シナリオ詳細
<総軍鏖殺>volcanic eruption
オープニング
●闇なるインガ・アイゼンナハト
世は戦国嵐の時代。皇帝ヴェルスは敗北したことで冠位魔種バルナバス・スティージレッドによって支配されてしまったゼシュテル鉄帝国。早速布告された『総軍鏖殺の令』により、帝国は一転して修羅の国と化してしまった。
それは、ラド・バウやファイターストリートも例外ではなく――。
「太陽、木蓮! 構えてください、こいつら闇のファイターです!」
古代の武器を変形させ槍に変えたのは闘士チーム・ブラックサンズのメンバー大地。
「総軍鏖殺の世なんです。もう光も闇もありませんね……」
「ヴァイ!」
空手の構えをとり全身に気をめぐらせる太陽と、魔法のカードを発動させ雷を纏う木蓮。
チェーンを飛ばしてくる闇ファイターたちの攻撃を電撃の剣で弾くと、大地と太陽が同時に跳躍。宙返りを挟んだ跳び蹴りを闇ファイターへと叩き込む。
気の爆発によって吹き飛ぶ闇ファイター。
「抵抗をやめない……か。まあ、そうだろうな」
そこへ現れたのは黒髪の美女。ころがる闇ファイターを足蹴にすると、長い刀を抜いた。
抜刀しただけで分かる。彼女から放たれる殺気と覇気は、先ほど転がした闇ファイターとは比べものにならない。いや、人間の範疇にすら収まっていない!
「こいつ……魔種です! 気をつけ――」
太陽が注意を呼びかけようとしたその瞬間、美女は距離を一気に詰めて刀を一閃。
「グワッ!?」
「ヴェア!?」
たったそれだけの動作で、素早く防御できていたはずの太陽とやや離れた場所にいた木蓮をまとめてなぎ払い、鮮血を吹き上げさせる。
大地は空手の構えをとりながら距離をあけ、その額に汗を浮かべる。焦り、恐怖、動揺。そしてそれを噛み殺して立ち向かうファイターの矜持が流させる汗だ。
「噂には聞いたことがあります。インガ・アイゼンナハト――地下闘技場アイゼン・アンダーグラウンドのオーナー!」
勇気を出して立ち向かう大地の跳び蹴りはしかし、インガの刀によって切り払われた。
「機は熟した。さあ、出てこい……私の可愛い愛娘」
インガ・アイゼンナハト。
強欲に惹かれた魔種にして――夜式・十七号(p3p008363)の母であった人物である。
●闘士乱入
「焔ァ!」
百万回聞いた台詞にビクッとして振り返る炎堂 焔(p3p004727)。
「ち、ちがっ、まだ何もしてな――あれ?」
ホットミルクをこぼしそうになった焔の肩を、ウサミミをはやしたアイドル風のファイターががしりと掴んでいた。
「ウサミちゃん、久しぶり! 無事だったんだね!」
「全然無事じゃね――無事じゃないぴょん!」
ゴホンと咳払いするウサミミファイター。彼女の名は『ウサミ・ラビットイヤー』。
『鎖兎』の異名をもつ地下ファイター(アイドル)であり特技はチェーンデスマッチというなかなかぶっ飛んだ存在である。焔との出会いから色々あって表舞台で活躍する機会も増えたかのじょだが……。
「今すぐ助けがいるぴょんよ。このままじゃ、ラドバウが潰されちゃうぴょん」
ここはハンバーガーショップ・マックスコング。
ラド・バウからほど近いメインストリートに位置するこの店は、修羅と化した鉄帝国の中でもまあまあ安全な場所だ。なぜならA級闘士コンバルグ・コングが頻繁に通う店だからである。
力こそ全てとなってしまった国では、やはり力の庇護下に入ることは身を守るすべにもなるのだ。
そんな場所に、焔と十七号、そしてローレット・イレギュラーズの仲間達が集まっていた。
「インガ・アイゼンナハト。地下の闇闘技場を支配してた魔種ぴょん。
