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シナリオ詳細

<最後のプーロ・デセオ>ロール・ロール、エンドロール

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 むかし、むかし、あるところに……。
 結ばれぬ運命の、恋人たちがおりました。
 片方は炎の精。そしてもう片方は植物の精。
 ひとめ見つめあったときから、彼らはお互いに惹かれあっていましたが、それは呪いのような恋でした。
 愛し合えば、肉体は燃え尽き枯れ落ちてしまうだろうことは想像にかたくありません。

 でも、そんな悲劇は、だれものぞんでいないでしょう?

 彼女は――魔種インパーチェンスは魔法をかけた。運命の赤い糸を繰って、二人を結びつけてやった。
 愛し合う者同士は、結ばれてしかるべきである。
 ひと時の恋。ひと時だけ。与えたのは、ほんの少しの防護点……。

「好き、嫌い、好き、嫌い、好き、好き、好き――ほら、これでみんな「だいすき」ですよ?」

 たとえ、いばらのトゲが皮膚を咲いて、激しい炎に身が燃け尽くしてしまったとしても、幸福だったと彼らはいうだろう。

 そして、リコが生まれたのです。

「おとーさん、おかーさん?」
 リコの意識はとぎれとぎれ。生まれて初めて見たのは赤い炎。自分が泣き出すと、周りが燃え上がって灰になる。それから疲れて眠りについて――花畑にいる夢を見る。
 ずっと苦しかった。しゃくりあげるたびに喉を炎が強く焼いて。
 ずっと悲しかった。周りの人たちを傷つけてしまう存在でしかなかった。
 ずっとずっと、怖かった。
 けれど、もう熱くはない。

「……オレ達が来たからにはもう大丈夫だ。お前みたいに小さい子供が一人で、辛かったな」
 エドワード・S・アリゼ(p3p009403)はリコをまっすぐに見て、リコに手を差し伸べてくれた。自分のせいじゃないって言ってくれた。信じてくれた。
 だから、リコは、少しだけ、ほんのすこしだけ、だいじょうぶになった。
「帰る場所がないなら私とフルールちゃんの所へおいで。
仲良く一緒に暮らしましょう?」
 ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)は、優しくリコに手を差し伸べてくれたひと。甘やかですてきな女の子。リコのために、リコのために……。
「私と、ルミエールおねーさんが一緒なら、きっと寂しくないでしょう」
 フルール プリュニエ(p3p002501)……。おかーさん。
 やさしく、炎をまとってリコにおてほんをみせてくれた。だから、リコは炎を少し理解する。熱く燃え盛る炎、きれいな炎。じぶんのことは愛せないけれど、鏡に映してみればあこがれがあった。それを少しだけ、じぶんにわけてあげるだけ。
(おかーさん。おかーさん……)
 リコは、誰も傷つけたくないのだ。
 ずっと一緒にいてくれると言った。
 柔らかな花畑の上で、すっかり遊び疲れたリコは、木陰に身を横たえて眠りにつこうとする。
(もう、いいんだ)
「リコ、どうしましたか?」
 あれほどに、やさしかったルミエールの姿は別のものにと変わる。魔種、インパ―チェンスのすがたに。
「戻ってしまったのですね。出会いと別れは表裏一体。さあ、はじめからやり直しましょう」
 いやだ、とリコは思った。リコはもう眠りたいのだ。おかーさんに身を任せて、柔らかく抱きしめられて眠りたい。
『もう、リコ、燃えられない……』
「もう一度やり直して?」
 終わりはない。
 終われない。
 終われないの。
「永遠に、永遠に――永遠にここで暮らしましょう?
リコ、いいことを教えてあげますね。
この海底神殿の、歪みを感じられるでしょうか?」
 ぐにゃりと、風景がゆがんだ。花畑は燃え尽きる火山にかわり、あふれだした熱気が風景をねじまげる。
「それから、ね。ここでは『自分の見たいものなら、何だって見れるんですよ』」
 まあ、幻影なのですけれど、と、インパ―チェンスは言った。

