シナリオ詳細
<総軍鏖殺>修羅姫の企み
オープニング
●略奪と、粛正と
――新皇帝のバルナバス・スティージレッドだ。
諸々はこれからやっていくとして、俺の治世(ルール)は簡単だ。
この国の警察機構を全て解体する。奪おうと、殺そうと、これからはてめぇ等の自由だぜ。
強ぇ奴は勝手に生きろ。弱い奴は勝手に死ね。
だが、忘れるなよ。誰かより弱けりゃ常に死ぬのはお前の番だ。
どうした? 『元々そういう国だろう?』
冠位魔種バルナバスの完全なる弱肉強食と言える布告は、鉄帝の国内に大混乱を巻き起こした。
それは、バルナバスの帝位を認めない『帝政派』が拠点とするサングロウブルクの近くにあるこの村も例外ではなく、今まさに盗賊団の襲撃を受けている。ただ、この盗賊団が並の盗賊団と違うのは、軍隊じみた統率の取れた動きをすることにあった。
「無駄な抵抗は止めて、出すものを出しな。ラド・バウのB級闘士『修羅姫アヤセ』の名は知っているだろう?
大人しくしてれば、命までは取ったりしないよ」
襲撃の最中、妖艶な雰囲気を纏った頭領の女は村人達に向けてそう告げる。相手がラド・バウのB級闘士と聞かされた村人達は心が折れた様子で、抵抗を諦めて食糧を供出しはじめた。
「あ、アンタらの頭領は、出すものを出せば命は取らないと言っただろう!?」
ある家の中では、盗賊の一人が家の主であろう中年の男に刃を突きつけていた。男と同年代であろう妻と、まだ少女と言える年齢の娘は、壁の側で抱き合ってガタガタと震えている。
「ハッ、知るかよ! こんな窮屈なところ、やってられねぇからな。
ここにあるモンを頂いて、テメェぶっ殺して、そいつら犯して、おさらばするぜ」
そうして盗賊が刃を男に突き立てようとした瞬間。
「そうかい。では、アタシもアンタとおさらばしようかねぇ。使えないどころか勝手をする道具はいらないからね」
「うぐえっ!?」
頭領の女が、家の中に入ってきて盗賊に駆け寄った。すると、瞬く間に盗賊の身体が縦と横に両断される。この場の誰も、頭領の女の剣閃を視認することは出来なかった。
「怖い思いをさせてすまなかったねぇ。詫びと言っちゃなんだけど、この家にあるものは見逃してあげるよ。
でもね、アタシが見逃したってのは、口外無用だよ?」
頭領の女は微笑を浮かべながら家の者達にそう告げるが、家の者達は恐怖に震えながらこくこくとただ頷くしか出来なかった。
やがて、盗賊団は供出された食糧の二割を村に残して、引き上げていった。
「それにしても、何で全部持っていかねぇんですかい?」
「全部持っていったら、すぐにでも飢え死にしちまいかねないだろ? それは、命を取るのとどう違うんだい?
――まさかアンタ、アタシのやり方に文句があるってんじゃないだろうね?」
「い、いえ、滅相もない……」
頭領の女の威圧に、問いを発した盗賊は怯えた様子で引き下がった。だが、頭領の女には盗賊達には言えない別の理由があった。
(それだけ残してやれば、『帝政派』とやらが拠点にしてるサングロウブルクに救援を求める余裕はあるだろうさ。そうでなくっちゃ困る。
――さぁ、鉄帝全体がこんな大事になってるんだから、お人好しのアンタが動いてないわけはないだろう?