彼女がC~D級のファイターたちを次々に狙う『ファイター狩り』をしているぴょん」
情報を持ってきたウサミによれば、インガは闇ファイターたちを引き連れあちこちのファイター事務所を襲撃。低級ファイター試合ができない程に痛めつけ、あるいは殺して回っているというのだ。
「確かにラド・バウはA級のファイトが目玉ぴょん。けどそれはB級やC級の試合と育成があってこそ成り立つ環境ぴょん。弱いからって低級が全員潰されちゃったら……」
「インガ・アイゼンナハト……」
十七号はその名を苦々しく呟いてから、もう一度口にする。
「インガ・アイゼンナハトの狙いはラド・バウをとりまく環境の破壊か。いくら現状を維持しようと試みても、試合が行われなければ人々は地下闘技場に流れてしまう。最悪、地下闘技場が表にとってかわってしまうことだってありえるだろう」
「…………」
焔はパルス・パッションやコンバルグ・コング、そしてS級の門番たるビッツたちが魔種に負けるとまでは思っていないが、『それ以外』が魔種との勝負に勝てるかと言えばやはりあやしいところだ。
ごく僅かな闘士だけではラド・バウが回らないのもまた事実。その隙間を作り地下の闇闘士たちは這い出ようという魂胆なのだろう……。
「魔種を止めるのはローレットの使命……だもんね」
すこし冗談めいた口調で焔は言うと、椅子からがたんと立ち上がった。
同じく立ち上がる十七号。
「依頼内容は、『インガ・アイゼンナハトのファイター狩りを止める』……でいいんだな?
よもや、倒せる(殺せる)などとは奢らん。しかし止めるだけなら、相手側の闇ファイターたちを再起不能にするだけで済む。その上で奴(インガ)に手傷を負わせられれば上出来だ」
「そうぴょん! ラド・バウが人員不足で回らなくように、闇ファイターも人員不足が起これば困るはずぴょん。そして人員は闇ファイターのほうがずっと少ない」
「問題は、どう考えても魔種は一枚噛んでくるってことだけど……ボクたちに関しては、『生き残れば勝ち』だもんね!」
行くよ! と歩き出す焔たち。
向かう先は、情報屋によって提供されたインガの次なる襲撃地点である。
- <総軍鏖殺>volcanic eruption完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年09月26日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●ファイター狩り
ファイターチーム・スパルタンWX事務所。ここが狙われた大きな理由があるとすれば、おそらく彼らが行っている新人ファイター養成事業への協力だろう。彼らを経由して新人ファイターを大量に補足できるという算段だ。
無論スパルタンWXもそれなりに強力なチームではあるが、集団戦専門であることから狩るのは地味に難しい。数を揃え、強力な切り札を詰め込まなければならないだろう。
それゆえに、インガ・アイゼンナハトは多くの手勢を連れてきたわけだが……。
「政情不安からの群雄割拠コンボって感じでもうね……
要するに今のラド・バウの治安って闘士の強さによる抑止力による所が大きいみたいだし、そこを端から切り崩していくのは治安悪化させたいんだったら、ある意味正攻法よね」
盾をしっかりと持ち直し、『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)は深く呼吸を整える。集中力を増すための呼吸法であり、緊張をほぐすためのものでもある。
「鉄帝の人達のために頑張って運営を続けてるラドバウを滅茶苦茶にしようだなんて!
