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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>『ローゼンイスタフ』の志は旗にあり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●其は秘するが花なれど
「貴様等にはつくづく苦労をかける。それが、『俺達ローゼンイスタフの下らん主張の殴り合い』であれば尚更に恥ずべきと思っている」
 餓狼伯の居城、その執務室にわざわざ通されたイレギュラーズは、待ち構えていた『金狼』ヴォルフ・アヒム・ローゼンイスタフからの第一声に対し一様に眉根を寄せた。おそらく最も状況が飲み込めていないのは、ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)その人であろう。いきなり主張、と言われても何を話しているのか全く読めないのだ。
「父上、それは……一体どういう」
「おそらくはローレットを通して追々貴様等も知ろうが、『ローゼンイスタフ志士隊』を名乗る連中が今般の動乱に乗じて各地に現れた、とのことだ。これは我がヴィーザルのみではなく、『全土に』だ。詳しくは、パパス。貴様から話すのが早かろうよ」
 ヴォルフの言葉に合わせふと視線を巡らせると、そこには『ポテサラハーモニア』パパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)が防寒装備をそのままに真っ直ぐに立っている。彼女は何度か咳払いを挟んでから、冷静な口調で焦げ臭い話の口火を切った。
「現在、『ローゼンイスタフ志士隊』は鉄帝各地で新皇帝派であるかのように振る舞っています。とはいえ、手当たり次第に人々を襲って回っている無軌道さではなく、根底にあるのは『過剰なまでの潔癖さ』であると見ています。証拠に、現状確認されている襲撃事案はすべて大なり小なり『不正とみなしたものの排除』から成っていますので、ヴィーザルで斯様な事例は起き得ない……と、高を括っていました」
「つまり、起きたのだな? 不正と見做されるような事例が」
 ベルフラウが口を挟むと、パパスは重苦しい表情で頷き返す。
「今時点でヴィーザルの鎮守を担っているのはヴォルフ辺境伯に依るところが大きいですが、一人。狭小ながらも領地を有し、我々が進めている『呼び掛け』に応じていない者がいます。名をヒム・テンツェントと。彼が反応を見せない理由は不明でしたが、内偵を送り得心がいきました。……いま彼は、領民から食料を巻き上げ籠城準備を整えています。即座に餓死しない程度の、真綿で首を絞めるペースで。ですが冬は越えられないでしょう。ここに目をつけられ襲撃されているので、私達は急ぎ『ローゼンイスタフ志士隊』を排除し、ヒムを断罪した上で領民に食料の再分配と庇護を呼びかける必要があります。統治はテンツェントの令息を宛がうことになるでしょう」
 話の内容は理解できる。割合筋の通った、ローレットとヴォルフ側が悪名を被らない絶妙なラインだ。だが、まず。大前提として、イレギュラーズは、ベルフラウは。たった1つ重大ごとを聞いていない。
「…………最後に。その不埒者どもは、どの道理で『ローゼンイスタフ』を名乗っている?」
「落ち着いて聞いてください、ベルフラウさん。今般の騒乱の渦中にある人物の名はテオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフ。貴女の弟君です。ヴォルフ卿は『道を正す為に道理を踏み外せばそれは正道ならず』と」
「身内の恥は何れ身内で雪ぐ。先ずはこの地の危険因子を排除し、貴様等の掲げる『呼び掛け』への足掛かりとしたい。出来るな」

