シナリオ詳細
<竜想エリタージュ>我が博愛、深淵にまで届け!
オープニング
●ブラヴォー!
噂に聞きし『竜宮城』の、何と素晴らしいホスピタリティであることか! 博愛に生き博愛に殉じるを座右の銘とするこの私アガペー男爵が、まさか逆に受け止めきれぬほどの愛に溺れそうになる日がやって来るとは!
話術はもちろん、さり気ない仕草ひとつに至るまで、何もかもが私の心を――いや魂を刺激してくれた。実のところ私は、見知らぬ種族と愛を紡ぐことにかけては右に出る者はいないと自負していたのだ。しかし……この場所ではどうだ? そんな私が思わず惚れ惚れしてしまうほど、彼女ら『竜宮嬢』たちのプロフェッショナルな博愛に満ちているではないかね!
愛を紡ごうとして恥じ入ったのは久方ぶりだ。私が説こうとした愛などは、まさに海種に水練であった! 私がひとつ愛を囁やけば、抱えきれない愛が押し寄せる。なんという屈辱であろう……『博愛の貴族』を自認する私が、受けた愛を返しきれぬなど!
であれば……愛以外の形で返すほかはない。山ほどのチップを支払って? 当然、それも不可欠なものだ! しかし、それだけではあまりにも味気ないとは思わないかね?
聞けばこの竜宮は、深怪魔(ディープ・テラーズ)なる魔物に脅かされているとか。はて、私の愛は彼らにも通じるのであろうか?
私とて無論、「愛の力で脅威を取り除いたのでこれを見返りにしてください」などと言うつもりはない。愛を何かの見返りにすることは、竜宮嬢らにとっても深怪魔らにとっても失礼千万であり、博愛の精神と相容れぬものであるからだ。
とは言え、私が誰かを愛した結果、それが巡り巡って更なる愛を呼び起こせたとしたら……それはどれほど素晴らしいことであろうかね!
もっとも今は、そのような大義に気を散らしている場合ではない! この先には見知らぬ出逢いが待っており、私はただそれに心躍らせていればいいのだ!
真の貴族にとって必要なことは、国家・民族・種族・性別……そういった垣根を全て乗り越えて、民を愛する心である。
そしてそこに、まだ私が愛を届けておらぬ者たちがいる。
であれば、私が何をすべきかなど決まっていよう?
私は、深怪魔に求愛をしてみせるのだ!
●竜宮嬢からの依頼
「……っていう感じにぃ、お客様がぁ、深怪魔のとこに行っちゃったのでぇ、無事に連れ帰ってあげてほしいなぁ、って思いますぅ」
- <竜想エリタージュ>我が博愛、深淵にまで届け!完了
- GM名るう
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年09月10日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●この世の地獄
自分たちは一体何を見せつけられているのか。
その問いに答えを出せる者がいたなら是非とも教えてほしい。
海の中であるにもかかわらずきっちりと正装に身を包んだおっさんが、巨大なタコ怪物と一緒に組んず解れつイチャついている。例えばこの光景の挿絵化をEXリクエストしたとして、どれほどの人が喜んで立候補してくれるのだろうか。
「なあ……どうして求愛成功してるんだ?」
「知らねぇが、当人(?)同士が納得してそうなってるんだったらそういうものなんだろう……許されるならこのまま遠慮なく放っておきたいんだがな」
いかに広き海を識る『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)とて、『金剛不壊の華』型破 命(p3p009483)の疑問に答える術を持ちはしなかった。もっともあの光景を形作るうちの片方はよくあの男爵に付き纏われてたという『最期に映した男』キドー(p3p000244)ですら知らぬ異世界の陸の生き物なのだから、縁が知らぬのも致し方のないことではあるのだが。
「そうか……わかんねぇな、愛……」
もし、命が心のなかでだけ呟いたつもりの感想が思わず口からも洩れていたとして、誰にも文句言えないに違いなかった。少なくとも命はその数瞬後には、その指先に敵を引き裂くための力を込めるに至れている。それをとんでもない精神力と称賛されることこそあれど、非難される筋合いなどはない。
そう……この依頼では力を揮って戦わねばならぬ。眺めているだけで消耗されてゆく精神力にいかに抗って、目的であるアガペー男爵の救出を果たすのかという。
……いいや。必ずや力のみならず、魂まで奮い立たせてみせようぞ!
