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シナリオ詳細

再現性東京202X:エリザベスのゲーム。或いは、地下施設の攻略…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●地獄薔薇園
 再現性東京。
 どこか静かな、暗い部屋。
(なんっすか? ここ?)
 まるでホームシアターのように、ずらりと並んだ幾つもの長椅子。
 正面には大きな画面。現在は何も映されていない。
 イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)の視界には、幾つかの人の姿がある。
 微かに聞こえるクラシックと鼻腔を擽る薔薇の香りが、どことなく悪趣味な印象を与える。
(声が出せない……猿轡? 手足も拘束されているっすね)
 体が動かせない。
 身動きの1つも出来ない。
 頭の奥がぼんやりとする。思考が鈍い。薬でも投与されて、意識の無いうちにこのシアターへ運び込まれたのだろう。
 命を奪うつもりなら容易に出来たはずだ。
 それをしないということは、何かしら別の目的があるのだろう。
(目が覚めたってことは、他の人たちもそろそろ……と、なると)
 視線をモニターへと向ける。
 これから起こる何かしらを、決して見逃さないために。

 どれぐらいの時間が経っただろうか。
 暗い部屋では、時間の経過さえ曖昧だ。
『おはよう。よく眠れたかしら?』
 ノイズ混じりの声が聞こえる。
 モニターに映ったのは、真白い仮面で顔を隠したドレス姿の女であった。
『お初にお目にかかります。私の名前はエリザベス。今、皆さまのいる“アイアン・メイデン”の管理人だと思ってくれればよろしいわ』
 そう言ってモニターの中のエリザベスは、ガラスの小瓶と注射針を取り出した。
『これが何かはお分かりかしら? 分からない? 分からないわよね? 分かるのなら、お返事をくれるはずですものね?』
 口元を手で隠して、エリザベスはくすくすと笑う。
(喋れなくしておいて返事が無いとはよく言ったものっすね)
 もごもごと猿轡を噛みながら、イフタフは呻き声を零した。
 エリザベスとて、イフタフたちの置かれた状態を理解しているはずだ。そのうえで「返事が無い」と口にするのは、つまりイフタフたちを揶揄っているということだろう。
『もしかしたら予想出来た方もいるかもしれないわ。これは毒よ。致死性の毒薬。どれぐらいで死に至るかは秘密ですけれどね』
 次にエリザベスは、シアターの両脇にある出入口に灯を灯す。
 赤い薔薇の花で飾り立てられた、酷く悪趣味な薔薇だ。
(薔薇の香りの原因はあれっすか。この感じ……長く吸うとまずいっすね。【恍惚】【魅了】っすかね?)
 状況が良くない、とイフタフは思う。
 シアター内に光源が増えたことにより、同じように捕らわれている者たちの顔も一部が見て取れるようになった。どうやら、イフタフをはじめローレット所属の者が何名も囚われている。
 例えば、イレギュラーズであれば件の毒にも耐えきれるかもしれない。
 しかし【恍惚】【魅了】はまずい。
 イフタフをはじめ一般人が、イレギュラーズの攻撃を受けてはきっと酷い結果に至る。
(早々にこの部屋を抜け出して……いや、進んだ先にも薔薇はきっとあるかもっす)
 対策は可能か?
 そもそもルートが2つあるのはどういうことだ?
 脳を回転させながら、イフタフは意識をエリザベスへと集中させた。

