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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>報復は塵垢粃糠なれど甘美也

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●汝らは生贄である
 なかば廃墟と成り果てた村に、続々と人影が見え、足音が響く。それは規則正しくもなく、粗雑で身勝手な動きであった。
 その者等の姿は一様に荒々しく、野卑たもの……知る者が見れば、ノーザンキングスの面々、強いていうならノルダインの者等であることがわかるだろう。
「オヤジぃ、こっちはもう誰も居ねえ! チッ、少し『撫で付けて』やろうかと思ったんだけどよぉ!」
「その辺に居る化け物共が殺しちまったんかね……ったく面白くもねえ」
「グダグダ吐かすんじゃねえガキども。鉄帝本国がああなった以上、確実に足場を固めて一気に攻め入るのが最良ってワケだ、わかるか? 化け物共も鉄帝の連中を殺して回ってる。上手く使えば儲けもんってこと――」
 部下達の軽口に苛立たしげに言葉を投げつけた頭領はしかし、言い切る前に響いた轟音と悲鳴に言葉を切って得物を抜いた。
 続けて、上空から何かが――巨大な杭が降り注いだのに瞠目し、それを素早く撃ち落とす。が、避けることも弾くことも出来なかった弱卒が何人か串刺しになり、絶命。
 あちこちから響く轟音、飛来音、そして鬨の声。彼らは混乱のうちに、自分達が攻め入った村がまるごと囮となっていることを理解した。
 現れた獣は自分達を守るように動くが、その牙がいつ此方に向くかは定かではない。正直なところ、撤退できればしたい想いだった。それが弱気であれど、彼らは生きてこそ野心を果たせるとわかっている。
 だがそれでも、この状況はあまりにも――!

●我らはただ、復讐と死の使者である
「俺達は村を捨ててきた。場所はここだ。おそらく数日中に、ノルダインが来る……そいつらを殺して欲しい」
 鉄帝・ヴィーザル地方管理区。かのヴォルフ・アヒム・ローゼンイスタフの居城とは別拠点に現れた貧しい人々は、村を捨ててきたといった。それは復讐のためである、と。
「数日前に、狩りに出ていた連中が帰ってこなかった。数日後、森の中で言葉にしたくもねえ状態で死んでたそいつらを見つけたんだ、俺がな。一目でわかったよ、ノーザンキングスの連中のせいだってな。いつでも俺達を襲えるって威嚇だったと思ってる。……だから思ったんだよ、国が傾いた今、あいつらは調子に乗ってやがるってな」
「だから復讐したいって事かゆ。で、罠も仕掛けてきたと。用意周到すぎて逆に怖ぇゆ」
 話を一通り聞いて、詰所に詰めていた『ポテサラハーモニア』パパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)は半ば呆れたような顔で村人たちを見た。その目には一様に強い意志の光と復讐の炎が垣間見える。
 なんでも、長距離用の杭によるカタパルト、多数の落とし穴、ブービートラップ、ワイヤートラップ……とにかく利用できる環境をすべて利用してきた、というのだ。
「場所は大体教えられるが、ワイヤーとブービートラップは多すぎる。できるだけ避けて戦ったほうがいいと思うぜ、あと」
「天衝種(アンチ・ヘイヴン)。……面倒臭い奴らゆ」
 天衝種とは、この鉄帝の混乱に乗じて現れた怪物である。通常の魔物、というより殊更に『憤怒』の影響を受けた存在だ。
 確認されているだけでも2種はいるらしい。つまるところが三つ巴というわけか。あるいは2対1の勢力戦。
「……この戦いで村がすべて更地になっても?」
「構わない。向かってくる奴らを皆殺しにしてくれ」
「了解したゆ。あとはわたちたちの仕事ゆ。……えーっと、ちょっとこいつら雑魚寝でいいから部屋に通してやゆ。まずは睡眠ゆ」
 パパスは近くに居たイレギュラーズにそう伝え、一同が部屋から出ていくのを確認して息を吐いた。
「ここで生き残ってもらったら、確実に反転するか天衝種にされる可能性がありますね。確実に息の根を止め、肉体も十全に損壊を。この際、手段は問わず全て使わせてもらいましょう。……『鉄帝にとって卑怯は悪なれど、この戦いは正道です』。好きでしょう、あなた達はそういうの?」
 がらりと口調を変えた『素の彼女』は、凶悪な眼差しで口元を吊り上げ、問いかけた。

