シナリオ詳細
Selfish Girl's Delightful Atelier
オープニング
●わがまま少女、アートにハマる
「最近アートにハマってるの!」
と、イレギュラーズ達の前でそういうのは、ラサの商人、エレディア家の一人娘であるマリベル・エレディアである。
とある豪商との伝手で彼女と知り合ったのは、今目の前でめんどくさそうにコーヒーを飲むシラス (p3p004421)だ。隣にはアレクシア・アトリー・アバークロンビー (p3p004630)が苦笑している。シラスが露骨にめんどくさそうなオーラを出していることに対してだが、しかしマリベルはマイペース(オブラートに包んだ表現)なので、それも気にしていない。
「むー……お上手……なのです……?」
そう言って、困ったように小首をかしげるのはメイ (p3p010703)である。手にしていたのは、マリベルが書いたというアート、イラストである。原色の絵の具が疲れて這いずり回っているようなキャンバスには、かろうじて何か、四足の生き物だと思われるものが描かれていた。
「…………パカダクラ…………?」
「猫ね!」
「えぇ……」
メイの頭の耳がしゅん、となった。猫らしい。でも、猫の口って、こんな……にゅーん、ってなってたかしらん。
「いつ頃からイラスト描き始めたの?」
ジェック・アーロン (p3p004755)が胡乱気な表情で尋ねるのへ、マリベルは得意げに胸を張る。
「三日前よ!」
「えぇ……」
ジェックが肩を落とした。キャンバスを覗いてみると、こんな七色の猫がいただろうか……いや、混沌世界にいるかもしれない。混沌だし。しかしそれにしたって、こんな生き物はいないと思うが。
「絵の先生にも褒められたのよ! こう……シュルレアリスム……? これ、なんか異世界の言葉らしいんだけど、そういうのを感じるって!」
「それって絶対褒めてな」
「おーっと、正純さん、ストップストップ!」
小金井・正純 (p3p008000)が嘆息しつつそういうのへ、伊達 千尋 (p3p007569)が声をあげて止めた。
「まぁ、夢を壊すことはないんじゃないの? ねぇ、シラスよ」
「どうせ後三日で飽きる」
シラスは嫌そうに言った。
「前もそうだ……確か、練達ではやってるフィギュアを作るとか言って、粘土を発掘させられたんだ……ラサの、珍しい粘土が欲しいってんで、砂漠を移動するとかいうオアシスをな、四日かけて探させられた……アレクシアもいただろ、あの時の……」
「ああ、うん……大変だったねぇ……」
アレクシアが遠い目をした。アレクシアがそんな目をするのだから、本当に大変だったのだろう。
「それで、ようやく掘って帰ってみたら、こいつ、なんて言ったと思う?
『シラス、なんでそんな泥だらけなの? とりあえずお風呂入ってきてよ、汚いし。あ、あたしね、今お茶たてるのにこってるの! サドーって言って、豊穣の方の文化なんだって? 飲む?』
だとさ!」
「まぁ、報酬はちゃんともらったんだけどね」
アレクシアがそういうのへ、正純が嘆息した。
「ああ……そういうタイプの……」
「ま、まぁ……そうやって色々試して、夢とかを追うんじゃないの?」
千尋が苦笑する。
「ふぅむ。読めてきました」
散々・未散 (p3p008200)が、ふむ、と言った。
「絵の具探しか……いや、違いますね、このキャンバスの絵の具は、中々上質。だから、ほしいのは……モチーフでしょう?」
「すごい! 流石ローレットのイレギュラーズね! あんた、キラキラしてるし、アートとかも得意そうだからわかるのかしら! きっとあたしと同じタイプ、ゲージュツ家よね!」
とか言うので、未散は涼しい顔で「どうも」と当たり障りのない返事をする。
「モチーフという事は」
エルス・ティーネ (p3p007325)が声をあげた。
「何か……変な魔物を連れてくる、とか?」
「違うわよ。いい? 動かない魔物とか、檻に入れられた魔物みたいなのは、あたしの溢れる才能を受け止めきれないの! そう! あたしが欲しいのはリアル! リアリティこそが絵に力を与えるの――って、この間読んだ本に書いてあったわ!」
「もしかして」
エルスが、何かを察したような表情をした。
「……魔物が実際に動いているところを見たい……いいえ、まさか、私たちが戦ってる所を絵にしたい、とか――」
「そうよ! わかってるじゃない!」
にこにこと笑ってマリベルがそういうのへ、エルスは目を背けた。
「…………」
声が出ない。わかってはいたが、厄介そうな仕事だという事。人間って、こういう時に絶句するんだなぁ、とかぼんやりと思った。
「魔物と言っても、その辺のしょぼいのじゃだめよ。だってシラス達なら、簡単にやっつけちゃうでしょ?
