シナリオ詳細
<総軍鏖殺>デッドマンズパレード。或いは、10人分の時間…。
オープニング
●アンデッドの軍勢
「俺の治世(ルール)は簡単だ。この国の警察機構を全て解体する。奪おうと、殺そうと、これからはてめぇ等の自由だぜ」
新皇帝バルナバスの放った勅令が、鉄帝全土を騒乱の渦へ叩き込む。
それは、首都スチール・グラードから遠く離れた南部戦線防波堤。城塞バーデンドルフ・ラインも例外ではない。
鉄帝各地で起きる騒乱や、民衆の暴動、それによる治安の悪化と感化された魔物の暴走。南部の雄、ザーバ・ザンザの要請のもとイレギュラーズは事態の収拾のため、積極介入をはかる運びとなっていた。
南部辺境の小集落に10名の兵の姿があった。
小集落……かつては、羊や牛、馬などの牧畜が盛んだった長閑な村だ。けれど、愛すべき家畜はもはや1匹たりとも残っていない。
「*鉄帝スラング*! あいつら、まだまだ増えやがる!」
大槌を手にした大柄な男が、苛立ち混じりに吐き捨てる。
手にした鎚にはべったりと血や肉片がこびりついている。よくよく見れば、柄も歪に曲がっているではないか。男がここまで経験して来た激闘の名残りがそれだろう。
「アンデッドどもは全部で何体いやがるんだ? あんな化け物を、一体どこから連れて来た?」
「近くの村や盗賊崩れを食い殺して仲間に加えているんだろ。見ろよ、アンデッドの先陣を切っているアイツは、この辺りで幅を利かせていた盗賊だ」
双眼鏡を手にした兵士が指差した先には、全身を血染めの包帯で覆った大柄な男の姿があった。首の辺りが大きく抉れている辺り、すでにアンデッドの仲間入りを果たしているのは確実だろう。
「昔は闘技場でも評判の戦士だったそうだが、盗賊に落ちぶれた末路がこれじゃあな」
「昔から野心家で有名だったと聞くぜ? この辺には、自分の手駒となる連中を集めるために来ていたとか」
「手駒? 今やあいつ自身がすっかり、リッチの手駒になってらぁ」
都合20を超えるアンデッドの群れ。
その最奥に、骸骨頭の魔術師然とした魔物がいた。
手には錆びた大鎌を持ち、膨大な魔力を使ってアンデッドたちを操っている。
「あの野郎がいたんじゃな……何度倒してもアンデッドたちが復活して来る」
「まったく根性のある連中だよ。しかし、どうする? 今もアンデッドは増え続けてるんだ。このままだと、そう遠くないうちに物量で押しつぶされちまう」
現在、リッチが操るアンデッドの数は20程度。
しかし、リッチの足元から続々と後続が這い出し続けているではないか。
「近くの村を壊滅させたとなると……300体ぐらいは見ていた方がいいか?」
遥か遠くに見えるリッチと、続々と増え続けるアンデッドの大群。
それに対する戦力は、村を要塞として籠城している10人の兵士。剣や大鎚といった武器の他、村人の残して逝った2本の“ダイナマイト”が兵装のすべてだ。
「この村より先には都市がある。何としてでも、ここで食い止めなきゃぁな」
「なに。いざとなれば、連中もろとも自爆してやる。これ1本で、上手くやりゃあ20体ほどは吹き飛ばせるだろう」
大を守るためには、時に小を切り捨てる覚悟が必要だ。
この場合、小とはつまり村に残った10人の兵士たちを指す。
「じゃぁ、死ぬか」
「おぉ、ここでな」
「ここで死んで、明日の誰かに繋ぐとしよう」
「最後まで往生際も悪く足掻いて、悪態吐きながら死にに行こう」
なんて。
残り僅かな酒を煽って、10人の兵士は笑い合う。
●10人分の時間
「10人の兵士が犠牲になった。小村でアンデッドの足止め役を務めたのが9人、傷を負いながらも後方支援部隊へ一報を届けたのが1人。その全員が殉死した」
そう言って『黒猫の』ショウ(p3n000005)は目を閉じる。
命を賭けて次に繋いだ10人へ、彼なりに敬意を表しているのだ。
「後方支援部隊により谷の底に砦が築かれている。突貫作業ゆえ、砦の強度も規模もごく小さなものだが、何もないよりはマシだろう」
