PandoraPartyProject

シナリオ詳細

退屈凌ぎのプレゼント

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●悪戯もできない
 ――嗚呼、退屈だ!
 深緑の森の中、妖精たちは退屈ここに極まれり、と言わんばかりにぐだっていた。
 眠りについていた深緑は目覚め、以前と同様の生活を取り戻している。だが、その際に起こった戦いの爪痕はまだ色濃い。犠牲があったのは自然だけ、という話でもない。
 ゆえに深緑の民の中には、気分を曇らせている者もいて。そんな者たちへ悪戯を仕掛けるのも面白くないものだから、退屈なのだ。
 ――どうにかして元気にならないかなあ。
 彼らと遊びたいのだと妖精はぼやく。けれど彼らとは友好的でもありたいから、落ち込んでいる時に悪戯をするのは躊躇われるのだ。
 ――ボク達が笑顔になるような悪戯を仕掛ければ良いんだ!
 名案、と言いたげに別の妖精が提案した。けれどそれは悪戯って言うのかなぁ、なんて言葉に黙り込む。
 悪戯っていうのは悪いことなのだ。面白いようにびっくりしてくれたりだとか、ちょっぴり怒られてしまうような、そんなこと。笑顔になっては悪戯ではない気がする。
 妖精たちは考えた。悪戯を考える時だってここまでは考えないというくらいに考えた。

 そうして一つの答えに至る。悪戯ではなく、プレゼントをしようと。


●至急、ローレット!
「どなたか、急ぎで深緑に向かえる方はいませんか!?」
 ローレットに『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の声が響く。メイ(p3p010703)は「緊急事態なのです!?」と勢いよく席を立った。
「この前せっかく落ち着いたばかりなのに」
「幸いなのは死人が出ないことなのです。でもでも、緊急事態でわちゃわちゃしてることには変わりないのです」
 炎堂 焔(p3p004727)に大変なのです、と言い募るユリーカ。彼女らの様子に『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)が気付き、どうしたと近寄る。
「深緑で一大事なのです。野菜が大暴れなのです!」
「……野菜?」
 虚をつかれる一同。それはまた、なんとも混沌らしい現象である。野菜でできた馬があちこちを駆け回ったりしているのだと聞いて、鬼桜 雪之丞(p3p002312)ははてと首を傾げた。
「精霊馬のようでございますね」
「ふむ? 他世界には野菜の馬がいるのか」
 興味深いな、とフレイムタン。しかしその精霊馬、一体誰が深緑へ呼び寄せた――あるいは再現させたのか。
「ひとまず、急いで深緑に向かってほしいのです。現地の人から話を聞くのが一番なのです!」
 人を集め、地図やら必要なものを持たされて、行ってらっしゃいと送り出されたイレギュラーズたち。地図に示された場所まで穏やかな森の中を歩くことになるようだ。
「この畑、この前焼けちゃったんだね」
「ああ。場所を移したらしいな」
 春頃から長く眠りについていたのだから、元々大した植物もなかっただろう。しかし新たに畑を耕すのも一苦労だったはずだ。 
 まだ深緑には冠位魔種と戦った折の傷痕が残る。ちらちらと見えるそれらを横目に、イレギュラーズはくだんの畑へ――着く前に、それは起こった。
「……なにか、近づいてきてない?」
「我は今のところなにも聞こえないが」
「拙も、そうですね」
 焔の言葉に顔を見合わせるフレイムタンと雪之丞。メイがぴこぴこと耳を震わせて。
「メイも聞こえたのです!」
 あっち、と指差した先を視線で追えば、木々の先から何かが。何か。なんだ?
 それは存外勢いが良いようで、あっという間に近づいてくる。その正体に気づいた一同はぎょっと目を見開いた。
「大きくない!?」
「まさに精霊馬……にしては、ええ、大きいですが」
「乗れそうなのです。その前に轢かれそうなのです!?」
 慌てて左右に避けるイレギュラーズ。その間を勢いよく精霊馬らしきものが通過していく。
「……あんなものが、もっといるのか?」
 通り過ぎたそれの背を見ながら、フレイムタンはポツリと呟いた。

 ――改めて、くだんの畑にたどり着いたイレギュラーズ。
 畑には青々とした夏野菜が実り、周囲を普通の馬サイズである精霊馬が駆け回っている。畑の野菜を踏み潰すことは無さそうだが、人は踏み潰しかねない。
「イレギュラーズか!」
「助かったわ」
 見れば、この状況をどうにかしようとしたらしい幻想種たちの姿がある。もっとも、1,2人程度では無理があろうという数の精霊馬なのだが。
「これは一体どういう状況なのです?」
「見たままだよ。朝来たら野菜は実ってるし、周囲をあの野菜の馬が走り回っているし……」
「そういえば、この辺りによくいる妖精の姿が見えないの。あの馬に踏み潰されていないと良いのだけれど」
 妖精と聞いて、雪之丞は何か引っかかるものがあった。妖精と、精霊馬。何かあったような。なんだっけ?

