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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>闘技場の冬支度

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 冬が近づいていた。
 徐々に風は冷たくなり、人々は冬に想いを馳せる。
 この冬は厳しくなるだろう。
 皇帝が変わり、彼は“弱肉強食”の法を打ち出した。
 強ければ好きに振る舞える。
 弱ければ死ぬ。
 其れは、この冬になれば一段と増す厳しさだった。

 弱いものはどうすればいいのだろう。
 避難民たちは考える。
 ラド・バウという“独立区”に救いを求めて来る者は少なくない。
 乳飲み子を抱えた母親。
 老婆と共に訪れた男。
 彼らは弱いものだ。ならば、鉄帝という国は彼らに死ねというのだろうか。
 そんな事はさせぬと、立ち上がる者たちがいた。



「――其れで、アタクシに提案をしてきたのですね?」

 ラド・バウに設けられた一室。
 レディ・ホワイトと呼ばわれる“査問委員会”常任委員長の女性は、桃色の髪をした女――レイディ・ジョンソンを振り返る。
 彼女が避難民に対して炊き出しなどを行っているのは既にレディ・ホワイトの耳にも入っていた。レイディ自ら顔を出したという事は、“其れ以上”の何かがあるのだろうとレディ・ホワイトは言う。

「はい。この独立区では冬支度を勧めていますが――何分、労働力が足りません。そして闘士たちを恐れるように、避難民たちはひっそりと暮らしている状態です。――“避難民たちに労働してもらう代わりに、完成した防寒具を支給する”。其れが今のところ出来る、一番の案ではないかと」
「成る程? まあ、闘士は野蛮なものですからね。避難民たちが恐れるのも無理はありません」

 レディ・ホワイトは闘士を快く思っていない。
 ――というのは、周知の事実である。闘士の審問・権利はく奪などの権利を持つ査問委員会に属する彼女が、闘士に良い印象を持っているだなんて誰も思わない。
 其れは彼女が“息子を失ったからだ”という者もいる。其れは兎も角として。

「案としては悪くないでしょう。ですが、闘士が直接避難民の元を訪れても、恐怖しか与えないのでは?」

 レディ・ホワイトはどこまでも公正だ。公正でありたいと願っている。
 闘士への気持ちはあくまで私的なもの。査問委員会の長としてはあくまで、誰にも付かぬ中立派でなければならないと思っている。
 其れをレイディも知っている。“だからこそ”“中立派として影響力を持つ”彼女へと提案を持ってきたのだ。

「ええ。ですので――イレギュラーズに其の間を取り持っていただこうかと思っています」
「……」

 窓の外を見ていたレディ・ホワイトが、初めてレイディを見た。

「そもそもこの案も、我々ラド・バウ独立区に協力しているイレギュラーズ達からのものです。鉄帝の冬は厳しい、其れはレディもご存じの筈」
「ええ。……成る程。彼らを緩衝材としたいと」
「はい。勿論無料で配る訳にはいきませんし、まともな物資が集まっている訳ではありませんから――代価として避難民には、其れ等を加工して貰うのです。加工して貰ったもので冬を凌ぐ。――今は其れしか方法が無いかと」
「……そうですね。ただ安穏と過ごすには、鉄帝のこの冬は厳しすぎる」

 レディ・ホワイトはレイディの前に立つ。
 ――僅かに緊張する。レイディもまた闘士なれば、査問委員会がどれ程恐ろしいかを知っているからだ。

「レイディ・ジョンソン。アナタは炊き出しが得意だと聞いています。――食糧庫の使用を許可しますから、彼らに何か――暖かいものでも作っておやりなさい」
「……レディ・ホワイト!」
「何も出来ない者に、“何も出来ないまま冬を過ごせ”というほどラド・バウは非情ではありません。……ただし、何か問題を起こした者がいれば、ただちに報告するように。庇い立てしてもアナタにはなんの益もなくてよ」
「判っております」

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 久し振りの通常シナリオです。
 物資の支給という提案があったので、冬支度をしましょう。

●目標
 ラド・バウの“冬支度”をしよう

●立地
 ラド・バウ闘技場内です。
 避難民は独立区を頼って来ましたが、闘士を恐れているものもいます。
 闘士は物資を渡したいけれども無用な争いを起こしたくない。
 避難民は冬を越したいけれども物資がない。そして闘士を恐ろしく思っている者もいる。
 そんな状態です。
 イレギュラーズには其の橋渡しの依頼が舞い込んでいます。

