シナリオ詳細
<総軍鏖殺>芋を煮るのに良い季節。或いは、腹が空いては戦もできぬ…。
オープニング
●飢えを満たせ、芋を煮ろ
「俺の治世(ルール)は簡単だ。この国の警察機構を全て解体する。奪おうと、殺そうと、これからはてめぇ等の自由だぜ」
新皇帝バルナバスの放った勅令が、鉄帝全土を騒乱の渦へ叩き込む。
そんな中、帝都スチールグラードにおいて独自の法を、己が力で貫き通す者たちがいた。
名をラド・バウ独立区。
武勇に秀でた闘士たちを有する独立組織であり、また民衆からの支持も厚い。
何かあっても、闘士たちが守ってくれる。
そんな希望に魅せられてか、ゆっくりと、けれど着実に闘技場は勢力を増していったのだった。
人が増えれば、問題も増える。
その最たるものは、衛生管理と食糧管理の2点であろう。
『というわけで、芋を仕入れて来ましたよー! え? 私? 私はアレです。流れの配信者、エントマ・ヴィーヴィーって言います』
そう言ったのは、八重歯の目立つ眼鏡の女だ。
手にしたハンドマイクで拡大した声が、避難民たちの居住区に響き渡る。
女……エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)の背後には、その辺で捕まえて来たイレギュラーズたちの手により、幾つもの木箱が積み上げられた。
「あ、普段は調理風景は撮影させてもらいますけど、皆さんのプライバシーには配慮して顔はぼかしておくんで安心してね。それに、国がこんな風だからね、すぐには配信に乗せたりしないよ」
声を潜めて断わりを入れる。
配信者には配信者のルールやマナーがあるのである。
撮影対象に許可を取るのもその一つ。これを忘れては、炎上という悲しい結果が待っている。
……時々、忘れてしまうけど。
「芋……たって。それ、全部か? 芋以外の食糧もあるのか?」
避難していた住人の1人が、おそるおそると言った様子でそう問うた。
エントマは、にぃと口角を上げて笑うと木箱の1つの蓋を開ける。
中に詰まっていたのは“里芋”と呼ばれる種類の芋だった。ごろごろと、箱一杯に詰まったそれは大きさが均一ではない。きっと出荷ラインに乗せられなかったものを安く買い集めて来たのだろう。
「芋以外? 無いが? 芋しかないが?」
何故なら芋が安かったから。
「でも、大鍋は見つけて来たから。流石はラド・バウ。闘士たちのお腹を満たすには、お上品なフルコースなんて作ってらんないってことなのかな?」
ガラガラと運ばれてくるのは2つの大鍋。
人の2人か3人ぐらいは、丸ごと茹でられそうなサイズだ。
「さぁ、諸君! 悲劇の渦中に巻き込まれ、腹を空かせた犠牲者諸君! 芋を煮よう! 知恵を出せ、互いに力をより合わせ、心を込めて芋を煮よう!」
●エントマの裏事情
「予算ってのがあるわけよ。そして、それは芋を買うので全部が尽きた」
だらん、と両手を顔の前でプラプラさせる“オケラ”のポーズ。
困った顔をしたエントマは、はぁ、とわざとらしい溜め息を零した。
「幸い、調味料はあるね。でも、肉とか野菜が見当たらない。いや、もちろん備蓄はあるけれど、これだけの人数のお腹を満たすには、圧倒的に量が足りない」
量が足りないのなら、どうすればいい?
限りのある予算内で、可能な限りの肉と野菜を手に入れるにはどうすればいい?