だから、ちょっと強いのが欲しいのよ。で、おっきいやつ! おっきのと、シラスたちが、こう、命を懸けて戦うのを、あたしが描く! これよ!」
「命かけるのは俺たちなんだが?」
シラスがそういうのへ、マリベルはむっ、とした顔をした。
「芸術家にとって、絵をかくのは命をかけるのと同じ意味よ! なんか偉そうな絵描きが言ってたわ!」
はぁ、とシラスがため息を吐いた。
「つまり――」
ジェックが言う。
「護衛と、魔物退治――と考えれば、いつものやつだよね?」
「かっこよく、よ?」
マリベルが注文を付ける。
「じみーに戦って終わり、じゃあ華がないじゃない。か っ こ よ く ! よ! わかった!?」
「うへぇ、スナイパーに戦場の華やかさを注文する? 普通」
「戦うというのは、遊ぶのとは違うのですが……」
しゅん、とメイがうなだれるが、しかしマリベルにとっては、絵物語の一節と同じような感覚なのかもしれない。まぁ、それは仕方ないだろう。マリベルにとっては、これは非現実的なものであり、実感の沸かないものであることなのは確かだ。言い方を変えれば、そう言った『現実を知らないものも生きていける』という現実こそが尊いのであり、その幻想を守るのも、ある意味ではローレットの仕事、であるのかもしれない。
「まぁ、何にしても、依頼は受けちゃったからね」
アレクシアが言った。
「悪いけど、付き合ってくれよ」
シラスが頭をかきながら言うのへ、仲間達は苦笑しつつ頷いた。
目的地は、此処より東にしばらく。先日出土したばかりの遺跡である。地上にて大きな都を気づいていたと思わしきこの遺跡には、当時の番人であるゴーレム達が徘徊しており、特に巨大なマキナ・ゴーレムに、遺跡の調査隊も手を焼いているのだそうだ。
絵にもなって、調査隊の助けにもなる。一石二鳥の仕事よね――とはマリベルの言だが、まぁ、ラサの公益になるならば、やらない理由もあるまい。
そんなわけで、一行は砂漠の遺跡へと出発した。ルンルン気分のマリベルと一緒に、である。
- Selfish Girl's Delightful Atelier完了
- GM名洗井落雲
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年10月24日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●かっこよく行こう!