10数名の後方支援部隊は、そのほとんどが近くの街へと向かっている。アンデッドたちの接近を街の住人へ伝え、避難を促すためだろう。
「ローレットが受けた依頼の内容は、街の住人が避難を終えるまでの時間稼ぎだな。まぁ、街1つ分の非難にかかる時間を考えれば、それは愚策と言える。ゆえにローレットは、リッチの撃破を目的として行動しようと思う」
アンデッドの軍勢、その最前線を進むのは元闘士だという大柄なアンデッドである。鉈のような大剣を持ち【必殺】【致命】の付与された技を行使する。
その後に続くのが現在70体ほどにまで増えたアンデッドの群れだ。アンデッドたちの体は脆いが、何度倒しても蘇生するという特異な性質を有していた。
「とはいえ【必殺】の付与された攻撃であれば、アンデッドを殺してしまえるだろう。動きは鈍く、攻撃力はそこそこだが、【窒息】の追加効果と数が多すぎることが難点か」
アンデッドの最大数は300ほどと予想されている。
不死身の軍団を前進させ、数に任せて押し潰すというのがリッチの戦法なのだろう。
「アンデッドは、どこか別の場所からリッチが召喚しているのだろうな。アンデッドの召喚ペースは、毎分30~40体ほどということだ」
リッチが陣取っているのは、砦から500メートルほど離れた位置にある敵本陣。アンデッドで造った壁に守られ、今も後続を召喚中だ。
「一応、砦には2本のダイナマイトが備え付けられている。必要であればうまく使ってくれ」
以上が作戦の全容だ。
深夜0時を過ぎたころ、こうして作戦は開始された。
- <総軍鏖殺>デッドマンズパレード。或いは、10人分の時間…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年09月29日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●死者の谷
10人の男たちが命を落とした。
都市を守るため、アンデッドの軍勢を迎え討ち、ほんの僅かの時間を稼いだ。
手に入った時間的な猶予はほんの数時間足らず。
「良く死んだ。こんな時に、良くぞ民のために死んだ」
谷の底の粗末な砦を背後にし『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は脱いだ軍帽を胸に当てて目を閉じた。
10人。そのうち遺体を回収できたのは1人だけだ。残る9名は、アンデッドの群れに圧し潰されて遺体の所在も分からない。
「その旅路を、私達が彩りましょう。やってやったと、笑えるように」
アンデッドの群れを眼前に見据え『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は馬の手綱を握りしめた。
イーリンに続き現れたのは『機動回収班』リースヒース(p3p009207)の駆る1台の馬車だ。馬車の荷台には、数名のイレギュラーズを乗せている。
「我らもまた、成すべきことを為そう」
勇敢なる兵士の冥福を祈る時間はごく短い。
彼らの稼いだ多少の時間を、これ以上無駄には出来ないからだ。
「ニール・コリンズ、マイケル・クランツ、エドウィン・ヘイズ、フレッド・コール、ジェームズ・コール、ウィリー、コスモノート、ユーリィ、パズ・ポーグ、グリン・ルーイ……戦士たちよ。これよりこの戦の砲火は、貴様らの名の下に振るわれる」
軍帽を被りなおしたエッダが、リースヒースの馬車へ乗った。
そうしてエッダは、目を閉じて肺いっぱいに空気を吸い込む。
「出撃!」
高らかな号令と共と、軍馬の嘶きが谷底に響いた。
「最大速でぶつかるわよ! 先手をこっちが取り続ける!」
戦旗を風に靡かせて、イーリンが先陣を切った。
隊列を組み、前進を続けるアンデッドを馬で蹴散らし、剣を振って薙ぎ払う。脆いアンデッドは、あっさりと力を失い地面に伏せる。
