シナリオ詳細
メイド服を着て萌え萌えキュンってしたら夜妖が成仏するってマジ!?
オープニング
●メイド喫茶の苦悩
賑やかな繁華街、その一角にある雑居ビルでは可愛らしいメイド服の少女達が笑顔で接客を行っていた。
「お帰りなさいませ、ご主人様!!」
「萌え萌えキュンッ♪」
「はわわ、ご主人様……じゃんけんがお強いのですぅ」
メイド達の個性はやや強いものの、店内には落ち着いたジャズが流れ、香り豊かな紅茶がほっと一息をつかせてくれている。アンティークの時計からは規則的なリズムがこぼされ、こだわりのある調度品は格式高さを物語っていた。
メイド喫茶『みるきぃ・みるふぃ』は今日も大盛況。老若男女問わずに訪れるここは、繁華街の中でも特に癒やしを齎してくれる憩いの場であった。
しかしバックヤードで上げられた言葉はいささか不穏なものであった。
「店長、どうしましょう……苦情が多すぎてこのままだと営業停止処分になりそうなのですぅ……」
メイドの一人は眦に涙を溜め、不安そうな表情で店長の男へ視線を向けている。
「本当に困ったものだよ……閉店後の店から奇声が聞こえるだなんてどうしたら良いのかもわからないし」
店長である男は頭を抱えた。
彼の言うとおり、苦情の内容はいささか独特なものである。
なにせ内容が『閉店後のメイド喫茶から騒がしい声や酒盛りしている様子が窺える』というものなのだ。
閉店後の施錠はキチンとしている。勿論、誰かに場を貸している訳でもない。
だというのに苦情は連日寄越され、更には幽霊を見たという者まで現れたのだ。警察に相談しようにも、不思議なことに酒盛りや不法侵入の痕跡が一切残されていないこの現状、あしらわれるのが関の山だろう。
「ほ、本当に幽霊なのでしょうかぁ……?」
「見間違いにしては目撃者も多い、だからといって店をたたむわけにもいかない」
店長である男とメイドの一人は悩みあぐねる。
しばらくそうこうしていた二人だが、男の方は意を決めらしい。パッと顔を上げ、藁にもすがる思いで言葉を紡いだ。
「……眉唾だがこういったものに詳しい者がいるらしい。相談するだけ相談してみようじゃないか」
●カフェ・ローレット
「って訳で、ご依頼ね」
綾敷・なじみは投函所に放り込まれていた紙をひらひらとさせながら、カフェ・ローレットで煙草を吸っていたアデルトルート・バルデグント(p3n000280)にそれを差し向けた。
「あんだ? ……幽霊騒ぎをなんとかしてほしい……って夜妖か?」
「そういうことね。依頼人の店長は幽霊とか怪奇現象の類いって考えているみたいだから、シスターであるあなたが行った方がそれらしいって思うのよ。だってあなた常日頃からシスター服を着ているでしょう?」
アデルトルートは実に真っ当そうなシスターらしい見目をしていた。周囲にある小物さえ無ければ十人中八人くらいは騙されてくれるだろう。
「まーね。いいぜ行くわ、丁度ガチャ用の金も欲しかったしな」
「また報酬を全部ガチャに突っ込んだのね……」
「課金は経済の流通を担っている大事なものだぞ。んで、用意するものとあるか? シスターらしく聖水でも持って行ってやろうか?」
「どうせそれ、ただの水道水……あ、今回は支給品があるよ」
はい、となじみは紙袋をアデルトルートへと差し出した。
「中身はメイド服だって、お店で支給されているものみたい」
「なんで??」
「萌え萌えキュンッとか、お持てなしして夜妖を成仏させるためよ」
「いやなんで!?」
「だってメイド喫茶だし……?」
「おかしいな、急に別の言語でやりとりしてる感じか……?」
真顔のなじみ、困惑するアデルトルート。
経緯や流れがどうあれ、夜妖が騒ぎを起こしているのであれば動かないわけにもいかない。あと課金代を稼がなければならないアデルトルートにとって断るという選択肢は持ち合わせていなかった。
「……わーった、一人だと不安だから同じイレギュラーズに声を掛けてみるわ」
- メイド服を着て萌え萌えキュンってしたら夜妖が成仏するってマジ!?完了
- GM名森乃ゴリラ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年08月29日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●開店準備
