シナリオ詳細
<デジールの呼び声>ominous foreboding
オープニング
●
――最近、センパイの様子がおかしいんです。
ある日、ソーリス・オルトゥスがオーナーをしている『the play』にやってきたナジュム・エスペランサが、深刻そうな顔でそう告げた。
ナジュムは『the play』と同じホストクラブ『真珠と珊瑚(パール・コーラル)』の見習い竜宮男子である。同業他社――謂わばライバル店に当たるのだが、此処は竜宮。他店に目くじらをたてることも客の奪い合いをすることもないため、竜宮男子たちも仲が悪いわけではない。と言うよりも、暗い深海で身を寄せ合って生きてきたからか普通に仲が良く、互いに接客技術を高め合える良きライバルでもある。
「すいません。ソーリスサンくらいにしか相談出来る相手がおらんくて……」
「大丈夫だよ、ナジュム。キミが相談してくれてオレは嬉しいよ」
ナジュムが先輩と呼ぶのは、『真珠と珊瑚』では五本の指に入るといわれている名キャストであるジェラルド・ハイバークのことである。中々他の人へ相談しにくいであろうことを理解して、ソーリスはそっとナジュムの肩を抱いた。
「おかしい……とは、どうおかしいんだ?」
「俺たちでよければ相談に乗ろう」
「おおきに。職場では普段通りやし、ワイの気のせいかもしれんのだけど……」
今日もヘルプを頼まれて『the play』でバニーボーイをしていたアーマデル・アル・アマル(p3p008599)と冬越 弾正(p3p007105)が問えば、ナジュムがソーリスから少し距離を取ってもごもごと言葉を濁す。
ジェラルドは『深怪魔』を撃退したこともるほどの腕に自信のある男で、竜宮男子らしくその性根は真っ直ぐしており、芯のある頼れる兄貴的存在なのだ。よくシャンパンを注ごうとして零したり、ホールでは他の竜宮男子とぶつかってグラスを割ったりするナジュムとは違う、誰からもひと目置かれる存在であり、ナジュムが怒られると「俺もフォローが足りていなかった」等と庇ってくれたりもする憧れの先輩のひとりなのだ。
そんな彼の様子が少し前からおかしい。
街中で彼を見掛けて声を掛けてみたけれど明らかにこちらを見たはずなのに無視をされてしまったり、シフトが無い日の夜に都の出入り口付近に見掛けたことを翌日問うても「身に覚えがないが」と不思議そうな顔をされる。
「それは……少しおかしいね」
無視をしたり、嘘をつくような人ではないことをソーリスもよく知っている。
「ジェラルドさん、ボクも会ったことがあるけれどすごく優しい人だったよ」
誠実そうで真面目そうなその人は、初対面である浮舟 帳(p3p010344)の身を案じて支えてくれた。誰にでも優しく、善意と好意を持って接する人なのだなと思ったのだと、アーマデルたち同様にヘルプに来ていた帳が兎耳を揺らした。
「悩み事を抱えているのかもしれないよね。――現場を押さえて声を掛けちゃえば?」
「何か重大な隠し事をしていて、正直に話せないということもありますしね」
彼をそうさせている原因を突き止めて、それが何でも無ければそのままにしておけばいいし、手助けができるのならば声を掛ければいいとシャンパンのグラスに指を滑らせた劉・雨泽(p3n000218)に小金井・正純(p3p008000)が同意を示した。この二人は客として遊びに来ている。多分、雨泽がお茶でも誘う気安さで社会勉強にどう? とでも誘ったのだろう。
「……秘密を暴くのは気が引けないか?」
「でも竜宮の人が『おかしい』って思われるのって、何かありそうだよね」
竜宮に住まう住人たちは根っからの善人だから、『おかしいことはまずない』はずなのだ。
「例えばの話だが、海乱鬼衆に脅されている、とかも無いとは断言できない」
「その場合だと周りに迷惑を掛けないようにと抱えこんでしまいますよね」
「ナジュム、ジェラルドのシフトが休みの日は?」
「それなら――」
それじゃあその日、少し申し訳ないけれど、彼の後をつけてみよう。