●脱出開始
「さて、状況を整理するっすよ。ここにいるのは全部で11名……そして、まず初めに選べるルートは2つっす」
 口元をハンカチで覆いながら、イフタフは状況の整理に移る。
 すでにイフタフは自己紹介を終えている。
 数えたところローレット所属で無いのは、たったの2人だけである。
 1人は“衛福 久子”と名乗る線の細い女性。
 もう1人は“藤村 かすみ”と名乗る若い女だ。
「片方のルートは8人まで、もう片方のルートは3人までしか入れないとか」
 つまり否応も無く、序盤でチームが2分割されるということだ。
 なお、エリザベスの説明によればどちらのルートにも【流血】【滂沱】【痺れ】【懊悩】の効果を備えた罠が仕掛けられているという。
「罠が幾つあるかは不明っすけど、誰かを犠牲にすることで回避できるようになってるそうっすね。人数が人数ですし、多くて5~6回程度だとは思うっすけど」
 全員に配られた薄型の端末による匿名性の投票システム。
 それにより、犠牲者を選ぶことになる。
「どちらのルートにも【解毒薬】があるそうなので、まずはそれの奪取を目指すのがいいっすね」
 解毒薬を手に入れなければ、例え“アイアン・メイデン”を脱出しても、遠くないうちに死に至る。死を回避するためには、解毒薬の回収が不可欠だ。
「片方のルートはまっすぐ地上に。もう片方のルートはエリザベスのいる観賞室に繋がっていると……そして、問題なのが」
 チラ、とイフタフは視線を久子とかすみへ向けた。
 スーツ姿の久子は、web制作会社の社長だそうだ。ミーティング開始からこれまで、彼女は一言さえも口を開いていないが、冷や汗を垂らしながら落ち着かない様子を隠そうともしない。
 一方、もう1人……かすみはと言えば、どこかぼんやりとした様子で黙って話を聞いている。自分の生き死にに興味が無いのか、それとも既に生きることを諦めているのか。聞けばいいところのお嬢様だそうなので、未だに誰かが助けに来てくれると思っている可能性もある。
「この中の誰かが、エリザベスの協力者だとか……さて」
 どうやって脱出しましょうか?
 左右の通路へ両手の人差し指を向け、イフタフはそう問いかける。

GMコメント

●ミッション
“アイアン・メイデン”からの脱出

●ターゲット
・エリザベス
ドレスに白い仮面を被った、今回の事態の主催者。
“アイアン・メイデン”に人を閉じ込め、生死を賭けたゲームを開催しているらしい。
現在は“アイアン・メイデン”のどこかでゲームを鑑賞しているとか。

●同行者
・イフタフ・ヤー・シムシム
ローレットの情報屋。
どうやら他のイレギュラーズもろとも、何らかの任務の途中で誘拐されたらしい。
体力が無く、運動神経も良いとは言えない。

・衛福 久子
線の細い女性。
web制作会社社長。
口数は少ないが、落ち着かない様子を隠せていない。

・藤村 かすみ
どこかぼんやりとした様子の女子高生。
いいところのお嬢様らしい。
あまり脱出に積極的では無さそうに見える。

●フィールド
再現性東京。どこかの地下らしき場所。通称“アイアン・メイデン”。
スタート地点はホームシアターのような場所。
8人まで通れるルートAと、3人まで通れるルートBの2つが確認されている。
どちらのルートにも【流血】【滂沱】【痺れ】【懊悩】の効果を備えた罠が仕掛けられている。
ルートの罠は投票により誰かを犠牲にすることで回避できる。
※犠牲者が命を失う結果にはならないようだが、相応に大きなダメージを受けることになるだろう。
片方のルートは地上へ、もう片方のルートはエリザベスの鑑賞室へ通じている。
どちらのルートに進んでも【解毒薬】は回収できる。
周囲は【恍惚】【魅了】を付与する薔薇の香りで満たされている。

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 再現性東京202X:エリザベスのゲーム。或いは、地下施設の攻略…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール

サポートNPC一覧(1人)

イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)

リプレイ

●骨の砕ける音がした。
 パキ、ポキ……バキ、と断続的に。
 強い力で、ゆっくり丁寧に圧をかけられつづけたことにより、骨の幾つかが折れたのだ。しかし、それは決して死に至るほどの大怪我では無く……ゆっくりと身体を壊されていく美少年の姿を見て、衛福 久子は嘔吐した。

 時刻は少し遡る。
 暗い通路の真ん中に、これ見よがしに檻がある。
 檻の中に設置された電子パネルには「1/1」という数日が表示されていた。
「くそっ! 離せ! 貴様ら、さては結託していやがったな! 誰だ! 誰がこの悪趣味なゲームの主催者だ!? ウィルド、キミか? あぁ、あぁ、いかにも悪役らしい顔をしているものな!!」
 悪態を吐く青髪の美少年……『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)が、巨漢の手により檻の中へと投げ込まれた。いかにも“愉快だ”と言った風な顔をして、巨漢……『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)が肩を竦める。
「言いがかりはよしてほしいですね。生贄役は投票によって決めたじゃないですか? そして、投票の結果、あなたが選ばれた。それをこの期に及んで騒ぎ立てるだなんて……まったく、美しいのは見た目だけで、性根の方はなんと醜い」
 ガチャン、と音を立てて檻が閉まった。
 それと同時に、壁の奥から低い振動。天井がゆっくりと降りてきているのだ。檻に囚われたセレマを残し、全員が数歩、後ろへ下がる。
 じわじわと下がり続ける天井に押され、セレマが地面に這いつくばった。
 それでも、天井はゆっくりと、一定の速度で降下を続ける。
 床と天井に挟まれて、ミシと骨の軋む音。
 負荷に耐えかねたのだろう。セレマの目や鼻、口の端から血が流れる。
「っ! おい、冗談だろう! 潰れる! 潰れてしまう! おい、誰か! ここを開……」
 ……パキ。
 骨の砕ける音がした。
 それと同時に電子パネルの数字が1から0へと変わる。