●胎動
 海の底。
 絶え間なく、小刻みに、地面が震えていた。
 割れた大地からはぬかるみをもった泥が、呼吸のように吐きだされていた。針で刺したように、小さな泡が、いくつも浮かび上がって海上へと向かっていく。泳いでいく。
 卵の腐ったようなにおい。
 シレンツィオリゾートを「地上の楽園」と一体だれが呼びあらわしただろう?
 欲望は、地の底に沈み、淀み、目覚めの時を待っていた。
 
 人の欲望は果てしない。ゆえに、悪神ダガン=ダガヌは飢えることはない。竜宮の乙姫、メーア・ディーネーを手に入れたダガヌは、いよいよ海底火山から目覚めようとしている。

――火山地帯のはずだった、しかし、そこは突然の花畑と変わる。
『あのね、』と、リコは……少女は言った。
『悪いことして、たくさん燃やして、ごめんなさい。リコ、ちょっとだけ遊んでほしいだけなの』
――空間は歪み、恐ろしいマグマの枯れた光景に代わる。
『あははははは!!! あはははは!!! ぜんぶ、燃えちゃえ、燃えちゃえ』
 狂気に満ちた魔種がいる。それからまた、光景は変わる。平穏無事な花畑。このままずっとこの風景がそのままだったらいいのにな、とリコは思った。
 けれどもそれは無理だと知ってしまったから。
『あのね、リコ、自分でも、どうしたらいいかわからないの。あっちのリコを、止めてほしいの』
 もうリコは痛くないから……。と、少女は言う。
 このリコは、もしかしたら助けてやれるという欲望の現れなのかもしれない。消えてしまう幻なのかもしれない。
 けれども、たしかにそこにあった。

GMコメント

●目標
・魔種『紅い花の』リコの討伐

●場所
インス島・ダガヌ海底神殿
 海底火山内部に作られたダガヌが封印された聖域です。ダガヌの神力により、時空が歪んでいます。欲望を喚起する幻影が報告されています。
 二つの気配が移ろっています。

・花畑――
 平穏無事な花畑です。リコは穏当です。不器用に手当てをしてくれます。自身に対しての攻撃には苦しんでいる様子はありません。傷つけてしまっている方が怖いようです。
 本音を言えば、こっちのときはちょっとだけ平和に遊びたいようですが。
『おかーさん、ごめんなさい。いたいのいたいのごめんね』
『リコ、いたくないよ、ずっと一緒にいていいよって言われたから、あっちのリコは別のリコなの』
 こちらのリコになれるのは、わずかな間です。時間を伸ばすことはできるかもしれませんが、いずれにせよ、力尽きて凶暴化します。

・煉獄――
『紅い花の』リコです。リコは凶暴化しています。すべてを燃やし尽くす勢いで襲い掛かってきます。
『……燃えちゃえ』

●討伐対象
『紅い花の』リコ
前回の活躍で、「魔種」と断定されました。
見た目は迷子かのようにも思えるほどの子どもです。
高いEXFを持ちます。花畑と煉獄を移ろうようです。また、【業炎】【足止】といったBSを持っているようです。
【獄炎蝶】:広範囲の神秘攻撃。判明した能力。
【リコにかまわないで!】:カウンター能力を持つと推定されます。

リコは魔種と断定されました。
魔種が人に戻れた事例はありません。

海底リリー×20
煉獄のときにのみに咲く花です。
あざけ笑うような声を出しながら、熱く、毒性のある液体を吐きます。
花畑のときはただのユリとなっています。

●その他
インパ―チェンスはこの場にはいません。

●特殊ルール『竜宮の波紋・応急』
 この海域ではマール・ディーネーの力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。

  • <最後のプーロ・デセオ>ロール・ロール、エンドロール完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年11月03日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)
永遠の少女
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
エドワード・S・アリゼ(p3p009403)
太陽の少年
ファニー(p3p010255)

