シナリオ詳細
<竜想エリタージュ>蜥蜴の王の名を持つ怪物。或いは、金鮫・ティブロンの災難…。
オープニング
●シレンツォの沈没船
地上の楽園、シレンツィオリゾート。
フェデリア島から少し離れた海域では船の遭難・行方不明が相次いでいた。
つい先日も、フェデリア島から出航した漁船が1隻、行方をくらませている。
「ぬぅ? これが件の船か……?」
岩礁へと降り立ったのは、鎧姿の中年男性……オウェード=ランドマスター (p3p009184)である。くるりとカールした髭を手で撫でつけながら、彼は岩礁に乗り上げている漁船へと視線を向けた。
ダガヌ海域と呼ばれるそこは、3つの島を頂点に三角形を描くような形をしている。
そのうち1つ、ディンギル岩礁地帯はその名の通り岩礁が多く、船の事故が多い地帯だ。件の漁船も、何らかのトラブルによりディンギル岩礁地帯へ入り込み、座礁したものと思われる。
事実、見える範囲には古いものから、比較的新しいものまで、多数の船の残骸があった。
おそらく、その海底には幾つもの船が沈んでいることだろう。
「座礁した……のかしら? 船底に空いている穴は、まるで牙か何かで抉られたように見えるわ」
小舟の縁に腰かけたまま、善と悪を敷く 天鍵の 女王 (p3p000665)はそう言った。
今回、ディンギル岩礁地帯へ調査に訪れたのはオウェードとレジーナの2人だけだ。偶然、近くの海域にて別任務に当たっていた2人が、フェデリア島からの連絡を受けてそのまま現地を訪れたというわけである。
当然、漁船の捜索状況如何を問わず、後ほどイレギュラーズの仲間たちが応援に駆け付けることになっている。つまり2人の役割は、先遣隊として現場状況の確認ということになる。
「レジーナ殿もそう見るかね? これで、船員たちが無事であれば救助して終わりだったんじゃがのう」
「何かに襲われたとなれば、もう少し調査を続ける必要があるわね。どういうわけか、乗組員たちの姿もないもの」
漁船に乗っていたのは、船長以下6名の船員だ。
現在、船員たちの姿はどこにも見当たらない。生存しているのか、それとも既に命を落としたのかさえ定かではない。
もしも生きているのなら、遭難者として捜索を行う必要があるだろう。
「惨いことを言うようじゃが、もしも何かに襲われたのだとしたら、既に命は無いように思うがなぁ」
「歯型の大きさから推測すると、全長20メートルオーバーの肉食生物……と言ったところかしら」
海の生物には、巨大なものが多くいる。
海洋でかつて猛威をふるった怪物は、見上げるほどの巨体であった。
だからといって、20メートルを超えるような化け物となると、そう頻繁にお目にかかれるものでは無い。
「同じように食われた痕のある船は……ん?」
周囲をぐるりと見まわして、オウェードはふと何かを見つけた。
それは、おそらく人のようだ。
岩礁地帯の端に体を引っ掻けて、ぐったりとしている人影だ。肌の色は褐色で、首から背中にかけては金の髪がべったり張り付いている。
どうやらそれは女性のようで……どういうわけか、人影の横には鮫が1匹、横たわっている。
「人のようじゃの」
万が一の場合に備え、オウェードは片手に斧を持つ。
それから周囲を警戒しながら、人影の元へ近づいていく。
●金鮫・ティブロンの証言
「やぁ、助かった助かった。いや、なに、ちょっと怪物と一戦交えたわけだが、それがなかなか手ごわくてなぁ!」
そう言って、褐色肌の女性が笑う。
彼女の名はティブロン。相棒の鮫“アーロ”と共に、世界各地の海を渡る海賊だ。
「……まぁ、無事で何よりじゃよ。見たところ、ティブロン殿も、アーロ殿も、大きな傷を負ってはおらんようじゃしな」
顎髭を撫でつけ、オウェードは言った。
場所は岩礁地帯の片隅。海面から幾らか離れた岩の上だ。
「知り合い?」
オウェードとティブロンの会話に耳を傾けて、レジーナはそう問いかける。
「……うむ。以前、とある依頼でな」
「オウェードは、我が海賊団の一員だ!」
呵々と笑うティブロンと、どこか難しい顔をしているオウェードを、交互に見やってレジーナは首を傾けた。
ティブロン。
褐色肌に、金の髪を持つ鮫の海種だ。
職業は海賊。愛用のランスを携えて、どこまでも広がる海を行くのが彼女の生き甲斐なのだという。そんな彼女は、基本的に自分の海賊船に乗って海を渡るのだと言う。
