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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>エマージェンシーコール。或いは、遭難者救出作戦…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある晴れた日の騒動
「俺の治世(ルール)は簡単だ。この国の警察機構を全て解体する。奪おうと、殺そうと、これからはてめぇ等の自由だぜ」
 新皇帝バルナバスの放った勅令が、鉄帝全土を騒乱の渦へ叩き込む。
 そんな中、帝都スチールグラードにおいて独自の法を、己が力で貫き通す者たちがいた。
 名をラド・バウ独立区。
 武勇に秀でた闘士たちを有する独立組織であり、また民衆からの支持も厚い。
 何かあっても、闘士たちが守ってくれる。
 そんな希望に魅せられてか、避難してくる人の数は日ごとに増えていったのだった……。

 通路の奥で、うろうろしている者がいた。
 小柄な体躯に、2つに結った紅い髪。あれは我が友、炎堂 焔 (p3p004727)ではあるまいか。
 炊き出し用の野菜を抱えた小金井・正純 (p3p008000)は、しばし焔の様子を眺める。小さな身体を精一杯に動かして、右へ左へ、どうやら物陰や部屋の中を覗き込んでいるようだ。
「さて? あれはいったい、何をしているのでしょうか?」
 人か、或いは失くし物でも探しているようにも見えるが、それにしては少々余裕に欠けている。ちらりと見えた横顔からは、明確な焦りの感情が窺えた。
「……増えましたね」
 暫く様子を見ていると、今度は金髪の少女が向こうからやって来た。輝くような金の髪をしたあの少女は、セララ (p3p000273)ではないか。
 合流した焔とセララは、ほんの幾つか言葉を交わすと、廊下の奥へ2人並んで走り去っていったのである。

「……と、言うようなことがありまして」
 ラド・バウ独立区の一角、避難民用に開放された広場の隅で正純は包丁を振るっていた。
 スタタタタ、と軽快な音が鳴り響き、まな板の上の白菜があっという間に微塵に切れる。
「あー、そう言えばわたしも2人を見ましたねぇ」
 正純の話に思い当たる節があるのか、顎に細い指を添えリカ・サキュバス (p3p001254)が首を傾げる。気にも留めていなかった、古い記憶を掘り起こそうとしているのだろう。
 しかし、リカが記憶を思い出すより先に「あ!」と声をあげたものがいた。調理の邪魔にならぬよう、白い髪を後ろで括ったジェック・アーロン (p3p004755)である。
「そういえばルル家さんが2人を探していたはずよ。何人か避難している人たちを率いていたわ。何だか急いでいたようだけど……何か関係があるのかしら?」
「はぁ……ルル家さんも?」
「うぅん? 見つけ出して話を聞いた方がいいかもしれませんねぇ」
 焔とセララが心配だから、というももちろんあるだろう。
 そして、もう1つ……。
「2人とも、今日の調理当番なんですよね」
 なんて。
 使う者のいない包丁2本を横目に眺め、正純はそう呟いた。

●夕餉の席にて
 避難している住民たちから、ごく些細な依頼があった。
 なんでも一緒に避難してきた住民の何人かが、外に出かけたきり数日の間、戻って来ていないのだとか。
 曰く、守られてばかりではいられない。少しでも戦力となれるように、どこかの遺跡に武器だか兵器だかを取りに向かったらしい。
「調査の結果、彼らが向かったのは帝都の外にある古代遺跡だってことが分かった」
「簡単にだけど、遺跡の概要についても調べて来たッスよ」
 夕食の席でのことである。
 資料を片手にそう言ったのは、シラス (p3p004421)と日向 葵 (p3p000366)であった。日中、姿を見かけないと思っていたが、どうやら一足先に2人は遺跡の様子を見に出かけていたらしい。
「……はい、というわけで拙者たちは遺跡の調査へと向かいます。そう言う話だったのに、どうして話を全部聞かないで、駆け出してしまうんですかね?」
 具の少ないスープを啜って、夢見 ルル家 (p3p000016)は視線を焔とセララへ向けた。
 なんでも2人は「行方不明の避難民がいるので探すのを手伝ってほしい」と言う相談を受け、矢も楯もたまらず捜索に乗り出したらしい。
 結果、ルル家は遺跡の調査をシラスと葵の2人に任せ、自身は避難民たちと共に焔とセララの捜索に当たっていた……というのが、事の次第である。
「……二重遭難」
 そう呟いたジェックの声が、自棄に大きく響くのだった。

