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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>デッドラインを越えて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●補給部隊に異常アリ
「走れ走れ! 止まるな! ここが一番危険なラインだぞ!」
 帝政派の兵士たちが、怒号を上げながら蒸気式トラックを走らせる。
 荷台には、多くの「食料」が乗せられていた。付近の新皇帝派の基地から奪い取ったそれだが、彼らはその食料をサングロウブルクへと運搬する最中であった。
 かつての為政者たちが多く集う勢力とは言え、現状時点ではいち抵抗勢力に過ぎない帝政派である。物資は慢性的に足りていないと言えた。その為、敵対勢力――この場合はほとんどの場合新皇帝派だが――への攻撃による物資の奪取は相応に行われていた。必然、部隊は摩耗するが、それでもやらなければ、民はもちろん派閥も飢えて死ぬわけである。
 そんなわけだから、何度めかの攻撃が新皇帝派閥の基地へと行われていて、今回はその攻撃に成功していた。大量の物資を運んだ一団は、前述したとおりに、都市内部を撤退している。移動都市は、サングロウブルクより北西方向に位置する、レプタランカ市である。街道都市であるここは、都市内部に街道が通っており、つまり都市内部を横切る形でしか通行ができないという事になる。
 レプタランカ市自体は、その性質上「どの派閥にも加わらない」としているが、しかし、この動乱の時代にそれを告げることは、消極的な新皇帝派の表明にも等しい。何もしないとは、何をされても構わない、というのが新皇帝派の理屈であるのだから。必然、都市は実質的に、新皇帝派の防寒や魔物達によって占拠状態にされている。が、前述したように、この歳を通らねば、サングロウプクへは戻れない。
「イレギュラーズさん、何かあったら、頼む。アンタらが、最後の切り札だ」
 トラックの運転手に、そう言われたあなたは、荷台から顔を出した。蒸気を吹き出す、それは鉄帝では当たり前の景色。それが今は、酷く恐ろしいものに見えた。その蒸気の影から、怪物や悪漢が、湧き出して襲い掛かってくるような、そんな不安。そんな最悪の治安の世に、今はなっているのである。

 場面を三日前に戻そう。帝政派から接触を受けたあなた達ローレット・イレギュラーズ。或いはあなたもまた、帝政派に力を貸していたかもしれない。いずれにせよ、ローレットへ『依頼』が持ち込まれたのは、そんな時だ。
「物資奪還のための部隊を組むこととなった」
 と、エージェントの男は言う。
「明日、サングロウブルクから北西に位置するレトランカ市の新皇帝派閥物資貯蔵庫を攻撃する。そこからレプタランカ市を通って、サングロウブルクへと撤退する流れだ」
 地図を指さしながら、エージェントの男は説明した。
「あなた達には、道中の護衛をお願いしたい。基地への攻撃自体は、我々のみの、現行の勢力でも十分可能と判断している。問題は、攻撃後、レプタランカ市を抜ける際だ」
 とん、と街道都市を、男は指さした。
「我々は基地攻撃故に、消耗は避けられない。そこで、道中、レプタランカ市を移動する際の護衛をお願いしたいのだ。
 あなた達は、レプタランカ市の北西側入り口で、我々と合流。そのまま、サングロウブルク迄同道願いたい。
 ああ、これは、物資奪還作戦が成功することが前提だ。時間までにこなければ、我々は全滅したものだと思って撤退してくれて構わない」
 そういうエージェントのとこの表情には、悲痛な色が浮かんでいた。が、あくまでも、彼らは彼らの力で、物資の奪還を行うらしい。確かに、そうだろう。ありとあらゆることまで、ローレットが力を貸してやるのは難しい。ある程度の実務は、彼ら自身の手で行わなければならないのだ。
 あなた、そして仲間達は、力強く頷いた。
「わかった。あんたらも、なるべく無理はしないでくれよ」
 仲間がそういうのへ、あなたも同意の視線を、エージェントへ向ける。エージェントは「ありがとう」と頷くと、依頼参加の契約書へのサインを促した。