ジェラルドは勘がいいから、バレないように変装して。
何もなければ気の所為だったってことでそっとしておこう。
そう取り決めて、その日は解散したのだった。
折りしもその決行日、竜宮城が外部からの攻撃を受けることとなるとは露知らず――。
- <デジールの呼び声>ominous foreboding完了
- GM名壱花
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年10月08日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●兎の後を追う兎たち
「え、バニー着るんですか?」
「その方が此処では不自然ではないからね」
「……男性だけじゃだめなんですか?」
なんて『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)は小さな抵抗を試みてはみたものの、この竜宮という閉鎖されていた海底の都では竜宮男子よりも竜宮嬢たちの方が多い。そのことを思えば「はい……」と受け入れることしかできなくて。
「うう……」
「まさか調査のためとはいえ、バニーボーイの服装を纏うことになるとはな」
「へぇー、これがバニー服かあ」
露出度の高さへ悲しげに呻く正純の直ぐ側では『燼灰の墓守』フォルエスク・グレイブツリー(p3p010721)が見慣れぬ自身の装いを見下ろし、『ドキドキの躍動』エドワード・S・アリゼ(p3p009403)は動きやすさにぴょんと跳ねてみたりして兎耳をピコピコと揺らしている。
「バニーさんでも色々ありますよね」
玉兎風の衣装の頭上で白い兎耳を揺らす『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は、正純と比べると露出が無いに等しい。が、重たい袖や裾は、機動性はよくない。そう、露出度の高いバニー衣装を選んだ者は露出と引き換えに機動性を得ているのだ! 多分!
「皆、よく似合っているぞ」
「ああ、これならバレないだろう」
既にその姿も板につきつつある『残秋』冬越 弾正(p3p007105)と『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が頷き、兎耳を揺らす。ひとは慣れる生き物なのである。三日も着れば、普段着のようなものだと弾正も先日の困惑ぶりは何処へやら。堂々とした佇まいに、流石は弾正だとアーマデルも恋人の勇姿(バニー)に誇らしげな表情だ。
「本当に。皆さんよくお似合いです」
ベルト装飾のある黒いバニーコート姿の『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)はちゃっかりと全員のバニー姿を心のアルバムに保存して、うんうんと頷いてからコートの襟を正した。正統派バニーに玉兎、バニーボーイだってスラックスや短パン等の違いがある。白兎派と黒兎派だってあるが、みんな違ってみんないい。街にもバニーガールもバニーボーイも溢れていて、何というパラダイスなのだろうか。
「皆、ジェラルドさんが動いたよ」
ジェラルドの休日の動きは把握している。竜宮の人たちは人が好いので、ジュナムが尋ねたら普通に答えてくれたからだ。
休日もシフトの入っている日と変わらず、目覚めてから2時間程ランニングをし、筋トレをしたら汗を流して休憩を取る。その間に少しうたた寝をする日もあるようだが、休日は買い物等の用事がなければ家で読書等をして過ごすことも多い、とのことだった。
次の休暇は特に外出する予定はないと言っていたジェラルドだったが――ランニングから自宅へ帰ったところを見張っていたところ、動きがあったと『今を写す撮影者』浮舟 帳(p3p010344)が告げた。それはつまり、『外出する予定はない』ということが嘘であったことを示すのだが――。
(……ジェラルドさんはそういう人じゃないと思うのに)