夜半過ぎ。メイド喫茶には灯りが点っていた。
周囲の雑居ビル達は既に店じまいしており、暗闇の中でメイド喫茶のみが明るく輝いている。窓硝子には逆光によって縁取られた黒い影が忙しなく蠢き、イレギュラーズ――メイド達が声を上げながら準備作業に勤しんでいるところであった。
「えへへ、似合っていますか?」
ニル(p3p009185)はメイド服の裾をつまみ、くるりと回った。それに合わせ、多めに重ねられたレースがふわりと揺れ、ニルの年端も行かぬ愛らしさや、その魅力をしっかりと引き出していく。
「なかなか似合ってんじゃねえの?」
アデルトルート・バルデグント(p3n000280)はニルのツインテールをつんつんと指先で弄りながら答えた。
「ありがとうございます、ところでアデルトルート様はどんなのを着るのですか?」
「あたしはー……こういうのに詳しくねえんだよな」
「それじゃあニルが一緒におえらびします!! みなさんとっても素敵ですから……かぶらないほうが良いですよね? これなんていかがですか?」
「おー……ってほぼ水着じゃねえか!! なんでこんなもん置いてあんだよここ!? 正統派のメイド喫茶じゃねえのかよ!?」
「その通りだ、どうなっているんだここは!?」
アデルトルートの叫びに同調したのは顔を真っ赤にして飛び込んで来たムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)だ。彼女としては妙な依頼こそ受けてしまったものの、店内に流れる穏やかな音楽や、格式のある調度品や装飾達はいっそ住んでみたいと思えるほどに好ましいものであった。
しかし衣装はそうにもいかない。ムエンが掌にギュッと力を込めれば布が引っ張られ背中に隙間ができ、風通りをよくしている。
そう、彼女が着ているメイド服は種族に合わせ、背中と尾が大胆に開かれていたのだ。童貞を殺すほにゃららである。
「やはりおかしいですよね!? 見て下さいこの丈の短さ!!」
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)も目尻に涙を溜めて輪に加わり、一生懸命、スカートの裾を伸ばそうと頑張っている。彼女が着ていたメイド服は所謂フレンチメイド――ボンデージファッションに近しいタイプのものである。豊満な身体を強調するかのように露出は多く、屈めば一発でいかがわしい店判定を受けそうなものだ。
「フランスという言葉に似ているからと選んでみれば……このようなものだとは思ってもみませんでした。もっと普通丈ないんですか!?」
「そもそもこの猫耳は必要なのか、ドラゴニアに猫耳ってどうなんだ!?」
「チェンジです!!」
「チェンジだ!!」
シフォリィとムエンが同時に言い放てば、アデルトルートは紙袋からまともなメイド服を奪い取り、守るようにしてそれを抱えた。
「残っているの水着みてえなやつしかねえが……これは絶対に譲らねえからな!?」
無情な宣告を受け、シフォリィとムエンはその場に崩れ落ちた。そんな二人に首を傾げながらやってきたのは三鬼 昴(p3p010722)だ。
「服なんて入ればいいだろう? まあ私のは少しばかりサイズが合っていないが」
昴が豪快に笑えば、胸元を留めていたボタンが勢いよく弾け飛んだ。隙間から覗いているのは鍛え抜かれた筋肉、彼女が少し動けばメイド服はミチミチと嫌な音を立てている。
「……それいけんのか?」
アデルトルートが問えば、昴は数度頭を掻いた。
「その時はその時だ。まぁ、大丈夫だろう」
脱げない事を祈ろう。昴以外の心が一つとなった瞬間である。
そんな喧しい輪を遠目に見ていたロロン・ラプス(p3p007992)と蓮杖 綾姫(p3p008658)は顔を見合わせた。
「イメージを明確に伝える、というのは大事なことでしたね……」
綾姫は衣装を頼む際、丈の長く露出度の低いものをと伝えていた。そのお陰で彼女のメイド服は古式ゆかしいクラシックタイプとなった。きっちり編み込んだ三つ編みと内装も相俟って実に清楚なメイドである。
「用意してもらわないといけない人は大変だね。ボクは自分の身体で再現できるからいつでも変えられるけど……」
ロロンは身体の一部を操り、裾を覆っているレースの細部を変化させていく。ふんわりとした重ねレースから、手作業でしか織りなせないであろう細かなレースまで自由自在だ。
