シナリオ詳細
<総軍鏖殺>魁メタリカ女学園より、修羅をこめて
オープニング
●メタリカ女学園
皇帝が冠位魔種バルナバスによって倒され、一転修羅の国と化した鉄帝国。
だがそんな時代にすら適合した、乙女たちがいた。
「ペン子さま、お下がりになって!」
紫の女学生服に身を包んだ乙女、パフ・モルモフィネは手にしたモルモフィネの花を突き出すように構えた。
後ろに庇っているのは松葉杖をつく七草・ペン子だ。
「あら、パフ子さま。わたくしたちに刃向かうおつもりですの?」
「おかわいいこと……ふふ」
彼女の前には同じ制服を纏った女学生たち。
女学生たちはそれぞれの乙女拳法の構えをとる。その優美かつ上品な立ち振る舞いは、今すぐにでも相手の首を切りおとさんばかりのプレッシャーに満ちていた。
「早退堕落拳――仮病ヶ原・洒々」
「恋文焼却拳――梵乃蔵・髑髏」
「陰湿虐待拳――御手洗・行水」
乙女たちは血に濡れた手をかざし、にたりと笑う。
「より多くの首をとり差し出すことで……私達もまたバルナバスさまの臣下となるのです。さあ、修羅の糧へとおなりなさい」
大量の画鋲を手に取り、ワンスイングで放つ御手洗。
パフ子さまがモルフィネの魔法で結界を作り防御するが、回り込み接近していた仮病ヶ原の拳が腹へと突き刺さる。
「きゃう!?」
まるでビリヤードの球のごとく突き飛ばされ、壁に反射し転がるパフ子さま。
梵乃蔵が両手に握った恋文を燃え上がらせ闇の炎を呼び出すと、『とどめですわ』と囁き――
「逃げて、パフちゃん」
突き飛ばされたことで、パフ子さまは更に転がった。
ハッとして振り返ると、七草・ペン子が松葉杖を放り捨て、薺ダメンズ妖精拳の構えをとっていた。
「無茶ですわペン子さま! あなたはいま力の源を失っています! それにその身体と乙女力では……!」
「それでも時間は稼げるわ。あの子達を――『転校生』を呼んできて。さあ、走って!」
首を振り、しかし今はこうするしかないという焦りから歯を食いしばり走り出すパフ子さま。
(たすけて……たすけて、お姉様方! チャロ子さま!)
●総軍鏖殺
冠位魔種による帝位簒奪により鉄帝国は弱肉強食の世界と化した。
勅令を理由に略奪を働く者、暴徒と成り果てる者。この機を逃さぬと権力を広げる者。
ここはゼシュテル、修羅の国。強くなければ生きて行かれぬ鉄の国。
かくしてローレットに、またひとつ依頼が舞い込むのである。
●乙女、出陣
息を切らせ、ローレットが拠点とする寒村の酒場へと転がり込んできたのはパフ・モルモフィネ。
その様子に慌てて駆け寄ったのはチャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)であった。
「どうしたの!? あなたはたしか……メタリカ女学園のパフ子さま」
抱え起こすと、もうろうとした目でパフはチャロロの瞳を見つめた。
「たすけて、チャロ子さま。学園が……新皇帝派の勢力に飲まれてしまいます。学園が……」
そこまで告げると、かくりと意識を失い、安堵ゆえか眠りについた。
『メタリカ女学園』は鉄帝国にあるお嬢様学校である。卒業あるいはスカウトにより中退した乙女は皆軍の将校や優秀なファイターとなることから名門校として知られ、校風もきわめてシンプル。強さ――『乙女力』こそが全てであり、学園内では日夜乙女バトルが繰り広げられさながら戦国時代となっていた。
咲花・百合子(p3p001385)はそんな校風を熟知する『美少女』であり……彼女たちの『乙女』に極めて深く通ずる人物であった。
「つまり……学園にバルナバスを信奉する新皇帝派が現れ徒党を組み始めたと……?」
百合子は点描を背負い虹色のエフェクトを纏いながら、花咲く香りの中でむうと唸った。
レベル上昇に伴い容姿が美しくなるという『美少女力』も、レベル75手前となるとその美しさで人が殺せるほどだ。
そしてそのシステムは、不思議なことにメタリカ女学園でも一般的であった。この学園で強くなるに伴い、『乙女』たちの容姿は美しくなる。
つまり美しい乙女ほど強く、弱き乙女は醜くなるのだ。
そしてそれゆえに、『強さ(美しさ)』に魅了される者もある……。
「まずは学園に行って、この新皇帝派の乙女たちを倒さなくちゃ! パフ子さまのように、学園の乙女たちも次々に手にかかってるんだ!」
拳を握り身を乗り出すチャロロ。
百合子はその姿を横目に見て、小さくだが頷いた。