待っているよ、狂歌チャン)
全ては、不動 狂歌(p3p008820)と再び相見えるために。
●盗賊団にしては奇異
『修羅姫アヤセ』を頭領とする盗賊団に食糧の大半を奪われた街や村は、サングロウブルクの『帝政派』に救援を求めた。もちろん、『帝政派』はその要請に応じ、被害を受けた街や村に食糧を送り届ける。同時に、この盗賊団を放ってはおけないとして、『帝政派』はローレットに盗賊団討伐の依頼を出した。
「依頼は当然受けるんだけど、ちょっと今回の相手は妙なんだよねぇ」
『夢見る非モテ』ユメーミル・ヒモーテ(p3n000203)は、イレギュラーズ達の前で言った。
不殺不犯――これは、過去にやむなく盗賊となった過去があるユメーミルもわからないではない。だが、わざわざ供出させた食糧を二割残していること、盗賊達の動きが妙に組織だっていること、頭領が『修羅姫アヤセ』とわざわざ触れ回っていること――そして、あっさりとその拠点が判明したこと。これらは、普通の盗賊団の性質とはかけ離れた奇妙な事だった。
「その『修羅姫アヤセ』って、もしかして紅くて露出の多い、カムイグラ風の格好をしてないか?」
「ああ、そのとおりだね。知ってるのかい?」
「カムイグラで、いろいろと、な……」
狂歌は『修羅姫アヤセ』の名を聞いて、自身の知る人物、華幡 彩世(はなはた あやせ)であるかどうかを確認する。時には敵、時には味方として遭遇していた相手だったが、狂歌がイレギュラーズとなりカムイグラを出て行ってから遭うことはなかった。それがまさか、こんなタイミングでその名を聞くことになろうとは。
複雑な表情をする狂歌をよそに、ユメーミルの説明は続く。
「アンタ達には、ヤツらの拠点に夜襲をかけて、この盗賊団を壊滅させて欲しいのさ」
その拠点は、森の中にある廃墟だ。ここに、およそ五十以上の盗賊がいると言う。
「全員とっ捕まえられれば言うことはないんだけどね。数も多いし逃げ出す奴も出るだろうから、八割、四十ばかり押さえてくれればOKと言うことになってるよ。
ただ、こっちが夜襲する側とは言え、気をつけておくれよ。如何にも、誘われてる気がしてならないんだよねぇ」
ユメーミルはそう言って、イレギュラーズ達に注意を促した。
●夜襲の前
「――来たね」
イレギュラーズ達の気配を察した彩世が、床から身を起こす。
「さぁ、アタシらを討伐しようとするヤツらがやってきたよ! とっとと、皆に知らせて迎え撃つ準備を整えさせな!」
彩世は寝ている盗賊の一人を叩き起こしてそう告げながら、戦闘用の装束に着替えはじめた。
(あの中に、狂歌チャンがいるといいんだけどねぇ)
彩世は、期待に胸を躍らせる。果たして、狂歌は彩世が望んだとおり、一行の中にいた。
――二人が再会するまでの時間は、あとわずか。
- <総軍鏖殺>修羅姫の企み完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年10月17日 22時21分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●盗賊団の待ち伏せ
「全く……久しぶりに名前を聞いたと思ったら、また盗賊なんかやってるのか。まぁいい、しっかり灸を据えてやるよ」
サングロウブルク周辺を荒らし回る盗賊団の首魁が、元ラド・バウB級闘士『修羅姫アヤセ』こと華幡 彩世(はなはた あやせ)であることを知った『ラド・バウB級闘士』不動 狂歌(p3p008820)は、そう独語した。
彩世との最初の出会いは狂歌が特異運命座標となる前、武者修行と称して故郷豊穣の村を出て間もない頃だ。当時、元の世界『天華』から混沌に転移したばかりの彩世は山賊団の頭目に収まっており、その山賊団の撃退を買って出たのが狂歌だった。狂歌によって山賊団は壊滅したものの、彩世を倒すには至らず、その後彩世は事あるごとに時には敵として、時には味方として狂歌の前に姿を現していた。
