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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>未来への脱出行

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●スチールグラードの荒廃
 その日、それまでの景色は一変していた。
 すべての人が、とは決して言わない。だが、大多数の人々が笑顔で、幸せに暮らしていた、鉄帝・スチールグラード。その面影は今はなく、荒廃と暴力の支配する、荒涼と景色が広がっているのだ。
 弱き者死に、強きものだけが栄えた。いや、その強きものも別の強きものに食われ、弱きものとして屍を晒していた。
 隙を見せれば殺される。隙を見せずとも殺される。弱肉強食、と言えばそれすらも生ぬるい。喰い喰われ、今を生き延びる、混沌の世。
 新皇帝バルナバスの治世は、そのようなものであった。

 スチールグラードの一角を、二人の少年が走る。親はつい先日、得体のしれない魔物に食われて死んだ。あの、新皇帝が現れてから街を闊歩する異形の怪物たちは、弱きものから順に食らい始めた。まるで、弱きに対する怒りを叩きつけるかのように。子供たちは、その小さな体を存分に生かして、狭い通路や配管の中を通ったりして、精一杯に逃げ回って生きていた。胸には、瓶に詰め込んだ水を、いくつか抱えていた。子供が運べる限界を、一生懸命に。
 しばし進むと、小さな食料品店が見えた。大通りから外れて、人知れず、常連だけに物を売っているような、そんな辺鄙な店だった。
「入って!」
 その食料品店の中から、子供が叫ぶ。釘で打ち付けられた扉の下に、子供が通れるくらいの穴があって、二人の少年は、そこから中に滑り込んだ。同時、扉に体当たりする、奇怪な、狼のような怪物――天衝種(アンチ・ヘイヴン)グルゥイグダロスの姿が、窓から見えた。
「入ってこない?」
 幼い少女が言うのへ、窓から外を見ていた少年が頷いた。
「大丈夫さ。あいつら、頭は悪いから」
 椅子の上から飛び降りる。先ほど穴から飛び込んできた二人の少年の内、帽子をかぶっていた少年が言った。
「レット。ピーターは?」
「大丈夫、今は安静にしてる。でも、熱が下がらない」
 椅子から飛び降りたレットと呼ばれた少年がそう答えた。
「水は持ってきた」
 帽子の少年が言う。帽子の少年の名を、ライグと言った。此処に集まった子供たちの、リーダーのような少年だった。
「とにかく、いっぱい飲ませて。風邪の時は水分をとれって、母さんが言ってた」
「でも、水場はまだ使えるのか?」
 レットが言うのへ、ライグに同行していた少年、ジレンが頭を振った。
「正直難しい。あの変な魔物の数は増えてるし、大人たちも水場を争って喧嘩を始めた」
「水道が直せればな」
 レットが言う。
「水道屋の大人は真っ先に殺されたか、悪い奴に捕まって、そいつらのための水道だけ直させられてるよ」
 がん、とライグが井戸につながっているポンプを蹴っ飛ばした。一滴たりとも水は出ない。
 状況を整理しよう。彼らは、親を亡くし、どうにか集まって、この誰も知らないような食料品店に立てこもった少年少女たちだ。孤立無援の状態で、子供の小さな体を活かして、あちこちから必要なものを集めて何とか生活していた。が、それも限界だった。仲間の一人、ピーターが熱を出して倒れた。薬を得るのも難しく、このままでは彼は病に敗れるかもしれない。
「なんとかできないかな……」
 少女、ジータが言った。皆が、ふむ、うなる。
「元々国を動かしてた人達は、街の外に逃げちまったんだろ?」
 レットが言った。
「俺たちじゃ、外には逃げられないよ」
「ラドバウに集まって、闘士の人達が何かしてるってのは、外に出た時にきいた」
 ジレンが言う。
「じゃあ、ラドバウまで行けばいいのか?」
「いや、ピーターもいる。俺たち全員は、無理だ」
 ライグの言葉に、ジータが嗚咽を漏らした。
「あたし達、死んじゃうの?」
「大丈夫、泣かないで」
 年長の少女、ブルムが言う。
「ねぇ、助けを呼べないかな……ラドバウまで。誰か一人でも、いければ……」
「そうだね。ひとり……足の速い子なら」
 ライグが頷いた。
「じゃあ、ライグ、お前か、ジレンだ」
 レットが言った。
「俺は……行けない。ここが心配だ」
「じゃあ、ボク?」
 ジレンが言った。
「そうしかないだろ? 頼むぜジレン。お前の脚は、ライグより速いんだからな」
「ジレン、ラドバウの道は分かるか?」
 ライグが言うのへ、
「わかるよ、何度も遊びに行ったからね……此処からなら、そんなに遠くはないはずだから」
 そう、ジレンが言った。ライグが頷く。
「決まりだ。頼むよ、ジレン。君だけが頼りだ――」