「賛成だ。一応確認しておくが……請われたからには『あの姿』でゆくのだろう。『ちゃろ子さま』?」
問われて、チャロロは視界の隅にあったメタリカ女学園の制服にめをやった。
メタリカ女学園は乙女の花園。男子禁制の場である。
かつては潜入のために乙女に扮して戦ったものである。『ちゃろ子さま』とはその際に生まれたチャロロの一側面であり……パフとも出会ったのだった。
鉄帝が修羅の国となってしまった今校則もなにもないのだが、求められたのならば……。
「行こう『百合子さま』。学園のことが気になる」
- <総軍鏖殺>魁メタリカ女学園より、修羅をこめて完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年09月24日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●メタリカ女学園、動乱
世は戦国嵐の時代。バルナバス新皇帝即位による弱肉強食の勅令は、もとよりその主義が通っていたメタリカ女学園にすら動乱をもたらした。
各所で新皇帝派閥が生まれ、南部軍へのスカウトが決まっている乙女や帝政派の家系にある乙女などが標的となり学内闘争が勃発。
親を軍部にもつパフ子さまも当然その波に呑まれ、助けを求められた『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)――いやちゃろ子さまも再び乙女の花園へと降臨するのであった。
「すでに学園内にまで新皇帝派が……学園を、鉄帝を魔種のものにしてなるものですか!」
長いスカートを翻し、新皇帝派乙女たちの集団爆撃を払いのけたちゃろ子は立ち上がる。乙女らしからぬ醜き悲鳴をあげ吹き飛ぶ新皇帝派乙女たちを背に、舞い散る百合の花びらをぱしりと掴んだ。
なんか後ろのほうで物陰から見てるパフ子さまがすげー小刻みにハァハァしてるのだけが気になるが……。
「ちゃろ子さま、お構えになって! 新手が参りますわ!」
『疾風迅狼』日車・迅(p3p007500)――もとい迅子さまは得意の鳳圏式八閃拳の構えをとると、中庭を抜けて現れる長い黒髪の乙女たちをにらみ付けた。
「転校生……いや乙女八拳将。今更この学園に舞い降りたとて無駄なこと。もはやメタリカ女学園清掃委員会は、わたくし新皇帝派の支配下に入りましたわ!」
竹箒を手に取り、それをヒュンヒュンと軽やかに舞わす乙女。
「『押付当番拳』塵芥・却炉。あなたも『清掃』して差し上げますわ!」
新皇帝派乙女、塵芥却炉の竹箒はバキンと音をたてて三節棍状に展開すると、まるで生きた蛇の如く迅子さまへと襲いかかる。
「この花園にも新皇帝の影響を受けてしまう方が現れるなんて……困りましたわね。
誰を信奉しようとそれぞれの自由ですけれど、首を差し出して仲間になる事で何かあるのかしら? 力を授かれるのかしら?」
「力ある殿方に身を捧ぐことこそ乙女の本懐でしてよ! 落とした首の数だけ、乙女は美しくなりますわ!」
迅子様の額を撃ち抜く竹箒――かと、思いきや。
「ふっ――」
一呼吸の間にタイミングをズラし、迅子さまは紙一重で竹箒を回避。手の甲を軽く当て、くるりと身を転じることで衝撃を逃がしながらもまるで巻き取るかのように塵芥却炉さまの眼前へと急接近。
「乙女力を高める事は学生の本分ですけれど、そんな事で得る力は飾りのようなもの。
煌びやかな装飾品を身に着けたからといって貴女自身が光り輝くわけではありませんことよ」
「な――!」
「鉄拳鳳墜」
却炉さまの顎に掌底を打ち当てる迅子さま。吹き抜ける嵐のごとき衝撃に、迅子さまの麗しきスカートの裾が靡き一度は地に落ちた花びらたちが再び舞い上がる。
その渦中、渦巻く花びらの中心で遥か天空に吹き飛ばされるのは却炉さまの身。
「却炉さま! おのれ八拳将、清掃委員長を倒した程度で――」
一斉に飛びかかる清掃委員の乙女たち。が、彼女たちの高めた乙女力など――可憐に燃えるちゃろ子さまの炎の前には塵も同然。
「破――!」
ちゃろ子さまが拳を突き出すその一挙動で、乙女たちは放射状に吹き飛んでいくのであった。
「新皇帝派の支配も進んでいるご様子……籠城して抵抗する乙女たちもいらっしゃるでしょう。助け出し、彼女たちの話を聞いてみましょう」
「はい、りゃろ子さま! ああっ、汗が」
ビュンと高速でそばに寄ってきたパフ子さまがチャロロの額にハンカチをあててハァハァしていた。
(こ、怖っ!?)