「ふん、ふん、ふん~♪」
と、上機嫌に鼻歌なんぞを歌っているのは、エレディア家の一人娘であるマリベル・エレディア。依頼人である。
ピーカンなほどに晴れた空。その晴れ渡る空はマリベルの能天気さを表しているようにも見えて、『竜剣』シラス(p3p004421)は人知れず嘆息した。
マリベルの周囲には、シラスを含めた八名のローレット・イレギュラーズ達がいる。具体的に名前を挙げれば――。
『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
『天空の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)
『砂国からの使者』エルス・ティーネ(p3p007325)
『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)
『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)
『魔女の騎士』散々・未散(p3p008200)
『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)
――というそうそうたるメンツである。どのイレギュラーズも「歴戦の英雄」と言っても過言ではないメンバーである。さて、マリベル・エレディアが、彼の八名の英雄を集めて発掘されたばかりの遺跡に来た理由はと言えば、
「今日は絶好のアート日和だね~!」
というわけで、アートである。マリベルは、シラスたちイレギュラーズを、『モデル』にして絵を描きたいわけである。マリベルが持っているキャンバスと筆はと言えば、ラサで手に入る中でも『指折り』の高級品だ。本格的にアートに挑む貧乏画家がいたら、これからこの画材が無残なイラストを描くことに、憤死するかもしれない。それ位の高級品である。
「まったく、エレディアのオッサン。ラサに一代で商家を築いたあたり有能なんだが、マジで娘にはだだ甘すぎるぜ」
シラスが肩をおとす。マリベルには聞こえないように小声で。
「ま、まぁ。えーと」
アレクシアが何とかフォローしようとしたが、いまいちいい言葉が浮かばない。
「でも、お仕事だからね」
「お仕事、確かに。でも、『俺たちの絵』とやら、見るの怖くない? 猫が『ああ』だったんだぜ?」
シラスの言葉に、メイがびくっ、と肩を震わせた。精一杯好意的な見方をしたらパカダクラだった猫のイラストだが、メイの脳裏に『なんだか怖いもの』としてこびりついている。正直夢に出た。ぎゅ、と猫さんを抱きしめながら、
「で、でも、お仕事なのです。
……ところで、かっこよくたたかう、のですか。
考えたことなかったのです……」
むむむ、とうなるメイ。正純は頷いた。
「ええ、まぁ。見得を切る、という所でしょうか。そんなことをしている暇があったら二射目を撃つべきですからね」
「質実剛健~」
いぇーい、と指さして見せる千尋。
「ちょーカッコいいって言ったらやっぱ俺っしょ? ま、今回は、俺がリードしちゃおうかな、みたいな」
「確かに、そう言ったものは得意そうですよね。千尋さん」
正純が感心したように言う。
「そこは……教わることになりそうですね。華やかさと言えば、未散さんもそうでは?」
「そうですね。なんといっても、ぼくは『騎士』ですから」
くすり、と笑う未散。なるほど、確かに、未散の姿は絵になるものだ。姿かたちもそうだが、何より所作が、何かと美しさを感じる。故に『騎士』なのだろう。
「……とは言うものの。そういう対象として観察されると考えれば、少々恥ずかしさは感じます。
戦闘のモーション、そう言ったものも考えるべきでしょうか?」
「う、ううん……カッコいい、カッコイイ……」
むむむん、と唸るエルス。手にした大鎌を、何となく持ち替えたり、回したりしてみる。
「意外と……気にすると、奇妙な感じね。カッコよさ……何なのかしら……?」
マリベルに尋ねたとしても、明確な答えは返ってこないだろう。何せ多分、マリベルにも言語化できないものだ。まぁ、カッコ良さとは、気持ち、なのかもしれない。憧れとか、そういうもの。
「でもさー、大鎌とか、普通に戦ってるだけでかなりイケてない?」
千尋が言う。
「別のチームにもいたわ、鎌とか死神とかのイラストの旗掲げてるやつら。オリジナルのステッカーとか作ってるチームもいたな」
「大鎌ってかっこいい……?」
エルスが小首をかしげた。
「でも、ジェックさんの狙撃銃とかの方が格好良くないかしら……?」
「それは」
ジェックが鼻の頭をかいた。
「隣の芝生は、って奴じゃないかな……うん。それに、アタシの銃は、そういう、美術的なアピールポイントはないよ」
「美術的なものではないと思いますよ、格好良さというものは」
正純が言うのへ、アレクシアが続く。
「そうだね。ジェック君が狙撃姿勢に入る時、銃も含めて、カッコイイ! って思うよ」
「そうかな……」
ジェックが少し気恥し気に視線を逸らす。「そうなのですよ」とメイが笑った。
「それに、カッコよさで言うならば、メイも難しいのです。メイはその、回復術が得意なので……」
「ヒーラーだってかっこいいぜ」
シラスが言った。
「戦線を支えるってのは凄い覚悟がいるもんさ……ま、マリベルがそれを理解してるかはわからんけどさ」
「む。あたしだってそういうのは分かるわよ」
マリベルが頬を膨らませた。
「ほんとかよ。お前派手好きだもんなぁ」
「確かに派手なのは好きだけど、それはそれだし? っていうか、シラスの方こそ大丈夫なの? あんた割と地味よ?」
売り言葉に買い言葉であったが、シラスはわずかに、ぐ、と唸った。地味。確かにそうかもしれない。そもそもシラスの得手は『素手』である。厳密には、そこに魔力を流し込むことで様々な格闘術には制するわけだが、それはそれとして。
「……大弓、大鎌。魔法杖に、狙撃銃に刀。メイは鐘も使うし……」
シラスがじろり、と千尋を見るのへ、千尋は肩をすくめてみせた。
「俺はクールでスタイリッシュだし?」
「うっせ、やってることの見た目は俺と同じだろ」
シラスが口をとがらせる。千尋は自分に自信があるのだろう、楽しげに笑った。
「さておき――じゃ、まずはカッコいい所を軽く見せようじゃないの」
千尋が言う。ずず、ずず、とあたりから何か重いものを引きずるような音が聞こえていた。それは、小さな――と言っても3mほどはあるが――ゴーレム達の群れだ!