GMコメント

 そんなわけでパパスはノーザンキングス解放戦線です。よろしくお願いします。
 ドロッセル? あの子は海洋だし……。

●成功条件
 すべての敵勢力の鏖殺、その上で最大効率で尊厳を毀損すること。手段、その他すべてを問わない(天衝種としての再利用を防ぐ意味もある)

●ノーザンキングス陣営(首領+配下15名)
 ノーザンキングス、ノルダイン勢力の者たちです。人間種がメインであり、かなり屈強です。リーダーはハルバード使いで、飛来する丸太杭を一撃で叩き落とすほどの膂力を持ちます。
 周囲に対し咆哮による戦意高揚、存在するだけで周囲2レンジの戦闘能力をあげるパッシブなどを有します。
 攻撃は物理中心、【ブレイク】なども付随します。ほか、BSは攻撃的なものが多い模様。
 配下は斧、剣など。銃や弓矢のような遠距離攻撃は惰弱と考えているフシがあります。
 とはいえ、リーダーの指揮効果で「レンジ3以上の攻撃に対し防御技術が大きく上昇」を持つため、ちまちま削るのはめちゃくちゃ時間がかかりますので注意しましょう。

●トッド・ナスホルン×2
 天衝種の一種。頭部に人面疽が多数浮き出たサイのような見た目をしています。
 罠による足止めが一切通用しないどころか、破壊して回ります。
 非常に大きく、2人以上(もしくは2人分扱い)のブロックを要求されます。
 突進による【移】つきの攻撃を仕掛けてきますし、地面を削りながらBS付与攻撃に切り替える、ジャンプによる地面に対する【麻痺】等付与の振動攻撃などを使います。
 非常に狡猾でイレギュラーズに主に襲いかかり、ノーザンキングスに利する動きをします。なお、ここで倒す必要はありません。確実に倒す気なら、難易度ひとつあがる覚悟を。

●ラタヴィカ×10
 天衝種の一種。亡霊のような怪物で、流れ星のように光の尾を引く人魂の上位互換のような敵です。
 物理攻撃無効であり対応するBSの付与率も大幅に下がりますが、その代わり神秘に対する耐性が世辞にも高くありません。
 精神干渉系のBSをばらまいてきます。常に低空飛行をしている扱いとなります。

●パパス
 神秘系サポーター。ヒーラーとして立ち回ったり妨害したりします。
 物理もやれますが、最近はそこまででもない模様。
 なお敬語のほうが『素』です。

●戦場(特殊ルール・村内の罠)
 廃村となった村の中での戦闘、もしくは外部のカタパルトを使用しての攻撃となります。
 カタパルトは一人いれば、非常に強力な丸太杭を村の中の任意の地点に落とせます。命中精度は決して高くありません。
 家と家の間にワイヤーが張り巡らされ、一部はブービートラップとして火薬と接続されています。
 爆発による火炎系列のBS付与、転倒による足止系列の付与などを相手に与えられますが、超視力や罠に関連したスキルなどがないと位置がわかってても引っかかる可能性があります。

 卑怯ですね、俺も分かってる。だから悪なんだ。絆が深まるんだ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『鉄帝』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

  • <総軍鏖殺>報復は塵垢粃糠なれど甘美也完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月18日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼
リフィヌディオル(p3p010339)