 その二日後。アミタ・レイリア (p3p010501)が営む酒場に現れたのは、ローレットの情報屋である、ファーリナ(p3n000013)であった。
「ああ、よかった! いらっしゃった!」
 ひらひらと飛んできたファーリナが、自己紹介をする。
「ローレットの方から来ました……クソ怪しいなこれ。いや、普通にローレットの情報屋なんですが。
 兎に角、お仕事です、お仕事。何でも屋、でもあるんですよね? でしたら、色々と対応力がある、と思いまして!」
「あら、そうなの? ひとまず、そこにかけて頂戴」
 アミタが指した、テーブルの上に置かれた人形用の椅子に、ファーリナが腰かける。
「えっとですね、鉄帝の状況はご存じですか?」
「だいたいは。皇帝が変わって、国が荒れている」
「それだけ分かれば上々です。で、国内には、そのあれた国に取り残された人がいる……特に首都のスチールグラードには。
 今回は、そんな彼らを助けるお仕事です。クライアントは、ラドバウ派の皆さん。詳しく状況を説明させてもらっても?」
「ええ、お願い」
 アミタがそういう。
 ファーリナが言うには――。
 昨日、ラドバウに少年が一人逃げ込んできたのだという。名を、ジレン。街の中で何とか生き延びている子供たちの集団の一人で、いよいよ行き詰ってしまって助けを求めてきたというのだ。
「仲間達をラドバウまで避難させたいのですが、一人が酷い風邪を患ってしまったらしくて。動けないのです。
 ラドバウも、闘士たちを派遣したのですが、しかし一気に大人数は動かせないのが実情。
 そこで、ローレットの出番になるわけですね。
 ラドバウの闘士たちが子供たちを救っている間、周辺の魔物達……天衝種(アンチ・ヘイヴン)の対応をお願いしたいのです。
 ……危険な割に裏方みたいな仕事ですが。きちんと報酬は出ますので」
「ふふ。別に気にしないわよ。子供達、困ってるんでしょ? あたしは何をしたらいいの?」
「他のメンバーと合流して、周辺の天衝種(アンチ・ヘイヴン)を撃退する……というのがお仕事です!
 シンプルに言えば、いって、やっつけて、帰ってくる、ですよ」
 ファーリナがそういうのへ、アミタが頷いた。
「オーケイ。じゃあ、お仕事と行きましょうか」
 アミタが笑って、頷く。その日、アミタの店は臨時休業をとった。理由は――子供たちのため、というものだった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 子供たちを救うため、アンチ・ヘイヴンを撃退します!

●成功条件
 すべてのアンチ・ヘイヴンの撃破。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 政変による混乱に巻き込まれたとある子供たちは、身を寄せ合って今をしのいでいました。
 が、仲間の一人が病に倒れ、先行きが立たなくなります。子供たちは、スチールグラード内部で助けを求められるラドバウへの移動を決意。実際に、仲間の一人であるジレンが先行し、ラドバウに助けを求めました。
 ラドバウ派は、子供たちの救出を決定。しかし、現在の状況では、多くの人員を一か所に割くことはできません。そこで、少数の護衛チームと、ローレット・イレギュラーズ……すなわち、皆さんの力を借りることで、この状況を打破衣装というわけです。
 皆さんは、ラドバウチームが子供たちを護送しているルートに同行し、襲い掛かってきたアンチ・ヘイヴン達を撃破してください!
 移動中、皆さんはアンチ・ヘイヴンから襲撃を受けるでしょう。そのままでは不意打ちを喰らってしまうかもしれません。スキルやプレイングを駆使し、アンチ・ヘイヴンからの襲撃を警戒し、その攻撃をうまく迎撃してください。
 今回では、一回の戦闘の後に、ラドバウには到着できるようになります。連戦にはなりませんので、敵と遭遇次第、全力の力を以て倒してしまいましょう。
 作戦決行時刻は、昼。戦闘エリアはスチールグラード市街。少々入り組んでおり、視界が悪いため、敵の不意打ちなどにはご注意を。