だが、折れた首を筋繊維で繋ぎ合わせて、それはすぐに立ち上がる。脆い代わりに、術者であるリッチさえいれば何度だって復帰する。決して止まらぬことのない不死身の軍団というわけだ。
「こんな奪われ方って、ないです……」
『ドラネコ配達便の恩返し』ユーフォニー(p3p010323)の放った魔光が、アンデッドたちを撃ち抜いた。
その頭上にはドラネコの“リディア”が飛んでいる。
「にゃぁご!」
慌てた様子でリディアが鳴いた。
直後、数体のアンデッドが衝撃と共に宙を舞う。肉片と血が降り注ぎ、現れたのは包帯まみれの巨漢であった。手にした大剣を振り回し、邪魔なアンデッドたちを薙ぎ払ったのだろう。
「エマ、いたわ!」
「これを10人で……逃げてしまえばよかったものを……なんて、いうわけにもいきませんね。お任せください!」
前進を続ける馬車の荷台から『こそどろ』エマ(p3p000257)が飛び降りる。大上段から振り下ろされたマミーの剣を潜るように回避して、その懐へと踏み込んだ。
一閃。
逆手に握った短剣で、マミーの喉を切り裂いた。口から血を吐きながら、マミーは前進。体当たりで、エマの身体を吹き飛ばす。
アンデッドは、何度も何度も立ち上がる。
倒しても、倒しても、何度だって立ち上がる。
「っ……数が多い」
額に汗を滲ませて、ユーフォニーが苦悶の声を零す。
「まだまだ供給できますから、派手にやっちゃってください」
その背に手を当て『救済の視座』リスェン・マチダ(p3p010493)がそう言った。揺れる馬車の上でメロンパンを食べるのは、とても大変そうである。
「アンデッドかぁ……あんまり美味しくなさそうだけど、こっちも報酬でご飯食べなきゃだし、依頼なら狩るしかないよね」
メロンパンに視線を向けて『お師匠が良い』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)は愛銃のパーツをつけかえた。敵の数が多いため、今回は連射性を重視するようだ。
馬車の縁に足をかけ、手近なロープを体に回す。
小さな身体を車体に固定すれば、射撃の準備は完了だ。ライフルのストックを馬車の縁に乗せて進路を阻むアンデッドへと狙いを定めた。
そうしてリコリスが引き金に指をかけた……その直後だ。
「っ!? なんだ!?」
馬車が弾んで、リースヒースが困惑の声をあげた。
視線を後ろへと向ければ、馬車の車輪にアンデッドが挟まっている。
「1体2体ならば轢くが……」
潰れた死体の肉片と、血脂が車輪を滑らせる。
制御しようにも、少々速度が乗り過ぎていた。
揺れる馬車から、『決死行の立役者』ルチア・アフラニア(p3p006865)の身体が宙へと投げ出される。
咄嗟にリスェンが手を伸ばすが届かない。
「行って! 彼らの意志を、無駄にできるものですか!」
地面を転がるルチアが叫ぶ。
落ちたルチアをその場に乗せて、馬車は谷底を駆けていく。
●戦士の遺産
リッチ。
骸骨頭に黒いローブ、錆びた鎌を手に持つ魔物。
足元に広がる、底の見えぬ黒い影から続々とアンデッドを召喚し続けているそれが、今回のターゲットである。
既に100体を超えたリッチが、馬車の速度を遅くする。
「リッチへの最短距離を切り開くわ! ユーフォニー!」
1人。
突出するのは、愛馬“ラムレイ”に跨るイーリンだ。
「右前方45度! アンデッドの数が少ないです!」
ユーフォニーの指示に従い、イーリンが馬首を右へと振った。疾走する馬上から、前方へ向かってランタンを投げる。
アンデッドの頭にランタンが命中。
飛び散った油に引火し、火だるまになるアンデッドの胸を剣で突き刺し、イーリンはなおも前進を続けた。
無数のアンデッドが馬に群がる。
脚を掴まれ、イーリンが馬上から引き摺り落とされた。
「止まるな! 進め!」
「えぇ、絶対に街へは行かせない! きっと絶対、未来へ繋ぐんです!」
