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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>威力偵察・旧軍第8工廠

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●第8工廠
 首都、スチールグラードの外れ。軍部の管轄する大敷地に、『第8工廠』と呼ばれたエリアがある。
 工廠、つまり『軍直下の軍事工場』である。先の派閥分裂のごたごたに巻き込まれて放棄されたままであったはずだが、この様な場所をならず者たちがほうっておくつもりはない。そもそも、官憲の解体こそあれど、新皇帝に従う軍部の人間は残っているわけで、そう言った元軍部とでもいうべき面々が、軍事拠点たる第8工廠をほうっておくわけも、また、なかったわけである。
 なんにしても、短期間の泥沼の戦闘の果てに――混乱直後の帝都では見飽きた光景であったけれど――その施設は、新皇帝に付き従う軍部の面々によって再制圧されていた。交渉は再稼働し、軍事工場の作業員たちもまた現場に復帰した。復帰したというか、させられた、という方が正しい。今の鉄帝は、強きものが弱者を喰らう、世界である。工場の作業員の大半は、新皇帝派の軍人よりは『弱い』。
 そう言ったわけだから、ほとんど休憩もなしに、作業員たちは働かされていた。具体的には――。
「おい、休むな」
 と、新皇帝派の軍人が叫ぶ。その視線の先には、明らかにもうろうとした意識を繋ぎとめようと、機械にもたれかかっている男の姿がある。
「待ってくれ、もう三日も休んでないんだぞ」
 別の作業員が声をあげた。
「ろくすっぽ飯も食わせてもらってないんだ。一度ちゃんとした休みをやってくれよ」
「何を言うかと思えば」 
 新皇帝はな罰の軍人は鼻で笑った。
「いいか、お前達は消耗品なんだ」
「何を……!?」
「聞こえなかったか――消耗品だ、と言った。つまり、使い捨てだ。使えるうちは、そうだな、使ってやる。が、使えなくなったなら、それは捨てるしかないだろう。当たり前だな――それで、そいつはもう、『使えなくなった』のは分かった。おい」
 軍人が声をあげると、部下だろう男が敬礼をした。目くばせすると、兵隊が二人ほどやってきて、敬礼した男と三人がかりで、機械に持たれた男を抱え込んだ。
「やめ……はなして……」
 息も絶え絶えにそういう男を無視しながら、三人は彼を引きずり出す。
「何をする気だ?」
「捨てるんだよ。ただ、そうだな、ただ捨てるだけはもったいないから、餌にでもしてやろうという話なんだ」
 軍人の男はそういうと、三人の部下に目配せする。三人は頷いて、ずるずると男を引っ張った。「やめろ」男が喘ぐように言った。「放して」。だが、三人はそれに応対もせず、ずるずると工場内を十メートルほど引っ張った。そうまですると、窓が見えた。工場は一階建てなので、窓のすぐ下に地面があって、工場の敷地が見えた。三人は「せーの」と声をあげると、男を持ち上げて、窓からほうり捨てた。どさり、という音が聞こえる。男はくぐもった声をあげたが、もう立ち上がるだけの気力もないようだった。
「おい!」
 工員の男が叫ぶが、軍人の男はめんどくさそうに一瞥しただけだった。
「まぁまて。すぐに来る。この外には、ほら、あれだ。天衝種(アンチ・ヘイヴン)の――なんだっけ、ああ、ギルバディア(狂紅熊)を放してある。見たことがあるだろう? 赤い、クマみたいな。あれだよ」
 そういうと、窓の外で、どたどたと足音が聞こえた。重い怪物が、走り回っている音だ。ひ、ひ、とか細い悲鳴がわずかに聞こえて、そのまますぐに、何ともいえない、ぐちゃぐちゃとか、バキバキした音に、掻き消えてしまった。それで、工員の男は、たった今投げ捨てられた男の末路をまざまざと頭の中に思い描いていた。
「ほら、リサイクルって奴だ。何だっけかな、旅人の世界の言葉で――SDGsとかいったか? あれだよ」
 けらけらと笑いながら、軍人が部下たちに目配せをする。バタン、と窓を閉めた。あそこから外を覗く勇気は、工員にはなかった。
「とりあえず、だ。予備の作業員はどこぞから連れてくるから、まぁお前さんも使えなくならないように、精々頑張ると良い」
 軍人は部下を伴って去っていく。工員は、やるかたない気持ちを引きずりつつ、機械パーツの製造に取り掛かった。

