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シナリオ詳細

<祓い屋・外伝>もみじ狩り

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 澄み渡る青い空は色を増して、薄く掛かった雲の隙間を鳥が飛んでいた。
 夏の照りつける日差しはもう感じられない。
 夜には鈴虫が窓の外で鳴いているのだ。
 頬を撫でる風が爽やかな涼しさを運んで来る。
 秋の訪れ――空は広く青く。
 美しい紅葉が山の裾に広がっていた。

 再現性京都にある『暮葉の里』は一足先に紅葉を楽しめる場所として有名だ。
 緩やかな散歩道には柔らかな色彩に色づく銀杏や紅葉が見える。
 落ち葉の絨毯をゆっくりと歩いて散策する。
 遊歩道の前には小さな露店が並び、お菓子やお土産が売られていた。
 お弁当やおにぎり、サンドイッチなども取り揃えてピクニック気分も味わえる。

「いやー、良い天気で良かったね。明煌さんと、またこうして遊べるの嬉しいよ」
 屈託の無い『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)の笑顔に『煌浄殿の主』深道 明煌(p3n000277)は曖昧な笑みを浮かべ視線を逸らした。
 眩しいと明煌は心の中で悪態を付く。
 掻きむしられて、嫌になる。腹立たしい程に、尊い光だ。
 視線を逸らした先をトンボが横切った。
 空気抵抗を感じさせない羽ばたきだが、明煌はそれを簡単に捕まえる。
「えっ、どうやって捕まえたの!? すごい!」
 隣から聞こえてくる暁月の声に手を広げてトンボを見せた。
「……練習したんだよ、昔」
 明煌は秋の空を見上げ、優しく降り注ぐ陽光に目を細める。
 紅葉染まる森と、在りし日の声が聞こえたような気がした。

 ――――
 ――

「もみじ狩り……?」
 再現性京都にある深道本家『煌浄殿』の自室で怪訝な表情を浮かべた明煌は、隣で寝転がる『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)の言葉を反芻する。
「はい、京都には紅葉が綺麗な場所があるってさっきテレビで見たんです」
 夕食の後、煌浄殿二ノ社へ出向いていた廻は社務所で紅葉狩りの特集を見たらしい。
 そこで流れていた紅葉が美しく、行ってみたいと思ってしまった。
 けれど、廻はこの煌浄殿に預けられている身。一人で外出は出来ない。
 だから意を決して明煌を誘ってみたという訳だ。

「ダメですかね?」
「……」
 正直な所、明煌は外出するのが好きではない。
 面倒くさいし、紅葉狩りで山の中を歩くのも億劫だ。
 それに……虫の捕まえ方ばかり上手くなってしまったと明煌は眉を顰める。
 喜んでくれる人は、居ないというのにだ。
「暁月さんも誘おうかなって……」
「は?」
 廻の口から突拍子も無い名前が出て、明煌は心底嫌そうな顔を浮かべる。
 明煌の脳裏に浮かぶのは、カブトムシを掴み上げる笑顔の幼い暁月だ。
 けれど、きっともう、そんな暁月は居ない。
 何処にも居やしないのだ。

「暁月が嫌がるだろ」
「そうですかね? 聞いてみます?」
「ちょっと、いや。……、」
 枕元のaPhoneを引っ張った廻は暁月の名前をタッチする。
 やけに静かな部屋の中にコール音が響いた。
『おや、廻かい? どうしたの? 何かあったのかい?』
 スピーカーにしてなくても明瞭な声がaPhoneから聞こえてくる。
 優しく気遣うような暁月の声に廻は安堵を覚えた。
「あの暁月さん。紅葉狩り行きませんか。明煌さんも一緒に」
 明煌は眉を寄せ「余計な事を」と小さく漏らす。
 廻の腕を明煌が力強く握っていた。無意識だろうか。痛みに耐えながら廻は暁月の返答を待つ。
 暁月はおそらく自分と紅葉狩りなんて行きたくないと思っているはずだと明煌は視線を落した。

『明煌さんも来るの?』
 自分の名前を呼ばれた明煌は苦い表情を浮かべる。
 聞きたくない。それがイエスでもノーでも嫌な気分になる。
 暁月は大人である。たとえ、少し気まずい相手であっても社交辞令で「一緒に行く」ぐらいは言ってくるだろう。些細な事だと気にしていないのかもしれない。
『紅葉狩りなんて、いつぶりだろう? 楽しみだね』
 聞こえてくる声は少し嬉しそうで、明煌は舌打ちをした。
 暁月はそういう男だ。誰にでも優しくて陽気で楽しげで……成長してからは『正しく大人』で。
 本当に嫌になると明煌は不機嫌な表情のまま、廻の頬を鷲づかみにしたあと、枕に突っ伏す。
 ふてくされた明煌を優しくあやすように、廻は掌を彼の頭に乗せた。