「深怪魔撃退とか救出っていう依頼の目的自体は、頑張らなきゃって気にはさせてくれるっすからね……」
故に何よりも平穏を愛する鬼『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)の心は、何人たりとも侵すべからざる形に燃える! そう、これは人助けなのだ……その救出対象が今度は触腕の先っちょを口に含んで顔を赤らめているのだとしても!
なおアガペー男爵(そう名乗っているが多分アガペーが本名なわけでもないし本当に爵位を持っているとは信じたくねーbyキドー)は自らの博愛が深怪魔に通じたと思っているようだが、深怪魔からすれば彼などキープ対象のひとりくらいの価値しか認めていないようだった。というのも『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)が彼らの前に姿を現せば、深怪魔はそちらにも足の一本を伸ばしたからだ。むしろ……もしかしたらセレマに対する態度のほうがよっぽど夢中であるようにさえ見えるのは気のせいか?
「……当然だろう? ボクが美しいのは世界の理だ。いかに深怪魔とて、愛などと称してただ幻覚に陶酔しているだけの輩を見抜く程度の知恵はあって然るべきというものだ」
「なんたることであろう……やはり私の博愛精神は、君の教えてくれたとおりまだまだ研鑽の余地があったということだよキドー君!」
「誰が何を教えたって!?」
男爵の喚き散らす言葉は不快だが、それはそれとして今が好機だ! 触腕の拘束が緩んだこの瞬間こそが、男爵を深怪魔から引き剥がす時!!
「アガペーさーん! 竜宮嬢の皆さんが『アガペーさんの愛がもっと欲しいから今すぐ帰ってきて♡』って言ってたっすよー!」
「なんと……今こそ私の博愛が試されているというのか!」
『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)が(嬢たちの言う『愛』が『売上』を意味するという事実には敢えて触れずに)黄色い声を作ってみせたなら……男爵のほうも心が揺らいだらしく、触腕を抱きしめている手の力が緩んだ。そして、それと時を同じくし……彼を掴んでいた足が痙攣をしはじめる。何事だ? 男爵と深怪魔が慌てて周囲を見回したなら……そこにはいつの間に近付いていたのか『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)の姿!
(これを機に、どんなに善い行ないも時と場所は考えないと逆効果だと気付いてくれればいいのだけれどね)
再び距離を空けた雲雀を追った足は、今しがた雲雀に刻まれた術理に再び悶え、それが原因で獲物を捉え損ねた。もちろん、そこへと新たに踏み込んだ『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)のことも。
「その愛が何のためにあるのかを、改めて考え直すべきじゃないかな」
史之の剣は痙攣し強張った触腕など切断し、男爵を深怪魔から奪っていった。
「高貴なる血を残す義務を果たすためならば相手は選ぶべきだし、敬愛は仕える君主その人にこそ向けられるべきだ」
忠告する史之。お姫様抱っこされて胸キュンになる変態。いかに男爵が優先度の低い相手になったとはいえ獲物を奪われた深怪魔は怒り狂って、今度は史之にも手ならぬ足を伸ばす!
もっとも……その足は獲物に届くまであと一歩のところで、伸長限界点を迎えてしまったわけだが。
「もう一歩? 悪いが、これ以上近付けさせはできないな」
ぶよつく深怪魔の肥大した肉体を、広げた命の両腕が抑え込んでいた。
もちろん深怪魔も手をこまねいていたのではなく、命を触腕で弾き飛ばそうとは試みているのだが。命が一歩踏み込めば、巨躯が柔らかな深怪魔の体へとめり込んでゆく。すると自分の体が邪魔をして、深怪魔の打撃は十分に届かない!
