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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>女傑の下に弱卒はなく、老士は影に笑う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 寒々とした雪を陽の光が照らして反射する。
 軍靴が雪を踏み、剣戟の音が激しくぶつかり合い、銃声が戦場を駆け巡る。
 眩く放たれるレーザーが真っすぐに宙を切る。
 南部戦線に存在する小さな村――名をラーム。
 その地は今、新旧鉄帝軍同士による戦場と化していた。
 眼前にいる敵の数はざっと見て20人ほど。
 その先頭には彼らの大将首がいる。
「音に聞く南部戦線の軍人も言うのはこの程度なのでしょうか!」
 静かに笑い、ハルバードを振るったのは女だった。
 熱を帯びた斧の刃が振り下ろされ、兵士の盾を断ち割ってみせる。
「私の名はスカディ。『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』に属す新時代の英雄なり! さぁ、次の相手は誰です!?」
 色素がやや薄い紅の髪を揺らして、女――スカディはそう告げ、ハルバードを頭上で振り回した。
 美人の部類に入るであろう女傑は機械化した右目で真っすぐに彼女にとっての敵陣を見据えた。
「さぁ、皆様! 私に続いてください! 皆さんで全霊を以って戦い、名を挙げるのです!」
 高らかに告げたスカディに続けと、その後ろにいた敵兵達が喊声を上げた。
 それらの兵士達が真正面から向かってくるのを前衛の兵が受け止めた。
「ハンナ隊長! もうこれ以上は持ちません!」
 兵士の弱音を聞き、ハンナは下唇を噛んだ。
 その弱音を、ハンナは否定できなかった。
「総員、撤退! 傷を増やさぬようにしながら下がれ! この敗戦は私の罪だ! 帰るぞ! 帰って――」
 ハンナの指示に合わせ、兵達がゆっくり下がっていく。
「古き世の英雄は腰抜けでしょうか!」
 スカディがハルバードの石突きで叩くようにして声をあげ、追撃の命を降す。
 それに応じるように、敵兵達が動き出した。
「愚かなお嬢さんだ。若いのもあるのでしょうが、手ぬるいですな。
 そのようなタイミングは既に尽きているというのに」
 村の中を突っ切って後退を開始したところで穏やかな声がした。
 直後、戦場を貫いたのは銃声。
 数多の鋼鉄の弾丸と、レーザーが降り注いできた。
「な、なんだ!?」
 顔を上げれば、そこには銃口がある。
 屋根の上のそこかしこに人の姿があった。
 ざっと10人はいるだろうか。
「――さぁ、ハチの巣にしてしまいなさい」
 静かな命令を告げたのは男だった。
 老紳士のような風情をした男が、周囲の建物の上に立っていた。
 穏やかな笑みを浮かべ、手を振り下ろす。
 刹那、無数の銃弾が再びハンナ隊へ降り注ぐ。
「うぁぁ!?」
「盾がある奴は盾を構えろ!! 退け退け退け!!」
 ハンナの声に応じるように兵士達が盾を構え、一気に後ろ目掛けて走り出す。
 兵の悲鳴が上がり続けた。
 数多の銃声が響き、そのたびに兵士が倒れて行く。
 視線は真っすぐに村の入口へ。
 既にハンナの近くにいる兵士達の数は5人ほどになっていた。
「ハンナ隊長! 俺達が足止めします! 隊長だけでも撤退してください!
 どうか、どうか、俺達の代わりに……!」
 震える声で、兵士が言う。
「……すまない、すまない、すまない」
 その言葉に、ハンナは謝罪の言葉を零すしかなかった。