●乙女のジャングル
「乙女サバゲー部、部長阿南!」
「副部長、牟岐!」
「お姉様の拳によって改心した私たちを――ぽっと出の新派閥如きが潰せるとお思いですこと!?」
メタリカ女学園の裏庭、ほぼジャングルとなった森の中。鳥のギャアギャアという声に交じって匍匐前進する迷彩制服の乙女たちがいた。
が、しかし!
「「キャア!?」」
仕掛けられた網縄が発動。二人はたちまち吊り上げられてしまう。
「乙女FPS部三姉妹――」
「芋砂園・餌食!」
「線切断・こばみ!」
「チート院・MOD子!」
茂みから次々現れる新皇帝派乙女たち。
「あなたがた二人で乙女サバゲー部は最後。この部もバルナバス様への供物となるのですわ!」
高笑いをあげるチート院・MOD子。
彼女の突き出す乙女ジグザエルの銃口が逆さに釣られた阿南の額に押し当てられた――その瞬間。
「雷精招来、紫電よ鎖せ!」
ギャリン――と鞘走りとするには獰猛すぎる音がしたかと思うと、黒き雷がジャングルの中を迸る。
咄嗟に飛び退くMOD子。
餌食はカメレオンコートを被り後退。こばみはコンバットナイフを両手に抜いて雷の放たれた方向へと素早く飛びかかる。
「現れましたわね、その首ごと、回線切断して差し上げますわァァァヒヒヒ!」
首を正確にねらったナイフの一撃は、しかし『厄斬奉演』蓮杖 綾姫(p3p008658)の翳した刀で止められる。
「この乙女力……鋭いッイ!」
歯を食いしばるこばみ。大して綾姫さまは目を細め、ずんと身を前に踏み出した。
たったそれだけの動作でこばみは大きく飛び退き、警戒するようにナイフを交差させる。
だけではない。こばみは跳躍し、木々を反射しバウンドしつづけるゴムボールのごとく俊敏に綾姫さまの周りを飛び回り始める。
対する綾姫さまは刀をあえておさめ、背負っていた鋼華機剣『黒蓮』の柄に手をかけた。
背にマグネットのごとく吸着していた剣がはずれ、刃を覆っていたガードが歯車仕掛けで解放される。刀身はスライドし二倍の長さへと延長され、絵もまた伸縮し恐ろしい全長の剣へとかわった。
おさめられたコアストーンが炎の如く輝き、綾姫さまはその目を閉じる。
「――黒蓮可憐斬殺剣」
ブン。と剣を振り回した。
一見してそれは大剣を持ってただ回転しただけにみえたかもしれない。
だが乙女力を持つものには、わかる。き光の一閃が、周囲をたちまちのうちに切り裂いていったのだと。
現に、彼女を取り囲む木々は斜めに切断されずるずると崩れていく。その中には、こばみの姿もあった。
かろうじて切断されてこそいないものの、乙女力を寸断され地面へうつ伏せに崩れ落ちている。
「な……わたくしの、回線が、斬られた……?」
「それこそが。私の剣にやどりし……乙女力です」
「さすがは百戦錬磨のお姉様方……」
『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)は輝剣『プリンセス・シンデレラ』の柄を強く握りしめた。
なき刀身部分よりオーロラ状の刀身が形成され、それを両手でしっかりと握ったトールさまは周囲へと意識を向けた。
ジャングルの風景に完全に溶け込んだ芋砂園・餌食を探し出すことは困難。
しかし、相手とて射撃をすれば一を教えるようなもの。要は、相手の狙撃をいかにかわし、攻撃に転じるかが勝負となる。
長いメタリカ女学園制服のスカート。その裾を気にするようにちらりと見ると、トールさまはゆっくりと呼吸を整えた。
ここは乙女の花園。普段以上に女装がばれるわけにはいかない。
と、その時。
発砲音と共にトールのスカートが大きく翻った。
そう。広がった裾部分をあえて打ち抜き風圧によってめくりあげようとしたのだ。なんという技術。そして、なんという着眼点。トールが気にしていたことを、彼女はもう気付いていたというのだ。