●其は暴かれて実をつける
「我々はローゼンイスタフ志士隊である! この地に於いて不義に走るヒム・テンツェントを直ちに明渡し、然る後にこの地を新たな秩序の下に敷く者なり! さもなくば――飢えを凌ぐ貴殿らをも悪徳に恭順する者として断罪する用意がある! 我々は『正義の行使の自由』をこの鉄帝の掟の下、弱肉強食を以て行う者なり!」
「そ、そんな……御領主を差し出すなんて、我々には無理だ! 力もなければ飢え死なぬようにするのがやっとの体で、何をしろというのか?!」
「命があるであろうが、数多の領民の! 怒りを、不満を湛えた命を! 多少の犠牲を払ってでも次代に差し出す覚悟もない、と! よろしい、であれば滅ぶしかあるまいな!」
 『ローゼンイスタフ志士隊』の代表格の男は朗々とその地に潜む罪状を暴き、そしてその地を治めると言い出した。人々は『ローゼンイスタフ』の名に一瞬ながら沸いたが、状況が明らかにおかしいことにすぐに気付く。そして、その言葉に驚くほどの無理筋があることに。
「ローゼンイスタフ……あなた方は本当に我々の知るローゼンイスタフなのか?」
「無論である! 我々は――」
「――テオドール(おとうと)の遣いだな。丁寧に制式銃で揃えて、ご苦労なことだ」
 領民の悲痛な言葉を無下に切って捨てた志士の言葉に割り込み、ベルフラウが冷静に告げる。居並ぶイレギュラーズは9名、対して志士隊は20をくだらない。だが、志士達には『自分』がない、とベルフラウは看破した。
 彼らはきっと、テオドールという男のカリスマの下に、掲げられた信念を無根拠に信じている。だからその言葉に、主張に、そしてやり方には品がなく道理が薄い。
「ローゼンイスタフの在り方をこの旗の下に示そう――その上で、この地の膿を出し切るのは私達の役目だ!」
 高く掲げられたローゼンイスタフの旗の下、イレギュラーズは身構える。
 領民達は知るだろう。この戦いに、そしてその後訪れる断罪に、如何なる道理があろうかと。

GMコメント

 なんかいきなりめっちゃ重いパスが飛んできた。

●成功条件
 新皇帝派『ローゼンイスタフ志士隊』の全滅
 ヒム・テンツェントの断罪

●ローゼンイスタフ志士隊×25(リーダー含む)
 概ねOPの通りとなります。
 ローゼンイスタフを名乗っていますが、『ノーザンキングス解放戦線(ヴォルフ麾下)』とは主張が根底から異なります。
 彼らは解体された警察機構を僭称し、弱肉強食の下に活動しているので、悪事を暴き断罪することと、其れに伴い自分たちがすべてを手にすることに矛盾がありません。
 リーダー含め原則は小物ですが、制式銃を持ち連携がしっかり取れ、衛生兵(治療術師)や攻撃専門の術師も抱えています。
 全体的に遠距離攻撃主体ですが、銃剣突撃もやってのけます。
 なお、銃剣には何らかの毒が塗ってありますし、連携攻撃(数名がかり)は『必殺』が伴います。連携攻撃は近接でも可能なため、怒りで引き付けたときは特に警戒すべき攻撃の一つです。
 逆に言えば、手札一枚落としで数名拘束できるわけですね。
 なお、一般人も「正義執行を拒んだ」とか言いがかりつけて殺しにきます。理不尽。

●ヒム・テンツェント
 特に注記すべきことはないです。逃げようとしても捕まるだろうし成功する流れなら最終盤で首を落とされるだけです。こいつのせいでローゼンイスタフ志士隊の介入を許しました。かわいいね。死ね。

●パパス
 例のごとく治療主体の神秘型。特に危険がなければ前に出ないように振る舞ってます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <総軍鏖殺>『ローゼンイスタフ』の志は旗にあり完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月18日 23時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
秦・鈴花(p3p010358)
未来を背負う者

