PandoraPartyProject

シナリオ詳細

魔女殺しのメソッド。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 まずは悪魔を殺すこと。次に、魔女。最後に神を殺すのが、メソッドだ。

●敵性存在、"仮称悪魔"。
 かつて、《天義》のとある地域に突如発生した、"仮称悪魔"と呼称される敵性存在があった。
 凡そ人間離れした人間模様のその襲来に対して、≪特異運命座標≫は、"魔女"と呼ばれる女性と共に闘い、これを撃滅した。
 ――しかし、"仮称悪魔"による事件は、この一件に収まらなかった。
 例えば、人の頭部が磯巾着の様に変質し、毒性ガスを撒き散らす《モノ》(仮称悪魔)。
 例えば、人の腕部が溶融し連なり、何人もの人々がまるで一個の生物の様に合体した《モノ》(仮称悪魔)。
 例えば、数多の家畜がその身となり、最早人型を留めていない《モノ》(仮称悪魔)――。
 それら異形の存在は、《天義》の市民達を襲い……。
 今では、一つの恐怖と化していた――。

●"検邪聖省"の導き。
「《Petra Deus Ex Machina》(機械仕掛けの神の石)の封じ込めは、完全に失敗しました」
 暗澹たる空気の中、夥しい数の蝋の灯に照らされ、一人の司祭の口が苦々しくその言葉を口にした。
 かの司祭の周囲には、巨大な楕円形の卓を囲むように、二十名程の司祭が加えて座している。
 薄ら寒いその空間は、天井は異様に高く、周囲を石造りの壁で包まれており。
 まるでそれは、何かの"邪"を取り繕うように息苦しい余白であった。

 ――此処は、"検邪聖省"と呼称される場所。

 そして、昏い表情をしている司祭たちは、その検邪聖省に所属する高位の武装司祭たちであった。
 先程口火を切った司祭とは別の司祭が、口を開く。
「過日の初回事案に続き、すでに複数の街で、《Petra Deus Ex Machina》による被害が確認されています」
 幾らかの溜息が漏れる。司祭は一拍の間を置き、話を続ける。
「しかも、その殆どのケースで、検邪聖省所属の武装司祭による殆どの攻撃がまともに機能しておりません。
 初回事案では、《特異運命座標》と、……例の、"魔女"の力により、"仮称悪魔"の無力化に成功しましたが、その後、検邪聖省での有効な処理方法を見出すに至っておりません」
 司祭のその報告の後に、更に幾重もの深い溜息が連なる。
 それは、仮称悪魔に対するものでもあり。
 あるいはその一部は……、"魔女"という存在に対するものでもあった。
「――"心臓"はどうなっている。
 一体目のケースで、"仮称悪魔"の"心臓"の回収に成功したと聞いているが」
「その件ですが、"心臓"は我々の神具との適用性が著しく低く、使いこなすに至りませんでした」
「このままでは」
 更にまた別の司祭が口を開いた。
「被害は増える一方だ。我々の教義に対して、市民達からの不信に繋がり始めている。
 《Petra Deus Ex Machina》の影響もこれから益々増えるばかりであろう。
 早急に抜本的な対策を行う必要がある」
 増殖し続ける不穏は、その司祭の言葉に続いて、各人の口から漏れ出た。

 ――そもそも、あんなものに手を出すから、このようなことになったのだ。
 ――その議論は散々尽くしたはずだ。今更何を……。
 ――"神の石"は、我々信徒に与えられた神のおぼしめしではないのか!

「……こうなってしまった以上は」
 また別の司祭が口を開いた。

「まったく耐えがたいことではあるが……。
 ――彼の"魔女"を使うより他はない」

 その言葉に、一層大きなどよめきが奔る。
 そのどよめきの多くは……、魔女に対する侮蔑的な嘲笑に起因するものであった――。
●"魔女"の導き。
「何故、あのような不愉快な連中の為に、その身を捧げるのですか?」
 その節々に幾らかの怒気を孕んだ声。
 それは声の主の眼前に仁王立ちする、"魔女"に対して向けられたものであった。
「私なら救えるからね」
「でも、そんなの……」
「やめておけ、レテ。それに、"リスク"を取るのは私だけではない」
 魔女の冷たいが穏やかな声に、まだ少し幼さの残る少女――レテは、思わず口を噤んだ。
「私は石を封じ込めるだけだ。しかしそのためには、あの《Petra Deus Ex Machina》に接触する必要がある。
 今の《Petra Deus Ex Machina》は大きな力を持ち、周囲の生物を……"彼ら"の言葉で云えば"仮称悪魔"へと変質させている。特に、《Petra Deus Ex Machina》の周囲は危険な状況だろう。その為に、《特異運命座標》の助力が必須だ。彼らも、小さくないリスクを負うことになる」
「その原因は、あの司祭たちのはずです。彼らが責を問われないだなんて……」
「検邪聖省はとにかく気に入らない連中だが、しかし、何れ誰かがこの事態を引き起こしていただろう。
 ――《Petra Deus Ex Machina》とは、そういうものなのだから」
 魔女は長く美しい黒髪を揺らし、振り返る。
「さて、《特異運命座標》の諸君も到着したようだ。
 そろそろ行こう。時間が経てば経つほど、石の力は強大になる」
「……」
「まだ、不満かね」
 レテは無言で、俯きながら、肩口で揃えられた金髪を左右に揺らした。
「レテ、お前は、見ておきなさい」
 その声質に驚いて、レテは、思わず魔女の顔を見上げた。
 魔女は遠くの空を見上げていて、その表情は分からなかった。
「……何を?」
 レテは思わず問うた。
 魔女は振り返らず、口を開く。

