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シナリオ詳細

<竜想エリタージュ>テルノのごはんやは今日も大繁盛……?

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●欲望の形
 欲望。それは、人が生きる以上、切っては切り離せないものである。
 例えば、人の願いを善き願いと悪しき願いで分けたとしよう。それは確かなものだ。例えば、誰かを救いたいと願う事と誰かを傷つけたいと願うものは明らかに属性が違う。願いというものの属性は分けられる。それは確かに。
 だが、その根源はどうだろうか。善しにしろ悪しきにしろ、根源にあるのは純粋な欲求である。何かをしたい。何かを得たい。それは健全な精神活動であり、それがあるからこそ人は発展し生きてこられた。欲望。文字だけを見れば忌避すべく物のように見えるが、健全な欲望を持たぬものがいるとしたら、それはまた不健全なのではないだろうか……?
 話を戻せば、大なり小なり、人の心には欲望が根付き、それを原動力として生きている、という側面も確かにあるという事だ。それを恥ずべきではあるまい。人と欲望は、切っては切り離せないものである。という結論に戻る。
 さて、竜宮の人々は純粋にして純朴である。格好や言動はそうでもないが、みんないい人ばかりだ。だが、それでも欲望というものは切り離せずに存在する。竜宮の玉座であるニューディは乙姫メーアの浮かんだ欲望を喰らう力を持つが、しかしニューディとてすべての竜宮の民の欲望の根を食ってはいられない。
 つまり、竜宮の民にも……欲望的なものは、ある。
 例えば、此処。竜宮は、ケルネ通りに存在する大衆食堂『竜宮飯店』である。シンプルな名前なので、もしかしたらほかにも同じような名前の店があるかもしれないので、此処ではよく、『テルノのごはんや』と呼ばれている。テルノというのは、店主の竜宮嬢である。テルノは食べ物を調理する関係でバニー姿ではないが、看板娘のクエンタはバニーである。
「さーって、今日も新しい料理考えなきゃなぁ……」
 さておき。テルノは今夜も、新料理の開発にいそしんでいた。真面目な食堂のお姉さんであるテルノは、竜宮の仲間達や、お客さん達に、幸せな食事の時を提供してあげたいと思っていた。ファストフード的なお店や、高級料亭的なお店ももちろん、ケルネ通りには存在する。そう言ったお店とは違うプランで、幸せを。テルノはいい子なので、そういう欲求を持っていた。
「いっぱい、お腹いっぱいに、食べて欲しい。
 私の料理で、幸せになって欲しい」
 そういう彼女の顔には、笑顔が浮かんでいた。美味しそうにご飯を食べている人たちを見ると、とても幸せになる。
 だが……この好ましい感情も、言い換えれば欲望と換言できるだろう。欲求。良くも悪くも、それは欲望なのだ。
 ずず、と、店の入り口が開いた。もう夜である。竜宮は眠らない町であるが、テルノのごはんやは、夜遅くまでやっているお店ではなかった。
「ごめんなさい、今日はもう終わりで――」
 そう言ったテルノの表情が、恐怖に染まった。
 そこには、あまりのも悍ましい怪物が――ダガヌチ(駄我奴子)の姿が、あった。