だが、狂歌が特異運命座標となってからは、久しくその姿を見ていない。それが、鉄帝動乱のこのタイミングでこんなことをやらかそうとは。
ともあれ、顔見知りであろうが――否、むしろだからこそであろうか――盗賊など、放っておくわけには行かない。狂歌は、盗賊団の討伐に一も二も無く加わった。
そしてイレギュラーズ達は、夜闇に包まれた森の中を進んでいく。この先に、盗賊団が拠点とする廃墟があるのだ。だが、先頭を進んでいる『観光客』アト・サイン(p3p001394)が足を止めた。透視の目薬を点している故に、樹々の陰に潜む盗賊達の姿を視たのだ。
「んー、森に潜むことが多い観光客だからわかっちゃうんだよなあ……向こうさん、思いっきり待ち構えてるな?」
『観光客』とは、とその定義を問いたくなるような台詞と共に、アトは敵の存在を仲間達に知らせた。
「こういう言い方は良くないけど、盗賊を纏めてくれていたのは助かるね」
その意図はともかくとして彩世が自身の元に盗賊を集めていたのは、『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)からすれば手間が省ける話だった。分散している盗賊達にその都度対応する必要がなくなり、彩世もろとも一網打尽にすれば良くなったのだから。
「纏めて、殲滅させて貰うよ!」
サクラは意気込みつつ、伝家の聖刀【禍斬・華】の柄に手をかけた。
「ええ。見逃す理由はありません。一人も逃がさず捕えましょう」
その意気込みに、『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が深く頷く。鉄帝の敵を厭うオリーブにとって、鉄帝の平和を乱す盗賊団などろくでもない連中の寄り合い所帯であり、虫唾が走る連中でしかない。それだけに、盗賊共は五十を超えるとは言え、一人として逃したくないところだ。
オリーブもまた、ロングソードの柄に手をかけて、待ち受ける戦闘に備える。
(どれだけ辛くても苦しくても、人から奪う、というのは……)
実際の所、彩世が盗賊団の頭になったのは、辛苦が理由ではない。が、それはさておいても『奏でる言の葉』柊木 涼花(p3p010038)としては、理由の如何を問わず盗賊団の所業を許すわけにはいかない。
(これ以上被害が出ないように、ここで止めないとですね――とはいえ、わたしにできることはいつでもどこでも変わりません。
今できる最高の支援を、音楽を戦場へ届けましょう!)
普段どおりに、全力で、涼花は味方を支えるのみだ。
「――恋は盲目というけれど」
聖職者風の姿の『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は、ぼそりとつぶやく。狂歌から彩世の話を聞かされたイーリンは、彩世がこのタイミングでラド・バウから姿をくらまして盗賊団の頭領となった理由を見透かしていた。
事あるごとに敵なり味方なりとして狂歌の前に姿を現すなど、どう考えても偶然にしては出来すぎた話だ。彩世は、意図してそうなるように動いているとしか思えない。となれば、その理由として挙げられるのは恋慕くらいのものである。もっとも、当人達がそれを認識しているかは定かではないが。
「夜襲に対して待ち伏せで応じるとは……一体どんな実力派だろうか。
狂歌殿の知り合いらしいが……これはこれは面白いことになってきたな!」
『六天回帰』皇 刺幻(p3p007840)は、しっかりとイレギュラーズ達に対する迎撃体勢を整えた彩世の手腕に胸を躍らせている。
「ならば、せっかくのデートだ、水を差されないようにしてやる……司書殿、奴らを固めてもらえるか?」
「そうね。夜の中に黙して語らうにはちょっと、人数が多いものね。手伝ってあげるわ――神がそれを望まれる」
「お姉さんも手伝いますよ。任せて下さい」