 落とし天井の罠を超え、一行は通路を奥へと進む。
「ちょっとニオイきついっす」
 コツン、と『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)は床を爪先で蹴り飛ばす。埃塗れの床に残った足跡からは、ほのかな林檎の香りが散った。
 元々、廊下に充満していた薔薇の香りが、それで少しだけ薄くなる。
「この中にエリザベスの協力者が紛れているとして……自分自身も影響を受ける薔薇の香りですか。一部のヒトとは、時にリスクを負ってもそういったことをするとは学びましたが」
 『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)はそう呟いて、自身の首に手を触れる。
 白い首には、ごく小さな注射痕。仕掛け人であるエリザベスによって、毒を投与された痕跡である。

 先頭を進む『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)が、大部屋の前で足を止めた。
「うーん、油断しちゃったなぁ……やっぱ鈍ってんのかね、アタシ?」
 一見すると、物の1つも無い空の部屋だ。
 しかし、部屋の奥には先にも見た電子パネルが設置されている。パネルの数字は「4/4」。それを見てイフタフが首を傾げた。
「これは、罠の機動回数を指しているんっすかね?」
「全員で入ったら、全員で4回、罠に襲われる……と?」
 グリーフの問いに、イフタフは無言で首肯した。
「1人を犠牲に突っ込ませれば、罠にかかるのはそいつだけってことね」
 性格が悪い、と呟いて京は視線を背後へ向けた。
 最後尾を歩くのは、顔色の悪い久子と、血塗れのまま壁にもたれて進むセレマだ。この部屋でもセレマを犠牲に差し出せば、残る7人は無傷のまま先に進める。
「消耗を減らそうと思えば、1人ずつ犠牲にしていくのが最適解っすかね? 付いて来られなくなったら、その場に放置していくとか……そんな感じで」
「イフタフさんは、けっこう落ち着いてるっスね。ま、まさか……イフタフさん? ……なわけないっすよね?」
 驚愕、といった顔をしてレッドはイフタフから距離を取った。
 
 久子の顔色が悪い。
 先に進んだ6人と、後ろを付いて来るセレマの様子を何度も見比べ、怯えたように体を縮込ませているのだ。
「久子くん、歩けるかな。なんなら会長がおんぶしてあげるけど」
 怯える久子を見かねてか。
 穏やかな調子で『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)がそう言った。
 切羽詰まった状況だと言うのに、彼女は平然としている。まるで晴れた日に散歩でもしているかのような顔で、態度で。
 それが久子にはひどく不気味に感じられた。

 ポタリ、と。
 床に血が落ちた。
 きつく拳を握りしめ『金色凛然』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は唇を噛んだ。
(……出来ることならマリアが代わりたい、が)
 薄い唇に血が滲む。
 視線の先には、天井に押しつぶされる『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)の姿があった。
「大丈夫……ここはママにお任せなのだわよ!」
 鼻から零れる血を拭い、華蓮は気丈にも笑ってみせた。
 痛くないはずがない。
 辛くないはずがない。
 本当なら、笑っていられるはずがないのだ。
(……信じよう。マリアのままは、強い、決して挫けない、と)
 噛み締めた唇が切れた。
 華蓮に気付かれないように、エクスマリアは唇を濡らす血を拭う。それから視線を隣へ移した。どこかぼうっとした様子で、華蓮を見ている少女が1人……名を藤村 かすみという。エリザベスに攫われたうちの1人だが、今一なにを考えているのか分からない。
(向こうのグループは1つ目の罠を抜けたか)
 天井の罠が停止した。
 床に倒れた華蓮へと、エクスマリアが駆け寄っていく。