「でもでも! 数日も行方を晦ましているなんてきっと大変な目に合ってるよ!」
「急いで見つけてあげないと! 死んじゃったり、大怪我をしたりするかもしれない!」
 一日中、走り回って疲れたのだろう。
 焔とセララの顔には濃い疲労の色が滲んでいるようだ。
 そして、2人の言葉は決して見当違いなものでは無いのが事実。鉄帝全土が荒れているという現状、迂闊にラド・バウ独立区の外に出かけていくなんて、命知らずにもほどがある。
 加えて、数名の避難民が向かったという件の遺跡……どうにも、大昔に造られた移動要塞の残骸らしいが、これもまた決して安全な場所とは言い難い。
「少し様子を見て来たが、遺跡に向かった連中はどうやら遺跡の内部にまで進んでしまったらしい」
「おまけに遺跡の防衛機能を稼動させちまったみたいッス。上の方から濛々と煙を吹いてたし、機械仕掛けのゴーレムみたいなのがうろうろしていたっすよ」
 シラスと葵が、白い紙にさらりと遺跡の見取り図を描いた。
 遺跡の大きさは、直径200メートルほどの楕円形。どうやら遺跡の大部分は土中に埋もれているようで、地表に露出しているのは遺跡上部のみのようだ。
「さっきも言った通り、遺跡は元々、移動要塞だったッス。機械仕掛けのゴーレムは頭部から上半身にかけてが、砲塔のようになっている奇妙な形をしているッスね」
 遺跡の防衛を主とする移動砲台のような役割を担っているのだろう。移動速度は遅く、砲弾の充填にも時間がかかるが、威力はそれなり。【業炎】【ブレイク】【飛】を備えた特別製の砲弾である。
「それって結構、数がいるのかな?」
 そう問うたのは焔であった。
 シラスは眉間を指で揉んでから答えを返す。
「みたところ、10メートルごとに1体ずつ程度が配置されていた。20体ぐらいか。だが、同様のゴーレムが遺跡の内部にも配置されている可能性が高いな」
 防衛機能の役割を果たすゴーレムとはいえ、いかんせん古い時代のものだ。気づかれないよう、遺跡に侵入することはさほど手間ではないだろう。しかし、遺跡の内部に取り残された5名ほどの一般人を連れて逃げるとなれば話は別である。
「自力で外に出て来られないのには、相応の理由があるんだろうさ」
「なんでも遺跡内部では、意思伝達系のスキルや、索敵系のスキルが十全に効果を発揮しないとかって話ッス。きっとそういう、ジャミングを担う何かがいるんでしょうね」
 避難民たちの安否は不明。
 遺跡内部の危険度も今一、詳細が知れない。
「どうしますか?」
「もちろん、今すぐにでも遺跡に向かうよ! 遺跡から出られなくなって、困っている人たちがいるんだからね!」
 正純の問いに、セララは威勢も良く答えを返した。
 誰もセララの提案に異を唱えはしない。
 助けを求める誰かがいて。
 それを為すだけの実力がある。
 となれば行動しない理由は無いのだから。

GMコメント

●ミッション
遺跡に取り残された鉄帝国民5名の救出&ラド・バウへの帰還

●ターゲット
・砲塔ゴーレム×20~
甲板に20体。遺跡内にいる個体数は不明。
頭部から上半身にかけてが、砲塔のような形状をしている機械仕掛けのゴーレム。
動きは鈍いが、そこそこ頑丈で、そこそこ攻撃力もある。
古い時代のものであるため、センサー系の性能が微妙。

砲弾:物中範に大ダメージ、業炎、ブレイク、飛
 高威力の砲弾。装填に時間がかかるようだ。

・遺跡内部の防衛機能×?
【ハイセンス】【人助けセンサー】や【ハイテレパス】【霊魂疎通】などの索敵系、意思疎通系のスキルの効果を軽減させる何らかの罠。メインの機能はジャミングだが、攻撃を仕掛けて来ないとも限らない。

・遭難している鉄帝国民×5
戦うための力を求め、遺跡に埋蔵されているだろう兵装を取りに向かった鉄帝国民たち。
遺跡の内部へと侵入後、防衛機能を機動させてしまったらしく、出られなくなっている。
健康状態は不明。

