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シナリオ詳細

生物学者・ウィティコの依頼。或いは、盗賊猿蘭…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●盗賊猿蘭
 草木の歓ぶ夏が終わる。
 いまだ陽光は眩しく、気温は高く、時々強い雨も降るが、そう遠くないうちに森には秋が来る。
 ほんの一時の秋を挟めば、長く辛い冬になる。
「森の獣はそろそろ冬の備えに入る頃だろうか」
 木洩れ日を見上げ、巨躯の男がそう呟いた。
 顔を覆うガスマスク。身に纏うのはボロボロの外套。頭頂部から伸びた2本の鹿の角。背には荷物の満載された大きな鞄といった容姿の彼の名はウィティコ。
 年の大半を前人未踏の森の中や秘境で過ごす、深緑在住の生物学者だ。

 ドラクラ・シミアという植物がある。
 通称、モンキー・オーキッド。
 その名の通り、猿の顔に似た花を咲かせる、温暖な地域に咲く植物だ。
 しかし、この森に生息しているその植物は、一般的に知られるものとは些か様子が異なるようだ。
「……っ!!」
 舌打ちを零し、ウィティコは鉈を振り抜いた。
 樹上から彼に襲い掛かった何者かを、鉈で叩き斬ろうとしたのだ。
 けれど、頭上から跳びかかった何かは空中で器用に体勢を変えるとウィティコの手を強く叩く。
 手の甲から血が飛び散って、ウィティコはたまらず鉈を手放す。地面に鉈が落ちる前に、何かがそれを両手で掴んで駆け去って行った。
 地面を跳ねるかのように俊敏な動き。
 するすると、木の幹を駆け上がっていくそれの姿は、緑の肌の猿に似ている。
 しかし、一般的な猿と違って首の周りには白い花弁が生えていた。
「バンデッド・モンキー・オーキッド……見つけたはいいが、手に負えんな」
 周囲に漂う花粉を腕で払いながら、ウィティコはゆっくり後退を始めた。
 樹上には20匹を超える猿の影が見えているからだ。
 バンデッド・モンキー・オーキッド……盗賊猿蘭は、森に住む奇妙な魔物である。
 動物なのか、植物なのか。専門家の間でも、未だに意見が分かれるところだ。
 そして、その名前の通り……“盗賊”の名前の通り、非常に悪辣な性格をしている。集団で旅人を襲っては、食料や物資、時にはその命さえもを奪い去っていくのである。
「まったく、面倒な依頼を受けてしまったものだなぁ」
 なんて。
 困ったようにそう告げて、ウィティコはその場を逃げ出した。

●夏の終わりの厄介な依頼
「私は1年の大半を森の中で過ごす。食糧なんかはほとんど現地調達だな……しかし、そうは言っても研究には金が要り用でな」
 森の外の野営地で、焚き火を起こしてウィティコは告げる。
 生物学者である彼には、数名ほどだがパトロンが付いているらしい。要するに、彼の研究を応援したいという者から、資金提供を受けているのだ。
「当然だが、ただで金をくれるわけでもないからな。パトロンから頼まれて、貴重な植物の種子や花粉なんかの素材を回収して来ることがある。今回のもそれだ」
 曰く、バンデッド・モンキー・オーキッドの花弁は高価な香水の原材料になるらしい。
 それを10枚ほど回収して来てくれと、ウィティコは依頼を受けたのだ。
 そうしてウィティコは、いつものように単身森へと乗り込んで……そこで、例年にないほどに数を増した盗賊猿蘭に襲われたというわけである。
「住処を焼かれてこの森に逃げ込んで来たのかもしれんな。ともかく、あぁも数が多いとなると私1人では手に負えない」
 以上のような経緯でもって、ウィティコはローレットへの助力を求めたというわけである。
「集める花弁は最低でも10枚。あぁ、花粉には気をつけてくれ。迂闊に吸い込むと【麻痺】【恍惚】の状態異常に侵される」
 花粉をばら撒き、獲物の動きが鈍ったところを素早い動きで襲うのだ。盗賊猿蘭は鋭い爪を持っており、過去には運悪く命を落とした者もいるという。
「20匹ほどで1つの群れを形成している。この森には、3か4の群れがあるな。群れ同士は花粉の香りで情報の伝達や連携を取るというが……この辺りの特性については研究中だ」
 何しろ深い森の奥に住む生物だ。
 調査や研究が十分に進んでいないケースも多々あるし、そもそも未だに発見されていない生物もきっと多い。
「魔物とはいえ、猿だからな……相応に警戒心は強く、不利と見れば逃走を図ることもある。それもあって花弁は高価なわけだが」
 今回はそれを、捕獲しなければならない。
 しっかりと準備をしたうえで、無事に10枚の花弁を持ち帰ってほしい。