一瞬、イーリンとユーフォニーの視線が交差した。
地面に倒れたまま、イーリンは剣を横に薙ぐ。群がるアンデッドを斬り払いながら、割れたゴーグルを脱ぎ捨てた。
アンデッドの群れの中、炎の中で激しく揺れる戦旗だけが走り去る馬車を見送っていた。
密度を増すアンデッド。
次第に馬車の速度が鈍る。
押し寄せる死者の群れを、リスェンの放つ閃光が焼いた。
「多すぎるんですが。うぅ、こっち来ないでください」
閃光に焼かれ、それでも死者は立ち上がる。
無数の銃声と、ばら撒かれる弾丸の雨。銃弾に撃ち抜かれることも厭わず、前へ前へと進み続けるアンデッド。
「死んでも死に切れずに無理やり働かされてるんだよね? あの人たち。じゃあボクが土に還してあげるね」
ライフルに次の弾倉を装填しながらリコリスは言った。
リスェンと2人がかりで作った細い道へ、リースヒースが馬車を進める。前から、横から、後ろから……次々とアンデッドが押し寄せる。
それはまるで、黒い津波だ。
「っ!? 痛っ……!」
ついにアンデッドの腕が、リコリスの細い足首を掴む。
ギシ、と骨の軋む音。肉が裂けて、零れた血が地面を濡らす。
振り下ろされた鋼の拳が、アンデッドの腕をへし折った。
まっすぐに前を見据えるエッダの瞳を、リッチはきっと見ただろう。
鎌を横へとひと振りすると、進路を封鎖するようにアンデッドの群れが移動を始めた。
「……ダイナマイトで一気に爆破というのはいささか風情に駆けるが、確かに理に適っている、か」
犠牲となった者たちの意思は、必ず継がれ、果たされなければならない。
リースヒースが荷台を見た。
エッダとユーフォニーが、ダイナマイトを手に取った。
視線を交わし、1つ、頷く。
言葉はいらない。
成すべきことを、互いに理解しているのなら、きっとそれは成し遂げられる。
振り下ろされた鉈剣が、地面に深い裂傷を刻んだ。
飛び散る土砂を体に浴びて、エマが地面を転がっていく。
「ひえぇ……ちょっと直撃は遠慮したいですね」
額から流れる血を拭い、短剣を逆手に構えて疾走。進路を塞ぐアンデッドの首を裂き、転がるようにマミーの足元へと到達した。
マミーが視線を真下へ向けると同時にエマは、地面を蹴って高く跳躍。マミーの顎に膝蹴りを入れると、その肩に足を乗せて背後へ回った。
よろけながらもマミーは鉈剣を後ろへ薙ぐ。
数本、エマの髪が切られてはらりと風に舞い散った。
鉈剣を受けたアンデッドが、2体纏めて地面に沈む。
「あっ……ぶないですねぇ」
動きを止めれば、すぐにでもアンデッドに囲まれる。
姿勢を低く沈めたまま、エマは再びマミーの足元を駆け抜けた。
ダイナマイトが宙を舞う。
まずは1本。
アンデッドの群れの頭上で、それは弾けて爆炎を周囲に撒き散らす。
業火に包まれ、アンデッドの群れが地面に倒れた。
リッチまでの距離は残り数十メートルほどか。アンデッドの群れに遮られ、現在地からはリッチの姿を窺えない。
だが、問題は無い。
リッチの位置は、漂う霊魂が教えてくれる。
「全てが終わり次第、御身らを埋葬し、あるべき宿命へ導くが故」
リースヒースの赤い瞳には、戦士たちの姿が見える。
敵はここだ。
敵を討つのだ。
口々に叫ぶその声を、確かにリースヒースは聞いた。
スクラムを組む死者の群れ。
その奥には、カカと嗤う骸骨頭の魔術師がいる。
手にした大鎌を上機嫌に振り回し、生者を嬲れ、屠れと死者へ命令を下す。
リコリスの放った銃弾が、アンデッドに阻まれた。
リスェンの支援を受けて、ユーフォニーの放つ魔弾もリッチまでは届かない。
「ぶつかるぞ。車体に掴まれ」
リースヒースが警告を告げた。
血と肉片に塗れた馬車が、アンデッドの壁へと突っ込んで行く。
衝撃。
数体のアンデッドを圧し潰し、馬車はついに動きを止めた。
急停止した馬車の荷台から、エッダの身体が投げ出される。
アンデッドの壁を跳び越え、ダイナマイトを投下した。