思案を巡らせたエントマは、1つの答えに辿り着く。
「つまり、狩人を雇っての現地調達。狩人と、そして弾丸役は君たちってわけだ」
瞳を細め、悪戯っぽい猫のような笑みを浮かべた。
それからエントマは、ラド・バウ周辺の地図を取り出す。
「まずは表通りの倉庫。どこかしらの軍人が見張りを立てているみたいだけど、ここは元々、避難している人たちのものだよね?」
倉庫の中には干し肉や野菜、穀物などが備蓄されている。
そこまでは、容易に調べがついた。
自分たちの物を、取り返しに行くだけだ。それは断じて罪ではないし、悪でもない。
倉庫へカチコミをかけて、食材を奪って来ようというわけである。
「見張りの軍人は全部で10人。人狩りでもしているつもりなのかな。【廃滅】【麻痺】【不調】【足止】を付与するボウガンを武器として携えているよ」
万が一、ボウガンの矢が食材に当たれば、その食材は食べられなくなってしまう。
食材の安全性は確保しなければならないし、食材を無駄にするのも良くない。
「肉と野菜を最低でも3箱ずつ。1人でも抱えられる程度の大きさだけど、抱えている間は戦闘行為を行えなくなると思うから注意してね」
肉を奪え。
野菜を奪え。
そして鍋で芋を煮ろ。
それが今回の依頼である。
「あ、住人の皆が生のまま里芋を食べちゃわないように、そっちにも気を配ってね。下準備も依頼の内ってことで……どうか、1つ」
- <総軍鏖殺>芋を煮るのに良い季節。或いは、腹が空いては戦もできぬ…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年10月26日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●芋の誘い
火にかけられた大鍋が2つ。
木箱を足場に小柄な魔女が、木べらで中身を掻き回す。魔女に鍋と言えば、煮込むのは毒草やキノコや黒く焼いたヤモリと相場が決まっているが、今回ばかりは話が違う。
『瀉血する灼血の魔女』ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)が作っているのは、鍋いっぱいのコンソメスープだ。
「濃すぎず、しかして味気ないとはならないよう……パセリもさらり、体を温める為に、隠し味程度のショウガも入れて……ふふ」
蒼白な顔に薄笑みを浮かべて鍋に具材を入れる姿は、まさに絵本の魔女さながら。しかし、空腹の避難民たちにとっては“誰が作っているか”より“何を作っているのか”の方が重要だ。
コンソメの香りが腹の虫に活力を与えた。
久しぶりに、しっかりと味の付いた食べ物を胃に入れられる。
1人、2人と鍋の前に集まって来る人の群れ。一重、二重と鍋を囲む住人たちを『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)が押しとどめた。
「おっと、待てよ。勝手に食うんじゃねえ。そっちの芋も駄目だ」
鋭い眼光に射すくめられて、避難民たちが足を止めた。
しかし、視線だけは大鍋やその近くに山と積まれた里芋の箱に向いている。
義弘はひとつ溜め息を吐いて、ルトヴィリアの方を指し示す。
「もうじきコンソメスープができる。食糧も、すぐに腹いっぱい食えるだけ持って来てやるよ」
飢えて、渇くとひどいことになる。
知っていても、やはり直接目にすると、腹の底に澱が溜まった。
笑ったのはいつぶりだろう。
コンソメスープの濃い味わいが、舌のうえに広がった。
一心不乱にスープを啜って、耐え切れなくて涙を零す。誰も彼もが似た有様だ。
「なぁ、もう1杯……もらえないか?」
痩せた男が、ルトヴィリアへとそう言った。
飢えて、骨と皮だけになった体には幾つもの細かい傷が残っている。男の後ろには、妻らしき女性と、2人の子供の姿がある。
「俺はいいんだ。でも、妻と子供たちにだけでも、もう少し食わせてやれないか?」