「……そうは言っても、肝心の船は?」
周囲を見回してみても、それらしいものは見当たらない。
首を傾げたレジーナが問うと、ティブロンは眉間に皺を寄せて「うぅん」と唸った。
「今回はな、少々事情が違ってな……そら、そこの漁船に乗って来たのだが」
そう言ってティブロンが指差したのは、先ほど2人が調査していた噛み痕のある漁船であった。
思念体“フリーパレット”。
この世に未練を残したそれに導かれ、ティブロンとアーロは漁船に忍び込んだのだと言う。
朝早くにフェデリア島を出航した漁船は、ディンギル岩礁地帯の近くを通りかかった時に“ソレ”に襲われた。
曰く、それは全長20メートル近い体躯の怪物だった。
顔はまるで鮫のようで、胴体は海蛇のように長い。巨大なウツボのようにも見えるが、ティブロンはそれを「かつて図鑑で目にした古代の怪物……バシロサウルスのようだった」と言い現わした。
仮称バシロサウルスは、突如として漁船に喰らいつき、船員たちを海へと叩き落したという。
「私はアーロに乗ってそれと戦った。その間中、同行していたフリーパレットは“かたき、かたき”と騒いでいたな」
フリーパレットは霊魂の一種だ。
けれど、自我のようなものは持たないとされている。
何でも、複数人の思念が集合した存在なのだそうだ。そして、フリーパレットは必ず何らかの『願いごと』を持っている。
今回、ティブロンが耳にした『かたき』という言葉が、おそらく『願い事』なのだろう。
「【体勢不利】に【滂沱】に【必殺】と、アレの攻撃はなかなか苛烈なものだったな。どうにか生き延びることに成功したが、どうもこの付近に住みついているようでな……帰還するのも難しく、あぁして眠っていたのだよ」
バシロサウルスは特殊な攻撃手段を持つ怪物ではないが、その体躯故に非常に頑丈かつ遊泳速度も速かった。ティブロンは必死に交戦したのだが、致命傷を避けるだけで精一杯。
既に2夜連続で、ティブロンはバシロサウルスとの死闘を繰り広げているらしい。
「つまり、なんだね……ティブロン殿はもしかして眠っていただけなのかのぅ?」
「そうなるな。バシロサウルスが現れるのは決まって夜だからな。昼間はあぁして体力の回復に努めているというわけだ」
ちなみに件のフリーパレットも、夜になるとどこからともなく姿を現すのだという。
「助かった、と言ったのは?」
レジーナが問うた。
ティブロンはランスを持ち上げると、獣のような笑みを浮かべてこう言った。
「当然、アレを討つんだよ。名も知らぬが、漁船の乗組員たちは私の目の前でアレに丸飲みされた。遺品の1つか、遺体でも持ち帰ってやらねば女が廃るというものだ」
- <竜想エリタージュ>蜥蜴の王の名を持つ怪物。或いは、金鮫・ティブロンの災難…。完了
- GM名病み月
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年09月22日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●フリーパレット
「相手は船を壊し、人を丸のみするほどの怪物だ。生半可な覚悟で挑むには荷が重いだろう。だが、我が“ティブロン海賊団”の総力を持ってすれば、必ずや討伐は成し遂げられる!」
岩礁の頂に仁王立ちしたティブロンが、胸の前で腕を組んだ姿勢のままに声を張る。
金の髪が風になびき、波しぶきが褐色の肌を濡らした。背に担いだランスが、陽光を反射しキラリと銀の輝きを放つ。
「ティブロン殿らしい発言じゃが……ともかく、遺体を持ち帰ると言うのは男であるワシも同意じゃ」
辺りに散らばる船の残骸を拾い集めた『ティブロン海賊団“重戦騎”』オウェード=ランドマスター(p3p009184)は、気合を入れるみたいに頬を両手で張った。パシン、と乾いた音がやけに大きく響く。
「造るのは簡単な帆船で良かったか? 少々、帆が不足しているな……もっと搔き集めて来よう」
『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は抱えていた木材を地面に降ろす。辺りには座礁した船の残骸が散らばっているのだ。木材や帆は幾らだって手に入るのだが、実用に耐えきれる状態のものとなると途端に量が減る。