 まさか自分の教えた精霊馬を妖精がマネたなどとは梅雨知らず。雪之丞は仲間達と共に、事態の収拾へ繰り出すのだった。

GMコメント

 こんなに大きな精霊馬があってたまるかって感じなんですけど。混沌なので。はい。
 リクエストありがとうございます。精霊馬を落ち着かせたら、あとは一緒に遊ぶなり乗せてもらうなり自由です!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。不明点はありません。

●フィールド
 深緑の一角にある畑。ファルカウからほどほどの距離に存在しており、そこそこ広いです。天気は快晴。心地よい風が吹いています。
 周囲は木々に囲まれています。こちらは少し足場が悪いです。

●精霊馬×たくさん!
 本来ならお盆に用意されるもので、死者を迎え、送り出すための乗り物と言われています。
 妖精たちは弔いの意を示したかったのかもしれませんが、大きさまでは聞いていなかったので人のサイズなのだろうとこうなりました。
 妖精に作られた精霊馬はお茶目だったり、ヤンチャだったりと個々に性格が違うようです。また、人を乗せるものとして作られているので人にはフレンドリーです。友情の示し方は割と物理的なので痛いです。
 大人しくさせれば背中に乗せてもくれるでしょう。そのまま連れて行かれたりはしませんのでご安心ください。
 妖精の魔法が解けたらただの野菜に戻ります。

●畑の野菜×いっぱい!
 妖精の魔法による副産物で、想定よりもずっと早く、美味しそうな野菜が実りました。
 放置しているとランダムに巨大化して、足をはやして精霊馬になります。ツルはそのうち引きちぎります。
 普通に野菜を収穫しても良いですし、精霊馬になる直前でツルを切って巨大野菜を収穫するのもありでしょう。精霊馬を増やしたい場合は放置して、精霊馬になってから落ち着かせればOKです。
 なお、幻想種に言えば料理も可能ではあります。炎はご法度なので使えませんが、熱を発する魔石で加熱処理は可能です。

●NPC
 『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)
 精霊種の青年。炎は今回使いません。
 精霊馬を宥めます。プレイングで指定がなければリプレイにはほぼ登場しません。

 幻想種×2
 この畑を管理する幻想種たち。
 いそいそ野菜を収穫しているので、任せておけばそこまで精霊馬は増えません。プレイングで指定がなければリプレイにはほぼ登場しません。

●ご挨拶
 愁です。お待たせいたしました。
 当シナリオは難易度Easy相当のお遊び系シナリオになります。楽しく精霊馬と戯れて頂ければ幸いです。
 どうぞよろしくお願いいたします。

  • 退屈凌ぎのプレゼント完了
  • GM名
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年10月02日 22時05分
  • 参加人数6/8人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
※参加確定済み※
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
※参加確定済み※
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
温もりと約束
暁 無黒(p3p009772)
No.696
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと
※参加確定済み※