●出来る事
 色々とあります。
 闘士や有志イレギュラーズが集めてきた物資を避難民に渡したり、
 どうやって冬に耐えうる防寒具にするのかを教えたり、
 また、冬に役立つ知識を教えたり、
 外でレイディが行っている炊き出しに避難民を案内したりも出来るでしょう。

 大事なのは“冬に暖かく過ごすためのノウハウを教える事”です。
 闘士と避難民の心の距離は、然程心配する事ではありません。
 其の為のイレギュラーズなのですから。

●EXプレイング
 闘士の関係者がいる場合は、其の闘士についてEXプレイングで行動を書いて頂いても構いません。
 他にも何か提案がある場合などご利用下さい。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。


 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • <総軍鏖殺>闘技場の冬支度完了
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
ライ・ガネット(p3p008854)
カーバンクル(元人間)
クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(p3p010347)
アーリオ・オーリオ

リプレイ


「冬は確かになぁ」
 『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)はうんうん、と秋風に吹かれながら頷く。秋風でもぴゅうと冷たいのに、これから鉄帝の厳しい冬が訪れるのだ。何とかしてやりたい、と思う気持ちが沸くのは洸汰にしてみれば当然の事。
「ああ。鉄帝の冬はキビシイからね! 特に子供や老人が耐えられる環境を作らなきゃ!」
 ――曰く。
 難民が破滅的な行動を取り始める一つのパターンは、子どもが死んで状況にゼツボウしたから、なんて事もあるそうだよ。『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は一つの例を語り、そうはなりたくないし、したくないよね、と皆を見回す。
「そうね。……まず身体を暖めるには、食べる事。そして安心して食べるには、働く事だわ」
 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が頷く。この先に知り合いの闘士が、炊き出しをして待っている筈。其れをただ受け取るのは、避難民の心の負担を増やしかねない。“働いた代価として食事を貰う”。そうやって天秤に均等に錘を乗せる事で成り立つ信頼というのもあるのだと。そうして生活のサイクルというのは巡っていくのだと。
「安心シテ ミンナ 働ケルヨウニ 冬 暖カイ 過ゴセル 頑張ル」
 『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)がゆっくりと巨体を揺らす。かつて共に過ごした少女を想う。きっとあの子なら、助けに行こうと言った筈だから。
「しかし、いまでもまあまあ寒いな……ここから更に寒くなるっていうなら、きちんと備えとかないともたなそうだぞ」
 鉄帝の冷たい洗礼を毛並みに浴びながら、カーバンクル――の姿をした『カーバンクル(元人間)』ライ・ガネット(p3p008854)が尻尾を揺らす。己でさえ寒いのだ。人間が感じる寒さは推して知るべし、であろう。
 大丈夫か、と振り返る先は『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)。馬車を引いているから、クルルに合わせて一行の歩調はゆっくりだ。
「あ、大丈夫。ありがとう……! 其れにしてもライちゃんの言う通り、本当に寒いね…防寒着を多めに積んできて正解だったかも」
 花も木も、冬は固い冬芽になってじっと耐えるものだけど。そうやって身を縮めて春を待つばかりでは、先に心が参ってしまう。
 何かあると良いな。ただ衣食住を満たすだけじゃなくて、そのもう一歩先。そう思って、クルルは“秘策”を馬車に積んである。
「……だから、ライ“ちゃん”ってのはやめろっつってんだろ」
「だって可愛いんだもん」
「まあまあ。喧嘩しない、喧嘩しない」
 喧嘩じゃない、と二人に言われて苦笑を浮かべる『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)。しかし本当に寒いね、とそっと話の矛先を変える。
 余裕がない環境では、闘士と避難民の歩み寄りなど出来る筈もない。何をするにしても、まずは暖かくしなければならないだろう。
「そうだよね」
「そうですとも! できれば、もう数か月早ければ余裕を持てたのですが」
 『アーリオ・オーリオ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(p3p010347)が物憂げに言う。其れはつまり、帝位の簒奪もまた数か月前に起きてしまうという事。難しい問題です、とアンジェリカは呟く。けれども、文句を言ったところで時は巻き戻らないし、そもそも避難民という存在が出来たのも帝位の簒奪が起きたからこそ。ならば急ごしらえでも付け焼き刃でも何でも構わない、今を、これからを過ごすための知恵を振り絞らなければならないとアンジェリカはクルルの引く馬車を見るのだった。