リプレイ

●揺れる花畑。酸素を吐いて、
「おっす、リコ、この間ぶりだな〜」
『ドキドキの躍動』エドワード・S・アリゼ(p3p009403)に、リコは飛び跳ねて駆けていった。
「リコ、リコ。また会えましたね」
『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は少しだけ息を呑んで、それから、言葉を飲み干した。
 細い指先でリコの髪をそっと払い、耳にかけてやる。
「お花畑、素敵ですね。これがリコの心象なのですね。可愛らしいお花の原」
『きれい? ちゃんと、きれいかなあ……ええとね、あのね……』
「……。そうですね、一緒に遊びましょうか。花を摘んで、冠を作りましょう。輪っかを作って、首に飾りましょう。それから、手、足。リコにいっぱいのお花を」
「可愛い可愛い、私達のリコ。
寂しくて哀しい、愛しい貴女」
『永遠の少女』ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)はリコを抱きしめ、頭を撫でる。
「こんなところで一人にしてしまってごめんなさい。もう、大丈夫ですよ。私とルミエールおねーさんと一緒にいきましょうね」
『いっしょ、に……いっしょに、いてくれるの?』
「大丈夫、もう一人にはさせません」

「……奇跡が起こるかどうかなんて分からねぇけど、「めでたしめでたし」で物語を終えられたらいいよな」
『スケルトンの』ファニー(p3p010255)と『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は、ただ見ているだけだ。
 駆け寄ってきたリコが、ファニーと縁に花をよこす。
 今なら不意を突くこともできたかもしれないが、イレギュラーズたちはそれを選ばなかった。
 敵の位置、リコの位置。すべてに警戒を行いながら……まだ動かない。
『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は、静かにこの世界を観測する。
「ハッピーエンドだろうとそうでなかろうと、俺様は物語を愛しているし、この物語だって愛するつもりでいるけどよ」
 ファニーは言って、花畑に寝転がった。
「魔種が人間に戻れた事例は存在しない、か。確かにその通りなのよね」
『決死行の立役者』ルチア・アフラニア(p3p006865)は黒革張りのコデックスを引いた。
……例外はない。
「そう、ですね」
『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)は、静かに瞑目した。
 こんな状況でも、ルチアは目の前の出来事から目を逸らそうとしない。逃げたりもしない。向き合って、そして、決意を秘めてここにいる。
 ならば、鏡禍もまた隣で、ふさわしくあろうと思うのだ。
「そこに在るだけで世界の滅びが近づく存在だと考えると、「花畑」は奇跡のようなものなのでしょうね」

●揺れる花畑。酸素を吐いて、
 世界は、ねじ曲がる。
 もう保てない。
「お花畑はこんなに楽しいけれど、リコの心象はこればかりではないのでしょう?」
 フルールは優しく言った。リコは涙を浮かべて頷いた。
 完璧にしつらえられた幸福は、ゆっくりと姿を変えていく。
 パチパチと炎が巡り、花畑は灰に変わっていく。
「貴女が魔種だと分かった以上、眠らせてあげるべきなのでしょう。
貴女を置いて遠くへ行ったりはしないと、そう約束したのにね」
 ルミエールの声は震えていた。
 子供の泣き声ほどいやなものはない……。
「……魔種とはいえ、こんな小さな嬢ちゃんを手に掛けなきゃならんとは、つくづくイレギュラーズってのは嫌な役回りだ」
 縁は、強く武器を握りしめた。
「……あいつが魔種なのかなってのは、なんとなく分かってた。
けど、そんなこと初めからどうでもよかったんだ」
 エドワードは聖骸闘衣を纏い、まっすぐにその身を炎の中に投じていく。
 炎を振り払い、前を向いて。
「オレはリコとの約束を守る。
例えば、みんながあいつを諦めたって。
世界があいつを諦めたって。
オレがあいつを諦めねぇ!」
 エドワードの燃えるような赤毛が炎にきらめいた。
 相手が魔種であってもなお、それでも、彼らはあきらめないらしい。
 その身を賭して、リコを救いたいというのである。
「そうね。過去に事例は無い、ってだけで不可能に挑戦する事を諦めるなら
人は空を飛ぶ事も無いし、星に手を伸ばす事も無く、つまらない世界になっていたでしょうね」
 イナリはそっと虚空に手をかざし、木製の小刀を取り出した。
「応援はさせてもらうわよ」
 この物語に、タイトルを。願わくは、望みの終焉を。
 ファニーは指を鳴らす。一番星が、けたたましく鳴く不躾なリリーを黙らせる。
 鏡禍の不可視の一撃は、揺れる水のようにリリーを突き破る。
 彼らは見ていた。目をそらさなかった。
 ほんのすこし、静謐をたたえ、炎が消えていく……。
「こい、オレはにげたりしない!」
 エドワードは立って、叫んだ。
「リコ、大丈夫だ。待ってろよ!」