リプレイ


「ベルフラウの実家も、どうもややこしい事情があるらしいな」
「恥ずかしながら、な。しかしテオドールの奴め、一体何を考えている……?」
 目の前に立ち塞がる敵集団は、名を『ローゼンイスタフ志士隊』と名乗った。『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)はその名乗りに『戦旗の乙女』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)をちらりと見て気の毒そうな表情になった。当のベルフラウはそんな視線に僅かに顔を逸らし嘆息する。テオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフ……ベルフラウの弟が今般の無作法者達の首魁らしいが、長らく顔を見ぬ身内の考えばかりは彼女にも理解し難い。潔癖ではあったが、ここまで理解に苦しむ行為に出るとは想定していないのだ。
「政治的なことはわからねーけど、一つわかることがある。ローゼンイスタフ……ベルフラウさんの家名を汚すような蛮行を野放しにする訳にはいかない、ってことだな」
「蛮行とは異な事を! このヴィーザルで木っ端役人に身勝手をさせている者達の正当性があろうものか!」
 『虹を心にかけて』秋月 誠吾(p3p007127)は鉄帝の現状を理解しきれていないが、ベルフラウのお家問題、だけで片付く話ではないこと、目の前の彼らが野蛮だということは理解した。反論を吐き出した志士隊の一人の言葉は、しかし誠吾ではなく他のイレギュラーズを発奮させてしまったようだ。
「ベルフラウって奴と、あとその父親はねぇ、今もノーザンキングス――いえ『ポラリス・ユニオン』の下で人の為に旗降ってんの。北極星はアタシの里の岩山の隙間からも、いつだって見えた輝く星よ。人々を導くって言ってんのに、その辺のゴミがローゼンイスタフ名乗るなって話!」
「弱肉強食は統治に相応しくないし、自分達が強者だと思ってる所も間違いだ。筋を通す軸も力も無いのに正義を振りかざすなど、許してはならない!」
 『パンケーキで許す』秦・鈴花(p3p010358)と『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は、暴論を吐く者達に指を突きつけながら怒りをあらわにする。『北辰連合』と名を変え、ヴィーザルを守る意思を再確認したうえで、その旗振り役のベルフラウ、そしてその父のヴォルフを差し置いてローゼンイスタフを名乗る愚は決して許されるものではない。なにより、イズマは弱肉強食の一言で汎ゆる無法を通そうとするその腐った性根が気に食わない。
「……北辰連合でしたか」
「そうよ。ヴィクトール、アンタもこの場にいるなら手伝ってくれるんでしょう!?」
「勿論です。よろしくお願い致しますね、皆様」
 『毀金』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)は北辰連合に属していない。されど、イレギュラーズとして、新皇帝派を容認できぬ者として、為すべき志は皆と同じだ。興奮気味の鈴花に恭しく下げた頭、その所作には嫌味など微塵も感じられなかった。
「『正義の行使の自由』、か。確かに自由であるのは良いことだが、正義って言うのは常に揺らぐものだ。昨日の正義が今日は悪、なんてことは常に起こり得る。故に、志士隊が掲げる正義を俺達が唾棄するものとして排除しても問題なかろう」
「確かに領主様に問題はあるのかもしれない……それを変えたいと思う事自体はいいことだと思う……だからといって、それをそこで暮らしている民にまで押し付けるのは違うでしょう!」
 『Immortalizer』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)の言う通り、正義を名乗るのも、それが賊軍呼ばわりされるのもそれぞれ自由だ。だが、イレギュラーズの掲げる正義の下では『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)でなくとも、無辜の市民を巻き込むやり方は許容されざるものである。それがたとえ悪徳を主体とする依頼であっても。
「我々は諸君ら北辰連合とやらの正義も、外様のイレギュラーズの掲げる正義も温いと言っている。この地の領主の首を差し出す、領民総出でかかればそれくらいできるだろう。それもできぬのなら土地だけいただけばいいだけのこと! 腑抜けは不要!」
「魚の住めぬ水で国を満たすのが貴殿らの、テオドールのやり方か。少なくとも、私達が守るヴィーザルでそれはさせんぞ」
「正義? あぁ構わねえぜ。そいつを貫く為に命が張れるんならな!」
 一同の言葉を受けてなお退くつもりのない志士の言葉に、これ以上の情報収集は出来まいとベルフラウは判断した。いずれにせよ、彼らを生かして返す気はない。ルカも心得たとばかりに大音声でもって志士達を牽制し、身構える。
 周囲の人々はこの状況の劇的な変化に理解が追いついていない。正当なローゼンイスタフの子であるベルフラウを支持するのが当然ではあろうが、この数差だ。万が一を考え、志士に与すべきかと真剣に悩む者がいるのは確かだ。
 そんな彼らを冷たい目で見ていた『ポテサラハーモニア』パパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)には、彼らに対する慈悲のようなものは失せていた。最終的に領主をどうにかできれば、それで足りる話だ。積極的には殺さないが間引くのもありか、と。その視線と態度の変化に気付ける者は、仲間達にはいなかったが。


