役割に――……」
 だが、しかし。ビニテごしにも伝わってくる、カサカサうごめく感触……。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛!゛!゛ア゛イ゛エ゛エ゛エ゛!゛!゛!゛!゛!゛イ゛↑゛ヤ゛↓゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛↑゛ッ゛!゛!゛!゛!゛!゛」
 そうその姿はまさに制御不能なブリンクスター。その後野山を駆け回る未散を、皆がほうほうのていで捉えたと言う。


 壮大なBGMをリアが演奏している。
(殴っておとなしくさせるんじゃないんだ、みんな懐が広いなー)
 なんて考えながら。イレギュラーズは章姫の説得の真っ最中だった。正純が言いくるめる。
「たとえ尊い命であろうと不衛生なところから命を増やす彼らGは疫病をもたらします。数が増えればなおさら。そんな時、真っ先に罹患するのは皆さんです。そんな状態で章姫さんを守れますか? 考え直してください! それにほら、Gもこう言ってます!」
「オニーチャンアタシ外ノ世界ガ見タイワ!」
「二人デ旅ニ出マショ!」
 アーリアが真っ赤になり、ぷるぷる震えながら裏声を出している。
「章殿! Gがお話しているぞ、外に出たいらしいな〜」
 全力でのっかる鬼灯、裏声で小芝居の続きをする行人。
「外ノ世界ハ怖イケレド、知ラナイモノガイッパイアル。一緒ニ行コウ」
「有難ウ、僕タチヲ助ケテクレテ」
 ふわりと章姫のまわりを精霊たちの光が舞った。行人のおまじないだ。ほうと章姫が見とれてため息をこぼす。
「いいかい、章姫のお嬢さん」
 武器商人がかがんで章姫と目を合わせた。
「生き物を手元に置くのはいいけど可愛がるだけじゃダメなんだよ。ちゃんと一生、安心して暮らせる様にしてあげないと。ひもじい思いや、乾きを感じさせるのは飼い主の手落ちだし、落ち着ける寝床だって要る。それも暦たちや黒影の旦那にお願いするんじゃなくて、お嬢さん自身ができる様にしなきゃ。だから、ちゃんと勉強していないうちはゴキブリを不幸にしないためにも逃してあげよう?」
 武器商人は姉のように優しい声でさとしていく。
「あ、飼育ケースやら床材やら買う時はサヨナキドリをご贔屓に。豊穣には【福々動物店】の本店もあるしね。ヒヒ。一通り調べて飼うんなら、別にいいんじゃないかい?」
「……わかったのだわ。さみしいけれど、今のままじゃ飼えないのだわ。旅に出たいみたいだし、また会えるのを楽しみに待っているのだわ」
「奥方……」
「文月さん、葉月さん、弥生さん、水無月さん、みんなありがとう」
「あぁ、こうして彼らは世界を見てまわる為に、大冒険に出たのでした、めでたしめでたし!」
 リアが強引に締めると同時に、正純がものやわらかな笑みを見せた。
「では皆さん正座しましょう? ええ、お説教のお時間です」

成否

成功

MVP

伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

Gってそんなに速く動くんだ……ちるっ!
MVPはNPCの使い方が上手かったあなたへ。

またのご利用をお待ちしております。

PAGETOPPAGEBOTTOM