GMコメント

●ミッション
バンデッド・モンキー・オーキッドの花弁×10の回収。

●ターゲット
・バンデッド・モンキー・オーキッド×多数
ドラクラ・シミア……通称、モンキー・オーキッドに似た魔物。盗賊猿蘭。
緑色の猿に似た形状をしており、首回りには花弁が生えている。
20匹程度で1つの群れを形成している。
森には3~4の群れが暮らしているらしい。
“盗賊”の名前の通り、非常に悪辣な性格をしている。
集団で旅人を襲っては、食料や物資を奪う。
※花粉の匂いを介して、他の群れと連携をとるという説もあるが詳細不明。

花粉:神遠範に小ダメージ、麻痺、恍惚
 甘い香りの花粉。

●依頼人
・ウィティコ
鹿の獣種。
ガスマスクにボロボロの外套。
荷物の満載された背嚢を背負った長身の男性。
生物学者であるらしく、年の大半を前人未踏の森の中や秘境で過ごす。
パトロンの依頼で、盗賊猿蘭の花弁を回収する必要がある。
自衛用に鉈を持っていたが、盗賊猿蘭に奪われてしまった。

●フィールド
深緑。
熱帯気候のとある森。
背の高い樹木が生い茂っており、上方の視界はあまり良くない。
低い位置にはあまり枝が張っていない。
樹上であれば枝葉の影に身を隠すことも可能だが、地上には身を隠せるような場所は無い。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 生物学者・ウィティコの依頼。或いは、盗賊猿蘭…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
木漏れ日の優しさ
サイズ(p3p000319)
カースド妖精鎌
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
山賊
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
深き森の狩人

リプレイ

●バンデッド・モンキー・オーキッド
「今回は未知の生物の調査ではなく、金策なのですね」
枝葉の茂る頭上を見上げ『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)が呟いた。
「ある程度情報が分かっている分、前回よりは遣りやすいですが……相応に厄介そうですねぇ」
風が吹いて葉が揺れる。
 先ほどから視線を感じているが、残念ながら視線の主の姿は見えない。
 しかし、確かにそこらに居て、ドラマたちの様子を窺っているのだ。ふわり、と鼻腔を柑橘類に似た香りが擽った。
「高価な香水の材料ねぇ……私も1枚ぐらいもらったら作れるのかしら」
『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が地面に散った花粉にそっと指を這わせる。
バンデッド・モンキー・オーキッド……盗賊猿蘭の花粉に間違いないだろう。この辺りにターゲットが潜んでいるのは間違いない。樹々の状態を確かめる『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)の機嫌はいい。
「まぁ、特定のモンスターの有用部位の確保、実に冒険者向きの仕事だよね!」
 斬った張ったの鉄火場に向かうことも少ないないイレギュラーズだが、別に彼らは戦闘屋と言うわけでも無いのだ。