●エネミーデータ
 天衝種(アンチ・ヘイヴン) ×10
  アンチ・ヘイヴンという魔物達です。新皇帝派によって町中に放たれているようです。
  このシナリオに登場するアンチ・ヘイヴンは群れを成しており、10体ほどのパーティを組んで、皆さんを攻撃してくるでしょう。
  今回遭遇する個体は、以下のようなもの達です。

  グルゥイグダロス ×4
   狼型のアンチ・ヘイヴンです。俊敏にして獰猛。その爪や牙の攻撃を受けては、『出血』は免れないでしょう。
   主にスピードアタッカーとして振る舞います。集中攻撃を受けてしまう可能性に注意を。

  オートンリブス ×3
   カブトムシのようなアンチ・ヘイヴンです。強固な甲殻は、鉄の鎧よりもはるかに硬いと言われています。
   前面で、タンク役として機能します。怒りなどを付与されてしまわないように警戒を。
   反応は遅いので、先手はとれるはずです。

  プレーグメイデン ×3
   激しい怒りと共に死んだ者の成れの果てのアンデッドとされています。
   後衛で、神秘系アタッカーとして機能します。火炎の弾などを放ってきます。
   接近戦は不得手ですので、近づいて攻撃するのも手です。

●味方NPC
 ラドバウ闘士 ×4
  子供たちを守るために派遣されたラドバウの闘士たちです。子供たちを退避させることを最優先に動きます。
  子供たちは彼らに護られているため、その心配をする必要はありません。
  ちなみに、移動は彼らのひく荷車に、子供たちを乗せて行われます。皆さんは、徒歩で移動してください。


●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <総軍鏖殺>未来への脱出行完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年10月17日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
長谷部 朋子(p3p008321)
蛮族令嬢
ルカ・リアム・ロンズデール(p3p008462)
深き森の冒険者
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛
アミタ・レイリア(p3p010501)