●ごはん屋さんの大騒動
「というわけでね、今日はテルノのごはんやさんを案内するね!」
 そう言って、あなたたちにニコニコというのは、マール・ディーネー。ここ竜宮の少女で、竜宮の危機をシレンツィオに告げに来た少女だ。イレギュラーズ達の活躍により、竜宮へと聞かんできた彼女。竜宮の危機もイレギュラーズによって当面払われ、ひと時の安らぎの時間が訪れていた。
 そうなれば、人懐っこい彼女が、竜宮の案内をしないわけがない――というわけで、あなたたちは『マール・ディーネーの護衛』という建前の依頼のもと、竜宮観光を楽しんでいたわけだ。
「そろそろおなかすいたでしょ? テルノさんの定食屋、とってもおいしいの!
 お魚の煮つけ? 豊穣風の料理とか……あ、お魚は大丈夫? 最近はシレンツィオとかからお肉も入ってくるようになったみたいだけど、やっぱり海の底だから、お魚を加工した食べ物が多いんだけど――」
 そう言った刹那、辺りがざわざわと騒ぎ始めた。
「なんだろ……?」
 マールがひょこひょこと飛び跳ねて、人垣の奥を見ようとしている。あなたはそんなマールを抑えつつ、一緒に人ごみをかき分けてその先へと向かう。
 そこは噂のテルノのごはんやさんで、大通りで多くの人が逃げ惑っているようだった。あなたは警戒する。何か、とても『悍ましい』気配を感じ取ったのだ……。
「……なんだろ、すごい怖い感じがする……」
 マールが怯えたようにいう。竜宮の乙姫の血縁者である彼女も、何かを感じ取ったのだろう。恐る恐る覗いてみれば、テルノのごはんや、畳などが敷かれていた和風の定食屋は、乱雑に荒れた様子を見せていた。皿があちこちに飛び散り、食べ物が転がり、その中心に、一人の女性がいて、近くにはバニー姿の女性(クエンタというウエイトレスさんだ)が、怯えた様子でお盆を盾にしていた。
「テルノさん、どうしちゃったんですかぁ~!」
 クエンタが叫ぶのへ、テルノが、何か昏い表情で言う。
「なにって、ご飯を食べさせてあげてるんじゃない」
「おかしいですよ! 何度も何度もお客さんに無理やりお替りさせて! あんなに食べたら死んじゃないますって!」
「ご飯を食べたら幸せでしょ? 私はその幸せな皆の顔を見たいの。たくさんたくさん食べさせたいの。たくさんたくさん食べさせて、たくさんたくさん幸せになってもらうの!
 それを邪魔するのは許せない! それを否定するのは許せない!」
 ず、とテルノの背中に、何か黒い靄のようなものが現れた。それはテルノの身体を包み、ず、ず、と触手のようなものを生み出す。腐った海産物のようなにおいが、辺りに充満した。
「……あれ! メーアが言ってた、ダガヌチって奴だ!」
 マールが指さした。あなたも頷く。ダガヌチ。邪神ダガンが生み出したとされる、眷属が一つ。話によれば、人に取りつき、その欲望を増幅させて暴れさせる力を持つという――!
「みんな、あたしもてつだう! テルノさんを助けてあげて!」
 マールのお願いに、あなたは頷いた。
 貴方は武器を構えると、定食屋に踏み込んだ――!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 竜宮の定食屋でのトラブル。その背景には、悪しき者の関与があるようです。

●成功条件
 ダガヌチを討伐し、テルノを救う。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 マール・ディーネーの護衛、という名目の依頼を受けて、竜宮の観光をマールと共に行っていた皆さん。
 そろそろご飯を食べようか、と誘われ、テルノのごはんや、と呼ばれる定食屋に向かった皆さんは、そこで邪悪の気配を感じ取ります。
 向かった先では、「皆にご飯を無理矢理にでも食べさせる」と欲望を暴走させた、定食屋の店主、テルノが暴れていました! その背には、邪悪な気配を――ダガヌチの気配があります。
 ダガヌチは、人にとり付いてその欲望を増強させる、という力を持ちます。そのせいで、テルノさんは「皆に一杯ご飯を食べて幸せになってもらいたい」という欲望を暴走させてしまったのです。
 このままでは、周囲も危険です。テルノさんを助けるためにも、いったんおとなしくさせましょう。
 テルノさんは、ダガヌチの力で強化されており、イレギュラーズを単独で相手どれるほどの力を持ちます。ですが、HPを半減させれば、テルノさんからダガヌチが引きはがされるはずです。そうなれば、後は現れたダガヌチを倒すだけになります。
 作戦決行タイミングはお昼前。戦場は定食屋ですが、戦闘ペナルティなどは特に発生しないものとします。また、竜宮は海底都市ですが、加護の力もあるため、フィールドは地上同様のものとします。