 森の奥、小川の近くの捜索拠点でウィティコが荷物の整理をしている。
 頭部に大きな鹿角を備えた獣種の男だ。
「依頼でお会いするのは3度目、ですね」
 ウィティコへ包帯を差し出しながら『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)がそう言った。ガスマスクに覆われていて、ウィティコの表情は分からない。
 しかし、何かしらの疑問を感じているのだろう。
 包帯とグリーフの顔を交互に見屋って、ほんの僅かに首を傾げた。角が重いのか、あまり頭部を傾けたくは無いようだ。
 否、それだけが理由ではない。
「少々、危険な調査や採取も行っているようですし、どなたか、同行の方を募ってみては? 独りがあっている、動きやすい、というのもあるのでしょうが……」
 グリーフはウィティコの首元を指さした。
 服に隠れて見えづらいが、そこには爪で引っ掻かれたような深い傷があった。

 血相を変えて、1匹の猿が疾走している。
 緑の体に、首回りに生えそろった白い花弁。植物の猿といったような風体をしているそれが、今回のターゲットである。
「ハッ! このおれさまを差し置いて賊(バンデッド)を名乗るたあ、笑わせやがる。草だかサルだかしらねえが、ボコボコにブチのめしてやるぜ!」
 猿の後を追いかけるのは、粗野な印象をした大男だ。手にした斧を振りかぶり、力任せにそれを一閃。木の幹に深い裂傷を刻むと、頭上で猿の悲鳴が聞こえた。
「豚の丸焼きを狙って来たのが1匹だけってこたぁねぇと思ったが……ウマい具合に釣れてくれて何よりだが、こいつらコソコソしてやがる」
『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)が視線を上げれば、樹上から跳び下りて来る猿の群れの姿が見えた。
「なるほど。こういうのもウィティコのお仕事なのか」
 猿に襲われるグドルフを見て、『奈落の虹』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)がそう呟いた。
 援護のために前へ出るか、後続の猿に備えて待機するか、判断に迷っているようだ。
 幸い、グドルフがすぐに戦闘不能に陥ることはないだろう。
 しかし、すぐに猿を撃破できるとも思えない。
 グドルフが斧を振り回すが、猿たちは軽い動きでそのすべてを回避していた。どうやらこの辺りは、猿にとって動きやすい地形らしい。
「最近見かけなくなったと思ってたがこんなとこに集まってたんだな。あの数を一人で相手ってウィティコもなかなかやるな」
 感心したように『ヤドリギの矢』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)がそう言った。猿の数はどんどん数を増している。
 個体の強さは大したこともないようだが、群となれば話は変わる。
「言ってる場合か。連携も取れているし厄介だぞ」
 ひらり、と。
 小さな影が飛ぶ。
 グドルフへ向かって、『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)が布の小袋を投げつける。投げつけられた小袋へ、ウィリアムは魔弾を撃ち込んだ。
 小袋が破れ、辺りに粉塵を撒き散らす。
 刺激物を多分に混ぜた特別製の粉末だ。連携を乱された猿が、途端に動きを悪くする。
 それと同時に、ミヅハが声を張り上げた。
『猿を見つけた! 群れ1つだ!』
 大音声が、暗い森に響き渡った。

