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シナリオ詳細

<最後のプーロ・デセオ>守るためには壊さねば

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 真那伽は善い子だ。
 少なくとも、八重 慧(p3p008813)が最初に会った頃の彼女はカジノ『ドラゴンズ・ドリーム』のことを強く想い、少々の不届き者なら蹴り出してしまう胆力があった。
 そして、彼女が好む香やアロマといったものは基本的に人を楽しませるためにあり、人を傷つけるために使うことはない。無い、はずだった。
 だが結果論として彼女はその何れもをひっくり返し、ドラゴンズ・ドリームでの混乱を助長し、結果として多くのディーラーを危険に晒したわけだ。
「全部、きっと、皆のためになるから……」
 虚ろな表情で竜宮に潜み、足を向ける先はどこかうらぶれた雰囲気を醸し出す、ボロ家が立ち並ぶ一角だ。間に合せに建てられたような場所、いかにも治安が悪いところ。こんなものは、本来の竜宮には存在し得ない。
 あるとすれば、彼女ら善良な竜宮の民に取り入って言葉巧みに居場所を生み出した悪徳であり、彼等が狙うのは善良な街と信じて疑わぬ外部の人間、もしくは竜宮の者達。
 ……要は違法の賭場であるが、法治ではなく善性による人治を旨とするこの街で見咎められる可能性は低く。
 だからこそ、彼女は誘われるようにここに現れたのである。
「壊さなきゃ、こんなところは」
 悪意ある欲望が喚んだのか、はたまた真那伽自身の感情からか。善き街であれと願った想いがねじれねじれてこうなってしまったのか――そうでなくば、爪を立てて歩いてきた猟犬達が彼女らに飛びかからぬ理由がわからない。
 虚ろな表情で首を傾げた彼女は、それらが敵ではないことを察し。
 とんでもなく昏い笑顔で笑った。


 『ドラゴンズ・ドリーム』を始めとし、竜宮各所への襲撃が起きて程なくして。
 ローレットは 悪神ダガヌ封印のための最終決戦に向け、インス島・天浮の里への二正面作戦を展開。さらに竜宮とシレンツィオ・リゾートの防衛戦……と、多角的な行動を求められることとなった。
 そして、竜宮内にて。不審な行動をとっていた者達の大半は『瘴緒(しょうのお・デヴシルメ)』と呼ばれる新たな形態の肉腫によって操られていたことが判明。ひとまずは本人たちに悪意はなく、しかし欲求につながった行動として『現状』がある――というわけだ。
「お香の匂いが手がかりってことか。なんとか見つけられねえか?」
「真那伽さんが心配っす。良かれと思って動いてる様子なので、余計に……」
「成分まではわからないけど、残り香とかを探していくしかないでしょうね……嗅ぐとやっぱりくらくらするけど……っ」
 ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)と八重 慧(p3p008813)、アルテミア・フィルティス(p3p001981)の三人はドラゴンズ・ドリームから消えた真那伽を探すため、竜宮内部の情報を徹底的に洗っていた。カジノ絡みで人付き合いがあったのなら人脈を駆使して目撃情報を、匂いに敏感な動物や人物を巻き込んでの捜索。人海戦術は無理だが、彼女に遠くに移動する手段が無い以上は近場を虱潰しにすれば十分なんとかなる。なるはずなのだ。
「そういえば。カジノを守りたいって言ってたっすから、ドラゴンズ・ドリーム以外で問題のあるカジノ……とか?」
「そんな場所ねえだろ、竜宮で不法営業なんて……いや……」
 慧の思い出したような声に、ニコラスは否定しかけて何事か思い出したような顔をしていた。アウトロー寄りだからこそ、考えうる可能性に思い至ったようなものだ。
「……有り得る」
「見当がついてるなら、匂いを辿れるかもしれないわ。行ってみましょう」
 アルテミアはその言葉を信じ、彼の案内のもとに仲間達と『その場』へと向かうことになる。
 ――恐らくはそこは、彼等が想像したよりもずっと強めの地獄が展開されているのだけれど。