●フィールド
帝都郊外。
山の麓で、土中に埋もれた鋼鉄の遺跡。元は移動要塞だったらしい。
地上に露出しているのは上部の甲板部分のみ。遭難者たちは正規の出入り口か、通気口などを使って内部へ侵入したものとみられる。
侵入は比較的容易である。
内部にも砲塔ゴーレムや、防衛機能は存在しており、侵入者の殲滅を図ろうとするだろう。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <総軍鏖殺>エマージェンシーコール。或いは、遭難者救出作戦…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年10月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
セララ(p3p000273)
魔法騎士
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
シラス(p3p004421)
超える者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
小金井・正純(p3p008000)
ただの女

リプレイ

●S・O・Sが聞こえない
 帝都郊外。鋼鉄の遺跡。
 元は移動機能を備えた要塞であったその場所も、今ではすっかり土に埋もれた過去の遺物に成り果てていた。
 地表に露出している甲板部分には、頭部から背中にかけて砲塔を積んだゴーレムが、20体ほどうろついている。
 空気が震え、ゴーレムたちが砲弾を放った。
 衝撃派と爆炎。
 濛々と上がる土煙。
「甲板がこれじゃ、外に出るにも出れねぇよな……」
 土煙を突き破り、サッカーボールが空を走った。『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)が蹴ったボールが、砲塔ゴーレムの頭部をぐしゃりと歪に歪ます。
 次の瞬間、砲塔の内部で爆発が起きる。
 2発目の砲弾が暴発し、砲塔ゴーレムの上半身が砕けて辺りに飛び散った。黒煙を噴いて機能を停止したゴーレムは、数十年か、百年か……長い年月、勤め続けた警備の任務を終えたのだった。

 砲塔の下に矢が突き刺さる。
 急所を射貫かれたのか、ゴーレムは数度の痙攣の後、ガクリとその場に膝を突く。
 機能を停止したゴーレムに恐る恐る近づいていくのは『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)だ。
「はぁ……なるほど。動力部を射貫いたんですね。砲塔が邪魔で、そう簡単には狙えないと」
 機能停止したゴーレムを調べながら、ルル家はそう呟いた。
 それから彼女は背後を見やる。近づいて来るのは、弓を手にした『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)である。
「何かしなければならない、その気持ちに突き動かされるのは悪いことではありませんが、些か無鉄砲が過ぎましたね」
 機能を停止したゴーレムは、今のでちょうど10体目。
 残る10体を倒し終えれば、いよいよ遺跡の内部へ立ち入ることになる。

 弾丸を込めて、狙いを付けて、トリガーを引く。
 遺跡から少し離れた高台で『天空の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)は同じ動作を繰り返していた。
「全く、役に立ちたいって気持ちはともかくさ、遺物に頼らなきゃいけないほど弱いなら危険な所へ足を運ぶのは勘弁してもらいたいね」
 独り言ちて、次の弾丸をライフルに装填。
 砲弾を放った直後のゴーレムに狙いを付けて、静かに銃のトリガーを引いた。
 
「うぅ、こんな危険な場所に何日もいるなんて……やっぱり早く助け出してあげないと!」
 20体のゴーレムが、甲板の四方に転がっている。
 半壊したものもいるし、動力部だけを正確に射貫かれ機能を停止したものもいた。
 『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は手を振って、ゴーレムを燃やす炎を掻き消す。火種を残して火事にでもなれば大事だからだ。
「ったく、1個しか死ねない命は大切にして欲しいですね」
 そう言って『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)は足元に転がるゴーレムの頭部を蹴り飛ばす。
髪も、皮膚も、纏う衣服も煤だらけ。ゴーレムたちの砲撃が、仲間を襲わないようにずっと引き付け続けていたのだからそれも当然である。

 甲板上部。
 遺跡内部へ続く出入口がある。
「遺跡の中にずっと閉じ込められてるなんて、きっと辛い思いをしてるよ。早く向かってあげなくちゃ!」
 金属の扉を手で押し開けて『魔法騎士』セララ(p3p000273)は告げた。
 扉の周辺には、数名分の足跡がある。
 武器を得るために遺跡に潜っていったという、鉄帝市民の足跡だろう。
「あぁ、だが割と長丁場になりそうだ。準備は整えてから潜らないとな」
 遺跡の中に、助けを求める者がいる。
 だからと言って、何の準備も無く不用意に立ち入れば、ミイラ取りがミイラになるということもある。
 焔の喚んだリスを肩に乗せた『竜剣』シラス(p3p004421)は、仲間たちを順に見回す。
 リカの傷は治療済み。ジェックのライフルにも、正純の弓にも不調は無い。
「入口付近に罠らしきものは無いですね」
 ルル家が入り口の調査を終えた。
 突入準備は完了だ。

