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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>大回天事業サーカス団

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●大回天事業サーカス団
「私は皆さまが大好き! 大好きなのです! 貴方が、子供達が、動物達が、生き物達が大好きなのです!」
 愉快な演奏ともくもくあがる黒い煙。
 鉄帝南部の町に、サーカス団がやってきた。
 浮かぶ円盤ハウニヴVの上で、ペレダーチア団長が演説をしながらステッキを打ち鳴らす。
 さあ見よ、『玉乗り道化師』のクラウンはナイフをジャグリングしながら切り取った他人の腕や頭をもジャグリングし始める。
 『火吹き男』のグラニットは左右の家々を燃やし、彼ら身体にできた歯車仕掛けの特殊蒸気機械をこうこうと照らし出す。
 『怪力男』のヴィゴーレは丸めた大量の死体を片手で軽々持ち上げると、豪快に街の井戸へと放り投げた。
 『踊り子』のリーナが逃げ惑う住民や抵抗しようとする町の衛兵を蹴り殺し、団子状にしてそのうえで華麗に踊り出すではないか。
 『猛獣使い』のベスティエが自慢の猛獣『アニマール』に鞭を鳴らせば、たちまち住民達は彼らの餌食。
「彼らを切開し、彼らを暴き、彼らを書き換え、彼らを創り出す、生命の神秘はこの程度ではない、もっと賢く、もっと強く、もっとダイナミックに、もっと理想的にコントロール出来るはず、この世界を理想郷にする事が出来るはずなのです!」
 さあさ御照覧あれ。
 彼らが愉快な、大回天事業サーカス団。

●罪人釈放
 長月・イナリ(p3p008096)は送られた報告書を掴む手に力を込め、表情に深いな色を滲ませた。
 報告書がくしゃりとゆがむほどに力を強めたところで、それを持参した情報屋を見る。
 鉄帝国を拠点とする情報屋のヘギンズは既に片腕を失い、頭には痛々しく包帯を巻いていた。ハンサムな顔はその包帯によって覆われ、片目だけがぎょろりとこちらを見ていた。
 彼が当の『被害』にあった一人だということは、その目つきから明らかであった。
「町は全滅だ。『大回天事業』の奴ら……あいつらまで釈放されていたなんてな……」

 鉄帝国軍兵器開発部にて、機械化兵士についての研究開発を行う部門があった。
 かつてギアバジリカの到来によって多くの兵士がとらえられ、機械化兵士へ改造されたことをうけ、その技術を有効にそして平和的に活用できないかと設立された部門である。
 現地から回収された『改造工場』と呼ばれる未知の大型機械が主な研究材料とされ、実際兵士の飛躍的な戦闘力の向上がみられる他、足が不自由になってしまった子供に以前よりも自由な脚を与えたり、握力を失い退役した兵士に屈強な腕を与えたりと目覚ましい成果をあげていた……はずだった。
「けれど、改造には人格への悪影響が大きいことが判明して研究開発は中止。
 それに抵抗した主任研究員は拘束され南部の刑務所へ投獄された……」
「その連中が、新皇帝の勅令でまとめて釈放されてしまった、と? あんまりにもあんんまりねえ」
 ゼファー(p3p007625)は片眉をしかめ、報告書をぴらぴらと振ってみせる。
 南部の仮拠点としている酒場にはローレット・イレギュラーズが集まり、その何割かはこの作戦への参加を検討しているようだ。
 中でも強い気概を見せていたのが、オリーブ・ローレル(p3p004352)。
 鉄帝国内では抜群に有名な冒険者である。
「つまり彼らは、鉄帝の敵……ということですね」
 フルフェイスヘルムの内側から、くぐもった声で呟くオリーブ。
 彼がいつも携えている飾り気のないロングソードが、今にも敵を斬らんばかりにごとりと机の端にぶつかった。
 おそらく、今回の皇帝位簒奪に誰よりも怒っているのが彼であるはずだ。その影響によっておこった罪人釈放と、住民への虐殺。
 捨て置けるはずなどない。
「すぐにでも出発しましょう。次の町が襲われるのを待つなど――」
「当然よ。侵攻……いえ、『興業ルート』は分かっているのよね?」
 イナリは情報屋ヘギンズへと向き直り、ヘギンズは強く頷いてもう一枚の報告書を取り出した。
「そう言うと思って用意しておいたぜ。疎開によってほぼ無人になった村が通過地点にある。連中も整備のために立ち寄るはずだ」
「この場所で迎え撃てばいい、と。了解」
 報告書をよこからつまみとって、ゼファーは立てかけていた槍を脚で蹴ることで手元に良き寄せる。
「行きましょうか。罪人退治……いや、断罪にかしらね?」
 国がそれをほっぽったのだから、私達がやるしかないんでしょう?