「とても便利ですね」
「うん。ところで……どっちのレースがいいかな?」
「そうですね……レースは控えめなものにして、その分、飾りの多いガーターなどをつけてみてはいかがですか?」
「ガーターかぁ、それくらいならつけてもいいかな。うん、そうしよう」
●
「……履歴書はこれで良いでしょう」
ルーキス・ファウン(p3p008870)はワイワイと騒がしいグループを背に、出来上がった履歴書を眺めて満足そうに頷く。依頼、それも一時のものとはいえ働くのであれば履歴書とやらは必要だろう。そう考え、生真面目にも用意することにしたのだ。
しかし内容は生真面目には程遠い。源氏名として書いた『ルー子』はまだいい。体重に『秘密♡』と書いたり『性別の枠に捉われない御奉仕を目指します♡』という文章が続いているのだ。
「あ、あの……きょ、今日はよろしくお願いします」
そんなルーキスに声を掛けたのは社家宮・望(p3p010773)だ。女性が苦手な彼にとって、今回共にするルーキスは唯一の同性であり、少しばかり安心できる存在であった。
「こちらこそよろしくお願いします」
二人は視線を交わし、柔らかく目を細める。なんて素敵な場面なのだろうか。メイド服がなければ完璧であったのに、運命とは斯くも悪戯なものである。
●いざ開店、そして変わっていく心情
一行が準備を整えれば、店内は騒がしさに包まれ始めた。
最初は小さな喋り声が響くのみであったものの、それは徐々に変化していく。早口に捲し立てるもの、意味の分からぬ奇声。そして振り回されるのは光る棒。店内の穏やかな内装と相反する騒がしさは情報の通りだった。
「ご主人様、お待たせして申し訳ないにゃん。美味しくなる魔法たっぷりで許してほしいにゃん♪」
シフォリィは出現した夜妖に近寄り、指でハートポーズを作った。表情や仕草はアニメキャラクターのように愛らしいものであったが、心の内は嵐の大海のように荒れ狂っている。
何せ少し屈めば尻が見えそうになり、胸を張れば谷間がより強調されるのだ。気をつけて動こうにも接客やサービスを望まれるこの現状。どう足掻いても絶望だ。
そして彼女の心を砕かんとしているのはメイドとしてのキャラ付けと、それを喜ぶ夜妖達のもてはやし。チェキやサインを行えば満足そうな表情は頂けるが、接客を重ねれば重ねるほどにシフォリィの心は静かに死んでいった。
「う、うぅ……心がつらい……」
シフォリィは厨房とホールを繋ぐカウンターに突っ伏し、泣き言を漏らしていく。疲れた顔色は暗く、先程にゃんにゃん言っていたのが嘘のようである。
「それだとパンツが見えるぞ。……まぁ、嘆く気持ちも分かるが」
ムエンは慰めながらも厨房で鍋を振るっていた。そして心からホールに出なくて良かったと安堵した息を漏らせば、シフォリィはガバリと身体を起こす。
「それなら変わって頂けますよね!? ね!?」
「いや、そうは言って――ああ、押すな押すな!! 分かった、行くから背中回りは触らないでくれ!!」
そうしてムエンはシフォリィに変わり、戦場へ立つ事となった。
時に愛想を振る舞い、時にあざとく、そして度を越えた騒ぎを起こす者には注意をして働いていく。
「この店にそぐわない行動をするヤツは退店を願う事になるぞ。ペンライトをしまえ、席に座れ、メニューはこれだ」
すると夜妖達は周囲を見回し、行儀良く膝を揃え始めた。言われてようやくこの店がどのような形式なのか気がついたのか、はたまたムエンの圧に負けただけなのかもしれない。だがムエンにとってはどちらでも良かった。背中と尻尾が気になっていてそれどころではないのである。
「んでメニューは決まったかゴシュジンサマ……は? 萌え萌えキュン……? ……そうだよな、甘やかしてやるのも一つの仕事だ」
ムエンは小さく息を吸い、整える。指先をくっつけハートを模し、アイドルのように愛らしいポーズでリクエストに応えた。
「もえもえ~っ♡ きゅんっ♡」
ウインクを一つ投げれば夜妖達は憑き物が落ちたかのように穏やかな目を浮かべる。若干生暖かいものも混ざっていたがムエンは気がつかなかったようだ。
「い……いけるなこれ。そう……これが新しい私の姿だ!!」