「コモン・ゴーレムなのですね……!」
メイが、さっと武器を構える。りりん、となる鐘。そこにぶら下がる様に、ねこさんが引っ付いている。
「はぁぁぁぁねこさん! ここは危ないのです! 今から戦うことになるから逃げぴゃああああ!」
わたわたと鐘を振ると、かららん、りりりん、と激しく鳴り響く。ねこさんはたのしげににゃあ、と鳴いている。
「メイ君、援護をお願いね!」
アレクシアが叫んだ。杖を振り上げると、赤く燃えるような無数の魔力片が中空に浮かび上がり、コモン・ゴーレムのうち一体を貫いた。それはまさに、彼岸花が咲くがごとく。無数の赤が、コモン・ゴーレムの身体を焼いて、その使命を終わらせる。
「わっ、カッコイイ!」
マリベルがそう言って前を飛び出そうとするのを、千尋が叫んで制止した。
「おっと危ないぜ? これ以上前に出ると俺のカッコよさに目をやられちまうんだ」
笑ってウインク一つ――マリベルがきょとん、と「う、うん」と頷いた。
「というわけで、此処で俺のカッコいい戦いを描いてくれよな?」
千尋が駆けだす。そのまま、高らかにジャンプ――空中でその手を力強く握り、コモン・ゴーレムの頭部に振り下ろす! 落下の勢いを乗せた一撃が、コモン・ゴーレムにぶち込まれた! ぐしゃり、とコモン・ゴーレムが粉砕される!
「ジェック、お願い!」
「了解」
ジェックが静かに呟いた。同時、放たれた狙撃銃の弾丸が、コモン・ゴーレムを粉砕する。千尋はその爆発の勢いを全身で受けつつ、空中でひらりと態勢を整えて着地。
「うっし、ナイスタイミング!」
「なんかダシに使われた感じだね?」
ジェックが肩をすくめる。いずれにしても、コモン・ゴーレムたちがイレギュラーズ達の勢いを止めることはない。一方、もう一人のスナイパー、正純は弓の弦を引き絞り矢を解き放った。
「ラサの嵐、その身に受けなさい!」
小声で「は、はずかしぃ……」と付け加えつつ。解き放たれた矢は、中空で炸裂すると、その場にラサの嵐を巻き起こした。砂嵐が、礫のごとくなってコモン・ゴーレム達を撃ち抜く! ラサの熱砂の内に囚われたコモン・ゴーレムたちが、次々とその身を土くれへと変えていった!