 彼らは新兵だった。
 ゼシュテル鉄帝国が分裂をきたすよりも少し前、新たに配属されてきたばかりの新兵だった。
 鉄帝国南部戦線の兵士として、恥ずかしくない水準にまで鍛え上げた。
 今日はそんな彼らの初陣だった。
 初陣の相手として、新時代英雄隊は悪くない――はずだったのだ。
 『波乱に満ちた新時代にこそ英雄が必要である』などと騙る『レフ・レフレギノ』の下に集った、名ばかりの新時代の英雄。
 その実、殆どがその辺の山賊だの夜盗だのと変わらぬ、暴力で他者を平伏させんとするだけの――さして強くも無い連中だ。
 正規の軍として鍛えられた彼らの敵ではない――はずだったのだ。
(それが、それがどうだって、あんなにも強い……あれじゃあ、あれじゃあまるで――本物の軍隊だ)
 そう――強かった。
 彼らは、殊の外強かった。強力な大将の下で統率の取れた兵士。
 策を為すための忍耐を苦渋ながらもこなし、攻め立てる時は鉄帝人らしく苛烈に攻め立ててきた。
 目の前にいるのが敵なのだと、新兵たちは直ぐに理解して、切り替えようとした。
 だが、既に流れは敵に移っていた。
 それに加え、あの兵士達は『見るからに一般人めいた服装や装備だった』。
 あれを、『敵』と認識するのには、彼ら新兵は早すぎたのかもしれない。
 それでも――それは。
(これは私のミスだ。皆……頼む。生きていてくれ……!)
 目を閉じれば彼ら1人1人の顔が思い起こされる。
 彼らは『英雄狩り』の名の下、一般人や子供たちを浚い、苛烈な訓練と労働を科しているという。
 もしかすると、直ぐに殺されることはない――かもしれないが。


「私達の部隊は、新兵でした。
 それでも――それでも、正規の鉄帝軍です。精鋭と名高き南部戦線の兵士達です。
 たかがチンピラの集まりに負けるほど、惰弱であるつもりはありません」
 そう語るハンナの表情は暗く、屈辱をかみしめている。
「……こんな台詞、言えば言う程に私が恥じ晒しだとは分かっています。
 結局、私の力が及ばなかっただけだと。
 でも――皆さんもお気をつけて……あいつらは、何か不自然でした」
 顔を上げたハンナは、脳筋極まる鉄帝軍人にしては中々に知性的な方であると言えよう。
 そんな女性指揮官の発言は――ある程度頭に入れていて損は無さそうだった。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 不穏な空気を放つ戦場へ参りましょう。

●オーダー
【1】新時代英雄隊の撃破または撃退
【2】集落の奪還

●フィールドデータ
 南部戦線のライン上からやや北東に後退した場所にある小さな村。
 正確にはその手前にある雪原部となるでしょう。
 敵は皆さんの攻撃を予測して迎撃体制を立てています。

 集落に住まう人々はハンナ隊の敗走により失望しつつあります。
 彼らの気持ちをこちら側に戻すためにも、敵の撃退は不可欠です。

●エネミーデータ
・『雪靴の女傑』スカディ
 新時代英雄隊の1人であり、今回の大将首です。
 色素がやや薄い紅の髪の鉄騎種女性、
 機械化部分は手足と双眼で、武装はハルバード。
 タイマンなら皆さんともそこそこ渡り合ってきます。
 ハンナが見た限りでは【火炎】系列、【足止め】系列、【出血】系列辺りのBSを使っています。

 苛烈果断、威風堂々とした女傑であり、
 愚連隊擬きの多い新時代英雄隊の中ではやや浮いた存在に思えるかもしれません。
 その辺りもまた、彼らの違和感の一つかもしれません。

・新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)×20人
 スカディの部下です。
 斧や農具、槍などを装備した新時代英雄隊の構成員たち。
 一見すると『普通の鉄帝人』を思わせる装いです。
 それほど強くも無い、一般人が少しだけ訓練を施された程度の練度です。
 範囲攻撃で一網打尽にしようと思えばそれほど難しくはありません。

 ハンナ隊敗走の理由の多くは『どこかでチンピラと侮っていたこと』と
 『あまりにも鉄帝人らしい装いのせいで、祖国の民を傷つけるように思えて』躊躇してしまったことに起因します。

・???(仮称:老紳士)
 やや細身で引き締まった体格をした老紳士と思しき人物です。
 非常に冷静沈着で老獪な性質に思われます。
 スカディからは信頼されているようですが、その出自、目的などは判然としません。

 今の鉄帝国でそれなりに人に指示を与える立場であることから、
 老体に似合わず意外と腕っぷしがいいのかもしれません。

・新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)×10
 蒸気式のビームガンや実弾性のライフルなど、遠距離武器を装備しています。
 こちらは前述20人よりも更に丁寧に訓練が施されているらしく、
 老紳士の指導の下、非常に的確な統率の下で動きます。
 それでも至近距離まで迫られると脆そうです。

