シナリオ詳細
<総軍鏖殺>I'ts no use crying over spilt milk
オープニング
●救済は空から降ってこない
馬のひく荷車に、夢見 ルル家 (p3p000016)が乗っている。
積荷は多く、冷凍した野菜や干し肉、再利用目的で集められた衣類、そして羊一頭分くらいはある『小型』の移動式ボイラー機。
ゆっくりと歩く馬をとめると、槍を手にした僧服の男女が近づいてきた。
「お疲れ様です。支援物資の輸送ですか?」
「はい。鉄帝貴族のゲッペル様から」
そう述べて御者台から見下ろす久住・舞花 (p3p005056)。
僧服の男女はクラースナヤ・ズヴェズダーの僧兵で、彼らの武装からしてその辺の略奪者集団(レイダー)程度なら追い返せるだけの力がみてとれた。
「このまま『顔パス』させてしまいたいんですが……すみません、規則ですので」
荷を確かめてよろしいですかと問いかける彼らに、舞花はもちろんと答えて御者台を降りた。
荷を彼らに確かめさせている間、手持ち無沙汰になったのかルル家も荷台から降りてくる。
「ここからなら歩いてもかわらないし、先に行ってますよ」
そう言って振り返る先。
そびえたつ巨大な聖堂――『歯車大聖堂(ギア・バジリカ)』がそこにあった。
「お帰り! 輸送任務お疲れ様!」
「お酒! お酒はありましたの!? ウォッカは!?」
駆け寄ってくるマリア・レイシス (p3p006685)とヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ (p3p001837)。
彼女たちがさっきまで歩いていたのはギアバジリカの中――ではない。その麓に広く作られた『町』である。
簡単な構造の建物が雑多に積み重ねられ道の左右を埋めている。既に肌寒い季節だというのに子供や老人が外に出ているのは日を浴びて少しでも身体を温めるためだろうか。
彼らのよそおいは、とても裕福そうにはみえない。いや、ハッキリ言えば貧困層のそれだった。
鉄帝首都スチールグラードから北東の城壁に食い込む形で『停止』したギアバジリカは、そのまま観光資源として活用されていた。
当然ヒトモノカネが流れるからということで周りに人が定着し、そのうち勝手に『ギアバジリカ焼き』とかいう自称名物を作って売り始める。
こういうタフさは鉄帝の良いところなのだが、それにしたって雑多かつ自由だ。
なぜなら集まる人々を、ギアバジリカの管理を任されるに至ったクラースナヤ・ズヴェズダーの者たちはその背景を問わず受け入れていたからである。
彼らは露店を自由に開き、中には建物まで作ってしまう者まで現れ、それは次第にエスカレートし、革命派が『有力派閥』として拠点化出来る程度には、この場所は成長してしまったのである。
「聞き取り調査、おわったですよ!」
ブランシュ=エルフレーム=リアルト (p3p010222)がフライトユニットを操作しながらゆっくりと降りてくる。
「そちらも終わったですよ?」
ちょっとひねった口調で問いかけてくるブランシュに、マリアが『勿論さ!』といってバインダーを翳してみせる。ヴァレーリヤは目をぱちくりさせていただけが、どうやら彼女のぶんまでマリアがやったらしい。
「見せてくれ」
そう言いながら近くの建物から出てきたのはシラス (p3p004421)。彼も同じバインダーを手にし、マリアとブランシュから受け取ったものを照らし合わせ始める。
「あとでちゃんとまとめてみないとハッキリしたことは言えないが……どこも生活レベルの低下が深刻だな」
「そうなのですよ」
シラスたちが調べたところ、『革命派』に属する人々の大半は非戦闘員だ。言い換えるなら『町の住民』であり『一般人』である。
彼らのうち元々ここに暮らしていた者やクラースナヤ・ズヴェズダーの教徒として活動していた者は半数程度。残り半数は新皇帝即位後に住処を追われた難民達で、革命派はそれらを背景問わず受け入れていた。