GMコメント

●オーダー
 疎開によって無人となったアンペティフの村にて、大回天事業サーカス団を迎え撃ちます。
 彼らはその虐殺の風景からある程度の戦闘能力が推察できていますが、未知の部分も非常に多いので警戒しつつあたりましょう。

●フィールドデータ
 村には古びた木造二階建ての建物が密集しています。
 中央には井戸があり、五本に道が放射状にわかれその間に家々が建っているというシンプルな作りです。
 元々人口も少なかったようで、村自体の規模も狭めです。
 ちなみに貴重品とかは残ってないはずなので、家屋が破壊されても特に問題はないものとします。
 一応『大回天事業』は北側からやってくると見られています。

●エネミーデータ
・ペレダーチア団長
 改造人間たちを作り上げた元研究主任ですが、酷い狂気に侵されているのかそれとも元々狂っていたのか、人間を捕まえて改造したり、その性能を見せつけたりすることに執着しているようです。
 大回天事業のリーダーですが、彼は戦闘に全く参加している様子がありません。
 彼自身が脅威になることはないため、戦闘対象から除外して考るとよいでしょう。
※彼が無防備であるはずがないので、彼を落とそうとするコストがかさめばそのまま負けに響く危険があるので手を出さないのが得策です。

・『玉乗り道化師』クラウン
 脚が機械化された改造人間です。
 ボール状の蒸気式機動装甲球『ライド・オン』の上に乗って陽気にジャグリングをしている道化師です。
 詳細は不明ですが、ナイフ投げをはじめかなりアクロバティックな戦い方をしてくるでしょう。

・『火吹き男』グラニット
 全身の体表が機械化された改造人間です。
 強力な熱放射を行うヘルメット『ドクーン』を着用。
 口や両手から火炎を放射する能力を持っています。明らかに背のタンクが弱点に見えますが、こうして見せているということはそれだけ防げる自身があるということかもしれません。
 彼と戦うなら火炎系統への対策を整えるべきでしょう。

・『怪力男』ヴィゴーレ
 両腕が機械化された改造人間です。
 凄まじい怪力をもち、そのパワーでもって戦闘をこなすことは明らかです。
 ですが逆に言えば、それだけでシンプルに脅威であり、何かしら隠し球を持っていたとしても推察が難しい相手です。
 『ゴードン』という巨大な鉄アレイめいた武装が確認されています。

・『踊り子』リーナ
 腰から下が機械化した改造人間です。
 蒸気駆動脚部『バイラリン』を用いて多彩かつ華麗な足技を繰り出してくるでしょう。
 回避、命中、攻撃のバランスが非常に高いアタッカーとみられ、ぶつかるなら相応に高いスペックが求められるでしょう。

・『猛獣使い』ベスティエ
 ベスティエだけは改造人間ではありません。
 ですが彼のけしかける機械仕掛けの猛獣『アニマール』はなかなか強力なモンスターです。
 しかも『量産型アニマール』がいくつもサーカス馬車に格納して運搬されているため、戦いの序盤はこの『アニマール』たちをいかに蹴散らすかが重要になってくるはずです。