ムエンの中で何かがカチリとハマってしまったのだ。その余波でネジが一本吹き飛んでしてしまったのだが――正気を失ってしまった彼女がそれに気付くことはなかった。
●需要は作るもの
「さて、準備万端と言いたい所ですが……そもそも男のメイド服に需要はあるのでしょうか?」
バッチリ下着まで拘ったのにも関わらず、ルーキスは首を傾げた。既に気持ちが固まっているとはいえ、口に出せば少なからず不安が出てくるものだ。
しかし彼は真っ直ぐ前を見据える。如何様な状況であったとしても相手は夜妖、依頼をこなすために努力していくのみなのだ。
「……ええ、需要など関係ありません。少ないのであれば――俺自ら広げるだけです。そう、お客様の新しい性癖を開拓して見せましょう!!」
「お帰りなさいませ、ご主人様♡」
ルーキスの低音ボイスを受け、夜妖はびくりと肩を揺らした。それもその筈、高身長の男が猫なで声で寄ってきたのだ。おまけにスカートは短く、フリルが沢山盛られている。動けば動くほどそれは優雅に揺れ、その奥に秘されし存在を如実にアピールしているからである。
そういった経緯もあり、夜妖達はルーキスの事を警戒していた。しかし彼はそれを気にせず堂々とメイドとして働き続ける。
彼が手ずから作り上げたという美味しそうな料理、そして細やかな気遣いとサービス。ケチャップにはハートだけではなく、夜妖達のリクエストにも応えてくれる心遣い。たとえ男そのもののメイドであったとしても、一生懸命働いている彼を厭うことなどできようか――否できまい。
夜妖達はルーキスのメイド姿を目に焼き付け、徐々に新たなる扉(性癖)をこじ開けていく。そんな中、夜妖達が唯一目を逸らしたのは下着にスカートを巻き込んでしまい、立派な尻えくぼが顕わとなった時のみである。
●計画通り
「お、おかえりなさいませ。ご、ご主人しゃま……っ」
望は所々噛んだり、言葉を詰まらせたりしながらも夜妖たちを持て成そうと一生懸命動いていく。そんな彼の態度を夜妖達はパフォーマンスだと思ってくれたらしい。
望が震える手で料理を運べばそれをフォローし、会話に詰まれば新たなる会話を提供。シュガーポットをぶちまけても皆ニコニコとそれを眺めている。
「う、うん。これなら……が、頑張れる、かも? は、働き始めた新人に、み、みんな気を使ってくれた、のかな……?」
望はそう考えたが、実のところは違った。彼の見えない所では皆、息遣いを荒くしたり気色悪い笑みを浮かべているのだ。赤面しながらも華奢な男の娘が対応してくれるともなればそれも頷ける話だ。それを知ってか知らずか、望は満足感を与える為に掌でハートを作り上げた。
「ご、ご主人様にだけ、と、特別なサービス、です……」
掌から生み出されたのは彼が得意としている無限牛乳プリンだ。今回はメイド喫茶に合わせて可愛らしいハート型をしている。緊張感を抑えながら頑張ってプリンを皿へ移そうとすれば、現れたのは掃除担当を買って出たロロンだった。
「喜びそうな芸……見せるのなら今がチャンスだよね」
そうしてロロンは分身を望の足元へと滑らせた。
決して邪魔をしようとしている訳ではない、ドジっ子メイドを作り上げてサービスシーンを狙うというロロンなりの戦略だ。古来より愛されている属性ならば、きっと良い方向に動いてくれるだろう。
「えっ……う、うわぁ!!」
ロロンの目論見通り、望は分身によって足を滑らせ、バランスを崩して尻餅をついてしまった。
「うぅ……牛乳プリン塗れ……」
赤らんだ頬、そして滴り落ちる牛乳プリン。賢明な者ならばそれが何を示しているかなど秒で理解できるはずだ。
「うんうん、良い感じだね。さて、あのままではまずいし掃除をしていこうかな。……あ、お帰りなさいませ、ご主人様。お席を整えますので少々お待ちください」
ロロンはスライムモップを手に、零れた牛乳プリンを拭っていく。
時折テーブルを整えながらも、見えそうで見えない不可思議のスカートを翻し、清掃担当として店内の美化に努めていった。
●違うそうじゃない
「そろそろ厨房にも回った方がいいな。料理は苦手だが……飲み物くらいならいけるだろう、多分」
ホールで接客をしていた昴は、実に不安な語尾と共に厨房へと戻っていった。レシピを確認しながら作れそうな物がないかを探し、辿り着いたのは一つのドリンクである。
「愛情たっぷり100%生搾りジュース……? これなら出来そうだ。こう……果物を直接握りつぶして、その果汁を注げばいいのだろう?」