 現在に視点を戻そう。レプタランカ市の入り口で、あなた達は物資奪還部隊と合流した。彼らの大半はボロボロであり、これ以上の戦闘は困難なことは間違いなかった。
 あなた達は、トラックの荷台に乗り込む。警戒しつつ、トラックが発車するに任せた。武器を手に取り、いつでも攻撃にうつれるよう、息をひそめる。
「彼らは、もう限界ですね」
 仲間の一人がそういう。
「これ以上、戦闘を任せるのは酷というものです。この街での戦いは、私たちが行わなければなりません」
 その言葉に、あなたも頷いた。命がけで、物資という、明日につなぐための糧を得てきてくれた彼ら。ここがそのデッドラインを超えるための、最後の戦場に間違いなく、そして、それを超えるための役割が、自分たちの双肩にかかっていることを、かみしめた。
「すまん、掴まってくれ! ブレーキをかける!」
 運転手が叫ぶのへ、あなたはとっさに荷台に設置されたバーに掴まる。どん、と強烈な衝撃がして、車が無理やりに停止した。
「敵だ! カブトムシのような、アンチヘイヴン――」
 運転手が叫ぶよりも早く、あなたちは荷台から飛び出していた。後方では、慌てて急停車する後続のトラックの姿見える。あなたたちは前方へと駆けだす。そこには、巨大な甲虫のような、恐るべき怪物たちの姿があった。
「逃げるってのかいぃぃ~~~~? 人の家から飯を盗んでいってよぉ~~~~?」
 嘲るような声が、聞こえた。薄着の男である。軽薄そうな顔をした、男だった。
「帝政派ってのは泥棒の真似事までやるようになったのかッ! 落ちぶれたもんだなぁ~~~?
 じゃあよぉ、英雄様にやられても、仕方ないって事でさぁ~~~?」
「英雄? お前が?」
 仲間の一人が嘲笑するように言った。男が、げらげらと笑う。
「おおう! そうさぁ。
 俺様が国公認の英雄が一人――『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』のガランだ。
 お前らが英雄って時代はもう終わったのさ、ローレット・イレギュラーズ。
 これからは、俺様たちが英雄ってわけよ」
 げらげらと笑うガラン。その両手の巨大な機械腕は、なるほど、恐るべき威力を誇る武器であろう。
「随分と下品な奴が英雄になれるものね」
 仲間が言う。
(そこそこできるみたい。モンスターもいる。警戒して)
 そう耳打ちするのへ、あなたは頷く。相手は軽薄な莫迦であろうが、しかし油断できる相手でもあるまい。
「じゃあ、さっさとおっ死ンでくんなよぉ、旧時代の英雄さん方よ! 泥棒は取り締まらなきゃなぁ!!」
 ガランが叫び、ぴゅう、と口笛を吹く。鎧のような甲虫の怪物たちが、一斉に前進した。
「やるぞ! あの英雄様を追っ払って、物資を届けるんだ!」
 仲間の言葉に、あなたは頷く。街道都市での戦いが、始まろうとしている。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 英雄を名乗る暴漢に道を阻まれた皆さん。
 これを突破し、物資を届けてください。

●成功条件
 すべての敵の撃破

●特殊失敗条件
 後方の物資運搬トラックが4台以上破壊される

●状況
 帝政派より依頼を受け、物資奪還チームの護衛を受けをった皆さん。街道都市を突破する最中、皆さんの前に現れたのは、地震を新時代の英雄と騙る暴漢と、アンチ・ヘイヴンの怪物たちでした。
 これを突破しなければ、物資奪還に命を懸けた仲間達の活躍が無駄になりますし、帝政派に物資を届けることも叶わなくなります。
 ここが正念場です。アンチ・ヘイヴンの群れと自称新時代英雄ガランを倒し、このデッドラインを超えましょう!
 作戦決行エリアは鉄帝市内。フィールドは十分に広く、特に戦闘ペナルティなどは発生しません。
 戦闘開始時点で、簡易的にユニットの配置を現すと