パルスちゃん達の頑張りを無駄にさせないためにも、これ以上そんなことさせるわけにはいかないよ!」
その横では『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)がシュッシュと空パンチを繰り出してやる気を高めている。
ここはラド・バウを中心とした町。今ではラド・バウ独立自治区などと呼ばれる、比較的平和なエリアだ。
それでもこうして戦いが必要になるのは、この時勢故だろう。
「そういう国の方針になったとはいえ、それを聞いてそうですかって言えるほどできた存在ではないんですよね。
殴られるのも抑えるのもほどほどに得意分野なので、インガという方はわかりませんが他の方にはそれで満足していただきましょう。
安心してください、生き残るのは大得意ですよ」
首の辺りに手をやって、やれやれといった様子でため息をつく『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)。
『群鱗』只野・黒子(p3p008597)はといえば、相変わらず周りの様子を観察しながら黙って何かを考えているようだ。
「生まれながらの強者などそれこそ魔種や一部の龍ぐらいだろうに。
弱者を刈り取ろうだなんていくら鉄帝とはいえ無粋が過ぎる……賛同する闇ファイター共々止めないとな」
『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)の言葉に、そこでやっと黒子が肯定するように頷きを見せた。
「魔種め、ラド・バウまで出張ってきたか。……洒落にならない事態こそ、俺達の出番だ」
同じく同意してみせる『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)。
「しかし魔種と闇ファイターの軍勢となると、八人だけでも旗色が悪いぞ。攻略の糸口はあるのか?」
「地下闘技場のオーナーの魔種だろう? かなぎと繋がりがあったらしいし……旅人の俺には近しいものが魔種となった感覚は分からないが、その攻撃を受け続けるのは辛かろうよ。手早く済ませたいところだな」
「相手に知能が無い獣であったなら、かなぎ様に誰かカバーをつけ治癒を2~3人で付与し続けるだけで完封できそうなものですが……流石にそこまで愚かではないでしょう」
黒子がちらりと見ると、『蒼き燕』夜式・十七号(p3p008363)が腕組みをして難しい顔になっていた。
「まさかこんなことになっているとはな……。とにかく今は、撃退を図ろう。
殺す気でくるならこちらも殺す気で臨まねばならない」
十七号は義手となった手を義眼へとあて、決意をその奥に燃やす。
「あのインガっていう地下闘技場の魔種がかなぎちゃんを勝手に狙ってるなら、その間にボクたちが周りの闇ファイターたちを倒して行けばいいんだよね?」
焔の問いかけに、十七号とイリスがそれぞれ頷く。
「私達は防御には自信があるし、自己回復に集中した場合ならかなり長く持たせられるはず。ハーフ・アムリタだって用意してきたしね」
イリスと十七号はビルドに似た側面をもった二人だ。防御が堅く、高度な自己回復で強力な攻撃のラッシュを耐えるという戦い方に優れている。
スキル封じや回復不能状態など突破される穴が全くないわけではないが、そこへ黒子が治癒や援護射撃という形でついてくれればかなりの信頼性が期待できるだろう。
「要は……どれだけ効率的に、というか、早く闇ファイターたちを倒しきれるかが勝負の分かれ目ということですね」
鏡禍とリカが顔を見合わせる。
彼女たちはどちらも防御型の近接ファイターだが、だからといって攻撃手段に乏しいわけではない。やりようによっては、そして掛け合わせ方によっては強力なシナジー効果を生み出すことができるだろう。
なにより、敵の最も強力なユニットがこちらを殴りにこないという状況が有利だ。
「ふふ、流石かなぎさん、どうやら魔種にも人気なようで? 魔種である以上、それは本人の言葉ではないんですよ…そうとだけ、言っておきますけれど」
『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)は苦笑し、そして真剣な面持ちで大通りの方へと振り返った。
無数の闇ファイターたちが通りを歩き、こちらを目指して大股に速度を上げている。
今にも走り出しそうな彼らに、イレギュラーズチームはそれぞれの武器を一斉に構えた。