GMコメント

●成功条件
 『運狂わせの乙女』真那伽を生存状態で行動不能にすること(≒瘴緒の解除)
 敵勢力の全滅

●失敗条件
 真那伽がダガヌチに取り憑かれてから5ターン以内の不殺撃破に失敗する

●真那伽
 カジノ『ドラゴンズ・ドリーム』のディーラーで、アロマなどを趣味にし、また、マジックを得意とします(余談ですが、マジックをディーラーのときに使うことは頑としてしません)。
 前回(<デジールの呼び声>竜夢に妖香)において、神経撹乱性のある薬を香にまぜる、視界妨害のために煙幕を炊くなど様々な妨害を行いました。これに関しては、OP冒頭にあるように瘴緒による夢の中で、且つ本人がよかれと考えて行ったことが実際は……という様子です。詳しくは省きますが、彼女がアロマを好んでいたことも夢遊病の悪化に拍車をかけたのかもしれません。
 夢遊病状態であることで肉体のリミッターが若干緩んでおり、元よりそこそこ動ける分、かなり動きがよくなっています。
 攻撃面はほぼ考慮しなくていいかもしれませんが、高い機動力とマジックの応用によるパルクール技術を用いるため捕まりにくく、またインク玉による視界妨害や隠蔽系非戦スキルの妨害等、多彩な行動に出ます。
 また、前回と違って屋外戦なので充満する香気は気にしなくて良くなりましたが、『彼女の周囲レンジ1以内に入るたび』【停滞】【呪縛】【不運】【呪殺】の判定を受けます(万が一に、ですが。アロマとか酒に弱い設定が明記された場合より重い不調に陥る可能性があります)。

●真那伽(ダガヌチ憑依体)
 後述の条件によりダガヌチが憑依した場合です(初期位置その他の関係から『かなり悪い可能性』です)。
 肉体は大幅に強化され、強めの深怪魔クラスまで上昇します。マジックなどによる小細工がなくなりますが香気の効果は変わらず、しかも近接攻撃に【出血系列】が追加されます。
 また、【移】【飛】などで距離をコントロールしつつ戦闘してきますので厄介です。こうならないことが理想です。

●ダガヌチ×10
 邪神ダガンから生み出された泥が竜宮幣に寄り集まって実体化した怪物です。これだけでも厄介な敵(接触攻撃に【不運】【Mアタック(大)】、泥撒きが神中ラ、同一性能)なのですが、人に取り憑いて欲望などを増強させることがあります。1体でも真那伽さんに近付くと瞬く間に上記の状態に変わります。位置取りとしては基本的に真那伽さんとは離れていますが、一定時間経つと積極的に彼女に向かっていきます。

●黒の猟犬×15
 黒一色、顔には口以外の器官が存在しない猟犬です。全体的に鋭いデザインをしています。
 口を非常に大きく開けての近扇・【出血系列】の噛みつき、爪によるひっかきなどを使用します。また、同じ対象に3体以上が群がることはなく、2体以上が相対した敵からの【怒り】を受け付けません。
 そのため、怒りによる誘引というよりは多数ブロックのほうが現実的ではあります。

●戦場
 『ドラゴンズ・ドリーム』周囲の所謂『闇カジノ』を名乗るあばら家周辺。
 念のため書くと竜宮の人たちは基本的に不当に金を巻き上げたりを考えていませんが、竜宮に入ってきた悪い人たちはその限りではなく、非認可のカジノとも呼べない博打場を言葉巧みに置いてるわけですね。
 真那伽さんはそれに対し深層心理で嫌っていた為にここをターゲットに選んだらしいです。
 ダガヌチはここから溢れる悪しき欲に引っ張られた感じですね。
 なおあばら家内に入っても入らなくても、中の人達が最悪死んでも竜宮に悪影響はありません。
 「あばら家前の道路」「あばら家内部(狭いです)」「周辺ビルの壁など」にわかれますが、戦場としては広めではあります。


●特殊ルール『竜宮の波紋・応急』
 この海域ではマール・ディーネーの力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <最後のプーロ・デセオ>守るためには壊さねば完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月03日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
セララ(p3p000273)
魔法騎士
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉

リプレイ

●願いと行為、善悪の天秤
「ったく、良かれと思って行動するのはいいけどよー、やりすぎなのはよくねーよなー!」
「__救い難き独善の愚かさ」
 挑発じみた言葉とともに現れた『生イカが好き』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)と『戮神・第四席』ウォリア(p3p001789)の姿に、まず真那伽は憎しみすら籠もった視線で二人を見た。彼女を守るかのように闇からするりと現れた黒い犬は、今や遅しと彼等に飛びかかるタイミングを待ち、その膝を撓め身構えている。真那伽は暫し沈黙を守ったあと、短く「ですが善行ですから」と断言した。
「私は彼女を知らないんだけど、話を聞く限りいい人なんでしょ?」
「……っす。嫌う気持ちもわかりますが、排除の仕方は本来の真那伽さんらしくないっす」
「ふぅむ……大変なことになりましたねぇ」
 『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は冷徹な態度を見せる真那伽をみて、眉根を寄せて仲間達に問いかける。『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)は彼女を一番よく知るからこそ、その気持ちの有り様と変遷はわかる。……わかるが、極端な上に誰も幸せにならぬ手段だとも思った。断固たる態度を見ていた『不屈の障壁』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)は、その決意のあまりの固さに不快さと困惑を混ぜたような表情を浮かべる。
「真那伽さん、貴方の願いを思い出して! 今こうしていることが願いじゃないはずだよ!」
「物理的に潰すのは本心ではないはず。守りたいという願いは別の形で果たせるはずよっ!」
 『魔法騎士』セララ(p3p000273)と『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は声を張り、彼女の本当の望み、そうすべき行為を思い出すべきだと諭していく。が、真那伽は素っ気なく「私の求めたことですよ」と告げると、これ以上話すことはない、とばかりに首を振った。
(無差別に行動していないだけまだマシだけれど、この先そうならないとは限らないわ。今は一刻でも早く……)
「まぁよ。俺としちゃ闇カジノってのはいいと思うんだぜ? そこはそこでスリル楽しめるしよ」
 アルテミアが現状の危うさに内心で冷や汗が止まらぬなか、『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)はあろうことか真那伽の前で『あばら家の中身』を当然のように肯定した。果たして中の人間はこの状況をどこまで把握しているのか、否かはさておき、その言葉に一同はぎょっとし、黒い犬たちは唸り声をあげる。
「でも無い方が正常だ。見つかりゃ排除されるが世の常だ、それは真那伽さんが正しいさ。……だけど自分を犠牲にするのは間違ってんだよ」
 何を言いたいのか、と様子を探るようにぎらついた視線を向けるニコラスだったが、慧はその肩を叩いてより前に出てきた。先程までの慮る表情ではない。どこか悪意が見え隠れするような、そんな顔。
「あのカジノから抜け出して、ココで遊ぶつもりっすか? ま、あんなお綺麗でつまらないトコより、コッチのが楽しいっすもんねえ。貴女の腕ならイカサマもし放題、稼げるでしょう?」
 いきなりあからさまに挑発を始めた慧の姿に、先程まで苦々しい顔をしていた彼を知るオデットはぎょっとして彼をみた。何を考えているのか――とは言うまい。分かっていても驚きはするのだ。
 犬達が飛び出すより早く、ノールックで投じられたペイントボールを背後に受け流し、慧はずんずんと前に出ていく。ペイントボールを目で追ったワモンは、背後からいつの間にかダガヌチが湧き出ている事実を視認する。
「来やがったなダガヌチ! オイラ達が一掃してやるぜ!」
「セラフインストール! ……さあ、いくよ!」
「穢らわしい汚泥も、生まれるべきでない獣も、未だ己が罪に向き合えぬ乙女も。等しくその欲望に満ちた『夢』に『裁定』を導こう」
 ワモンは即座に得物を構え、セララは『セラフィム』のカードを己にインストールし、その姿を純白のものへと変じる。その神々しさたるや、ダガヌチ達の色合いと相まって普段より数割増しに感じられる。ウォリアの声は引き続き無機的でこそあれ、目の前の悪意を祓おうという意志の強さは十全に感じ取れた。
「ベークさん、よろしく頼むっすよ」
「ああいう人はほっとけませんし。できるだけ頑張りましょうか……」
 犬をけしかけ、煙幕弾を投げつけてきた真那伽を視線で追い、慧とベークは仲間達に他の敵を任せ前進する。当然のように犬は飛びかかってくるし煙幕は明確に毒を孕むが知ったことではない。この二人の役割は真那伽の確保。仲間の役割は敵の誘引。それを知ったればこそ、真那伽は後方に飛び退りながらあばら家にちらりと視線を飛ばした。……『できなくはない』と。