「――魔女殺しとは如何なるものなのか、を」

GMコメント

■ 成功条件
● 《Petra Deus Ex Machina》(機械仕掛けの神の石)を魔女の体内に埋め込み、これを無効化すること。

● 上記の遂行のために、《Petra Deus Ex Machina》周囲に発生する"仮称悪魔"を撃滅し、魔女を《Petra Deus Ex Machina》の元へと辿り着かせること。


■ 情報確度
● このシナリオの情報精度はCです。
  情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。


■ 現場状況
● 場所
・ 《天義》にかつては存在していた、そして今では既に廃棄されている、とある村。
・ その村の中の、とある地上三階建て住居(廃墟)の中に、《Petra Deus Ex Machina》が存在します。
・ その住居(廃墟)はかなり部屋数の多い廃墟ですが、事前に構造を把握しておく事は可能です。

● 時刻・天候
・ 夜。晴れ。
・ 視界は、周囲に存在する多数の灯りにより、十分に確保されています。ただし、住居(廃墟)内部は幾らか自前の準備が必要でしょう。廃墟ですので、一部は月の灯りが差し込んでいます。

● その他
・ 依頼を受け、PCが《Petra Deus Ex Machina》が存在する住居(廃墟)付近(外側)に到着した時点から、シナリオが開始します。
・ 友軍は後述の魔女、レテ以外には居ません。検邪聖省の武装司教たちは、現場から離れたとこに待機し、廃村の周囲に封印壁を幾重にも施し、万が一PCたちが撤退するときの撤退路確保以外には、自己の安全を第一に動きます。すなわち、戦力として期待できません。


* 味方状況
■ 『魔女』
● 状態
・ 背が高く、非常に美しい女性。常に喪服を着ている。年齢・氏名不詳。
・ 魔術に長けており、今回、悪魔に対する防衛術式を現場廃墟全体に構築したことで、PCの仮称悪魔に対する攻撃への大きな負補正を帳消しにしています。またその術式を維持するため、現場廃墟内部の何処かに常に居る必要があります。魔女がもしもその範囲を外れた場合、即ち現場廃墟外に出た場合、その間、PCの仮称悪魔に対する様々な判定が、極めて不利に行われます。

● 能力値
・ 能力値不明。ですが、高い魔術能力を有すると推測されます。
・ 攻撃、回復共にPCに助力します。指示があれば、ある程度指示の通りに、指示が無ければ、PC不利にならないように適宜動きます。ただし、防衛術式の構築・維持にその魔力の多くを費やしており、過大な期待は出来ません。

● 《Petra Deus Ex Machina》の封じ込め
・ 魔女が《Petra Deus Ex Machina》と接触したまま12T経過すると、魔女は《Petra Deus Ex Machina》を自身の体内に封じ込め、シナリオは成功となります。

■ 『レテ』
● 状態
・ 魔女の付添い。まだ少し幼さの残る少女で、十代後半とみられます。
・ 魔女の強い希望で、レテは、魔女と一緒に行動する(魔女の挙動が視認できるように行動する)ことが必要です。この条件が達成されない場合、魔女は規定外の行動を取り、依頼が失敗になる可能性があります。

● 能力値
・ 戦闘行動には参加しません。
・ 能力値不明。

■ 『検邪聖省』
● 状態
・ 廃村の外を多数の武装司祭で遮断し、《Petra Deus Ex Machina》・仮称悪魔の封じ込めを行っています。

● 能力値
・ 戦闘行動には直接は参加しません。
・ 能力値不明。


* 敵状況
■ 『仮称悪魔』×五体+α
● 状態
・ 人型の敵性生態です。人間に対して攻撃的であり多数の住民、武装司祭が殺害されています。
・ 見た目は人型をベースにしておりますが形容し難い異形で、それぞれに固有の変質を遂げていますが、いずれもヒト三人分程度の巨躯を有する点で共通しています。
・ 《Petra Deus Ex Machina》の存在する廃墟の中に五体が潜んでいます。シナリオ開始時点では仮称悪魔の存在位置は不明です。
・ また戦闘中、廃墟内部の様々な物質が、新たな仮称悪魔に変質する可能性があります。この変質はシナリオ中、ある条件が満たされた場合に発生します。この変質はシナリオ中、複数回発生する可能性があります。ただし、新たな仮称悪魔の発生数は、すべての合計が五体を超えません。すなわち、シナリオ中、PCたちは最大十体の仮称悪魔と会敵する可能性があります。

