シナリオ詳細
<総軍鏖殺>因果応報、冷血の烈女
オープニング
●
鮮血が舞う。
白に彩られた街道にどす黒い赤が飛び散った。
獣たちの雄叫びが響き、人の形をした化け物共の嘲笑が響き、雪に沈む子らの悲鳴は掻き消える。
幼い命など容易く奪われ、大人たちは平伏して命ばかりはと請う。
未来ある者達は皆虜となって縛り上げられ、荷台へと詰め込まれていく。
「――どうして! どうして、誰も、誰もあの子達を助けようとしないの!!!!」
叫ぶ声が響いた。
あまりにも空しく、悲しく、切なく。
女は慟哭をあげる。
「黙れッ!!」
鋭い痛みが頬に弾け、女は顔を背けた。
髪を引っ掴んだ夫が舌打ちする。
「申し訳ありません! その子は差し上げます!
この愚か者は私が後で躾けておきますので! どうか、どうかお助け下さい!」
平伏して、全てを奪っていく男へと隷属するソレに、急速に心が冷えて行く。
「お前もいいから黙っていろ。ガキなんてまた作ればいいだろ!」
――これは、なんだというのでしょう。
――私が愛した男は、死んでしまっているのでしょうか。
――神様、あぁ、神様。どうか、どうか。
『憎い。憎い。憎い。
あの子を奪うこいつらが、あの子を見捨てたこいつが。
――あの子を守る力も無い私が憎い。全て、力がないことが悪いのです』
涙がほろりと零れ落ちて――あっという間に結晶になって落ちて行く。
――どうか神さま、私が悪魔になることをお許しください。
何もかも、失った――私は、この声の手を取りましょう。
隣で喚いていたナニカが『ぐえ』と蛙の潰れたような声をあげた。
「ほほう、なるほど」
顔を上げる。
全てが凍てつくような殺意を籠めて、女は顔を上げる。
菫色の瞳に睨まれた男が冷笑を口に零していた。
「ようこそ、ご夫人。こちら側へ」
――殺してやる。殺してやりましょうとも。
あの子を殺したこいつも、『若い子を差し出して、乳飲み子が死ぬことを受け入れて見苦しく生き残ろうとしたこいつら全員』――殺してやる。
気づけば、その手に槍が合った。
跳び出すように向けた槍は、しかしバックステップで男に躱される。
「僕の名はヘルムート。『アラクラン』に属す者です。
ご夫人、貴女の怒りはごもっともだ。だから、また会いましょう」
どこまでも冷たい笑みを浮かべた男――ヘルムートが指笛を吹けば、狼のような化け物が飛び込んでくる。
●
マールブルクという町がある。
ゼシュテル分裂以来『帝政派』がその拠点とするサングロウブルクにもほど近い町だ。
小さながらも鉄帝流通の要衝が一つとして行商や旅の者たちから重要視されたりもしたことのある場所だった。
「なんだ、これは」
菫色の瞳を瞠ってイルムガルトと名乗った鉄帝軍人が声を漏らす。
哨戒小隊の隊長を務めるという彼女はマールブルクがアラクランの襲撃を受けたことを知って君達へと応援を頼んできたのだ。
そこは酷いありさまだった。
「なんだか嫌な予感がする。速く行こう」
あるいは氷柱によって串刺しにされる者、獣に食い散らかされたような者、惨殺された者など、死傷者の死因がぱっと見で明らかに違っている。
加えて、グルゥイグダロスやギルバディアの遺体も幾つか見えた。
こちらは総じて氷に貫かれていたが。
「余所者ですね。今すぐここから立ち去りなさい」
声がしてそちらを見れば、そこには女性が一人。
その手に槍のように長い氷柱を握る、菫色の瞳をした女だ。
年の頃は30代の前半から半ばであろうか。
「――イザベル姉」
イルムガルトの声が震えていた。
「知ってるのか?」
君の言葉にイルムガルトは安堵の息を漏らしつつ頷いた。
「姉さん、無事でよかった。直ぐここを出よう」
「――ッ! 近づいちゃ駄目だ!」
一歩前へ出たイルムガルトに思わず声をあげた。
その刹那、槍のように長い氷柱が弓のような姿を取った。
「来ないで」