●工員救出・前段階
「首都の外れにある、軍事工場の威力偵察をお願いしたいんだ」
 そう、あなた達ローレット・イレギュラーズ達へと告げるのは、帝政派(バイル一派)のエージェントの男だ。
 依頼がある、と呼び出されたあなた達が帝政派の拠点へと向かってみれば、迎えてくれたのはエージェントを名乗る一人の男だ。状況を確認すれば、近々バイル一派による、軍事工廠である第8工廠への、攻撃と工員救出作戦を行うつもりらしい。
「そのために、ある程度の敵の数の把握を行いたいんだ。ついでに、ある程度数が減らせれば御の字……というわけで、まず威力偵察を行うことにした」
「なるほど、その威力偵察のメンバーが、俺たちという訳か」
 そうつげるあなたの仲間。エージェントは頷く。
「工廠には、かつての工員や、新たに連れてこられた作業員たちが無理やり働かされているらしい。出来れば救出してやりたいし、可能なら、此方の生産を手伝ってももらいたい。が、救出するにも、敵の規模が……ってこと。
 だから、工廠をちょっと突っついて、敵の兵隊や、管理職なんかを確認……可能なら、ある程度撃破しておいてほしい。
 最低でも……そうだな、合計で20人も倒せれるくらい突っついてやれば、向こうの戦力の底もしれるだろう」
「中々の数だな」
 仲間がそういうのへ、エージェントが頷く。
「だから、ローレットにお願いしてるってわけさ。あなた達なら、これくらいの無茶はきくだろう?」
 まぁ、確かにそうだ。それに、今も人々を虐げているのなら……一刻も早く、救出の助けとなりたい。
 あなたは頷く。それは、依頼受諾の意志として、エージェントに伝わった。
「よし、ならば、今夜にも動いてほしい。夜間偵察を頼むよ」
 その言葉に、イレギュラーズ達は頷く。
 かくして、第8工廠への、威力偵察作戦が幕を開けるのであった――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 工廠地帯への威力偵察を行いましょう

●成功条件
 最低20体の敵を倒し、工廠エリアから離脱する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 首都スチールグラードの外れにある、軍事工廠第8工廠への威力偵察を行います。
 威力偵察は、戦闘を行い、敵の戦力を調査するための偵察です。その為、隠密というよりは、いかに敵を素早く規定数以上倒し、敵戦力を確認し、速やかに撤退するか、が重要となります。
 皆さんは、威力偵察のために、第8工廠で戦闘を行います。敵は次々と沸いていきますが、それを迎撃し、敵の戦力総数を見極める必要があるのです。大体20体も倒すころには、敵も戦力の総数を吐き出しているはずです。20体撃破を目標とし、その後は撤退を行ってください。
 作戦決行エリアは、軍事工廠第8工廠エリア。周囲は大小の工場が並んでおり、影から敵が現れる可能性はあります。広場のような場所もあるため、戦闘をするなら、動きやすいそこにするか、或いは狭い場所で、撤退が難しくなることを覚悟で戦うか……などの選択があります。皆さんの方針によってご随意に。
 敵の指揮官クラスなどを倒しておくと、のちに奪還作戦を行う帝政派のメンバーが楽になる……かもしれません。