● 傾向
・ 一般的な常識、思考能力を有しておらず、理性的な会話はできません。
・ 特異運命座標や魔女たちを目撃すると攻撃を始めますが、視覚だけでなく嗅覚なども用い、敵を見つけ出す能力に長けています。

● 攻撃
・ 巨躯に似つかわしい破壊力と、似つかわしくない機動力を併せ持った攻撃を繰り出す強敵です。
・ 一部の個体は魔術を使役し、R3レンジまでの攻撃を繰り出す可能性があります。
・ 物理、神秘属性問わず、その大威力の攻撃には廃滅、石化、呪いのBS付与の可能性があります。

■ 《Petra Deus Ex Machina》(機械仕掛けの神の石)
・ 外観は十センチメートル四方の黒色立方体。
・ 住居(廃墟)の中のどこかにあります。
・ 魔女が《Petra Deus Ex Machina》と接触し、その状態を12T維持できると、《Petra Deus Ex Machina》は魔女の体内に封じられ、シナリオは成功となります。
・ PCたちがこの石に不用意に触れた場合、高い確率で"ネガティブな事象"を引き起こしますので、ご注意ください。
・ 検邪聖省が、その発生に関係している様ですが……。


皆様のご参加心よりお待ちしております。

  • 魔女殺しのメソッド。完了
  • GM名いかるが
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年09月05日 22時15分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ


 醜悪な面構えだな、と思った。
 『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)の眼前には、犬と猿を掛け合わせてそれを巨大化させたような、それでいて、四肢だけはまるで人間の様な不自然さを醸し出す物体。
 体側に浮かぶ短剣は僅かに振動し、ウィルドに”それ”を伝えている。
「あなた方が、今宵の敵ですか」
 望まれざる神の使い――曰く、仮称悪魔。
 差し込む月の灯りに照らされたその相貌は――。


「あらぁ、お久しぶりね、魔女さんにレテちゃん。
 こんばんは。ご機嫌いかが?」
 只々廃屋が連なるだけの鬱屈した村の中、紅紫色を基にした色の遷移が艶やかな髪を揺らし『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)の凛としつつも何処か胡乱気な声が透き通る。アーリアの挨拶に振り返ったのは、二人の女性。
「こんばんは、アーリア。今日も良い夜だな。
 また一緒に仕事が出来る様で、嬉しいよ」
 全身を漆黒の喪服に身を包んだ長身の美女――魔女は、そういって口の端を歪めた。彼女なりの笑顔なのだろう。魔女の隣には、頭二つ分ほど背の低い可憐な少女――レテが、深々と一礼していた。
 アーリアは破顔しながら魔女とレテに手を振り、表情は変えないまま周囲を伺う。
 遠巻きに自分達を取り囲む武装司祭の円環。それは只管に、自己保身の匂いだけを漂わせていた。
「初めまして、マリエッタです。今回の事件、悪魔の自由にさせる理由はありません。  私にはわからないことも多いですが……、力をお貸ししますね」
 そう言って軽く膝を曲げた『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)。
「……ふむ。なるほど。
 ああ、よろしく、マリエッタ」
 魔女は真顔で一瞬静止したあと、何もなかったかのようにマリエッタに会釈した。
(こうまで親近感を感じるのは……偶然とはいえ、ですね)
 マリエッタは内心で感嘆する。恐らく彼女は識っているのだ。
(天義、魔女……そして、仮称悪魔。
 ええ、私も。記憶にない存在ではありますが――”魔女と呼ばれた存在”らしいですから)
 今回の事件の構図に対して、マリエッタは、己に僅かに残された過去の残滓を投影していた。
 ……マリエッタと魔女とのやりとりを静かに眺めていた『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は、そんな”今回の事件”について反芻する。
(仮称悪魔と呼称される変異体と、それを生み出す神の石……ですか)
 アリシスの紅桔梗色の虹彩が魔女の姿を捉えると、……偶然なのか、魔女の視線と交錯した。――すべて、お見通しと云う訳か。
(神の石について恐らく知っている事がありながら、多くを語らない様子を見るに。
 知識としてもあまり広めたくない背景が存在するようですね)
 まあ、いい。
 この世の真理の多くは不文律。
 言葉に紡がれないのであれば、観察し、分析し、――理解するまで。
「魔女さん、悪魔の事は任せて。その代わり、神の石のことは任せたよ。
 だけど、無理だけはしないで。
 レテさんの事も、私達がちゃんと守ってみせるからっ!」
 陰鬱とした空気を払拭するかのように、『竜交』笹木 花丸(p3p008689)のそんな声が響き渡る。それは、花丸が有する本質的な明るさ――そしてそのことを、魔女は即座に理解した。
「心強い言葉をありがとう、花丸。
 君たちの能力には何の疑いも無いよ。だが、今回は、前よりも更に厳しい戦いになりそうだ。
 ――何せ、神の石にに直接触れようというのだからね」
 そう言った魔女の、何処か晴れ晴れとした表情。その貌に、花丸は一抹の不安を拭えずにいた。
(周囲の生物を変質させてしまうようなものを、魔女さんは胎内に取り込む必要がある……んだよね?
 そんなことをして、魔女さん自身は大丈夫なのかな?
 少し……ううん、かなり心配だよ――)
 今回、イレギュラーズに与えられたオーダーは、その先の帰結について何も求めていない。そのことが何を意味するのか。それはまだ分からない。
 ……そして、それは恐らく、或いはきっと、碌な結果にならないのではないか。節々の文節から、『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)はそう感じていた。
 そも、神の石は何故、このような廃墟にあるのか。廃墟だから、在るのか。――在ったから、廃墟なのか。
(まぁ、私がする事は変わらないからいいけど。
 向かう先が何処であろうと、守る人が誰であろうと――ね)
 透き通った海の様に佳麗なイリスの瞳に、静謐なる決意の光が宿る。
「さあ、防衛術式の構築は終わった。そろそろ行くとしよう。
 ――今日は長い夜になりそうだ」
 そう言った魔女の、漆黒の手袋に包まれた人差し指が顎をなぞる。
 眼前には、大きな廃墟が構えていた――。


