シナリオ詳細
<深海メーディウム>バシャ―ルを越えて
オープニング
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深海。
有光層と呼ばれる浅海の下に広がる薄暮の世界。
とある世界では二〇〇メートル以上からの海は深海であり、海の約九割が深海で占められていると言う。
一〇〇〇メートルを越えると、そこは頭上の光も届かない極低の水温と完全なる暗闇の海。死した者たちが深海へ落ちていく様は虚ろの地獄を思わせる。
「まあ、そんなところへ潜ってくれというのも酷な話ではあるんだけどね」
仕事だからね、と言外に滲ませたのは『黒猫の』ショウ(p3n000005)だ。船の外へ投げた視線を追えば緩やかな波の立つ海が広がっている。ときおり雲が太陽を隠すと神秘的な深い青は一転、不気味な雰囲気を宿す。
「今回は簡単な海底調査だからさ、大丈夫大丈夫」
アクシデントさえ無ければと、ショウはまた言外へ濁すのであった。
「実際、この辺り……まあ近くにある岩礁地帯船もそうなんだけど……ここも人や船がよく消息を絶つらしい」
先日起こったという事件をショウが話す。
「白い化け物を見たとか、漁船を追っていた海賊船から悲鳴が挙がったと思ったら船員がいなくなっていたとか、船が藻屑になっていたとか……まあそんな話だよね」
こうして話している間にも船が襲われる可能性は無いのだろうか、などと考えている間にもショウは丁寧に貸与分の装備を用意している。
暗黒の深海と言えど、適切な装備があれば浅海を泳ぐ事と大差ない。
徐々に暗くなる視界、穏やかな海流。呼吸の心配もなく目を閉じれば揺り篭に身を横たえた感覚すら覚えるだろう。
もっともそれは敵がいなければの話。戦闘になれば地上とは違う体の操作を求められ、時と場合によればまばたきの暇もない。
「測定によるとこの辺りの海底くらい深いと本当に真っ暗らしいから、準備はしっかり宜しく」
「それじゃヨコエビとかの餌にならないように気を付けてね」
●
船上でショウがしていた話を聞いていただけに、警戒していた者は肩透かしを食らったような気分にされた。
襲ってくる敵もいない、怪現象も起こらない。
海の中は穏やかだった。
表層の暖かな海中は夏の日差しで温められ快適な温度に保たれており、海上で見るより鮮やかな青をしていた。目を閉じて感じる温度と海の流れが心地良い。
ダガヌ海域といえど他の生物にとっても過ごしやすい場所であるのか、通り過ぎていく魚たちがよく目についた。
一行の隣を魚の群れがじゃれるように横切ったかと思えば、下の方からクラゲたちがふわふわと浮かんで来て頭上へと昇っていく。
海底の近い沿岸であれば珊瑚の森や海藻の揺らめく様が目に入り、まさしく楽園といった景色を見れたことだろう。
だが、今回目指すのは海底。
海が暗くなるほどよく目立つマリンスノー。表層からの恵みともいえる微細な塊が導く海底に近づくほど、周囲の温度は冷たくなっていく。
ある旅人(ウォーカー)が言うには海の最も深い場所での温度は、小寒の風か冷蔵庫を思い出させるらしい。
無辜なる混沌においては、そのような旅人の既存の概念すら覆る場所が存在するかもしれない。
周囲が暗くなってくると、体に発光器を備えた魚が目立つようになる。緑の光を放つ者が多いが、ときおり白や青といった光も見える。
自由に泳ぐ深海魚たちの反応は降りてくるイレギュラーズたちに気付くや否やそそくさと逃げていくか、上手く擬態が出来ていると思い込んで素知らぬ様を決め込むかのどちらかだ。
そうした魚たちの姿も、次第になくなっていくと、肌で感じる温度が、水深計が、知らされていた海底までの距離が近いことを伝えてくる。
海底に足を付ける直前、しわがれた呼吸音のような音を聞いた。
一行の誰かの物ではない。海の何処かから響く、低い音。
発生元を探ろうと辺りを捜索して見つかったのは、どこかへ向かおうとする海賊の一団だった。
不思議なことに海種でも水の属性を持つ亜竜種でもない彼らは、何の装備もなしで海底を泳ぎ回っていた。
気付かれないよう観察している間に分かったのは海賊たちは全員が一様に傷だらけでボロボロの服を身にまとっており、白目を剥いていて、明らかに尋常ではない様子であること。
その上、海賊たちの動きは何やらぎこちなく、自らの意思で動いているようには見えなかった。
幾つかの事が判明したころ、音は聞こえなくなっていた。