●エネミーデータ
 テルノさん ×1
  ダガヌチに寄生され、欲望を暴走させてしまった竜宮の料理人です。
  色々な人に、おなか一杯ご飯食べて幸せになってもらいたい、という欲望を暴走させられてしまい、無理矢理ご飯を食べさせるという行動に出てしまっています。
  ダガヌチに寄生された結果戦闘能力も向上しており、包丁はダガヌチの闇のオーラで業物の刀のようになっています。出血系列のBSに注意しましょう。
  ダガヌチのオーラによって守られているため、攻撃してもテルノさん自体に傷が残るようなことはありません。全力で戦って大丈夫です。
  また、HPが半減した段階で、本体のダガヌチが離脱し、テルノさんは味方NPC(というか護衛対象)となります。

 ダガヌチ ×1
 前述のテルノさんのHPを半減させた段階で、本体のダガヌチがテルノさんから離れて襲い掛かってきます。
 ダガヌチはテルノさんよりも強敵で、HPは全快の状態で襲い掛かって来るでしょう。
 このダガヌチは触手を鞭のように使い、強烈な打撃を広範囲に与えてきます。また、テルノさんに宿っていた影響か、引き続き出血系列と、料理人の命である火を利用した火炎系列のBSを付与し、じりじりHPを削ってくるはずです。
 単体で皆さんを相手取るため、全体的に強敵に設定されています。しいて言うなら反応・回避のパラメーターは低めですので、動き出す前に大ダメージを与えてやるといいかもしれません。

●味方NPC
 マール・ディーネー
  竜宮の少女。皆さんを案内していました。
  戦闘能力は低めですが、簡単な治療の魔術を使えます。
  生存性はあまり高くないので、巻き込まれないように後方において、回復を飛ばしてもらうような扱いがいいでしょう。
  特に指示が無ければそうしますし、時々ぴょんぴょんはねて応援してくれます。

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができ、水中では呼吸が可能になります。水中行動スキルを持っている場合更に有利になります。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <竜想エリタージュ>テルノのごはんやは今日も大繁盛……?完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
雨紅(p3p008287)
愛星
フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神