●エネミーデータ
 天衝種(アンチ・ヘイヴン)ギルバディア(狂紅熊)×???
  大型のクマのようなアンチ・ヘイヴンです。獰猛な性質と、強力な筋肉により、強烈な一撃と、猛進の突撃攻撃を行ってくるでしょう。
  此方ではエリア中に放し飼いにされており、ほとんど用心棒のような役目をしています。数が多い分、一体一体の戦闘能力はやや低めとこのシナリオでは判定されていますが、しかし警戒は怠らないでください。
  例えば、その鋭い爪や牙で出血させらては徐々に体力を減らされてしまいますし、突進などで飛ばされては、隊列が滅茶苦茶になってしまいます。

 新皇帝派軍人 ×???
  新皇帝派閥に属する軍人兵士たちです。スチームガンによる射撃を得意とします。ギルバディアを盾にして、遠距離から射撃して来るでしょう。銃弾によって、動きを阻害されてしまう可能性に注意を。
  総数自体は多めです。此方を数多く倒せば、シンプルに『頭脳』が減るので、後続が有利になって、依頼人に喜ばれるかも。

 工廠指揮官 ×1
  この工廠を管理する現場指揮官です。大尉くらいの階級。大尉、と呼んでしまって構いません。
  一応ボスクラスなので、皆さんと多少は渡り合えるくらいの実力があります。パワータイプで、シンプルな殴り合いを行ってくるでしょう。
  コイツを仕留められたなら、後続がより有利になる可能性があります。ので、依頼人に喜ばれるかも。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <総軍鏖殺>威力偵察・旧軍第8工廠完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月31日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣

リプレイ

●夜間偵察
 月だけが、辺りを照らしている。
 いくつかの建物からは明かりが漏れていて、がしゃがしゃという、機械音がよく響いていた。恐らく、製造機械が動く音だろう。時間帯は大分、遅いものであったけれど、まるで眠らぬように、機械は動いている様子だった。それはつまり、この時間まで休むことなく、ヒトも働かされている、という事だ。
 軍事工廠・第8工廠。鉄帝首都の外れに存在するこの工場。かつては民を守るための軍備が生産されていたはずだが、今は己の欲望を満たすため、ただ力を求める現軍部の武器が量産されていることとなる。
「酷いなぁ……こんな夜遅くまで、休みもなしに働かされてるって聞いてるよ」
 そう呟いたのは、『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)だ。物陰から覗くその眼は、工場の窓からわずかに外を照らす光を頼りに、辺りを警戒している。
「それに……疲れて動けなくなった人を、魔物の餌にしてる、って」
 悔しげにそういう。チャロロの言葉通り、事前の情報によれば、そう言った悪辣な行為が行われていることは確かだ。或いは、チャロロが踏みしめた地面にも、誰かの血の跡が染みついているのかもしれない、と考えてしまえば、怖さよりも先に、怒りがわいてくる。
「これこそが鉄帝、なんて思いたくないけどね」
 そう、鼻を鳴らして見せるのは『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)だ。
「確かに、強いヤツが偉い、みたいな思想はあったけれど。
 でも、強いヤツが皆を引っ張っていく……リーダーになるって感じだったともうけどね。
 今は……」
 肩をすくめた。
「そうダね」