●香りに誘われて
「おい、こりゃ香辛料か? 焼く前の豚肉みたいな匂いがしてねぇか?」
 腕に鼻を寄せグドルフは問うた。
 先ほど、サイズの投げた小袋の中身は刺激物を多分に混ぜた粉末……刺激物には、唐辛子や胡椒などが多分に含まれる。
「匂いなんて気にしてる場合か? それに、獲物が多い以上悠長なことはしてられない」
 弓を構えてミヅハが叫ぶ。
 群れの数は20匹。しかし、戦闘の気配に気づいて別の群れも近づいて来るかも知れない。
「もう少し西へ追い込めないか?」
 キリリ、と弦を引き絞りミヅハは言った。西へ進めば、ミヅハの仕掛けた罠がある。素早い動きの猿たちだが、罠にかければ動きも鈍くなるだろう。
 番えた矢を猿へと向ける。
 しかし、その直後……ミヅハの手から、番えたはずの矢が消えていた。
「……はぁ?」
 ミヅハの手から矢を奪ったのは、木の枝を伝って接近していた猿だった。
 にぃ、と悪戯っぽい笑みを浮かべて猿は周囲に花粉をばら撒く。柑橘類に似た甘い香りに、ミヅハは口元を手で覆う。
 素早く後方へと跳躍。
 振り抜かれた猿の爪が、ミヅハの脚を引き裂いた。
 幸いなことに花粉による麻痺は受けない。だが、花粉が付着した肌に多少の痛みを感じていた。
「こいつっ……!」
 キキ! と猿が頭上へ何かを投げ飛ばす。
 それは、ミヅハが腰に下げていた鞄だ。中身は食料や医薬品の類か。
 投げられた鞄を別の猿がキャッチする。
「こうやって盗みを働いているのか……なかなか面倒な相手だ」
 鞄を受け取った猿は、あっという間に逃げていく。
 その後を追って、先陣を切った猿も樹上へと跳んだ。
 けれど、間に合わない……。
 猿は近づき過ぎたのだ。
「悪いね。ウィティコがこれからも研究を続けるためなんだ」
 長い金髪を靡かせながら、ウィリアムが猿の懐に潜り込む。
 その胸部へ握った拳を押し当てると、途端に猿が顔色を変えた。
 煌々とした魔力の光がウィリアムの拳に灯っているのだ。
 1歩、ウィリアムは足を前へ踏み出した。
 拳を前へ突き出すと、集約された魔力が爆ぜる。
 空気が震え、辺りが真白に染め上げられて。
 放たれた魔力の閃光が、猿の胸部を撃ち抜いた。

 樹上に潜んだ猿の姿は視認できない。
 けれど、匂いまでを隠すことは出来ない。
 先ほど、猿の1匹がミヅハから奪った鞄には、臭い玉が仕込まれていた。それが割れたのか、強烈な悪臭が茂みの中から漂っていた。
「いつもどおり、弓矢で狩りをするとしよう……何体か落とすぜ」
 弓に矢を番えたミヅハが言った。
 それを受けて、サイズは大鎌を手に飛び立っていく。
 旋回するように宙を舞うサイズ。
 その横を、ミヅハの矢が飛び抜けて行った。
「キィッ!?」
 一瞬後、樹上で猿の悲鳴が聞こえた。
 木の枝が激しく揺れて、2匹の猿がもつれるように落ちて来る。
「いい位置だ。そして……短期決戦なら手数だな!」
 肩に背負った大鎌を、疾走するサイズは一閃させる。
 サイズの放った斬撃が、猿の首元を薙いだ。
 躊躇なく、まっすぐと、そして速い。
 生半可な生物であれば、その一撃で首を落とされていただろう。
 けれど、サイズはそうしなかった。
「花弁は適切に保管して、上手く使わせてもらうよ」
 サイズが刈り取ったのは、首回りの花弁、数枚だけだ。はらはらと舞う花弁を掴んで、サイズはゆっくりと地上へ降りる。

「行くのか?」
 立ち上がったグリーフへ、ウィティコはそう問いかけた。
 自分も付いていくべきか、それとも拠点を守るべきか。一瞬、迷った末にウィティコは後者を選んだらしい。
 その場に腰を下ろしたまま、焚き火の上に鍋をかける。
「そうか。花粉には気を付けてくれ。あまり吸い込まない方がいい」
「では呼吸器官を遮断しておきましょう」
「あぁ、それと……できれば命は獲らないようにしてもらえるか? あれらはかなり悪辣だが、生態系の一部でね」
 包帯を巻いた首に手を触れ、ウィティコは肩を竦めて笑う。
 たしかにウィティコは猿によって怪我をさせられたが、そもそも自然の摂理とはそう言うものだ。ウィティコは猿たちにとって外敵で、猿たちは外敵を排除しようとしただけだ。
 どちらに非があるかと言えば、猿の縄張りに踏み込んだウィティコということになる。
「自然の調査が私の目的であって、自然環境の破壊をしたいわけじゃぁない」
 それが、ウィティコが単独で行動する理由なのだろう。
 無言のまま一礼をして、グリーフは森へと立ち入っていく。