パキパキと音を立てて作られた氷がイルムガルト目掛けて放たれ、思わず庇うように押しのける。
後方から肉が裂ける音がして振り返れば、そこには双頭の狼が一匹。
2つの首の間に氷柱が突き立ち息絶えていた。
改めてイザベルと呼ばれた女を見やれば。
その瞳にぞくりとする殺意。
何より、彼女から伝え聞こえるこの感覚。
「――もう、イザベルさんはイザベルさんではない」
――あぁ、全く。
この町に来てからずっと感じてきたこの感覚は――呼び声だ。
アラクランの襲撃という話にいてもおかしくないと思っていたが、彼女は――魔種だ。
その時だ。イザベルめがけ、炎の弾丸が走る。
いや――それは炎の弾丸のように見える、そうではないもの。
障壁を展開したイザベルに止められたそれは、炎をまとう大型の熊。
「グルゥイグダロスにギルバディア! イザベルさんを狙って……いや、イザベルさん『も』狙ってる?」
そう、これは三つ巴。
魔獣と、魔種と、特異点たち。
相容れぬ勢力3つが小さな町へ集っていた。
- <総軍鏖殺>因果応報、冷血の烈女完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年10月20日 23時20分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
(なんて状況ですか、魔物によって町がこんなにも……)
血の臭いが混じった冷たい風に靡く髪を抑え、『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)はその光景に目を瞠る。
(それに……魔種も。何やら訳ありのようですが……)
そう、どこか冷静に分析する自分がいた。
(……嫌になりますね)
思わず自己嫌悪を抱きながらも、ふるると頭を振って前を見る。
その瞳が静かに金のヘリオドールへと彩りを変えていた。
(うまく利用したいところですし……何より。
いつか、本当に戦うときのためにも、少しでも堕ちた理由を知りたいですね)
「話し合いの為に茶でも如何に。
紅茶が飛び散って仕方がない。Nyahahahaha!!!」
数多の敵の中で『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)は問う。
「貴様の怒りの矛先は誰なのだ。
誰にせよ我々は『一時的に手を取る』事が出来る筈。
魔種との『共闘』の例は幾つか有る」
そう続けるオラボナには戦場の様子が見えていた。
包囲されるような魔獣たちの布陣と、動揺極まる鉄帝軍。
その言葉は静かに魔種イザベルを見据えている。
「もしも共闘し、そのまま『終わり』と成すならば、
我々は貴様の怒りの矛先を探り、相手する事を約束しよう。
勿論、矛先へのトドメは貴様に任せる。実に悦ばしい、win-winな戯れだろう?」
オラボナは真っすぐにイザベルの目を見ていた。
同一奇譚と誤認させる恩寵ないし畏怖。
――けれど。
「信じるに足る要素がありませんね」
素気無く返され、イザベルの周囲に無数の氷柱が浮かび上がる。
それらは先程イザベルへと突撃を仕掛けたギルバディアを文字通りの串刺しにする。
「ならば『お互いに攻撃するのは後』で如何だ」
「――私の邪魔をしないのなら、ご自由になさってください」
続けたオラボナの提案にも氷のように冷たい返答のまま。
「生き延びる為になら、愛した相手が――己がお腹を痛めてまで産んだ子供達。
大切に育んだ愛、それを切り捨てることが当然な連中。
なら――私が同じように彼らを切り捨てることに文句を言われる筋合いもありません……違いますか?」
静かに彼女はそう言って、イレギュラーズへと問いかけた。
「くっふふ、いつの時代も人間というものは変わらないでごぜーますねえ。
保身に裏切り、実に人間らしいでありんすな」