●特殊ルール:小隊兵
 当シナリオでは皆さんは特殊ルールとして小隊兵を動員しても構いません。
 動員する場合、鉄帝に領地を持つPCであれば自分の領地から、
 それ以外のPCの場合は下記鉄帝南部戦線兵を借り受ける形となります。
 小隊兵は基本的には皆さんと同系統のスペックとなりますが、
 特別に別の事が差せたい場合はプレイングでのご記載をお願いします。
 また、当シナリオでの小隊兵動員可能数は1PCにつき5人とします。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <総軍鏖殺>女傑の下に弱卒はなく、老士は影に笑う完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月23日 22時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
シラス(p3p004421)
超える者
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ


「新時代英雄隊とは胡散臭いな……」
 そう呟いたのは『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)である。
(話に聞くスカディ隊が所属してるのは確かに違和感がある。
 村を奪還し、彼らの事情もできれば知りたい)
 イズマは居並ぶ敵を見て改めてその思いを強くすると共に飛び込んでいく。
「次の相手は俺達だ! お望みなら戦おうじゃないか!」
「さぁ、行きましょう、皆さん! 我々は新時代英雄隊。
 その名を冠された以上、向かってくる朝敵を押し返せず何が英雄でしょう!」
 堂々と声高に宣言すれば、ハルバードを振るい女が声高に告げる。
 色素がやや薄い紅の髪をした女性。
 言葉と武器、風貌を見るに彼女がスカディとかいう相手だろう。
「新時代英雄隊なんて馬鹿みたい!
 相手が英雄でも、賊でも、魔物でもボクの……ボクたちのすることは変わらないよ。
 がんばろうねー!」
 鉄帝軍南部戦線から借り受けた兵士達へ『雷虎』ソア(p3p007025)は声をかける。
 選び抜いたのは素直に単純に、前へ前へと出て行く面々だ。
「いっきにいくよー!」
 ソアがまず走り出して、それに続くように兵士達も走り出す。
 そのままスカディ隊とぶつかるや、虎の爪に雷を纏って薙ぎ払う。
 天運さえ味方につけたソアの連撃は兵士達を瞬く間に薙ぎ払っていく。
「――なんという力でしょう! そうこなくては!
 嬉々として笑う女が、ハルバードを振り抜いてくる。
 熱を帯びた強烈な斬撃が兵士達の装備を焼きながら切り裂いていく。
「英雄とか自分で言い出したらヤバいだろ」
「ほっほっほっ。否定はしませんが、上が決めたことですからなぁ。
 それに、『英雄』と名乗ることで集まってくる連中もいる事ですから」
 敵陣へと迫る『竜剣』シラス(p3p004421)が思わずそう突っ込めば老紳士は笑いながら答えた。
「おい、ジジイ。この集まりは何だ。そこらの賊と何か違うのか?」
「おや? 知らないのですかな? ふむ、これはいけない。
 もっと他の連中も働いてほしいものですな……」
 詰問をどこ吹く風とばかりにそう言って、老紳士は少しばかり不快感を見せた。
「名が広まってないのであれば仕方のない事でしょうな。
 新時代英雄隊……鉄帝軍の将であられるレフ・レフレギノでしたかな。
 彼の下に集まったこの混迷する国における新たな組織ですよ。
 故に、その名を『新時代の英雄』と名乗っておられるのです。
 まぁ――大半の連中がチンピラと対して変わらぬ者共ですが」
 からからと、『どこか他人事のように』彼は笑う。
「なるほどな、要するに賊と変わらないってこった。
 それなら手加減する理由もないな。――反吐ぶちまけな」
 掌に浮かべた高質量の魔力を振り払えば魔力は弾丸と化して一斉に放たれる。
 衝撃を受けた兵士達が微かに怯んだ隙、シラスは再び魔弾を撃ち抜いていく。