 トラック   イレギュラーズ   敵

 というような形になります。イレギュラーズ達の後方に護るべき輸送トラックがあり、敵はそれに向かって突進してきます。


●エネミーデータ
 『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』、ガラン ×1
  巨大な機械腕を装備した、インファイターです。性格は短気で単純。一言で言ってしまうと莫迦。
  部下としてアンチ・ヘイヴンのオートンリブスを従えていますが、指示できるだけの頭の良さはありません。
  前線に突っ込んできて、暴風のごとく暴れるでしょう。しっかりと抑えないと、トラックを破壊されるかもしれません。

 アンチヘイヴン・オートンリプス ×6
  巨大なカブトムシ型の怪物です。巨大な甲殻は鎧、或いは砲弾のごとく。
  このシナリオに登場する個体は、自らの身体を砲弾に見立て、『移』動しながらの攻撃を多用してきます。
  そのため、退かれて『飛』ばされてしまったりするかもしれません。位置取りにはご注意を。
  硬いですが、反応自体は遅いです。集まっているうちに、ダメージを与えてしまうのがいいでしょう。

●防衛NPC
 輸送トラック ×6
  食料などの物資を満載した輸送トラックです。内部には鉄帝兵士もいますが、非常に疲弊しており、戦闘は行えません。
  装甲トラックなのでそれなりにHPと防技はありますが、そう何度も敵の攻撃には耐えられないでしょう。
  4台が破壊された時点で、作戦の失敗と判断。イレギュラーズには撤退が指示されます。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <総軍鏖殺>デッドラインを越えて完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ガヴィ コレット(p3p006928)
旋律が覚えてる
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)
復讐の炎
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標