※参加確定済み※

リプレイ

●子供たちのために
「よし、全員荷車に乗ったな?」
 と、ラド・バウの闘士の一人が言った。彼のひいた大きな荷車には、五人の少年少女の姿がある。具体的には、三人の男子と、二人の女子。うち一人の男子は、酷く青ざめた顔をして、荷台に倒れるように寝ている。この時期の流行病だ。重い風邪症状のそれであるが、本来であれば薬があるので、2,3日うなされるだけで済むようなものだった。が、今の少年たちには薬を確実に得られる手段はない。多くは、強者によって奪われてしまっただろう。弱者、に分類される少年たちには、薬を得ることすらできなかった。
「ううん、不安にならないでほしいでっす!」
 そう言ってほほ笑んだのは、『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)である。ガイアドニスは、病に倒れた少年――ピーター、の様子を簡単にチェックした。設備や薬は持っていなかったが、簡単な対症療法は可能だ。例えば、水分をとらせるとか、熱を発散させるためのシートをつけてやるとか。
「うん、お水もたくさん飲ませているのですね! えらい!」
 ガイアドニスが、優しく――壊したりしないように、帽子の少年の頭を、優しく、ぽん、と触ってやった。帽子の少年=ライグが、少しだけ気恥ずかしそうに、目をそらす。
「母さんが言ってたからな。熱のやつには水分取らせろって」
「正解でっす!」
 ガイアドニスはそう言って、笑った。母のことは、あえて話題にのせない。彼女がここにいないという事は、つまりもうこの世にいないという事なのだから。それを思い出させてやるのも、かわいそうだ。
「そうしたら、もう少し温めてあげましょう。ルカ君、ぬいぐるみをお願いします!」
 そう、ガイアドニスが言うのへ、『深き森の冒険者』ルカ・リアム・ロンズデール(p3p008462)は頷いた。抱きしめていたのは、大きなぬいぐるみだった。といっても、それはただのぬいぐるみではなくて、式神がそのように形作ったものだった。
「この子」
 ルカがピーターの傍らに置いてやった。ぬいぐるみは、心細そうなピーターを励ますように、その腕でピーターを抱きしめてやった。
「ぎゅっとすると暖かいですよ、仲良くしてあげてね。お喋りもできます」
 ピーターが、視線を送る。「しゃべらなくても大丈夫ですよ」とルカがそういうと、ピーターはこほん、と頷くように咳をして、ぬいぐるみを抱きしめた。
「他の子は、大丈夫ですか?」
 『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)が声をあげる。
「おなか、すいてませんか? のど、かわいてませんか?
 いろいろ、用意してきたのでして!」
 ふと気づいてみれば、手の上に、ちょっとした菓子パンや、クッキーがあって、こん、と荷車の上に、ティーポットが置かれている。
「少しだけ……大丈夫ですか?」
 と、闘士にルシアが聞いてみれば、闘士は「ええ」と頷いた。「一息つくくらいなら」そういう。闘士からしてみれば、子供たちを落ち着かせられるならちょうどいいだろう。ルシアがティーポットからお茶をカップに注いであげると、子供たちがごくり、と喉を鳴らした。こういった嗜好品は、しばらくは嗜んでいはいなかっただろう。
「でも、ピーターが」
 そういうのは、一番年下の少女、ジータだった。申し訳なさそうに、眠るピーターをみやる。彼だけを残して、良いものは食べられないという事だろう。
「大丈夫でして! この子が元気になったら、ちゃんとお菓子を上げますから」
 ルシアがそう言って笑った。
「今は、皆さんが落ち着くのが一番でして! これから、少し、揺れますから。元気にならないと、振り落とされてしまうかも、ですよ?」
「ありがと」
 年長の少女の、ブルムがいった。
「私より小さいのに、しっかりしてるんだね。それに、強いんだ……羨ましい」
