シナリオ詳細
<最後のプーロ・デセオ>帆が導く先、絶望を壊しに
オープニング
●海底神殿へ
海底神殿を目指すイレギュラーズたちの前に、その男は現れた。
「……アンタたち、海に出るのか」
男は絶望の色を残した瞳でイレギュラーズたちを見つめる。
「なら、船を出そう。力になろう。……その代わり一つ、頼まれてほしい」
事情を問うイレギュラーズたちに、男はこう、語った。
●錨は堕ちた
荒れ狂う海。
甲板に立った船乗りのノーヴァは、ただ芒洋と立ち尽くしていた。
「……ヒイナ……」
小さく口にした名は、大切な姉の名だ。
その姉は今、目の前に現れた巨大な化け物の腕に、すくい上げられるようにしてこちらを見下ろしている。
その、化け物。
巨大なクジラの亡骸に、得体のしれない生物が寄生したような怪物。
クジラの身体を突き破るように、角や触手が生えている。
ヒイナは、この海を知り尽くした船長だった。
多くの海兵や漁師を束ね、海賊と渡り合り嵐を越える、前線を切り拓く女。
海に女を連れ込むなという迷信を、ヒイナは笑い飛ばして海に出た。そしていつも、必ず勝利と恵みをもたらしていた。
その彼女が、昨晩奇妙な判断を下した。
未探索の海域。かつて彼女が、足を踏み入れるべきでないと判断していた海域に、舵を切ると言い出したのだ。
当然反対する船乗りは現れた。いくらヒイナでも、それは危険だと。
普段なら、仲間たちの言葉に耳を傾け、丁寧に議論を重ねるヒイナだが、この時の反応は違った。
「船で船長に逆らうのがどういうことか教えてやる」
そう言ってヒイナは、その乗組員を船から『吊るした』。頭の半分が海に浸かる状態で数分引き回し「異論のあるやつはいるか」と尋ねた。
その異様な目のギラつきに、誰一人として逆らうものはなかった。
そうしてたどり着いたのが、この化け物の居所だった、と、いうわけだ。
「ごくろうだったな」
ヒイナは、立ちすくむノーヴァたちを見おろしていた。
「最期の温情だ。楽に死ね」
そうヒイナが冷めた目を向けた、次の瞬間。
化け物が口を開き、船を、食いちぎった。
「……全部、悪い、夢だったんじゃないかと思う」
漂着しているところを別の漁師に助けられたノーヴァは、魂の抜けた顔で呟いた。
「みんな、いなくなっちまった。仲間も、姉貴も」
シレンツィオへ侵攻を続ける『深怪魔(ディープ・テラーズ)』、そして『虚滅種(ホロウクレスト)』。
『瘴緒(しょうのお・デヴシルメ)』に感染したヒイナは、シレンツィオ連合軍にも協力していた。そのため、彼女を通じて周囲の連合軍の情報は筒抜けになり、良いように深怪魔の侵攻を許している。
海域を熟知しているヒイナは連合軍の船を誘い込んで迎撃する手腕にも長けていた。
加えて、『悪神ダガヌ』が生み出した『深怪魔』の存在が厄介だった。クジラの亡骸に寄生した、巨大な貝のような化け物。
触手を振り回し、巨大な殻にこもり、鋭い牙が無数に生えた口で敵を食いちぎる。加えてクジラの回遊能力を有したその深怪魔は、すでにいくつもの船を沈めている。
「海域神殿にはきっと、あの化け物と、姉貴がいる。……化け物……あぁ、あの殻を叩き割らねえと駄目だ。波の砲台じゃ、壊せなかった」
ノーヴァは頭を抱え、深くうつむいた。
「船は、俺が出す。……だから、姉貴を、死なせてやってくれ。これ以上俺たちの海を傷付けるのを、姉貴は望まない。船員を自分が死なせて、生きてることも望まない。……頼む」
ノーヴァの声は、陰鬱に響いた。
もしもダガヌが復活すれば――。引き起こされる厄災は、想像を絶するだろう。
ダガヌが封印された海底火山のふたが開き、周囲は溶岩に海に沈む。
竜宮は完全崩壊し、天浮の里やシレンツィオへの被害も計り知れない。
ノーヴァの出す船に、イレギュラーズたちは、乗り込んだ。
- <最後のプーロ・デセオ>帆が導く先、絶望を壊しに完了
- GM名三原シオン