「まとめていこう。時間が必要だろ?」
 縁の『ワダツミ』が何かを斬った。
 見えない何かの流れ。
 ぶつかったのは決して見える急所ではないはずであるのに、それでもリリーから致命的な何かが失われ、花が枯れる。潮が引くように次々とリリーはしなびていった。
「だがまぁ、お前さんは恵まれてると思うぜ、紅い花の嬢ちゃん。
なんせこれだけの連中が、お前さんの奇跡を掴み取るために命を賭けようとしてるんだから」
『~♪』
 紅い花のリコは狂気のままに嗤った。
 お嬢ちゃんが苦しくないなら、いいだろうなあ、と縁は自身で炎を浴びながらも思う。
 自分の痛みは耐える術を覚えた。
「だめよ」
 燃えさかるリコに、ルミエールは人差し指を向ける。唇を塞ぐように、静寂を届ける。
 おまじないを込めて、優しい封印を。
 魔法使いのムスメは、願うことだって祈ることだってやめたりできない。
「この煉獄は貴女の為のものなのでしょう。
誰も彼もが憎らしい? いいえ、憎らしいのは貴女自身。
ただ愛し愛されたかっただけの、誰も傷付けたくない貴女」
 紅い花に言葉は届かない。しかし『リコ』は聞いているのだろう。彼女の目からは涙があふれた。
「それでも傷付けずにはいられない。
そんな自分が誰より憎くて、燃え尽きたくて仕方ない。
貴女は私に、よく似ているわ」
――同じだ。
 ルミエールは手を差し伸ばして、茨に身を浸す。
 傷ついたって、傷つけたって構わない。
 赦しがある。約束があった。
「息を止めないで」
 ルチアの凜とした声があたりに響き渡った。
「どれだけ現実離れした場所でも、海底は海底。大丈夫、息を止めないで」
 海の星なる聖母を賛美する歌が、あたりに満ちていく。
 より効率的に、より緻密に……すぐ側まで迫っていたイナリは異様な姿勢から斬を繰り出した。一撃目は囮。なぜならば、木製の小刀はペアでこそ一つ、だ。
「奇跡を起こすなら、こんなところで足止めされている場合じゃないわね?」

●平穏――
 津波のように、場面は移り変わっている。
 さっきまでの喧噪が嘘のように引いている。
 リコがファニーに絆創膏を貼ろうとして……そして首をかしげる。
「大丈夫だって、ま。ありがとな」
 縁を、心配そうにリコが見上げる。
「ああ。ちょっとぼーっとしてただけさ。気にせず遊んでな。おっさん、見ての通り歳なんでなぁ。若いやつらに混じって遊べるほど体力がねぇのさ」
 縁はやけどの跡を隠しながら言った――それにしたってすぐに治る。この子が苦しむよりは、よっぽどいい。
(……やれやれ、本当なら老い先短い俺の方が言われる台詞だろうに、とんだ皮肉だ)
 去って行く彼女を見送りながら、縁は目を細めた。
「僕は大丈夫です。痛いのも慣れてますし、何よりもどんな事されようが死にませんから」
 鏡禍に、リコはようやく笑ったのだった。
 いたいのいたいの、とんでいけ、と。