革命派もといクラースナヤ・ズヴェズダーの理念は弱者救済であり、それは言い換えれば『相手がどんな人間であると受け入れる』という姿勢だ。
こうした『善意の道』はひとの悪意こそが弱点と思われがちだが、本当の弱点は違う。
「すべてのひとを受け入れるなら、すべてのひとを養う力が求められる。身体から無限に麦が流れ落ちる聖人ですら難しいことです」
楊枝 茄子子 (p3p008356)が話に加わってきた。
物資の搬入を終えた舞花と、それを手伝っていた茶屋ヶ坂 戦神 秋奈 (p3p006862)もだ。
「なになに、なんのはなし? さっきさロンマ爺ちゃんに会ってきたんだけど冬越すの無理そうだって。みんな不安になってきてるつってた」
「まさにその話ですよ」
「マジで?」
革命派が直面している問題。それはひとえに難民問題である。
彼らを広く受け入れたことで、ギアバジリカとそれに連なる居住区のキャパシティが圧迫されているのだ。
「建物自体はプレハブを適当に積み上げれば解決する。けど、冬を越すには暖房器具が足りなさすぎる」
「貴族からの支援物資では流石に足りませんからね……」
腕組みし難しい顔をするシラスと、弱った表情の舞花。
ブランシュが資料をぱらぱらと捲ってから、そびえたつギアバジリカを見上げた。
「ギアバジリカの動力は使えないのですよ? あれだけおっきなものを動かしていたんだから……」
「うーん……」
真っ先に微妙な顔をしたのはヴァレーリヤだった。ギアバジリカの『動力炉』を知っている人間からすると、あれを稼働させるのは絶対にノーだ。
とてもはしょってものをいうと、子供を大量に炉に放り込んで命を燃やすと動く炉というものが、ギアバジリカがいまのギアバジリカになるずっと前に存在していた。結局は反転したアナスタシアの魔力によって代替され、発見された炉も完全封鎖(あるいは破壊)されたわけだが。
マリアが資料を翳しながらギアバジリカをあおぎみる。
「一応、比較的クリーンな動力炉は機能しているんだけど、ふもとにできた町への電力供給でいっぱいいっぱいなんだ。むしろ、人口増加の影響で足りなくなってきてる」
ギアバジリカは(主にイレギュラーズたちが)各所をぶっ壊したおかげで歩き回ることはなくなっている。特に足を入念に破壊したことで動くことはほぼないだろうと見られていた。なので必要そうな電力は町に回してしまおうとはからったのだが、こうも増えてしまうと限界だ。
むしろ、ギアバジリカを利用していなかったらここまで持ちこたえられなかっただろう。
「冬が来る前に対処が必要、ですね」
「でもどうやって?」
「それなら良い方法が」
茄子子が別の資料を取り出した。『プチバジリカ』と書かれた、少し古い資料だ。
「ギアバジリカ事件のおり、本体からいくつか分離した個体が存在しました。
『プチバジリカ』と俗称されるこれらはみな破壊され、その部品も軍に回収されています。
ですが一部は民間人に確保されたままになっていて、それらがレイダー(略奪者)の手に渡っているという情報があります。
いくつかのレイダー拠点を襲撃して、これらを確保すればギアバジリカの小型動力炉を直接『拡張』することができるでしょう」
茄子子の出してきた資料には、いくつかの候補が記されている。
戦力的にみて、少人数で攻略可能な拠点ばかりだ。
「中にはプチバジリカを修復・改造して利用するところもあるかもしれません。襲撃を行うなら念のため、気をつけて作戦に当たってくださいね」
- <総軍鏖殺>I'ts no use crying over spilt milk完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年10月22日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)と『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