GMコメント

●【重要】ピンナップシナリオ
 このシナリオは『ピンナップシナリオ』です。
 リプレイと挿絵の合体した商品で、正規参加した場合、その両方の参加権利を得ます。
 シナリオのリプレイ作成後、運営よりイラストレーターに挿絵を依頼します。

【今回のピンナップシナリオ概要】
・シナリオ執筆:もみじ
・イラストレーター:バクレツアロワナIL
(https://rev1.reversion.jp/illust/profile/1732)
・人数:イレギュラーズ7人、NPC3人
・イラストサイズ:1920*1080(縦横おまかせ)
・ご注意:基本画像(全身図)が最低一枚以上ない場合、参加はご遠慮くださいませ。
(除外の可能性があります)

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 もみじ狩りです。
 楽しんで行きましょう。

●目的
・もみじ狩りを楽しむ

●ロケーション
 再現性京都にある『暮葉の里』です。
 一足先に色づいた紅葉の山々が見えています。
 高く澄んだ空は青色。遊歩道には楓の樹や銀杏が植えられています。
 広い場所なので、人目を気にせずのんびりとできます。
 遊歩道に入る前にはちょっとした露店があります。
 飲み物や軽食などを買ってピクニック気分が味わえます。

●出来る事
【A】ピクニック
 見晴らしの良い場所や、紅葉の絨毯の中です。
 遊歩道を歩いたり、お弁当を持ってのんびり。
 高い空には雲ひとつ無く、紅葉と青空を眺めることが出来ます。

 お弁当は入口の露店で買ってきてもいいですし、持参しても大丈夫です。
 露店にはサンドイッチ、おにぎり、おでん、お団子やジュースなど軽食が売っています。
 紅葉にちなんだ紅葉のはっぱを乗せた饅頭があります。
 お酒も売っています。未成年はジュースです。

【B】もみじ狩り
 オレンジ色のまあるいマスコットを落ち葉の中から探すゲームです。
 幻想国で見かける『プルプル』という妖精に似ています。
 捕まえることが出来たら小さな幸せが訪れると云われています。

 夢中になって探していると、なぜか後からころころと転がってきます。
 そのまま受け止めるもよし。全力で逃げるもよし。
 拾って目が合うと「ふふっ」という声と共に、なぜか身体が幼児化します。
(手放すと元に戻ります。※安全な夜妖の仕業です)

【C】お土産を買う
 暮葉の里の出入り口には露店が並んでいます。
 軽食や散策用の杖、お土産があります。

・紅葉のアクセサリーやキーホルダー
・紅葉の栞や絵はがき
・秋の色合いのエプロンや洋服など
・紅葉のはっぱを乗せた饅頭
 他にも秋を感じさせるお土産が沢山あります。

【D】その他
 紅葉の山でできそうな事ができます。

●NPC
○『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)
 希望ヶ浜学園の教師。裏の顔は『祓い屋』燈堂一門の当主。
 記憶喪失になった廻や身寄りの無い者を引き取り、門下生として指導している。
 精神不安に陥り暴走しましたが、イレギュラーズに救われ笑顔を取り戻しました。
 廻が煌浄殿へ入ったので、少し寂しい思いをしています。
 煌浄殿の主、明煌とは双子のように瓜二つで、過去に何かあったようです。
 今日はお洒落眼鏡をかけています。

○『煌浄殿の主』深道明煌
 禊の蛇窟がある煌浄殿の主です。
 煌浄殿は廻の泥の器を浄化する場所でもあります。
 呪物となり煌浄殿に入った廻は明煌に逆らえません。
 何だか不機嫌そうな雰囲気がありますが、噛みつかれはしないと思います。

○『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)
『泥の器』にされてしまい穢れた状態です。
 皆に会えて嬉しそうですが、少し痩せたようです。
 体力が落ちているのか少しゆっくりと歩きます。

●祓い屋とは
 練達希望ヶ浜の一区画にある燈堂一門。夜妖憑き専門の戦闘集団です。
 夜妖憑きを祓うから『祓い屋』と呼ばれています。

●これまでのお話
 燈堂家特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/toudou

  • <祓い屋・外伝>もみじ狩り完了
  • GM名もみじ
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月05日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談8日
  • 参加費800RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
祈光のシュネー
國定 天川(p3p010201)
決意の復讐者

リプレイ


 青く澄んだ空から、真っ赤な紅葉が落ちてくる。緑色だった葉は温かな秋の色に染まっていた。
 敷き詰められた紅の絨毯が視界を覆い尽くし、僅かに吹く風が頬を撫でる。
「……もみじ狩りか」
『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は男物のコートとハイネックのインナーを着こなし蒼金の瞳を細めた。
 幻想国で行ったきり秋を楽しむ機会が無かったからと嬉しそうな色が浮かぶ。
 楽しみ過ぎて寝られなかった程だ。パンフレットを広げながら紅葉染まる森に視線を上げる。
「……此方にも『プルプル』みたいなのいるんだってな? 捕まえたら幸せが訪れるってアレだ!」
「へえ、そんなのいるんだ?」
 パンフレットを覗き込んだ『あなたの世界』八田 悠(p3p000687)は秋色のロングスカートスタイルだ。
 レイチェルも悠も紅葉狩りの服装に迷い、急遽買って来たものだ。
 流石に白衣や学生服ではこの場に合わないと思ったのだろう。