●戦いのてびき
 戦闘方法や準備、作戦などは集まったメンバー次第で決まるはずですので、自由に選択してください。
 一応オーソドックスな手順だけを説明しますと、大回転事業は量産型アニマールをまずはけしかけてくるでしょう。
 これらを効率的素早く倒し、残る脅威となるクラウン、グラニット、ヴィゴーレ、リーナの四人をおよそ2人ずつのチームにわけて挑むというスタイルがよいでしょう。
 というのも、四人はそれぞれの特技が別れているため連携されると非常に厄介な敵になります。(最悪積みます)ので、抑えをたてて一人ずつ集中攻撃で撃破していくスタイルは破綻のリスクが非常に大きく危険であるためです。
 勿論メンバーによってはそんな作戦も可能になるのがローレットの多様性ですので、皆さんの自由な発想のもとお話し合いくださいませ。

●事後処理への補足
 『今回は倒して追っ払う』が最も効果的です。
 彼らを拘束しておいてもそれを維持する施設(主に刑務所)が機能していないので、彼らが再起を図るのが難しいくらい機械化部分を破壊するというのが現時点で情報屋から提案されている対策法です。
 修理や交換が仮に出来るとしても、それまで彼らは活動できないことになるので充分な抑止効果となるはずです。その間彼らのアジトを探すなり物資の供給ルートを抑えるなりすればさらに完璧となるでしょう。

  • <総軍鏖殺>大回天事業サーカス団完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年09月28日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
一条 夢心地(p3p008344)
殿
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し