●悪趣味なゲーム
「それじゃあ、2回目の投票を始めるっすよ。えぇっと、久子さんは除くとして……次はグリーフさんやレッドさんっすかね?」
 2つ目の部屋を目の前に、イフタフがそう切り出した。
 イフタフを中心に半円を描くのが6人。
 久子は数歩離れた位置に、セレマは壁に背を預けて座り込んでいる。
「そうね。久子さんを守る事に不満はないわ。強いアタシが矢面に立った方が良いに決まってる」
「っすね。さっさと決めて、早く解毒薬取りに行っちゃおうっす! はやくはやくっす!」
 イフタフの提案に、京とレッドが同意を示す。
 早速とばかりに2人はポケットから、支給された端末を取り出した。犠牲者を選ぶための投票用の端末だ。
「では、ここは私が」
 罠にかかるため、名乗り出たのはグリーフだった。
 多少のトラップであれば、グリーフなら大きな負傷も無く耐えきれる。
「馬鹿か情報屋?」
 けれど、セレマがストップをかけた。
「……この全員を攫える実力、お前と一般人を攫う用意の良さを加味し、容疑者は消去法的にイレギュラーズだろうが。お前が一般人を庇って“お願いします”といえば、ボクたちが仕方ねえと言ってそれを飲むと考えると踏んだんだろう」
 先の罠で傷を負ったセレマだが、命を失うほどではない。
 痛みに喘ぎながらも、憎悪の籠った視線で一行を睨みつける。
「はぁ、またそれですか? 端っから疑ってかかっていては、エリザベスの思う壺だと出立前に話し合ったでしょう? もう忘れてしまったんですか? それとも、そうやって仲違いをさせるのが狙いだったりします?」
 笑顔を崩さないままに、ウィルドは肩を竦めてみせた。まるでセレマを嘲笑するかのような仕草だ。
 それからウィルドは、首を回して順番に全員の顔を眺める。
「で、誰がこの悪趣味なゲームの主催者だ? いい手腕だな褒めてやるよ。さっさと名乗り出ろ」
 ウィルドの問いを無視したセレマが、強い口調でそう問うた。
「はぁ……これ以上ゴタゴタ言ったらその細面蹴り潰すぞ」
 苛立ったように京が言って、これ見よがしに溜め息を零す。
 その隣では、ウィルドが無言で端末を操作した。
「話になりませんね。ここから先も同じようなやり取りを繰り返したくないですから……まぁ、人助けだとでも思って」
 ウィルドは、セレマに投票したのだ。
 次いで、京とレッド、イフタフが続けざまにセレマへと1票を投じる。
「まだ先は長いんだから、仲違いしても仕方ないよね」
 仕方ないな、と呆れた風に茄子子もセレマへ票を入れた。これで5人。多数決でセレマの犠牲が決定した。
「あ……え、えぇ、そうね。な、仲良くしなくちゃ。茄子子ちゃんの言う通りよね」
 震える声で久子は言った。
 投票先は当然セレマだ。
 決定票となる5人目を茄子子が担ったことにより、セレマへの投票に抵抗がなくなったのだろう。
 
 都合4回。
 床から突き出す槍に刺されて、セレマが床に倒れ伏す。
「……失血性のショック死です」
 セレマの遺体に寄り添って、グリーフがそう呟いた。
「死ぬほどの罠ではないということでしたが……2度も続けてとなると、やはり負担が大きいようです」
 だからと言って、負傷した者を連れて歩けば移動速度が低下する。毒を投与された状態では、無駄に時間を浪費するのは避けるべきだろう。
 ましてや、遺体を連れて歩くなど時間と体力の無駄以外の何でもない。
「先を急ぐっすよ」
 そう言って、レッドはセレマの身体に布を被せた。
 1人、2人と部屋を出て行く。
 そうして、全員の姿が消えて……。
「さて、ペテンは上手くいったかな」
 布の下で、セレマがパチリと目を開く。

 ウィルドの提案はこうだった。
 早期にセレマを脱落させて、ゲームのルールから逃がそうと。
 言葉にせずとも意思の疎通が出来るのは、この状況において非常に有用だ。
 不和を装い、予定調和にセレマはここで命を落とす。
 グリーフの診断も当然にでたらめだ。正確に言うなら、セレマは確かにここまで数回命を落とした。そして、その度に復活を果たしている。
 そうして、レッドが布を被せるタイミングで幻影を造って、人の気配が無くなってから物質透過でその場を離れる。
 作戦通りだ。
 きっと今頃、ウィルドもニコニコしているはずだ。