光に対してごく僅かにだけ照り返す闇色の糸が、しゅるしゅるとルル家の手元へ戻っていく。
「そういえば確かにあの時いっぱい機械が排出されてましたからねえ。プチバジリカですか……。お誂え向きといったところですね!」
ルル家が錆び付いた鉄塔の上から見下ろすと、平たい建物を見渡すことができた。
頑丈そうな屋根や壁。看板のようなものはなく、下調べした内容によればここは時計工場であったらしい。
「新皇帝即位のおりに、モンスターの襲撃を受けて職員の大半が犠牲になったそうですが……その後レイダーの拠点になったと?」
「らしいね?」
ほぼ疑問形で返してくる秋奈。
過去や経緯は知ったことではないという雰囲気だが、ルル家とてそこは同意するところだった。
「それよりさールルハウスー、なんか派手なバイクない? くそデカくてフロントに棘とかついてるやつ」
「どんな世紀末ライドですか」
ルル家はワイヤーを足元に巻き付けながら起用に鉄塔を滑り降りると、ふもとにとまっていた軍馬型ロボット『レクセル』の背に跨がった。
「拙者がもってるのはこれだけです」
「あー! ずるい! 私もそういうの乗りたい乗りたい! あーあー、ストライカーユニットが分離してこう、飛行機? みたいに? なって? 立ち乗りしたらかっけーのになー」
「作ればいいじゃないですかそういうの」
などといいながら、まず工場への突入を開始した。
――『パスケード』。
鉄帝国北部の古いスラングで、横暴な狼を指す言葉である。このスラングを名乗るレイダー集団は随分と前に大規模な強盗傷害事件を起こしたことで収監されていたが、新皇帝によってその他全ての囚人と共に釈放されたことで自由となり、このパラテック時計工場を襲撃。発電ユニットとして回収、利用していたプチバジリカを奪取したのだという。
その後はプチバジリカを供給源としてエネルギー兵器を運用。周囲の村落から略奪を行い、長らくこのあたりは廃墟だらけとなってしまった。
「そんな現場に私ちゃん参上!」
大きな窓ガラスをクロスアームでぶち破りながら、秋奈は工場内へと転がり込んだ。
機械の多くは停止、あるいは解体された工場内は酷く荒れ果て、秋奈は『掃除をまるでしない住民のアパート』という単語がふと浮かんだ。
とはいえレイダーたちはそこで生活をしていたらしく、突然の襲撃に驚きつつも立ち上がった。
エネルギーブレードを握り斬りかかってくるレイダー。この期に及んで棘のついた肩パットをつけているあたり、鉄帝国の内乱を楽しんでいるクチらしい。
「ひゃっはー! 身ぐるみはいでやんぞこらー!」
秋奈は意気揚々と相手のエネルギーブレードを弾き、ストライカーユニットからエネルギーを噴射したかと思うと相手をあろうことか蹴り飛ばした。
その一方……。
「ちょっとだけ大人しくしてください!」
ルル家は大量の暗器によって鎮圧したレイダーたちを壁や床に貼り付けるようにして固定すると、ケーブルだらけで見るも無惨になったプチバジリカを掘り出していた。
大きさにしておよそ軽自動車程度。カバーを分解して必要な動力炉だけ抜き出したなら、それこそ自動車のエンジン程度まで小さくなるだろう。
「うーん……折角ですし、このまま修理しちゃいますか」
ルル家はどこからともなく大量の工具をじゃきっと両手に取り出すと、アニメでしか見ないようなアーク溶接オンリーの修理テクによってプチバジリカをその辺のジャンクパーツと組み合わせジャンク・プチバジリカとして再組み立てしてしまった。
「さぁ、目覚めなさい! ぷちばじりかーズ!」
「ギョ……」
変な音をたて、四本足で立ち上がるちっちゃい聖堂めいた物体。試しにルル家が『起動!』と叫んでみたら正面の小窓が開いてちっちゃい鳩の人形がポッポーとかいって飛び出した。
●『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)と『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)