「君は相変わらずスーツかぁ、天川」
「別に構わないだろう、これが一番動きやすい」
 待ち合わせ場所で手を振った『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)は友人『求道の復讐者』國定 天川(p3p010201)の相変わらずのスーツ姿に笑みを零す。
「ふふっ、君らしいよ。それにしても天川が来てくれるなんてびっくりしちゃったよ」
「まあ、偶にはな……お土産も買えるし。ここまで来たからには満喫しないとな。さあ、行くぞ」
 天川は暁月の隣に居る『煌浄殿の主』深道 明煌(p3n000277)を見上げ怪訝な表情を見せた。
「って、……明煌も行くのか? まぁいいか……」
 ばつが悪そうに視線を逸らした天川に『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)は小首を傾げる。
「紅葉狩り、いいよね」
 動きやすいパンツスタイルでパンフレットを広げる『天空の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)。
 サロペットコーデは秋の色を取り入れて温かい印象を与えていた。
「ねえ、何か買って行く?」
 ジェックは『暮葉の里』の露店を指差す。
「酒とかつまみか……」
 天川とジェックは露店を覗き込みながら美味しそうなものを吟味していた。
「フランクフルトでしょ、アメリカンドッグでしょ、ハットグでしょ……あれ、なんか大体似てる?」
「イカ焼きとかも良いんじゃねぇか? あとは焼き芋もあるな」
『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)はほくほくの焼き芋を手に歯を見せて笑う。

「折角だしお酒も飲みたいな」
 ジェックはお酒が売っている露店の前で何本かの瓶を手に取った。
「でもどんなのが良いんだろう……まだよく分からないんだよね。甘いものが飲みやすいのかな……
 明煌、教えてくれる? てか、飲める?」
 振り向いたジェックは通りかかった明煌に視線を上げる。
「……ジェックちゃんこそ飲める歳なの?」
「うん、今年20歳になったんだ」
「ふぅん? じゃあ、ジュースみたいなのがいいよ。飲みやすいし。色々挑戦するのはアルコールの味を覚えてからでも遅くないからね」
 明煌はジェックの手に桃の果実酒を置いた。

「廻さんとも暁月さんともまた会えて、皆と一緒で嬉しい!」
 ぱたぱたと駆けてきた『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は廻と暁月のまわりを子猫みたいにはしゃいで回る。
「祝音さん、僕も会えてうれしいです」
 子猫がじゃれ合うように祝音と廻は手を取りくるくるとその場で数度回転した。
 祝音がよく着ている可愛らしい服が風に揺れる。
「もみじ狩りも山も、色々楽しもうね……!」
「はい! 楽しみましょう!」
 様子を伺いながら廻の元へやってきたのは『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)だ。
「廻殿、久しぶりだな……ちょっと痩せたか?」
「……はい。ちょっと痩せちゃいました。あんまり食べられなくて。でも、大丈夫ですよ。煌浄殿に居る呪物の方に栄養のある花蜜を貰ってるので!」
「成程。それなら大丈夫か。……繰切殿も白銀殿も寂しがっててな。そうだここにカメラが……」
 カバンの中からカメラを取り出したアーマデル。
 覗き込む廻の視界に、一瞬だけバニー姿が映り込んだ。
 今日の衣装はハイネック腹出し丈ノースリーブインナーの上にパーカーだが。
「あ……」
「何でも無い……廻殿のnowを記録していいか? 一番は今日一緒の皆の記憶の中だがな」
 バニー画像には何故かいつも隅に小さく映り込んでるイシュミルも居た。素早く消去ボタンを押す。
「暁月殿も明煌殿も久しぶり、ちゃんと食べてるか? 勿論、廻殿をじゃないぞ人類の食事をだぞ」
「……」
 アーマデルの言葉に明煌は無言で意地悪そうな笑みを浮かべた。
「そう人類の食事。弁当は買ってきた……光らないのを」
「光るの前提なの?」
 訝しげにアーマデルを見つめる明煌。視線を逸らすアーマデル。


 赤く染まる森の中を縫うように、遊歩道が続いている。
「これがもみじ狩りかぁ。綺麗な景色ってのは色々見て回ったことあるが、こんなに立派な場所はあまり経験ねぇな!」
 ニコラスは今日のために買って来たカメラを高らかに掲げた。
 彼の服装はカジュアルな秋服。ベージュのトレンチコートにロック系のプリントがされた白シャツ。細めで黒のスキニージーンズを着こなしている。
「いーっぱい写真撮るぞ! 満喫して楽しみまくるぞ!!! えいえいおー!」
 テンションの高いニコラスに廻がくすりと微笑む。
「……んだよ。焼き芋食うか? ちょっとなら食べられるだろ?」
 頬を掻いたニコラスは買って来た焼き芋を少し廻へと分けた。
 あまり食べられないと先程耳にしたからだ。
「ありがとうございますっ! あ、祝音さんも食べますか?」
「お、祝音も食べるか? 皆で食った方が美味いからな。ほら半分」
 ニコラスは顔を覗かせた祝音に焼き芋を分けた。
「……はふ、おいしい」
「はい、美味しいです」
 嬉しそうに焼き芋を頬張る廻と祝音をニコラスは微笑ましく見つめる。