「え、ええと、正純さんみたいに……?」
正純のセリフを旨に浮かべつつ、エルスは大鎌を振るう。
「ええと……さ、砂漠に宿りし赤犬の咆哮を聞きなさい……とか!?」
言葉と共に、強烈な大鎌による斬撃を繰り出す。鋭くも重い一撃が、コモン・ゴーレムを切り裂いた。ず、と音を立ててコモン・ゴーレムが分断されて、地に落着する。正純が指をさした。
「私、ああいうこと言ってました? 赤犬、とかはいっていなかった気がしますが?」
「ふふ、どうでしょうね?」
涼しく笑う未散である。さて、騎士たる未散は、悠然とマリベルの前に、盾として立ちはだかっている。
「さてさて、ぼくは騎士です故に。守りこそがその本領ではあるのですが。
姫のお望みとあらば、ええ、ええ。前に出ることもいたしましょうとも!」
未散がふっ、と踏み込む。同時に、抉る様な上段の回し蹴りが、コモン・ゴーレムの胸を穿った。
「常人が相手なれば、頭を抉る一撃です」
間髪入れず振るわれる二撃目! 横なぎの蹴撃! 腹を折る一撃が、コンマ4秒、鳴り響く。一秒の後に、くずおれるゴーレムの音。
ぱん、と手を鳴らす。
「くれぐれも、真似などはなさりませぬように――」
「うっし、こいつで仕舞いだな!」
シラスがダッキングの要領で敵の攻撃を回避しつつ、近づく。そのまま、上空へとコモン・ゴーレムを蹴り上げた!! そのまま、上空に向けて手を突き出す。破壊魔術の奔流。空中で爆散したそれは、花火にも似ていた。
「っと、こんなもんだ。マリベル」
シラスが得意げに言う――マリベルの瞳は、ヒーローを見るかのようなキラキラとしたものだった。
「すごい、すごいわ! 確かに皆、かっこいい!」
ぱちぱちとマリベルが手を叩く。シラスがわずかに気勢をそがれた。素直に褒められたので、気が抜けたのだ。
「あ、ああ。じゃあこれで満足して――」
そういうシラスに、マリベルは「はぁ?」と声をあげた。
「これからが本番じゃない。遺跡の奥に潜むマキナ・ゴーレム! これをさらにかっこよく倒して頂戴!」
シラスの口元がひくついた。
そう言えば、そんな話もしていたことを、今思い出した。
●もっとかっこよく行こう!
遺跡の最奥には、巨大なゴーレムが鎮座している。体のあちこちに走る魔術紋様は、
「加速の魔術紋様だね。詳しい術式は調べないとわからないけど、見た目より素早くなってるはずだよ」
というアレクシアの分析の通りである。戦闘に入ったイレギュラーズ達は、この瞬間に強烈な素早さ(EXA)で縦横無尽に動き回る、ゴーレムの強力さを身をもって感じていた。
「ちっ、アレクシアの言う通りだ!」
シラスが飛び跳ねる。そこへ、ゴーレムの鋭くも重いナックルが飛び込んできた。
「なんつう速度だよ、まったく!
マリベル、一応言っておくけど、お前は剣を抜くなよ!? 絵に集中していてくれ、怖いから!」
そういうシラスへ、マリベルは困惑したように尋ねた。
「何が怖いの!? あたしの才能!?」
「お前後でぶん殴るからな!!」
ゴーレムが殴り掛かるのへ、シラスが再び跳躍して回避。そのまま、零距離魔術衝撃波をぶち込む! ばぐぉん、と強烈な音が響いて、ゴーレムの身体が傾いた!
「アレクシア、頼む! 動きを抑えたい!」
「なるほど、了解だよ! ええと、こういう時は……。
『魔女の魔法は呪うだけに非ず! 護ることの方が得意だからね!』……なんてどうかな?」
くすりと笑いつつ、キメ台詞を一つ。足下に描かれた巨大な魔法陣が、花吹雪のごとく赤の魔力片を迸らせた。花が舞えば、次に来るのは茨の蔦だ。這い上がる茨が、マキナ・ゴーレムを拘束、アレクシアへとその視線をくぎ付けにする!