刺幻の言に、イーリンが、そして『力いっぱいウォークライ』蘭 彩華(p3p006927)が頷いた。
●再会、そして戦闘
(さて、何人釣れるか……みんな、どこから攻撃が飛んできたのか、よく見ていてくれよ)
先陣を切って、アトが駆ける。目指すは、周囲により盗賊が多くいて、その耳目を集められる位置だ。そこに着いたアトは、戦意を己の内に滾らせると、周囲の盗賊達を巻き込むように解き放っていく。アトの戦意に当てられた盗賊達の内、三人の粗忽者が樹の陰から飛び出し、他はクロスボウでアトを撃ってきた。アトはそれらの攻撃を、ひょいひょいと軽く回避していく。
(なかなか、統率が効いているみたいだね)
ただの盗賊なら三人どころではなく釣れていいはずだし、アトにはその手応えがあった。だが、それでも出てきたのが三人程度と言う結果が、彩世の統率の手腕の程を感じさせた。
「私の狙いは、あなた方なのです」
「ぐあああっ!?」
アトの周囲に集った三人に、彩華は鋼の雨を降らせた。降り注ぐ鋼によって傷を負わされた盗賊達は、その苦痛に情けない叫び声を上げる。傷口からはどくどくと血が流れ落ちており、盗賊達の追った傷の深さを伺わせた。
「――まずは一人、ですね」
「ぐうっ!」
盗賊達の注目がアトに集まっている間に、オリーブはクロスボウの射線から樹々に潜む盗賊の位置を推測し、その一人を急襲。ロングソードの白刃が二度奔ると、盗賊は力尽きてその場に崩れ落ちた。
「久しぶりだな、彩世。一応聞くが、投降する気はあるか?」
狂歌は彩世の元へと真っ先に駆け、そう問いかけた。
「……本当に久しぶりに逢ったのに、連れない問いをするもんだねぇ。
投降させたければ、それだけの力を見せてみたら如何だい? 狂歌チャン?」
彩世はガッカリしたような素振りで拒否し、狂歌を挑発する。もっとも、狂歌にとってこの反応は予想の範疇であった。一合も交えずに、彩世が投降などするはずはない。味方が体勢を整えるまでの、時間稼ぎだ。
「それも、そうだな……ところでお前、ラド・バウのB級闘士なんだってな。実は、俺もそうなんだよ。
だから、B級闘士修羅姫アヤセとその一党に、同じくB級闘士の不動狂歌とイレギュラーズが挑ませて貰う。
――勿論、受けてくれるよな?」
「まさか、同じB級闘士だったとはねぇ……いいさ、受けようじゃないのさ」
狂歌が斬馬刀・砕門を中段に構えて問うと、彩世は狂歌と対戦することがなかった不遇に嘆息し、そして太刀を抜いた。
「変則団体戦だから、一対一でなくても文句言うなよ!」
「どうせなら、一対一が良かったんだけどねぇ!」
彩世が太刀を抜いたのを確認すると、狂歌は頭、喉、鳩尾の三カ所を狙い突きかかる。それを読んでいたかのように回避する彩世だったが、ピッ、と頬、首筋、脇腹に傷が刻まれた。
彩世は歓喜を隠せないといった表情で、狂歌に反撃を試みる。だが。
「馬に蹴られる趣味はないんだけどね――割って入らせてもらうわよ」
「ちっ! 邪魔だよ!」
狂歌の盾になるように、イーリンが割って入る。苛立ちを露わにした彩世は次々とイーリンに斬りつけて傷を負わせたが、イーリンもまた手にした戦旗で都度彩世への反撃を行った。
「狂歌さん! 今助けにいくよ!」
そう声をあげてサクラは狂歌の方へと駆ける。だが、その目的は狂歌の救援ではなく、盗賊達への誘いだ。果たしてサクラの目論見どおり、これ以上頭領の戦いを邪魔されるわけにはいかないと、彩世の周囲に潜んでいた盗賊の一人が飛び出してサクラを足止めにかかる。だが、この盗賊はサクラに三度斬られて、敢えなく力尽きた。
(踊れ、我が幻……)
刺幻の、正確にはその幻もまた、狂歌の方へと駆けていた。これもまた、盗賊達を誘い出すための囮である。やはり刺幻の幻を止めようと盗賊の一人が飛び出してきたところで、樹の陰に潜んで様子を伺っていた刺幻が飛び出して急襲し、幾重にも斬りつけた。
(イーリンさん、頑張って下さい……!)