●死生欲得乱れ歌
「幸い、どんだけ数が来ようがまとめて攻撃するのも得意なの、大暴れしちゃうわ!」
「他に目を向けさせはしないわよ! 誰も死なせないんだから!」
 オデットはダガヌチたち目掛けて神気閃光を叩き込み、続く仲間達の攻勢への布石を打つ。その最中にもそれぞれバラけて仲間達へ襲いかかり、或いはあばら家に狙いを定めた猟犬へとアルテミアが向かう。……アルテミアにとって、そして一同にとってあばら家の者達は正直どうでもいい。が、その余波で死なれては真那伽が戻れなくなるのだ。
 神威の名を冠する歩法で一息にあばら家と猟犬の間に割り込んだアルテミアは、下方から短剣を猟犬の顎に突き立て、一気に地面に叩きつける。同時に腕に浅からぬ傷を負ったが、続いて飛びかかってきた猟犬の一撃をいなしつつ、細剣の鋒でもって牽制をかけた。
「GRRR」
「ヒッ……?!」
 猟犬たちの唸り声に、内部から悲鳴が上がる。こんな状況だと内部でもわかろうに、逃げなかった者がいるのか。見上げた度胸と呆れた命の軽さだと、アルテミアは眉根を寄せた。
「別にあなた達が殺されようが関係ないし、むしろ消えてくれた方が竜宮城の為だわ。だけど『彼女が気に病むかもしれない』以上、殺させる訳にはいかないの」
 その言葉に弾かれるようにあばら家に突っ込もうとした個体を抑える手と反射速度は、アルテミアとて難しい。が、その胴を横合いから切り上げ、半ばまで断ち切った影があった。
「そっちには行かせねぇよ。それより俺と遊ぼうぜ、ワンコロさんよぉ!」
 ニコラスだ。素早く剣を引いた彼は、今度は上から胴へと剣を振り下ろし、半ばまで千切れたそれを真っ二つに裂いてみせた。
「ニコラスさん!? ダガヌチ達は……」
「倒すけど一人でここは無理だろ。俺も真那伽さん絡みで人死にが出たら顔向けできない相手がいるんでね!」
 困惑するアルテミアは、しかし彼の回答に得心し素早く二本の剣を構え直す。ここの数体を処理すれば、あとはイレギュラーズ達に襲いかかる個体、そしてダガヌチだ。――倒せぬ筈がない。

「物陰に隠れようとしているダガヌチが一体いるわ! 回り込んで真那伽に取り憑こうとしてるのかも!」
「賢しいな。だが我々の耳目を甘く見過ぎのようだ。……断つ」
 オデットは精霊の言葉に耳を傾け、闇の間であろうと素早くダガヌチを視認し、指示を飛ばす。自らの体力的を慮り無理に前に出ないことが、却って大局を見る目が養われているのかもしれない。ウォリアもそれに即座に対応し、仕留めにかかる反応は見事。汎ゆる状況に対応できる手数があってこそ、か。
「犬もダガヌチも、こっちに来たからにはオイラが一気に撃ち抜いてやるぜー!!」
「ニンジャインストール! ……からの、ギガセララブレイクッッ!!」
 ワモンの放つ銃弾がダガヌチや猟犬を打ち抜き、その密度でもって足を止めさせる。オデットの神気閃光でさらに動きを鈍らせた個体は、無防備な身をセララの前に『晒してしまった』わけで、反応速度を上げ、勢いづいたセララの一刀に防御を割く余裕などあろうはずがない。畢竟、普段に増して強烈な光を放つ一撃はダガヌチ一体を消滅させ、いきおい、もう一体を消し飛ばすに至った。……そう、消えたのだ。足元に転がる竜宮幣を残して。
「……やっべー……」
「なんだか凄いわね……」
「二人が足止めしてくれたおかげだよ! ありがとう! このまま倒しきろう!」
 驚きに声を失った二人に、セララはいつもどおりの配慮と笑顔を忘れない。聖人ではなかろうか、と傍目にみていたウォリアが……いや、そこまでは思いつめないか。

「貴女の腕ならイカサマもし放題、稼げるでしょう? 巻き上げたお金をどうするかは知りませんが、そんなものでドラゴンズ・ドリームは潤うっすか?」
(慧さん、凄い事言うなあ……気を引くためとはいえ……)
 慧とベークは次々と小道具で視線を切ろうとする真那伽を追いつつ、泥臭く地面を駆け、徐々に彼女を追い詰めつつあった。
 慧の言葉はこころにもないとはいえ、彼女の強い感情が乗った視線を見ればいつ踵を返してもおかしくはない。
 と、考える暇を縫うようにトランプを突き出し慧へと飛びかかった真那伽は、素早くトランプとナイフを入れ替えて彼に突き立てようとする。
「良くないっすよ、そういうマジックは。あなたのやり方じゃないっす」
「漸く近づいてきてくれましたね。逃しませんよ」
 腕に突き立てられたナイフを筋肉を締めることで引き止め、慧はぐっと前に出る。思わずナイフを取り落とし後退した真那伽は、背後のベークに舌打ちし毒煙を投げつける。間合いに入った二人にはたちまちのうちに毒香が巡るが、軽々に受ける彼等ではない。
「あんなんに構わず、帰るっすよ! 帰ったらお望みのバニーでも何でも着てやるっすから!」
「ほっとけないんですよ、あなたは。仲間が助けたいって言ってますからね」
 慧の思いがけぬ言葉に一瞬動きを鈍らせた真那伽であるが、しかしすぐさま場を打開すべくさらなる攻勢に打って出ようとする。
「キミの願いは他のカジノを破壊することなんかじゃない! ドラゴンズ・ドリームのお客さんを幸せにすることがキミの願いでしょ!」
「アンタは暴れまわってるのは似合わねえな、やっぱりカジノでカード切ってなきゃあよ!」
 が、ダガヌチを蹴散らし、負傷覚悟で突っ込んできたセララと、あばら家に集った猟犬を蹴散らしたニコラスが続く行動を抑え込み、慧の拳が彼女の腹部に深々と突き立てられる。
 それでも藻掻いて動こうとした根性たるや凄まじいものがあるが、ダメ押しとばかりにオデットの神気閃光が飛べば立っていることは敵うまい。
 彼女の身から静かに落ちた瘴緒は、そのまま干からびて影すら残さず消えてしまった。……残されたのは異形の猟犬と、あばら家の処分だけだ。