心の隙。否、乙女の隙を突いた狙撃。反撃に転じるべきかスカートを抑えるべきか。迷ったトールは――。
「ええいままよ! 私の長年培われた女装りょ――いえ、乙女力を見せてさしあげますわ!」
軽く跳躍。空中に作り出したオーロラプレートを踏みつけ反発した力を利用して更に跳躍。狙撃の音と弾道から割り出した餌食の位置へと急速接近した。
スナイパーライフルを手にその場から逃げようとしていた餌食の足を、オーロラの刀身が浅く切り裂く。
「ッ――!」
それによって転倒した餌食に向け、更に生成したオーロラプレートへ宙返りの要領でクイックターンをかけたトールは次なる斬撃を繰り出した。
横スピンをかけながら相手の精神だけを切り裂き刈り取っていくトールの斬撃。
スタンと着地したトールのスカートには、二つの穴が開いていた。
「なぜ。あれほどまでに気にかけていた対象を無視して……」
「この程度で崩れる覚悟など、もとより持っておりませんわ」
そう呟き、剣を下げる。
なぜなら、『もうひとつの戦い』は既に決していたからだ。
飛び退いたチート院・MOD子を追撃したのは黄金の弾丸。
ただその一点だけでMOD子は全てを理解した。
「あなたですわね――黄金の花咲く乙女、マリア子さま!」
「いかにも」
その破壊力でもって樹木に大穴をあけ、なぎ倒しながら突き進んでくる『金色凛然』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)。通称黄金の花咲く乙女――マリア子さま。
「今更何しに来ましたの? もはやメタリカ女学園は新皇帝陛下のもの。抗うだけ無駄というもの!」
「それはまだ、わかりませんわ」
MOD子が残像を残すほどに高速移動をかけ、通常ではあり得ない高度へとジャンプ。
弾数を無限化したジグザウエルをマリア子さまめがけて撃ちまくる。
が、マリア子さまは自らを包む黄金の繭でもってその全てを防御。いや、高速修復してしまった。
が、直後。眉はぼろぼろと崩れ落ちていく。
現れたマリア子さまの黄金の髪は、肩にかからぬほど短くなっていた。
「フ、フフフ……最大の強みを捨てましたの!? どういうつもりか知りませんが、勝負ありましたわね!」
再びの射撃。
だが、マリア子さまはただ手をかざすだけでそれを全て無力化してしまった。
金色に輝く手袋。その力を、MOD子は知っている。
「まさかそれは――!」
「その通り。髪は乙女の命。切り落としてなお、輝くもの」
ギュン、とトールさまと綾姫さまがMOD子の左右を挟むように急接近。
咄嗟に無敵化チートを発動させたMOD子だが、その瞬間には既に綾姫さまの折りたたまれた剣が鈍器のごとくチートコードをブレイク。
まるはだかとなった彼女の身体に、トールさまのオーロラ剣が突き刺さった。
「ア゛ア゛ッ!?」
のけぞり、血を吐くMOD子。
「わかり、ましたわ……このお二人が余裕を持って戦えていたのは……マリア子さま、あなた、の……」
膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れるMOD子。
土にまみれたその顔を見下ろし、マリア子さまは背を向けた。
●夕暮れの教室、散る窓際の百合
『闇之雲』武器商人(p3p001107)>『闇之雲』武器商人(p3p001107)――通称、武器子さま。
『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)――通称、百合子さま。
『救海の灯火』プラック・クラケーン(p3p006804)――通称、プラ子さま。
三人の乙女は死屍累々の廊下を歩いていた。