「ざまぁ見やがれ! そんなに自傷したけりゃこの俺が手伝ってやらぁ!」
キドーがククリで深怪魔を切り刻んでやれば……悲鳴は何故か別のところから上がった。
「待ってくれたまえキドー君! 私に……いや、博愛の力にもう一度だけチャンスをくれないか!」
マジかよ。この期に及んでまだ言ってるのかよ。
呆れていると……肩をポン。
喚いた男爵の肩を叩いたものは、しばらくの間寡黙に様子を見守っていた縁だった。
「その博愛精神には大いに感心するがね。なぁ男爵とやら、お前さんをわざわざこんな所まで助けに来た俺たちを労うのも忘れんでくれよ?」
するとその時……男爵に電流走る!
「もしかして私は目の前のレディに夢中になるあまり、他にも博愛を注ぐべき者たちがいるという至極当たり前の事実を疎かにするという、とんでもない失態を犯していたのでは?」
今も自分を抱え上げたままの(実際は身柄を確保しているだけの)史之の瞳をじっと見つめて、何やら碌でもない自称真実に目覚めたらしい男爵の覚悟の表情は、縁には一周回って格好良くさえ見えた。
「もちろん、あなたのことを愛してる。俺があなたを幸せにするよ」
それから、黙って俺について来い、一生守ってやる、と囁く男爵。その言葉の切れ端だけに着目すれば確かに惚れたくなりそうな気がしないでもないが……。
(一ミリも見習いたかねぇな)
(そもそもこれ、心理学者が考案したっていうプロポーズそのままだからね。テレビで見た)
互いにアイコンタクトを交わす縁と史之である。ちなみにこの後「来年も君と同じ桜を見たい」「君のためなら死ねる」まで繋げたら本当に結婚にまで持ち込めたらしいとは史之の体験談。
「……って、そんなことよりっす!」
そんなラヴの最中の男爵の腕に、レッドがしなだれかかってみせた。すると男爵はますます興奮し、早口で何やら捲し立ててゆく!
「おお済まない愛らしいレディ! 君のような子のために愛に溢れた世界を作るのが私の使命であるとさえ言えるというのに! ああ、私は愛ある数々の世界を君に見せてあげたい……君とともに愛ある世界を一緒に歩ませてはくれないか?」
(うっ……そういうの言われたことないから思わずなびいてしまいそうっす!)
……なんて言ってる場合ではなくて。
「問題はあっちの深怪魔っす! 宥めるからボクにあいつへの愛の伝え方を教えてほしいっす!」
●お持ち帰り阻止戦
かくして深海底には、両手をグーパーしてアピールするレッドと何もしなくても勝手に好感度を爆増させてるセレマを抱え、ご満悦そうに住処に帰ってゆく深怪魔の姿が生まれたのだった――。
「――と、勘違いされては困るのだが?」
美しい戦利品を突如として“影の獣”が喰らい、深怪魔は人ならざる悲鳴を上げた。
「ボクからキミを求めたのなら兎も角、キミのほうからボクを求めたわけだ。支払うものも支払わずに持ち帰ろうというのなら、相応のしっぺ返しを受けるのは当然だろう」
そもそも、たとえセレマ自身がそれを望まなかったとしても、彼の体の債権者たる魔性どもがタダでは済ますまい。無論、、今の“獣”もその一柱の仕業……そしてセレマたちを奪われるのを是としないのは、他の特異運命座標たちとて変わらない!
「つまり……俺も同じように気を惹いてやればいい訳っすね」
慧の手のひらのグーパーも、やはり何故か深怪魔のぎょろりとした目をこちらに向けさせた。ちらちらと逸れる視線の先を確かめてやれば、それが彼の頭から垂れ下がる巨大な角――これもまた魅力的な“足”に見えたのかもしれない――を盗み見ているようではあるが。
「マジっすか……」
驚くのはむしろ慧自身のほうだった。言われたとおりにやるだけでこの威力とは! もしもあの男爵に手を握られて「これから毎日一緒にご飯食べて、同じ幸せを分かち合おう」なんて愛の告白をされたなら、自分は一体どうなってしまうのか!
「それよりは深怪魔に好かれるほうがマシっすね。俺はもうちょいスラッと細い脚の方が好……」
気を取り直そうとして、自分が失礼なことを口に出してしまったと気付き、思わず頭を下げてしまった慧。何もそんなに気に病まずとも。だって迫り来る深怪魔が全身を染めている興奮の色は……大丈夫、怒りではなく興味を意味するもの!