そう笑うのは『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)である。
(くふふ、さてさてかの魔種の輝きは如何程か)
静かにエマは笑っている。
(わっちは貴女の輝きが見たい。だからこそ……静観するとしましょうか)
「その怒りは正当よ。
誰かを犠牲に慈悲を乞おうとするなんて嫌悪する行為。
ましてや、自分の子を差し出すなんて……
――オラボナ殿、彼女の事はよろしくね」
白亜の騎士として、『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)は同意しつつ、その身を魔獣たちの方へ晒す。
『グルル……』
「――私の名はレイリー=シュタイン! 魔獣ども私が相手になるわよ!」
全身を晒すようにして、闘志を溢れさせるレイリーは宣戦布告の言の葉を告げる。
「貴方達の炎如き、私は抵抗できるし、爪や牙も盾や鎧で防いであげるわ」
挑発ともとれる言葉に、グルゥイグダロスが咆哮を上げた。
「……人は、間違う生き物。人は、弱い生き物。
そして貴方と同じ立場に居た時、きっと私はそれを選べない」
馬上にて静かに続けたのは『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)である。
(敬意を、そして憐憫と――慈悲を手に)
イーリンは静かに戦旗を握り締めて、真っすぐに彼女を見据えた。
「――神がそれを望まれる」
今でなくても、必ず彼女を終わらせる。
その意思を籠めた宣言と共に、戦旗が淡く輝きを放つ。
「怒リ 憎シミ ソレモマタ 心。
ン。ダケド。ソレダケニナッテシマウトイウノナラ。
フリック 護ル。亡クシタ命 失クシタ心ヲ」
一定の理解を見せつつも、『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は静かに小隊の方へ近づいていく。
墓守は、微かに内心にある思いを抱きつつ戦場を見渡した。
「あいつらは陣に食い込んでくる! 密集して!」
そこへ続けてイーリンは隊の前に戦旗を翻す。
この場にいる小隊はあくまでもイルムガルトの部下。
騎兵隊の隊長として、『指揮系統の重要さ』をイーリンは経験として十分に理解していた。
立て続けに、魔獣たちの雄叫びが戦場に響く。
「イザベル姉……本当に、この光景を貴女が?」
イルムガルトへと近づいてみれば、彼女はまだ現実を受け入れられないのか、驚きを口にしていた。
「……心情は察します。しかし今は、この戦場を収めることが最優先です」
そんな彼女へと声をかけたのは『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)である。
「勝利の為には、全員が一丸となって戦う必要があるでしょう。
小隊にも我々にも貴女の力が必要です。だからどうか、前を向いて下さい」
ルーキスが言葉を尽くせば、ハッとした様子でイルムガルトがそう言って頷いた。
「……諸君、すまない。どうか――私と共に前を向いてほしい」
イーリンに加えたルーキスの言葉を最後の後押しに、イルムガルトが小隊たちへと声をあげた。
(しかし……これは酷い、ですね……
一刻も早くこの場を収めて、犠牲者を弔いましょう)
小隊が混乱から戻り始めたことで、ルーキスは彼らから離れつつ戦場を改めて見た。
生存者――イルムガルトも言ったそれはあまりにも絶望的に思えるが――
(酷い有様……これ以上の被害を食い止める為にも頑張らないと)
死という単語が、あまりにも濃いその場所に立ち、『蒼輝聖光』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は静かに思う。
(……生存者がいるのなら全力で助けてみせる!)