「私達の頑張りに皆の暮らしが掛かっているのですもの。頑張らないとですわねっ!」
ヴァレーリヤが横ピースかつウィンクかつペロ出しで言った。
あ、もうひとつ。
軍用マシンガンで武装していたレイダーの後頭部をブーツでふみながら言った。
「ぶはあ!」
泥に顔を押しつけられていたレイダーが顔をあげる。
「人の心がねえのか!」
「ちょっと教えてもらいたいことがあるのだけれど、よろしくて? 私達、こういう機械(プチバジリカ)を持っている拠点が、他にどこにあるかを知りたいのだけれど」
「ああん!? 誰が教えごぶぶぶぶぶ」
また泥に顔を押しつけられるレイダー。
「ぶはあ! おいそこの! そこのお前! なんで見てるだけなんだよ!」
「たくさん頑張って皆が少しでもいい暮らしをして安心して過ごせるようにしようね!」
にっこりわらって、マリアはヴァレーリヤだけを見ていた。
「だめだこいつ話が通じる相手じゃねえ!」
とか言ってると、マリアがそっと近寄って二本指をレイダーの額に近づけた。
「君達、早く答えた方が身のためだよ? ヴァリューシャは優しいけど、この私はヴァリューシャほど優しくないからね……」
ちょっと開いた指からバチッと赤い電撃が流れる。スタンガンでも近づけられたような恐怖に、レイダーが首を大きく横に振る。
「ええ、断って頂いてもよろしくてよ。ただその場合、代わりに貴方達の身ぐるみを根こそぎもらっていくけれど。一滴の水も食料もなしでひろーい荒野に放り出されるのと、どちらがよろしくて?」
「君達は幸運だね。ヴァリューシャに身ぐるみ剥がされて、手ぶらで荒野に放り出されるなんて……! 私なら少しずつAPを削って0になった瞬間バリバリ感電させ続けるのに……」
「もうすぐ冬だぞ! どっちも死ぬじゃねえか!」
「そう懇願したであろう人々から、あなたは奪ったのではなくて?」
それまでとワントーン異なる声を発したヴァレーリヤ。
レイダーの表情も、そのトーンによって凍り付いた。
「やったね! ヴァリューシャ! 超平和的に解決出来たね!」
「よかったですわね、マリィ!」
情報をはいたレイダーによれば、この先に存在する警察署がレイダーによって占拠されているらしい。
重要なのは、その警察署にはかつて回収されたプチバジリカが収められており、軍と若干折り合いの悪かった彼らはそれを収めたままにしていたということである。
レイダーがそれを手に入れどうしたのかというと……。
「出な、マイパピー」
サングラスをかけた陰険そうなレイダーが命令を出すと、上部に人間が立ち乗りするスペースがつくられた改造プチバジリカがヴァレーリヤとマリアの前に出現した。
「俺たちは『力』を手に入れた。もはやテメェらにはひれ伏す以外の選択肢はねえんだよおお!」
プチバジリカがガシャガシャと機銃を展開。乱射する。
ゲラゲラと笑うレイダーたち。だが、銃撃によってあがった煙が晴れると、そこにあったのは電磁ウォールを展開し立ちはだかるマリアの姿。
「怪我はない? ヴァリューシャ」
「ありがとう、マリィ。……あら、はねた小石で膝に擦り傷が」
「万死(kill you)!」
言語の狂ったマリアがギュインってレイダーをにらみ付けると、足元に出現させた反発プレートを踏んで急発進。腕からブレード状の赤い電撃を出現させると、高速回転をかけながらプチバジリカの武装を次々に切り落としてしまった。
あまりに素早い切断に、プチバジリカがただの愉快な乗り物へと変貌していく。
ヴァレーリヤはメイスを手に取ると、プチバジリカから転げ出たレイダーめがけそれを振り下ろし――とみせかけ、顔面の寸前で停止させた。
「勝負、ありましたわね」
●『航空猟兵』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)と『純白の矜持』楊枝 茄子子(p3p008356)