 森の途中で、不意にカインが足を止めた。
 ミヅハの声がした辺りまで、まだ暫く距離がある。なぜ? とグリーフは視線で問うた。
「この辺り、少し……違和感があるんだよね」
 例えば、下草が妙に密集している気がするとか。
 例えば、辺りに蟲や小鳥が少ない気がするとか。
 例えば、人や獣の歩いた痕跡を故意に消している感じがするとか。
 その程度の違和感を、カインは敏感に察知した。
「油断は禁物。十分に警戒して行かなきゃね」
 地面に這いつくばるようにして、カインは草むらへ手を伸ばす。
 そこにあったのは、巧妙に隠されたトラバサミだ。

 カインの張ったロープの間を、一行は慎重に進む。
 この辺りの罠は、ミヅハの仕掛けたものだろう。
「これ、使えそうな気がする」
 トラップ地帯の真ん中で、歩みを止めたオデットが呟く。
 周辺の罠を見て、何かを思いついたのだろう。オデットが“天啓”と呼ぶそれは、時折、思いもよらぬ発想を与えてくれるのだ。
 それはまるで、どこか遠くから、神が彼女に囁くような感覚らしい。
「たしかに、このまま応援に向かうと数的にも盗賊猿蘭の警戒が強くなりそうですし……」
 罠を仕掛けているということは、ミヅハたちも猿をこちらへ追い立てて来るつもりではないのか。
 蒼い剣に手を這わせ、ドラマはそう呟いた。

 花の香りによる連携は、とっくの昔に崩れている。
 陽動と奇襲、樹々を活かした立体的なヒット&アウェイ。徹底的に獲物をおちょくるような動きを繰り返していた猿たちだが、それは香りによる連携があってこそだ。
 鳴き声や視線による意思の疎通を必要とせぬ即座の連携。
 それを阻害された結果、猿たちの動きはぎこちない。
 とはいえ、速度と悪知恵は健在だ。
 数匹の猿が土を掬うと、それをグドルフの顔面目掛けて投げつけた。
 風に舞う土埃の中、グドルフが顔を覆うように腕をあげる。
 戦闘中に見せるにしては大きな隙だ。
 数匹の猿が爪を伸ばして樹上から跳んだ。たてる音はごく微かなものだ。“盗賊”と名付けられるだけあって、猿たちの行動には悪意が見え隠れする。
 例えば、猿が狙うのはグドルフの脚や、武器を持つ指、首や背中といった視認できない場所に限られていた。
 命を奪うのではなく、弱らせて、所持品を奪取することを目的としているからだろう。
 けれど、しかし……。
「よおし、まんまと来やがったぜ」
 “賊”としての年季なら、グドルフとて負けてはいない。
 土埃で目を塞がれたのは、単なる演技だ。
「10枚なんて小せえ事言われたが、20枚でも100枚でもイイんだろ? 毛も花も死ぬほど毟って丸裸にしてやるぜ!」
 空中では身動きなど出来ないだろう。
 まずは1撃、握り拳を猿の胴へと叩き込む。軽い体が宙を舞い、木の幹へと叩きつけられた。肺の空気を吐き出して、苦し気に顔を顰めた猿の眼前にグドルフが迫る。
 逃げる間もなく、防御姿勢を取る暇もなく……グドルフの拳が、猿の顔面を殴打した。

●白い花弁
「逃げんじゃねえぞオラァ! さんざん盗んできたんだ、てめえらも盗まれる覚悟ぐれえしてきやがれ!」
 両手に猿を掴んだまま、グドルフが怒声を張り上げる。
 近くまで来ていた別の群れと、グドルフたちが相手をしていた最初の群れが、一斉に森の奥へと逃げる。
「おぉ、いい方向に逃げてくれたな」
 弓を構えたミヅハが言った。
 西へ向かった猿を追って、ウィリアムとサイズが駆けていく。