「一緒に遊びましょう、リコ」
 もういいのよ、と、ルミエールはおまじないを外す。
(これがなかったら、リコはたくさん傷つけて、悲しくて、遊べなくなってしまうものね?)
 でも、本当はそんなことはしたくはなかったのよ。
 頭を撫でて、抱きしめて、膝に乗せて、物語を聞かせる。
 自由な鯨の物語。
 ルミエールが話したのは、美しく、愛に溢れた白い鯨の物語。
 空を飛ぶ白鯨。ここでなら、夢の世界でなら、誰もが自由だ……。
(少しなら、いいわよね)
 ルチアがかすかに祈りを届け、雨を降らせる。空に虹をかける。
 虹を鯨がくぐっていく。
『わあ……』
「白鯨は空を飛び、母なる愛で全てを見守るの
誰もが皆、愛おしいのよ。勿論、リコ。貴女のことも」
「このままだったら、よかったのだけれどもね」
 戦いに備える必要がある。この世界はもうすぐ戦場に変わる。
「……前方に二つ、後方に三つ」
「こっちにも三匹はいるな」
「やっかいなものね」
 ルチアとイナリ、それから縁がユリの花を探し当てていた。リコが何をしているのか聞くと、花を探していたの、と答えるだけだ。
 なら、リコも探すね、と、少女は花畑に潜っていって……。
 この光景はきっと長く続かない。でも、今は、今だけは――。
「……眩しくて仕方ねぇや」
 縁は、自嘲するように笑った。昔、その可能性を――自ら投げ捨てたことがあった。

 子犬のように駆け回って、はしゃぎまわって、すべてを忘れてリコは遊んだ。
 追いかけっこをしよう、とエドワードの後を追いかけて、転びそうになって、それでもちっとも痛くない。
「つかまえたっ!」
 エドワードは加減してくれていて、リコでもすぐに追いつくことができる。
「リコ、あの後は傍に居てやれなくてすまなかったな。
今日はさ、お前との約束を守りに来たんだ。
お前のお父さんとお母さんに合わせてやるって言ったろ?」
 エドワードは、語る。
 可能性があると……できるかもしれないと。
 エドワードは希望を持たせてくれる。
 希望があるから、リコは――自分を保っていられた。
「確率はたぶん、すっげー低いかもしんねー。
けどオレは、リコ。
お前と一緒ならもしかしたら出来るかもって思ってんだ。
リコ。お前もオレのこと、信じてくれるか?」
 リコは怖い。
「手ぇ握ってくれ。2人で心をひとつにして、きっと奇跡を起こしてやろーぜ」
(リコが、お願いしても、いいのかな)
――いいのよ?
 哄笑が響き渡った。
 紅い花が咲いた。
――そうして、みんな、破滅するんです。きっと。
 魔種へと引き込もうとする、インパーチェンスの呪い。
 リコの手が不意に炎を纏うが、燃え上がる手のひらをためらいもなくエドワードは握る。