リプレイ

●欲望の暴走
「て、テルノさん……!」
 マールが心配げに声をかける。思わず飛び出しそうになる彼女を、『黒一閃』黒星 一晃(p3p004679)は静かに制した。
「危険だ、下がれ」
 そういう一晃へ、マールは頷いた。それから、
「あれ、ダガヌチ、って奴!」
 声をあげるのへ、一晃は頷く。
「うむ。フリーパレットを喰らい、そして時に人にとりつき、欲望を暴走させる魔……今回は、後者か」
 その言葉に、仲間達も頷く。テルノ――定食屋の女店主は、明らかにその様子に『魔』の気配を纏っていた。
「皆においしいご飯を食べてもらって、笑顔になって欲しい、って言ってたんです!」
 定食屋のウェイトレスであるクエンタが言う。
「その気持ちを、暴走させられたんですね……」
 少しだけ、睨みつけるような表情で、『友人/死神』フロイント ハイン(p3p010570)が言う。睨むは、テルノではなく、その背後。何か悍ましい、暗い雰囲気――ダガヌチの気配に違いなかった。
「テルノさんの小さな喜びすらも奪い、歪んだ愉悦に変えてしまうその在り様。
 きっと「生きたい」という純然たる欲求すらも、あなたにとっては単なる餌食でしかないのでしょう。
 僕が抱いた怒りすらも、消し去りたいという不快感すらも、あなたにとっては単なる餌。
 ならば僕は、一度以前の僕へと戻りましょう。
 食事も要らず、睡眠も要らず、呼吸も要らず、番(つがい)も要らず、何をする必要もない目的なき生物へ。
 そうすればあなたに残るのは、あなた自身をも喰らい尽くす飢えのみです」
 すぅ、とその瞳が冷たい色に変わる。感情を封印し、一己の刃へ、己が身を変貌させる。
「どうしてそんな顔をするの?」
 テルノが歪んだ笑顔でそういう。
「辛いのね、悲しいのね。おなか一杯ご飯を食べれば、きっと笑顔になれるわ。ううん、私が笑顔にしてあげる! いっぱい食べて食べて食べて、「笑顔にならなければいけない」の……!」
「……純粋な、尊い願いすら、そのように捻じ曲げしまうのなら……」
 ハインが静かに言う。優しい思いを捻じ曲げられ、誰かを傷つけてしまうように誘導される、その姿はあまりにも悲しかった。
「笑顔は大事ですが、一方的では悲しいでしょう。
 暴走させられたものなら尚更です」
 そういうのは、『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)だ。見つめるその先には、苦し気なテルノの姿がある。
「その悲しみから、此処で救いだしましょう。そして、本当の意味で、一緒に笑顔を求めましょう」
「あなたたち、私の邪魔をするの?」
 テルノが、憎悪に染まった表情を浮かべる。
「許せない……! 私の邪魔をするなら……!」
 そう、掲げる包丁は、料理人の命であり、笑顔を生み出すための調理包丁だった。だが、今は人を傷つける刃へと変貌させられている。
「む! ほーちょーは美咲さんの専門だよ!」
 むむむ、『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が言うのへ、『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)が苦笑する。
「いや、まぁ……そう言われると、まるで私が料理人みたいだね……」
「美咲さんの料理なら、皆を笑顔にできると思うけどなぁ。