リプレイ


「食いモンの総数が少ないこの雪国じゃぁ、国の形が崩れるのが一番最悪の展開だ。いまのところ。ま、美女のチューぐらい追加報酬は欲しかった気はするが……」
「美女とまではいいませんが、それで発奮するならキスくらいしますが?」
「……遠慮しとく」
 『抗う者』サンディ・カルタ(p3p000438)はいままさにその『最悪』がひたひたと迫りくる現状に嘆息しつつ、「やらねば」という意気込みを見せた。対し、『ポテサラハーモニア』パパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)は冗談めかして口元に指を添え、小首を傾げて問いかけた。あざとすぎるその所作の裏にある毒を感じ取ったサンディは、知己の女達の顔を思い浮かべ首を振った。
「……まっ、戦争だしな、綺麗な手を望むべくもない。復讐の連鎖なんざ止められるのが1番だが……そうも行かないのが人の性ってもんだ」
「復讐の是非を議論するつもりはありません。いずれにせよノーザンキングスを放置することは出来ないでしょう」
「賊軍、怪物、それに賊軍……やれやれ、最近こんな仕事ばかりだな」
 恨みつらみは必ずしも人を幸せにすることはない。が、復讐で晴れる人の心もある。『救海の灯火』プラック・クラケーン(p3p006804)もリフィヌディオル(p3p010339)もその辺りは重々承知しているからこそ、人道がどうだ、復讐がどうだを論じる気がないのが感じられた。『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)はもっと顕著で、賊軍やら天衝種やらの対処に右往左往させられる現状に嘆息しつつも依頼であり仕事であり、そして『いつものこと』であるので対応はなおさらドライだ。この美少年にとって、営利が絡むというだけで戦うには十分なのかもしれない。
「卑怯は悪なれど、この戦いは正道です、かぁ。……依頼されたなら何でもやる、それがリリー達……だよねっ」
「まー金貰えるなら報復でも復讐でもやるが」
 『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)と『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)は、他人から後ろ指さされることにさして否定的ではなく、どころかことほぎはそれを好んで依頼を受けているし、リリーは『卑怯は褒め言葉』とまで豪語するレベルである。復讐にだまし討ち、という鉄帝人として女々しい行為なれどその裏で金が動き、依頼が楽になるなら儲けものなのだ。
「俺ァ必要なら受けるが、好き好んで悪名の依頼は受けねぇ主義だ。だがよ、こいつァ真っ当な依頼だろ? てめぇらを蹂躙しようとしている奴らをぶっ殺す。そこになんの問題があるよ」
「というか、天衝種なんてめんどくせーモン連れてる時点でギルティ―なのだ! ブッコロなのだ!」
 『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)と『凶狼』ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)にとって、依頼の手段に対する人道性を問う以前に敵が世界にとって善か悪か、が真に問題であった。鉄帝国にとっては良くない行為だろうが、世界の敵が相手なら手段を選ぶ意味がない。なんの道理もない蹂躙を蹂躙仕返すだけの話。何一つおかしなことのない道理だ。
「それはそうとこの罠の数、すごいなぁ。これなら……!」
「ああ、お膳立てされてんだから仕事しやすくって助かるぜ」
 リリーは突入前の確認としてあらためて村の地図と罠のおおまかな位置を確認し、その周到さに改めて感嘆の息を吐いた。ことほぎはカタパルトから嫌がらせに終止する役割となるが、楽ができるに越したことは無い、とばかりに不敵な笑みを漏らす。だが、高台から見下ろした集落はそう楽な状況ではないことを切々と伝えてくる。今しがた家をぶち壊した巨塊。周囲に漂う人魂らしき影。天衝種を味方に「つけてしまった」彼らを放置するのは得策ではない。
「パパスとかいったか。アンタも数に入れていいんだよな?」
「そりゃあ、もう。治療から嫌がらせまで」
(なぁんかいつもと雰囲気ちがくねぇ?)
(あの口調のときはガチギレしてるときなのだ。間違いねーのだ)
 ルナの懐疑的な視線に大袈裟に肩をすくめたパパスの姿に、サンディは変なもの食ったのかと恐怖を覚えた。ヘルミーネは一度見ていたので、キレてるんだろうなと認識した。まあ彼女とかかわり合いの薄いものにはフォーマルな人間なのか、程度の見方になるが。
「じゃあセレマさん、頼むぜ」
「ふんぞり返って見届けてなよ。ボクはヘマするつもりはないんでね」
 プラックは悠然と歩いて行くセレマに手を振って見送ると、改めて敵の位置を見やり、黙考した。そして。
「……俺には戦術とか戦略は分からねえ。ことほぎさん、任せていいか?」
「オレは余計な仕事はしねぇタチだからなァ……ま、適当なイヤガラセならしてやるよ」
「助かる」
 考えるだけ無駄だということを彼は理解し、その手の話に長じることほぎを頼った。彼女の判断による嫌がらせなら、きっと悪いようにはならぬだろうと。
「では、徹底的にやりましょう」
 リフィヌディオルが拳を突き上げたその眼下では、大犀達が家々をぶち壊しながら乱雑に暴れている真っ最中だった。そんな中を突っ切るセレマも常識に考えて異常ではあるが……。