「えぇ」
 判ってますとも。
 故にアンジェリカは頷くのである。
「まずは冬に必要なのは、燃料! これに尽きます。あればあるだけ冬の寒さはグッと楽になりますからね。此処は私がサクッと作ってしまうしかありません」
「設備などの事は刻見様とフリークライ様にお任せします。私は――そう! 鉄帝式の! 兎に角働き! 動き! 工夫や効率を上げていく術を皆様にお伝えします!」
 其の為には燃料が必要だ。アンジェリカは適当な水を汲んでくると、指をそっと水に沈めてくるくると掻き混ぜる。そうすると、どうだろう。其の色がみるみる葡萄色に染まり――
「……この香りは、」
「酒か?」
 避難民とて鉄帝の民。酒を好み戦を好むものはいる。聡く気付いてアンジェリカの周りに、人々が集まって来る。
「燃料です! ええ、作れる限り作りましょうとも。こればかりは調達するにも限りがありますからね! 作り終わったら皆様に、身体の暖め方を教えます。最小の労力で、最大の熱量を出すのです。そうすれば防寒具を何枚も着込む必要はありません。余ったものを皆で分け合う事が出来ます」
 其れから――と、アンジェリカは葡萄酒を作りながら集まってきた避難民を見遣る。怪我人がいれば対応するためだ。大丈夫。神秘的な手段も、物理的な手段も心得ている。いざとなれば高濃度の葡萄酒を作り、アルコール消毒用に置いておくことも出来るだろう。
「食事の方は……司書様にお任せしますね」
「ええ。さあ、長旅ご苦労様。ご飯の用意もしてるから、どうか私たちの事を助けて頂戴」

 ――ご飯?
 ――あら、美味しそうな香り。

 男性が酒の香りに敏感なら、子どもと女性は食事の香りに敏感だ。イーリンが呼んだ闘士、レイディが炊き出しの為の大きな鍋をぐるぐると掻き混ぜている。
「クズ野菜や皮にもちゃんと栄養はあるし、こうやってスープとして煮込めば柔らかくたべられるわ。さあ、お腹が減ったでしょう? ごめんなさい、お待たせして。皆はどんな所から来たの? どんなものを食べていたのかしら。もしかしたら手に入るかも知れないわ、私に教えて?」
「……」
 にこり、と人好きのする笑顔を浮かべたレイディは、ラド・バウの闘士である。誰もが知る――という訳ではないが、其れでも“こうして己たちをねぎらってくれる闘士がいる”という事実に、人々の心は徐々にほぐれていく。
「あのね、僕の村、おいもがよくとれたの」
 子どもたちはレイディの周りで、わたしは、ぼくは、と口々に喋り出す。今までずっと押し黙っているしかなかった反動のようだ。
「ふふ、沢山教えて貰って嬉しいわ。じゃあ、次に作る料理は皆で決めましょう。――そうだ! 闘士のあの子は何が好きか、とか、そういうのも教えちゃおうかな。……このスープは、皆で分け合って飲むもの。闘士も同じものを飲むわ。ねえ貴方、持って行ってくれる?」
 だってもう、家族だもの。私たち。

 炊き出しがうまくいっているのを確認しながら、イーリンは次の計画を練る。子どもたちは皆レイディの所に行っているので、其の母親たちに教えねばならない。
「空気を挟む事。其れが防寒具にとって最も大切な事よ」
「其の通り」
 ひゅるん、と宙で一回転したライが頷く。防寒の事は己も教えねばならない、と思っていたからだ。己には冒険していた頃に培ったサバイバル技術がある。今こそこの知識を振るう時だ。
「まずは地面に直接接しない事。冷たい地面は体温を奪っていくからな。だから地面にまず何かを敷いて、寒さを防ぐんだ。――風に当たり続けるのも良くない。……風は冷たい、判るよな? 遮るものを何か用意出来れば良いんだが」
「其れならオレに任せろ! みんなー! 闘士のにーちゃんねーちゃんと一緒に縫い物しようぜ!」
 洸汰が開くワークショップ、“ぽかぽかウィンター大作戦!”。避難してきた者の中にいた職人に講師にならないかと声をかけ、そうして、生徒には子どもと闘士を呼ぶ。――子はかすがい、という。同じ話題があればきっと、子どもたちは闘士へと自ずから距離を縮めていってくれるはず!
「では、皆さん。針で手を刺さないように、……ゆっくりで良いですよ。皮と布を合わせて、離れないように縫い付けて……余った端切れは切り落として……」
「切り取った端切れは捨てちゃダメだぜー! こういうのを編み込めば、他にもいろんなものが作れるからな!」