「流石にこの数…生きれば勝ち。魔種の殲滅より今はラドバウの安全、ですね」
魔剣を抜き目を輝かせるリカ。
盾に収めていた剣を抜いて、盾を突き出す構えをとるイリス。
背負っていた槍をとり、くるくると回して突進の構えをとる焔。
鏡禍は手鏡を胸に抱くようにして目を瞑ると、妖力で身を包み込む。
錬は腰にさげた複数のホルダーから適切な札を取り出し、その一つを発動させ斧を瞬間鍛造した。
黒子はキセルをくるりと指の間で回転させペン持ちにすると、空中に何かのサインを描くように動かした。
エーレンもまた刀に手をかけ、抜刀術を維持して走り出す構えをとる。
十七号はそんな中で……日本刀をすらりと抜いたインガと目が合った事実にどきりと胸をならした。
因縁の対決。しかし、ここが最後ではない。
「――今更、何をしに来た。堕ちた貴女がッ! ここから去れ!」
十七号は『蒼鱗』とリンクした吼龍がまるで吠えるように青く輝いた。
こちらへ向けて走り出す闇ファイターたち。
その先頭を行くインガ・アイゼンナハトは――。
「よく出てきた。褒めてやろう、私の可愛い愛娘。――お前の身体を置いていけ!」
●
海燕、抜刀。
青く輝くその刀身と、インガの繰り出す刀身が激突する。それでも止まらぬインガの勢いは、十七号に自らの顔を寄せさせた。
「その右目……」
「お前の狙いは、私だろう! ファイターたちを狩るのを辞めろ!」
「『身体の半分を寄越せばやめてやる』と言ったら?」
「ふざけるな……!」
吠える十七号。と同時に、黒子による援護射撃が走った。『葬送曲・黒』の魔術がぶつかり、それを腕の一振りで払いのけたインガは更なる追撃に備えて飛び退いた。
回り込むルートを目で追うインガ。だが、逃がさないとばかりにイリスがインガの後方へと回り込み盾を構える。
「あなたの相手は私達。他には手を出させないから」
「ほう……」
インガはギラリと目を見開き、闇に燃える光を露わにした。
その目で見られただけで、イリスは胸の内がぞくりとする。獰猛な殺気であり、魔種特有の禍々しい気配。振り向きざまに繰り出した刀の『打撃』を盾で受け止めるも、イリスは思わず派手に吹き飛ばされた。
倒れたり転がったりしないのは、流石イリスの頑強さといったところだが……。
「一撃が重い……一対一だったら負けてたかも」
イリスは盾を持つ手にひどいしびれが起きているのを自覚しながらも、剣を翳して防御を継続する。
彼女を倒す必要などないのだ。
耐えて、耐えて、耐えきればこちらの勝ち。
もし折れてしまえば、こちらの負けだ。
黒子が心配そうにイリスへ視線を向け、治癒の魔法を寄越してくる。イリスは頷きによってそれにこたえた。
「大丈夫。得意分野だから」
●アンダーグラウンドより
黒子の見立てでは、イリス、十七号、そして黒子三人での防衛であればインガを抑えておくことは不可能ではない。『無限に押さえ込む』ことは不可能だし、これだけ重い攻撃を連発されればどこかで偶発的な崩壊が起こるだろうと予測していた。そうでなくても、『何回か悪い賽目が出るだけで』戦線というものは壊れるものだ。これを決定的に安定させることは、黒子の優秀な腕をもってしても難しい。
ということはだ。何回かの『悪い賽目』が出るまでの間、仲間達がどれだけ闇ファイターたちを倒してくれるかが、この勝負の分かれ目となるだろう。
「ウサミちゃん、いくよ!」
「うおー! 地下ファイター出身者なめるなぴょん!」
鎖を頭上でぐるぐる振り回すウサミ・ラビットイヤー。
彼女の放った鎖は闇ファイターの一人の腕にぐるぐると巻き付き、そして特殊なギミックによってガチリと固定された。
チェーンデスマッチで名をはせたウサミの得意技であり、己の得意な勝負に持ち込むためのギミックだ。
当然、チェーンの反対側は自分の腕に固定されている。
「おらぁ!」
相手を巻き取るようにしながら強引に距離を詰め、まずは跳び蹴りを繰り出すウサミ。
対するは、片腕をチェーンソーにしたモヒカンの鉄騎種だ。
「ヒッヒィ!」
対抗するようにチェーンソーを繰り出す――が、ウサミはとまらない。なぜならこれは『タイマン』ではないからだ。
「加具土命――!」
焔が込められたパワーを解放。槍に炎を纏わせると、世にも美しい槍投げフォームによって片腕チェーンソーめがけて炎の槍を投擲した。
「そんなモンがこの俺に当たるかよ!」
チェーンソーで払いながらかわそう――とした瞬間、ウサミがチェーンを身体ごと巻き取り動きを制限。片腕チェーンソーの胸を、焔の槍が貫通した。