「パパスは回復よろしく、アタシめっちゃ突っ込むからアンタの回復ないと多分無理!」
「魔力効率は最大限高めるけど、過信は禁物だからな?」
「任せて! ガス欠になるころには全滅よ!」
 鈴花はパパスが声もなく頷くのを見届けると、全身に満ちた力を確かめるように手近な志士へと強襲をかける。
 イズマが魔力循環の効率化を急がなければ、瞬く間に魔力を食い尽くすであろう一撃……それは誠吾の猛攻に巻き込まれた一人の命を食い破るには十分すぎるものだった。
「毒だの数で押し切る連携だのと小賢しい! 数は兵法の基本なれど、それだけに目が行く戦い方で『ローゼンイスタフ』を語るか!」
「……と、ローゼンイスタフの正当な筋が仰るのです。皆様方の主張に正当性などないのですよ」
 旗を振るい、高らかに宣言するベルフラウの声は仲間を鼓舞し、敵の動揺を誘った。いかに連携が取れようと、戦列中央から意識を切り崩されれば十全な力は発揮できまい。
 それでも果敢に立ち向かい、ベルフラウを四方から囲もうと間合いを詰めた前衛はしかし、ヴィクトールとルカによって蹴散らされ、その前線を押し込まれる憂き目に遭うまでが一つの流れだった。
「相手のことを省みることなく、自分たちの考えだけを押し付けようとする!  あなた達のやってることは、自分勝手な行動をして民を飢えさせていた領主様と何が違うっていうの!?」
「手段が、行為が変わらずとも、そこに志あらばそれは是とされる! それが今、この瞬間の我が国の道理だろう!」
「それらしい御託を並べても、結局は暴力を振るう動機が欲しかっただけだろう。惨めだな」
 アレクシアは目まぐるしく変化する戦局を見極めつつ、治癒術を行使する。イレギュラーズの堅牢さを思えばマメでなくとも死にはすまいが、それを甘受できるほど彼女は冷血漢ではないのだ。治癒にあわせ呼びかけたその言葉が、あまりに暴力的な結論で返ってきたときはさしもの彼女も鼻白んだが、即座にフレイに切って捨てられ、反論に窮するあたりは浅知恵の産物であることがよくわかった。だから、その心の隙をついて黒い稲妻が閃けば、敵意の誘惑に抗える道理もない。
「命が惜しいならいつでも逃げな。だが俺は手加減が下手くそだ。始まったら命の保証はしねえからなぁ!」
 ルカが前線を押し上げつつ領民達に叫べば、彼らの大半は怯えつつも三々五々に散っていく。これ以上ここにいたら大変なことになる、と本能で察したのだ。
 だが、それでも懲りぬ者はいるらしい。すぐさま飛びかかってこないだけ賢いが、残っているだけ愚かではあった。
「お前さんたちにとっては弱肉強食こそ我が世界、なのかもしれねー。圧倒的な力があるものが統べる世界ってのもあるんだろう。だがな。力あるものは、その手に抱えた弱いものを守り導く役目があると、俺は思ってるぜ」
「強くなければ道理を通せぬ、守ろうと差し伸ばした手も弱ければ信用されぬ、力があったところで、その両手は無限には広がらん! なれば態勢を根底から揺るがし、力によって秩序を構築することになんの矛盾も生じは――」
「するに決まってるでしょうが! 力任せに立てた柱なんて歪むのよ! そんなんで国とか集合体の屋台骨が支えられるもんですか! 人の心だって同じよ同じ! 歪んだ主張について行ったら総崩れするんだから!」
 誠吾の口にする、そしてベルフラウが実行してきた『ノブレス・オブリージュ』の精神は、しかし暴力で脳を支配された志士達にはもはや通じぬものであった。が、鈴花はその歪みこそが間違いの下だとばっさり切って捨て、自分から遠くにいる面々を次々に狙い撃つ。なかには治癒術士もいたのだろう。今の今までしぶとく立ち上がってきた志士達の勢いが一気に削がれたのが簡単に見て取れた。対して、志士側もアレクシアを狙いはしたが、したのだが、その堅牢さに驚く間も与えられずに陣形が崩れていく。
 ……そこで、その場に残っていた愚かな領民が動いた。ベルフラウの旗を見据え、それを燃やすべく火を放とうとしたのだ。
「なぜここで横槍を入れてくる?! 先程まで命を狙われていただろうが、意味がわからん! ……もういい、パパスよ……こいつらを纏めてハムにしてやれ!」
 パパスはそのとき、冷静な顔でスリングを手にしたまま愕然とした表情でベルフラウを見た。真面目なスタンスで戦わせてはくれないのか、と。だがその逡巡も一瞬だ。
「…………はぁ、ベルフラウがいうなら仕方ねえゆ。やつらちょっとハムになったほうが良かったと思うくらいボコしてくゆ」
「パパス? おい、ただの冗談だぞ? 分かって居るだろうなパパス? おい!!! なんか済まなかったから殺すなよ! わかっているのか!?」
 ことここに至ってなお冗談のようなやり取りが成立しているのは、つまり志士隊の勢いがあからさまに削られたことを意味する。イズマによって回転率が極端にあがった鈴花とルカもさることながら、四方八方で精神的誘導を受けたのだから連携もクソッタレもなかったのである。ローゼンイスタフの名を冠するには、彼らはあまりに哀れな結末を迎えたといえるだろう。