「……あいて!」
 屈強な男が一人、針で手を刺した。剣で斬り合うのとはまた違う緊張感があるな、と、ぷくりと膨れる血玉を見て思う。
「……おにーちゃん、大丈夫?」
 其処に、小さな子どもが一人やってきた。これ使って、と差し出したのは愛らしいハンカチ。
「……良いのか?」
「うん。だって、針でおてて刺すの、痛いもん。ね?」
「……ああ。とっても痛い。お兄ちゃんでも痛かったから、お前は気を付けるんだぞ」
「うん! おにーちゃん、私がぬいものおしえてあげる」



「そっちはどうだー!?」
「おう、良い感じだ!」
 一方こちら、イグナート。ラド・バウ周辺の木々から木材を調達している所だ。
 出来ればよく乾かした方が良い。この鉄帝の冬風ならば勝手に乾いてくれるだろう。乾燥させれば燃料として役に立つはずだ。
「じゃあ、取り敢えずまずはこれを運んでくれ」
「ああ」
 共に作業をしているのは闘士たち。敢えて力自慢を集めて、こうして持って行かせる。避難民たちも今、色々と教わっているところだろうけど……こうして持って行った木材の加工なども教えたらよさそうだ、とイグナートは思う。そうすれば闘士が持ってきた木材に負い目を感じる事無く、“加工した給料として”物資を受け取る事が出来るだろうと思ったのだ。
 あとは薪割りなんかのホウホウも教えてあげれば、闘士と一緒に木材の調達まで出来るようになるかもしれない。
 一番大事なのは冬を越す事だけれど、其の次に大事なのは闘士と避難民のコミュニケーションだ。


「主 気ヲツケタ事……確カ 温度差」
 ラド・バウの舞台裏を狭そうに歩きながら、フリークライはいつかの少女を思い、思考を巡らせる。
 老人、ヒートショック、怖イ。
 寒イ場所 暖カイ場所 温度差 ダメ。身体 ストレス。
 其れを聞きながら、雲雀はそうだな、と頷くのだ。
「こっちに確か……ああ、あった」
 そうして二人が見つけたのは、物置だった。其処には埃をかぶった暖房器具などが置かれている。恐らく熱狂のラド・バウにはこれまで必要がなかったものなのだろう。
「じゃあこれを有難く拝借して……っと。持てるか?」
「ダイジョウブ。フリック 力持チ」
「だよな。あ、勿論君たちにも手伝って貰うよ」
 振り返るのは闘士たちだ。おうよ、と笑う彼らは、何処か不器用そうで。きっと今まで避難民を気にしてはいたが、何も出来ずにいたのだろう。
 壊れているものは雲雀が見て、修理が出来るかを判断する。直せると判断したら、――此処は闘士たちの力には頼れないので、雲雀自身が修理を施していく。
「避難民の中に修理の出来る人がいれば、話のタネになるから――少しだけ壊れているくらいのものは残して、っと」
 ぱ、ぱ、ぱ。
 まるで奇跡のように雲雀の手が動いて、古びた暖房器具を直していく。闘士たちはかいがいしく埃を落とし、皆で少しずつ使えるようにしていく。
「最優先は身体の弱い人、其れから老人だな。其の次に子どもを連れている人に修理したものを配ろう」
「脱水、リスク上昇。ウォーターサーバー、配置検討……水道管、要チェック」
 水道管が凍結する事。其れは恐ろしい事だ。
 水は誰ものライフラインである。勿論このラド・バウで其れをカバーしている設備がないわけはないのだが……念の為みておいた方がいい、とフリークライは提案する。
 生活環境が拡大して、色々と増設したところだから、思いもよらないところからトラブルが生まれるかもしれない。其の為には今あるものを万全にしておくべきだろう、というのである。
 給湯器の配管。凍結防止のヒーター。様々なものがある。これを後で見て回ろう、とフリークライは言う。イレギュラーズが回るのではなく、闘士も一緒に見て回る事で、闘士たち自身が異常に気付けるように為れば良いと思うのだ。