「言葉が通じてなくて良かったっす……」
もっとも憤怒であっても好意であっても、彼女が目の前の獲物にご執心になっていることに違いはなかった。それはすなわち雲雀の姿を、再び意識の外へと追い遣ってしまう原因になったということ。
本来、雲雀の細身から生まれる斬撃なんて、容易く弾いてしまうはずだった皮膚。だというのに不意を打っての緋血の剣撃は、それが最も脆弱になる瞬間のみを見極めて揮われた。一度ならず二度三度……六度……そして数えきれぬほど!
幾本もの触腕を同時に斬り刻まれた深怪魔の苦痛は、はたしてどれほどのものになっただろうか。敵の膂力が触腕を切断するには不足していることを恨むだなんて、おそらくは深怪魔にはこれまでなかったに違いなかった。
だとしても……深怪魔は賢しくも知っている。この苦難は決して永劫に続くものではないことを。
一時、雲雀の全身を強く覆った竜宮の加護。彼の猛攻を猛攻たらしめたのは、彼がその力を今の一瞬のために集中させたからに過ぎるまい……!
……それは確かに真実ではあったが、決して真実の全てではなかった。
「よう。随分と足が間延びしちまってるじゃねぇか」
縁の口許が不敵に歪むと同時、深怪魔は自らの視界さえもが歪んだのを知る。何事か? すぐに激痛の衝撃から復活するはずだった触腕が、今度はまるで自分を中心に渦を巻くような流れに翻弄され動かない!
操流術――引潮。
どれほど自在に動く触腕を持ったところで、周囲を丸ごと縁の手繰った気に閉ざされたなら何もできなくなることは自明の理だった。そう……『気』だ。流れが本物の水流であれば深怪魔とて海の存在ゆえ如何様にもできたに違いないのに、気の流れなど泳げようはずもない。
深怪魔が見落としていたこの真実が、彼女を更なる激情に駆った! もう、最初の獲物なんてどうだっていい……新たに得た獲物を確実なものにするために、まずは邪魔する輩を滅ぼしてくれるのだ!!
……が、命は今も彼女にしがみついたままだった。プロポーズは自分からしたい派の彼に相応しい、彼女をどこへも遣らぬという鋼の意志だ……もちろん恋愛的な意味ではなくて。
一方、後方では男爵が彼へと黄色い声援を浴びせた結果、ちょっとは静かにしろとすっかり縄で雁字搦めにされてしまっていた。これでもう討伐に邪魔が入る心配はない……今まで敵を食い止めるために全てを費やしていた意志を、今度は魔を討つ一撃と化さん!
ぐにゃりと変形したタコの頭部には、かなりの衝撃がもろに伝わったらしかった。激痛にのたうつ神経パルスは止めても止まらず、不随意に足の先のセレマやレッドを握り潰さんとする。
しまった……折角の獲物を台無しにしてしまったのではなかろうか! もしも戦場が陸上で、深怪魔が発汗機能を持っていたならば冷や汗が垂れたに違いない。だが、幸いにもそうなることはない……幸い?
その時、彼女はとんでもない勘違いに気付くのだ……獲物は、握り潰されなかったわけじゃない。
握り潰そうとしても握り潰せないことに。
「この程度の力でボクが傷つくと? 真に美しいものは永遠であるというのに」
「えっとボクは……傷ついてもこれくらいの力じゃへこたれないっすよ! さあみんなも、ボクごと巻き込んででもこいつを倒しちゃえばいいっす!」
「……それやると必殺ついてるから素直に単体攻撃で本体仕留めるね」
史之が拳を握ったならば、殴り殺されては敵わぬと、深怪魔は大きく辺りの水を吸い込んで全身を膨らませてみせた。それから……勢いよく真っ黒な墨を周囲に噴射! 一歩遅れて殴りかかった拳の手応えは……ない!