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年11月04日 22時45分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●絶望へと、錨を下ろすもの
渦巻く海の上を、船が進んでいく。
「……もうじきだ」
陰鬱な声で、船乗りのノーヴァが告げる。
その中に乗り込んだ八人のイレギュラーズたちは、めいめいに険しい顔を見せていた。
『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は、ノーヴァの瞳を見てかつてを思い出していた。
よく知った色だ。スラムではあんな人間、掃いて捨てるほど居る。かつての自分も含めて。ありふれた光景。
だからといって、看過できるものでもない。
「……ノーヴァさんの希望を、取り戻さなきゃ」
そう口にするヒィロの拳は、きつくぎゅっと、握りしめられている。
すでに、ノーヴァには、怒るほどの苛烈な感情を抱く気力は残されていない。彼は絶望に飲まれている。
だからこそ、自分が代わりに深怪魔をぶん殴ってやろうと、ヒィロは意思を固める。
一方、『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「瘴緒はマジ節操なしに撒かれて、ろくな事しないわね」
これまでに幾度か、美咲は瘴緒を切っている。だから勝手は理解している。
とはいえ、渦中の彼らに介入するかどうかは、美咲にとっては別問題だ。
その美咲の視線の先で、船が、錨を下ろす。
「ここが、船で行けるギリギリの場所だ」
と、ノーヴァは口を開いた。
「この先の海域神殿に、あの化け物と、姉貴がいる」
ノーヴァの目に、光はない。この海よりも深く淀んだ色で、船の下を見つめている。
「姉貴を、死なせてやってくれ。きっと自分じゃ、死ねないだろう。仲間たちが死んだこの場所で……自分の愛した船が墜ちたこの場所で、死にたいと言うはずだ」
「……そうか」
ノーヴァの言葉に、『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は険しい表情を見せる。
「信じていた姉がまさかこんなことになるとは、悲しいものだ、ノーヴァ」
「は、は」
ノーヴァは乾いた笑みを返した。
「悲しい、って気持ちは、もう、すっかり枯れてしまって……」
そう語るノーヴァの肩に、『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)が、優しく手を置く。
「よくその絶望から、生きて帰ってきたな。後は、私たちがきっちり始末をつけてやる」
だが、と、沙耶は言葉を続けた。
「少し要望通りにはいかないかもしれないな」
「え?」
「私たちはヒイナを死なせに行くのではない、生かしに行くんだから。後のことは、ヒイナ自身が考えることだ。――違うか?」
「僕も同感だ」
シューヴェルトが、コクリとうなずく。
「本当に彼女は自身の死を望んでいるのか?」
「それ、は……」
ノーヴァは言いよどんだ。
「その真偽を確かにするためにも、悪いが彼女は『生かして』連れて帰らせてもらうぞ」
「そうだそうだ」
と、ひょいと顔をのぞかせたのは『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)だ。
「死んでしまえば終わりな以上、その前に家族としてしっかりと話し合うべきではないであるか?」
その言葉に、ノーヴァはじっと考える様子を見せた。
逡巡するノーヴァに、『救済の視座』リスェン・マチダ(p3p010493)が声をかける。
「ヒイナさんが死んでしまえばすべて終わるのかもしれませんけど、わたしはそれでいいと思えなくて……
失ったものは大きいですし、それはヒイナさんが壊したものかもしれないです。誰も許してくれないかもしれません」
「……そう、思うんだよ」
ノーヴァは、小さく答える。
「生き地獄だ。生きている方が、姉貴には、よっぽど辛い」
「それでも」