「さぁて、耐えられるかは……メイ君次第! 援護をお願いね?」
ウィンク一つ、アレクシアがメイへと声をかける。アレクシアは同時に障壁を展開。強烈な、マキナ・ゴーレムの拳が、茨の障壁と衝突! 緑の魔力片をまき散らした。
「えっとえっと! みんな頑張れなのです!」
からららん、とメイが鐘を鳴らす。その神聖な音は聖なる癒しの音色と光を生み出し、茨の障壁に強く絡みついた。アレクシアの傷と力を癒すそれが、そのような資格情報に変換された形だ。メイの鐘の音は、アレクシアの茨の障壁を強固にし、いわば光と茨の壁を高らかに作り上げる!
「皆、後はお願い!」
アレクシアの言葉に、千尋は頷いた。
「オッケー、察した! つまり、あの動きを止めろってなら、正純ちゃん、ジェック! 二人の出番だ!」
千尋の言葉に、正純とジェックは頷く。
「ですが、その前に――少し、位置を変えたい所ですね。エルスさん、お願いできますか?」
正純が言うのへ、エルスは頷いた。
「ええ、任せて?」
エルスは、大鎌をくるり、くるりと、さながらバトンのように回転させてから、ちゃきり、と構えて見せた。
「……かっこいい、ってこういう事でいいのかしら?」
「ええ、たぶん。かなり」
正純が苦笑する。エルスは少し嬉しそうに笑った。
「行くわ!」
飛び掛かる! 正純の言いたいことは、エルスにはわかっていた。つまり、射線確保。破壊するのは、ゴーレムの身体を走る、魔術紋様だ。それを白日の下にさらすためには――。
「足の腱を斬る――!」
いつもより余計に大鎌を振り回しながら、エルスはゴーレムの脚を切り裂いた。はたして腱があるかは不明だが、人間のように土くれの肉体を動かすなら、そこに『ライン』があるのは間違いないだろう。力を流し込むためのラインだ。エルスはそれを傷つけた。するとどうなるか。人間と同様だ。包まり、体勢を崩す――。
「視えた」
ジェックが言う。
「正純、クロスショットで」
「了解」
正純が頷いた。視る。狙う。撃つ。スリーアクション。だが、それは一呼吸する間もないほどの緒、刹那の狙撃連射! それが、二人の狙撃手が息を合わせれば、十字砲火の狙撃が、次々とゴーレムの身体を狙い撃つ! それは、僅かな目標、魔術紋様のいくつもの根源を、次々と狙い、破壊していた!
「さあ、まだまだ消していきますよ」
正純が声をあげる。だが、決して騒々しいものではない。ジェックもそうだが、静の美しさ。所作、狙い、全てが完璧。されど神速。
「こういうのじゃ足りないんでしょ? じゃ、晴れ間を見せてあげる」
無数の射撃による、土ぼこりが、辺りを包み込んでいた。というのも、これもジェックの演出である。ジェックと正純が、最後の一矢を放った。途端! その弾丸が、矢が、雲の切れ間を縫い、雲を吹き飛ばした偉容を晒すかのように、立ち込める土ぼこりを一瞬のうちに散らして見せた!!
「すっごい……!」
流石のマリベルも、素直に感想の声をあげた。ここまでのイレギュラーズ達による連携と連撃。それはマリベルにすさまじい勢いでインスピレーションを与えて、同時に筆を走らせていた。
「よーし、未散ちゃん、トドメと行こうぜ!」
千尋が声をあげる。
「では、ショウダウンと参りましょう!」
未散が頷いた。二人、一気に踏み出す。繰り出す技は違う。片や、掌底である。強烈な、三連撃。敵との距離を焼失させ、超遠距離から放つ零距離の寸打という矛盾攻撃。それが叩き込まれるや、限界をきたしていたゴーレムの腹部が砕けた。が、上半身だけでも、ゴーレムはその生命活動を止めない――千尋が、踏み込んだ。放たれるのは、強烈な情報への一撃。アッパーカット。無駄に後ろ向きに、ポーズなんぞを決めつつ。放たれた衝撃が、ゴーレムの上半身を吹き飛ばし――上空で粉々に粉砕した。
「――どうよ」
砕け落ちるゴーレムの残骸をパラパラと浴びながら、千尋はかっこよく笑ってみせた。
その上に、ちょっと大きめの残骸が降って(ファンブって)くるのに、少しの時間もかからなかった――。
「~♪」
ざっざ、とキャンバスに筆が走る音がする。上機嫌でイラストを描くマリベルを見やりながら、一同は戦々恐々とした顔をしていた。
「かっこよく戦うって……い、意外と難しいわね……!