だがそれは、深怪魔を逃したことを意味もしなかった。
闇の中より出で聞こえるものは、たかが煙幕ごときで敵を撒けたと信じる頭足類の愚かさを、千言万語の修辞にて罵倒する美少年の声。彼が幾つ密かに保険を掛けていたのかまでは史之とて知る由などないが、少なくとも彼の声が敵の居場所を大まかに示してくれていることは疑いようもない。
加えてアガペー男爵もこのように呼びかけるではないか!
「博愛の心を持ちたまえ! 積極的に迫りすぎて相手に逃げられてしまった時も、博愛の心で互いに通じ合いさえすれば必ず再び出会えるものだ……こうしてここで出逢えた私とキドー君のようにね!」
「おいやめろ気色悪ィ! 勝手に通じ合ったことにしてるんじゃねェ!」
いやお前はちょっと黙ってろ。美少年の声の出どころが判らなくなるから大騒ぎするのはガチでやめて。さて、あの騒がしい口をどうやって塞ごうか……ラブコメ的お約束はやっぱりキスなんだけど史之の唇は愛するかわいい奥さんと崇敬するイザベラ女王陛下の手の甲のためにあるので、大声を出さず囁くよう仕向ければいい!
薬指の指輪を見せつけて。
「誰とでも愛が育めるって言うのなら……これでもやってみせろよガバ判定野郎!」
……まあ一番の殺し文句はさっき男爵に先を越されてしまったわけだから、お互いショボいきゅんダメージしか入らないんだけど。
だが……お蔭で慧は聞き取ることができた。ほっと一息吐いた深怪魔の居場所を、彼女の獲物たちが教えてくれるのを。
「要らないかもしれないっすけど、万が一のことがあったらいけないっすからね」
禍々しい大角の出で立ちに血の秘術。そんな慧の見たとは裏腹の繊細な治癒術がレッドに活力を与え。それゆえにレッドの“愛”の力は……。
「飛びっきりの愛を受け取ってみてっす!」
……充填たっぷりフルルーンブラスター!!
●男爵の帰還
もう残り少ない触腕を引き千切られて減らした深怪魔は慄いて、セレマを握ったままの、最後の足さえ振り回しはじめた。
「おうおう、なりふり構わなくなっちまったなぁ」
そんな彼女の最後の足が、縁の剣に切断される。泥の中へと投げ出され、しかし珠玉の輝きは変わることないセレマ。だというのにその輝きを再び拾う足はない……何故か?
もちろん、目の前の男がたった今その足を奪ったからだ!
激昂に身を委ねるあまり逃げることも忘れた彼女を仕留めることは、今や特異運命座標らにとっては造作もないクエストだった。
よかった。これでもう好いた女がいるのに命がおっさんに求愛させねばならないという悲劇が降りかかる心配はない……何故なら深怪魔が完全に動きを止めたことを確認した命が振り返って見たならば、男爵は史之とともにすっかり精根尽き果てた様子で岩陰に座り込んでいたからだ。
「やるな男爵……お前の侠気はよく解った。うちのかみさんに手ぇ出したら切り落とすけどな?」
「妻帯者でありながらあれほど情熱的な愛の囁き……君の博愛精神が遍く世界を救うことを祈るとしよう」
男爵はプロポーズ相手が暴力に敗れたことに悲しみを抱いてはいたが、同時に史之との間に友情を感じて満ち足りていた。これでもうしばらくは、彼が再び誰かに求愛しにゆくことはない……。
「……ヤツが? そんな常識的な想定がヤツに通用するとでも?」
キドーが顔を顰めたその瞬間……男爵は突然その場から大きく跳躍してみせた!
そして着地するのはキドーとは目と鼻の先。
「その通りだともキドー君! 博愛は私の中から決して喪われることはない! さあ私の愛を受け取ってくれたまえキドー君!!!」
「いい加減鬱陶しい」
これには美少年さえその端正な顔を歪めるばかり!