帳がフェデリア諸島であった彼の好意と善意は本物だった。後輩であるジェナムだって嘘を吐くような人ではないと言っていたし、竜宮の人々は良い人ばかりであることは弾正もアーマデルも知っている。
それなら何故、彼は外出をしたのだろうか。
(――行こう)
イレギュラーズたちは視線で頷きあうと、目的地があると思われる確りとした足取りの彼の後を追うのだった。
ジェラルドは真っ直ぐに繁華街を抜けた。
忍び足や気配遮断。持てる尾行スキルを駆使したお陰か、彼は尾行に気付くこと無く目的地へと向かっているようだ。しかし段々と人気のない――町外れへと向かっていく彼に、イレギュラーズたちは兎耳を揺らして首を傾げた。
それ以外に、彼に怪しい点は無かった。怪しげな誰かと接触することも、何か怪しげな呟きを漏らすこともなく、ただひとり静かに歩を進めるのみだった。
そうして彼は都の端までたどり着くと――。
「敵を……招き入れた!?」
『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が小さな声で驚きを露わにする。他の面々――特に彼を信じ切っている帳と最後まで彼を信じたいと思っていた華蓮は蒼白で。疑うような相談をすることとなってしまったナジェムが苦しんでいる姿を側で見た弾正は拳を握り、正純はショックを受けている華蓮の肩へと手を置いた。
「ジェラルド・ハイバーク、これは一体どういうつもりだ?」
招き入れられた深怪魔は五体。いずれもジェラルドよりも大きな体躯で、鮫とタコが合体したような個体が一体とオオムガイのような個体が四体。ジェラルドが招き入れた深怪魔がすぐに繁華街へと向かわないように、イレギュラーズたちは彼の前に姿を現した。フォルエスクの声にゆらりと身体を揺らしたジェラルドが彼へと視線を向ける。
しかし、ただそれだけだ。対するジェラルドからは弁明の声も上がらない。
「本人の意志とは考え難いですね……」
「何かに操られているということか?」
静かに紡ぐ『血風妃』クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)の言葉にアーマデルが確信めいた問いを重ね、クシュリオーネが顎を引く。
「誠実な彼が……誰かに無理矢理こんな事をさせられてるって事か!」
「止めなくちゃ! ううん、止めよう!」
ヨゾラの声に帳が呼応して、かぶりを振って言い直す。
もし賑わう大通りに深怪魔が大通りに現れれば、人々はパニックになるはずだ。それで怪我人が出ようものなら――後で受けるであろうジェラルドの衝撃を思えば、帳の胸は痛んだ。
後輩たちからよく慕われ、後輩以外の竜宮の人からも慕われているジェラルド。
誠実で裏表がなく、人々を守らんと己を磨いてきていたジェラルド。
自分のせいで人々に不幸が齎されれば、操られていたとしても自身を責めて誠実なジェラルドは竜宮を出ていくかもしれない。そんな姿が容易に想像できて、帳は拳を握った。
「街の方には行かせねーぜ! どうしても行くって言うならオレたちを倒して行くんだな!」
フォルエスクよりも前にエドワードが出て、腕を広げて通さないと意思を示す。それにすらジェラルドは何も反応は示さないが、鮫の上半身とタコの下半身を持つ深海魔『ヘールポップ』がタコ足を動かせば、巨大なオオムガイ型の深海魔『レーテンシー』の一体が殻から触手を伸ばしてうにょうにょと蠢かせ、他のレーテンシーたちも同じ動きをした。
(さしずめ、『邪魔者を排除しよう』と言ったところだろうか)
素早く動いたフォルエスクがレーテンシーの一体に接近し、自身の背丈と変わらない大鎌『ジ・アズラーイール』を素早く振るう。
「……見た目通り、か。堅いな」
カンと硬質な手応えは手に重く感じるもの。伝わる振動に軽く手を痺れさせ、フォルエスクは低い姿勢で着地した。
「行くぞバニマデル! ホストクラブ『the play』のショータイムだ!」
「ああ、弾正、いこう。俺があんたに合わせる」