海賊たちの目的を深く探るために前に出ようとしたところで気が付く。自分たちの影が、進行方向に向かって伸びていることと、突如現れた二つの気配。
暗黒に包まれたはずの深海が壊れた電灯のように明滅を繰り返す。
全身色白の細い一輪の花。そのように錯覚したのはきっと、一瞬の事だっただろう。
順応が追いつかず白黒する視界の中、音もなく現れた深怪魔。海底の泥を触手の先で巻き上げながら歩き、その体をうねらせる。イレギュラーズたちを見る花の中心には無数の牙を持つ口を開いていた。
しかしそれよりも、その隣を漂う一匹の魚竜の姿は、かの海神を知る者の目を引いた。
今か今かと、合図を待つように深怪魔の周りを漂っている、太古の絵図より飛び出たかのようなひび割れた皮膚を持つ魚竜はかつての竜とは全く似ても似つかない。
姿形に目を引かれたのではない。
魚竜の放つ気配が、根拠もなく、出所も判らないまま、
かつて死闘の末に眠りに付かせた――リヴァイアサンにどこか似ていると、そう思わせてしまうものであったから。
- <深海メーディウム>バシャ―ルを越えて完了
- GM名豚骨
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年09月04日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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暗闇に閉ざされた深海にて、光の元でイレギュラーズたちは真っ向からの戦いに臨んでいた。
「離れていても目に悪い光だな」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は僅かに高い位置から戦場を見渡し、感覚を耳へ集中させていく。
地上とは聞こえ方が異なるが、海中の方が音は速く、遠く届く。
「……うん、よく聞こえる」
確かめるように呟き、眼下に見据えた海賊たちへ光を撃ちおろした。
「……」
「わあ、おかまいなし、ですのね!」
海賊たちは天上の裁きめいて降り注いだ光に貫かれながらも尚、『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)のつるんとしたしっぽへ襲い掛かる。
とはいえ海種であり、深海を故郷とする彼女の遊泳速度に追いつけるはずもない。ノリアの尻尾に追いつくとするならばそれはあえて食らいつかせたという事だ。
「意識はないが何らかの意思はあるのか。やはりまともではないね」
ノリアの『のれそれ』に見立てた尻尾が海賊たちに魅力的に映ったかは定かではないが、結果として彼女目掛けて泳いでいる。「異常だ」と締めくくり『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)から裁きの光が放たれる。
イズマとゼフィラの放った術は打ち据えるだけの威力は持つが、死に至らしめる類の力ではない。
何の装備もなく、意識も見て取れない海賊たちの状態は異常だ。だが、もしまだ助かる見込みがあるならば、まずは抵抗する力を削がなければならないと考えてのこと。
「彼らに悪運がまだ残っているなら話を聞きたいからね!」
「お優しいこったなあ!」
二人が放つ光の中をあおるような口調で笑いながら『大海を知るもの』裂(p3p009967)が泳ぐ。
「どうやらコイツらも海の男だ。なら、このくらいなんてことねぇだろう!?」
裂が握る大刀が容赦なく振るわれ、ノリアの後ろに列を作るように泳いでいた海賊たちの体が切り裂かれていく。
「あまりきずつけてしまうと あとのちょうさが、たいへんですの」
「おっとそれもそうだ! だがなぁ」
海賊たちは依然としてイレギュラーズたちを追いまわしている。ノリアがおびき寄せているおかげで戦いやすい状況ではあるが、大人しくなる気配はない。
「これはともすると。いや、やはりというべきだろうねえ」
ゼフィラは攻撃の手を緩めず、様子を観察する。
裂の担いだ大刀に血は付いていない。海水で洗い流されたのではなく、元より海賊たちの体から出血していないのだから当然と言えば当然だ。
その代わりと言わんばかりに、海賊たちが攻撃を受ける度に体から白い液体が滲み出していた。
「ったく、さすがに気味が悪ィぜ。これじゃまるっきり……」
「あれじゃまるで人の皮を被った怪物ね」