 遊歩道の両側は紅葉で覆われ、その向こうには青空が広がっていた。
「上を見上げりゃ青に紅が映え、川を眺めりゃ水面に映る逆さ紅葉が目を楽しませてくれる」
 ニコラスはうんと伸びをして大きな声で笑う。
「かはは。綺麗な景色じゃねぇか。美しいもんってのは心を揺さぶる。世界ってのはまだ捨てたもんじゃねぇって思わせてくれる。そうは思わねぇかい? 明煌さんよ」
「……そうだね」
 明煌の隣に歩いて来たニコラスは彼が何処か遠くを見ていると感じる。
 肯定の言葉はあれど、何か物思いに耽っているように見えた。
 ゆっくりと暁月の元へ歩いて行く明煌の背を見守るニコラス。
 じっと見つめて居ると暁月が明煌の右側へとさり気なく移動するのが見えた。
「……別に、もう打つかったりしないよ暁月」
 右目が失われてからの時間の方が遙かに長いのだ。
 心配は要らないとそっぽを向く明煌に、暁月は少しだけ肩を落す。
 子供の頃のように気兼ねなく言葉を交す事すら、大人になってしまった今では難しい。
「二人は前も『暮葉の里』に来た事あるのか?」
 見かねたレイチェルは暁月と明煌へ声を掛けた。
「ほら、暁月が前も明煌と遊んでたって言ってたろ? ここにも来た事あるのかなってな」
「この暮葉の里には初めてだよね、明煌さん」
「……そうだね。煌浄殿に忍び込んだり、近くの公園とか海とか山とかプールとか行ったけど。此処は来てないかな。子供の足だとちょっと遠いしね」
 僅かに和らいだ空気にレイチェルは胸を撫で下ろす。
「練達は詳しくないから……二人が好きな場所、教えて欲しい」
「私は色々あるよ。燈堂の茶屋から見る中庭だったり、門下生の子供達が集まって美味しそうに食べてる時だったり。旅行とかも好きでさ。各地の温泉とかいいよね……明煌さんは?」
 話を振られた明煌は嫌そうな顔をしたあと、本心を隠すように「廻の膝枕」と視線を逸らす。
「……廻の膝枕? そ、そうか。思ったよりも仲良くしてるみたいで安心したよ」
「いや、冗談だけど。ほら、皆待ってるから行こう」
 不機嫌そうに眉を寄せた明煌は大きな歩幅で歩いていった。

「廻さん、大丈夫?」
「あっ……すみません。遅かったですね」
 僅かに息が上がった様子の廻は、以前よりも歩くスピードがゆっくりに思えた。
 祝音は心配そうに廻の顔を覗き込む。
 おそらく煌浄殿で何かあったのだろう。泥の器の浄化とはそれ程までに体力を蝕むものなのだ。
 それでも来てくれたことに祝音は胸が熱くなる。
「あ、僕ね。さっき散策用の杖を買ったんだ。これ使って?」
「ありがとうございます。祝音さん」
 祝音はいざという時支えられるように、二人で杖を持ってゆっくりと歩く。
 時々心配そうに暁月と明煌が交互に様子を伺いに来た。
 それでも祝音と一緒に歩きたいから、廻はのんびりと紅葉を楽しむ。