 ……それは、今度のお昼に取っておくとして。今はテルノさんのお昼の時間だよね!」
「うん。つくづく、深怪魔とか、それに関係する連中には邪魔されてばかりだね。どこにでも沸くなら、Gみたいだ。
 『眼帯』は深海魔を使役して襲ってきた。
 話せそうな感じだった『指輪』の時はぞろぞろ出て邪魔してきた。
 そして今度は、お勧めって紹介された食事の時に……。
 ようやく落ち着いた食事の時くらい、邪魔されず自由で救われているべきでしょうに」
 少しだけ、むっとした様子を見せる美咲。わ、とヒィロは声をあげた。
(ちょっと怒ってるかも……うん、しょうがないね)
 胸中で呟くヒィロ。美咲は「どうしたの?」と声をかけるが、ヒィロは笑った。
「ううん、はやくやっつけて、お昼にしよ!」
 構えるヒィロに、美咲は頷く。一方、テルノはその背から、澱んだオーラを吹き出した。欲望を感知したダガヌチが歓喜しているのか……それを増幅させ人を暴走させる悪しきオーラ。
「ダガヌチ……あの叶え方は間違ってるし何か腹立つ!
 テルノさんの願いは自身の頑張りで叶えられる、他者を苦しめる物じゃない願いなのに……!」
 そういうのは、『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)だ。その言葉に、マールは悲し気に応える。
「そうなの……テルノさん、いろんな人に優しくご飯をくれて……食べきれなくてもお土産に包んでくれたり、皆が楽しくご飯を食べてくれるのを、すごく喜んでた人なの!
 あんな風に、無理矢理食べさせるなんて、きっとテルノさん自身がすごく苦しんでると思う! ヨゾラさん、お願い……! 力を貸して! テルノさんを、助けてあげたい!」
 その言葉に、ヨゾラは頷く。
「もちろんだよ! マールさんも、力を貸して。無理はしないでいいから、後ろから、僕たちを支えて欲しいんだ」
 ヨゾラの言葉に、マールはもちろん、と頷いた。
「欲望……確かに、どんな願いも、思いも、突き詰めればそう呼べるものなのかもしれまない」
 そう、『諦めない』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が、静かに呟いた。
「でも……誰かの心を温かくしてくれるそれを、悪しきものへと変えるのは、許せない!」
 ココロが、刃を抜き放つ。未知の悪魔と対峙した者の名を冠する刃。
「はい! これからも、皆がテルノさんのおいしいご飯を食べられるように……。
 テルノさんが、想いを叶えられるように!」
 そういう、『深緑魔法少女』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)が続く。その手の花のブレスレットが、優しく輝く。ほのかな光。想いの光。
「ここで、やっつけます! 行きましょう、みなさん!」
 リディアの言葉に、皆は頷いた。構える。そして、対峙する! 悪しき魔にとりつかれた、悲しき女性へと!
「ココロさん、リディアさん……ううん、皆! 頑張って!」
 マールがぴょん、と飛び跳ねてそういうのへ、ココロとリディアは、そして仲間達は頷いた。
「救おう……純粋な、願いを!」
「願いを歪めるような存在を、許しません!」
 二人の声が、戦いの合図となる! かくして、願いを救うための戦いは、此処に幕を上げたのだ。