リプレイ

●デッドラインを越えろ
 がおうん、と甲虫たちが吠える。
 六体の甲虫、オートンリプス達は、その甲殻に覆われた巨大な足を、ガチガチとならした。それはまるで、バッファローが突撃のために足を鳴らすかのようである。
 実際、彼の甲虫たちは、バッファローのごとく突撃してくるだろう……その威力は、バッファローの比ではないが。強力なそれは、鉄の塊が、或いは砲弾が飛んでくるようなものだ。いわば、生ける大砲、が六基、此方を向いているようなものであった。
「くそ、あんなのに道をふさがれちまったら……!」
 蒸気トラックの運転席で、帝政派の兵士が呻いた。軍用トラックとは言え、あの甲虫どもが一斉にこちらに突撃してくれば、瞬く間にトラックは破壊されてしまうだろう。そうなれば、荷台に満載された、命がけで奪取してきた物資も、その為に傷ついた兵士たちも、全てが消滅することとなる。
「そんな絶望的な顔するなよ」
 そう言って、ばさり、と赤のマントを翻したのは、『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)だ。
「今から方向転換しても、追い付かれる……ならば、ここで奴らをやるしかないなァ?
 どのみち、道はここしかないんだ。だったら」
「やれるってのかぁ?」
 馬鹿にしたように、男が言う。自称、英雄。国家公認の新時代の英雄、『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』の男、ガランである。英雄を名乗るが、しかしその野卑な言動は、場末のチンピラを想起させた。およそ英雄が持つべき勇気やそう言ったものは、いっさいに見受けられない。
「旧時代にしがみついてる英雄さん達よ。もうアンタらの時代じゃないってのさ。
 俺たち、新時代の英雄が、この鉄帝って場所を盛り立てていってやるからよ!」
 ぎゃはは、と小馬鹿にするように笑う、ガラン。明確な挑発であったが、しかしレイチェルを始め、多くのイレギュラーズ達には、漣ほどの怒りも立たなかったに違いない。あまりにも、低次元が過ぎる。そのような挑発などは、もはや、蚊が耳元を飛ぶ程度のいら立ちも起こさせはしない。
「ふ……はっ、ハハハハハ!」
 愉快気に笑ったのは、『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)である。
「ああ、失礼」
 と、口元を抑え、しかし笑いはこらえきれずに、くっくっと肩を震わせる。
「いやぁ、失礼、失礼。しかし、これは……ああ、私、こう見えても幻想ではそれなりの家の当主でして。
 良ければ、スカウトなどを。ええ、ちょうど道化師のシフトが詰まっていましてね。彼にも休みを与えてやりたい」
 ストレートに、間抜けだ、と言い放つウィルドだが、それを理解する程度の知能も、この間抜けにも存在したようだった。
「アァ……!?」
「英雄、英雄……しかし『新時代英雄隊』ときましたか……くくっ、さては我が国の勇者総選挙にでも影響を受けましたか?
 鉄帝の野蛮人どもも、我々幻想の民を笑わせる程度の諧謔と、猿真似をする程度の知能は持ち合わせていましたか。ああ、喜ばしい」
 くっくっ、と直接的な挑発を叩きつけるウィルド。人を怒らせたいならこうやれよ、と言わんばかりのそれは、間違いなく、ガランの神経をイラつかせることに成功した。
「テメェ……!」
「あー、まぁ、まぁ。そのくらいにしておくとよいぞ」
 と、『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)が言う。
「相手は、英雄にあこがれる子供のようなものなれば。大人としては、めっ、程度にしておくが良い」
 わはは、と景気よく百合子。いい加減、ガランの怒りも限界であった。
「馬鹿にしてんのか……!?」
「ほれ、わからんと見えて聞いてきたぞ。可愛いな!」
「そういう意味じゃねぇよ!!」
 ガランが吠える。無表情ながら、しかし蔑視を向けるのは『戦飢餓』恋屍・愛無(p3p007296)であった。
「君が覚悟を持って英雄を名乗っているようには思えないが。一応、そのように応対してやろう」
 愛無が、ずわり、とその身を震わせる。その腕が、巨大な怪物のそれへと変わる。
「生きるという事は喰うという事で。喰うという事は殺すという事だ。さて覚悟は良いかね?
 ――『英雄』などと名乗るならば。挑んでもらうとしよう。『怪物』に。それが英雄の責務なのだから」