リスェンは、ノーヴァにまっすぐ向き合い、言い募る。
「ヒイナさんにはノーヴァさんがいるじゃないですか! ……どうかお姉さんのそばにいてあげてほしいです。いなくなってしまった人の分も、シレンツィオの未来をお二人で見届けてほしいんです」
「……俺が、姉貴の力に?」
ノーヴァは、虚を突かれたように呟いた。
「姉貴は、昔からすごいやつだったんだ」
と、ノーヴァは言った。
「俺が、そんな姉貴の力に、なれるのかな」
「……ノーヴァさんの望みとは反してしまいますが、わたしはできるだけヒイナさんを救出できるようにこの戦いに臨みます。
「なに、任せておけ!」
ノーヴァの肩を、練倒がぱんぱんと景気良く叩く。
「この覇竜一の知識人にして、スゥーパァーインテリジェンスドラゴォニアである吾輩が、華麗に貴殿の姉上を助けてしんぜようではないか! ガーハッハッハ!」
ノーヴァは、わずかに唇を動かした。
そして、すべてを奪われてから初めて、涙をこぼした。
一方――。
『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は、じっと舳先で海を眺めていた。
海はおぞましいほどのうねりをあげている。深く暗く淀んだ水の底は、見果てぬ絶望を移すようだ。
「これが、本来の……この海のありかたなのでしょう」
ノリアは小さく呟いた。
ノリアにそれを否定するつもりはない。だが、ヒイナのように、戦渦に飲まれてしまう人間が出てくるのであれば、話は別だ。
「これ以上、哀しみをふやすのならば。ほろぼすしか、なくなってしまいますの」
そう口にするノリアの目は、どこまでも静かだった。
●深海へ征くもの
錨が降りたのを確認し、ノリアはいち早く海へ身を投じた。
同時に、わだつみの寵愛を展開する。これでそばにいる仲間は、水中でも呼吸が続けられ、毒にも耐えられるようになる。
「ふむ。この程度の熱、無意味であるな」
練倒はふんと軽く鼻を鳴らす。(鼻息らしきものに合わせて、小さなあぶくがぷくぷくとのぼっていく)
ノリアは美咲とリスェン、練倒の近くにいられるよう、距離を確認した。
海の熱がじりじりとリスェンの体力を奪っていく。彼女は、自身の回復力で無理やり命を補っている状態のようだった。彼女の体力次第だが、長期戦は望ましくないだろう。
(どちらにせよ、速攻は意識しないと危ないよね……)
美咲は、僅かに目を眇める。
各々の対策でひとまず戦える状況は整備したものの、そもそもこの海はすでに、深怪魔のフィールドだ。
「さぁ みなさま まいりましょう」
そう促し、ノリアが尾を揺らす。
シューヴェルトも、竜宮イルカに騎乗してそのとなりをゆく。
離れないよう速度を出しすぎず、かといっていざ戦闘になったらきちんと対処できるよう、警戒は怠らない。
一方、『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)はノリアにそっと声をかけた。
「大丈夫? 疲れてない?」
「えぇ、まだはじまったばかりですもの」
「これ、念の為に。受け取ってね」
アクセルは、自身とノリアに声をかけ、女神の口づけを施した。
誰しもが、戦闘に入った瞬間のことを想定し、意識を研ぎ澄ませている。
やがて到達した海の底には、邪悪な神殿が、そびえていた。
●海を統べるもの
誰もが思わず、息を殺した。
そこへ、大きな影が現れる。
『深怪魔』ヴァイル・カバーダー。
クジラの亡骸に寄生した貝の化け物が、彼らの前に姿を表した。クジラの身体を突き破るように、角や触手が生えている。
その腐臭と、いびつに骨の軋む音が、水の中に広がっていく。
クジラから突き出た、空洞の骨の中に、金髪の女がいた。
金髪の女――ヒイナは、生気の失せた目でイレギュラーズたちを見た。
「何をしにここへ来た」
決して声を張り上げている様子ではない。それでも、ヒイナの声はイレギュラーズたちの耳に確かに届く。
人間が話しているとは思えないような、心のこもらない声。