「そんなことないのでして。ブルムちゃんも、これまでずっと頑張ったのですから! ルシアと同じくらい、強いのでして!」
 ルシアの言葉に、ブルムが少しだけ微笑んで、もういちど「ありがと」といった。
「ン。果物 野菜 一緒ニ食ベル」
 と、そういうのは『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)だ。体の土に生えていた香草を一つ、差し出した。
「コレ 体温 少シサゲル ピーター タベル」
 フリークライが差し出した香草を見やりつつ、レットが目を細めた。
「苦そうだな……」
「少シ…… デモ オイシイ フリック 保証スル」
 フリークライがそういうのへ、レットが頷いた。
「少しでもピーターが楽になるなら、だな。おい、我慢して噛んでろ」
 ピーターにレットが与えているのを見ながら、ライグが言う。
「有難う……ここまでしてもらって」
「ウウン 皆 頑張ッタ ミカエリ 有ルベキ」
 フリークライの言葉に、ライグは少しだけ涙ぐんだ。大人の助けを得られなかった子供たちだ。ここにきての、頼れる人達の気持ちが嬉しかった。
「街に魔物を放つなんて、ふざけてる」
 一方で、闘士たちと話し合いを続けていた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)がそう声をあげた。
「おかげで、あんな子供たちを生み出してしまった……」
 辛そうに言うイズマに、闘士は頷いた。
「ああ。新皇帝か。正気とは思えない……」
「あの皇帝陛下とタイマン張って皇位を奪い取ったっていうからどれほどのもんかと思えば、やってることは雑魚をけしかけて弱いものいじめ。
 どういう思惑かは知らないけど、あたしにとってはつまんないしみみっちい」
 ふん、と鼻を鳴らすのは、『蛮族令嬢』長谷部 朋子(p3p008321)だ。朋子の言葉に、『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は言葉を紡いだ。
「理不尽な暴力は、憤怒を湧き起こさせる上で効率的な方法ではある。
 だが、そうだな。朋子の言う通り、こんなモノはただの弱い者いじめだ」
「ああ。どんな思惑があったとしても、『気に入らない』。ただそれだけだよ」
 朋子の言葉に、汰磨羈は頷いた。
「子供達を、こんな下らない事の犠牲にする訳にはいかん。
 今は、一人一人を救うだけだとしても。いずれは、必ず」
 そう決意を込めた言葉に、皆は、そして闘士たちは頷いた。だが、汰磨羈の言葉通りに、今はこの子供たちを救う事が、自分たちにできる唯一で最善の行動であった。
「鉄帝、か。大変なことになっているのね」
 そういうのは、アミタ・レイリア(p3p010501)だ。その視線は、イレギュラーズ達と穏やかに語らう、子供たちに向けられていた。
「この子達が苦しむなら、助けてあげなきゃ、って思うわ。
 この子達のためにも、早急に、仕事を終わらせましょ?」
 アミタの言葉に、仲間達は頷いた。
「皆、準備は良いわね?
 闘士さん、出発してくれるかしら?」
 アミタの言葉に、闘士は頷く。イズマは、荷車に幌をかけてやった。
「ごめんな、しばらく暗くなるけど……信じて、我慢してくれるかい?」
 優しくそういうイズマに、子供たちは頷く。
「うん。この子もいるからね」
 そう言って笑うジータは、ルカのぬいぐるみ、クマを模したそれのしっぽを掴んでいた。ぬいぐるみはピーターを落ち着かせるように抱きしめている。イズマは笑いかけて、幌を閉じた。
「ここからは、この子達にひと時の不安も見せちゃいけない」
 イズマの言葉に、アミタは頷く。
「ええ。行きましょう」
 そう言って、闘士は荷車を引っ張り出した。帝都は不気味なほどに静かで、しかしこれから始まる戦いの予感を、肌に感じさせるような、冷たい空気をはらんでいた。