狂歌の盾となっているイーリンが彩世の攻撃に耐えきれるようにとの願いを込めながら、涼花は調和の力を癒やしの力へと転換し、歌声として放つ。その歌声を聞いたイーリンの傷は、全てとまではいかないもののある程度までは癒えた。
(助かるわ、涼花)
傷の痛みが幾分か和らぎ、身体に活力の戻ってきたイーリンは、内心で涼花に礼を述べた。
●盗賊団、壊滅
アトは、彩世から離れている場所にいる盗賊達の耳目を集め、その注意を自身に引き寄せていった。そのアトに攻撃する者がいれば、それが接近しての白兵によるものであれ、樹の陰からの射撃によるものであれ、オリーブと彩華によって倒された。
一方、彩世は狂歌の盾となっているイーリンを排除しようとするも、その傷を癒やす涼花によって倒しきれず、苛立ちの末に周囲の部下達にイーリンとそして涼花を排除するように指示した。サクラは名乗りを上げて愛刀の刀身を光らせ、少しでもイーリンや涼花への攻撃を減らそうとしたが、彩世の命令もあってか集められたのは半分ほどに留まった。残り半分による攻撃は、特に癒やしのために歌声を出している涼花に集中。涼花はイーリンではなく、自身を癒やさざるを得なくなる。そうなると、イーリンの傷が深くなるペースも速くなり、二人は可能性の力を費やす寸前まで追い込まれた。
しかし一方で刺幻と、イーリンに帯同してきたレイディ・ジョンソンが、彩世の周囲にいる盗賊達を倒してもいる。
「かかってくるなら、望むところだよ!」
自身に集ってきた盗賊達に、サクラはそう叫んだ。実際、イーリンや涼花がもう危ない以上、盗賊達の攻撃が集中してくるのはサクラにとって望ましい。
「はあああっ!」
「ぐああっ!」
サクラは裂帛の気迫を放ちながら、目の前の盗賊達を連続して突いていく。無数に見えるような刺突の一つ一つが盗賊達の身体に次々と突き刺さり、貫いていく。その苦痛と出血に耐えられなかった盗賊達は、バタバタと倒れ伏した。
「……今生最後だ、この月夜を噛み締めろ」
「うぐ、ぁっ……」
刺幻もまた、相手が対応しきれないほどの連続攻撃で、婆娑羅の刀身を次々と盗賊の身体を斬っていった。幾重もの傷を刻まれた盗賊は、刺幻の言うように最期の夜を噛みしめる間もなく、倒れ伏していく。
(どちらにしろ、次を受けたら倒れるのなら――!)
残る力を振り絞り、涼花は歌声を響かせて、イーリンの傷を癒やしにかかる。
「……ありがとう。あと一撃なら、何とかなりそうね。さぁ、かかっていらっしゃい?」
「舐められたもんだね……その程度の回復で、アタシを耐えきれると思っているのかい!?
いいさ、乗ってやるよ!」
涼花の癒やしを受けたイーリンは、未だ残る傷に息を荒げながらも、戦旗を杖代わりにして体勢を立て直す。そして、彩世に挑発を仕掛けた。既にイーリンへの苛立ちを抑えきれなくなっている彩世はその挑発に易々と乗り、イーリンへと突きかかる。
ギィン! イーリンの鳩尾を貫かんとした彩世の太刀は、瞬時に突き出されたイーリンの戦旗に弾かれ、脇腹を斬ったのみに終わった。一方、戦旗の先端は、彩世の鳩尾に深く突き刺さっている。
「隙ありだ! コイツを食らえ!」
狂歌は大上段に斬馬刀・砕門を振りかぶると、渾身の力を込めて振り下ろした。彩世は咄嗟に太刀を翳して受け止めようとする。だが。
パキィン! 斬馬刀・砕門は彩世の太刀を容易く折り、彩世の身体に縦に大きな傷を刻んだ。
「くっ……得物がなきゃ、話にならないねぇ! 今日の所は、負けておいてあげるよ。
お前達、盗賊団は今日で解散だよ。――後は、自力で逃げ延びな!」
イーリンを倒しきれなかった上に太刀を喪った彩世は、口惜しそうに吐き捨てながら敗北を認める。そして、盗賊達に団の解散を告げると煙幕弾を投げ、煙に紛れて逃げ去った。
だが、残る盗賊達の大半は逃げ切る事が出来なかった。
「逃がすものか! 最後まで、付き合ってもらうぞ!」
「今更になって、逃げられると思いますか? ここで退いても、後はありませんよ」
アトは滾らせた戦意を叩き付けて、彩華は口上を述べて、逃げようとする盗賊達をこの場に釘付けにせんとする。既に彩世が逃走し、団の解散も告げられているため、盗賊達は彩世の統率からは外れている。それ故に、盗賊達の大部分がアトに、あるいは彩華にと集っていった。こうなればもう、後はまとめて一掃されるだけである。
「あっ! 馬鹿!」
アトや彩華の方へと引き返していく仲間達に呆れながら逃走を続けようとした者もいたが、そのほとんどは逃げ切る事が出来なかった。
ドン。アトや彩華の方を向きながら走っていた盗賊の一人が、何かにぶつかった。それと同時に、一刀のもとに両断される。盗賊がぶつかったのはオリーブの身体で、盗賊が前に向き直った時にはオリーブのロングソードは下まで振り下ろされていたのだ。
「もうっ、鉄帝の皆のためのお仕事は手伝うって言ったけど。
私はラドバウの闘士なのよこれでもっ、ぷんぷんっ!」
「はいはい。それで、けっきょく何人なの?」
戦闘不能となった盗賊達を生死問わず集め、その数を数えていたレイディが、イーリンにぷりぷりと怒ってみせる。イーリンはそれを軽く受け流し、盗賊達の人数を尋ねた。
「四十六、ね」
レイディの答えを聞いたイレギュラーズ達は、取り逃がした盗賊がいたことは口惜しく思いつつも、依頼を達成できたことに胸を撫で下ろし互いに喜び合った。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍によって、サングロウブルク周辺を荒らしていた盗賊団は壊滅しました。
彩世については、今後また何かの依頼で狂歌さんの前に姿を現すことがあるかも知れません。
それでは、お疲れ様でした!