「美咲さーん! よそ見しちゃだめだよっ!」
「してないわ」
視線を戻す『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)と『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)の前に悠然と佇むウムブラ=レ=ヴィこと虚滅種。
ヒィロが引き付け、美咲が討つ。その黄金形から繰り出される連携は深海の中であっても変わらない。
暗黒が明滅する度、イレギュラーズたちの輪郭が象られる。
ひどく間の空いたコマ送り、あるいは再生の追い付かない映像機器。この戦場を傍観する者がいたとするならば、そのように映ったことだろう。
「ふん、ヘドロみたいな水底にはあつらえ向きの気持ち悪い敵だぜ」
巨大な白き深怪魔の前で鼻を鳴らし、『竜剣』シラス(p3p004421)が不敵に笑む。
揺らめく花を模したような深怪魔、燐光を帯びた白花ならいざ知らず。その花も葉も全ては触手で形作られた模造に過ぎない。
それでも精霊たちと融合し焔を纏った『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は「綺麗」と、そう感じて、思っただけ。
「どうやら……虚滅種や海賊さんたちを操っているのはこの深怪魔のようですね、手早く手折りましょう」
夢心地のような声はしかし迷いなく決断している。花のような珊瑚のような、けれども人を襲う怪物。ならば倒すと。
「こっちはボクたちに任せといて!」
シラスの「下拵え」はほぼ整っている。深怪魔は思うように体が動かせず、攻撃も回避もままならない。泳ぎ出したヒィロから視線を切ると両手をゆるく脱力させた。
発光するシラスの体は視界の補助と同時に深怪魔の放つ光への対策の意味も含む。
「全く問題ない……とは流石にいかないか」
それでも閉じた瞳孔が光量を絞り深怪魔の姿を過たず捉え、沸騰する高熱を伴って無数の空拳が叩き込まれる。
(この間の海老と似てるな)
先日まみえた深怪魔を彷彿とさせる手応え。それと同時に致命打の感触が確かに伝わり、深怪魔の体は抵抗もむなしくシラスの拳が当たる度にたわんでいく。
シラスが常に発光を続けているため、深怪魔の明滅の合間に起こる深海の明暗の振れ幅は少ない。
「眩しい、けれど十分見えます」
フルールの目も、深怪魔の姿をしっかりと見据えていた。
ゆえにシラスに向かって激しく明滅しながら触手の先で貫こうとする動きにもなめらかに対応する。
白と黒へ交互に染まる深海に赤い線が伸びていく。深怪魔の横をするりと通った線の先でフルールがそっと手を深怪魔に当てると掌から迸った魔力で深怪魔の体が弾けるように大きく傾く。
「おいおいこれじゃ光るサンドバッグだぜ、かかってこいよ?」
大火力をまともに受けてたたらを踏むように深怪魔は後ずさるが、シラスの連打は追い打ちを止めない。
「私達も負けてられないわね」
海中であっても虚滅種の海嘯は広範囲に及ぶ。だがそれを警戒して絶えずヒィロは攻撃されやすい位置取りをあえて取り、敵の攻撃の手段を狭めていた。
虚滅種は海嘯以外の攻撃手段も十分脅威となる攻撃である。魚竜の姿とは言えリヴァイアサンを模した幻影であることは間違いなく、各部に備えた爪や棘は致命的な印象を与える。
だがやはり、当たらなければそれまで。
「ボクに追いつけるわけないって!」
美咲の視界の中でヒィロが縦横無尽に泳ぎ回り、虚滅種を翻弄する。ややもすれば目を回してしまいそうなほどに。
ヒィロがいた位置を虚滅種の大顎が、爪が尾が通り過ぎていき、しびれを切らした大振りの一撃がヒィロに迫る。
「またやった」
その声と共に虚滅種の胴体が袈裟に裂ける。恨めしげに後ろを睨んだ魚竜の視線の先には包丁を手にした美咲の姿。
「もう何度目かしら、随分とタフね。幻影だから?」
よく見れば虚滅種の体にはすでに無数の傷が浮かび上がっていた。既に魚竜らしい素早さは失われているが、それでもなお二人を食い殺さんばかりの気勢と廃滅竜の気配だけは消えることは無い。
「それでも“もどき”なんかにボクたち二人の絆も連携も崩せないよっ!」
「ええ……でもどうせ戦うならもっと綺麗なところが良かった」
微笑みで返した美咲はそんなことをぼやいて、
「さっさと返り討ちにして、観光ダイビングに行きましょう」
「いいねーそれ! イルカ見たい、イルカ!」
●