 『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が頷く。
「リーダーはツヨイ必要がある、っていうのはワカルよ。でも、それが弱いヒトを虐げていいリユウにはならない」
 イグナートの言葉に、『帝国軽騎兵隊客員軍医将校』ヨハン=レーム(p3p001117)が頷いた。
「ええ、まったく。
 強さとは責任であり責務だ。弱肉強食なんて言い訳に、治世を怠るのはただの知性無き者ですね。
 ……というか。我が祖国ながら、ここまでアホがいるとなると。泣けてくるぜ」
 後半は小さく、誰かにも聞こえないように、呟く。厭そうに、眉をひそめた。
「新皇帝に軽々に尻尾を振って、強者気取りか……なんだ、アホか、アホなのか?
 それとも想像力とかないクソ傲慢な奴なのか……?
 ああ、厭だ厭だ。勘弁してほしいぜ、我が祖国」
 肩を落とすヨハン。一方で、こほん、と咳払い。
「まぁ、気持ちを切り替えるか。
 ええと、今回は偵察。このメンバーなら奪還まで可能だとは思いますけどね」
 ヨハンのそれは、強がりなどと言ったものではない。事実である。実際、今回のメンバーならば、ここで大立ち回りを演じ、工廠の殆どの敵を撃滅することは可能だろう。
「でも、大量の人質を抱えているようなものだからね」
 『蒼輝聖光』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)がそういう。ここには、無辜の民が、強制労働をさせられている工員たちがいる。彼らの完全救出までも考えると、さすがに手が足りないだろう。そうなると、やはり帝政派の兵士の手を借りるなど、もっと戦力が欲しい。そしてそれは、ヨハンももちろん分かっていることで、その発言はヨハン流の、仲間への信頼の言葉であるともいえた。
「ただ、そうだね。私たちならもっとやれる……って己惚れられるなら、もっと欲張りたいかな?」
「今回の目的は、偵察。敵の総戦力を大体把握できる程度に戦闘をして帰ってくる、というものだ」
 いたずらっぽく笑うスティアに、同じくにやりと笑ってみせるのは、『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)だ。
「つまり、『誰それを倒してこい』とは言われてはいない。雑魚ばかりを倒してもいいし――逆に、司令塔をぶん殴ってしまっても問題はないわけだ?」
 そう言って笑う汰磨羈に、スティアはにっこりと笑って頷いた。ヨハンが肩をすくめる。
「皆、鉄帝のやり方わかってるじゃないですか」
「メインディッシュをお預けなんて、ボクも我慢できないからね!」
 そう言って、にっこりと『雷虎』ソア(p3p007025)が笑う。
「養殖されたクマなんか食べたっておいしくないもの。
 狙うなら、トップだ!」
「ええ。こういっては何ですけど、混乱の中に速やかに工廠を再稼働させるもの。
 バルナバスの嗜好とは思い難いですし、軍内部にも相応に頭の回るものがいるのでしょう」
 『氷月玲瓏』久住・舞花(p3p005056)が、言葉を続ける。
「ならば、そう言った『頭の回るもの』の出鼻をくじいてやるのも一興。
 ここで確実に、敵の人的資源も減らしておきたいわね」
「なるほどね。ここの管理を任されてるなら、それなりに鉄帝ではインテリって事か」
 夏子が言う。
「やっぱり、頭はつぶした方がいいよねぇ。どんな時でもね」
「オッケー。
 いずれココを取り戻すタメの第一歩だね! 出来るだけ攻める時に有利になるように頑張ろう!」
 イグナートの言葉に、仲間達は頷く。かくして、闇の中に光をともすための第一歩を、一行は踏み出すこととなる。