●炎の果てに、灰の果てに
 混沌に揺蕩う根源的な力を呼び寄せ、ルチアは一気に魔物を狙った。リコの一手も、また、泥にまみれる。
「煉獄。それは罪人を焼く、浄化の焔。……うん、綺麗ね。煉獄だからって、これもリコの一面。光と闇は表裏一体、愛と憎悪も然り。なら、この苛烈な焔もリコの一側面なのでしょう。私はそれがあるからと、嫌いになったりはしませんよ」
 フルールは、リコに向き合って言うのだ。
「だって、ほら。花にまみれた私も。精霊天花で焔に変じ、苛烈を纏います。私もリコも同じ」
 上回る炎が、手本を見せるように立ち上る。こうですよ、と、鳥が飛ぶことを教えるように、フルールは炎を纏って、装いを教えてやるのだ。
――自分のことは許せなくても、鏡に映せた他人は愛せる。その人が好きだと言ってくれるなら、自分も好きだと言える。
「死ねないもんさ、なかなかな」
 縁の一撃が、おぞましく変化した花の首を落とした。
「また、内緒のおまじないね、リコ」
 ルミエールは優しく目を合わせ、しー、と、声を潜めるように言った。
 アッシュトゥアッシュ。灰は灰に。美しくまばゆい閃光があたりを照らして……。潮騒のヴェンタータが、海の音を奏でる。
「こっちだ、リコ、大丈夫!」
 エドワードは両手を広げ、なおもリリーに立ち向かう。
「大丈夫だから、頑張れ!」
『あらあら。花畑は、もう、さっきのでおしまい。リコは笑いませんよ』
 紅い花は、まるで他人事のように告げる。
「そうはいくかってんだ。誰が覚えていなくたって、夢はあったっていいだろう?」
 ファニーのおまじないが、少しばかりの時間を稼ぐ。
 キラキラと輝く魔力が、弾幕となり降り注ぐ。無数の星のようだった。
(エドワードが、”やりたいこと”があるっていうから、な)
「大丈夫、これぐらいの傷なら彼女が癒してくれますから」
 リコに告げたとおり、鏡禍は割れない――宣言の通り、ルチアの力によって、天上のエンテレケイアが下ろされる。そして鏡禍は、立ち続ける。盾として、仲間の前に立ち続けるのだ。
「……」
 本音を言えば、やはり、ルチアの様子が気になった。けれども今はやるべきことをやるだけだと鏡禍は自分に言い聞かせる。
 今は、リコと相対するフルールとルミエールに時間を。
「海賊船の上で会った時、あなたは戦いを怖がっているようだった
本当は戦いもなく会えたらよかったのでしょうね」
 揺らぐ炎の向こうで、確かに頷いた少女が見えた。
(彼女が安らぐための天啓が下りてきたらいいのですけどね)
 でも、魔種になってしまっている以上は……。
「だからせめて、花畑では安らげますように」
 そうはさせないとでもいうように、リリーが噛みつくように吠えている。
「邪魔です」
 フルールのくぐらせる紅蓮穿凰が、辺りを薙いでいくのだった。
「ほら、リコも一緒にやってごらんなさい?」
 リコは弱っている。
 魔種に蝕まれている。
 紅い花の前に、イナリは瞬間的に現れる。移動が早いのではなく、消えて現れているかのようだった。三次元座標を計算し、不可思議な軌道を描いて、イナリは走る。
(一)
 二。
  それから、三。
 三つ、数を数えれば、敵の殲滅は成されている。
 紅い花の炎の勢いが弱くなる。
「おあいにく様、見えているわ」
 死角を狙ったリリーの一撃を、防御術式が跳ね飛ばす。避けなかったのではない。避ける必要がなかったのだ。
「まだ、終わらせたりしない」
 縁のワダツミの一撃で、リリーは枯れる。

●ぐるぐると、巡る
 めまぐるしく光景は入れ替わった。
「リコ、リコ!」
 花畑が時折姿を覗かせる。
 がんばれと、エドワードが叫んだ。魔種であるはずの紅い花は、ピタリと動きを止める。
だいじょうぶだ、と言い聞かせる。
 まだあきらめない。
 イナリの頭が、めまぐるしく計算を始める。オーバークロックモード。無数に張り巡らせた情報の眼は、この状況を見守っている。もしかしたら引き寄せる奇跡を。あるいは非常事態に備えて。これはもしかして、世界で初めての、1ページかもしれないから。
 魂の輝き。
 パンドラの動き。
 生命の強い摩擦。
 運命のきしむ音。
 こんな状況を観察・記録・分析出来る機会はあまりない。
(応援、しているわ。本当よ?)
「ルミエールおねーさんも、私も、リコのおかーさんにはなれない?」
 フルールは、真剣な表情でリコを見つめていた。
 紅い花を、それでもリコと信じて見つめ合う。
「ずっと一緒にいたいと思うのはいけない? 魔種だから滅ぼさなきゃいけない? どうして? 魔種も人も、心を持って愛されたがっている」
 あらわになった激情が、フルールの炎を揺らした。
(同じ存在なんですよ。私はこの子を殺せない。殺したくない。本当は殺させたくないもない。だって、私の子供なのですもの)
 今のフルールは大人の女性の姿をしている。
 けれども、美しい女性の内面は、泣きじゃくるかのような少女に戻っていた。
「でも、リコも苦しいのでしょう?」
 彼女は魔種で世界の敵で、これが最善だったとしても。
(ほんの微かな光でもそこに希望があるのなら、願わずにはいられない)
 ルミエールは祈るのだった。
「どうか人であった彼女の魂だけでも救われますように!
お母さんの元へ、フルールちゃんの元へいられますように!」
 紅い花は耳を塞ぎ、苦しむかのように頭を振った。
「嗚呼、どうか。
この祈りが貴方にとって、優しいものでありますように」
 ルミエールは身をすり減らして、魂を焦がすように、祈るのだ。
「リコの気持ちを聞かせて。共に在りたいか否か。あなたは魔種だから、呼んでも良いのですよ? 私は大丈夫だから」
 手をつかんで。
――呼び声。
 この手をつかんで、行き先が煉獄だっていい。ずっと花畑で暮らしましょう。ずっと、永遠に……燃え尽きてしまって、終わりがあるというならそれでもいい。
 それでも。
(それでも、あなたは呼ばないのでしょうね……)
 フルールは涙をこぼした。
 リコは微笑んだ。
 紅い花はいなかった。
 だいじょうぶになったから。だいじょうぶだから。だから――。