●想いの描き方
「ここは、テルノさんの想いの、大切な場所だから、少しでも……!」
 ヨゾラが声をあげ、念じる。その優しい想いは、周囲を包み込む保護の結界となった。
「これで、お店は大丈夫のはず!」
 戦いの余波から、破損を防ぐための保護結界。ヨゾラの設置したそれが、優しくお店を包み込む――。
「なるべく広い所にひきつけるよ!」
 ヒィロが言った。攻撃の余波をなるべく周囲に影響させぬよう、自身も敵を拾い場所へと引き寄せるつもりだった。
「この後、ご飯食べるんだものね!」
 そう言って、ウインク。敵の引き付け役を買って出たヒィロは、テルノへと視線をやる。挑発するように、笑いかけた。
「さぁて、キミの切れ味、試させてもらうよ! 一晃さん、お願い!」
「ああ、承知した!」
 この手番、真っ先に動いたのは一晃である。その背が、仲間達を導くように戦場へと走る。まさに先導者。連鎖的な行動を求め、導くその背中に、仲間達は一斉に行動した。
「黒一閃、黒星一晃、一筋の光と成りて邪神の眷属を斬り捨てる! ちぇぇぇぇい!」
 一晃が刃を振り下ろす。テルノは乱雑に包丁を振るった。ダガヌチの力だろう、型はでたらめだが、しかし増幅された膂力が、一流の剣士である一晃の業を受け止めた。ちゅいん、と音が響く。鉄と鉄が触れ合う音。
「こっちだよ、テルノさん!」
 ヒィロがにっこりと笑う。些か蠱惑的な笑みは、老若男女問わず引き寄せる『恍惚とする魅力』を持っていた。
「あなたから、先に……!」
 テルノが叫び、包丁を構えて突撃! ヒィロはそれを跳躍して回避――店の真中に引き寄せると、そこで止まった。
「美咲さん!」
「うん!」
 声とともに跳び出したのは、美咲だ! 手にした包丁。奇しくも同じ獲物であったが、どちらも『扱いは違う』。テルノが激情に任せて乱雑に振るうのであれば、美咲は見える『それ』を斬るための『道具』だ。さっ、と斬った手ごたえがする。が、テルノの身体に傷はできていない。斬ったのは、テルノの身体の手前。何か、悍ましい魔が渦巻く、気配とでもいうべきか所。「いぃぃぃ」という、濁った声が聞こえた。テルノのそれではない。が、間違いなく、何かを傷つけた。
「見つけた……! ここ!」
 美咲が叫ぶ。テルノの身体を覆う、魔。ダガヌチのそれの、いわば防壁とでもいうべき場所というべきか。それは直接的な打撃を与えられぬという事でデメリットであったが、テルノ自信を傷つけずに済むという大きなメリットでもある。
「まずはこの防壁を突き崩して!」
 美咲の言葉に、
「はい!」
 リディアが叫ぶ。その手を掲げれば、竜宮のネオンにも負けぬ、激しい神聖なる光が巻き起こった。
「魔を貫いて! 聖なる光よ!」
 リディアが掲げたその手から、神聖なる光が解き放たれる。撃ち貫く、聖光。身体を貫かれたテルノ……いや、ダガヌチが悲鳴を上げる!
「ぎいあああああ!」
「テルノさんのふりして、同情を誘おうとしたって無駄だよ!
 君の願いを歪めるものを……ひっぺがす!」
 ヨゾラが手を振るうと、呪鎖が宙を走った。四方から迫るそれが、テルノの身体に触れる寸前、何もない空間を巻き取る――いや、そこに、突き崩すべき悪しき壁がある。
「今!」
 ぐわ、と呪詛が注ぎ込まれる!
「ああああっ!」
 テルノが衝撃に悲鳴を上げた。が、その身体、その精神にダメージはない。悲鳴を上げているのは、前述もしたが、その口を借りたダガヌチだ!
「今、助け出します!」
 雨紅が、その手にした細剣を突き出した。鋭い突撃が、ばぢん、とテルノの寸前で音をあげる。その空間から、黒い何かがにじみ出すようだった。たとえるなら、空間にあいた傷口から、血がしみ出すような姿。が、それはテルノを纏う悪しき障壁をこじ開けられ、そこから逃げ出そうとする悪しき何かであることに、イレギュラーズ達は気づいていた。
「もう、一押しを……!」
 雨紅が言う。止めを刺すに、もう一歩――そこへ強烈な光が巻き起こった。生誕の光。ビックバン。ハインが放ったウークナルの光が、テルノから悪しき魔を、無理矢理に引きはがした!
「対象の離脱を確認――テルノさんの保護を」
 機械的に、冷たい瞳で言うハイン。今や感情を封じ、魔を封じるためだけに動くひと振りの刃と化したハインは、仲間にそう告げると、ダガヌチの後を追う。
「ココロ様、マール様! テルノ様をお願いできますか!?」
 雨紅がそういうのへ、
「任せて!」
 ココロが飛び込む。テルノを抱き留め、顔色を確認した。呼吸も正常。
「うん、少し疲れてるみたいだけど、傷はないわ」
「よ、よかったぁ……」
 遅れてきたマールが安堵の息を吐いた。
「わ、私……?」
 テルノが困惑したように言うのへ、ココロは微笑んだ。
「大丈夫? 何があったかは……」
 ココロが言うのへ、テルノが頷いた。
「は、はい。私、とんでもない事を……」
 ココロが頭を振る。
「ううん、あなたのせいじゃないわ。
 マールさん、テルノさんをお願い。
 まだ、ダガヌチは生き残ってるから……!」
「うん、任せてココロさん!」
 マールが頷いて、テルノを抱き寄せた。
「行こう、雨紅さん! あとは、やっつけるだけよ!」
 ココロの言葉に、雨紅が頷いた。
「ええ、この想い、幸せなままに終わらせましょう!」
 雨紅はその言葉と共に、戦場へと駆けだしていった。