 リュートの音が鳴っている。
 クルルが奏でているのだ。
「冬は家に篭りがちだものね。――退屈こそ最大の敵。そうじゃない?」
 そんな日々には潤いが必要だ。娯楽で鬱屈した冬の雰囲気を吹き飛ばせれば、と、クルルはリュートを奏でる。
 昔取った杵柄、というべきか。炊き出しとワークショップの丁度中間でクルルがリュートを奏でていると、作業を終えた避難民や闘士が集まって来る。
「わあ、綺麗な音」
「いいわね……」
「どう? 鳴らしてみる?」
 素敵、と瞳を輝かせていた女性に、クルルは声をかける。音楽は皆で楽しんでこそ。リュートを差し出すと、最初は慌てていた女性だったが、……其れでも音楽をやってみたかったのだろう。そ、とリュートを受け取り、じゃらん、と鳴らした。
「わあ……!」
「おお、いいねえ! 俺達が戦う時にも、音楽があってな。あれがあると最高に盛り上がる」
 闘士が言う。彼らは武を愛するが、ただ武骨なばかりという訳ではない。何故なら“ラド・バウは鉄帝の娯楽”だからである。
「えっと……私が知っている音楽、といえば」
 女性がたどたどしく、クルルに教わりながらメロディを奏でる。其れはまさしく、ラド・バウでの闘技の際に最もよく使われる曲。
 おお、と闘士たちがどよめいた。これなら判る、と歌詞を口ずさむ。子どもたちに教える闘士もいる。そうして其の内、音楽は徐々に人々の耳へ入り、熱狂となって広がって――避難民と闘士たちが、肩を組んで大声で歌っていた。

 ――誰にも負けない
 ――意地でも負けない
 ――この熱狂は己に向けて

 クルルは奏でる女性を、歌う“民衆”を見て思う。
 冬の寒さになんて、絶対に負けない。寒いからこそ、明るく楽しく過ごさなければならないと。

 人々は謳う。
 冬になど負けるものかと。或いは炊き出しのスープを飲みながら聞く。或いは暖房器具を運びながら、外で木材を調達しながら、裁縫をしながら、歌う。
 誰もが知っている。“このラド・バウこそが自由”だと。



「……ご苦労様でした」
 そうして無事に任務を終えたイレギュラーズ。
 彼らを呼び出したミセス・ホワイトは其の鋭い目線を8名に向けながら一言述べた。
「闘士と避難民の心の距離……すれ違いによる不慮の事故の可能性はほぼ最低ラインまで抑えられた。そういう事ですね?」
「ああ! ホワイトおばさん!」
「こら、お姉さん、だろ」
 洸汰の言葉に、雲雀が叱るように言う。
 構いませんよ、とミセス・ホワイトは涼しい顔をしていた。
「これで一つ、ラド・バウの問題が解決するのなら――おばさん呼ばわり程度、安いものです。査問委員会としても、闘士と避難民が巧くコミュニケーションを取れていなかったのは問題の一つとして上がっていました」
 ミセス・ホワイトは持っていた紙を一枚めくる。其れは洸汰達が作った、今回の報告書である。
「……ですが、闘士に避難民が引きずられるような事があってはなりません。己の力を過信して、武器を取る避難民が出ないようにする必要があるでしょうね」
 イーリンは心中で頷く。イグナートも腕を組んだまま、道理だな、と心中で思う。
 ミセス・ホワイトの言葉は非情にも聞こえるが、在り得ない話ではない。
 強く、脅威に立ち向かう力があるのなら――彼らはそもそも避難などして来ないのだから。闘士と共に戦うと意気揚々出ていって、死んでしまった、では信用問題に関わって来る。
「あとは……皆の要望ですね。出来る限り応えましょう。アナタ達、ご苦労様でした」
 冷徹に、冷静に。
 洸汰達の報告書を存外優しく机の上に置いたミセス・ホワイトは、此れでミッションコンプリートだと皆に告げた。

成否

成功

MVP

クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
ラド・バウとは自由であり。
ラド・バウはその象徴であらねばならない。
皆さんの活躍で、闘士と避難民の心の距離は少しずつ近付いていく事でしょう。
ご参加ありがとうございました!

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