●偵察進行中
 暗闇の中を、一行は進む。例えば、暗視を利用したり。例えば、音の反射によって位置を把握したり。例えば、助けを呼ぶ声を聴きながら。
「正直、人助けセンサー! みたいなのにはかかって欲しくなかったけど」
 夏子が言う。
「でもかかっちゃうんだろうな~……って思ってたら。うん、あちこちから」
「気持ち、わかるつもりだよ」
 チャロロが悔し気にそう言った。夏子のセンサーの感知にないには、あちこちから助けを求める声が響いているのだろう。それはある程度のか所にまとまっていたから、要するに工場で強制労働をさせられている工員たちに間違いはない。
「抑えてね。オイラも……抑えてるから」
 今すぐにでも、英雄的に助け出しに行きたかった。だが、それは困難な道だろう……全てを救うには、今は手が足りず、今すぐ帝政派の兵士辰が突入するには、情報と準備が足りない。いずれにせよ、今は不足しているものを補うための時間であり、今の活動こそが、彼らを完全に救い出す最善手であることに間違いはない。
「オレ達が、今日大ダメージを与えてやるのが、一番のコウケンだと思うよ」
 イグナートが言った。
「そうすれば……少しくらい、コウインの人達も楽になるかもしれない」
「指揮系統が潰れれば、末端に指示出している暇なんてなくなりますからね」
 ヨハンが言った。
「そうなると、なおさら……欲張りたくなりましたね」
「今も、威力偵察というか、潜入気味だけど」
 スティアが、んー、と思考を示すように言う。
「これを継続した方がいいかな。指揮官は、多分敷地内の奥にいるよね?」
「そうなると、指揮官を倒すとなれば、その分、撤退が難しくなるわ」
 舞花が言う。
「敵地の奥に入り込む必要があるものね……厳しくなると思うけれど?」
「わかったうえで、だよ!」
 ソアが言った。
「虎穴に入らずんばー、って聞いたことある。
 ボクの巣には入って欲しくないけど、でも、相手の巣に入らないと獲物が手に入らないのはほんとだからね」
「ふむ、ではこのまま、出来れば抑え気味に進むか」
 汰磨羈は頷いた。
「夏子、すまないがセンサーの継続は頼む。胃薬くらいは用意してやろう」
「苦くないのがいいねぇ」
 夏子が肩をすくめる。あちこちから聞こえる助けを呼ぶ声を、今は聞こえないふりをした。
「指揮官ってのは、大体偉そうに偉そうな場所にいるものだ」
 夏子が、耳を澄ませながら言う。
「けど、確証が欲しいな。工員に接触するか、いっそ軍人見つけて捕まえるかい?」
「陽動が可能なら」
 汰磨羈が言った。
「私が工員に接触してもいいが……いや、使い捨ての行員に自分の居場所を知らせる可能性も考えれば、軍人を見つけて、の方が確実かもしれん」
「ならより取り見取りだ。助けを求める声が大きい分、その原因も多い」
 夏子が嫌そうにそういうのへ、汰磨羈は肩をすくめた。どっちにしても、軍人サマはあちこちにいらっしゃる、という事だ。あたりを徘徊しているギルバディア(狂紅熊)ほどではないが、奥地に行けば、それだけ軍人の数の方が増える。
「警戒とか、不安の感情が近づいてくるよ」
 チャロロが言った。
「この人たちが、一番楽かな?」
 その言葉に、仲間達は頷く。
 ――果たして数十秒の後に、一行は三名の軍人哨戒グループを無力化していた。戦闘音は、幸いにも工場の機械の駆動音に紛れてごまかせたらしい。
「ヨナカまで働かせてるバチだね」
 イグナートが言う。
「その分、こっちにはラッキーだったね。ソアさん、お願いできる?」
 スティアがそういうのへ、軍人の一人を押し倒し、その手で軍人の口を抑えていたソアがにこにこと笑いながら「はぁーい」と声をあげた。
「ねね、工廠指揮官さんがどこにいるのか教えて欲しいの。分かる?」
 にっこりと笑っていたが、それはネコ科動物が牙をむき出すようにも似ていた。態度、或いは気配から、「逆らったらただでは済まさない」という意思を隠そうともしないソアに、軍人は怯えた様子で頷いた。
「……力にのみ恃む奴は、もっと強い力に逆らえないんだ。覚えとくと良いですよ」
 ヨハンが呆れたように言う。
「で、指揮官さん、どこ?」 
 ソアがにぱー、と笑いながら言う。その手にした爪は、軍人の動脈を狙っている。
「奥の、宿舎だ。一番いい部屋で寝てやがる」
「なるほど、部下を働かせて自分は高枕ね」
 舞花が不快そうにそう言った。そのまま、首筋に剣の鞘を叩きつけた。衝撃が首筋から脳天に突き抜けて、軍人が意識を失う。
「斬っても良かったけど……まぁ、約束はしてたものね」
 舞花がそういうのへ、ソアは小首をかしげた。
「やだ、ボク、殺さないとは言ってないよ?」
「虎サンの気が変わる前に、さっさとシキカンを倒しに行こうか」
 イグナートが苦笑するのへ、仲間達は頷いた。
 果たして宿舎にて攻撃の手が上がるのは、それからほどなくしてからだった。