●帰るべき場所
「真那伽さんはどうにかなったっす、ダガヌチは……」
「ちゃんと倒したからボク達が止められたんだよ! 大丈夫!!」
 腕の中で倒れ込んだ真那伽を抱え、慧は周囲にあらためて警戒の視線を向ける。が、わずかに黒犬が残っている以外はさして戦局に危機的状況があるとは思えない。セララの言葉通り、ある程度は大局が決して居たというのは間違いないようだ。他方、ところどころが壊れ、毒煙が舞い込んだり散々な目に遭ったあばら家の内部からはうめき声が漏れるが、不思議と無事な者が外に出てくる気配はない。荒くれ者とはいえ、外の戦況に飛び込んで死ぬ勇気はないとみえた。
「死にたくなければ幸運を祈れ……どちらにしても、此処は今日で店仕舞だがな」
「なにか後ろめたいことがあるなら、全て終わってからひっそりとここから出ていきなさい。『次』はないわよ」
 ウォリアとアルテミアが鋭い声音でもってあばら家の中へと語りかければ、話を聞ける状態の者が震え上がる気配があった。この混乱に乗じて逃げる算段はいくらでも出来よう。ローレットの介入があったとなれば、悪行も続くまい。
「……ん」
「お。正気に戻ったか? ねーちゃん」
 戦闘音が徐々に収まり、イレギュラーズがなんとか勝利を収めた傍らで起き上がった真那伽が最初に見たのは、まじまじと見つめてくるワモンの顔だった。
 いかに彼が可愛らしいアザラシでもどアップとなれば話は違う。驚き後ずさろうとした真那伽は、しかし慧にしっかりと抱えられていたので逃げることもままならない。
「あー……えっと、覚えてないんだけど、迷惑をかけちゃった……んだよね?」
「大丈夫っすよ。終わったことっすから」
「それで、バニー着るって言った?」
「……言ったっすね」
 真那伽はどうやら一連の事件を朧気に覚えつつ、大きな流れでしか捉えていないようだった。無論、人死スレスレまでいったことに気付いていない。だが、応じる慧がバニーを着ると口走ったことはしっかり覚えているわけで。
「まあまあ、真那伽さんが無事なら全てよし! ドラゴンズ・ドリームに戻って顔を見せてあげようよ!」
「そうね、きっと皆心配してるわ。一緒に帰りましょう」
「そしてボクはお礼にドーナツを沢山……!!」
 セララがぐっと手を引いて真那伽を起こすと、ふらつかないように傍らから支える。逆側からアルテミアが支え、ドラゴンズ・ドリームへの道に向けてゆっくりと足を向けさせる。
 セララから漏れた本音には一同は苦笑を見せ、真那伽も「頼んでみますね」とにこやかに応じた。
「正しき裁定が下ったという事か。よき結末であった」
「細かいことは分かんねえけど、皆無事だしいいんじゃねーか? うまいメシでも食おうぜー」
「お腹は……空きましたね。一緒に戻りましょう」
 ウォリア、ワモン、ベークの三人もそれに続くように歩きだし、一同は激戦の跡から去っていく。
 ……慧がこのあと言質とられたことで色々あるのだがまた別の話である。

成否

成功

MVP

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 色々と考えることも、掛ける言葉も選ぼうという思いの強さというものをひしひしと感じました。
 MVPは索敵と攻撃面の立ち位置とで互いを損ねずバランスがよかったオデットさんへ。
 一撃の凄まじさや心情プレイング面、その他MVP候補たりうる方が非常に多く、最後まで悩みどころでした。

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