●エマージェンシー
 遺跡内部の通路は広い。
 金属の壁には、一定の間隔でレンズのようなものが埋め込まれていた。
「索敵系の非戦を妨害しているジャミング罠については特に見つけたいですね」
 鋼糸を前へ放り投げ、ルル家はそう呟いた。
 糸の先には、小石が結び付けられている。糸と石を器用に手繰って、罠の有無を確認しているのだろう。
「……まぁ、足跡は続いているんで、問題ないとは思いますけど」
 遺跡の内部では、探索系のスキルが上手く機能しない。
 普段よりも探索精度が落ちている現状、警戒せずに前進するのは少し無謀に過ぎるだろう。それが分かっているからこそ、遅々とした進行速度に対して、誰からも不満の声は上がらないのだ。

 床に穴が空いていた。
 否、壁から床にかけてが大きく損壊しているのであろう。流れこんだ土砂によって、進路は塞がれている。
「もしかして、ここを降りて行っちゃったの!?」
 嘘でしょう! と、焔は悲鳴のような声を張り上げた。
 床に空いた大穴に、顔を近づけ覗き込む。連れて来たリスを穴の下へと走らせるが、残念ながら穴は深く、そして暗い。
「救助に来ました! 聞こえていたら返事をなさってください!」
 焔の灯した炎の明かりを頼りとして、正純が穴の底へ向かって呼びかけた。しかし、聞こえてくるのは反響した正純の声ばかり。助けを求める者たちからの返事は無かった。
 穴の底で命を落としているかもしれない。
 そんな、最悪の結末に焔は顔色を悪くする。
「流れ込んだ土砂がクッションになっていれば、あるいは……それと、自分から降りて行ったのではなく、落ちたのかもしれないですね」
 そう言ってルル家は、土の覗く壁面を指さす。
「焦げてる? ってことは、砲撃の痕っスか?」
 壁を見やって葵は言った。
 しかし、道中では砲塔ゴーレムに出くわさなかった。どこかに隠れていたのだとしても、ここまでのルートは幾つかの小部屋を除き、ほとんどまっすぐだったはずだ。
 警戒のためか、葵は足元にボールを転がす。
 ジェックはライフルの安全装置を解除して、剣を抜いたリカが後方へと駆けた。
「壁の中に隠れていたのかもね。歯車の回るような音が聴こえたよ」
 ライフルのストックを肩に押し当て、ジェックがその場に膝を突く。
 直後、砲音が轟いた。

 砲弾を剣で叩き割る。
 爆炎が、視界を紅色に染め上げた。
 衝撃に煽られ、セララの身体が宙に浮く。慌ててその手を掴んだシラスの身体さえも、爆風に押され穴の方へと傾いた。
「っ……! お、落ちる落ちる! って、おい! なに押してんだ!」
 必死にその場に留まろうとするシラスの背中を、リカが片手で強く押し出す。
「そのまま落ちて行ってください! 話に聞いていた通り、助けを求める魂の波動を感じません。ですが、きっと救助対象は穴の底にいるはずです!」
 遺跡に潜った遭難者たちは全部で5名。
 彼らもきっと、今のようにゴーレムに襲われ、穴の底へ逃げたのだ。
 幸い、廊下に現れたゴーレムは2体だけ。
 ジェックとリカと葵がいれば、撃破するのは可能だろう。
「電気が通る相手ならば機械であろうと……私にお任せを!」
 シラスとセララが転がるように落ちていく。
 その後を、正純と焔、ルル家が追う。
 仲間たちが退避したのを確認し、リカは剣を振り上げた。