「ヒッ――おま、あ、貴女様はローゼンイスタフの……!?」
「そうだ。顔は割れているのだな」
 ローゼンイスタフ志士隊を撃破し、住民たちも多少の脅しを兼ねて一部だけ適度に痛めつけた一同は、一連の戦闘を見て怯えて道を譲った私兵達を連れ立ってヒム・テンツェントの前に現れた。宛ら死神の来訪だ。彼は自分のしでかしたこととその結果の重さに思わず小さく悲鳴を上げ、腰を抜かした。失禁しなかっただけ上等な方だろうか?
「一発くらい殴ってもいいわよね! いいのよね?!」
「私が治療できる程度に留めてくださいね。そのあと殺すかもしれません、」
「わかったわ死ねェ!」
「……が……」
 鈴花は一発見舞ってやろうと、ずっと利き腕をぶん回して温めていた。許可が出るなり振り上げられた拳は、ヒムの体を天井に届くかというほどに打ち上げ、地面と接吻させるに至る。首は折れていない。まあ治療可能だろう。
「ひとまずは、領民から徴収して溜め込んだ食料や備蓄の再分配だ。あなたやご子息が統治するに足る資質かはこれから判断することで、それよりも先にやることがある」
 イズマは、仲間達がヒムの処遇で話し合うのをよそに食料庫へと数名の兵士を連れて向かう。冬を越すためにヒムの断罪が急務だった。ことここに至っては、再分配の手配をやる人間がいてもいいだろうと。
「今回の罪と照らし合わせて死ななければ収拾がつかないのなら、断罪は必須だ」
「個人的な想いとしては、改悛の機会を与えてもいいんじゃないか、とは思うかな……」
 最終的にはベルフラウの判断だ、としつつも、多くの面々はフレイのいうように断罪を前提として考えている。殺すかどうかはともかく、適切な形で首に鈴はつけねばなるまいと。
 他方、アレクシアは殺すことに懐疑的で、まず機会を与えてはどうか、と考えている。それが甘い考えであることは十分に承知の上で、であるが。
「人の性根が簡単に治せるとは思わないが、温情を与えてやるならそれもありだろう」
「そんな簡単に飼えるモンなの? 絶対またやらかすわよ」
「それを防ぐために、ローゼンイスタフで査察を行うという手もある」
「でも、依頼は断罪でしたか……少々厳しいものがありますね」
 誠吾の意見に、鈴花は懐疑的な視線をヒムに向けた。床に頭を擦り付ける醜態を晒したとはいえ、どこか野心家の匂いを嗅ぎつけたのかもしれない。ベルウラウは今後を見据えているが、さりとてヴィクトールの懸念も尤もだ。どうすべきか、と一同が考えたとき、フレイは何事もなかったかのようにひとつの提案を付け加えた。
「それはそれとして、死を回避する方法があるなら……それ以外の贖罪の方法があるならそれを推したいところだがな。志士隊の死者から替玉を用意するとかな」
 一同は一斉にフレイに向き直り、続けてヒムへと視線を向けた。

 ……斯くして、ヒム・テンツェントは表向きは苛烈な断罪の結果として死んだ、という結果が残された。
 後継たる彼の息子が十全に力を発揮して統治できるかは怪しいところだが、慣れる日はそう遠くあるまい。父がまっとうな統治のなんたるかを正しく伝え、ローゼンイスタフの査察がある以上は。

成否

成功

MVP

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊

状態異常

なし

あとがき

 どシリアスにしようと……思っていたんです……。

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