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。
今回は<総軍鏖殺>のシナリオをお贈りします。
サングロウブルク周辺の街や村を荒らして回る、『修羅姫アヤセ』が率いる盗賊団を壊滅させて下さい。
●成功条件
盗賊団員50名以上中40名以上の撃破・捕縛(生死不問)
※この中に彩世が含まれているかどうかは、成功条件には影響しません。
●失敗条件
森林火災の発生
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
森の中、彩世らが拠点としている廃屋の周辺。時間は深夜、天候は晴天。
周囲には木々が乱立しているため、近距離以遠の遠距離攻撃は敵との距離に応じて、命中率と基本の攻撃力にペナルティーがかかります。
このペナルティーは、敵との距離が開けば開くほど大きくなります。
また、深夜であるため暗視を可能とするスキルや装備を有していない場合、命中と回避にペナルティーを受けます。
それから、【火炎】系BSや【雷陣】を有していたり、そうでなくてもフレーバーで炎や雷撃を用いると判断される攻撃は、森林火災を発生させる可能性があります。特に範囲攻撃の場合、その危険性が大きく上昇します。ご注意下さい。
●初期配置
イレギュラーズの側は、一カ所に固まっていても散開していても構いません。
彩世や盗賊達は、森の中に散開して潜んでいます。
●華幡 彩世 ✕1
不動 狂歌さんの関係者です。
ラド・バウのB級闘士でしたが、新皇帝のバルナバスの勅令が発せられてから程なくして、行方を晦ませました。そして今では、盗賊団の頭領となっていますが、これはこの事態に乗じて暴れれば久しく遭っていなかった狂歌さんと遭えると踏んでのことです。
その他詳細については、こちらの設定委託『修羅姫アヤセ』(https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/4010)をご覧下さい。
能力はハイバランスと言った域でまとまっており、弱点となるような隙は見受けられません。
狂歌さんに執着しているので、【怒り】は無効となります。
・攻撃能力など
太刀 物至単 【出血】【流血】【失血】【連】
薙ぎ払い 物至範 【出血】【流血】【連】
飛翔閃 物遠単 【出血】【流血】【連】
剣閃を相手に飛ばす遠距離攻撃です。
追撃
闘気充填
太刀を闘気で満たし、攻撃の属性を物理攻撃から神秘攻撃に変更します。彩世の全ての攻撃に、これが適用されます。
BS緩和
優先標的:不動 狂歌
狂歌さんを優先して攻撃しようとします。ただし、絶対に狂歌さんが対象とされるとは限りません。
例えばタンクが狂歌さんを庇っているなどの場合は、タンクから排除しようとしたりもします。
【怒り】無効
●盗賊達 ✕およそ50以上
彩世が率いる盗賊団の盗賊達です。彩世からすれば道具でしかなく、それを察して下克上や逃亡を試みた者も少なくありませんが、ことごとく失敗して見せしめとされています。
能力傾向としては、攻撃力、生命力、防御技術が高く、回避は低めとなっています。
また、狂歌さんと彩世が1:1でやり合おうとするのを妨げようとする者は、マークやブロックで足止めしたり、攻撃を行って排除しようとしたりします。
それと、彩世の統率が効いているため、【怒り】は基本的に効きにくくなっています。
・攻撃能力など
剣 物至単 【出血】【流血】
薙ぎ払い 物至範 【出血】
クロスボウ 物遠単 【出血】
【怒り】耐性
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。
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