「キミには求婚する相手に価値あるものを差し出すという概念すらないのか?」
すると男爵は脂でてかった顔を雷に撃たれたような表情へと変えた。
「ああ……私としたことがとんでもな失礼を……。そういえばこれは先日拾った貴重そうな品物なのだが、これは貴方のお眼鏡に適うだろうか」
「竜宮幣、それもたったの8枚ぽっきりじゃねーか」
かくしてダガヌ海域を騒がせた博愛男爵は、哀れ連れ戻されたのであった。……と言いたいところだが。
「でも……この調子じゃ帰り道にもトラブルを起こしそうだね」
そんな雲雀の想像はおそらく彼が思っていた以上に真実だったろう。
その後の道中で出会った人食いザメ、吸血海藻、巨大ガニ、船幽霊、なんかよくわからない不定形のゼラチン生命体……。
その他諸々から男爵を引き剥がすため、特異運命座標たちはその度に大騒ぎを繰り広げねばならなかったということを追記しておこう。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
もちろん竜宮幣はその後皆様がしっかりと回収しました。
GMコメント
特異運命座標たちの尽力により、フェデリア諸島近海に位置する竜宮は、深怪魔の差し迫った脅威から解放されました。感謝の証としてフェデリア諸島周辺でシレンツィオ・リゾートの開発を行なう各国に協力し、海底の歓楽街として来訪者たちを歓待するようになった竜宮ですが……深怪魔もまた活動を活発化させつつあり、彼らの脅威が完全に失われたわけではありません。
そんな中、アガペー男爵と名乗る変態が、なんかよくわからない理屈をこねて深怪魔に求愛しにゆきました。
どう考えても何が起ころうと自己責任なんですが、金払いの良い彼は竜宮の夜のお店にとっては失いたくない上得意。五体満足での回収が依頼されたのでした。
●シレンツィオ・リゾート
かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio
●今回の敵
巨大なタコの足2本が人間の下半身に置き換わったような見た目の深怪魔(♀)です。残りの6本の足を自在に伸縮させて6回攻撃をしてきますが、(餌等として)気に入った相手は攻撃のついでに捕まえてしまいます。誰かを捕まえている足では攻撃しません(そして最初の時点で1本がアガペー男爵を掴んでいるので、彼を手放すまでは攻撃は5回です)。
HPが残り少なくなると墨を吐いて逃げ出そうとしますが、その時に誰かが掴まれていた人は……。
掴んでいる足を引き剥がすには、様々な方法が考えられるでしょう。もちろん、一番確実なのが「大ダメージを与えて足ごと切断すること」であるのは言うまでもありません(攻撃回数も減るので好都合です)。
●アガペー男爵
相手種族の一般的な求愛行動ができる(※必ずモテるとは言ってない)、変なギフトを持った変態です。吸盤をメスに見せるタコの求愛を、吸盤の代わりに手のひらで代用したところ、何故か無事に深怪魔に気に入られたため捕まっています。
願わくばこのままお持ち帰りされたいと思っているので、深怪魔に手放されてもすぐに自ら捕まりにゆきます。そうさせないためには、彼を気絶させて回収するか、どなたかが彼に愛の力を注いで気を惹くしかありません! ……いずれの場合にも深怪魔は怒って激しく攻撃してきそうですが。
特殊ルール『アガペー』も参照のこと。
●特殊ルール『アガペー』
プレイング内に『自分がされたいプロポーズ』を書いておくと、それが特別な準備を必要としないものなら、アガペー男爵は再び深怪魔に捕まりにゆくのを一瞬忘れ、そのプロポーズを頑張ってくれます。
もちろん、「そのプロポーズはされたいけれど、相手がお前なのはありえない」みたいな反応も可。
されたいプロポーズはあるけれど内容を非公開でゆきたい場合は、EXプレイングもご活用ください。
●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができ、水中では呼吸が可能になります。水中行動スキルを持っている場合更に有利になります。
竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。
●特殊ドロップ『竜宮幣』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru
●Danger!
当シナリオは基本的にはコメディで、敵やアガペー男爵のいろんな困った性質にどう面白おかしく対処するか(あるいは対処しないか)さえ考えておけば十分なのですが、敵に攫われてしまった場合の結果はシリアスになりえます。プレイング次第では、パンドラ残量に拠らない死亡判定が発生するかもしれません。
捕まるプレイングを書く場合、あらかじめご了承くださるようお願いいたします。
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