●偵察完了
 イレギュラーズ達が選んだのは、勿論奥地、兵士宿舎である。流石に見張りはいたらしく、ならばこいつらから攻撃を仕掛けよう、派手に攻撃を仕掛けて数十秒。
「あ~んいやぁ~ん私弱いからっていじめないでん」
 おちょくる様に、夏子が言う。飛び掛かってきた兵士、その武器を、夏子は槍でいなすように叩き落とした。
「なっ……!?」
 夏子の技量に、兵士が驚きの声をあげる。
「あらん、私より弱いのぉ~? それじゃあ、この先やっていけないんじゃない?」
 ぶおん、と槍を振り下ろすと、兵士の背にそれが叩きつけられた。「がっ」と悲鳴を上げて、兵士が地面にたたきつけられる。
「これで何人目?」
 夏子が尋ねるのへ、
「んーと、んと……たくさん!」
 と、ソアがそういう。
「うう、数を数えるの苦手だよぉ」
「尋問に使った兵士も含めて、これで9人ってところね」
 舞花が言う。そのまま、飛び掛かってきた兵士を、苦も無く刃にて切り捨てて見せた。
「これで10。丁度折り返し」
「危なげなく、ですね。ま、そこはこのメンバーですから? 疑いようもないですけど」
 ヨハンが言う。そこには、仲間への信頼、そして自分の力への自負が確かに見えていた。それは虚飾のプライドなどではなく、真実に裏打ちされた自身であることも間違いない。
「欲張っていきましょう。さぁて、出て来いよ、アホの総大将」
 ヨハンがふふん、と笑う。果たしてそれに答えたというわけではないだろうが、宿舎からさらに兵士の増援と、少々上質の寝間着にコートを羽織った男が現れた。
「馬鹿な! クマどもも寝ているのか!?」
 不機嫌そうに言う男。
「ですが大尉、敵はイレギュラーズです!」
 兵士の一人がそういうのを、イレギュラーズ達もきいていた。
「あれがタイイか」
 イグナートがそういう。
「いいフクを着てるね! ええと……死出の衣装にはちょうどいいだろ? ミタイに言うのかな? こういう時!」
 挑発するイグナートに、大尉は舌打ちをした。
「ちっ、舐めるなよ! おい、相手は八人だ! 数で追い返せるはずだ!」
 大尉が豪奢な軍刀を抜き放つ――同時、飛び込んだのは、チャロロだ!
「おまえが、大尉だな!?」
 チャロロの大剣が、上段から降りぬかれる。大尉は、軍刀でそれを受け止めた。重い一撃が、大尉の身体に衝撃となって駆け抜ける!
「な、なんだお前は……!?」
「工員の皆を、ゴミみたいに使って……許せない! 絶対にっ!」
 チャロロが、大剣に込める力をさらに増す。ぐぅ、と大尉が呻いた。
「ええい、正義気取りか!? 弱い奴が悪いんだろうが!?」
「だったら、この場で悪いのは、やはり御主だよ」
 汰磨羈がそう声をあげた。振りぬかれる、赤の斬撃。チャロロと相対していた大尉の横から、救うように放たれたそれが、大尉の左腕を薙いだ。衝撃が、大尉の腕に赤く、深い傷跡を描く。
「が――あっ!?」
「弱い者が悪い――私はそうは思わんが、御主がそういうのなら、今ここではその流儀に則ってやる。
 ならば、因果応報――此処で果てるがいい、弱き者よ」
「舐めるな!」
 大尉は決死の反撃を狙う。横なぎに払われた刃は、汰磨羈の右腕を薙いだ。避けきれない。なるほど、鋭い剣閃。それなりの実力は持ち合わせていたらしい。が。
「私たちは負けないよ!」
 その傷は、瞬く間にふさがっていく。スティアの持つ『本』がパラパラとページをめくると同時に、福音の鐘の音がりぃん、ごぉん、と鳴り響く、聖なるそれは、癒しの力となって、汰磨羈の傷を癒したのだ。
「今は、みんなを助けられなくても……此処に、深い傷跡を残すことはできる!
 ヨハンさん、サポートお願い!」
「任されました」