深怪魔の放つ光が消えて暗黒の海が戻る。
貸し出された装備、あるいは持ち前の技能によってイレギュラーズの視界は明るい。装備を通して見た視界はやや暗いが、昼の明るさと大差ない。
音もなく、世界が白む。
「おいおいさっきより眩しくなってるじゃねえか」
反射的に瞼が閉じてシラスの視界が狭まくなる。
「まだ見失う程ではありませんが……」
シラスの発光は続いているが光量には限度がある。対して深怪魔の放つ光はサーチライトか真昼の太陽の光芒を思わせるほどに強さを増していた。
「困りましたね、目が悪くなってしまいそうです」
「どうせ消えかけの蝋燭みたいなもんだろ」
深怪魔の口からよだれのように零れだしている白い液体は靄のように広がって海底に溶けていく。明滅の間隔も、最初に比べてかなり開いている。
まさに風前の灯といった状態にも見えるが、シラスのかける呪縛を逃れて迫りくる触手の勢いが削がれたようには見えない。
「あれに捕まるのだけは避けたいですね」
フルールはそう言って深怪魔の巨大な口を見る。円形に並んだ牙は鋭く、触手に貫かれるか捕まった後そこへ放り込まれる事は想像に難くない。
そこへ去来した一条の高熱。
今まさに発光せんとしていた深怪魔の体が大きくのけぞる。
「少し時間がかかったが、こちらに加勢する」
タクトを振るうように細剣を構え直すイズマ。
「そちらはもう、お済になったので?」
続けてやってきたゼフィラがフルールに頷きを返してシラスとフルールの蓄積していたダメージと傷を癒していく。体の動きを抑えられていたとはいえ深怪魔の反撃はその分の苛烈さを持っていたようにも思えるほど、二人の体は傷ついていた。
対して海賊を相手にしていたノリアを除いた三人は見て取れるほどのダメージもない。
「随分と楽勝だったみたいだな」
シラスがそう言うと同時、イズマの攻撃を受けて動きを止めていた深怪魔が再び動き出して巨大な体を操り迫ってくる。
「……その話は後にしようじゃないか、死んでは口も聞けないのだからね」
明滅しながら猛進する深怪魔はそのままの勢いを載せるように触手をイレギュラーズたちへ突き立てんとする。
ゼフィラの手よりその出鼻を圧し潰す殲滅の弾幕が手繰られ、深怪魔の速度が減じる。
「まだ動く余裕があるとは驚きだぜ」
白む視界の中に溶けるような深怪魔の体色。だがその輪郭はシラスの眼裏に残り、おおよその位置を教えてくれる。
「おしいのれそれ、のれそれはいかが、ですの!」
幻影であるためか、裂には魚竜がノリアの尻尾というよりはノリア自身に襲い掛かっているように見える。
「コイツに食欲とかあるのか?」
「わからないですの! でもちゅういは、ひけてますの!」
ヒィロの攪乱と美咲の強力な攻撃も相まって虚滅種はかなり消耗していた。エネルギー補給が必要かはわからないが、そういった意味合いでノリアに狙いをつけているのかもしれない。
「海嘯には気を付けてね。被害範囲がかなり大きいみたいだから」
ヒィロの補助を再度受けた美咲は包丁を構えて泳ぎ出す。その後ろからヒィロが美咲を追い越して虚滅種の眼前へ踊り出る。
「残念! いなくなったと思ってた?」
すかさず食らいつく大顎をヒィロはするりと避けて大きく息を吸うと、気勢を含んだ掛け声を虚滅種に向けて放つ。
「ヒィロいっきまーす!!」
蒼き咆哮に体を叩かれノリアに向いていた虚滅種の注意がヒィロへと移り――邪剣の閃きに体が切り刻まれる。
冷たい瞳が虚滅種の幻影を見る。実体があろうがなかろうが、『それ』さえ見えていれば美咲に切れない物はない。
「釣果にならねえのは業腹だがきっちり仕留めてやるぜ!」
続く裂の大刀が魚竜の首を狙い振り下ろされる。切断には至らないがその傷は深く残り、美咲が手首を返した一刀によって断ち切れ、魚竜の幻影は深海の闇へと消えた。
「畳みかけるぞ」
シラスの攻撃はより激しさを増して深怪魔を叩きのめしていく。
シラスの肉体の瞬発性と技術による最適な動作がそれを可能にした高熱を伴った殴打の雨は一度や二度の連続では止まらない。
連続して襲う衝撃を、振り払うような触腕がシラスを殴りつける。
明滅の光はここに来て最大の光量で周囲を埋め尽くした。
この瞬間、最早目は頼りにならない。
「ッ! そこか!」
視力は戻っていない。しかし目を閉じたままイズマが放った一撃はあてずっぽうに撃ったものなどでは決してない。
(眼は見えずとも、おおよその位置は音で掴める……!)