●突破
「結構進んだが」
 汰磨羈が声をあげた。
「ラド・バウまではもう少しと言った所だな。この辺りの路地は見覚えがある。
 ……もっと賑やかな場所だったのだが」
 そういう汰磨羈へ、朋子が頷いた。
「ラド・バウの試合に合わせて、人が多く歩いてたり、屋台も出てたものだけれどね。今は、それもないか」
「ラド・バウの自治区に入れば、少し違うのですけれどー」
 ルシアが言う。
「ここまでは、闘士さん達も安全を保てないわけでして」
「歯がゆいな」
 イズマが言う。
「鉄帝全土に安全をもたらすには、まだまだ力が足りないか……」
「僕は実際の所、ラド・バウの派閥に所属しているわけではないのですが」
 ルカが言う。
「それでも、皆の安全を願っていることは同じです……特に、こんな子供たちは」
 少しだけ、荷車に視線を移す。幌に隠された中には、子供たちが息をひそめているのだ。
「そうね……」
 アミタがいう。
「このまま何事もなくラド・バウに到着出来ればいいのだけれど――」
 そう言った刹那、ガイアドニスがぴくり、と視線を向けた。
「そうもいかないようなのでっす! ルカ君、透視はできますか?」
「任せてください」
 そう言って、建物を見透かす。幸いにしてというべきか。ガイアドニスが指した方は、薄い塀のある所であり、塀の先を見通すことができた。
「犬みたいな……狼みたいな奴です! それから、カブトムシみたいなのと、アンデッド!」
「そりゃあ、グルゥイグダロスだ! カブトムシみたいな奴はオートンリブスで、アンデッドはプレーグメイデン! ぜんぶ天衝種(アンチ・ヘイヴン)だ!」
 闘士が叫ぶのへ、フリークライが頷く。
「ン。織リ込ミ済ミ」
「えーと、どうしようかしら? ラド・バウまでは近いのよね?」
 アミタが言うのへ、朋子が頷いた。
「うん、それは間違いないよ。そんなに時間もかからないはず」
「じゃあ、こうしましょう。あたしたちが、敵を引き付ける。その間に、闘士さん達はラド・バウの安全区まで行ってもらう。どう?」
「おっけーでして!」
 ルシアが頷いた。
「ン。闘士サン 行ケル?」
 フリークライが尋ねるのへ、闘士たちは頷いた。
「ああ! 皆が敵を抑えてくれるなら、逃げられるはずだ!」
「じゃあ、お願い! あたしたちはここで迎撃しましょ!」
「おまかせでして! ……みんな、ラド・バウでお会いしましょう!」
 ルシアがにこやかに手を振ると、幌の隙間から、小さな手がぴこぴこと振られていた。多分、あの手はジータだろうか。必ず守らなきゃ、とルシアの心に闘志がともる。
「きまっす!」
 ガイアドニスが叫んだ。同時、塀を飛び越え、或いは粉砕し、数体の怪物たちが姿を現した。狼の如き怪物。巨大な、甲虫の如き怪物。そして、幽霊のようなアンデッド――そのうち、狼に有無を言わさず飛び掛かったのは、朋子だ!
「その牙、出血させられたら長期戦に不利になる――真っ先に、潰す!!」
 その言葉通り、原始刃を斬るのではなく、叩きつぶすように振るう! がう、と狼が吠え、迎撃するように噛みつくが――その歯ごと、口に叩き込まれる原始の刃。朋子の膂力と刃の重さを乗せた重撃が、狼を一体、ぐちゃりと粉砕する!
「怒髪天を衝く、って!? あたしも怒っているんだよ!」
 轟! 朋子は吠えた。その強烈な存在感に、怪物たちはい竦み、そしてその視線を朋子に向けずにはいられない。怨! アンデッドが吠えた。ぼぼう、と燃え盛る蒼き炎は、怒りと憎悪の塊か。がおうん、と強烈な音を立てて放たれるそれが、朋子の身体に着弾、轟炎をあげる!
「ふんっ――この程度か、お前の怒りは!」
 朋子が吠えた。その雄叫びで、炎をかき消すように、再びの咆哮。敵のヘイトを一身に身に受ける。アンデッドが再び吠え、炎を巻き上げる――のは、斬、という強烈な剣戟と共に横一文字に真っ二つに割かれていた。
「舐めるなよ、後ろに居れば安全だなどと。そんな話が通用するとでも?」
 汰磨羈だ! その突き出す手に、輝く魔光。放たれた魔力の一撃は、後方にいたアンデッドのうち一体を、もう一撃の名のもとに斬裂させた!
「ルシア! ずどんだ!」
「お任せでしてーーっ!」
 ルシアが、その手を突き出した。掌に集まる、閃光。その周囲を踊るは光輪(ハイロゥ)。それらが強く輝く刹那、放たれるは魔力の奔流。
「ずどーんっ(殲光砲魔神)、でしてーーっ!」
 ルシアの放ったそれが、石畳をまくり上げながら直進する! ぎゃうん、と悲鳴を上げた狼が巻き込まれて蒸発した。いわんや、その背後にいたアンデッドなどは。強烈な閃光に、まるで昇天するかのように飲み込まれたアンデッドは、怒りの悲鳴を上げることもなく消滅!
「次は――」
 叫ぶルシア、しかし光芒の内より、巨大な体躯が迫る! 暴走する甲虫は、光に装甲を焼かれながらも直進! ルシアを轢殺すべく突進する!
「だめ、でっす!」
 飛び込むは、ガイアドニス! その体躯と言えど、しかし甲虫よりは小さい。だが、ガイアドニスは両手を一杯に広げて、甲虫の突撃を受け止めて見せた! ずみり、と地に足がめり込む。びしびしと、痛みが身体を走る。