首都付近。小規模シェルターとして機能していた鉄帝式ショッピングモールは、鉄板やパイプを大量に貼り付けたことで文字通りのシェルターと化していた。
残念ながら、それがレイダーのためのものになってしまったのだが。
「弱者救済を行えるのは、施しができる力を持つものに限られます。弱者であるうちは弱者を救う事ができない。ままならないものですね……」
建物の前に立つ茄子子。袖の下に入れていた木製の『免罪符』を取り出すと、三枚のそれを扇状に広げた。
「いずれ全てのものを救済するためにも、まずは地固めと参りましょう。空を飛ぶ為には、地に足をつける必要がありますから」
シェルター正面の扉が開き、外でだらだらとしていたレイダーたちが武器をとってこちらへと殺意を向ける。殺意は無数の鉛玉となって飛来するが……。
「任せましたよ、ブランシュさん。か弱い私を守ってくださいね」
ふふ、と薄く笑う茄子子。免罪符に書かれた文字が本来と異なる文字の光を持ち、彼女の頭上を飛び越えていくブランシュを聖なる微光が包み込んだ。
「流石に麦は出ませんが、治癒の奇跡なら私も無限なんですよ」
茄子子の言うとおり、ブランシュめがけてぶつかってきた大量の弾幕は、ぶつかったそばから『キャンセル』されていく。それも、相手の残弾が尽きるまで。
「今日も今日とて革命の為に! ……それにしてもプチバジリカなんて物があるなんて知らなかったですよ。動力源として使えるのなら、これ程ありがたい事はないですよ。きっちり頂いていくですよ」
ブランシュはそんな治癒力と己のタフネス。そしてなにより凄まじい高速機動によってレイダーたちの間をすり抜け、メイスで次々に殴り飛ばしていく。建物屋上から狙いをつけようとするレイダーを簡略化したブラスターメイスで撃ち落とすと、そのまま屋内へと突入した。
「貴方たちも、いつか救済しなければならない存在ですよ。
なので貴方達には選択肢を与えます。
共に弱者を救済しましょう! こんな所で人から奪わないで分け与える善人になりましょう! 自由、平等、博愛!」
「何言ってやがる! テメェなんざ――」
サブマシンガンを突きつけたレイダーの射撃――をすべて回避し鼻先まで迫ったブランシュは、腕から展開したブレードの先端を彼の鼻先で停止させた。
あまりの実力差に、ぽろりと銃をとりおとすレイダー。
両手をゆっくりとあげる。
「自由、平等?」
「は、博愛!」
「満点ですよ」
ブランシュは相手の頭をがつんと殴りつけ気絶させると、そのまま建物の奥へと突き進んだ。
情報によれば、このシェルターではプチバジリカの動力炉を取り出し発電機として利用していたらしい。
実際、これだけのシェルターの電力をまかなえるのであれば願ったり叶ったりだ。
「このままシェルターごと活用することはできないですよ?」
「どうでしょうねえ……レイダーに占拠されたところを見るに、立地が悪すぎた気がします」
防衛可能なだけの軍事力を配置できればあるいは……と茄子子は考え、そして地下室への扉を開けた。
大量の配線に繋がれた、自動車用エンジンを一回り大きくしたような物体。
「プチバジリカの討伐記録は、実はローレットにもあるのです。当時は区別されずに『ギアバジリカ』あるいは『ギアバジリカの一部』と称されていて、自律戦車のように扱われていたようですね」
「?」
小首をかしげ、言葉の意図を探るブランシュ。
茄子子はそれ以上言わずに、配線をひとつひとつ抜いていった。
「ギアバジリカには取り込んだものを改造する機能がある。それもある程度は自律して、自動的に」
ギアバジリカが鉄帝国をまるごと食らいつくし、巨大な『移動国家』になっている未来を少しだけ想像し、茄子子は小さく息をついた。
皮肉にも、そうなったほうがいかにも『鉄帝国らしい』。けれどそこに、人々の幸せはないだろう。
この拠点の情報はブランシュがレイダー集団の中に紛れ込み、こっそりと集めた情報から見つけたものだ。