 ヨハンがその手を突き出すと、その掌から暖かな光が、風邪のように巻きあがった。それは女神の口づけのごとく。暖かくも柔らかで、鮮烈な生命の光が、スティアの消耗した精神力を満たしていく。
「いやしかし、本当に納筋でアホだなぁ、新皇帝派。いや、頭のいいアホもいるのかもだけど、此処にいるのは頭の悪いアホだ。
 そのくせ、地味にしぶとい……そこは鉄帝人なのかよ。本当に、厭だ。
 いいか、僕は本当に、怒っているんだぜ? こんな皇帝についたお前らによぉ!」
 ヨハンが挑発と、本心からの怒りで吠えた。その怒りに応じるかのように、掌の女神は仲間達に活力を与えつづける。スティアはその力を借りて、仲間達の傷をいやすべく、再び『本』にて魔力を巻き上げる。
「さぁ、あと少し!」
「よし、トドメと行こう!」
 イグナートがばしっ、とその拳を打ち合わせる。
「きなよ、大尉サン!
 大尉なんて偉そうな呼び方されていてもオレと殴り合うのは怖いのかな?
 そんなんじゃ新皇帝派の中から追い落とされる日も遠くないね!」
 挑発の声を上げながら、突撃! 「舐めやがって!」大尉がイグナートを迎え撃つ。
「俺もここを任されてるほどには強いって事を――」
 大尉が吠えて、軍刀を振り下ろした。イグナートの身体に痛みが走る。が、浅い。生命をとるには、まだ遠い。故に、痛みを訴える体を抑えて、イグナートは突進!
「オレたちは、もっと強いよ!」
 その拳を、大尉にたたきつけた! 強烈な一撃が、大尉を吹き飛ばす! 背後の壁にたたきつけられて、大尉が糸の切れた操り人形のように、ぐにゃり、と弛緩した。
「た、大尉!」
 兵士たちが慌てて駆けよる。確認するまでもない。『撃破』完了だ。
「むー、ボクがやっつけたかったなぁ」
 ソアがそう言いながら、手近に居た兵士を殴りつける。ぐわん、と強烈な右フック。勢いと共に、兵士の意識は今宵の月までぶっ飛んでいっただろう。
「えーと、これでたくさんから、たくさん、だから……」
「目標は突破してるわ」
 舞花が微笑みながら言う。
「それに、敵の戦力の底も見えました。私たち相手に出し惜しみなどはしないでしょうから、此処にいるのでほぼ全員」
「じゃあ、それを報告すればおわり、だね?」
 ソアが言うのへ、夏子が肩をすくめる。
「帰ることができたら、だけどね?」
 騒ぎを聞きつけて、表のクマたちもこちらにやってきたようだ。
「これを抜けるのは、一つ激戦だよ? いける?」
 夏子がにやりと笑って言うのへ、ソアは手をあげた。
「もちろん! デザートはべつばら!」
「任せてください。僕はここのアホどもとは違って、仲間は見捨てない主義ですから」
 ヨハンが言う。
「良し。イグナート、舞花。御主らで突破。私と夏子で殿を務めよう。
 スティアとヨハンは中央でサポート。チャロロとソアは直掩。これでどうだ?」
 汰磨羈の言葉に、チャロロは、皆は頷いた。
「分かったよ! 帰るまでが依頼だからね!」
「よし、行こう、皆!」
 スティアの言葉を合図に、皆は走り出した。
 そこからの戦いは強烈なものだったが、しかしすでに勝利の栄冠を手にしたイレギュラーズ達には、この程度の壁などは障害に当たらない。
 傷つきながらも離脱したイレギュラーズたちのもたらした情報は、何物にも代えがたいものとして、帝政派へともたらされたのであった。

成否

成功

MVP

ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 この後、帝政派による救出作戦が行われました。
 皆さんのもたらした情報によって、救出作戦は完璧に遂行され、ほぼ全員の行員の救出を成功させたようです。

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