 連続する魔弾は弾幕となって幾度も兵士達を撃ち抜いていく。
「さて、南部戦線に属する身としては一度の失敗を立て直していかないとね!」
 そういうのは『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)だ。
 アリアの周囲には兵士達はいない。
 だがそれは連れてこないという選択肢を取ったわけではなく。
(射撃手の数、明らかにハンナさんがいた時より少ないよね)
 スカディと老紳士の後ろに控えるようにしてその時を待つ射撃手達は、報告書の数の半分ほどだ。
(スカディ隊の数は報告書通り、更に狙撃に適したポイントは――)
 冷静に、アリアは推測を纏めて行く。
「……概ね、この辺りに散開してますか。
 では、行動を開始してください。
 主戦場になりそうな箇所を避けて、なるべく気配を殺して近付いて下さい」
 アリアは伏せていた兵士達へ合図を出した。
「『見るからに一般人めいた服装や装備』か……
 まぁ、ちょっとした精神干渉だとか扇動だとかの能力の複合のような気もしないでもないけどね~」
 居並ぶ兵士達の姿を見て『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)は自らの見解を述べるものだ。
「まぁ其れは其れ。
 こちらの士気を下げる為の偽装だったかもしれないし、気にしても仕方がない。
 ……キミ達も気を付けるようにね?」
 そう振り返って言い含めれば、流石に南部戦線の兵だけあり凛々しい顔立ちで黙して指示を待つ。
「さぁお仕事の時間……本気で征くよ?
 南部戦線ザーバ派閥所属……『咎人狩り』のラムダ・アイリス……推して参る……なんてね?」
 茶目っ気を見せつつ、アイリスは一気に駆けた。
「――対群精神感応攻撃術式『死月』」
 地上へと描き出されるは不吉なる月。
 月光が兵士達を呑みこみ、数多の異常性を露わにする。
「ハンナの言っていた通り、ミョウだよね。今の南部戦線にこんな敵が現れるなんて。
 何て言えばイイのかな……いきなり現れるには頭が良すぎるよね?」
 こちらを待ち構えていた感のある布陣を見つつ、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は言葉に漏らす。
「ベツにゼシュテル人の頭が悪いって話じゃなくてね!
 こういう特殊工作部隊みたいなのは元から存在してたハズなんだけれど、
 何処ならそんな部隊が存在してたかなって、不思議の話だよ」
「ほっほっほっ。鉄帝の武者と思しき方にしては察しがよろしいようで」
 楽しそうに老紳士はその表情を崩さない。
 そんな彼めがけて、イグナートは一気に駆ける。
「褒めてくれてるのかな、それは!」
 握りしめた拳で向かってくる敵を払い穿ちながらイグナートが言えば、老紳士は笑うばかり。
「新時代の英雄とは大きく出たものでござる」
 その言葉に『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)がそう言えば、老紳士は笑うばかり。
「それが大言壮語で終わるかどうか試させてもらうでござるよ! ――参る!」
 咲耶は南部戦線の兵士達を連れて飛ぶように走りだした。
「――あぁ、そうでなくては困ります!!」
 歓喜を露わに、スカディが前へ躍り出るようにして、ハルバードを合わせてきた。
 仕込み刀による乱打がスカディの刃とふれあい、激しい音を立てた。
(あからさまに怪しいねぇ。
 華々しく女傑の存在を目立たせておいて何をしたいのやら)
 堂々と構えるスカディを見ながら『闇之雲』武器商人(p3p001107)はそんな感想を覚えていた。
(捕えられれば1番だが……さて、そこまでうまくいくか)
 その視線はスカディ――ではなく、好々爺然とした雰囲気を纏う老紳士の方だ。
 開始された戦闘は激しく、けれどそれをまるで意にも介さぬ老紳士は余裕ありげに笑っている。
「ヒヒヒ、さて、我(アタシ)もそろそろ動こうか」
 緩やかに、ソレは老紳士の方へと歩き出す。