「こっちも場数を踏んでるんだよ! 『ステージ』に立ったのだって、一度や二度じゃないんだから!」
接近し、槍を掴む焔。炎が更に増加し、片腕チェーンソーの身体を獄炎が包み込んだ。
「どうやら……雑魚狩りをせずに済みそうだな、兄者?」
頭をすっぽりと多う禍々しいブラックヘルム。奇妙にくぐもった声から、その性格を計り知ることは難しい。わかるのは彼の性別くらいだ。
「相手が雑魚であった方が仕事が楽で済むんだがな、弟者」
声をかけられた隣の男もまた、別のブラックヘルムを被っていた。二人してカブトムシかクワガタかという造形なのだが……首から下がぴっちりとしたボディスーツのみで構成されている。靴もゴムと鉄板でできた安全靴だ。
「な……なんでそんな、中途半端な装備なんですか。全身は覆わないんですか?」
身構えつつも困惑する鏡禍。
兜兄弟は頭に指をさしてみせる。
「鎧など、あろうとなかろうと当たれば貫いて殺される。最低限のものだけがあればいいのだ。バイクのライダーもヘルメットだけを被るだろう」
「理にはかなってるけど理解はしづらい……」
「殺せば人類皆肉団子ってことですよ!」
リカが急に物騒なことを言いながら剣をとり、兜兄弟へと斬りかかる。
兄弟は左右にわかれるように回避し、続く横払いの斬撃も身をかがめることで回避。
リカは舌打ちしつつもチャームの色香を放つも、兜兄弟はそれに抵抗し剣先がギリギリ届かない程度の距離を保って『きをつけ』の姿勢をとる。
「くっ、戦い方がいちいちムカつきますねこいつら!」
「相手のペースに乗せられないで下さい。彼らの狙いは――」
兜兄弟の兄者がフッと兜の下で目を動かし、ほんの僅かに首を動かしてインガのほうを見たのを鏡禍は見逃さなかった。
こちらが守りに入れば、即座に片方を離脱させてインガのフォローに回るつもりなのだろう。彼女さえフリーになってしまえば、もうこの勝負は彼ら闇ファイターの勝ちなのだ。
スッと回り込み、妖力の波を引き起こす。
波は壁となり、鏡禍の後ろにオーロラ状の歪みとなって広がった。
「邪魔はさせませんよ。あっちへ行きたいなら、まずは僕を倒してからにしてくださいね」
「兄者……」
「分かっている。面倒な仕事になった」
二人は腰の後ろからスッと拳銃を抜くと一斉に発砲。
ことごとく予想を裏切る動きをしてくる彼らに対し、しかし鏡禍はミラー状の障壁を形成して防御。
リカがここぞとばかりに剣を地面に突き立てた。
「さあ、いくわよエルス――その力、私に分けてね」
リカの影が広く延長され、兜兄弟の足元へ至ったかと思うと無数の影の手が現れ彼らへと掴みかかる。
「何っ!? こんな手が!」
「外見を裏切る攻撃を!」
「あなたたちには言われたくないです。いひひっ」
「そこっ――!」
エーレンは両手でしっかりと握った刀を相手の首めがけて振り込んだ。
が、相手は喉仏から一センチだけをはなして後方へ回避。上半身の動きを器用に使って今度は相手の刀がエーレンの頭をそぎおとそうと走った。
咄嗟にかわすエーレンだが、耳にピッと亀裂が走ったような感覚がおこる。おそらく耳を大きく切られたのだろう。
確認している暇は、勿論ない。
相手は浪人風の見た目にざんぎり頭。粗末な日本刀をぶらさげて現れたものだから弱い相手かと誤認したが……いざ刀を抜くとその目に宿っていたのは剣鬼のそれであった。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。自分たちだけでは日なたに出てくる意気地もないんだろう? ボスと引き離されてしまったが大丈夫か?」
「流派はない。佐々木セカンド。影も日向も興味はねえやい。あんた、強いんだろう? 戦ったことのねえ剣だ」
佐々木の目の奥。そこには無数の剣士たちとの戦いがあった。たった一戦。あるいはたった一合。撃ち合っただけの相手を脳内で幾度もシミュレーションし、脳内で完全に負かすまで鍛錬を続ける。そういう狂人が、世には何人かいるものだ。
「……痴れ者が」
「なあ、俺の糧になってくれよ。でなきゃ、ここで死ぬだけだぜえ」
佐々木の繰り出す剣を、エーレンは紙一重で回避。
そして剣を払うように打ち込むと、相手に自分の肩を押しつけた。いや、叩きつけたといっていい。
強引に体勢を崩すためだ。凄まじい体幹故に押し倒すことこそできないものの――。
「天目!」