「舐めやがって……その程度がどうしたってんだ!」
 ガランが吠える。同時、無数の甲虫たちが、がちゃり、とその身体を震わせた。
「あれは間違いなく莫迦の類だが」
 目を細めて、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が言う。
「それ故に厄介だ。統率の取れた動きはしてこないだろう。莫迦だからな。総員で突っ込んでくると思える。だからこそ、厄介だ」
「動きが読めない方がよっぽど、という事ですね。ましてや、此方は後ろを守らないといけませんから……」
 『旋律が覚えてる』ガヴィ コレット(p3p006928)が頷いた。
「しかし、新時代英雄……バルナバスのやることとは思えないですね。配下の軍人の考案でしょうか……?」
「どちらでも構わん」
 『復讐の炎』ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)が、その人型の顔の口元を獰猛に釣り上げた。
「公認の英雄などと舞い上がる時点で、どちらに転んでも間抜けだ。
 英雄とは名乗るものではなく勝手に成るものだ。そんな事も判らないとは……」
「ああ。自ら名乗って、驕り高ぶり。それが英雄などというもののはずがない」
 『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が、静かに目を細める。その目には、明確な怒りの感情があった。
「英雄の名を借りた蛮行か。ここで止めるぞ。そして、本当の英雄たちを、この先に行かせてやらなきゃならない」
 後方に意識を向けながら、エーレンが言う。背後には、命がけで、新皇帝派閥の悪漢たちから物資を回収してきた帝政派の兵士たちがいるのだ。サングロウブルクに待つ仲間のために、命をかけた者たちが。
 英雄と呼ぶものを上げろと言われれば、彼らもまさに英雄と呼んでよいだろう。間もなく、冬が来るのだ……何物をも平等に殺す、鉄帝の厳しい冬が。その為の備えを得た彼らの努力を、此処で無に帰してはいけない。
「やるぞ。準備は良いな」
 ロックが言う。その身体が、ぼろりと剥がれ落ちる。後に残るは、一匹のケダモノだ。
「まとめて薙ぎ払う」
 その言葉に、仲間達は頷いた。
「さァて。偽りの英雄さんにはご退場願うかァ」
 レイチェルが笑った。ぼう、とその右手が、右半身が、緋色の光を走らせた。体に走る、魔術紋様、緋色の光。戦闘開始。その意を告げる光。
「行け、甲虫ども!」
 ガランが叫んだ。甲虫たちが、一斉に、その後ろ脚をガシガシと蹴りだした!
「来るぞ……さて、どうする?」
 エーレンが言うのへ、ゼフィラが頷いた。
「後ろに行かせてはまずい……というのは、共通認識だと思う。
 奴らは猪みたいなものだ。敵の攻撃方向を変えるべきだね」
「あれはカブトムシですよね、それならこれで」
 ガヴィが呟き、ぱちん、と指を鳴らした。トラックの幻影が出現する。
「多少は囮になると思います……相手がただの虫みたいなものなら」
「知能は高くなさそうであるからな。それに、吾が抑える。あのばか者は――」
 百合子の言葉に、ウィルドが頷いた。
「ええ、私が」
「百合子君、甲虫は僕も抑えよう」
 愛無が言うのへ、百合子が笑う。
「うむ――一匹たりとも、後ろへは通さぬとしようか!」
「よし、では、スタートだ」
 エーレンが言うと同時に、ゆっくりと刃を抜き放った。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。お前たちも突撃が能か。どっちが強いか比べてみるか?」
 静かに、呟く。同時、エーレンは奔った。「カァッ!」と百合子が叫び、気合と共にその背にエナジーを注入する。それを受けて、エーレンは飛ぶように跳んだ。抜き放った刃が、甲虫の角を走る! すぅん、と高い音が響き、甲虫の角を断裂させた。それが、戦闘開始の合図! だん、と音を立てて、切り捨てられた甲虫の角が落下した。
「止めるぞ!」
 エーレンが叫んだ。同時、仲間達もすでに動き出している。甲虫が、ガタガタと身体を震わせた。ずだん、と強烈な音を立てて、弾丸、いや砲弾のごとく、それが突進する!
「来い!」
 百合子が凄絶な笑みを浮かべながら、叫んだ。その両手を、高々と掲げる。真っ向から、受け止める! ずっだんっ、と強烈な衝突音は、まるで鋼鉄と鋼鉄がぶつかりあうような音!
「むうっ!」
 百合子が、踏ん張った。強烈な突進、それを全身で受け止めながらのブロック!