「足りない? ふふ、だぁめ。お腹いっぱいにしたら、本番が食べられないでしょう?」
コップ1杯のコンソメスープを、4杯だけ男に手渡した。
男はそれを、子供と妻へと飲ませている。
「さあ、お腹が少し膨れたら、お手伝いをお願いできますか?」
避難民たちに少しのスープを飲ませたら、芋煮会の準備を進めなければいけない。
それが済んだら、いよいよ食糧の調達だ。
「なに──本番の仕入れに時間はかけませんから」
スープはあくまで前菜だ。
メインディッシュを仕上げなければ、この場に来た意味が無い。
「それじゃあ、行ってらっしゃい! 鍋の見張りは任せといてねっ!」
エントマの大きな声に見送られ、イレギュラーズは闘技場を後にした。
荒れた街路を馬車が行く。
馬車の御者台に座るのは小柄な女だ。
「芋煮。その味付けの違いで戦争が起き得るという程、人心に根差した食べ物ですわね。然しそれ以前に調理自体を邪魔しようとは、無粋な輩もいるようで」
『悦楽種』メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)の呟きに、『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)が言葉を返す。
「お芋、里芋。小さくて柔らかくて、この時期のスープとかによく合うのですよね。煮込み料理とかも私は好きですよ」
ゴトゴトと進む馬車の向かう先にあるのは、軍人崩れの人狩りたちに占拠された食糧倉庫だ。ラド・バウからほど近い場所にありながら、毒物を扱う軍人たちの妨害もあり、肉や野菜や穀物が大量に置き去りになっている。
「食糧倉庫に戻したり……仮設の居住区にしたり……そういうの、出来たらいいよね」
もう1台、木馬が並んだ。
『玉響』レイン・レイン(p3p010586)がどこかぼんやりした調子で言った。妖精木馬の軌跡には、キラキラと淡い燐光が舞う。
一瞬、『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)は燐光を横目で一瞥し、腰の刀へと手をかけた。
「行こう。不心得者をブチのめす、民を飢えから救う。どちらもこなしてこそのイレギュラーズだ」
風が吹いた。
埃と硝煙の匂いを運ぶ冷たい風だ。
「芋煮……成程、聞いた事がある。即ち、戦争であると」
醤油か、味噌か。
芋煮に端を発する諍いの原因はそれだ。
「アーマデルと芋煮会か。楽しみだな……準備はいいか? アーマデル」
「あぁ、いつでも構わない」
「では、合いの手部分は頼んだぞ」
「!? あ、合いの手……?」
肩を並べて街路の中央を行く男が2人。『残秋』冬越 弾正(p3p007105)と『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)だ。
弾正の手には1本のマイク。
すぅ、と息を吸い込む彼を、倉庫の影から軍人たちが監視していた。
●食糧庫襲撃
「ハロー弾正こんにちは♪」
マイクを片手に、声をあげる男がいた。
弾正だ。
「……焼きたてのポップコーンはいかが?」
か細い声でアーマデルが合いの手を入れる。
「弾正は皆の人気者~♪」
「や、焼きたてのポップコーンはいかが!!」
弾正はノリに乗っていて、アーマデルはやけくそだった。
片手にマイク、片手はピースで、額の前にキラッ☆と翳す。
「我が名は冬越弾正。身長りんご15個分、体重りんご276個分の男の子!」
御年36歳、成人男性の姿である。
10の矢が降り注ぐ。
片手に銃剣、片手に蛇腹の剣を持ちアーマデルが疾走した。
肩を背を矢が掠めて、肉を裂く。
「さあ、パレード……もといカーニバルの始まりだ」
煌々とアーマデルの姿が輝く。
7色の閃光を身に纏い、弾正は地面を蛇のように駆け抜けた。
軍人の数は10。しかし、得物はボウガンだ。数本は矢をストックできるが、決して連射に向いた武器とは言えないだろう。