都市を蹂躙しかけた兵器が、欠片とは言えよもやただの発電機と化しているとは。
ものは使いようなのだろうかと、ブランシュはふとひとりごちた。
●『竜剣』シラス(p3p004421)と『氷月玲瓏』久住・舞花(p3p005056)、あるいはそのいずれか
ペアを組む。と、いったはずだが。
「こいつは、実質俺ひとりじゃあないのか?」
両手をジャケットのポケットに入れ、首までぴったりとファスナーを閉じ、笑う猫がプリントされたフードを被ったシラスは。全方位を完全武装のレイダーに囲まれた状態でぽつりと呟いた。
囲む人間はわずか。と見えて、実はその外側に更に大勢。そのまた外側に大勢。ずっとずっと景色を引いていけば、彼が今鉄帝北部の谷をがしがしと移動する『移動拠点』の上に立っていることがわかるだろう。
「逃げようってぇ考えは捨てな。この『キリングフィールド』に乗った時点でテメェの死は確定した。どうやって俺らの『お楽しみ』になるか選ぶだけだ」
「殺せェ!」
「せいぜい可愛く鳴けよォ!?」
「ヒャッヒャッヒャ!」
囲むレイダーたちの言葉が、シラスの心をまるで空気のように通り抜けていく。
対するシラスは黙ったままだ。
「まずは足からだ。一本使えなくなったくらいで泣くなよォ!?」
オラァといってシラスの右足めがけてナイフが放たれ、シラスはそれを絶妙なタイミングで蹴り上げた。
「は?」
回転し、真上に飛び、わずかにずれた位置に落ちて刺さる。
シラスは片足を上げた姿勢からゆっくりと地に足をつけると、ポケットから手を出しファスナーを少しだけ下ろした。
「なんだろうなあ。こういうとき、主人公ぶってカッコつけた台詞を吐くと……同じステージに落ちたみたいでかえって格好悪いよな」
「ぬかしやが――」
ここからは、もはや描くことすら難しかった。
気付いた時には周囲にいたレイダーたちが一人ずつ的確に殺され、そのまた外側にいたレイダーたちが怯んで数歩さがったところでシラスはひと呼吸置き、そしてもう一度周囲のレイダーたちを一人ずつ高速で殺していった。
狭い場所で取り囲むのだ。1対何十ではない。1対4~5を何ラウンドかに分けただけ。しかも最初の5人があまりにも圧倒的に殺されたことで、残る人間が怯み引き下がるのだ。
死体がおよそ10体程度になったころだろうか。
シラスはようやく、血塗れになった右手をピッと払った。
「死にたくなければついてきな、どうせこの辺りじゃもうレイダーなんてやれないぜ?」
一方、というよりすこし時間を遡って舞花側。
「あら……」
レイダーが建設したという砦に攻め込んだ舞花たちだったが、シラスが乗り込んだポイントが『建物ごと』立ち上がり、谷に向かって走っていったのだった。
なので実質、舞花だけがレイダーたちをまえに取り残されることになったのである。
三人ほどのレイダーが舞花を左右から囲み、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「男のほうは行っちまったぜ?」
「俺らの奴隷になるなら生かしてやっても――」
はあ。
と、舞花はため息をついた。
下げていた刀は既に抜かれ、男達の首が転げ落ちる。
突然のことに、周囲のレイダーたちが一斉に武器を構えた。
「知らない所でそんなものが散らばって、知らない内に鉄帝の軍部が回収していたというのは苦笑する所かしら。
そして軍の回収から漏れて民間に流出、果ては略奪者の手に渡っているものが多数存在しているとは……。
それが廻り廻って、今になって目当てになろうとしているだから、何が役に立つか解らないものね」
完全に独り言である。
自分達が無視されたと気付いたレイダーたちは、舞花へ一斉に攻撃をしかけた。
といっても、やることは扇状に囲んで銃撃を仕掛け続けるというものだ。
モンスターなどの狂暴な生物を鎮圧するための陣形を即座に組めるあたり、彼らはそれなりの訓練を受けた人間たちなのだろう。