リプレイ


「ほぁぁぁぁぁぁ……」
 『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)はぽかんと口を開ける。到着する前から精霊馬(?)の突進をくらいかけたりしたものだが、畑の為にと拓かれた土地はそれ以上である。
「うわあああああ!!!!」
 ここを管理しているらしい幻想種の男性が、精霊馬に捕まったまま走り回られている。かと思えば急ブレーキを踏んだ精霊馬によって前のめりになり、どうにかしがみついていられた幻想種はずるずると地面へ座り込んだ。ちなみに精霊馬はしがみつくものがなくなって満足したのかまた走り始めた。
「深緑なら、野菜も成長すれば走り回るのかしら」
「え、そんな事無いと思うけど」
 呟いた『天啓』エンヴィ=グレノール(p3p000051)に『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が頤へ手を当てる。そんな話は聞いたことがない。
「あれはお盆に死者が帰ってくる時の乗り物なのですよ」
「……アレ、で?」
 メイの言葉にエンヴィは精霊馬を三度見してから問うた。いや、もう一度見た。一応本当である。恐らく皆の記憶にあるものとは大分異なるだろうが。
(……いえ、大丈夫よ。今まで色んなサメとも渡り合ってきたのだから)
 今更こんなもので驚いたりはしない。本当に。本当だよ?
「これは確かに人手がいりますね。まさか野菜の馬が走り回っているとは」
「あんな元気に駆けまわっていたら、お盆に帰って来た死者もびっくりなのです!」
 『千紫万考』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)の言葉にうんうんと力強く頷けば『白秘夜叉』鬼桜 雪之丞(p3p002312)がその言葉にくすりと笑う。
「ふふ、メイさんの言う通りですね。よく覚えていましたね?」
「雪之丞ねーさまに教えてもらったことですから!」
 ふんす、と自慢げなメイ。でもさあ、と焔が首を傾げた。
「精霊馬ってこんなのだっけ?」
「まあ……うーん……精霊馬、じゃないっすかね……」
 どこか遠い目をした『No.696』暁 無黒(p3p009772)が呟く。まさかこの混沌で精霊馬を見ることがあるとは思わなかったし、こんな形で拝むことになったのも想定外である。そもそもこの大きさで動かれたら普通に危ないんだが??
「ま、まぁあの大きさの馬、あ、いや野菜!?!? え? 馬って言った方がいいんすかね!?」
「馬なのです!」
「走る野菜……?」
 メイとエンヴィがぱちりと目を合わせる。正直どっちでも変わらん。

「――と、とにかく! 危ないからさっさと対処するっすよ!!」

 というわけで、畑へ乗り出したイレギュラーズたち。季節外れにも艶の良い野菜たちが畑へ実っている。これらを無惨に踏み潰させるわけにもいくまい!
「こっちっすよー! 集合ー!!!!」
 無黒の叫び声にギュルンッと精霊馬たちが振り向き、全速力で向かっていく。その勢いと圧力たるや――無黒は思わずひぇ、と顔を引きつらせる。
(いいや、ここは格好良い姿を見せる時っす!!)
 男が危険に背を向けてなんとすると、無黒は軽い身のこなしで跳躍し、1頭の精霊馬に飛び乗った。精霊馬は驚いたかいななきを――上げる声帯がないのだが、勢いよく上半身を起こす。あわや転落しかける無黒に雪之丞が声を上げた。
「無黒様!」
「……っと、大丈夫っす! 雪之丞さんはそっちの馬……野菜? を頼んだっすよ!」
 しがみついて事なきを得た無黒の言葉に頷き、雪之丞が別の精霊馬へ向かっていく。それを横目に無黒は――思いっきり精霊馬を撫で始めた。
「よ~しよしよしよしよしカワイイですね~! ほ~らほらほら怖くないですよおおおおおおおお!?!?!?」
 そのまま撫でて宥める魂胆であったが、精霊馬が走り出したことで後ろへ転げそうになる。が、猛獣使いとしてここは退けない。
「落ち着くっすよ~怖くないですからね~~!!」
 森の中を駆けていく精霊馬に諦めることなく声をかけ、宥める無黒。その身が葉っぱでまみれた頃に、ようやく精霊馬はゆっくりと止まった。
「いい子ですね~! 気持ちいのはここですか~?」
 すっかり無黒の手の虜である。大人しくなった精霊馬の元へ、別の精霊馬に乗った雪之丞がゆっくりと近づいてきた。あちらは元よりゆっくりと動く精霊馬であるために、宥めるのもそう難しくなかったようだ。
「すごいですね。随分とヤンチャに見えましたけれど」
「はは、ご覧のとおりっす」
 よく見れば服も枝に引っ掛けたか小さく破れているし、ぶんぶんと頭を振ったなら葉がはらりと落ちてくる。きっと髪もぐしゃぐしゃだろう。あとで綺麗にしなければ。
「2人とも、ここにいたか」
「フレイムタン様」
 畑はこっちだぞと手を振るフレイムタンに頷き、2人と精霊馬2頭は元来た道を引き返す。随分突き進んでしまったらしい。
「こいつは一か所に誘導しておくっすかね?」
「それでも良いですし、走っていった精霊馬を追いかけるにも、手伝ってもらえそうですね」
 何せ――まだまだ、皆の苦戦する声が聞こえるので。
「そっち行ったよー!」
「ま、待つのです!!」
「どこか行くつもりよ!」
 わいわいと精霊馬を追い掛けるイレギュラーズ。中でもメイが追い上げながら、すぅと息を吸い込む。
「とまるですよー! 落ち着いてくれたら沢山身体をよしよししてあげるです!!」
 話が通じるのかはわからないが、無黒が沢山撫でながら森へ運ばれる姿を見た。もしかしたら撫でれば止まるのかもしれないとメイは精霊馬へ向かって叫ぶ。
 と、精霊馬が急ブレーキをかけて止まり、ゆっくりとメイへ向かって振り返る。これは撫でれば良いのだろうかとフレイムタンを見上げれば、彼は背中を押すように首肯した。
(厳密には野菜? なんでしょうけれど……行動は馬とか、そういう動物ですね)
 ジョシュアは蹴られないように、横から近づいて声をかける。幸いにして気性の穏やかそうな馬……馬? は、ジョシュアにされるがまま、首のあたりを撫でられご機嫌そうであった。もちろん、表情などはわからないが。
「いいわね……気性の荒くない馬にあたって……」
 エンヴィはそれを横目に、じとりと自由に駆けまわる精霊場を見やる。あれでは怖がらせないように近づくことはおろか、撫でることだって難しいではないか!
 仕方がないとエンヴィは地を蹴り、ふわりと空を舞う。そして精霊場へ一直線に滑空し、野菜の首――野菜の首がどのあたりはは大体の判断で――にしがみついた。
「皆さん、繋ぐ場所を用意しました!」
「ありがとう! そっちに連れていくね!」
 幻想種の女性が大きく手を振って、焔は今しがた大人しくさせた精霊馬を誘導する。多少溌溂としすぎた馬もいるようだが、これならまもなく騒動も落ち着くだろう。
(……ん? でも、精霊馬って元々は――)
 同じ疑問が無黒にも生じたのだろう。2人は同時に畑を見て、ぎょっと目を見開く。
「えっちょっ」
「大きくない!?」
 むくむくと育つ野菜たちは、最早市場に出る大きさを超えている。なるほどこれが精霊馬の元の姿か。
「どうしよう、動き出す前に収穫しちゃえば大丈夫かな!?」
「大丈夫……かはわかりませんけど! まずは元を絶つ!!」
 目にも留まらぬスピードで野菜を狩りだした無黒に続き、焔も蔓をしっかりと切っていく。この際だ、大きくなる前に良さげな野菜は収穫してしまおう!
 そうして畑に転がるだけになった野菜を雪之丞と幻想種たちが拾い集め、籠へと入れる。雪之丞は美味しそうに育った茄子を手にして、ふと頭の中で線が繋がった。
(……そのような話をしたこともありましたね)
 すっかり忘れていたが、それならばきっとあの妖精たちが仕掛けたことなのだろう。たまたま野菜がそこにあったからか、はたまた別の理由かはわからないが。
「わ、なんですか!?」
「撫でてもらいたいか……或いは。遊んで欲しいのではないか?」
 視線を上げれば、ジョシュアがぐりぐりと精霊馬に押されている。フレイムタンの言葉に彼が体を撫でてやれば、精霊馬はぴょんぴょんと跳ねて随分とご機嫌そうだ。
(あちらも、もう終わりそうですね)
 穏やかな風が吹き抜けていく。一通り回収が終わったら――さて。この野菜たちをどうしようか?