「噂に聞けば、メタリカ女学園は日夜バトルが繰り広げられる群雌割拠の乙女戦国時代な場所。敵も強者なれど味方も強者な筈……こうも容易く襲撃がキマるとは思えませんの」
赤い学生服。短いスカートの裾をひっぱりながら、プラ子さまは倒れて呻く乙女を横目に見た。
「確かに……過去の報告を見ても、『恋する乙女』や『ギャル派』の台頭も非常にささやかな、調査を進めねば分からないほどに密かに進められた侵略。これほど堂々と他派閥を侵略できる場では無かったはず」
武器子さまは口元に手を当て、くすくすと笑う。
「何が起こっているのか、興味がわきましたわ。ヒヒ……」
「ハッ」
百合子さまは何かに気付き、廊下を駆け出す。
そして、教室のひとつの扉をがらりと開けた。
そこに広がった光景に……百合子さまは目を見開いた。
「ペン子様! それに生徒会長月見草マツヨ様! そしてギャル派筆頭黒百合リリー様!」
教室の中には、三人の乙女が崩れるように倒れている。どれも、メタリカ女学園では強者と知られる乙女とOBだ。
そんな風景のなか。
窓際には一人の乙女が立っている。長い黒髪を、窓からはいる風に靡かせている。
しかしその服装は、乙女とはほど遠い学ラン姿。
一瞬誰かを連想した百合子さまだが、振り返ったその顔が別人であることを告げていた。
「来ましたわね。では、名乗っておきましょう……私は密立黒百合学園――通称『黒百合の夜明け団(ブラックリリィダウン)』より参りました。朝倉黎明と申します」
ハスキーな、しかし麗しき乙女とわかるその声色。
黒い眼鏡をかけた彼女に、百合子さまは勿論、その場に追いついた武器子さまもプラ子さまも身構えた。
「気をつけて……この方は、私たちの乙女力を相殺しますわ……」
薄目をあけ、呟く月見草マツヨ。
「それは一体――」
プラ子さまが問いかけようとした瞬間、黎明はプラ子さまの眼前まで迫り、手刀を繰り出していた。
「つぅ……!」
咄嗟に回避行動をとるも、プラ子さまの頬に鋭い傷が走った。
「強者ですわ! 武器子さま、百合子さま! わたくしが攪乱を――!」
プラ子さまの判断は速かった。バク転をかけて黎明から飛び退くと、そのまま地を蹴り壁を蹴り天井を蹴り、三次元的に教室内を跳ね回ると黎明を攪乱し始める。
黎明はといえば、直立不動の姿勢で眼鏡のブリッジに指をあてた。
ビッと鋭く爪を放つ――その先には、回り込んでいた武器子が立ち塞がりがしりと手を掴む。
その手ごと押し込み武器子の心臓部へ手がめり込むが、黎明はその時点で目を細めた。
「『不滅の乙女』? ならば」
こちらも強者ならば相手もまた強者。黎明は一瞬で腕に黒きオーラを纏わせ、武器子の持つ『不完全な不死性』をカット。その命をもぎ取ろうと肉体をえぐりとる。
「朝倉黎明と言ったな。ですわ」
とってつけたお嬢様言葉で、百合子さまがシニカルかつ美少女的に笑った。
レベル75近台となる容姿は、唇を笑みの形にしただけで背景に花が咲き、虹がかかり鳥の歌が聞こえた。
「その者はただの不完全不死者ではない。これほどの高みにあるものが、『たかがEXF 100ごとき』で収まるはずがなかろう」
「――ッ」
ぞくりと何かの気配を感じ、飛び退こうとする黎明。だが、武器子の手はそれを離さなかった。そう、武器子さまの手は防御のために掴んだものではない。
「逃がしませんわ……」
攻略できたと思ってのこのこ飛び込んできた獲物を逃さないための『かえし棘』なのだ。さながら、食虫植物のごとくに。
ゴウ――と魔力の塊が黎明の身体を貫く。膨大な力が、もぎ取った部位から止めどなくあふれ黎明を侵食していく。
「白百合清楚殺戮拳……織炎足(おりえんたる)・八重咲!」
その隙を見事について、百合子さまの手刀が黎明の首を切り落とす。