 天川は廻をひょいと持ち上げ肩車をしてみせる。
 背の高い天川が見ている景色を廻にも見せたいと思ったからだ。
 思ったよりも『軽すぎる』廻の重さに天川は眉を寄せる。それは、何処か『夜妖』を思わせるもの。
 魂が薄いといった方がいいだろうか。そんな感覚を覚える天川。
「あの、天川さんは明煌さんのこと」
「あぁ……なんだ。別に明煌が嫌いって訳じゃねぇ。ただ、あいつを見てると刑事時代を思い出してな。あいつ、公安の連中そっくりの雰囲気を纏ってやがる。どうも連中とはソリが合わなくてな。廻から見て明煌は信用できる男か?」
「えっと……」
「俺はどうも胡散臭く思えてな。まぁお前達が信用するなら俺も努力しよう」
「……最初はすごく怖かったです。儀式も辛いし明煌さん何考えてるか分からないし。
 僕、毎日泣いてて。暁月さんの話しをすると不機嫌になるし。早く帰りたかった。
 でも、煌浄殿に居る呪物の皆は明煌さんの事が大好きで、色々教えてくれるんですよね。
 明煌さんの優しい所、不器用な所、寂しんぼな所、怖がりな所。
 思ってた程、怖い人じゃなかった。それに、あまねが居なくなって何も能力のない僕でも、煌浄殿に居て良いって言ってくれた。一人の人間として、対等に向き合ってくれた」
 暁月には拾われた恩を己の能力を持って返さなければならない。たとえ暁月が家族だと思っていてくれるとしても、燈堂に置いて貰う為に義務を果たさなければならないと廻は思ってしまうから。
「だから、僕は明煌さんのこと最初よりは好きですよ……たまに子供っぽい所あって。腹立つことあるので。そこは、好きじゃ無いですけど。口喧嘩みたいになることあるし」
 理不尽を打つけられ泣いてしまう夜もあった。
 暁月になら腹を立てないのに、明煌だと不貞腐れてしまう自分が居ると廻は天川に囁く。
 優しく人当たりの良い廻が『口喧嘩』とは。もしかしたら廻の育っていなかった情緒が明煌と居る事で伸びているのかもしれないと天川は目を細めた。燈堂の人達は庇護的であったが対等ではなかっただろう。
 いつの間にか廻の足に巻き付いていた赤い縄を見つけ天川は驚く。
 この縄の先は明煌へと繋がっているのだろう。廻が落ちた時の為の命綱だ。
「意外と大事にしてんじゃねぇか」
「ん? 何か言いました?」
「いや、そろそろ戻るか。腹が減ってきたしな」
 肩車から廻を降ろせば赤い縄はふわりと消えた。


「久しぶりだな。お前さん、何か企んでるわけじゃあるまいな?」
 皆と少し離れた場所で煙草を吸っていた明煌の元へ天川がやってくる。
「何を突然……」
「正直まだお前さんは気に入らねぇ。が、これは私情だ。こんなことを言ってても仕方ない。だから率直に聞かせてくれ。明煌よ。あの二人をどうこうするつもりはないんだな?」
 煙草の煙を横に吐いてから、明煌は天川へと視線を向けた。
「どうこうってのがよく分からないんだけど。廻は大切な暁月からの預かり物で、暁月は自分の甥だよ?」
 関わり方が他人から見て歪であったとしても、それを虐げたいと思っているのかと問われれば。
 答えは『否』であるのだろう。明煌なりに大切に思っているのだろうと天川は読み取った。
「まあ、お前さんがそう言うなら俺はそれを信じよう。
 仲良くしてくれとは言わんが、それなりにうまくやろうぜ」
 天川と明煌は煙草の火を消して携帯灰皿へと吸い殻を仕舞う。

 柔らかな紅葉の絨毯にレジャーシートが広がる。
 ニコラスが広げたシートの上に荷物を置いて、全員が座る……には少し狭いが。
 これも何だか遠足のようで楽しいとレイチェルは微笑む。
 皆が荷物を置くのを見計らってその場を離れるレイチェル。
 少し離れた場所――木の陰でカバンから『自分用の食事』を取り出す。
「腹減りすぎて誰かに噛み付いたら洒落にならんしなァ」
 ゼリー飲料を飲むみたいにレイチェルは輸血用血液を嚥下した。
 腹の奥に広がる血液から、熱が広がり『空腹』が満たされていく。
「……全く、難儀な身体だ。吸血鬼と言うのも」
 カバンの中に仕舞った空のパックの代わりに、ハンカチを取り出して口を拭いたレイチェル。
 嗜好品としてヒトの食べ物も食す事が出来るから、皆で何かを食べる時は問題無い。
 むしろ、皆で食べる時の楽しさがレイチェルは好きだった。
 皆の元へと戻れば、既にお弁当が広げられていた。


「紅葉ってふかふかだよね。ちょっとベッドみたい」
 シート越しに伝わってくる紅葉の感触にジェックは笑みを零す。
 ゆっくりと腰掛ければ沈み込む重心に慌てて手を着いた。
「あっ、座ると少しバランス取るの難しいな……」
 先程買った酒瓶がシートの上に転がって、陽光を反射する。
「酔うと危ないかも……」
「程々にね」
 カップを持って来た明煌がジェックへと手渡した。
「そうだ、桃の果実酒一緒にのまない?」
「ん? いいよ」
 ジェックの隣に座った明煌は小さく乾杯とカップを合わせる。
 口の中に転がって行く桃の香りと甘さの奥に、アルコールの強さが落ちてきた。
「確かに、甘くて美味しいかも」
「ジュースみたいだけど、飲み過ぎないようにね」
 水を飲むみたいに早々にカップを空にした明煌は、酒瓶を手に取ったあと一瞬だけ考えてからシートの上に戻した。
「どうしたの?」
「いや、美味しいからさ。すぐ飲んじゃいそうで。ジェックちゃんのが無くなるなって思った」
「明煌さんが気を使うなんて……雨降りませんか?」
 シートの上を歩いてきた廻がふにゃりとした笑顔で明煌の隣に座り込む。
「流石に、成人したての女の子が買った酒を横取り出来ないから……」
 明煌は廻が持っていた酒入りのカップを奪い取って一気に飲み干した。
「えぇ……、自分で注いでくださいよ」
「面倒」
 空のカップを返した明煌に廻は頬を膨らませる。
「ふふ、仲良いね二人とも」
 子供みたいな明煌と廻のやり取りにジェックは思わず吹きだした。
「最初はすごく怖い人だと思ってたんですけど。意外と……」
 廻が何かを言い出す前に明煌はその口を手で塞ぐ。
「いらん事いわんでええし……ほら、もう皆のとこ行け、いけ」
 明煌は廻を立ち上がらせて背を押した。
 くすくすと微笑むジェックに、ばつが悪そうに空を仰ぐ明煌。