 剣に紫電が迸る。
 ゴーレムが2発目の砲弾を撃つより速く、リカは剣を一閃させた。
 雷の刃が、ゴーレムの胴に裂傷を刻む。紫電が弾け、手前の1体が不規則に身体を震わせた。
 次いで、銃声。
 ジェックの放った弾丸が、ゴーレムの胴に穴を穿つ。
「少し外れた……こっちは任せて、葵はもう1体を」
「おぉ、時間食ってる場合じゃねぇっスからね」
 2度目の砲撃。同時に葵がサッカーボールをシュートした。
 廊下の中央で砲弾とボールが衝突し、ごうと爆炎を噴き上げる。黒煙が晴れるより先に、リカの斬撃がゴーレムを斬った。
「さっさと倒して、降下するっス」
 砲塔ゴーレムのセンサー系はさほど性能が高くない。
 それゆえかゴーレムは、砲撃の熱と粉塵の中では思うように動けない。
 つまり、絶好の攻め時だ。
 リカは剣を振り上げて、ジェックは次の銃弾を放つ。サッカーボールをトラップし、葵はシュートの体勢に。
 決着まで、そう長い時間はかかるまい。

 3階分ほど、一気に降りてきただろう。
 穴の底に積もった土砂には、数人分の足跡があった。
 それから、血を流した痕跡も。
「向こうですね」
 壁に空いた穴を指さし、ルル家は言う。
 穴の向こうは廊下のようだ。
 どうする? とルル家は視線で問いかけた。
 先に進むか、それともリカたちを待つか。
「先に進もう。怪我をしているみたいだし、きっとお腹を空かせてるだろうからね。食糧とお水も持って来たんだ」
 背負ったリュックを軽く叩いてセララは言った。
 リュックの中のドーナツは、落下の衝撃で潰れているかもしれない。しかし、潰れていても腹を満たすことはできる。

 足跡と血の痕跡を辿った先にあったのは、どうやら遺跡の制御ルームのようだった。
 ぐったりとした男が5人、部屋の中に倒れている。
 意識は無いが、呼吸はあった。
 つまり、今ならまだ救えるということだ。
「……よし、息はあるな」
 パン、と両手を打ち鳴らす。
 シラスの手元で燐光が弾けた。
 それから、幽かな鐘の音。
 降り注いだ燐光が、遭難者たちの傷を癒した。
「これでもうしばらくはいけるだろ」
 1人、2人、と同じことを繰り返す。
 傷は塞いだし、失われていた体力も幾らか程度は回復できたはずである。
 後は意識の回復を待つばかり……最悪の場合は5人を背負った状態で、地上に戻ることも視野に入れるべきだろう。
 まったく、気の休まる時もない。

 焔が起こした焚き火の周りに5人の男が寝かされていた。
 そんな彼らの傍に正座した正純が、ふぅ、と重い吐息を零す。
 生きていた。
 無事でいてくれた。
「無茶もいいですけど、私達にも頼ってくださいね」
 自分たちの家や家族や友人たちを守るため、彼らは戦う力を求めた。
 その意思は、その志はきっと尊いものだろう。
 けれど、足りない。
 戦闘経験に欠ける市民が、多少の力を得たところで、太刀打ちできるような相手ではないし、抗えるほど温い手勢ばかりでもない。
 
 機能している制御パネルの正面に、セララと焔は立っていた。
 罅割れたモニターに表示されている文字は読めない。
「こんにちわ! もし遺跡のAIさんが聞いてたら、返事をしてくれると嬉しいな」
 セララがモニターへ呼びかける。
 しかし、返って来るのはノイズ混じりの電子音のみ。
「これが探索系スキルの使用を邪魔してるのは間違いなさそうだよね。たぶん、遺跡内の監視とかもしてるんだろうし」
 ほら、と焔が指差したのはモニターの上部。
 そこに映っているのは、雪のような白い髪……ジェックの頭部では無いか。どうやら上階での戦闘を終え、制御室へと向かって来ているようだ。
「壁に付いていたレンズみたいなものは、監視カメラだったんだね」
「機能を止めるのは……駄目そうかな。ルル家さんも修せないって言ってたし。破壊を目指そっか」
 セララは剣を振りかざし、焔は片手に業火を燃やす。

 遭難者のうち3人までが目を覚ました。
 足元はおぼつかないようだが、意識ははっきりしているようだ。
「もう大丈夫だ、落ちついて。歩けるかい?」
 命に別状はないとはいえ、それはあくまで現段階での話である。早々に専門的な治療を受けさせなければ危ないかもしれない。
 とくに意識の戻らない2人は状態が危うい。
「歩けるのなら、急いで帰還した方がいいな」
 脱出しよう。
 シラスが告げた、その直後。
 制御室に警報音が鳴り響く。