集められた木材の中から、比較的状態の良いものを選び『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は、それをオウェードへ手渡した。
「相変わらず人がいいねぇ、ティブロンの嬢ちゃんは……ま、それを放っておくわけにもいかねぇで巻き込まれにきた、俺たちも十分同類かね」
十夜が拾い上げた木材は、巨大な何かに食いちぎられて破損していた。船の材料とするにはダメージが大きすぎる。
十夜が投げ捨てた木材は、カランと音を立てて『光輝のたいやき』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)の眼前に転がった。
「まぁ、べつに海は弱肉強食が常ではありますが」
噛み砕かれた痕跡だろうか。木材には、大きな穴が開いている。
歯型から予想できる敵のサイズは、きっと20メートルを超えているだろう。
「確かに今後もこいつが海にいるとなると困ってしまいますしね。海の平和のためにも倒されてもらいましょう」
ティブロンが証言する今回のターゲット……バシロサウルスと仮称されるそれの歯型に違いない。
「最早海竜と称しても良さそうだけれども、一応原始的なクジラの類なのよね」
「原始的なクジラか。しかし、どんなに貴重な生物でも人を食った以上、やつは踏み超えちゃいけないラインを超えた」
岩礁地帯の隅に立ち『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)と『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)は言葉を交わす。
2人の前には1隻の船。名を小型船“グレイスフルイザベラ号”という。今回の任務に辺り、囮の1つとして史之が持ち込んだものだ。
「とりあえず、船を襲うのがわかってるなら、きっと効果的ですね。きちんと操縦できる人が使えば、一度と言わず、二、三度は囮に使えそうだもの」
史之の船を見上げながら『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)がそう言った。現在、オウェードが建造中の帆船(急造)を含めれば、夜までに2~3隻の囮船が用意できるだろうか。
「……囮とは良い策じゃな」
ティブロンを初め、集まった面子の実力は確かだ。
それでも、相手は20メートル超えの怪物。油断はできぬ、と唇を噛み締めオウェードは船の建造を急ぐ。
辺りに夜の帳が落ちた。
「かたき……かたき」
半透明の霊体……フリーパレットが、うわごとのように同じ言葉を繰り返す。
「かたき、とは何だ? 仇か? あの鯨がお前の仇か?」
「……かたき、かたき」
「この子はバシロサウルスにやられた哀れな魂の集合体って感じかしら…それとも大事な人をバシロサウルスに食い殺された魂かしら?」
フルールがそう呟くと、ティブロンは目を吊り上げた。
眉間に深い皺を寄せ、くわっと口を大きく開く。口内に並ぶ尖った歯を見せつけるようにして、ティブロンは怒りを顕わにした。
「つまり、コイツもあの怪物の犠牲者というわけか」
苛立たし気に、ティブロンはランスの柄を地面に叩きつけた。
硬質な音が鳴り響き、岩礁の欠片が辺りに飛び散る。
「あぁ、やっちまおう。さて、実戦は初めてだが、問題なくいけるよな!」
愛鮫・アーロに跨るティブロンの横に、イルカに乗った『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)が並ぶ。
現在、史之たちが岩礁の周囲に船を走らせている。
ティブロンの話が確かなら、バシロサウルスはそろそろ姿を見せるはずだ。
●バシロサウルス
暗い暗い海の底。
海藻の間に身を潜め、レジーナと十夜は視線を交わした。
2人の頭上を、ゆらりと巨大な影が通り過ぎたのだ。全体的なフォルムとしては、ウツボか海蛇に似ているだろうか。
一瞬、巨大な口と、口内にびっしりと並んだ鋭い歯が見えた。
「来たわね。浅瀬に誘導したい所だわ」
「あぁ、囮の船に奴さんが食いついたら行動開始だ」
腰の刀に手をかけて、十夜は海底を踏み締める。
海上には3隻の船。
そのうち2隻は、オウェードが急ごしらえで完成させた帆船だ。辛うじて船の形をしているだけで、大した航海能力は無い。