「ピクニックのお楽しみといえば、お弁当のおかず交換だよね」
 悠は買って来たお弁当を広げ、楽しそうに笑みを零す。
「唐揚げちょうだい、卵焼きあげるからさ」
「うむ……光ってないから大丈夫だ」
 アーマデルは悠にお弁当箱を差し出した。
「普段は光ってる、の?」
「……たまにな。廻殿もどうだ?」
「そうそう、体力落ちてるんだよね? いっぱいお肉とか食べよう? あ、いっぱいは食べれないんだっけ? でも、こんなに景色も良いしいっぱい歩いたから、少しなら行ける行ける!」
 廻のお皿にアーマデルと悠がおかずを一つずつ乗せる。
「ありがとうございます。頂きます」
 唐揚げも卵焼きもどちらも美味しくて、廻は頬を染めてにんまりと笑った。
「秋の味覚ってのはどうしてこうも美味いんだろうな。廻も食ってるか?
 美味いもんは食える時に食っとかなきゃ勿体ねーぞー?」
「はい。食べてますよ。ニコラスさんも祝音さんも一緒に食べましょ」
 廻はお弁当を持って来た祝音とニコラスを手招きする。
「うん、僕のはね。玉子焼きにたこさんウィンナーにおにぎりに……ちくきゅう」
「祝音さんが作ったんですか? すごいですね!」
 一生懸命小さな手で料理している姿を想像して、廻は感動して涙ぐんだ。
「デザートはみかんとりんご。お茶も持ってきたんだ。廻さんも皆も食べる?」
「はいっ! 皆で一緒に食べましょう」
 たこさんウィンナーを頬張る祝音は美味しそうな皆の顔に自分も嬉しくなる。

「廻が楽しそうで良かった……ほら、これ白銀と牡丹が作ったお弁当だよ。皆で食べようか」
 暁月は大きなお重を抱えシートの上に広げた。
「白銀さんと牡丹さんの……」
 廻が一口里芋を摘まめば、懐かしい味がした。
 記憶喪失で拾われた廻にとって、白銀と牡丹が作ってくれる料理は『母の味』に等しい。
 ぽろりと零れた涙を暁月がハンカチで拭う。
「泣くほど嬉しいのかい?」
「だって……美味しくて」
 煌浄殿に預けられてからの『寂しい帰りたい』という感情が優しい味に解けて行くようで。
 頑張ろうという気力が沸いて来る。
「よし、フルーツはどうだ? あんま食べれねぇっても、フルーツならいけるだろ。ほら、明煌もどうだ?
 今の時期は、林檎とか梨が美味いぞ。食うか?」
「ありがとうございます! 明煌さんも一緒に食べましょ!」
「そうだよ。ほら、切ってあげるからおいでよ」
 器用なナイフ捌きで梨を剥いた暁月は、レイチェルや廻、明煌へと果物を渡す。
「明煌も廻もちゃんと食ってンのか?」
「えと、僕は花蜜を飲んだりしてるので、大丈夫ですよ」
「花蜜って……?」
 煌浄殿の呪物である金木犀の夜妖が与えてくれる花蜜は栄養が豊富らしい。
「点滴みたいなものか。まあ、無理しないようにな。んで明煌は?」
「明煌さん好き嫌い多くて……」
「子供みたいだな」
「……」
 レイチェルの忌憚のない意見にムッとした明煌は「余計な事を」と廻の頬をムニムニと摘まんだ。
「暁月、明煌! 一杯やるぞ! 廻……は駄目だな。ジュース飲むか?」
 信じると決めたからには、理解しようと天川は酒を明煌に勧める。