「任せろ、五行相克――式符・相克斧!」
二つの手斧を瞬間鍛造する錬。どこかまるみを帯びた斧を、彼はあろうことか投擲した。
剣によってそれらを払いのける佐々木。
が、そこで錬は更なる瞬間鍛造を行った。
「式符・陰陽鏡!」
頭上に作り出した太陽を写す魔鏡が、佐々木の周囲をたちまち漆黒に染めていく。
「斧は囮。狙いはコイツか」
「魔種に釣られて易きに流れた己を恨めよな」
刀が鈍る。決定的すぎる隙だ。
エーレンは鋭く踏み込み……そして、しめやかに佐々木を斬り捨てた。
●インガ
斬撃が一度に七つ放たれ、さしものイリスとて吹き飛ばされる。
ラドバウストリートにあるスポーツ用品店のショーウィンドウを破壊し、マネキンをなぎ倒しながら転がるイリス。
黒子が駆けつけ治癒をかけるが、イリスの左手は既に縦を持つ握力を失っていた。震える手をおろし、右手で盾を掴むイリス。
が、その目の前でインガはギラリと方向転換。十七号へ狙いを付ける。
「狙いはかなぎさんだよ、下がって!」
「それができる相手ならな!」
豪速で迫るインガ。剣を撃ち込み斬撃をいなそう――として、十七号の手から刀が抜けた。あまりの威力。そして研ぎ澄まされた剣術によって刀が外され、はるか頭上を回転しながら飛ぶばかりとなった。
「――ッ!」
回避。防御。どちらも間に合わない。映像が三つ重なったかのように高速で動作すると、インガは十七号の右腕に剣を突き立て、そのまま後方の壁へと『ピン留め』した。
コンバルグ・コング主演の映画ポスターに叩きつけられる十七号。
「右腕、貰った」
そのまま切りおとさんと小太刀を抜くインガ。
だが、十七号はまだかろうじて無事な右腕に力を込めた。
ゴオウ、と龍が吠えるかのような轟音が鳴り、それがオーラの集合によるものだと気づきインガは目を見開いた。
「貴女の……お前のモノに、なるつもりはない……!」
インガの横っ面に炸裂する拳。
思わず飛び退いたインガだが……はたとまわりを見回した。
エーレンが佐々木を斬り捨て、鏡禍が兜兄弟を殴り飛ばし、焔とウサミがダブルラビットキックで片腕チェーンソーを吹き飛ばすところだった。
他の闇ファイターたちもあちこちに転がり、どうやら戦闘を続行できる雰囲気ではない。
「……ここまでか」
インガは剣を収め、撤退の命令を下す。
こうなれば闇ファイターたちの動きは速いもので、さっさとその場から撤収してしまった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
地下闘技場の主、インガと闇ファイターの集団を撃退しました。
これで当面はファイター狩りが再開されることはないでしょう。
GMコメント
●オーダー
魔種インガ・アイゼンナハト率いる闇ファイターたちを待ち構え、闇ファイターたちを再起不能にします。
目的は『ファイター狩り』を止めることなので、その必要人員であり地下闘技場の運営リソースであるところの闇ファイターたちを潰していけば目的は達成されるというしくみです。
この戦いは、以下に魔種インガを戦いから遠ざけるかがキモになると言っていいでしょう。
●エネミーデータとフィールドデータ
ラドバウではD~C程度の戦闘力をもつファイターたちが集まっています。
彼らは表のファイターが一人になったところをリンチにかけるなどして潰しているようですが、今回はインガ指揮のもとファイター事務所兼養成所である『スパルタンWX』事務所に襲撃を仕掛けています。
スパルタンWXは近隣住民を逃がすため事前にこの場を離れ、事務所にいるのはローレット・イレギュラーズの皆さん。そして援軍として駆けつけたウサミ・ラビットイヤーだけとなります。
闇ファイターは数でこちらを足止めし、やや強力なファイターがこちらの実力者を潰すという戦術をとってくるでしょう。
その一方でインガは自分勝手に動くとみられ、『夜式・十七号』に対する興味や執着から彼女がメインターゲットとなることは予想がつきます。
戦闘力は未だ未知数ですが、十七号の防衛をはかりつつ、なんとか倒されないように時間を稼ぐことが勝利の鍵になるはずです。
そうやって時間を稼いでいる間に他の闇ファイターたちをウサミと一緒にやっつけましょう。
再起不能となった闇ファイターの数が一定数を上回れば、流石に引き時だと判断してインガたちも引き上げるでしょう。
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