 イレギュラーズの戦いは順調に進んでいる方だと言えた。
 スカディ率いる小隊は頭たる彼女に引きずり出されるようにその実力を十全以上に発揮している。
 それでも攻め立てるイレギュラーズとは明らかに質が違う。
「市民に扮して敵を惑わすとはまるで野盗の様。『英雄隊』を名乗るには些か不相応ではござらぬか?」
 挑発もこめた咲耶の言葉に、スカディが反応を見せる。
「――民に扮した兵が将を討った例などいくつもあります。
 皆さん、聞く耳を持つ必要はありません!」
「村人に過酷な思いをさせて何が英雄ぞ。お主等にその『称号』は少々荷が重うござる!」
「死ぬよりは――マシでしょうに」
 続けた言葉に返ってきたのは底冷えするほどの憎悪が籠った声だった。
 残影百手、連続する斬撃を、刺突を、薙ぎ払いを連続でスカディへと見舞えば、体捌きを駆使した守りが芯を取らせない。
「貴女も老紳士も、中身の無い自称英雄を名乗りたいわけではないように見える。
 ……新時代英雄隊で何がしたいんだ?」
 イズマはメロディア・コンダクターを振り抜き、スカディへと問う。
 鋼の細剣が魔力を帯びて、独特の輝きと軌跡を描き、夜空に瞬く星の音色が戦場に響き渡る。
 幾つもの音色が響き、それらは幾度と無く兵士達に星の輝きを魅せる。
「それは勘違いというものですね! 私は英雄たれと生まれ育ったのです。
 中身の有無など知った事ですか。私は英雄です!」
 壮絶な気迫を籠めたスカディの反撃が牙を剥く。
 イズマが細剣を合わせれば、強烈な重さが襲い掛かってくる。
 合わせ、震えながら立ち上がる兵士達の追撃がイレギュラーズ陣営へと走り出した。
「もし一般人をここまで鍛えたのだとしたら、それは認めざるを得ない。
 人々を守るべく協力する道もきっとあるはずだ!」
 兵士達は質の不利を数で補うように攻めかかってくる。
「はぁ」
 呆れるような溜息がスカディから漏れた。
「――興冷めですね」
 視界が揺れた。
 足が払われたのだと気づいた時には、ハルバードが降ってきていた。
「お望みならば戦おうじゃないか――と言ったのは貴方なのに……」
 明らかに失望した目で見下ろされた直後、ハルバードを振り上げたスカディが大きく跳び退いた。
 それはソアが放つ雷電。
 肉薄し穿つ連続の雷光が眩く雪原を照らし付け、苛烈に襲い掛かる。
 壮絶なる連撃にスカディは驚いた様子を見せている。
「もうひと頑張りだよ、あれをやっつけたら帰ってご馳走にしよー!」
 その様子を見て、ソアは仲間達にそう告げれば。
「はっ、ははは! やれるならやってみてごらんなさい!」
 そう言いながらハルバードを振るうスカディへ、もう一度ソアは雷光を奔らせる。
 攻め立てるソアの連撃がスカディに痛撃を刻む。
「どうする、降参する? それとも英雄らしく最後まで頑張っちゃう?」
 ソアが問えばスカディが如何にも戦闘狂じみた笑みを浮かべた。
「馬鹿な! ここからでしょう!
 これなら田舎から出来た甲斐もあろうというものです!
 前回の新兵どもは手ごたえが無さ過ぎて消化不良でしかありませんでしたから!」
 愉し気に笑うスカディのハルバードに、充実した闘気が溢れ出す。
「次はボクだね」
 背後を取るように肉薄したアイリスは既に霊刀を抜いている。
 零距離より放つ極撃の斬光。
 緋色の花弁を咲かすべく開く鮮やかなる剣閃。
 それは無念無想の極致、明鏡止水の如く空のままに美しき剣を振り抜けば、痛撃がスカディを斬り裂いた。