リプレイ

●サーカスはやってくる
 『大回天事業サーカス団』の迎撃作戦は、主に村の北側路上。つまりは村への侵入が浅い段階で行われることに決まった。
 『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は剣を抜き、いつでも戦闘に入れるようにと低く下ろした状態を維持する。
「混乱に乗じて、厄介な連中をどんどん解き放ってるとは聞いてたけれど……本当に心底悪趣味な連中が出てきたってワケね」
 路肩に設置された木製のベンチ。それもその家の住人がただ外で日光浴でもするために作ったであろうやや傾いたそれに腰掛け、『風と共に』ゼファー(p3p007625)はゆるやかに首をかしげる。地面から肩にかけて立てかけた槍が、彼女のやけに大人びた体型に似合って鈍く光った。
「やだやだ。この手合いの連中が、これからどれだけ出てくるのかしら」
 未知の相手との戦いは慣れている。というより、そういう相手とばかり戦ってきた彼女だ。特段身構えることはない。
 むしろ『未知なわりに情報が揃っていて楽だな』程度には思える状況だ。
 それゆえに……と言うわけではないのだろうが、彼女はリラックスしているように見える。
 『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)も、そういう意味ではリラックスした姿勢で建物の壁に背をもたれさせ、己の爪の形などを気にしている様子を見せていた。
「理想を追い求める意思だけは好感が持てますが、理想郷になる頃にはどこも住人が居なくなりそうですね。できれば一人くらい殺して、その記憶からアジトを割り出したいところですが」
「アジト、あるのかしらね。サーカス団を名乗るくらいだから移動しながら生活してそうだけど」
 『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は懐から布でくるんだ何かを取り出し、中から木製の小刀を開いた。
 両手それぞれに握れるように、持ち手は短くそしてなめらかだ。どこか艶があり、陶器の感触にもやや近い。あえてカタカナで言うなら表面にカーボンセラミックコーティングが成されているのだが、別にそこまでご大層な化学的加工をしたわけではない。焼きを入れてあるだけだ。
「噂には聞いていたけど、厄介な連中ね」
「罪のない人を……子どもだって、いるのに……『人が大好き』とか『理想郷』とか言ってるけど、けっきょくやってることはただのヒトゴロシじゃないか!!」
 『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は報告書を見直してひどく憤慨していた。
 無理からぬ反応だ。あのサーカス団が村でおこした興業という名の虐殺は、見るもの後で知る者すべてに深いな思いをさせるに充分なものだった。
 一番不快なのは、そんな報告書が作れる程度には『証言者を残した』ことである。
 彼らは見せつけるため、喧伝するためにこの興業をしているのだ。サーカス団の悪い面だけを凝縮したようなしぐさだ。
「麿サーカス大好き! 空中ブランコはあるのかのう~。アレは良いものじゃぞ。
 しかしこの大回天なんちゃら言うサーカス団はダメじゃな。
 まずはとにかく動物がダメ! 本物使ってないじゃろアレ!
 ダメよダメダメ! 今の時代あんなニセモノすぐバレて炎上しちゃうから!
 熊ちゃんとか虎とか本物を楽しみにしていたちびっこがガッカリしちゃうから!
 誰にも気づかれん内に、あのメカアニマルはいなかったことにせねばなるまい……」
 『殿』一条 夢心地(p3p008344)はいつも通りすこしズレたことを言っているが、語調の中に若干の怒りや不快感が見え隠れしているのを、『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は見逃さなかった。
 人を曲芸みたいに殺すさまを喜ぶような人間でないことは、充分に知っているつもりだ。
 そして、ある意味でブレンダもまた同じ気持ちだった。
「私にとってのサーカスとは笑顔を広める物……その名を冠しながらこの所業など許せるわけがない。だから絶対に止めさせてもらうぞ」
 準備はいいな? そう問いかけるように『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)の横顔をみやる。
 汰磨羈は黙って頷き、道の中央へと歩いて行く。
 足を止めると、遠くからかすかに音楽が聞こえてきた。
 オルガンの演奏だ。陽気な曲に交じって汽笛の音と、蒸気機関のシュッシュという独特の音が聞こえてくる。
 遠くから歯車仕掛けの汽車……いや、蒸気自動車にひかれた車両がやってくるのが見えた。
 もう彼らの『興業』は始まっているのだろう。
 異形のバレリーナが踊りながら自動車の前をジグザグに飛び、車両から飛びだしたボールの上に逆立ちして乗るピエロ。かと思えば、最後の車両は怪力男が持ち上げて歩いていた。
 空に炎が吹き上げられ、火吹き男がオルガンに指をおとす。
 じゃじゃーん、とでもいうような締めの音を鳴らすと。
 自動車からゆっくりと飛行円盤が浮上した。
「やあみなさん。われら大回転事業サーカス団をご覧頂きまァことにありがとう御座います! まずご覧に入れますのは、我等が自慢の猛獣使い、ベスティエのアニマールでございます!」
 怪力男の持ち上げたワゴンから次々と機械の獅子が飛び出し、咆哮をあげる。
 常人であれば震え上がるような光景を前に。
 汰磨羈は刀を、すらりと抜いた。
「貴様らが辿り着くのは、理想郷などでは無い。応報の果てにある地獄だ」