実際それは正しい判断だった。
だったが。
「この状況でも、略奪でまがりなりにも生計を立てている者が少なくない。
……何だかんだと逞しいものね。これが鉄帝人という事かしら」
対する舞花の対応はなにひとつ変わっていなかった。まだ独り言をいい、その場から一歩も動いていない。
そのかわり、彼女の腕と刀は超高速で動き、飛来する大量の銃弾を次々に弾いている。
もし化物じみた動体視力で超スロー映像化できる者がいたなら、彼女へ殺到する弾頭をビリヤードのボールのごとく連鎖的に弾いている様子が見えるだろう。
そして結局のところ。至ったのはレイダー側の『弾切れ』であった。
周囲に大量の空薬莢と弾頭が転がるなか、足でそれをよけながら進む舞花。
「続ける?」
「…………」
レイダーたちは顔をみあわせ、もはやただ重いだけの鋼と化した銃を放り捨てて、両手をあげた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
――プチバジリカの回収に成功し、電力供給問題が部分的に解決しました。
――また、制圧したレイダーの一部は革命派難民キャンプへ加わりました。
――これにより革命派に技術力+10のボーナスが加わりました。
GMコメント
●オーダー
ギア・バジリカ、もとい『革命派』は弱者救済の理念のもと難民を常に受け入れ続けています。
そのため住居問題が深刻化しつつあり、特に包括的な解決がのぞめるエネルギー供給源の確保を今回はかることになります。
このシナリオでは、参加したPCは『メインプラン』と『サブプラン』があり、どちらかを選択することができます。(両方を選ぶことはできません)
詳しい説明は以下を参照してください。
●メインプラン
鉄帝各所(主に首都・モリブデン間に点在している)にて報告されている、レイダーに確保されている『プチバジリカ』の動力炉回収を行います。
当然レイダーの拠点に襲撃を仕掛けることになるので戦闘が必須ですが、当時と今では皆さんの保有する戦闘力が段違いなので1~2人程度でも一拠点落とせたりします。(そのくらいレイダーが小規模に散らばっているせいです)
中には『プチバジリカ』をそのへんのスクラップで修繕して兵器利用するケースもあるかもしれません。
・メンバーとチームの決定方法
たとえばマリヴァレコンビなど、『どうしても一緒に組みたい相手』がいる場合はプレイングにそれを記載してください。
そうでない場合は対応ケースに則して自動で編成が行われます。
場合に寄っちゃ単騎でレイダー拠点を破壊して物資だけ抱えて持ち帰るというパワフルなプレイができるかもしれません。
・敵戦力の解説
レイダーは略奪物で武装しているためその内容はバラバラです。
非力な民間人よりは強いけれど皆さんからすると雑魚が多いといった具合です。
なかには高級な武装で固める強力なリーダーもいるはずなので、戦闘不能リスクは多少あるものと考えてください。
特に警戒が必要なのはスクラップで修理された『プチバジリカ』です。戦闘能力は当時から若干劣るもののコスパのよい兵器として運用されるケースがあります。こいつを出されるとやっぱり結構つらいです。(戦闘能力も割とバラバラなので、具体的な対策がないのも難しいところでしょう)
●サブプラン
これは上記に書かれていないプラン全般を指します。
具体例はあえて出しませんが、「こういう方法をつかってエネルギー問題や住居問題を解決します」というプランがある場合、一人分のリソースを投入することで試すことができます。
(※関係者キャラクターの召喚や利用は影響規模が大きすぎるためこのプランでは行えないものとします)
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
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