 薄暗い廊下に燐光が散った。
 降り注いだ魔力の光が、華蓮の負った傷を癒す。その様子を、かすみはぼんやりと眺めていた。華蓮の献身も、エクスマリアの焦燥も、自分には何も関係が無いというように。
 突破した罠はこれで4つ。
 そのすべてを、華蓮は1人で受け止め続けた。
「まま。どんな傷だろうと、マリアが全て塞いでみせる、から」
 5つ目の部屋を前にして、エクスマリアがそう告げる。
「ありがとうマリアちゃん…私の可愛い愛娘……大好きなのだわよ」
 そう答える華蓮の衣服は、自身の流した血で真っ赤に濡れている。度重なる負傷と、繰り返される痛みによって、華蓮の精神は摩耗していた。
 手足は震え、顔には汗が浮いている。血を流し過ぎたのか、唇だって紫色だ。
 それでも、華蓮は笑ってみせた。
 それは酷く歪な、ぎこちのない笑みだ。
 エクスマリアはそれに気づいて、けれど気付かぬふりをした。
「うん。応援、しているよ、まま」
 気づかぬふりをして、幼子のように笑顔を返した。
 背中に回して握りしめた手の平に、爪が刺さって血が溢れる。

 怖い。
 怖い怖い怖い。
 痛い思いをするのは嫌だ。
 怪我をするのは、もうたくさんだ。
 けれど、誰かが傷を負わなければ通路を先へ進めない。
 怪我をするなら、自分か、或いはエクスマリアか。
「嫌だけど……こんな目に逢うマリアちゃんを見るのはもっと嫌」
 自分自身を鼓舞するように呟いて、華蓮は1歩、部屋へと踏み込む。
 瞬間、華蓮の足元で火薬の爆ぜる音がした。床に仕掛けられた爆弾が爆発したのだ。
 足首が焼け、皮膚が削がれて、血が飛び散った。
 激痛。けれど、骨に異常が生じるほどの火力ではない。
 電子パネルの数字が3から2に減った。
 歯を食いしばって、さらに1歩。
 何も起こらない。
 心臓の鼓動が速くなる。流れる汗が頬を伝って床に落ちた。
 安堵の吐息を零した華蓮が、さらにもう1歩、前へ。
 2歩、3歩、4歩……5歩目で再び床が弾けた。
 カウンターが2から1へ。
「っ……あぁぁぁっ!」
 吠えるように叫んだ華蓮が、脇目も振らずに駆け出した。
 部屋の出口を目前に、最後の爆発が起きた。
 親指に走る鋭い痛み。
 剥がれた爪が床に転がる。
 よろけるように前に進んで、華蓮は部屋の最奥へ。
「まま!?」
 愛しい娘の声が聞こえる。

●ゲームセット
 テーブルの上には解毒薬。
 その奥には、こちらに背を向け椅子に座った女の姿。
「お前は、マリアを怒らせた。どうしようもないほどに、だ」
 解毒薬に目もくれず、エクスマリアが床を蹴る。手袋に施された金糸の刺繍が魔力に呼応し、脈動するかのように光った。
 一閃。
 椅子に座った女の頭部に、エクスマリアが渾身の殴打を叩き込む。
 けれど、しかし……。
「……マネキン?」
 ごろり、と。
 倒れた女の頭部が外れて床に転がる。目も鼻も無いマネキンの頭だ。
「っと……こちらは外れか?」
「っ!? セレマか」
 声がした。
 壁をすり抜け、青い髪の美少年が姿を現す。
 セレマはマネキンと、マネキンの前に置かれた幾つかのモニターを見比べて、肩を竦める。
「薬を飲ませてやらなくていいのか?」
 血に濡れた華蓮に視線を向けてセレマは言った。
「ままっ!」
 慌てた様子でエクスマリアが華蓮の元へ駆け戻る。
 それを見送ったセレマは、次に視線をかすみへ向けた。
「ところで、キミは随分と落ち着いているな?」
 ぼうっとしたまま、かすみは視線をセレマへ向けた。
 ゆっくりと首を傾げて、かすみは微かな笑みを浮かべる。
「私は怪我をしていないし、解毒薬も貰えたし、出口にだって辿り着けたわ。何を慌てることがあるというのかしら?」
 なんて。
 そう呟いて、部屋の出口へ歩いて行った。