●歯車仕掛けの獅子
 『アニマール』の戦闘力はたかが知れている。恐るべきはその数であり、頭数はそれだけでこちらの連携を破断しるつ。
「まずはアニマールを潰すぞ。続け!」
 汰磨羈は深く前傾姿勢をとると大地を蹴り、こちらへと迫るアニマールの集団めがけて斬撃を放った。
 距離にして38m弱。剣の間合いでは到底ないが、汰磨羈には関係ない。呪力を帯びた剣は距離を無視してアニマールの脚部や頭部、あるいは胴体を破壊。バランスを失ったアニマールが転倒し、残った速度と重量の分だけ地面を削るに至った。
 そんなアニマールを飛び越え、尚もこちらへと走るアニマールたち。
「一括運用が仇になったな。本能的に散って展開することもできんか」
「そうでもないみたいよ。今になって、ほら」
 ゼファーが指をさすと、ベスティエが鞭で地面を叩きなにか暗号めいた文章を叫んだ。アニマールたちはそれに応えるように左右へと散り、一部は民家の壁をひっかくようによじ登り屋根の上をとりはじめる。
「隣の道から回り込まれたら厄介ね。すこし『固める』わ。何人か右側の屋根に頂戴な」
 瑠璃が頷き、逆側の屋根を指さす。
「では、私は左側を受け持ちましょう。正面は――」
「任せておけ」
 ブレンダが剣を抜き。道の中央を塞ぐように陣取った。
 『任せた』とジェスチャーし、瑠璃とゼファーが左右へ散っていく。
 といっても、よいしょよいしょとよじ登る手間はかけない。ゼファーは先ほどまで腰掛けていたベンチを足で蹴っ飛ばすと壁面に立てかけるように置き、その凹凸を利用して素早く壁を駆け上った。
 屋根に上ったアニマールとにらみ合うように、槍を後方にさげた姿勢で構えるゼファー。
 一見無防備なそれは、アニマールがどう動いたにせよ槍で強烈な打撃をうちかえせるカウンター向きの構えだ。
 そうと知らずにまっすぐ飛びかかるアニマール。
 腰の回転を乗せた槍がスイングされ、アニマール側頭部へと直撃。
 そこへ、俊敏に屋根へよじ登ってきていたリュコスがぴょんと飛びかかった。
 斬撃、打撃、そして投擲。ゼファーがたった一瞬足留めしたアニマールを基点にして、追って屋根へ上ってきたアニマールたちをまとめて破壊し路上へと放り捨てる。
 一方、瑠璃は屋根の上にぼうっと立つような、これもまた無防備そうな姿勢でアニマールを迎え撃った。こちらはこちらでまた別のカウンタースタイルだ。アニマールが飛びかかったその動きを見てから、相手の爪が自らに届くよりも早い速度で刀を抜き腕を切り落とす。
 そこへ加わったのはイナリである。
 木製の小刀をくるりと逆手持ちにすると、『御神渡り』を再現した。
 一歩踏み出した時には既に屋根の上に足をかけ、二歩目を出した時にはアニマールの側面から小刀を叩きつけていた。
 爆発したような神威が走り、アニマールが吹き飛んでいく。
 そんな様子を横目に、ブレンダはアニマールたちへとまっすぐに突進。
 カウンターでもなんでもない。飛びかかり噛みついてくるアニマールを、『そのまま』にした。
 腕に噛みつき足に噛みつくそれらをただ受け入れる。顔面に迫るその牙を、ブレンダはヘッドバッドで顎ごと破壊する。
 そして、腕に噛みついているアニマールを『そのまま』持ち上げると足にかみつく個体めがけて叩きつける。
「最近は動物愛護的なやつもあるし、いっそ動物芸は思い切ってカットするのはどうじゃ? やはり空中ブランコじゃよ、空中ブランコ」
 夢心地はそんな風に嘯きながら急接近。ブレンダが先ほど叩きつけたアニマールを剣で大上段からぶった切ると、続くオリーブがブレンダめがけてボウガンによる射撃を開始。
 仁王立ちするブレンダを見事にはずしながら、まとわりつくアニマールだけを的確に撃ち抜いていく。
 が、その直後。火吹き男のグラニットが不思議な動作をしたことを、オリーブは見逃さなかった。
「炎が来ます!」