「清楚とはただただ強くあれば良いのです。美しい美しくないなど全く人の勝手な言い様に惑わされるなど愚の骨頂――体位(タイ)が曲がっていましてよ」
●黒百合の夜明け団(ブラックリリィダウン)
花咲く庭に、八人の乙女が集まっている。
ちゃろ子さま、マリア子さま、武器子さま、プラ子さま、迅子さまに綾姫さま、そしてトールさま。
そこへ百合子さまが加わり、八乙女。メタリカ女学園にて乙女八拳将と呼ばれる、伝説の乙女集団である。
「助けたお姉様がたに尋ねて回りましたわ。皆様も、そうでしょう?」
「はい……」
武器子さまの問いかけに、ちゃろ子さまたちが頷いた。
百合子さまは、開いた手帳に目を落とす。
「ペン子さまもマツヨ様も意識を失ったままですが……集めた話から実情は掴めましたわ。
新皇帝即位からすぐ、各派閥に接触を図る組織が現れました。
彼女たちは、乙女が乙女力をもつに至るための背景をことごとく破壊し、堕落させることでその派閥を弱体化させましたの。
ペン子様であれば、異性を籠絡させ堕落した魂の落差を力とする薺ダメンズ妖精拳。結婚により籠絡させる異性が居なくなった上、夫がより出世し高潔なる魂を手に入れたがためマイナスフィードバックを受けていたのでしょう。
ですが恐ろしきは、相手の力の源泉を見極めそれを効果的に無力化する手際。武力ではなく、政治力によってメタリカ女学園を制圧しかけたということですわ」
「政治力……」
「鉄帝にはなかった力の形ですわね」
乙女たちは、手帳に書かれた名に目を細める。
黒百合の夜明け団(ブラックリリィダウン)――その筆頭、アレイスター・クロユリーの名を。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
GMコメント
●オーダー
鉄帝南部に位置するメタリカ女学園へと突入し、新皇帝派となった乙女グループを倒しましょう。
戦闘後は学園を調査することができます。といっても調査はオマケ要素でもあるので、プレイングや活躍のリソースを戦闘に100%注いでもOKです。
●バトル
メタリカ女学園の校内や庭にて乙女たちを襲撃している新皇帝派グループを見つけ、倒します。
新皇帝派グループは2~3人のチームをいくつか組んで校内のあちこちで襲撃を行っているようです。
なのでこちらも2~3人でチームを組んで校内を探索するのが効率的にもよいでしょう。
学園は一般的なお嬢様学校のそれです。
違うのはハードなトレーニングルームや射撃演習場などがあることですが、全体が美しい乙女の園という雰囲気で構成されています。
●調査
事件の背景が気になったらプレイングを割いて調査にあたってみるのもいいでしょう。
なぜなら、新皇帝が即位してからメタリカ女学園に新皇帝派が跋扈するようになるまでのスピードがあまりに速く、他派閥の勢いがこのタイミングで一斉に弱まったため勝手を許したという噂もあります。
学園の裏で何かの策謀が巡っていた可能性があるでしょう……。
●よくわかるメタリカ女学園
・メタリカ女学園
鉄帝国にある名門お嬢様学校です。この学園を卒業した者は軍をはじめ様々なスカウトが得られることから、乙女たちはスカウトを求め学園にてその乙女力を鍛え続けます。
そのため五回六回の留年は当たり前であり、五留で一流とすら言われます。
・『乙女力』
メタ女の乙女たちが行使する力の源です。乙女たちはそれぞれの分野にて乙女力を高め、それを拳や銃弾など様々な乙女力にかえてぶつけ合わせます。
そのためメタリカ女学園では日夜バトルが繰り広げられ、群雌割拠の乙女戦国時代が続いています。
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