ただそこに浮いているだけ、風や波に流されているだけの、いわば船の形をしているハリボテに過ぎない。
だが、知能の低い怪物を誘き出すにはそれで充分だ。
「ほら新鮮な餌だよ。おいしそうでたまらないだろ?」
愛船の操舵輪を握った史之が言う。
暗闇の中、海面に目を凝らしてみれば徐々に潮の流れが不規則になっていく。
「来るよ」
右か、左か、それとも真下か。
バシロサウルスがどこから襲って来るかは不明だが、きっとすぐに現れる。
甲板にいるベークやオウェード、シュヴェルトへと視線を向けて史之は言う。
全員が甲板にしがみつく。
直後、激しく船体が揺れた。
天を突くような水飛沫。
現れたのは、鮫に似た頭部だ。
ぎょろりとした巨大な眼が、操舵席の史之を視た。
鋭い牙の並んだ口腔を、限界まで開く。
来る。
そう思った瞬間に、史之は大きく舵を切る。
船体が右に傾いた。
巨大な頭部が突っ込んでくる。
「言っておくけれど、俺まで遺品の一部になりたくはないからね!?」
史之が叫んだ。
直撃は避けたものの、バシロサウルスの胴や前肢が船体を削る。
「まずはこれで小手調べじゃな!」
オウェードが甲板を疾駆する。
バシロサウルスの突進に合わせ、籠手に覆われた拳を振るった。渾身の殴打がバシロサウルスの鼻先を叩く。
直撃だ。
しかし、質量が違い過ぎる。
「ぬぅ……おっ!?」
オウェードの腕に激痛が走った。鋭い牙が、オウェードの肩に引っかかる。骨の外れる鈍い音。痛みに呻く暇もないまま、オウェードの体が甲板を引き摺られていく。
「こっちですよデカブツ」
「近づき過ぎるな! あの巨体だ。直撃を受ければ大ダメージを喰らう!」
バシロサウルスの横面へ、たい焼きが1つぶつかった。
まるで1つの砲弾のように。
ベークの体当たりによって、バシロサウルスの進路がズレる。拍子にオウェードの肩から牙が外れた。転がっていくオウェードの上を跳び越えて、シューヴェルトが刀を一閃させる。
飛ぶ斬撃が、バシロサウルスの胴を抉った。
傷は深い。
けれど、バシロサウルスの巨体の前では、かすり傷より幾らかマシと言った程度か。
水飛沫をあげ、バシロサウルスが海へと落ちる。
大きな波がイザベラ号を激しく揺らした。
泳ぐたいやき君……もとい、ベークの後をバシロサウルスが追いかける。
「甘い香りがよく効きますね……通じないとは思いますが、僕はおやつじゃありませんよ!?」
遊泳速度はバシロサウルスの方が上か。
しかし、小回りはベークの方がよく利いている。
ベークはまっすぐ、囮として用意している帆船の下へ潜り込む。
その後を追うバシロサウルスが、頭から帆船に突っ込んだ。
轟音と共に帆船が砕ける。
衝撃で、ベークの体が宙を舞う。
ベークを追ってバシロサウルスが上体を虚空へ躍らせた。
「僕の攻撃がどれだけ効くかはわからないが」
一閃。
シューヴェルトの放つ斬撃が、バシロサウルスの側頭部に裂傷を刻む。
着水。
同時に、バシロサウルスが悲鳴をあげた。
「どうだい? 海はお前さんだけの庭じゃねぇのさ」
紫電を纏った斬撃が、バシロサウルスの鼻先を斬り裂く。
次いで、十夜はバシロサウルスへ手を翳した。海水を掴むかのように、十夜が指を握り込むと、鼻先の傷から血が溢れだす。
体内から引き裂かれるように、バシロサウルスの肉が裂けたのだ。
ターゲットを十夜へと変え、遊泳速度を1段上げた。
それは単なる体当たりだ。
けれど、バシロサウルスほどの巨体が放つとなれば、威力の桁が違う。
「……っ!?」
身体の前で刀を構えて、十夜は突進を防御する。
衝撃が、十夜の体内へ突き抜ける。全身がバラバラになりそうなほどの痛みと衝撃。十夜の体が、海底へと叩き落される。
十夜を追って、バシロサウルスが海底へと進む。
一瞬、暗い海中に灯が灯った。
「化け物みたいな外見をしているとはいえクジラの類。弱点や苦手なものは凡そ同じでしょう……何としてでも浅瀬へ追い込むわよ」
そう告げたのはレジーナだ。
イルカに騎乗した彼女は、眼前に掲げた両の手に膨大な魔力を集約している。
解き放たれた閃光が、海を切り裂きバシロサウルスを襲う。
狙うは、数度にわたってシューヴェルトが斬り裂いた傷口だ。
バシロサウルスの表皮は厚い。
しかし、その内側の肉はさほどに硬くは無いのだ。