爆炎に押され、エッダはさらに前へ、遠くへ。
地面に叩きつけられて、エッダの身体が跳ねる。
転がって、転がって。
爆炎を背に、エッダは大地を両の足で踏み締めた。
「覚悟せよ。私は、我が道を決して譲らぬ者だ」
握る拳がミシと軋んだ。
リッチを両の眼で見据え、淡々と、エッダは己が矜持を告げる。
●パレードの終焉
紅と蒼。
2色の螺旋が、アンデッドを捩じ切った。
開いた道を駆け抜けて、イーリンは自身の胸へと手を触れた。
脳の奥に歌声が響く。
まだいける。
まだ戦える。
周囲のアンデッドを引き付けながら、先へ先へと歩みを進める。
掲げた旗は、未だ戦場の風を浴びてはためいていた。それが地に倒れぬ限り、イーリンもまた歩みを止めることは無い。
殴打を受けた瞼はすっかり腫れているし、アンデッドに掴まれた手首の皮が抉れているし、背中は今も激しく痛むし、口の端から血が零れるが、それは足を止める理由にはならない。
「いずれ全員分、埋めに来ないとね」
1体のアンデッドを剣で突き刺し、イーリンは静かにそう呟いた。
鉈剣による斬撃が、エマの腹部を斬り裂いた。
血を吐きながら、エマは地面に倒れ込む。血に濡れたマミーがトドメとばかりに剣を頭上へ振り上げた。
逃げようとしたエマの手足を、2体のアンデッドが抑え込む。
逃げられない。
鉈剣の直撃を受けるわけにはいかない。
ギリ、と歯を食いしばり……。
振り下ろされる鉈剣の前に、ルチアが身体を躍らせた。
鮮血が飛び散る。
割れた鎧の破片が散った。
血を吐きながら、ルチアはエマへ手を向ける。
燐光が散って、エマの負った傷を癒した。
「命を捧げた勇敢な兵士たちの魂に安寧があらんことを」
意識を失う寸前に、ルチアは震える声でそう呟いただろう。
その声は、エマの耳にも届いた。
身体を捩じり、アンデッドの拘束を解く。
地面に刺さる鉈剣を踏みつけ、エマは跳躍。
マミーの喉へ短剣を突き刺す。
「……きちんと引き継ぐくらいの情は私にもあったようです」
マミーの背後へエマが回った。
深く突き刺した短剣を、ひと思いに横へと引いた。
マミーの喉が裂ける。
筋繊維を引き千切り、首の骨に切先が刺さる。
跳躍の勢いのまま、さらに短剣に力を込めて……。
ブツン、と。
切断されたマミーの首が宙を舞う。
リースヒースが剣を振るった。
地に倒れ込むアンデッドの首から、ネックレスが転がった。
血に濡れ、ひしゃげたネックレスには家族で撮った写真が嵌めこまれている。
「死霊術を学ぶものは往々にして忘れる。死者にも生と名があったことを」
褐色の肌を血に濡らし、泥に塗れたリースヒースは呟いた。
脚を止めて、祈りを捧げる時間は無い。
馬車の荷台で閃光が散った。
「うっ、アンデッド的な腐臭が……」
腐った肉と血が地面を赤く濡らす。
倒れたアンデッドは、しかしすぐに立ち上がる。
数は減らない。
それどころか、少しずつだが増えている。
「街へは絶対行かせません! 1体だって見逃しては駄目ですよ!」
次はあっちへ、と指示を出すのはユーフォニーだ。
リスェンの肩を叩くと、視線を前へ……エッダの方へ向けさせる。エッダがリッチを倒しきるまで、邪魔を入れさせるわけにはいかないのだ。
肩と頭の上に猫を乗せ、さらに頭上にも猫を飛ばせて……周囲に素早く視線を巡らせ、絶えず戦況を分析するのだ。
脳にかかった膨大な負荷によるものか。
ユーフォニーの鼻からポタリと血が零れた。
「ユーフォニーさん!?」
「大丈夫です。重傷もパンドラも厭いません!」
敵の数が多いのだ。
休んでいる暇なんて、この場の誰にもありはしない。
御者台に陣取って、リコリスは絶えず引き金を引いた。
火薬が爆ぜて、弾丸が飛ぶ。
弾が切れたらリロードして、再び銃弾をばら撒いた。
狙いを付ける必要はない。
敵の方から、勝手に近づいて来るからだ。
「あはは連射た〜のし〜っ! 普段は弾丸がもったいなくてこんな気持ちいい撃ち方できないんだよねっ!」