●曳かれ者たちのサーカス
 迫る炎を交わし、後退を始めるオリーブたち。
 この場所で戦うのは厄介だ。それは、『火吹き男』のグラニットが左右の家屋をたちまちの内に燃やし始めたことからも明らかだった。
 ヘルメットからは勿論、両手に仕込んだ道具からも炎を噴射し、まるで見せつけるように迫ってくる。
「火を使える相手って、古来からずっと面倒よね」
 イナリは携帯していた『永久氷樹の腕輪』を装着。オリーブも同じものを装着すると、まずはグラニットを抑えるべく攻撃を開始した。
「その貴方の背負っているタンク壊したら良く燃えそうだわね、貴方が火達磨になるのが楽しみだわ♪」
 イナリは先ほどと同じ動作で高速移動。グラニットの背後をとると、逆手持ちした小刀でタンクを突き刺すように振り抜――く直前、グラニットがぐるんと素早く反転。イナリの至近距離でヘルメットのゴーグル部分が強く発光した。
 危険な、まるで光線銃が火を噴く直前のような光に目を見開くイナリ。
「危ない!」
 オリーブはイナリを突き飛ばすようにして彼女を庇うと、直後彼の鎧を貫かんばかりの熱光線が浴びせられた。
 歯を食いしばって痛みに耐える。
 大丈夫だ。耐えられている。そして……一発を『使わせる』ことに成功した。
 オリーブはボウガンをたったの5m距離で発射すると、咄嗟にみをすくませたグラニットへ急接近。剣を素早く叩き込む。
 両腕を交差し、グラニットは剣を受け止めた。仕込んだ火炎放射器のパイプでもあるのだろうか。腕は切断できない。が、充分だ。
 イナリは込んどこそ後方に回り込み、グラニットのタンクに小刀を突き立てた。
「――!」
 グラニットが慌てたようにタンクをパージ。
 小型の火炎放射器を取り出すと、それを噴射しながら急いで後退を始めた。

「下がってろグラニット! 私がやる!」
 そう叫んで走り出したのは『怪力男』のヴィゴーレだった。
 入れ替わるように走る彼を、両サイドから押さえ込む形で瑠璃とゼファーが飛びかかる。
 それぞれ屋根から跳躍し、瑠璃は刀を、ゼファーは槍をそれぞれグラニットに繰り出した。
「甘ぇ!」
 どこか堅い軍人めいた声色で、ヴィゴーレは翳した両腕でそれぞれの刃をキャッチ。鋼の腕は彼女たちの刀で切り裂くことが、できなかった。
「アニマールとは別物の装甲ですね」
「義手の趣味がいいわねぇ。それ以外の趣味は最悪だけどっ!」
 相手に獲物をつかまれて最初にすることは何か。二人の場合、『手放す』である。
 この勢いで燃える家屋へ放り投げられるとふんでいたヴィゴーレはチッと舌打ちすると、彼女たちの武器をそれぞれ別々の相手に投擲。
 瑠璃はそれを紙一重で回避し、ゼファーは握った拳の甲で軽く弾くようにして軌道をそらして防御した。
 先に仕掛けたのは瑠璃だ。回避動作からなめらかに身を回転させ相手へ接近する動作へと繋げると、こちらを掴もうと伸ばすヴィゴーレの腕に蹴りを入れた。いや、蹴るとみせかけて足を絡め、腕ひしぎの状態へとシフトした。
 頑強な義手といえど、接合部から取り外してしまえばただの鋼。ヴィゴーレはそれを恐れたのか瑠璃を振り払おうと腕を地面に叩きつける。
 が、それこそが大きな隙であった。つまりは、瑠璃は囮となったのだ。
 ゼファーは先ほど弾き落としたばかりの刀を拾い、両手でしっかりと握ると腰骨で支えるような姿勢で突進。いわゆるところの『ヤクザ突撃』でヴィゴーレの胴体に剣を突き立てたのだ。
 痛みと怒りに顔を歪ませるヴィゴーレ。ゼファーはどこかコミカルに首をかしげて笑った。
「どうせならもうちょっと、華やかな相手と遊びたかったところなんですけれどねぇ?」