それが絶望的であることは分かっていても、スティアは希望を捨てるわけにはいかなかった。
起動されたセラフィムが雪原に舞い降りる中を、兵士達の前に立つように一歩。
「イルムガルトさん、暫くは任せて貰っても大丈夫だよ。
これくらいの戦いは何度も経験しているから!」
振り返ることなくそういうとスティアはセラフィムに魔力を籠めた。
鮮やかに散る魔力の残滓が鋭さを帯び、一斉に放たれる。
真っすぐに、直線上を駆け抜けていった。
●
ルーキスはその戦場に一気に走り出した。
「――時間を取られるわけにはいかない」
仲間達へと吸い寄せられていくかの如き魔獣たちの中へと紛れ込むように走り。
美しき愛刀二振りを振り抜いた。
美しき軌跡を描く白百合と瑠璃雛菊は乱舞し、グルゥイグダロスたちを瞬く間に鮮血へと染め上げて行く。
「私はこっちよ。よそ見なんてさせないわ!」
レイリーは槍を天へ着くように声をあげる。
改めてと言わんばかりの宣告を受けて、雄叫びを上げたギルバディアが一気に突っ込んでくる。
尋常じゃない衝撃を生んだ突撃にレイリーは愛盾を構えて抑え込みをかける。
激しい突進に、身体がじりじりと後退していく。
重心を傾けて一歩前へ。そこへ炎球が降ってきた。
燃えることはなくとも、全身が焼ける痛みが襲い掛かる。
「レイリー」
フリークライの身体が温かな光を放つ。
春を告げる花の香りを放ち、春の息吹を思わせる温かな光。
それは挿し木された枯れぬ花々の香りと春の息吹は傷を負った仲間の身体を強烈に癒していく。
続け、スティアは手を組んで祈りを捧げるように魔力を籠めた。
「これ以上の被害を出すわけにはいかないから、ここで終わりにするよ!」
空に浮かぶは大きな翼のような魔力。
羽ばたいたそれは羽を起こして、舞い散った羽が複数の魔獣の眼を眩ませた。
オラボナは向かってくるギルバディア3体を前に、嗤い続ける。
オラボナと視線を同じくするほどの位置を取る巨大なる熊が大きな口を開けて食らいつく。
強烈な熱量を帯びた牙が幾つも突き立ち、けれど骨はおろか肉にすら僅かな傷を与えられるのみ。
「Nyahahahaha!!!」
獣のじゃれつきを嗤い、反撃の猛攻を叩きつける。
苛烈に、鮮烈に、名状しがたき攻撃は逃れることなど許されぬ。
「奇襲を警戒して。相手は獣よ。
一匹ずつ確実に……これは言わなくても分かるかしら」
イーリンは何とか態勢を立て直しつつあるイルムガルトへそう声をかけると共に旗を翻す。
数多の戦場、決して倒れることなく戦旗は翻る。
福音の輝きが放たれ、祝福を抱く歌がオラボナが浴びた傷を瞬く間に癒していく。
「司書殿。ご助言を感謝する。
聞いたな? 私も彼女の意見に同意だ。
警戒を怠るな! それは『本来の我々の任務でもある!』」
哨戒小隊たるイルムガルトの部隊にとって、警戒は本来の任務でもある。
イーリンの言葉は、兵士達に自分達の立場を思い出させるきっかけを与えた。
叱咤と命令を受けた兵達が武器を取った。
「彼女の方を見ている方が面白いのですがねえ……」
小さく呟いたエマは魔力を籠めた。
魔術回路が黒き光を放つ。
両手を包むような黒き輝きが術式を励起させ、熱砂を生んだ。
産み落とされた熱砂は冷たき死の町には似つかわしくない激しい熱を帯びてグルゥイグダロス達を絡めとっていく。
唸り声をあげる2匹のグルゥイグダロスとレイリーの間に割り込んだマリエッタは魔力を高めていく。
その両手に刻まれし血印、穢れた魔女の血と清らかなる聖女の血。
印に魔力を籠めれば、片方のグルゥイグダロスをそっと抱きしめるように包み込む。
「……おやすみなさい」
優しき抱擁は穏やかな死を押し付ける。
●
「終わりにしましょう。この街を見なさいよ」
数の減っていく魔獣たち、それが当初より半分を過ぎ去った頃合いに、イーリンはイルムガルトへと声をあげた。
血に溢れ、冷たい風に満ちた、『生』からは程遠いそんな場所。
「あなたの心に吹く寒風と、同じじゃない、これだと。
……お願い、私達に、救う時間を頂戴」
「いくらその手を血に濡らそうとも、心の乾きが満たされることは無い筈。
それは貴女自身が一番分かっているはず。なのに何故……?」
イーリンに続けて、ルーキスは思わず言葉に漏らしていた。
心境自体は、理解の出来る。
けれど、思わず口に漏らさずにはいられなかった。
「――」
だが、意味はある。事実、イザベルの手が微かに止まったのだから。
「確かに人間は醜い一面があったりするよね」
スティアはそんな彼女へと頷いて見せる。
「……でも全員がそういう一面を持つ訳じゃない。
貴方のやってることはただの八つ当たり! 別の悲しみを産むだけなんだ!