シラスの攻撃で動きに精彩を欠いた深怪魔はその攻撃から逃れる術をもはや持ち合わせていなかった。
奔る高熱となった魔力が、再び深怪魔の体を大きく左へ揺さぶる。
フルールがその体を反対から受け止めるような手つきで触れる。
その手から爆発の如き衝撃が起きると、深怪魔は直立するような体勢になり、時間が止まったかのように静止した。
ゴバッ。という音がくぐもり響く。
切り開いた腹から零れる血のように、今や折れたように下を向く深怪魔の口から白い液体が海底へ滝のように零れ落ちていく。
深怪魔はどくどくと口から液体を溢れさせたまま、花が萎れ倒れるように海底の泥へ横たわり、そのまま動かなくなった。
●
深怪魔の巨大な外殻は見た目と手応えに反して軽く、ディープクルーザーで牽引して海上まで運ぶことになった。
「……それで海賊たちはどうなったの?」
美咲の言葉に、海賊たちを相手にしていた四人が説明に窮するように唸る中、ゼフィラが口を開いて肩を竦める。
「彼らの悪運は尽きていたようでね」
「まあ予想はしてたけど」
奇跡でも起きればあるいは。だが、そんな奇跡は深海にはなかった。美咲の考えていた通り、彼らはとっくに遺体だったのだ。
美咲以外の他のイレギュラーズたちもそう考えていた者はいるだろう。
ならば、調査の為にも遺体は遺体で回収すべきであるのだが、イズマの持ち込んでいたディープクルーザー内にそれらしきものはない。
「とけて からだだけ、のこってしまいましたの!」
いつもと変わらないノリアの弾んだ声に首をかしげるフルール。
「ええと、それはどういうことでしょうか? お助けできなかったという事は分かるのですが」
「つまり、深怪魔と同じような最期だったってわけか」
「あぁ、後は条理に沿った末路だ」
裂が顎で指した一角に置かれた小さな三つの箱。
その中に何がどう入っているかなど、好き好んで見ようという者はこの場にはいなかった。
「やっぱり深海、私たち向きじゃなかったかなー」
「美咲さん、ダジャレ言ってもいい?」
「ダメ」
疲れて横になっているヒィロの隣に座って、ディープクルーザーの天上を見上げた美咲の視界に、取り付けられたライトの光が差した。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
冷たくて暗いより明るくて暖かい海の方が良いに決まってます。過ごしやすいから。
ということでご参加いただきありがとうございました。ご縁があればまたお会いしましょう。
GMコメント
●目標
敵の全滅
●ロケーション
光の届かない海底部。聞こえていた音は既に遠く、消えています。
音もなく後ろに忍び寄ってきた深怪魔と虚滅種、そして海賊たちに挟まれる形でエンカウントした状態からスタートします。
木片と化した船の残骸や何かの巨大な骨がぽつぽつと点在する海底、有機物などが堆積した足元はドロドロしており沼地を歩くような感覚に襲われます。
●敵
■深怪魔*1
海底に咲いた明滅し発光する白い花のような生物。ウミユリのお化けといった風貌、体長約五メートル。
花弁や葉に見える部分は全て触手であり、花のように見える部分の中央に口腔が見られる。
また無数の触手を自在に伸ばしたり、目を眩ませるほどの強い光を放つことが出来る。
支持体から伸びた触手で海底に自立している。
一対の長い触腕を持ち、その先には鋭利な爪がある。
■ウムブラ=レ=ヴィ*1
『滅海竜リヴァイアサン』を思わせる様な、小型の亜竜の幻影で虚滅種(ホロウクレスト)と呼ばれる個体です。
今回はリヴァイアサンのような姿ではなく、太古の海に棲んでいた恐竜のような姿をしています。しかし、その気配はどことなく廃滅竜のものに似ています。
幻影といえど油断ならない強さを持った個体です。牙,爪、尻尾といった各部は鋭く、『海嘯』という強力な波の渦を形成し、敵を薙ぎ払わんとしてくるでしょう。
リヴァイアサンについてはこちら https://rev1.reversion.jp/page/riva
■海賊*4
『海乱鬼衆』と思われる者たち。 戦闘が始まるとイレギュラーズたちへ襲い掛かってきます。
意識はないようで、白目を剥いており、どういう条理か装備無しで深海を泳ぎ回っている。
鼻や口から呼吸を行っている様子はない。既にある傷口から出血はなく、白いものが見える。
武器を持っておらず、接近してからの物理的攻撃が主な攻撃手段であると予想される。
人間種と鬼人種がほとんどであり豊穣人と考えられる。
●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。
●特殊ドロップ『竜宮幣』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります
●装備貸与
暗所と水中でも活動可能な装備が貸し出されるが、『暗視』『水中行動』を自前で用意していると有利に働く。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●挨拶
豚骨と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
竜宮幣は間違いなく敵からドロップしますが、全滅させるまで存在は知れないでしょう。
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