全くもって違う。しかし昴は納得がいったのか、篭に積んであった林檎を一つ取り出した。指先から手首まで、均一に力を込めて筋肉を震わせれば、林檎は実に憐れな姿へ変化していく。
そうして出来上がったのが手で握りつぶした林檎ジュースである。
昴が満足そうに頷けば、ホールの方から伝票が届いた。内容は偶然にも生搾りジュースである。
客席へと持っていけば夜妖達ははち切れんばかりのメイド服を着た昴にやや困惑していた。しかしながらその表情は徐々に明るくなっていく。
筋肉質、パツパツのメイド、目隠れ、やや無愛想な態度……属性が盛られている事に気がつき、これもアリだなと考え直したためである。
「……どうぞ。……なに? 萌え萌えキュン?」
昴にとって萌え萌えキュンとはよく分からないものである。詳細を問えば夜妖は軽く説明をしてくれた。どうやら掛け声と共にポーズを取れば良いらしい。それならば自分にもできると、昴は両拳を重ね、前傾姿勢で全身に力を込める。
「もえもえ……きゅんっ!!」
放たれたのは可愛らしい萌え萌えキュンではなく、実に逞しいモストマスキュラー。そしてそれを見た夜妖達は、見せつけられた筋肉美によって新たなる性癖を開いてしまった。
●ぎこちなさ
綾姫は大半を厨房で過ごしていた。
滝のように並んだ伝票を確認し、提供時間を計算して調理に取り掛かる。店の目玉はメイドだけではなく料理も含まれている。冷めた状態での提供などもってのほかなのだから。
「ふぅ……ですが流石に厨房は暑いですね。少しホールに出てみましょうか」
伝票の波が落ち着いた頃、綾姫はホールへと足を踏み入れた。
歩く様はどこかぎこちないが、それに目を奪われる夜妖も間々存在している。人間――今回は夜妖なのだが、そういった者らであっても、不慣れな人間が一生懸命頑張っている様子というのは心に響くものである。
「お茶をお持ち致しました、ご主人様」
綾姫は少しばかり緊張した振りをしながらもティーポットを傾ければ、夜妖の一人と目が合った。
しかし彼女は敢えて言葉を留め、ふんわりとした笑顔を見せる。日だまりのように暖かな振る舞いは夜妖達に癒やしを与えられたのだろう。夜妖達の表情が和らいできた。
そうして綾姫は夜妖の話に耳を傾けていく。オタクトークには混ざれなかったものの、好きな事を語る相手はとても楽しそうなものである。
そうして話に付き合っていると、夜妖の一人が綾姫に萌え萌えキュンを頼んできた。
「も、萌え萌えキュンですか……? ええと、そうですね……やりましょう」
綾姫はやや硬い面持ちで控えめな指ハートを見せつけた。その表情は先程のぎこちない演技とは違い、心から「慣れていないんだなあ」と思わせるような、そんな微笑みであった。
●おいしい
「ごしゅじんさまのために、おいしくなあれってしますね」
ニルはオムライスに萌え萌えキュンッと声を掛け、指先で大きなハートを作り上げてケチャップを取り出した。
「おいしくなあれ、おいしくなあれ」
描いたのは愛情を示すハートの形。おまじないを掛けた所で味が変わるはずもないが、これは美味しく頂くための調味料、その一つの筈だ。好きなものに囲まれて楽しむ食事はきっと筆舌に尽くしがたいものだろう。
食事を取る必要が無い身体ではあるが、いつか自分も同じように味わってみたい。ニルはそう願わずにはいられなかった。
「ごしゅじんさま、おいしいですか?」
問えば夜妖は口いっぱいに頬張りながらも、何度も何度も頷いてくれた。その表情は騒ぎを起こしていた原因だとは思えず、穏やかさすら気取れるものである。みなイレギュラーズ達がもたらした雰囲気に呑まれつつあるのだろう。
「……ごしゅじんさまのおいしい顔、ニルにとってはなによりも嬉しいのです」
その後もニルは様々な料理を手がけていった。パフェやサンドイッチ、ピザトーストやパンケーキ。その全てに愛情を込めておまじないを施していく。深夜のメイド喫茶には落ち着きが取り戻されつつある。夜妖達の姿も随分と減り、幾分か寂しさが感じ取れた。
「でも、たぶんお腹いっぱいになったのですよね」
空腹や成仏の妨げとなっていた何かが昇華されたのだろう。だとしたら良い事の筈だ。
「そうです、全部おわったら……みなさんといっしょに食事をとりましょうか」