「ガイアドニスさん!」
「大丈夫でっす! おねーさんは頑丈なので――!」
 ガイアドニスが叫び、よいしょぉ、と気合の声をあげた。甲虫を持ち上げて、叩きつける。ずだがん、と強烈な音とともに石畳が重さに耐え切れずに砕けた。がぢがぢ、と甲虫が身体を鳴らす。
「おねーさんが抑えますので――」
「任せてください! これでッ、どうだ!」
 ルカがその手を突き出した。途端、冷気が甲虫の身体を包み込み、瞬く間に凍結させていく! 絶対零度の魔術が甲虫の身体を氷の彫像へと変え、そしてその自重により粉砕せしめた!
「よし……!」
 ルカがその手ごたえを感じた刹那、狼が吠え声をあげ突撃してくる。
「くっ!」
 うめき声を上げながら、ルカが跳躍。が、追いすがる狼が、僅かにルカの手に牙を走らせた。まるで名工の刃の如き切れ味のそれは、ルカの掌に鋭い傷跡を走らせる。
「直撃すれば、腕を持っていかれるかもしえないくらいに……!」
 ルカが呻く。その牙は、殺人の牙だ。フリークライが慌てたように飛び込み、
「大丈夫 スグ 治セル」
 放つ光は、女神の口づけのごとし。神聖なるものの愛と祝福を感じさせるそれが、ルカの手の甲に優しく口づけをするように降り注いだ。瞬く間に、逆再生のように傷が癒えていく。減った体力を完全に癒すことまではできないが、しかし、それでも充分だろう。
「皆 気ヲツケル デモ 敵 残リ少ナイ」
 フリークライが言う。その言葉通り、イレギュラーズ達は相応に傷ついてはいるものの、破竹の勢いで敵を撃破していた。それは、弱者に理不尽な怒りをぶつける怪物たちへの、怒りがそうなさせたのか――。
「じゃあ、このままのペースで行きましょう!」
 アミタが声をあげ、刃を振るった。赤き刃より放たれるは、空間を断裂せんばかりの紫電。一閃が、狼たちを横なぎに斬り払う。
「お願い!」
「任された!」
 イズマが叫びつつ、狼たちへの追撃を見舞う。
「荷車へは通さないぞ、俺の相手をしてもらおうか!」
 イズマの振るう夜空を抱く細剣が、地に華麗な流れ星を描いた。それは、刃の軌跡である。描かれた流れ星は、悪しき狼たちへと突き刺さる――その一刺が、狼の身体を貫いた。がああう、と痛みに怒るような声をあげ、狼がその身体を無へと返す。
「このまま……!」
 イズマが刃を振るう。残る狼が、その流れ星の軌跡に消えた。が、攻撃の隙をついた甲虫の突撃が、イズマを吹き飛ばした!
「くっ……!」
 激痛に耐えながら、空中で態勢を立て直す。ずざ、と着地したイズマが、叫んだ。
「残りは甲虫(そいつ)だけだ!」
「まかせて!」
 朋子が吠えた。原始の刃を振り上げ、跳躍!
「ぶっ潰す――ッ!」
 雄たけびと共に、強烈な振り下ろし! 断ッ! 叩き下ろされた刃が、残る甲虫を上段から叩きつぶした。ばぎい、と鋼鉄の鎧が砕けるような音があたりに響いた。爆発せんばかりの衝撃で、甲虫がバラバラに粉砕される。
「よし、これで終わりかな?」
 朋子が言うのへ、汰磨羈が頷いた。
「ああ。確か、見かけた敵は10――だったな。すべて撃破完了だ。これで――」
 汰磨羈が見上げると、建物の影から、住民たちがのぞいているが見えた。誰も彼も、息を殺して、戦いの趨勢を見守っていたらしい。目があうと、汰磨羈から隠れるように、住民は身を隠した。
「……子供たちは無事。住民たちも……少しは安心が得られるといいのだがな」
「そうだな……」
 イズマは頷く。
「根本的な解決には遠くても、一つ一つやっていくしかない……この国の人のために」
「まぁまぁ、ひとまずは笑いましょう!」
 ガイアドニスが言った。
「か弱い子達は守れたのでっす――ひとまず成功、なのですから!」
 その言葉に、アミタは頷いた。
「そうね。さ、あの子達を追いましょう?」
「ン。子供タチ 様子 ミタイ」
「そうですね。僕たちも無事を、あの子達も気にしていると思います」
 ルカの言葉に、ルシアが頷いた。
「そうでして! それに、先に危機を知らせに来てくれた、ジレンちゃんとも合わせてあげたいですし……それからそれから、お茶会の続きもやってあげたいのです!」
「ん。それは良いね」
 朋子が言った。
「ラド・バウは安全って事をアピールするために、ゆっくり休ませてあげないとね。
 さ、いこうか、皆!」
 朋子の言葉に、仲間達は頷いた。
 果たして、子供たちはラド・バウへと無事に到着した。そして、その道筋を作ってくれた英雄達の帰還を、今か今かと待ちわびているのだった。

成否

成功

MVP

長谷部 朋子(p3p008321)
蛮族令嬢

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、少年たちは無事にラド・バウに到着。
 ピーター少年も薬を処方され、回復の兆しを見せています。

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