「……な、何事ですか?」
 剣を一閃。
 ドラマが困惑した声をあげる。
 半狂乱の猿たちが、トラップ地帯に逃げて来たのだ。
 よほどにひどい目に逢ったのか、猿たちは怯えた様子ですっかり冷静さを失っている。最初に駆けて来た1匹が、トラバサミにかかって悲鳴をあげた。
 その悲鳴が、さらに混乱を加速させる。
「引き付けます! 弱った猿から安全な場所へ運んで……ついでに、花弁も回収しましょう」
 蒼く流れるかのように、優雅な印象さえ与えるような剣戟だ。
 猿の一部が、思わずドラマに意識を向けて立ち止まる。動きを止めた猿の腹部を鞘で打ち据え、ドラマは次の猿へ狙いを向けたのだった。

 鋭い爪を広げた両腕で受け止める。
 白い肌が裂け、じわりと赤い血が滲む。
 グリーフの背後には、オデットとカインの姿がある。
「必要とあらば、巻き込んでいただいても構いません」
 半狂乱の猿たちを止めるにも、多少の痛みを与えるべきだ。
 どうやら猿を怯えさせたのは、イレギュラーズの仲間らしい。猿の一部は、人の姿を見るなり進む方向を変えた。残る一部は、怒りも顕わにイレギュラーズへ襲い掛かる。
「キィ!」
 猿たちが次々と叫び声をあげる。
 瞬間、辺りに花粉が撒き散らされた。白く煙る視界の中で、グリーフは猿の1匹がオデットへ襲い掛かるのを見た。
 淡い燐光が、花粉を散らす。
 グリーフによる回復支援だ。伸ばした腕を振り回し、猿の爪を代わりに受ける。
 猿の爪が、グリーフの手に突き刺さる。手の平から甲までを貫通した爪は、べったりと血で濡れていた。
「オデットさん!」
「任せて! 悪いお猿さんたちにはお仕置きよ。ドーンといくんだから!」
 閃光が、周囲を白に染め上げた。
 オデットの放った眩い光に目を焼かれ、猿たちが次々と地面に落ちる。
 落下の衝撃で、何枚かの花弁が千切れたらしい。
 ひらひらと舞い落ちて来る花弁を手に取り、
「無事に依頼が終わったら1枚ぐらいもらえないかしら」
「……持ち帰って、どうするんです?」
「いい香りだったら自分で用意してみたいじゃない?」
 グリーフの問いに答えを返して、オデットは花弁を口元へ寄せる。

「逃げていくやつは放っておいていいよ! 罠にかかっている個体も、後から解放してやればいい!」
 剣を振るうドラマへと、カインが声をかける。
 戦闘を開始してからしばらく。いつの間にか、盗賊猿蘭の数は大きく減っていた。大半の猿は……というより、後から様子を見に来た方の群れは、早々に戦場を離脱したのだ。
「それから、あまり痛めつけないようにしてね!」
 香水の材料にするというなら、花弁の品質も重要だろう。
 ドラマへ指示を出した後、カインはこっそりと罠にかかった個体のもとへと近づいていく。罠の位置は事前に確認しているのだ。うっかり踏み抜くなんてドジはしない。
「花弁の回収の為にも気を遣わなきゃね」
 暴れる猿を宥めながら、その首から数枚の花弁を引き抜いた。

 集めた花弁は18枚。
 そのうち5枚は、傷みがひどくて持ち帰れないとウィティコは言った。
「とはいえ、13枚もあれば十分だ。私の鉈も取り返してくれたようだし、まったく君たちには感謝してもし足りない」
 集めた花弁を丁重に懐へ仕舞い込み、ウィティコが依頼の完了を告げる。
 辺りは暗い。
 夜道を歩き回るのは危険ということで、この日は森でキャンプとなった。明日の朝いちばんに、全員揃って帰還するのだ。
「夕食の準備は出来ている。もっとも、保存食と野草で作った粗野な料理だがな」
 なんて。
 スープを椀へと注ぎながら、ウィティコは呵々と笑ってみせた。


成否

成功

MVP

カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
無事に花弁の回収は完了しました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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