それはきっと、生まれて初めて感じた“痛み”だったのだろう。
その巨体ゆえ、バシロサウルスの天敵となる生物は少ない。
同程度に巨大な生き物がいたとして、互いに敵対するメリットも無い。何しろここは海なのだ。わざわざ大怪我を負うリスクを冒してまで、巨大な生物を喰らう必要などないのだ。
自分よりも小さな……例えば、船を襲って海に落ちた人間なんかを食えばそれで腹は十分に満たされる。
だが、今回は違う。
たかだが数名程度の人間が、バシロサウルスに大きな傷を負わせたのだから。
海中へ潜れば、十夜とレジーナからの攻撃を受けた。
海上へ顔を覗かせれば、すかさずシューヴェルトが斬撃を叩き込む。
逃げ道は史之の船と、ベークによって塞がれた。
数度にわたる襲撃を受け、史之の船はボロボロだった。
「あーあ、俺の船ぼろぼろ、まあそういうこともあるよね」
操舵輪から手を離し、史之が刀を抜き放つ。
海へと跳び込む史之とオウェード。
それを喰らうべく、バシロサウルスが顎を開いた。
瞬間、海上を2つの影が疾走する。
バシロサウルスの前歯が砕けた。
「この間戦ったニーズヘッグに比べりゃ、大した事はないな。きっちり倒しちまうか!」
「おぉ! 腹を掻っ捌いて遺品を回収してやらねばな!」
イルカと鮫……それに騎乗する2人の女。
ミーナの剣と、ティブロンのランスを同時に受けては、硬い牙も耐え切れない。
バシロサウルスが顎を閉じた。
牙が掠めたのか、ティブロンの肩と、ミーナの背から血が飛び散る。
右から鮫が。
左からイルカが。
ティブロンの刺突と、ミーナの放った斬撃が、バシロサウルスの前肢を裂いた。
戦線は徐々に岩礁へと近づいていく。
「っ……そこまで狙いを定めなくとも当たるのはいいが、一撃が重すぎるな、これは」
前肢による殴打を受けれ、ミーナが口から血を吐いた。
内臓や骨に、幾らかのダメージを受けたのだろう。
一瞬、ミーナの動きが鈍る。
バシロサウルスが顎を開く。
ミーナを丸飲みにするつもりか。庇うようにティブロンが前へ。
「あ、待て!」
ミーナの制止は間に合わない。
バシロサウルスにとって、1人も2人も違いは無いのだ。
バクン、と。
大量の海水と一緒に、バシロサウルスは2人を飲み込んだ。
バシロサウルスの背に史之が乗る。
腹を裂こうと、海中からは十夜とレジーナが迫った。
鬱陶しいと咆哮をあげ、バシロサウルスは激しく身体をうねらせる。それにより発生した海流が、十夜とレジーナを飲み込んだ。
「大丈夫かレジーナ様!」
オウェードが叫ぶ。
その声は、海流に飲まれたレジーナの耳に届かない。
夜の闇が朱に染まる。
煌々とした火炎を纏うフルールが、海へ向かって手を翳す。
7体の精霊と融合し、両腕に業火を灯す。
初めは小さな炎だった。
しかし、瞬きを1つするごとに業火は勢いを増していく。
魔力を注がれ、一抱え程になった業火をフルールは頭上へと掲げた。額に汗を浮かべながら、フルールは業火へさらなる魔力を注ぎ込む。
20メートルを超える巨体の怪物を、1撃で焼き尽くせるほどに。
「それじゃあ、見ててくださいね。私達がバシロサウルスを倒すところを」
隣に並ぶフリーパレットへと向けて、フルールは告げた。
フリーパレットからの返答は無い。
「……かたき」
「えぇ、討ってみせますよ」
バシロサウルスの脳天に、極大火力を叩き込む時は近い。
●仇
人の姿に戻ったベークが、全速力で浅瀬を駆ける。
「それでは、頑張って倒しましょうか」
疾走するベークの後を追って、バシロサウルスが岩礁地帯に乗り上げた。
「動きは鈍ったが……止めろ! 海へ戻るつもりだ!」
シューヴェルトが叫ぶ。
「言われるまでもねぇ! 奴さんの腹を掻っ捌いて、嬢ちゃんたちを助けねぇとな!」
「前肢も、うまくいけば切り落とせるかもしれないね」
バシロサウルスの右前肢に、十夜と史之が刀を突き刺す。
2人がかりでも、バシロサウルスの巨体を止めることは出来ない。
「良く聞け! 戦っているのはワシらだけじゃない! 犠牲になった乗員達も含めればそれはもう集団じゃ!」
左前肢に、オウェードが斧を振り下ろす。
「レジーナ! 今のうちに!」
「えぇ……さぁ、しかと己の仇を見なさい!!」
シューヴェルトが刀を一閃させた。
号令を受け、レジーナが閃光を放つ。
夜闇を切り裂く白の一条が、バシロサウルスの胴を撃ち抜く。