アーマデルが弾正と足並みを揃えている間にレーテンシーたちが何やら触手を蠢かせ、神の加護を得ている華蓮がふわりと飛ぶような仕草で水をかいて前へと出た。レーテンシーの一体の意識を向けさせるべく細やかな指先を向けて――放つ、《茨姫の指先》。それはいたずらに心に爪を立てるように、そっと甘く、呪いを注ぐもの。
「……っ」
けれど僅かに、痛みが弾かれるように伝わって。
「皆、気をつけるのだわ。このオオムガイさんは攻撃を反射するようよ」
「ならば、心得た」
華蓮の言葉にすぐさま応じた弾正が、バニーベストからある物を取り出した。
――『潮騒のヴェンタータ』。先日ソーリスの店を手伝った折に貰った竜宮幣で交換した、攻撃を当てた相手の反射を無効化する便利アイテムだ。
弾正は潮騒のヴェンタータを掲げている間に駆けたアーマデルに合わせてレーテンシーの一体へとドロップキックを決め、四体居る内の一体の【棘】を無効化した。その一体と、アーマデルが動きを鈍らせることに成功した個体を後回しにし、イレギュラーズたちはまずはレーテンシーたちの数を減らすことを目指して動いていく。
「見た目は硬そうですが、悪い作用はよく刺さるようですね」
どうやら特殊抵抗は並程度かそれ以下なのであろうことを察した正純は、アーマデルに続いてレーテンシーの動きを鈍らせに動く。
自身を中心とした半径10mはかなり広域である。特に建物内であったり、隅とは言えど町の中ではそうであろう。ましてや此度は十人で尾行をしている身。正純が敵を巻き込める場所に居るという事は、当然敵に隣接している仲間たちも、ともに尾行してきた仲間たちも範囲に含まれる。仲間たちが抗ってくれることを願って――それでもなるべく巻き込まれる仲間たちが少なくなる場所へと移動して、正純は《ステイシス》を放った。
イレギュラーズたちの攻撃は、意識して近づこうとしない限りヘールポップまでは届かない。それを理解しているからこそ、ヘールポップを守る盾のようなレーテンシーたちからイレギュラーズたちは対処していく。
(ジェラルドさんは……)
ヨゾラの視界に、ジェラルドは映らない。巨大なレーテンシーたちが前へと出たため、深海魔の後ろに隠れてしまっている。つまり、彼自身が前へ出てイレギュラーズたちと戦うつもりはない、ということでもある。
(でも、いつ奇襲してくるかは解らないから気をつけておかないと)
杖を掲げて敵味方を識別し、それからジェラルドに当たらないように留意して気糸の斬撃魔法を放てば、一体を除くレーテンシーからの反射に眉を顰めた。すぐに膝を着くには至らない。けれども高威力の魔術で三体もの反撃を受ければ、レーテンシーの意識を引き寄せんとしているエドワードよりも先に膝をつくことになるだろう。
「ジェラルドさんはね、本当に善い人なんだよ」
もし脅されているのだとしたら。それとも深海魔が操っているのだとしたら。どちらにせよ、それは許されない行いだ。
ジェラルドと話をし、彼の真意を知りたい。
どうしたのって、何かあったのって尋ねたい。
けれどそれは後回し。まずは目の前の大きな『邪魔者』を何とかしなくてはと帳は黒いキューブを操った。
ヘールポップが鮫歯の隙間から墨を吐く。吐いた墨は海水に溶けて瞬く間に広がって、あっという間にイレギュラーズたちの視界を奪っていった。
巨大な珊瑚礁というたくさんの遮蔽物もあり、都の外へと回り込まない限りジェラルドの姿は見えないが、ヘールポップが視界を悪くすることで更にジェラルドの存在が希薄になる。
「……っ、ここからでは見えませんね」
離れていれば尚の事。鋼の驟雨を海中で起こしたクシュリオーネは眉を寄せ、柔らかい色を宿す双眸を顰める。
バルガルの立ち位置からもジェラルドの姿は見られず、かと言って増援が呼ばれる訳でも彼が深海魔とともにイレギュラーズたちを攻撃してくるような動きはない。ならばやはり、眼前の深海魔たちを倒すことこそがジェラルドの行動を把握する近道で、一本道。自身に付与を行って観察をし、仲間たちが次の動きを行ってからバルガルもまた、レーテンシー排除へ乗り出した。