「やれいっ!」
 百合子が叫んだ。横合いから飛び込んできたのは、愛無! その手を振るう。巨大な、影のような手。怪物の手。それが、食らいつくように、噛み砕くように、振り下ろされた!
「昆虫食か。流行りかもしれないが――」
 呟くように言う愛無。振るわれたその腕が、甲虫をぐちゃりと握りつぶす。ばぢん、と甲虫の破片が舞った。愛無は、僅かに顔をしかめた。
「趣味ではない」
「それは残念だな。後五匹いるのだが」
 百合子が呵々と笑う。一方。暴れまわるように奔る甲虫たちを、イレギュラーズ達は迎撃する。
「ふん、まるで指揮がなっていないな。所詮昆虫、住処を暴かれて泡を食っているかの様だな!」
 ロックが嘲笑するように言う。手にした蛇腹鞭が、高速の唸りをあげて甲虫の背を叩いた。ばぎん、と甲虫の背が破砕する。甲虫の筋肉を叩く蛇腹鞭。その痛みに、甲虫はきゅういい、と悲鳴を上げた。
「その程度で英雄の同胞気取りか――いや、所詮は虫か、その程度の考えもあるまい」
 ロックが獰猛に笑むと、再びに蛇腹鞭を振るった。必殺の一撃が、甲虫の裂けた皮膚に食い込んで、そこから真っ二つに断裂せしめた。砕けた甲虫、その残骸を踏みしめて、残る甲虫が突撃をする! ロックが寸でのところで回避するが、衝撃がその身体を叩き、ロックを激しく吹き飛ばした。
「ちっ、言ったぞ!」
 ロックが空中で姿勢制御しながら叫ぶ。空中俯瞰していた愛無が叫んだ。
「まずい、トラック一台、ぶつかるぞ!」
 その言葉通りに、イレギュラーズ達の包囲を外れた甲虫が、一匹、トラックに突っ込んだ。ずだがんっ、と強烈な音が響いて、トラックのフロントが甲虫の形にへっこんだ。
「うわぁっ!?」
 兵士が叫ぶ。レイチェルが叫び返した。
「まだ動かせるか!?」
「は、はい! ですがこれ以上は!」
「悪いが、耐えてくれ! すぐに救援を送る!」
 レイチェルが視線を送ると、ガヴィが頷いた。ガヴィが躍る様に、そのレイピアを振るう。すぅ、と舞うレイピアは、まるで指揮棒のようにも見えた。魅了し、操る。そういうもの。
「さぁて、あなたの敵は、だぁれ?」
 魅了の声が、響く。ぎゅあおん、と甲虫が雄叫びをあげて、トラックに突っ込んでいった甲虫に向けて、自ら突撃を敢行した! 魅了による錯乱。矛盾の故事があるが、この時、同じ装甲を持つ甲虫がぶつかり合ったら、どちらがより損害を受けるか。答えは同士討ちである。双方の装甲がぶち壊れて肉があらわになる中、ガヴィのレイピアが、その破砕された装甲の間に鋭く突き刺さる!
「ひとつ!」
「ふたつ、だ!」
 合わせるレイチェルの放った魔力のま白き矢が、甲虫の装甲の間に突き刺さった! 内部の重要期間を粉砕された二匹の甲虫が、ぎゅうういい、と悲鳴を上げて絶命する!
「エンジン、かかりますね?」
 ガヴィが尋ねるのへ、兵士が叫んだ。
「はい!」
「ごめんなさい、もう、近づけさせません!」
 ガヴィの言葉に、兵士は頷いた。一方で、ガランとウィルドの激闘が続いている。ガランは間抜けであったが、しかし戦闘能力だけに関して言えば、確かに一級品であったと言えた。ウィルドは嘲笑するようにガランを翻弄する。
「おやおや、この程度ですか?」
 ウィルドが嘲笑する。
「大層な名前の中身がこのお目出度い雑魚なのですから、初めから大した期待もされていないのでしょう。名前が適当なのも納得ですね」
「舐めやがって!」
 ガランが吠えた。機械腕が、激しく蒸気を吹く。ばずん、と音を立てて、勢いよく腕が突き出された。たとえるならパイルバンカー。上記により腕激しく発射する、強烈なパンチの一撃。ウィルドが素早く跳躍すると、そのパンチは大地に突き刺さった。石畳の大地が、ばぎり、と音を立てて陥没する。ぱちぱちぱち、とゆっくりウィルドが手を叩いた。
「当たれば死んでいたかもしれませんねぇ。当 た れ ば 」
「ほざけよ!」
 ガランが力を込めて、大地を殴る。破砕した石畳が、砲弾めいて周囲にとんだ。ウィルドが短剣を掲げ、射線を反らすよう要領で致命打の石片をはじく。
「ウィルド、そうは言うが、念のため」
 ゼフィラが声をあげた。聖なる唱歌は光となりて、仲間達の疲労を瞬く間に癒していく。
「ま、疲れはするだろう?」
「ええ、違いありませんね。年甲斐もなくはしゃいで飛びまわってしまいました。子供の相手もつかれるものですねぇ」
「舐めやがって!」
 ガランが吠える。
「私が言うのもなんだがね。実力差を解らぬまま戦場に出るようなら、早々に死ぬよ」