「母さん、怖い人たちが来たよ、母さんどうしよう!」
 わざとらしい大声を発しながら逃げ惑う妙齢の美丈夫は、その手を母に委ねて惑っていた。あちらを、こちらを見て右往左往するその姿は、この場には不釣り合いではある。だが、飢えた獣たちにとってその違和感など即座に四散してしまう。
「……あァ? なんだよ、誰もいねぇとおもったら!」
「ヒュウ、上物じゃねえか! なあオヤジ!」
 とりわけ、一味の特に頭の足りない連中にとって、転がり出てきた獲物がどれほど美味に見えたことか。
 我先にと飛び込んでいく者達の姿に盛大に舌打ちをした首領は、遠巻きに聞こえる轟音に耳を澄ましつつじり、と後退した。だからというわけではないが、先んじて踏み込んだ一人がワイヤーに足を引っ掛けトラップの爆発で吹っ飛び、その余波となった瓦礫に押しつぶされる。即死はなかろうが、生きる期待はもうあるまい。続けざまに降ってきた杭は出鱈目な位置に突き立つが、しかし家々を崩し、罠に瓦礫をひっかけさらなる爆発を誘発する。
「お前達は罠にかかった。契約しよう、誰一人逃すことはないと」
「わ、罠だァ!?」
「オヤジぃ、ここは逃げ――」
「洒落ァ臭ぇなァクソガキが! これくらいの罠でビビってノーザンキングスやってられるかよ! それに……後ろだぜ」
 混乱をあらわにする部下達と違い、首領は冷静に顎をしゃくってセレマの背後を示した。『母親』の幻影を消し、代わりに合図を飛ばしたセレマにとってその襲来は腹立たしいまでにタイムリーだった。当たっても本質的には死なないし、ちょっとやそっとの不調など通じないセレマであるが、その圧力には舌打ちせずにはいられない。
「幾らこいつらの味方だからっていきなりすぎるだろうが! 頭沸いてんのか!」
「わわわわわわくほどどどののの」
「不利益不存在不確定、不死身…………」
「クッソ気持ち悪いな! 早く来いよ!」
 人面疽から吐き出される意味をなさない言葉達は、さしものセレマをも気味悪がせるには十分だった。勢いよく突っ込んできたそれに轢き殺される形となった彼は、しかし直ぐ様再構築された姿で駆ける。負ける気はないが、逃げることに躊躇などない。
「連絡手段がねえのが勿体ねえが、まーあいつらなら避けてくれんだろ!」
 ことほぎは戦場の異常を早々に察知していたが、明確に伝達する手段がないゆえに片っ端から嫌がらせが利く位置へとカタパルトを向けていた。うち一本がナスホルンの一体を貫いたのはどういった因果か。死にはせずとも、僅かな時間その場に縫い付ける効果はあったらしい。
「見つけたっ! ラタヴィカ、狩るよ!」
「物理攻撃が効かない? ヘルちゃんには関係ねーのだ!」
 リリーとヘルミーネは高台から観測していたラタヴィカの群れに急行し、横合いから刈り取りにいく。そもそも主体性を持たない魂が怒りという本能の下に動き回っていたのだ。自分たちを狙う相手あらば、そちらを狙って当然だ。
「そっちは任せたぜ!」
 ルナは二人とほぼ同時に動き出しつつ、しかし二人よりずっと迅速に戦場へと到達していた。その行動力たるや、罠や障害を乗り越え、ひと息で集落の中央あたりまで食い込むほど。一足先に手隙のナスホルンを見咎めた彼は、いきおいそれを挑発し駆け回る。罠を破壊し瓦礫を生み出しながら、しかしその動きは至極直線的で読みやすい。仲間の戦闘に寄与するのに、これ程有効な手段もそうあるまい。彼にしかできない芸当と言われればその通りだが……。
「罠に好き放題やられて恥ずかしくねえのか? 俺は楽でいいけどさ!」
「小癪!」
 サンディは挑発とともに罠にかかった一人を瞬殺し、近場で身構えた二人目に追撃をかける。が、それを防いだのは首領格。返す刀で振るわれたハルバードを身を捻って交わすと、上空へと目配せをした。
「ってことだ、うまくやってくれよ」
「ありがてえ! 一発ブチかましてやるぜ!」
 サンディの『お膳立て』にあわせ、上空から襲い来るのはプラックの猛攻だった。空を舞い、しかしいささかも勢いと精度を落とさぬ一撃は首領と周囲の部下達を巻き込んでいく。それだけで軽々に倒されるとは思っていない。狙うは接近戦……態勢を切り替える一瞬の隙を容赦なく狙ってくるハルバードは、プラックに届く前に堅牢さを思わせる音とともに叩き落された。
「あなたの相手は私です。ここから一歩も通しません」
 リフィヌディオルである。強く足を踏ん張り、身構えた姿はそれだけで巨大な盾を前にした錯覚を受ける。されど首領は怯えず退かず、笑みを浮かべ正面からリフィヌディオルを打倒すべしと動き出す……それが、ノルダインの特性であり弱点。正面に現れた食いでのある相手を無視できないという一点こそが、彼らの敗走の原因だったのだ。
「そして、残ったお前達はボクから目を離せない。これで蓋は締め終わったってわけだ」
「なんつーか、相変わらず」
「人を引き付けて化かす才能はあるよなぁ……」
「聞こえてんぞ」
 セレマの挑発は一過性のものではない。再び姿を見せたその美形から、部下達はどうしても目を離せなかった。周到さに舌を巻くプラックとサンディの冗句に、毒づきながらも咎め立てしないのは器の深さかなんなのか。
「わーはっはっは! これぞ、ニヴルヘイムの極意! 死の世界へようこそ、クソッタレ共!」
「卑怯とは言わせないし、これがリリーのやり方だし、何より……やっぱこういうのが一番楽しいのっ!」
 ヘルミーネにとって、縦横無尽に駆け回り思うがままに術式をはなてる、壊しても良い戦場はなにより相性がよく。
 リリーにとって、思う様手練手管を披露できるこの戦場は、卑怯というそしりを受けてもそれこそが生き甲斐と嘯ける場所だった。次々降り注ぐ杭に飛び移り、突き立ったそれからふわりと降りる華麗さと、放たれる術式の苛烈さのコントラストは雪に沈んだ集落を赤く染めていく。
 ――結局、ルナがひきつけていた犀達は何を思ったか、状況を見てか姿を消していた。
 そして、熾烈な戦闘はイレギュラーズに多少なり被害をもたらしつつも、結果としてノルダイン一党の壊滅をもたらしたのだった。