でも……いつもよりノリよく戦闘が出来たような気がするわっ」
エルスがすこし嬉しそうに笑った。
「いや、それよりもさ」
シラスが言った。
「絵が、怖い」
「そうなのですね……」
メイが耳をぴって抑えながら『><』って顔をした。
「できたわ!」
と、マリベルが声をあげる。イレギュラーズ達が、恐る恐る、そちらへと視線をやった。
「ほら! 皆の活躍を描いた、最高傑作よ!」
マリベルが、にこにこと笑って、絵を差し出した。
……まぁ、その表情を見れば、わかる。イレギュラーズ達のしごとは、満足のいくものだったのだろう。それは確かだ。
それはさておき、絵の方だが、
詳しくは、記述しないでおこう。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リクエストありがとうございました。
マリベルは大満足のようです。皆さんの活躍を描いたイラストは、その後エレディア家に大切に飾られている……とか。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
此方は、マリベル・エレ
『もう、かたっ苦しい文章ね。あたし――マリベル・エレディアが代わりに書いてあげる!
●成功条件
『かっこよく』(←重要!)マキナ・ゴーレムを撃破すること!
●失敗条件
あたしを満足させられないこと!
●情報精度
この依頼の情報精度はB!
あたしは間違ったことは言ってないけど、敵の能力はちょっとわかんないかも。
●状況
あんたたち、ローレットのイレギュラーズは、あたし、マリベルの依頼を受けて、イラストのモチーフになることになったわ。
あたしはただのモチーフじゃ満足しない――なんていうの? リアル感? ライブ感? そういうのをイラストに封じ込めたいのね。
そんなわけだから、この間発掘された遺跡の、マキナ・ゴーレムと戦ってほしいの! かっこよく! 素敵に! 戦って、あたしにインスピレーションと素敵なモチーフを頂戴!
目的地は、東の砂漠遺跡。あたりはほとんど壊れちゃった、家屋みたいなのが並んでる遺跡になってる。少し、遮蔽物とかがあって、視界が悪いかも……遺跡の探索中に、不意打ちなんかはされないよう気をつけなさいよね!
●エネミーデータ
マキナ・ゴーレム ×1
遺跡を守護していた、おっきいゴーレムよ! あたしも腕が鳴るわね! イラストにするのに。
見た目通りの巨体で、魔力を込められた石造りの身体は、防技とHPに非常に秀でているわ!
その分反応は低いみたいだけど……耐えて、耐えて、復讐の一撃、みたいなこともしてくるみたい。
実はこう見えても、EXAは高いみたい。というのも、魔力を込められた、速度増加の魔術印をいくつか記されていて、それで重さを補っているみたいなの。
魔術印は、狙って攻撃すれば、消せるみたい。そうすれば、EXAがどんどん減っていく……ただし、魔術印を狙って攻撃するときは、狙いをさだめるために、命中に少しマイナスの補正がかかるみたいだから、命中に自信のある人が狙ってみるといいかもね。
コモン・ゴーレム ×10
遺跡を徘徊している、雑魚ゴーレムね。数は多いけど、あんたたちの敵じゃないでしょ?
まずはウォーミングアップって感じで、さっさとやっつけなさい!
遺跡を移動しているときに遭遇することになると思うから、ぼーっとして不意打ちされないようにね!
●味方NPC
マリベル・エレディア
あたしよ! ちなみに、剣の腕でも相当なものだから、頼ってくれてもいい……けど、今日はアーティスト・マリベルだから守られる側だよね。というわけで、しっかり守りなさい!
(著注:戦闘能力はゼロです。しっかりかばうなどして、敵から護衛してあげてください)
こんな所かしらね~。じゃ、あんたたちの活躍、ちゃんとみてあげるから。頑張るのよ!』
以上、よろしくお願いいたします。
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