 床が爆ぜて、火炎が散った。
 立ち昇る黒煙と、辺りに充満する硝煙の匂い。
 炭化し剥がれた皮膚が床に落ちている。
 足を止めたグリーフが、金属繊維が覗く足首を一瞥する。ダメージは軽微なものだ。皮膚が剥がれたし、筋肉にも多少の損傷はある。けれど歩けないほどではないし、骨にも異常は出ていない。
「グリーフさん!? 大丈夫っすか?」
「皮膚が剥がれ落ちてるっすよ!」
 背後からレッドとイフタフの声が聞こえた。
 グリーフは片手をあげて「問題ない」と合図を送る。
「私はあまり詮索は得意ではありませんので……せめて私にできることを」
 ゲームもそろそろ終盤だ。
 残る罠は1つか2つといったところか。
「次の罠も、このまま私が引き受けましょう」

 部屋の奥にテーブルが見える。
 テーブルの上には解毒薬と電子パネルが置かれていた。
 パネルの数字は「1/1」。
 そして、選ばれたのはレッドである。
「馬鹿な……誰が票を換えやがった!」
 ウィルドが焦った声をあげる。
 瞬間、京が視線を走らせる。
 この中に、票を操作した者がいるかもしれないのだ。
 しかし、京が何かを言うより先に茄子子が1歩、前に出た。京の視線から久子を隠して、愕然とするレッドの肩を叩く。
 一瞬、茄子子の手が光る。
 光はするりと、レッドの身体に染み込んだ。
「まぁ、仕方ないよね。投票だもんね」
「ボ、ボクは犯人や協力者とかじゃないって言ったっす」
「そうだね。でも、選ばれたんだから行くっきゃないよ」
 そう言って茄子子はレッドの肩を強く押す。
 部屋へと足を踏み入れて、レッドが悲鳴のような雄たけびをあげた。
「覚えてろよーっす!」
 部屋を駆け抜けるレッドの背中に、茄子子はゆるりと手を振った。

 腕や脚、背中に幾つもの矢を受けてレッドが床に倒れ伏す。
 そんなレッドを追い越して、久子が解毒薬の瓶を手に取った。
「こ、これでクリアよね! そこの扉に“EXIT”って書いてあるもの!」
 解毒薬を飲み干すと、空の瓶を投げ捨てる。
 扉を開けると、緑の風が吹き込んだ。どうやら森の中らしい。
 一目散に部屋を飛び出し……ガチャン、と叩きつけるように久子は扉を締め切った。
「……は?」
 レッドに刺さった矢を抜きながら、京が呆けた声を零す。
「ぅ……と、扉を壊すっす。林檎の匂いが薄れて……これ、ガスか何かっすよ」
 血混じりの咳を数度、レッドが掠れた声で言う。
 毒ガス……つまり、エリザベスによるゲーム外の殺戮だ。
「あんにゃろ! 謀ってやがったのね!」
 京が駆ける。
 一撃。
 疾走の勢いを乗せた殴打を鉄扉へと叩き込む。
 轟音。
 扉がへこむ。しかし、それだけだ。
「っ……暴れ散らかしてやるわ!」
 一撃で破壊できないのなら、2度でも3度でも殴ればいい。
 殴打、殴打、殴打のラッシュを鉄の扉へ叩き込む。
 その度に轟音が部屋の空気を震わせた。
 まるで血に酔う獣のように。
 渾身の殴打を叩き込み、鉄の扉が吹き飛んだ。
「はぁ……くそ、いない」
「……他人を玩具にするのは好きですが、玩具にされるのは嫌いなんですよねぇ」
 誰もいない森へ向かって、ウィルドはそう呟いた。

 天井近くの監視カメラへ顔を向け、茄子子は輝くような笑みを浮かべて見せる。
「キミ、会長達だけが演者だと思ってない? 残念、そこだってカメラの中だよ? はい、録画中〜」
 エリザベスへと手を振って、茄子子は部屋を出て行った。
「……なんつって」
 なんて。
 最後に零した小さな声は、誰の耳にも届かない。

成否

成功

MVP

セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年

状態異常

レッド(p3p000395)[重傷]
赤々靴
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)[重傷]
ココロの大好きな人

あとがき

お疲れ様です。
皆さん、デスゲームは好きですか?

皆さんは無事にエリザベスの用意したゲームをクリアしました。
何人かは、もしかすると目を付けられたかもしれません。
しかし、依頼は成功です。

この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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