●欲望の魔
「うるるういいいいい」
 雄たけびを上げるのは、悪しき魔、ダガヌチだ。この個体は、あちこちから触手のようなものを生やして、此方を打ち付けてくる。同時に、目のような部位から放たれる強烈な火炎は、テルノの料理人として扱っていたそれから学んだのだろうか? いずれにしても、食材を痛めるという目的にしては少々協力すぎる火炎が、イレギュラーズ達をひどく痛めつけていた。
「おっと、ボク達を野菜炒めにするつもり!?」
 ヒィロがべー、と舌を出す。美咲が炎を『斬り』ながら、叫んだ。
「ああ、そう聞いたらお腹がすいてきたね。
 知ってる? 食事って言うのはね、邪魔されず自由で救われているべきなんだ」
「それに、その切れ味も炎も、お前のモノじゃない! テルノさんが人の幸せのために揮うモノなんだ!!」
 ヒィロが吠える。ヒィロの叫びに、ダガヌチは吠えた! 鋭い触手の無知は、確かに包丁のごとく鋭いもの。だが、それを美咲は己の刃で斬り払う!
「敵の攻撃はつぶすから、一気に決めて!」
 美咲の言葉に、
「不死鳥よ、皆の力となって!」
 ココロがその手を振り上げる。海底に舞う不死鳥が、その翼で仲間達を包み込んだ。癒しと退魔の力が、仲間達の身体に満ちる。それは、悪しき炎を振り払うほどの、強烈な力!
「テルノ様は、マール様と共に離脱いたしました」
 雨紅がそういう。
「となれば、此処よりは後ろを気にする必要はなく。一気に殲滅としましょう」
 雨紅が、手にした細剣を突き出す。振るわれた触手を次々とついて切り裂き、ダガヌチ本体へと続く道を切り開いた。ハインが再び、その手をかざす。光は道を突き進み、強烈な『ウークナル』が爆裂を起こす!
「対象の消耗を確認しました。追撃を」
 ハインが静かにそう言うのへ、リディアは力強くその手を敵へ向けて突き出した!
「もう、手加減はしませんからね!」
 その掌に強烈な魔力の暴風が吹き荒れる。解き放つと同時に、さらに魔力を増幅して、もう一撃! 苛烈な連続魔が解き放たれて空間を裂いた! 慌てて炎をはいて防御を目論むダガヌチだが、しかしリディアの魔力波は、ダガヌチの借り物の炎などに負けるようなものではない! 炎の壁を貫いて、ダガヌチに突き刺さる、リディアの魔力波! 連続して撃ち込まれるそれが、ダガヌチを叩き、そして地にたたきつけた!
「るおおおおっ!」
 悲鳴を上げるダガヌチへ、ヨゾラの怒りの追撃が突き刺さる!
「この食堂はお客さんを傷つける場所じゃない!
 これ以上……テルノさんの食堂を、願いを汚すなぁぁぁ!!」
 再び撃ち込まれる、魔力の鎖。しかし今回は、確実にダガヌチの身体を捉えていた。怒りの呪が、ダガヌチに注ぎ込まれる。退魔の、呪。悪しきものを払う、怒りの発露。
「一晃君、おねがい!」
 ヨゾラの言葉に、「ああ」と静かに一晃は頷いた。そのまま走り、刃を振るう。
「欲望に憑かねば動けぬ眷属など、俺達の敵ではない……消え失せろ」
 振り下ろした刃が、ダガヌチを両断した。きゅおおお、と悲鳴を上げて、ダガヌチが消え去る。しゅう、ととけるような音だけが、あたりに響いた。この個体の身体を構成していた泥のようなものは、地に染みることなく、蒸発するように消滅していった。
「ふむ……よし、だな。
 テルノはどうだ?」
「いっこーさん! 無事だよ~!!」
 ぴょんぴょんと、マールが飛び跳ねている。その隣には、申し訳なさそうな顔をしたテルノと、心配げにテルノを見やるクエンタが立っていた。
「あ、あの……ご迷惑をおかけしました……」
 テルノが申し訳なさそうに言うのへ、ココロは頭を振った。
「ううん、あなたが悪いわけじゃないから……ね、今日は、わたしにお料理を作らせてもらっていいかな?
 竜宮チャーハン、っていうの、作ってあげたいの」
 ココロの言葉に、テルノは不思議に思いつつも、頷いた。
「そうだな、食事前の運動を済ませたところだ。ココロ、作ってもらえるか?」
 一晃の言葉に、ココロは笑って頷く。しばらくすると、見せにチャーハンのよい匂いが漂ってくる。ココロが差し出したチャーハンを、テーブルにおいて、皆がそれをひとくち、口元に運んだ。
「うわ、おいしいねぇ~」
 にっこりと笑うヒィロ。美咲も頷いた。
「うん、悪くないね。竜宮チャーハンか。竜宮の名物なんだよね?」
「ええ、うちにもメニューがあります」
 テルノが笑う。なんだか久しぶりに誰かが自分を想って作ってくれた料理を食べたような気がした。
「……テルノさん。もし、テルノさんが悪いと思っているなら、それだけは違います」
 リディアが言った。
「誰かに幸せになって欲しいという思いは、良い事です。
 でも、どんな想いも……暴走すれば、人を傷つけてしまう事はあります」
 ハインが言う。
「テルノさんの願い、僕は好きだよ。間違ってたとか、思ってほしくないな」
 ヨゾラが、そう言った。
「マール様も、楽しそうに話していましたよ。とっても美味しいんだって。
 また、食べにきます。ですから」
 雨紅が、そう言った。
 テルノは、ゆっくりと頷いた。
「ありがとう……その時は、腕によりをかけて!」
 テルノが、笑った。
 イレギュラーズ達の活躍は、テルノに笑顔を取り戻させた。
 そして、テルノもまた、多くの人に笑顔をもたらせてくれるのだろう。
 そう思いつつ……今は、ココロのチャーハンに舌鼓を打つ、皆であった。

成否

成功

MVP

黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さんの活躍により、テルノは無事に生還。
 今もまた、料理人としてたくさんの人を笑顔にしています。
「今度は腕によりをかけて、おいしい料理を作るから、また遊びに来てね!」
 テルノは皆さんに、そう言って笑ったのでした。

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