否、閃光は一撃ではない。
バシロサウルスの腹が、内側から爆ぜたのだ。
血と胃液に濡れたミーナが、腹の中から這い出した。
ミーナは全身に大きな火傷を負っていた。バシロサウルスの胃液に焼かれたのだろう。
その肩に担がれたティブロンは、すっかり気を失っていた。
「遺品は回収した! 焼き尽くせ!」
バシロサウルスの腹を、内側から撃ち抜いたのは彼女だ。高く掲げたミーナの手には、ドッグタグや、帽子、喫煙具といった犠牲者たちの遺品が握られている。
ごう、と空気が押しのけられる。
夜空が赤く燃えている。
フルールの投げた極大の業火が、バシロサウルスの身体を焼いた。
熱波によって、海水が蒸発し霧へと変わる。
海面が爆ぜた。
岩礁が砕ける。
バシロサウルスは業火に飲まれた。
断末魔の雄叫びは、炎に焼かれて誰の耳にも届かない。
「かたき、うった」
ポツリ、と。
囁くように、フリーパレットがそう言った。
瞬間、それは消えていた。
初めから何も、フリーパレットなんて存在は無かったかのように。
「少しは気が晴れたでしょうか? どうぞ、憂いなく旅立ってくださいね」
霧に覆われた空を見上げてフルールは呟く。
バシロサウルスの遺体も、辺りに散らばる船の残骸も何もかも。
そう遠くないうちに、炎に焼かれて灰へと変わることだろう。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
遺品の回収およびバシロサウルスの討伐が完了しました。
依頼は成功となります。
この度はシナリオリクエスト&ご参加ありがとうございました。
GMコメント
●ミッション
バシロサウルスの討伐
●ターゲット
・バシロサウルス
鮫のような頭部と、海蛇のような胴体を持つ巨大生物。
全長は20メートルほど。
ディンギル岩礁地帯の周辺に、最近住みついたらしい。
ティブロンの目の前で漁船の乗員6名を丸飲みしたらしい。
頑丈で、遊泳速度も速い。
その攻撃には【体勢不利】【滂沱】【必殺】が付与されている。
●チームメイト
・ティブロン(ディープシー)×1
長身の女性。鮫のディープシー。
褐色の肌に、ウルフカットの金の髪。
水着の上からキャプテンハットやキャプテンコートを纏っている。
武器は騎士が持つような巨大なランス。
生まれつき泳ぐのが苦手なため、相棒の鮫“アーロ”に騎乗し水中を駆ける。
・フリーパレット×1
カラフルな見た目をした、海に漂う思念の集合体。
ティブロンはこれに導かれて、岩礁地帯を訪れたらしい。
夜になると姿を現すのとこと。
「かたき、かたき」と『願い事』を口にし続けているという。
●フィールド
ディンギル岩礁地帯。
周辺には船の残骸が散らばっている。
岩礁地帯の海底に、バシロサウルスが住みついている。
散らばっている船の残骸を使えば、粗末な帆船程度は作製できるかもしれない。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができ、水中では呼吸が可能になります。水中行動スキルを持っている場合更に有利になります。
竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。
●特殊ドロップ『竜宮幣』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru
----用語説明----
●シレンツィオ・リゾート
かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio
●フリーパレット
カラフルな見た目をした、海に漂う思念の集合体です。
シレンツィオを中心にいくつも出現しており、総称してフリーパレットと呼ばれています。
調査したところ霊魂の一種であるらしく、竜宮幣に対して磁石の砂鉄の如く思念がくっついて実体化しているようです。
幽霊だとされいますが故人が持っているような記憶や人格は有していません。
口調や一人称も個体によってバラバラで、それぞれの個体は『願い事』をもっています。
この願い事を叶えてやることで思念が成仏し、竜宮幣をドロップします。
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