「君を助けにだ!」
誰より先に声を上げたのは、ヒィロだった。
「ボクは君を、連れて帰る! そして、ノーヴァさんの希望を取り戻す!」
「馬鹿馬鹿しい」
ヒイナは軽く手を動かした。次の瞬間、クジラの胴体から強靭な触手が伸ばされ、ぶんと乱暴に水中を一閃しようとする。
「させない!」
先手を取ったのは、アクセルだった。
乙姫の口づけを素早く展開し、仲間を守る。
加護のおかげで初撃のダメージをうまく吸収したヒィロは、小さく牙を剥き、にやりと唇を釣り上げた。
「こっちだ、化け物!」
クイッ、と人差し指を曲げる人間らしいジェスチャー……よりは、小さく俊敏な動きが、化け物を惹きつけたのだろう。ゆっくりと、クジラの頭がヒィロへ向けられる。
同時に、連鎖行動している美咲が、ヴァイル・カバーダーへ恍惚を付与する。
だがまだ、刃が届くまでには距離がある。
「もっと、距離を詰めなきゃだめか……」
美咲はわずかに唇を歪めた。敵の注意は、ヒィロへ向いている。その機に乗じて、ソニック・インベイジョンで、化け物への距離を詰めていく。
美咲とヒィロが連携して作った隙を、シューヴェルトは逃さなかった。
ヴァイル・カバーダーが無防備になったところへ、すかさず竜宮イルカに乗って、突っ込んでいく。
「喰らえ……ッ!!」
貴族騎士流抜刀術『翠刃・逢魔』。形なき刃は、深怪魔の強靭な貝殻を貫通して一撃を与えた。
手応えは確かにある。だがまだ、この巨体を倒すには至らない。
「こっちも見ておくといい。大事なものを、盗まれるぞ」
少し間を開けて、沙耶が『急造の予告状』を叩きつける。
もちろん、深海に棲む化け物が、予告状の意味を解するはずはない。
その予告状を目にしたのは、司令塔たるヒイナだった。
「違う、何を狙っている! その小柄な子どもじゃない!」
ヒイナは、ヒィロを狙い続ける深怪魔へ別の司令を送る。
「あの、浅葱色の髪の女だ。そっちを攻撃しろ化け物……!」
声を張り上げるヒイナの命令を、ヴァイル・カバーダーは聞き入れない。
「チッ」
ヒイナは忌々しげに舌打ちした。そのヒイナへ、ノリアがひらりとしっぽを見せる。『のれそれ』――。知る由もない珍味がヒイナの思考を覆う。
「くっ、美味そ……いや、私は何を考えているッ」
ヒイナはギリ、と唇を噛む。
「次から次へと、目移りばかりさせてくる連中だな」
彼女は明らかに、苛立っていた。
そこへ。
「注意散漫であるな」
練倒が、照準を合わせた。
「先ずはド派手に行かしてもらうである。
輝ける星の息吹よ暗き海の底でその威を示すがいい―――アイゼン・シュテルン」
鉄の星々が、ヴァイル・カバーダーの殻を砕いていく。
「あともう一息ほしいであるな」
「さっすが」
アクセルは小さく呟き、杖を構えた。
今、ヴァイル・カバーダーとヒイナの指揮系統は乱れている。
畳み掛けるなら今だとばかりに、その杖から、闇を切り裂くまばゆい光を放った。化け物とヒイナ、双方を同時に攻撃していく。
光が消えるか否かのタイミングを狙って、美咲が概念切断(偽):存在を貝殻へ叩き込んだ。
「その『硬さ』、ズタズタにしてあげる」
有言実行。
化け物の本体を守っていた殻が、美咲の最後の一撃で、ものの見事に破壊される。
一方のヒイナは、八人の行動を改めて俯瞰していた。
司令塔たる彼女の思考。それは、絶対的な武力を得た今、ひどくシンプルなものだった。
「あれもこれも、目について仕方ない……。もう、億劫だ」
「擦り潰せ」
クジラのヒレを突き破るように、長大な触手が伸びる。
同時に、クジラの亡骸が大きく口を開けた。
そこから、無数の歯が生えた巨大な口が現れる。
真っ先に狙われたのは、ヒィロだった。
「ッ……!」
触手に殴りつけられた彼女は、身体の自由をつかの間失った。次の瞬間、巨大な牙が、ヒィロを襲う。
「まに、あえ……っ!!」
ヒィロは絶叫し、アブソリュート・ワンを発動させる。
だが、無事では済まなかった。ヒィロは腕と足の骨を折られ、遠方へ思い切り放り投げられる。
「ヒィロ!!」