「じゃーん! デザートは紅葉饅頭だよ。食後に甘味があるだけで満足感跳ね上がるよね」
 悠は露店で買った饅頭を高らかに掲げる。
「それと……見ててね」
 悠の頭に生えた木の枝の蕾が膨らみ、ふわりと桜の花が割いた。
「わわ!? 凄いですね!」
「ふふん、季節外れのお花見さ! もちろん他の花も咲かせられるよ! 紅葉と桜が一緒に見られてお得な感じでしょう?」
 こくこくと頷いて悠の頭に咲く花を見つめる廻。
「廻殿、差し入れだ。クッキーは大丈夫か?」
「あ、アーマデルさんありがとうございます」
 ぱくりとクッキーを頬張る廻にアーマデルは心配そうな顔を向けた。
「普段どんなふうに過ごしてるんだ?
 ああ、差し支えない範囲で構わないぞ、気にしないでくれ、友人だしな」
「ええと。浄化の儀式がある時はしんどくて寝込んじゃう時もあるんですけど。
 大体は、お昼前に起きて明煌さんと一緒にお昼ご飯食べて。お散歩したりお掃除したり復学した時の為に勉強したり明煌さんとゲームしたり、たまにお出かけしたりして晩ご飯も一緒に食べて。
 本殿に居る時は殆ど明煌さんと一緒に居ますね。明煌さんが呪物回収に出る時はお留守番ですけど。
 アーマデルさんはお変わりありませんか?」
「俺は…あまり変わっていないな、変われていない。
 ただ……兄弟の間の絆を絶つことを、また重ねてきた気がする」
 視線を落すアーマデルの手をぎゅっと握る廻。
「大丈夫ですか?」
「ああ、……大丈夫だ」
 悲しみの欠片を分かち合う事は出来ないけれど、友人が少しでも元気になりますようにと廻はアーマデルを緩く抱きしめた。


「ほーん。幸運ねぇ。なら俺の出番ってわけよ!」
 お腹が満腹になれば、今度は宝探しに紅葉広がる森へ足を踏み入れるニコラス達。
「ギャンブラーが幸運を掴むなんざ日常茶飯事だぜ? 気張っていくぜ!!」
「おー!」
 ニコラスの言葉に拳を上げる暁月と廻。
「ところでよ、幸せを願うんならどんな幸せを願うよ」
 振り向いたニコラスは明煌と暁月に問いかける。
「ふふ、ニコラス君は?」
「俺?俺はそうだな……『この時間がもっと続きますように』なんてのはどうよ? 俺は言ったから明煌さんと暁月さんも教えろよ!」
 ニコラスの声に「そうだなぁ」と微笑む暁月。
「私は、廻が傍に居て、門下生の皆の成長を見守って、君達イレギュラーズが遊びに来てくれる。そんな楽しい時間が幸せだなぁって思うよ。それで昔みたいに明煌さんと仲良くなれたら嬉しいかな?」
「…………」
 暁月の言葉に無言で拒絶を示す明煌。少しずつ暁月から距離を取る。
 その明煌の様子を見つめ、暁月は肩を落した。昔のようには上手く行かないのだろう。
 レイチェルは明煌と暁月を見遣り首を捻った。どうにも二人の間には重い空気が漂っているように見えてならないのだ。これが只のお節介だし余計なお世話だけれど、仲が良かったという二人が疎遠になるのは悲しいと拳を握るレイチェル。
「……二人が『双子みたいに』似てるから、余計な世話を焼きたくなったのかもな」
 小さく零れた言葉にレイチェル自身がハッとして首を振った。
 脳裏に浮かぶのはいつも、己の『妹』の笑顔だ。
「こういうのは一旦何も考えずにただただひたすら楽しむのが吉さ。全力でね!」
 落ち葉を大きくかき分けて、小さな幸せを齎すという『プルプル』に似た夜妖を探す悠。
 両手一杯に紅葉を抱えた悠は、廻やレイチェルへの上に降り注いだ。
 ひらりと舞い踊る紅葉は廻達の頭の上にくっつく。

「オレンジ色のまあるいマスコット、探すよ」
 祝音は廻とアーマデルと共にオレンジ色の夜妖を探し求める。
「猫さんみたいに可愛いのかな……みゃー?」
 落ち葉をかき分けてみれば、何故か見知らぬ猫が居た。
「にゃー」
「ね、猫さん!」
 祝音は突然現れた猫に気を取られる。しかし、今は夜妖を探すのが先決。
「なかなか見つからないね……オレンジ色で隠れやすいのかな? 見つけるまで頑張る。みゃー!」
 アーマデルは保護者のイシュミルに腹を立てながら自身もオレンジ色のマスコットを探す。
 プルプルに似たマスコットを掴み上げたアーマデルはマジマジとそれを見つめた。
「お、この色ツヤ、丸み……これがもみじ……? おかしいな俺の知ってる紅葉じゃない。
 ははあ、紅葉狩りじゃなくてもみじ狩り。なるほど。……騙されてるぞ人類!
 あ、あのツラ……幼児化ビーム……うっ……なんだこの記憶は……」
 アーマデルはイシュミルにマスコットを投げつける。
「……イシュミル、どうだ、可愛いだろうこれ、ちょっとキャッチしてみてくれ。俺? 俺はいいんだ、あんたがこの可愛いアレを抱っこしてるカワイイ姿を俺はカメラに収めるんだ、話聞けよこの野郎」
 震えるマスコットを握り締めたアーマデルはみるみる内に身体が小さくなる。
「こ、こいつ──」