だからこれ以上やるというのなら全力で止めてみせるよ!」
啖呵を切るように、スティアがそう続ければ。
それに答えるかのように、イザベルから冷たい殺気がひしひしと溢れだす。
エマは静観を続けている。
(もしわっちらと戦うというなら……
まだ『本命』もいるでごぜーましょうに、
ただいたずらにここで消耗していいんでありんしょうかねえ?)
憤怒に満ちた魔種へエマが抱く感想はそれだった。
激しく冷たい怒りを抱く彼女は、彼女が誠に殺したいであろう相手をまだ仕留めていないように思うのだ。
――とはいえ、それを口にするつもりはなく。
戦うのならば応戦するのみと、笑みを浮かべるまま。
「イザベル殿、ここにはもう仇はいないわよ。
それでも戦うというのなら、わたしを越えてみせなさい」
続けてレイリーが言えば、冷たい憤怒がイレギュラーズから逸れた。
「……たしかに、ここには、もう。あの子を殺した者はいませんね」
静かに、イザベルの瞳が伏せられた。
怒りは収まった様子はない。ただ、矛先が変わっただけであろう。
「イザベル 一ツダケ 疑問 アル。
復讐 大事 理解。
デモ 我ガ子 亡骸 弔ウヨリ 優先?
我ガ子ヨリ 仇 優先?」
そういうフリークライの言葉は、それ以外の意味を持たぬ純粋な疑問による物だった。
「フリック 墓守。
死ンダ子 フリック達ト戦ウ 復讐シニ行クヨリモ
先 母ノ手デ 弔ッテアゲテ 想ウ」
「……あの子、は。あの子を――」
ぱきぱきと、文字通りに空気が凍る。
「……あいつの手から、あの子を取り戻さなくては」
小さな吐息が凍り付いた空気に溶けたのが見えた。
「……良いでしょう。この場はそちらに渡しましょう。
まだこの地に生きている誰かがいるというのなら。
えぇ、それはきっと、天がそれを許したのだと、そう思う事にしましょう」
「ン 分カッタ。ソノ子 弔エル ナラ 一番」
フリークライはそう頷いた。
すると、イザベルはどこか遠くを見据えその場を後にして何処かへと立ち去っていった。
残る魔獣は数少なく。
濃い死の匂いに満ちた戦場を、イレギュラーズ達は一刻も早くこの地獄の生き残りを探すべく動き出した。
●
「……ご無事ですか?」
家屋の出入り口を塞ぐ瓦礫を退けたルーキスは安堵の息を漏らすようにそう言った。
「だ、誰です……?」
「ローレットの者です。
帝政派の援軍としてきました。お怪我はありませんか?」
「あぁ、良かった……イザベルさんがいきなり入り口を壊して私達を閉じ込めたんです」
そう安堵の息を漏らす母親に頷きながら、ルーキスは瓦礫の方を見た。
(……この瓦礫が邪魔でグルゥイグダロスやギルバディアが入ってこれなかったんですね。
助かった理由は……彼女が子供を守っていたからでしょうか?)