「よしよし、身包み剥いだ分はオレ達の報酬だな! あとはこれを書いて……っと」
 ことほぎはノルダインの一行から身包み剥がしきると、『おんなのこにイタズラしようとしてかえりうちにあいました』と腹部に書いて放り投げた。吊し上げにするつもりだったが、それだけでは天衝種の素体になりかねない。ひとまず他は丸投げしたのだ。
「とりあえず、再起した時にはもう脅威にならぬよう手足は落としておきたいです。そうした状態で、彼ら自身の武器に刺して磔に立てておくのでどうですかね」
「殺すまではしたくなかったけど、結果として死んじまったんだからしょうがねえよな……気乗りはしねぇが、そうしようか」
 リフィヌディオルはことほぎに落書きされた死体を丹念に解体し、各々の武器によって頭部を野晒しにする、という猟奇的な手段に出た。普通に考えれば過剰な損壊行為だが、天衝種のベースにされてもこまる。野生動物が食い荒らすには丁度いいのかもしれない。プラックは、殺す気はなかったものの死んでしまった敵を悼むほどには繊細ではないらしく、決まった行為に手を付けるのはかなり素早い。
「死体を利用してる感を強く出せば、死して誉が云々もなくなる。警戒してもらうにはぴったりだな」
「殺しに来たんだから殺されたって、それ以上のことをされても平気ってことだよねっ」
 サンディとリリーはこのあたりきちんとドライだからか、リフィヌディオル以上に丹念に損壊を進めていく。目を貫き、耳と鼻を削いで数珠繋ぎにして首にくくりつける。針代わりは個々人の犬歯だ。その様子を見たセレマは、流石にちょっと引き気味だった。もうちょっとマイルドに磔程度を考えていたのに、と。
「まあ、相手の尊厳を破壊するとはいえ、死後はみな平等、成仏するのだ。魂だけは送ってやるのだ」
「まァここまで壊せば死体も土か獣の糞、弱肉強食には丁度いい末路だよな」
 ヘルミーネは己のギフトを駆使し、死んだノルダインの者達へ成仏を語りかける。どの程度が是といったかは知れないが、それでもすべてを奪わなかったという言い訳づくりには十分だ。その様子を横目に、ルナは散らばった死体の残骸めがけ、砂を被せるように蹴り飛ばす。隠したいわけでも、弔っているわけでもない。ただ自然と同化するのが少しでも早ければ、なんてかんがえていたのかもしれない。
 死んだ者達は、これから朽ち果てて土に帰るまでこの集落で己の愚かさを晒し続けることだろう。北の大地がその肉体を受け入れるのが先か、獣の糞に成り果て、凍りつくのが先か。そんなものは、イレギュラーズの知ったことではないけれど。
 パパスは一言、「いい気味」と笑って首領格の男の大腿骨に沿ってナイフを振り下ろした。

成否

成功

MVP

ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

状態異常

なし

あとがき

 大変お待たせ致しました。また機会があれば。

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