「もう暴れてる子はいなくなったね!」
 ぐるりと焔が辺りを見まわすが、畑は至って平穏だ。幻想種たちが用意した蔦のロープで繋がれた精霊馬たちは至って大人しい。
「折角ですから、この野菜は調理してしまいましょう。良いですか?」
「ええ、もちろん!」
 調理場はこちらだと案内してくれる幻想種の女性に続くイレギュラーズ。けれど焔はくるりと畑を振り返った。
(この辺りに居るっていう妖精さん、まだ見つかってないんだよね……)
 無事なのだろうか? 怪我をしていないことが解れば安心できるのだが。
「妖精さーん! いたらお返事してー!!」

 静寂。

 いないかと焔は肩を落とす。あとは無事であることを祈るしかできない。
 けれどジョシュアは先ほど雪之丞から聞いた話から、視線を木々の間から岩陰まで向けてみた。きっと妖精たちの事だから、悪気はないのだろう。けれどこの騒動を見たら――怒られると思って隠れているかもしれない。
(副産物で立派な野菜が採れたのですから、大目に見てあげるつもりですけれど)
「……良い野菜が採れたので、美味しいご飯の出るパーティが開けそうですね。楽しみです」
 さわりと風が動いた気がしたけれど、気にしない。これはただの独白なのだから。