美咲の声が響く中、ヒィロは鮮血を海に散らせ、ゆっくり沈んでいく。
「次は、お前だ」
ヴァイル・カバーダーの狙いが、ノリアへ向く。
貝殻で自分を挟むだろうとのノリアの読みに対し、彼女へ差し向けられたのは触手だった。貝殻はすでに、打ち砕かれている。
「くっ……」
ノリアが潰されてしまえば、幾人かが水中での行動ができなくなってしまう。
とっさに動いたのは、美咲だった。
「三光梅舟――!!」
邪道を極めた殺人剣は、殻を失った無防備な化け物を斬り裂き、つかの間ひるませる。
だがそれは、標的を自身へ変えたに過ぎなかった。
「邪魔を、するな」
筋肉の塊である触手が、美咲を強烈に殴りぬく。
「くは……ッ」
美咲の意識が、ぶつりと落ちそうになった。
(どうする)
シューヴェルトは、束の間逡巡した。味方がやられている今、援護に回るべきか。
否。
貝殻を砕かれた敵は、すでに無防備だ。そこへ追撃した美咲たちの行動は、たしかに痛手を与えている。
「――碧撃!」
シューヴェルトの攻撃がまた、化け物の身体を切り裂く。深く暗い海の中へ、どす黒い血が流れ出していく。
ヴァイル・カバーダーのダメージを見たヒイナは、眉根を寄せた。
「……この程度か、化け物……。貴様ごときが、私の船を、船員を、奪ったのか……」
そう口にして、彼女ははっと、目を見開く。
今しがた自分が口にした言葉の意味を、思い出そうとするように。
その動揺を、沙耶は見逃さなかった。
クローンボイスを使い、ノーヴァの声で、ヒイナへ語りかける。
「これ以上俺たちの海を傷付けるのを、姉貴は本当に望んでいるのか?」
ヒイナの目に、わずかに光が戻った。
「違うだろ、姉貴」
「……ノーヴァ」
わたし、は。
ヒイナの唇が、わずかに震えた。
そんな彼女へ、練倒は容赦なく照準を合わせた。
「相手のブレイン狙い指揮を乱して戦いを有利に進める、実にインテリジェンス溢れる戦術であるな」
そんなドヤドヤな一言とともに、ヴァイス&ヴァーチュの一撃を放つ。
かくして、それは完全な不意打ちとなった。
「っ!」
見事に一撃を食らったヒイナは、気を失った。全身からがくりと力が抜ける。
その身体がふわりと海に投げ出されたのを、ノリアは見逃さなかった。
もし彼女の水中での行動を可能にしているのが、ヴァイル・カバーダーの加護だったとしたら、離れてしまった彼女の身は、陸上の人間と変わらない。
「すこしだけ、失礼しますの」
そう言い残し、ノリアはヒイナめがけて泳ぐ。
一方、リスェンは、ぼろぼろになった仲間たちを見て顔を歪めた。
「苦しかったですよね。今、治しますから」
大天使の祝福を使い、ヒィロと美咲を癒やす。
彼女たちは、苦しげな声を上げて目を開いた。傷は完治していないが、ひとまず一命はとりとめたようだ。
「まだ、敵が……」
動こうとする美咲を背後にかばうように、アクセルが近くへ寄った。
「削ってくれた分、必ず仕留めてみせるから」
決意とともに引き金を引いた魔砲が、ヴァイル・カバーダーの巨体を撃ち抜いていく。
それが、最後の一撃となった。
化け物の巨体は、ゆっくりと海の中へと沈んでいき、浮いてはこなかった。
●道を決めるもの
船に戻った一行を、ノーヴァたちが出迎えた。
痛々しい傷を追った面々を前に、ノーヴァが深く頭を垂れる。
重傷を負いながらも、かろうじて意識を保っている美咲が、得物を手にした。
「大丈夫か?」
「平気……。動かない的なら、問題なく斬れるよ」
美咲は、痛みに軋む身体にむち打ち、歩を進める。
その先に居るのは、気絶したヒイナだった。
「瘴緒憑きは意識が飛ぶけど。もう気絶してるなら、手間がかからなくて良い」
そう呟き、死線描画の一閃で瘴緒を切り取る。
一行の無事を確認し、どさりと、美咲は意識を失い倒れた。
入れ違いに、ヒイナが目を覚ます。
「ここは、船の上か」
ヒイナは小さく呟いた。
「もう、戻って来られないかと思った」
そう自虐するように微笑むヒイナの唇は、小さく震えている。