「焼きたての!」
銃声。
軍人が身を潜めている家屋の壁が砕け散る。
「ポップコーンは!」
剣を一閃。
バリケードにしていた木箱が砕け散る。
「いかがッ!」
蛇腹の剣が空を裂く。
ボウガンの矢がアーマデルの腹を射貫くのと、アーマデルの剣が軍人の肩を抉るのは同時だった。
鋼の蜘蛛が這っている。
矢を撃ち込まれながらも前進する弾正の勢いに押され、軍人たちは防衛線を後方へ下げた。中には建物の中や屋根の上へと避難を開始した者もいる。
「何がポップコーンだ!」
「ラド・バウにいた連中か? 構わねぇ、ハリネズミにしてやれ!」
降り注いだ矢が、光の盾を貫通し弾正の肩や背に突き刺さる。
口の端から血を零しながら、弾正は呵々と笑って見せた。
「ポップコーンはちゃんと用意してある。キャラメル味のな!」
次いで、放たれたのは歌声だった。
蜘蛛型の機械装甲により増幅された音波の砲が地面を抉り、軍人たちを打ち据える。
弾正とアーマデルに追い立てられて、軍人たちが倉庫区画から離れて行く。
そうして、すっかり倉庫が見えなくなったころ、2人はピタリと足を止めた。
それから、もう1人。
「あぁ、まんまと誘き出されたな」
刀を手にしたエーレンが、軍人たちの退路を塞ぐ。
倉庫の前に馬車が停まった。
荷台から飛び降りた義弘は、躊躇うことなく倉庫の扉を殴打した。
さすがに扉は頑丈だ。
1度だけの殴打では、多少の凹みが入る程度だ。
だが、問題ない。
1度だけで足りないのなら、2度でも3度でも殴ればいい。
「……ちっ。正常な奴も残ってやがるか」
舌打ちを零し、視線を周囲に走らせる。姿は見えないが、近くに軍人たちが潜んでいる気配があったからだ。
義弘の懸念した通り、直後、右上と左後方の2カ所から同時に矢が放たれた。
それなりに距離が離れているはずだが、流石は軍人というべきか。狙いは酷く正確で、放たれた矢は避ける間もなく義弘の背と、右上腕へ突き刺さる。
矢じりに塗られた毒が義弘の腕に激痛を走らせた。
歯を食いしばり、痛みに耐えた義弘は、4度目の殴打を倉庫の壁へと叩き込む。
「……あまり好き勝手してると、こんな風にもっと強い人から駆逐されるというのに」
次の矢が撃ち込まれるより先に、フルールが馬車の荷台で腕を振る。
放たれたのは紅蓮に燃える鳳凰だ。
火炎の軌跡を宙に描いて、優雅に、そして雄々しく舞った鳳凰が軍人の隠れていた付近へと着弾。爆風と共に業火を辺りに撒き散らす。
「っ……ちくしょう! 燃える!」
悲鳴をあげる軍人が、火炎の中から飛び出した。
ならず者のような性格をしているとはいえ、彼とて職業軍人だ。射撃のポイントは1回ごとに変えるという基礎を忠実に実践していたはずだが、今回ばかりはフルールの対応速度に先を越されたのだろう。
結果として、背中に火を着けた状態で、転がるように広い街路へ飛び出して来ざるを得なかったというわけだ。
「頭が悪いのでしょうか……可哀想」
「此度は貴方様方が狩られる側ですわ、お覚悟なさいませ♪」
姿を晒せばよい的になる。
これまで、散々、自分たちがしてきたことだ。
「や、やめっ!」
悲鳴を上げる。
唸りをあげて振り下ろされるメルトアイの太い触手が、軍人を強かに打った。
ぐしゃり、と背骨の砕ける音がしただろう。
触手に叩き潰されて、地面に倒れた軍人は、すっかり気を失っていた。
「さて……もう1人、どこかに」
触手を頭上でうねらせながら、メルトアイは視線を上げた。
義弘を撃った2本の矢……その片方は、建物の上部から放たれたものだ。
けれど、射手の姿は既にそこから消えている。
代わりに……。
「かふっ……!?」
トスと軽い音を立て、1本の矢がメルトアイの喉下に刺さる。
家屋と家屋の間の路地で、2人の男女が対峙していた。
片やボウガンを手にした軍人。
片や妖精の木馬を伴うレインである。
「目的を言え。誰に何を頼まれた!」
矢を番えたボウガンが、レインの胸に照準を定める。