●生命の輪廻
『リコ、良い子ですね? あなたは厄災の子。愛されて、実を結ぶ。どうしていけないの?』
 リコの中で、紅い花――インパーチェンスは笑った。
『いいのですよ、みいんな、みいんな、いっしょに』
 紅い花が笑った。けれども、リコは受け入れない。
『リコ、リコ、――違うでしょう? こんな、結末』
『おかーさん、おねーちゃん、おにーちゃん、ありがと。だいじょぶ、リコはもう――』
 炎がはじけ飛んだ。辺り一面が火の海に包まれる。
「リコーーーーッ!」
 エドワードが絶叫する。手をつかもうと、手を伸ばす。
(本人が覚悟を決めたのなら、見守るのも大人の役目だからな)
 ファニーは、指先の一番星を手のひらにのせる。
 誰もが願いを忘れてしまったなら、きっと、その世界はつまらないものだろう。
「そう……」
 ルチアは静かに祈りを捧げ、福音をあたりに張り巡らせる。
「ありがとよ、大丈夫だ」
 縁は素早く武器を構える。狙うのは、魔種である紅い花だけだ。
「……ゆっくり眠りな、嬢ちゃん」
 黒い大顎が、紅い花をかりとった。
「そうですね。彼女を眠らせるのにはふさわしい人がいますから」
 ジャックポット……それが、奇跡に届かないとしても、手を伸ばすことはできる。
 ファントムチェイサーが、紅い花を散らす。
「……沢山の思い出とともに、どうか安らかにお眠りなさい」
 ルチアは、小さく祈りを捧げていた。
「貴女の悪夢に終焉を」

(皆が幸せになれないのは誰の所為?)
 ルミエールは息を止める。
(それは悪い魔女の所為! 物語を愛する魔女の所為!
無力で我儘で、叶うことない永遠の夢を見続けるだけの私の所為!)
 ルミエールは涙を流していた。
(貴女には何の罪もない! だからもう自分を責めないで
助けてあげられなくてごめんなさい)
 誰かの幸福の裏で必ず誰かが不幸に堕ちる。
 最初から、完璧なハッピーエンドなんてどこにもないとしっていた。
(私はそれを識っていた)
「それでも本当に、愛しているの……。
ずっとずっと、愛しているわ……」
 燃える炎に包まれるリコは、ルミエールの頭を撫でるようにそっと手を伸ばした。
 リコに呪いをかけた紅い花が叫ぶ。けれども最後に立っていたのは、リコだった。単なる少女のリコだった。
「だめ……」
 フルールの焔がリコの魂に寄り添った。……助けられるなら、どんな形でも良かった。
(それでもこの子を本当に殺せない、殺せないの)

 リコはもういない。
 何もかもいなくなったかのように波が引いて、あたりは元通りになって。
 奇跡は起こらなかったかに思える。
 けれど、手のひらには小さな花が握られていた。

成否

成功

MVP

ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)
永遠の少女

状態異常

フルール プリュニエ(p3p002501)[重傷]
夢語る李花
ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)[重傷]
永遠の少女
エドワード・S・アリゼ(p3p009403)[重傷]
太陽の少年

あとがき

イレギュラーズたちの努力により、最期に残っていたのは、紅い花ではなくリコでした。

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