ヒイナは、傷ついたヒィロへゆっくりと歩み寄った。
「……君のことは、覚えてる。私を助けに来たと、叫んでたな」
ヒィロは僅かに目を開けた。
美咲同様、かなりの重傷で、すでに呼吸すら苦しげだが、意識はわずかに残っていた。
「よかった……連れ戻せたんだね」
ヒィロは、わずかに笑ってみせた。
「殺したほうが、楽だったろうに」
「そうだね。だけどそれじゃ、だれも、救われない……」
ヒィロは、にっ、と、歯を見せて笑う。
「ヒイナさん……。死んだり、しないでね。贖罪のために何ができるか、死ぬ気で考えてみてほしい。そして死ぬまでその道を歩んでほしい。きっとノーヴァさんが支えてくれるから……!」
ヒイナは、静かにヒィロの言葉を聞いていた。
その身体が、ぐらりと揺れ、倒れそうになる。
「おっと」
すかさず支えたのは、練倒だった。
「大丈夫であるか?」
「お前の一発、なかなか効いたよ。良い腕だ」
「褒め言葉として栄誉である」
ヒイナの表情には、絶望だけでない色が、滲んでいた。
「死は贖罪足り得ないと言うであるからな。先ずはしっかりと体を休め、話し合ってから今後のことを決めるであるな」
「そうだな。こんな大勢の人間が、私のために命を張ってくれたんだ。死んだ仲間のためにも、これ以上、無下にはできない」
そんなヒイナに、ノーヴァがゆっくりと、歩み寄った。
「姉貴」
ヒイナは、顔を上げた。
そして、泣きそうな笑顔を向けた。
「ただいま、ノーヴァ」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
任務は無事成功です!
大変な依頼でしたが、無事やりきってくださったイレギュラーズの皆さまに拍手を!
GMコメント
いよいよ最終戦!
ダガヌ神の野望を打ち砕き、シレンツィオの平和を取り戻しましょう。
今回のシナリオは、以下の2点が特殊です。
必ずご確認ください。
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●特殊ルール『竜宮の波紋・応急』
この海域ではマール・ディーネーの力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。
●特殊ドロップ『竜宮幣』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru
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●フィールド:インス島・海底神殿攻略作戦
ダガヌ海域に存在するインス島、その海底に存在する『ダガヌの海底神殿』が今回の戦地です。
ダガヌ海底神殿は、海底火山内部に作られたダガヌが封印された聖域と、その一帯になります。
エリア内は、海底火山のため非常に熱くなっています。
特に、【有害な海藻がその熱により毒性を増しており】辺り一帯に毒を撒き散らしています。
無策で挑んでは無駄に命を削ってしまう可能性がありますので、十分留意していきましょう。
●目的:ダガヌ海底神殿の制圧
▼目標
メイン:『深怪魔』ヴァイル・カバーダーの討伐
サブ:操られているヒイナの救出、もしくは殺害
●敵
:『深怪魔』ヴァイル・カバーダー
クジラの亡骸に寄生した貝の化け物が海域に現れています。
触手を振り回す、牙で噛み付く、毒を撒き散らすなどの攻撃行動が確認されています。
ガードが硬いので、まずは貝殻を破壊するなどの方策を練りましょう。
●敵?
:ヒイナ
深怪魔を導くように戦法を立て、船を襲撃してくるブレーンです。
元は頼れる船乗りたちのリーダーだったのですが、『瘴緒(しょうのお・デヴシルメ)』に寄生されてしまっており、敵に力を与えてしまっています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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