面積の広い胴体部分に狙いを定めておけば、多少の横移動では矢を避けることは叶わなくなるからだ。
ふぅ、とレインは吐息を零して頭の横に両手を上げる。
それから彼女は、淡々と……何ら怯えを滲ませることもなく言葉を紡いだ。
「建物の影で……ちょこまかされると……苛立って的を外しやすくなるかも……だし」
「……つまり陽動ってわけか。まぁいい。本当は追い立てて、怖がらせてから仕留める方が好みなんだが、今はそういう余裕はないしな」
ギリ、と男の指に少し力がこもった。
トリガーを引けば、ボウガンの矢がレインの胸部を射貫くだろう。
そんな未来を理解して、けれどレインはいつも通りの調子で言った。
「……別に……いい」
レインの視線が虚空を泳ぐ。
瞬間、軍人の頭上で風を切り裂く音がした。
「っ!?」
ボウガンを構えたまま軍人は横へ身体を投げる。
しかし、遅い。
「どうも、魔女の宅急便ですよ──なんてね?」
軍人の手首を打ち据えたのは、ぬらりと怪しく光る鮮血の鞭である。
建物の窓から身を乗り出したルトヴィリアの肩には、彼女をここまで案内して来た鼠が1匹、乗っていた。
咄嗟に放ったボウガンの矢は明後日の方向へ飛んでいく。
「くそ、離……っ」
離せ、と言い切ることは出来ない。
手首を血の鞭で拘束されて、藻掻く軍人の背後から雷撃が放たれたからだ。
レインの撃った雷撃が、軍人の腹を貫いた。
黒煙を吐いて、崩れ落ちる軍人をレインはぼうと見下ろしている。
「この軍人達は……どうしようか……?」
「縛って、その辺に転がしておけばいいんじゃない?」
メルトアイの触手が建物を叩く。
衝撃で、屋根の上の軍人がずるりと足を滑らせた。
「よぉ、よくもやってくれたじゃねぇか」
落下して来る軍人の真下で、義弘はそう呟いた。
低く腰を落とし、硬く握った拳を腰の位置に構える。
面子、というものがある。
やられっぱなしではいられない性分なのである。
「あ、あぁあああ!」
軍人の悲鳴は、不自然に途切れた。
義弘の放った渾身の殴打が、腹部に突き刺さったのだ。
「適当に街中にでも放り投げておくか。倉庫を汚したくねぇからな」
気を失った軍人を、道路の端へと投げ捨てた。
骨の数本は折れているだろうし、内臓にもダメージがあるかもしれない。けれど、心臓はまだ動いている。運がよければ、きっと生き永らえるだろう。
「あの、どなたか積み込むのをお手伝いしてください」
義弘が背中に刺さった矢を引き抜いているところに、フルールがそう声をかける。
倉庫から顔だけ覗かせて、困ったような顔をしていた。
「私とクラーケンでは持てそうにないので。木箱……結構重たくて……1ミリも浮きません」
先に倉庫の前に停めた馬車は単なる囮である。
そこら辺で拾って来た、壊れかけのオンボロ馬車だ。
本命の馬車を引いてきたレインやメルトアイの指示の元、義弘たちは次々と倉庫から木箱を外に運び出す。結構な量の食糧が倉庫内に残されているが、その全てを持ち帰ることは出来ないだろう。
干し肉が3箱に野菜が3箱、穀物が2箱程度がきっと限界だ。
倉庫の方で轟音が聞こえた。
それから、仲間の悲鳴も聞こえた。
自分たちは、まんまと罠に嵌められたのだ。
軍人の1人がそれを理解する頃には、既に仲間は地に伏していた。
たった3人。
7人で襲い掛かった結果、アーマデルと弾正には大きな傷を負わせている。
怪我をした2人を後ろに下げて、男が1人、前へ出た。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。返してもらうぞ、あれは民のための食糧だ」
滑るような特異な歩法でエーレンは前進。
軍人の放ったボウガンの矢を、命中寸前でするりと避けて、一瞬で懐へと潜り込む。
黒い瞳に、ひきつった軍人の顔が映った。
エーレンは、短く空気を吐き出し刀を一閃。
「軍人でありながら人狩りに興じるなど……許し難い」
胸部を深く斬り裂かれ、軍人は意識を失った。