銃口はリッチの足元に向いている。
影の内から湧き出す死者が、続けざまに凶弾に倒れた。
錆びた鎌を手甲で受けた。
火花が散って、刃が欠ける。
「弱きものが死ぬ。それは鉄帝国のある一面である」
虚ろな眼窩を覗き込み、淡々とエッダは呟いた。
リッチ自身の戦闘力は、そう大したことは無い。アンデッドの召喚と維持にリソースのほとんどを割いているのだ。
それでも、死を前にした獣の必死さとでもいうべきか。
がむしゃらに振るわれる鎌は、確かにエッダの攻勢を妨げていた。
「しかし、勇者達が示したように、それに抗う心と団結を持ち合わせる者もまた、確かに存在する」
1つ、2つ。
続けざまにリッチの腹へと殴打を打ち込む。
「武力とは勇なき暴には決してあらず」
4つ、5つ、6つ。
エッダの肩に鎌が突き刺さる。
構わず前進し、鎌の刃を折った。
「誰ぞが賢しらに弱きものの死を謳おうとも……」
7つ、8つ、9つ。
鉄甲の殴打が、リッチの喉と顎を打つ。
折れた前歯が飛び散った。
顎骨の砕ける音がする。
1歩、強く踏み込んだ。
靴底が地面に沈み込む。
大地に根を張る巨木のように、エッダは体をその場に固定し腰を捻った。
「断じて否と唱え続けてやる!」
10発。
渾身の殴打が、リッチの顔面を砕く。
主を失い、アンデッドは制御を失った。
それと同時に、無限の再生能力も。
喉にリコリスの弾丸を浴びて、アンデッドが倒れ伏す。
死体は土へ。
それは2度と起き上がらない。
猫たちの奏でる祈りの歌が、風に運ばれ夜空へ消えた。
「どうか……温かな色が届きますように」
「鉄帝の兵士さん、みなさんの命は明日につながりました。安らかにお眠りください」
アンデッドの数は残り少ない。
馬車の荷台に座り込み、空を見上げるユーフォニーとリスェンが、死者への言葉を舌へと乗せた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
リッチおよびアンデッドの大群は殲滅されました。
後方の街は守られました。
依頼は成功です。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
R.I.P.
ニール・コリンズ
マイケル・クランツ
エドウィン・ヘイズ
フレッド・コール
ジェームズ・コール
ウィリー
コスモノート
ユーリィ
パズ・ポーグ
グリン・ルーイ
GMコメント
●ミッション
リッチおよび既存アンデッドの殲滅
●ターゲット
・リッチ×1
アンデッドの親玉。骸骨頭の魔術師然とした魔物。
言葉を発することは無く、基本的にはアンデッドを召喚し続けるだけの存在。
リッチが存在する限り、アンデッドは(EXF100)と同等の状態となる。
・ビッグマミー×1
全身を包帯で包んだ大柄な男。
闘技場出身のならず者。
鉈のような大剣を操る。
鉈剣:物近範に大ダメージ、致命、必殺
・アンデッドの群れ×70~300
現在70体ほどのアンデッドの群れ。
リッチが存命している限り、何度でも復活するという特性を備えている。(EXF100)
動きは鈍く、攻撃力はそこそこ。【窒息】状態を付与する。
●フィールド
鉄帝南部のとある谷底。時刻は夜から朝にかけて。
視界を遮るものは無い。
谷の南端には砦、北端にはリッチが陣取る敵本陣がある。
南端から北端までの距離はおよそ500メートルほど。
アンデッドが横に10体も並べばいっぱいになる程度の道幅。
●その他
・ダイナマイト×2
砦の備品。
上手く使えば、アンデッド20体はまとめて撃破できるだろう。
神近範に大ダメージ、必殺
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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