 アーマデルの叫びに祝音と悠が顔を上げた。
 山の上の方からコロコロとまあるいマスコットが転がってくるのが見えた。
「あ、何か転がってくる……」
「さあ、おいで! 受け止めるよ!」
 祝音と悠はオレンジ色のマスコットをしっかりと受け止める。
「暁月さん達は小さくなってる? いつもより動ける、追いかけっことかできるかな……まてまてー!」
 その傍らではレイチェルとニコラスも幼児化していた。
「あれ? 体が小さくなってる……なんでだろう?」
 首を傾げる祝音はニコラスが木の陰に隠れて居るのを見つけた。
 悠はニコラスの隣に座り込んで顔を覗き込む。
 濁った瞳はまるで人形のようで「大丈夫?」と悠はニコラスの肩を揺らした。
「お願い……家族とずっと一緒。叶えてくれる?」
 ニコラスの幼い声が懇願するように枯れ葉へと落ちる。


「明煌殿、あきらどのーーー!」
 幼児化したアーマデルと悠、レイチェルはマスコットを掴んで明煌の元へやってきた。
「プルプル、つかまえた! おれはいいから、ふたりにしあわせをあげる!」
「そうそう。なんか暗い表情をたまにしてるけど、笑ってないと幸せはなかなか来てくれないよ?」
 近づいて来る三人に投げつけられたマスコット。幼児化しているとはいえ、そこはイレギュラーズ。
 逃げようとした明煌と、巻き添えを食らった暁月と廻が三人揃って幼児化する――


 少し傾いてきた陽光を背に、祝音と天川はお土産を選んでいた。
「ふふ、楽しかったねぇ」
 紅葉のはっぱを乗せたおまんじゅうを買った祝音は廻の元へ駆け寄ってくる。
「はい、これ……」
「ん?」
 廻の手の中に落されたのは紅葉を抱えた猫のキーホルダーだ。
「おそろいの、約束。……また、遊ぼうね」
「はい。ありがとうございます。また、遊びましょうね」
 祝音と廻は指切りをして約束を交す。
 天川は暮葉の里に転がっていたマスコットに似た謎の人形を手に取る。
「先生にも見せてやりたかったな」
 美しい紅葉の絨毯は見せて上げられなかったけれど、思い出話とこの人形をお土産に、また彼女の元へ訪れようと口の端を上げた。

 ジェックは明煌の隣に歩み寄り紅葉を見上げる。
「紅葉が近くに植わってなかった時に、綺麗な紅葉の枝を折って持ち帰って眺めたから「紅葉狩り」って言うんだってさ……なんて、楽しみだったから調べてきたんだけど」
「へぇ、そうなんだ」
 明煌へと赤き双眸を上げるジェックは「ねえ」とコートの裾を引いた。
「煌浄殿にも『紅葉狩り』、してあげない? 綺麗な枝を探そうよ」
 ジェックは以前出会った実方眞哉が煌浄殿に居ると聞き及んでいた。
「眞哉にあげてほしいな。彼は見に来れるのかもしれないけど……大切な子が出来たって聞いたから。その子にも見て欲しいもんね」
「あー……ミアンか。いいよ、探そうか」
「アタシも、タント……恋人に持って帰ろう。綺麗な紅葉の枝、一緒に見れば思い出も共有できるよね。
 明煌は……枝を持って帰ってあげたい相手、いる?」
 首を傾げたジェックに明煌は遠くを見つめた。
「どうかな……」
 昔なら、きっと。一点の曇りも無く『暁月』と言えただろうに。

 ――――
 ――

「おっと、廻大丈夫かい?」
 帰り道の道中。ふらつく足が地面から出た木の根に絡まって、廻は前のめりに倒れ込む。
 それを咄嗟に受け止めたのは暁月だ。
「すみません、最近筋肉落ちゃったみたいで……」
「立てるかい? 車で送って行こうか? 私は飲んでないし」
「あわ、わ。大丈夫です。心配かけてごめんなさい」
 申し訳なさそうに眉を下げる廻を後から持ち上げた明煌の大きな手。
「海晴が迎え来てるから大丈夫。暁月ごめんね、付き合わせて」
 廻を片腕で支えた明煌は、もう片方の手で暁月の頭を撫でる。
「……ふふ、いや全然。楽しかったよ。何より二人が仲よさそうで良かった」
 暁月は笑顔で廻の腰に巻き付いた赤い縄を指差した。廻が倒れる寸前明煌が巻き付けたものだろう。
「大切な預かり物だしね。……それじゃあ、海晴に怒られるから行くよ」
 名残惜しそうに明煌の指が暁月の頭から頬を伝い離れる。
「うん、また。廻のことよろしくね」
「……ああ、分かってる。じゃあ」
 蹌踉ける廻を子供をあやすように抱え上げた明煌は、夕暮れの道に長い影を落していた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 もみじ狩り。お楽しみ頂けましたら幸いです。
 ご参加ありがとうございました。

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