 一方。燃えさかる屋根から屋根へ飛び移るようにして『踊り子』のリーナが村中央井戸広場へと至っていた。
 対抗するのは夢心地。
「かーーーーーーーっ! こんなド田舎だからと言って興行を舐めとりゃせんか! 麿が真のダンスというものを披露してやるからよく見とれ」
 夢心地は真顔でスッと半身に構えると、グーにした両手を腰の前後で交互に撃ち合わせる謎のダンスを始めた。
 鼻歌交じりのその踊りがしばらーく続く間、何が起こったのかよくわからないリーナと周りの面々が沈黙……したかと思うと。
「そこじゃあ!」
 突如として豹変した夢心地が妖刀『東村山』を投擲。
 リーナは咄嗟に鋼の足でそれを蹴り上げるが、その頃にはブレンダがリーナの高さにまで跳躍していた。
「さぁ、私たちのお相手を願おうかプリマドンナ。フィナーレまで付き合ってもらう」
 リーナの弱点を、既に彼女たちは見抜いていたのだ。余りに協力な義足なれど、蹴りの一瞬はそれ以上の動きができないことに。
 リーナは防御し損なってブレンダの剣をうけ、よろめくように後退。
「あなたたちには付き合わないわ。踊るのは、私一人で充分よ!」
 が、リーナの動きはそこで大きく変化した。
 ダンッと地面を蹴りつけると跳躍し、アクロバティックに夢心地の頭上を飛び越える。その際に目にもとまらぬ速さで蹴りが七発に渡って繰り出され、剣で防御しつつも夢心地は派手に吹き飛ばされ井戸を破壊。転落した。
「ぬおお!?」
「へんなおじさん殿!」
「無事じゃー! それよりも――」
 井戸の底から聞こえる声。先は聞かずともわかった。
 空中を『蹴る』動きでターンしてきたリーナの蹴りがブレンダへと迫っていた。
 もはや防御は無意味。
 ならば――とブレンダは自らの蹴りを相手にあわせた。
「今日の演目はここまでだ」

 ナイフをジャグリングしながら笑『玉乗り道化師』のクラウン。
「どうして、ころした人をおもちゃのように傷つけられるの? ひどいよ……」
 リュコスが迎え撃つようにクラウンをにらみ付けるが、クラウンは張り付いたような笑顔で『えー?』と声を発した。子供のような、無邪気な声だ。
「私、すごいのね! こんなことができるのね!」
 クラウンはケタケタと笑いながらナイフを次々に放ってくる。
 それを――汰磨羈の剣がたたき落とした。
「下らん巡業は終いだ、道化擬き!」
「ひどいことして笑っていられる、そんなたいどが許せない!」
 汰磨羈とリュコスが同時に走り出し、左右へと別れた。
「アクロバティックな動きに騙されるな。足腰を狙え!」
「うん!」
 汰磨羈は回り込みながら『殲光砲魔神』をセット。リュコスと重ならないように発射すると、リュコスも直後のタイミングを狙って『デッドリースカイ』のタックルを浴びせた。
「わーあ!」
 直撃をうけ、乗っていたボールから転落するクラウン。
「いたたたた。しっぱいなのね」
 てへっと笑うと、クラウンはおしりをはたきながら立ち上がった。
 そこを汰磨羈とリュコスが全く同時に斬りかかる――その、瞬間。
「『らいど・おーん』!」
 ぱかっと二つに割れた蒸気式機動装甲球『ライド・オン』が身を丸くしたクラウンを包み込むように閉じ、リュコスたちの攻撃を受け止めた。
 ブシュウと蒸気が噴き出し、『ライド・オン』が高速回転を開始。リュコスを派手に突き飛ばす。
 地面を転がり、バウンドし、それでも両手両足を地面にがしりとつけてすぐに体勢を立て直したリュコスは歯を食いしばった。
 そこへ更に迫るクラウンの『ライド・オン』――だが、数の利はまだこちらにあった。
 汰磨羈は刀の柄を開いて特殊弾頭をリロード。再度『殲光砲魔神』をセットすると、大上段から切り下ろす動きで衝撃を放った。

「おやおや、どうやらここまでのようですね」
 そう声を発したのは、ペレダーチア団長だった。
 オリーブがボウガンを放つが、見えない障壁によって弾かれる。
「今回の公演はここまで! 皆様、またお会いしましょう!」
 ペレダーチア団長は横行に頭を下げると、乗っていた飛行円盤『ハウニブV』から激しい煙幕を展開した。
 煙がはれたその時には……もう、誰もそこには残っていなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 大回転事業サーカス団を撃退しました!

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