そう思案しつつも、『中の人を守るために家屋の入り口を破壊して閉じ込める』というあまりにも危険な方法を選んでいる辺り、魔種の性質を感じた。
「ン ヤッパリ 亡クナッタ人 多イ」
フリークライは数多の遺体を見つめて呟く。
多くの場合、その死体は大人のものだ。
中でも、氷柱で貫かれて死んだ人間の遺体に関しては男の方が多い。
逆に、魔獣の傷と思しきもので亡くなっている遺体は子供や女性の物が多い。
「……フリック コノ人達 弔イタイ」
墓守として、フリークライがそう言えば、誰もそれを否定する言葉はなかった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
MVPはフリークライさんへ。
単純な説得よりも、彼女にとっての優先事項を思い出すことが彼女の撤退条件でした。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
それでは早速参りましょう。
●オーダー
【1】『烈女』イザベルの撃退
【2】魔物たちの撃破
●フィールドデータ
鉄帝西部、マールブルクと呼ばれる町だった場所。
流通拠点の1つであったらしくそこそこ大きめです。
既にほとんどの建造物は焼き尽くされ、生存者は皆無です。
戦場は広く、遮蔽物もそこそこ存在する市街地戦となります。
●エネミーデータ
・『烈女』イザベル
憤怒の魔種です。イルムガルトの実姉。
マールブルクで夫と共に暮らしていましたが、アラクランの襲撃に際して
『我が子や若い命を切り捨て自分だけが生き残ろうとした夫や町の連中全て』に失望。
襲撃の犯人である魔種ヘルムートの呼び声により反転し魔種となりました。
現在は怒りのままに生き延びた人々やヘルムートが放置して帰った魔物を処刑して回っていました。
なお、一応の対話も可能ではあります。
やりようによっては戦うことなく撤退する可能性もあります。
戦う場合でも損耗が大きくなる前に撤退します。
イザベルにとって、あくまでも殺すべき相手は別にいるのです……
氷を扱う魔術師で手に持つ氷柱を弓のように変えて氷の魔弾の射出。
槍のように扱っての近接戦闘などが考えられます。
・グルゥイグダロス〔炎〕×10
巨大な双頭の狼、いわゆるグルゥイグダロスですが、この個体は呼気から炎をちらつかせています。
なお、イザベルとは敵対関係にあります。
獰猛な牙や爪による攻撃は【出血】系列の他、【火炎】系列、【麻痺】に似た症状を与えます。
また、口から火炎を放射する攻撃を持ちます。
・ギルバディア〔炎〕×10
巨大な熊型の魔物、いわゆるギルバディアですが、全身から炎を溢れさせています。
なお、イザベルとは敵対関係にあります。
凄まじい突進力を持ち、【飛】、【ブレイク】、【火炎】系列のBSが与えられる可能性があります。
また、口から火炎を放射する攻撃を持ちます。
・『???』ヘルムート
鉄帝の軍人であり、憤怒の魔種です。
イザベルを反転させた張本人であり、襲撃事件の首謀者です。
イザベルの反転を機にすでに撤退しています。
当依頼では登場しません。
●戦況
皆さんはイザベルと相対していますが、同時に魔獣とも交戦する三つ巴状態となります。
イザベル自身、皆さんと魔獣を纏めて狩るように行動します。
●友軍データ
・イルムガルト
鉄帝国軍帝政派の軍人。
哨戒小隊の隊長を務める人物で皆さんの道案内を務めています。
部下共々魔獣との交戦に務めますが、状況が状況であることから動揺が隠しきれていません。
皆さんの叱咤の他、時間経過で立て直しは出来ますが、時間がかかるほどアドバンテージは失われるでしょう。
・イルムガルト小隊×20
鉄帝国軍帝政派の哨戒部隊です。
本来、あくまでも哨戒用の部隊に過ぎませんが、
人員不足もあり先遣隊としての役割を務められる程度の装備を持ちます。
状況の混乱から脱却すれば魔獣との戦いを中心として戦闘をしてくれます。
如何に立て直しがスムーズにいくかによって魔獣との戦闘に響いてくるでしょう。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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