一仕事終えた後の食事はきっと『おいしい』はずなのだから。
●営業終了後
東の空が白む頃――。
メイド喫茶に夜妖の姿はなかった。静寂だけが周囲を支配し、微かに聞こえてきたのはイレギュラーズが織りなす規則正しい呼吸音のみである。皆働き疲れ、片付けを終えた所で椅子や机に突っ伏して眠ってしまったのだ。
しかしどの表情も満足そうに緩められている。人騒がせでトンチキな依頼ではあったものの、結果としては十分なものだったのだから。
しかしお忘れだろうか。メイド喫茶はこれからオープンなのである。
間もなくして訪れたのは彼らの様子を窺いにきた店長だ。依頼の完了を悟ると同時に、彼はローレットへと走った。
――メイド姿の彼らを、そのまま昼の部にも駆り出すためである。
まさか勝手に『メイド編・第二部』が始まろうとしていたなどと、夢の世界に旅立った者らが知る由もなかった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
この度は『メイド服を着て萌え萌えキュンってしたら夜妖が成仏するってマジ!?』にご参加頂き、誠に有り難うございます。
GM一発目、それもこのようなトンチキシナリオにご参加頂き感無量です。
今回のシナリオが皆様の冒険、その思い出の一つとなっていただければとっても嬉しいです。
【追伸】メイド服を着せるのが生きがいですので命が助かりました、本当にありがとうございます!!
GMコメント
●依頼達成条件
メイドとして振る舞い、すべての夜妖を成仏させる。
●フィールド『メイド喫茶みるきぃ・みるふぃ』
よくある繁華街のビル、そのワンフロアで営んでいるメイド喫茶です。
内装は店長こだわりのアンティーク家具で纏められ、格式の高さが伺えるでしょう。
メニューは様々なフレーバーの紅茶がメインですが、軽食もそれなりに用意しているので食事目当てに来る人もいるほど。老若男女問わず訪れるので、夜妖が騒ぐ前はかなり評判が良かったようです。
日中は夜妖のヨの字すらないのですが、閉店後は「デュフフフ」「拙者の推しは可愛いでござる」「今北産業」という時代にそぐわぬ声が聞こえてきたり、半透明の男達が光る棒を振り回していたり、様々な目撃情報が相次いでいます。
苦情を入れた人たちからすれば、メイド喫茶が閉店後に場所を貸して、オタクのような者らが無秩序に騒ぎ立てている。という認識であり、このまま騒ぎが続けば営業停止処分を受けてしまいます。
尚、今回は閉店後となりますので他のご主人様やキャストのメイドはおりません。
設備の使用は認められていますので、通常のメイド喫茶で行われているであろう事は大体出来ます。
●メイド服
古今東西のメイド服が用意されています。
クラシック、フレンチ、ミニスカなんでもござれ。
サイズや性別、種族にも配慮した安心設計。
スケベな下着をつけるかどうかはあなた次第。
●メイド喫茶に出現する夜妖(10体くらい)
メイド喫茶に情熱を燃やしていたであろう夜妖です。
萌え萌えキュンッ以外にも、メイド喫茶で受けられるようなサービスを体験し、ご満足いただければ成仏してくれます。
見た目はチェックのシャツにジーパン。バンダナを巻いていたり、パンパンのリュックにポスターが生えていたりなど、いわゆる一昔前のオタク風です。
●アデルトルート・バルデグント(p3n000280)
暇なときはカフェ・ローレットで煙草をふかし、酒を嗜んでいる生臭シスターです。
ガチャ(経済)を回すため、今回の依頼を受けました。しかし一人では難しいだろうと考え、あなたたちイレギュラーズに「良かったら共闘しねえか?」と話を持ち掛けます。
一般人にはシスターらしく振る舞いますが、イレギュラーズに対しては生臭(素)全開で接してきます。しかしそれは素を見せる相手を選んでいるだけです。頼み事や連携などはホイホイ引き受けてくれるでしょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●GMコメント
初めまして森乃ゴリラです。新人ですが頑張ります!!
ギャグでもシリアスでもどちらでも構いません、皆様のご参加お待ちしております。
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