 老紳士へと迫ったイレギュラーズは圧倒的な優位に立っていた。
 アリアが伏せられていた兵士を暴き、それらの兵を先に打ち倒したことで彼らの作戦を破ることが出来たためである。
「いやはや、素晴らしい手腕でございますな。
 私が丹精込めて育てた兵があっという間に半分以下ではありませんか」
 事も無げに笑う老紳士はまるで答えた様子がない。
「後は頭をとれば機能は止まる。簡単ですね?」
 アリアはそんな老紳士へと肉薄してニョアの細剣を構えていた。
 その剣身には高密度の魔力が揺蕩い、鮮やかな光を放っている。
「ほっほっほ、しかり」
 そう頷く老紳士はその数を大きく減らした兵にどうということもなさそうに笑って頷くのだ。
(……まあ、簡単に行かないから頭なんですけどね!)
 その様子にアリアもそう決断せざるを得ない。
「狙撃手は基本的に近距離に入り込まれたら弱いんだよ!」
 振り抜いた細剣、その剣身に纏われし高密度の魔力が一突きと同時に炸裂する。
 極まった一撃は壮絶なる魔力を帯びて苛烈に老紳士の肉体を刻む。
「こいつはどうだ、ジジイ」
 シラスは並列処理をしながら術式を構築すると、一気に追い詰めるべく魔弾を放つ。
 浮かび上がる球体は幾重にも魔力を帯びては集束を繰り返した極小なる破壊の概念。
 放たれたソレは圧倒的な火力を伴い、老紳士の身体を撃ち抜いていく。
「おぉぉぉ!」
 炸裂の刹那、シラスは走り出す。
 肉薄するまでに至れば、既にその手には次の一手。
 ゼロ距離で放つ魔力の塊が老紳士の肉体を穿つ。
 それに続くようにイグナートは老紳士の方を見やる。
「こんな案件だとローレットが出張って来るのも想定内かな?」
 肉薄と共に振り払う拳打は一つ一つが致命的なまでの一撃を描くもの。
「うぅむ……素晴らしいですなぁ。なるほど、これがローレット!」
 老紳士は驚きつつも楽しそうに笑う。
「うん……キミ、オレ達に『勝つ気がない』よね?」
 兵士達は整然とした連携を以って各々の武器から弾丸をこちらへ撃ち込んでくる。
 ただ、それだけだ。
「ほっほっほっ、なぜそのように思われますかな?」
「勘!」
 イグナートは老紳士へと肉薄すると同時、呪腕に闘気を籠める。
「ほっほっほっ! こちらの番ですかな?」
 真っすぐに撃ち抜く栄光の一、続けた破竜の二。
 流れるような拳は体捌きで躱される。
 続け、老紳士が手に握る杖をイグナートに突きつければ、脅威的な質量の魔力がイグナートを穿つ。
「ヒヒヒ、これはどうだろう」
 武器商人は笑いながら魔術を行使する。
 それは影より蠢く獣と怪物がその暴威を、あるいは悪意を曝け出す。
 放つ魔術はその身に抱く不倒の精神性を魔力に浸して振り払われる。
 壮絶なる火力を以って放たれた超常の現象は並みの人間には到底耐えられぬ。
「……おや」
 故にこそ――武器商人は首を傾げる。
「ほっほっほっ、お見事ですなぁ……これはいけない。
 スカディさん、貴女も熱くなりすぎですよ? 目的をお忘れですか?」
 確かに当たったはずの一撃、風穴を開けるにふさわしき一撃。
 それを受けた老紳士は、ぱちぱちと拍手をしていた。
「分かってます、わかってますけど、あんなにも強い人達と戦えてるのですよ!?」
 スカディの答えに呆れるように肩を竦めた老紳士が杖で地面を叩く。
 刹那、イレギュラーズと老紳士、スカディの間を割るように強烈な閃光と旋風が放たれる。
「儂は貴方も捨て置いても構わんのですよ?
 本来を言えば、『狩られるべき弱者である貴方の一族に生きていく機会を与えてやっているのは誰ですか?』
 貴女がこれ以上戦いたいのなら、死が待っていることをお忘れですかな」
「――そう、でした。しかた……ありませんね」
 食い下がっていたスカディが諦めたように頷いてハルバードを収める。
「……さようなら、皆さん。もう会う事もないでしょう」
 スカディは目を伏せ、俯きがちにどこか悲し気にそう言うと、老紳士に従って踵を返す。
 その言葉はイレギュラーズに対するもの――ではない。
 それまで2人の指揮下で奮戦していた雑兵の如き兵士達に向けてのものだ。
「ま、待て! お前たちの目的は何なんだ!」
 イズマはその圧倒的な速度を以って彼らの注意を引くべく声をあげる。
「ほっほっほっ。そんなものを聞いてもどうなるのでしょう?
 ですがそうですね……自己紹介位はして返りましょうか。
 私の名はミハイル――『アラクラン』に連なる者です。
 個人的に、新時代英雄隊の皆様にお力添えをしております。
 ――以後、お見知りおきを」
 老紳士は笑いながらそう言った。
「さようなら、ローレット。またお会いしましょう……」
 萎え切ったように溜息をついたスカディがそれに続けば、老紳士――ミハイルが恭しく礼をして、再びの閃光が放たれる。
 光が収まった頃、既に2人の姿はそこには無かった。
「『アラクラン』……なんでそんな奴らが」
 その名は、知っている。
 だがそれは今の鉄帝国に潜む別の新皇帝派とでもいうべき存在のはず。
「……個人的にって言ってたし、彼の話を信じるならミハイルのドクダンだろうね」
 イグナートが続け、拳を握りなおしたところで周囲を見やれば、兵士達は既に武器を手放していた。

成否

成功

MVP

アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
新時代英雄隊の裏にもひっそりと潜む彼らの存在……果たしてミハイルの目論みとは……といったところはまたいずれ。

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