戦いは想像よりも時間が掛かることとなった。
弾正が一体のレーテンシーへと施した反射無効が切れ、攻撃しては自身の体力を整えていたヨゾラが再度『潮騒のヴェンタータ』を――今度は範囲攻撃で残っている二体の【棘】を無効化した。
「大丈夫、数は減っているよ!」
正純や帳の《ステイシス》が仲間たちの動きをも鈍らせるけれど、それでもレーテンシーの動きを鈍らせ、防御力を削いで。
「オレは絶対に皆を守ってみせるからな!」
一度で怒りが効かなかったレーテンシーやヘールポップが華蓮へと流れたこともあったけれど、彼女は儚げに見えて、実はそうでもない。心の芯は確りとしているし、耐久力にだって自信がある。エドワードが惹きつけられなかった深海魔たちを仲間へと向かわせずに敢えて自分が引き受け、エドワードを信じて耐えきった。
そうして幾度か《名乗り向上》を使用して敵の意識を自身へと向けさせ、すべての攻撃をその身に受けたとしても、エドワードは耐えきった。
正確には、何度も膝を着いた。けれどその度、彼は幾度だって立ち上がる。皆の盾であらんと、立ち上がり続けたのだった。英雄譚に出てくるヒーローみたいに。
「合わせてくれ、弾正」
「ああ、勿論だ。――今宵のバニーは血に飢えているぞッ!」
苛烈に攻め立てた弾正とアーマデルがヨゾラが大きく削ってきたレーテンシーへと止めをさす。残るレーテンシーは一体。ナイフを順手で持ったバルガルが殻と『ずきん』と呼ばれる部位の隙間を的確に狙って切り込めば、帳の一点集中の強撃がレーテンシーへと打ち込まれ、全てのレーテンシーは動きを止めたのだった。
『盾』を仕留めれば、残りは『司令塔』――墨を吐き続けて撹乱し、その見えない視界から黒いナイフを飛ばしてきていたヘールポップのみ。
「もうあなたのお仲間もいないのだわ」
覚悟するのだわと華蓮が強きに前へと出る。
「ジェラルドさんを開放してもらうよ!」
「ジュナムさんの憂いを晴らすためにも、あなたは確実に倒します」
ヨゾラと正純が煙幕のように広がる墨の中へと言葉を投げるも、墨の中にあるヘールポップとジェラルドの姿は見えない。けれどこれが返事と言わんばかりに墨で編まれた黒いナイフが幾つも飛んでくる。
「盾の居ないお前など敵ではない」
無差別に飛ばされるそれを大鎌で払いながら先陣を切るのは――矢張りフォルエスク。暗闇を切り裂くように鎌を振るえば、確かな手応えが返ってくる。
「ジェラルド殿、聞こえているのなら」
「ジェラルドさん! 聞こえていたら此方へ来て!」
墨が広がる黒い水へイレギュラーズたちが手を伸ばすも、依然声は返らない。
けれど、そんなことがどうしたと言うのだ。
したいから、するのだ。彼を思って、彼に気持ち伝えたくて、彼へと伸ばしたいから、イレギュラーズたちは伸ばす手を引っ込めはしない。
エドワードが自身へ意識を向けさせるように立ち回れれば、鮫歯を大きくのぞかせたヘールポップが墨の中から飛び出してくる。これまでヘールポップが墨の中に居たのは、ひとえに目や手足となってくれるレーテンシーたちの存在があったからなのだろう。
慣れぬ海中とは言え、イレギュラーズたちは乙姫の加護を受けている身。此処が攻め時だと、すぐに動けるイレギュラーズたちから果敢に攻めていく。幾つもの得物と強力な技がヘールポップへと向かった。
「サメとタコの弱点は……」
うーん、ちょっとわかりませんねぇ。
幾つもあるタコ足をふたつ程バルガルが切り落とす。
「駄目ですよ、飛び出してきては」
どれだけ賢くても、策を弄する手駒が居なくなり、怒りに身を任せれば詮無きことだ。タコ足を射撃したクシュリオーネがふうと吐息をこぼした。
「――仕留めます」
正純の声に呼応するように仲間たちが一歩退けば、展開するは魔空間。魔空間に飲み込まれたヘールポップはその全身を圧搾され、そしてタコ刺しとなった。
ヘールポップを討ち取り終えれば墨に覆われていた視界はゆっくりとだが晴れていく。