倒れ伏したその左右には、すっぱりと切断された男の両腕が転がっている。
●芋を煮る会
「さぁさぁ、お集まりの紳士淑女にキッズたち! 空腹か! 腹はすっかり減っているか!」
積み上げた木箱の上で、桃色髪の女が叫ぶ。
女の名はエントマ・ヴィーヴィー。愛用のハンドスピーカーを通して、彼女の大音声が闘技場に響き渡っていた。
エントマに突き刺さる視線、視線、視線、視線。数えきれないほどの注目を浴びながら、エントマは威風堂々と声を張り上げた。
「準備はいいね! それじゃあ行くよ! 芋煮会の始まりだーーーーーーーーー!!」
ダァー! と拳を空へと高くつきあげる。
割れんばかりの拍手喝采と、数十人分の歓声を合図に、芋煮会は始まった。
「空腹の中、よく俺達を信じて待っていてくれた、ありがとう! 見ての通り全員分は十分にある! 慌てずに並んで受け取ってくれ!」
刀をおたまに持ち替えて、皿に芋煮をよそうエーレンの姿があった。
「さあ、さあ、たんとお食べなさい! 魔女の宴ですよ!」
子供たちにお椀を手渡す魔女がいた。
列を整理するヤクザもいるし、触手を使って里芋を運ぶ女もいた。
「皆さんに笑顔があって、良かった」
「いいね……こういうの」
隅っこの方で肩を並べて、芋煮会を楽しむ人々を眺めているのはフルールとレインだ。
それから……。
「アーマデル。君が食べさせてくれるなら、どんな熱々の里芋でも一気に食らおう!」
「よし、弾正……あーん、だ」
2人だけの世界に浸る弾正とアーマデルもいる。
なお、7色に光り輝いており酷く注目を集めていた。
芋煮会。
その原型となったのは、古い時代の収穫祭だ。
仲間や家族と鍋を囲んで、1年を生き延びられた悦びと、自然の恵みに感謝を捧げる催しだ。
きっと、それは多くの笑顔を生んだのだろう。
例えば、今、この時のように。
古い時代から決まっているのだ。腹が減ったら悲しいし、家族や友と食事をすれば楽しいのだ。
だから、きっと……。
今日はきっと、芋を煮るのにいい日だったに違いない。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
人生で1度は芋煮会をやってみたい。そんな思いは誰にだってあるはずです。
というわけで、無事に芋煮会は成功しました。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
芋煮会を成功される
※【干し肉】【野菜】の木箱を各3つずつ、倉庫からラド・バウへと運び入れる。
●ターゲット
・人狩りに興じる軍人たち×10
軍人、或いは軍人崩れのならず者。
食糧倉庫を占有し、飢えに耐えかね近づいてきた一般人を狩っている。
【廃滅】【麻痺】【不調】【足止】を付与するボウガンを装備している。射程は長いが、連射は効かない。ボウガンが食材の入った木箱に命中すると、それは食用に適さない状態となる。
●メイン食材
・里芋
タロイモ類、サトイモ科。
山地に自生するヤマイモに対し、里で栽培されることから「里芋」と呼ばれる。
収穫時期は晩夏から秋にかけて。
●フィールド
食糧倉庫
表通りに面した大きな倉庫。
倉庫内には大量の木箱が積まれている。
木箱の種類は、干し肉、野菜、穀物の3種類。
そのうち【干し肉】と【野菜】の木箱をそれぞれ3つずつラド・バウへと運び込むことが依頼の成功条件。
倉庫からラド・バウ独立区までの距離はおよそ300メートル程度。
ラド・バウ独立区、避難民居住区。
2つの大鍋が火にかけられている。
里芋の詰まった木箱を、避難民たちが囲んでいる。飢えているのか、生のままでも里芋を喰いだしそうな勢いである。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
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