「エプロンもばっちりです!」
 手を洗って、エプロンをしたメイがふんすと気合を入れる。準備万端だ。
「大きなお野菜が多いですから、食べられない皮部分を食器代わりにしても良さそうです」
「! それはステキなのです!」
 雪之丞が籠から取り出した野菜は縦半分に割ったなら、丁度1人用の食器となりそうだ。大きさはまちまちで、それ以上もそれ以下もあるが、ここにいるメンバーの食器くらいは賄えるだろう。
「貴殿は料理ができるのか」
「ちょびっとですけれど、エンヴィおねーさまのお手伝いしてるです!」
 ふふんと得意げにフレイムタンへ語るメイ。同じ宿舎に住まう者として、エンヴィとは一緒に料理をする仲なのである。
「ボクもお手伝いするよ!」
「ええ、ぜひお願いします」
 はいはい、と焔が手を上げる。自分も混沌へ召喚されてからは自炊している身だ、採れたての新鮮な野菜を使ったならとても美味しい料理が出来るだろう。
「美味しいカレーにしましょうね」
「うん! あ、フレイムタンくんも手伝ってよ!」
 エンヴィに頷いた焔の視線に、フレイムタンがきょとんと目を瞬かせる。曰く、そこまで料理をしたことがないと。焔は教えてあげるから任せて、と胸を叩いた。
「火は厳禁なのでしたっけ」
「そうですね。けれど、鍋や鉄板を温めれば色々できそうです」
 加熱の為の魔石があるというから、生でしか食べられないということはないはずだ。エンヴィはその答えに頷くと、要領よく野菜を切り始めた。
 作るのは夏野菜たっぷりのカレー。切り終わったあたりでメイは甘口が良いのだったか、と思い出す。
「皆で食べられるように、味を変えて作りましょうか」
「甘口も作るですか!?」
「はい」
 やったあ、と喜ぶメイ。そんな姿に小さく笑いながら、エンヴィは3つの鍋に切り分けた野菜を移した。辛口、中辛、甘口の3種類を作って、盛り付けの際に各々の好みに合わせて混ぜるのも良いだろう。全てを少しずつ食べ比べるのだって悪くない。
「お? 凄い良い匂いが……カレーっすね!?」
 外で保管用の野菜を幻想種の男性と運んでいた無黒は、早速香ってきた匂いに目を輝かせる。それに、お米の炊ける匂いも混ざって――これはお腹が空く!
「雪之丞ねーさま、これで良いですか?」
「はい。カレーを食べる頃には美味しくなっていますよ」
 雪之丞と共に浅漬けを作ったメイは、楽しみだと言うように目の前の容器を穴が開くほど見つめた。もちろん、見つめたから何が起きるということもないのだけれど。
「それでは、拙はデザートにチャレンジしてみましょう」
「それじゃあメイは……あ、ジョシュアにーさま! 一緒にサラダを作りませんか?」
「はい、手伝わせて頂きますよ」
 ジョシュアとメイは野菜をきったり千切ったりして、あっという間にサラダが出来上がる。これなら一部をサンドイッチにしても良いだろう。

 イレギュラーズは木の切り株をテーブル代わりに、カレーやサラダ、浅漬けなどを並べていく。まだまだお代わりも残っているから、存分に食べられそうだ。
「美味しそうに出来て良かったわ」
「ええ、本当に」
「それは? ボクたちのより小さいけれど」
 エンヴィの言葉に頷いた雪之丞の手元。焔は小さな器を見て首を傾げる。雪之丞はにこりと笑うと、森の方へ向かって「一緒に食べませんか?」と問いかけた。沈黙が暫し――しかし、ぴょこんと小さな頭が3つ、岩場の陰から出てくる。叱られる前の子供のような顔に、エンヴィは小さく肩をすくめた。
「そんな場所にいないで、こちらへ来たら? けれど、悪戯はほどほどに、ね」
「悪戯もいいですが、美味しいご飯もお好きでしょう? ちゃんと元気になって欲しいという思いは伝わりましたよ」
 あの精霊馬たちが危害を加えないことは、最早誰もがわかっている。それにそのおかげでこのカレーが出来たと言っても過言でないだろう。
「……いいの?」
「ええ。一緒に、楽しみましょうか」
 イレギュラーズと、幻想種と、妖精。大所帯になったものだからぎゅうぎゅうとくっつきあって、賑やかに料理をつまむ。
(来た時はどうなるかと思いましたが、良かった)
 笑い合えるひと時になったのなら――終わりよければ全て良し、ではないけれど。ジョシュアは皆の楽しそうな表情に、ふと口元を緩めたのだった。

成否

成功

MVP

暁 無黒(p3p009772)
No.696

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 大勢で食べるカレーは良いものですね。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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