「ほざけよ!」
 ゼフィラの当然と言える忠告も、ガランには届くまい。まぁ、届いたところで、シッポを巻いて逃げかえったとなれば、弱者、となった彼の居場所などはもうどこにもないだろうが。とはいえ、その制度で強者として好き放題をしていたのはガランであると考えれば、自業自得の結末と言えなくもない。いずれにしても、彼は詰んでいたのだ。イレギュラーズの、このメンバーの相手をした段階で。
「すまない、遅れた!」
 エーレンが叫んだ。周りにいた甲虫は、既に殲滅されていた。「ばかな」とガランが叫ぶ。「あいつらを全部やったのかァ!?」。
「ええ、そのようで」
 ウィルドが肩をすくめた。
「ガラン、とか言ったな。鉄帝の英雄になったとして、それからどうするつもりだ? 弱い者から奪い取って終わり、なら鼻で笑うぞ」
 エーレンが言う。ガランが笑った。
「何言ってやがる! 国を挙げて、俺が英雄だと決められたんだ! 何をやってもいいってのが英雄だろうが!?」
「鼻で笑う、と言ったが」
 エーレンが目を細めた。
「撤回する。お前など、笑う価値もない」
 静かに刃を構えた。
「しかし、英雄とな。
 英雄とはなるものであって任命されるものではないぞ」
 百合子が呆れたように言う。
「吾達は冠位魔種を倒し、神とも称される竜と戦ってきた、故に英雄かと問われれば否だ。
 吾達をそう呼んだ者達が居るからこそ英雄扱いされるようになった。
 だからお前よ。英雄なんてただのハリボテだぞ。強さなど関係のない称号なのだから。
 名乗るなら軍の階級とかにしておけ、そっちのほうが強いってわかりやすいから」
「英雄だから強いんだろうが! 何をやっても許されるんだろうが!」
「ああ、もう黙れ」
 要領を得ぬガランの言葉に、まったくほんとうに、エーレンは怒りをあらわにしていた。
「何が新時代の英雄か。お前は一山いくらのゴロツキに過ぎん。言葉の使い方が軽いんだよ」
 エーレンが走った。斬撃が走る! ガランもそれなりの実力者。エーレンの斬撃に、対応できる程度の力はあった。とはいえ、それが限界、だ。振るわれた刃を、機械腕が受け止めた。ばぢん、と蒸気パイルバンカーの動力パイプが切り裂かれる。あっ、とガランが悲鳴を上げた。
「力も借りものか?」
 愛無が声を上げつつ、接近した。怪物の爪が、機械腕を噛み砕く。
「やはり、やはり、「偽物」は不味い。どうせ喰うなら、あっちの奪取部隊のがよほど美味そうだ」
 ぺっ、と吐き出すように、愛無はその爪で粉砕した機械腕を放り投げた。残された、左腕。機械腕を、ガランは這う這うの体で振り上げた。
「舐めるんじゃ……」
「舐めてるのは、アンタだろうが」
 レイチェルが、呆れたように言った。放つ魔矢が、ようやくに振り上げた機械の左腕に突き刺さった。
「何を……とか聞いてくれるなよ。一地説明してやるのが面倒くさい……いや、一言で言えたなァ。
 全部、だ。全部、お前は舐め腐ってたんだよ」
 その全部とは。
 イレギュラーズの実力を。
 背後に控える、物資奪取部隊の覚悟も労力も。
 英雄という言葉の重みも。
 全て。
 すべてだ。
 ばずん、とガランの機械腕が蒸気をあげる。故障の蒸気。
「終わりだ」
 ロックが声をあげ、蛇腹鞭を振り下ろした。京れ鬱な打撃が、ガランの背中をぶち叩いた。ぐへぇ、と声をあげて、ガランが白目をむく。強烈な衝撃が、彼の意識を狩りとっていた。
「ふん。食い殺す価値もあるまい。その時間も無駄だ」
「同意する」
 愛無が頷いた。
「ええ、それより、負傷してる方もいますから。奪取部隊の皆さんを、はやく安全な所へ」
 ガヴィがそういうのへ、ゼフィラは頷いた。
「ああ、そうだね。私も早く、アーカーシュで調査の続きをしたい所だ」
 肩をすくめる。
 果たして戦いの終結を確認した兵士たちが、此方へと視線をやった。
 力強く頷き返すと、兵士たちはトラックのアクセルを全開にする。
 果たして、デッドラインは越えた。
 イレギュラーズ達は、本当の英雄たちと共に、凱旋するのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さんの活躍により、物資奪取部隊は無事帰還しました。
 生産力が、僅かに向上したようです。

●運営による追記
 本シナリオの結果により、<六天覇道>帝政派の生産力が+10されました!

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