突如慌ただしくなった海にやっと平穏が戻り、珊瑚礁の中に引っ込んでいた小さな魚たちが顔を覗かせる。
「……ジェラルドさんは?」
墨を払うように海水を掻いて薄れさせ、焦りを覚えながら向けた先には人の姿はない。
繁華街へと向かう道はイレギュラーズたちが塞いでいる。
となれば都の外へと行くしかない訳だが――ジェラルドは一体何処へ。
そして何故正義感に溢れて慕われているはずの彼がこんな事をしたのか。
(会って、話を聞かなくちゃ)
都の明かりを背に暗い海底へと視線を向けた帳は、ぐっと拳を握りしめる。20m程も行かずに珊瑚礁ですら視認できなくなるような視界の中、あの美丈夫の姿を探していた。
暗い海底にさす、光芒を探すように。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ジェラルドさんはどうしてしまったのでしょうね。
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
GMコメント
海の底からごきげんよう、壱花です。
皆さんにはバニーな衣装を着て尾行をしてもらいます。
これも竜宮城の平和のためなんです。本当ですよ。
●成功条件
深怪魔の討伐
深怪魔を街中へと向かわせない事
●シナリオについて
まずはジェラルドを尾行します。
バレないように変装をします。そう、竜宮の正装、バニーにね★
ついていくと、ジェラルドは都の入り口へと向かいます。
そこで彼が深怪魔を招き入れるところを、あなた方は目撃してしまいます。
このままでは深怪魔は町へと向かい、人々を襲い、街をめちゃくちゃにすることでしょう。
※ソーリスとナジュムはシフト、雨泽は用事が入っているのでついてきません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●フィールド『竜宮城』
海底に存在する都の、人気のない町外れになります。
歌舞伎町の路地裏みたいな雰囲気+珊瑚礁の群生な感じです。人よりも大きな珊瑚礁が辺りには沢山あります。
●ジェラルド・ハイバーク
高級志向のバニーボーイクラブ『真珠と珊瑚(パール・コーラル)』の竜宮男子。
腕っぷしもあり、誠実。真っ直ぐで男らしく、仲間たちからは頼れる兄貴分として慕われています。ジェラルドの印象を知りたいと彼の名前を出せば、きっと皆そういうことでしょう。女性にも男性にも慕われる、強く美しい、一輪の華男子です。
そんな彼が、何故か深怪魔を竜宮城に招き入れてしまいます。
ナジュムの目撃証言からも、少し前から企てられていたようですが――……。
●敵
・ヘールポップ 1体
上半身がサメで下半身がタコの深海魔です。牙による強力な近接攻撃のみならず、墨を固めて作ったナイフを次々に飛ばす範囲攻撃魔法や墨による攪乱を行う器用な魔物です。ナイフには【出血】、墨煙幕には【暗闇】【凍結】の効果があります。強力な個体の場合BSのランクが上がっているものもあります。
賢く、力も強いです。レーテンシーと連携攻撃を行います。
・レーテンシー 4体
巨大なオオムガイ型深海魔です。殻にこもることで高い防御力を発揮し、カウンター魔法を用いて【棘】効果を自らに付与します。また、その頑強なボディを回転させながら【移】付き突進をするなどの攻撃も行います。
防御力は高いが、特殊抵抗は低いです。
●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。
●特殊ドロップ『竜宮幣』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru
それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。
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