●遺跡からの脱出
 警報音に誘われ、壁の内から次々とゴーレムが現れた。
「ちょっ……迷うことなくこっちに向かって来ていますよ!」
 前進するゴーレムを、リカが剣で抑え込む。
 砲撃を開始する寸前、葵のシュートが頭部を潰した。
「オレらが狙わてるんっスかね? な、何か罠とか踏んだっスか?」
 廊下の奥からゴーレムは続々と現れていた。1体や2体であれば倒すのに苦は無いが、数が増えれば厄介だ。
「っ……先に進んだ皆さんは無事でしょうか?」
 ライフルを構えたジェックが呟く。
 急に鳴り響いた警報といい、列をなしてどこかへ向かうゴーレムたちといい、なんとなく嫌な予感がしていた。

 畏み申す、畏み申す。
 清い心で、柏手1つ、鳴らしてみれば、世界はくるりと裏返る。

 静謐な空気を割るように、パン、と手と手を打ち鳴らす。
 途端、ぐにゃりと空間が歪んだ。
 ゴーレムの頭部が圧し潰されて、頭部が内から爆ぜ飛んだ。
「砲塔を潰してしまえば良かったんですね。罠も潰せるのなら潰してしまえば……」
 と、そこで正純は言葉を止めた。
 それから、はぁ、と吐息を零して額にそっと手を添える。
「……最近この国にいるのが長いからか、若干私自身脳筋っぽくなってる気がしますね」
 住まう者を脳筋に変える……巷で噂の“ゼシュテルブロンコ症候群”だ。

 セララは音を置き去りにした。
 大上段に構えた剣を、身体ごとぶつかるように一閃。
 砲塔ゴーレムの頭部から、腹にかけてが2つに割れた。
「ごめんねっ! 制御盤を壊したら、警報が作動しちゃったみたい!」
 結果、ゴーレムたちは大挙して制御室へ向かって来ているというわけだ。
 だが、セララと焔の行動が一切無駄と言うわけでもない。
「ルル家! その辺りに緊急脱出口みたいなものは無い!? ジャミングがあるってことは探索されて困るものがあるか、探索されると意味のない仕掛けがあるってことよ!」
「それっぽい空間なら壁の向こうにありますよ! でも、壁が壊せないです!」
 ジェックの問いに、ルル家は即座に答えを返した。
「任せて!」
 制御室近くの壁を叩くルル家の元に、焔が一目散に駆けていく。
 その手に灯るは、鉄さえ溶かす超高温の業炎だ。

 焔の溶かした壁の向こうに、細く長い階段があった。
「先に行って罠の類を調べます!」
 階段が地上へ続いている保証はない。
 しかし、迷っている暇もない。
 滑るように壁に空いた穴へと跳び込んだルル家の背は、数瞬のうちに見えなくなった。
「俺に付いてきてくれ。急がなくていいから、転ばないようにな!」
「意識の無い人はボクたちが背負っていくからね!」
 5人の遭難者を伴って、シラスと焔がその後に続く。
 
 明かりの無い階段を、数時間は昇っただろうか。
 すっかり足が疲れ切った頃になって、一行はやっと甲板上へと辿り着いた。
 空が暗い。
 先行していたルル家が、焚き火を起して待っていた。
「ゴーレムの砲塔とか、鉄材は回収すれば使えそうっスかね?」
 数時間ぶりの新鮮な空気を吸い込んで、葵は甲板に腰を下ろした。時間はかかったし、無傷とは言えない状態だが、1人の命も失われることは無かった。
 疲労感と達成感。
 それから、少しの憤り。
「気を抜くには少し早くないですか? 帰るまでが遠足ですよ!」
 なんて、悪戯っぽくリカは言う。
 帰還に際して、盾役を担ったリカも怪我を負っていた。押さえた肩からは、今もだくだくと血が零れている。
「もうこんな事しちゃだめだよ、って言っておかないと」
 ドーナツ片手に焔に怒った風な焔であるが、その口元にはたしかに笑みが浮いていた。

成否

成功

MVP

ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者

状態異常

日向 葵(p3p000366)[重傷]
紅眼のエースストライカー
リカ・サキュバス(p3p001254)[重傷]
瘴気の王

あとがき

お疲れ様です。病み月です。
遭難者5名の救助は無事に達成されました。
依頼は成功となります。

この度はシナリオのリクエスト、ありがとうございます。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。

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