 場面は冒頭に戻る。ウィルドの正面に現れた仮称悪魔は、異形の出で立ちで、イレギュラーズを視界に捉えていた。
「久しぶりね、この感じ……あの時と変わらず、全く不愉快な空気だわぁ」
 アーリアの指先が、悪魔へと向けられる。
「さっさと神の石を見つけてしまいたいところでしたが、そう上手くはいきませんか」
 アリシスがそう呟くと、マリエッタも首肯する。
「そのようですね。仕様がありません、元より無血で終えられる任務だとも思っておりませんでしたし」
 言い終えて、マリエッタは聖印が刻まれた己が腕を振り上げる。
「マリエッタさんの言う通りだね。それにぐずぐずしていたら、他の悪魔にも気取られるかもしれないし……」
 威勢よく花丸が啖呵を切り、
「……さっさと片付けてしまおっか!」
 瞬刻で踏み込み――邪悪を滅するためのその拳を、突き上げれば、
「―――」
 それは、一撃目にして、最早、至高の一撃に相当する――!
 巨躯を穿つ打撃。……そして、眼前の悪魔は、
「なるほど、武装司祭とやらが手こずるのも仕様がない、ということですか。
 花丸さんの一撃を受けて立っているとは――随分と硬い」
 ウィルドが微笑みながら感嘆したように言うと、攻勢の準備に入っていたアーリア、アリシス、マリエッタ――三人の魔女、そして魔術師が、一斉に攻撃を放つ。
「でしたら、その硬さ……試させていただきましょう」
 アリシアの魔動器――戦乙女の槍がその切っ先を真っ直ぐに悪魔へと捧げる。
 その軌跡は光の跡となり……。
 ……振るわれるのは、正しく、浄罪の剣――!
「アアアア……!」
 鮮烈なる一撃に呻く仮称悪魔。
 間髪入れず、アーリアの腕が既に伸びている。
「さぁて、今日に限っては、私も周囲を呪う災厄の魔女よ!」
 ぱちん、とその黒い手袋に覆われた指が鳴らされる。
 瞬間。
 ――周囲が、暗くなる。
「酔いなさいな――パラリジ・ブランの雨に」
 次の瞬間、降り頻る琥珀色の雨嵐。
 それは、仮称悪魔だけを正鵠に降り注げば……。
「ア、アア、ア……!」
 歪なノイズ。仮称悪魔の叫び声が一段と高く、廃墟に響き渡る。
「ふぅん、これだけの攻撃を受けてまだ、立っている。
 確かに、――今日は長い夜になりそうね」
 イリスが冷静にそう呟くと、後ろに控える魔女はくつくつと笑った。
「これだけ峻烈な攻撃を浴びせておいて、よく云う。
 ……今日は私も共闘だ。支援はぐらいはさせてもらおうか」
 魔女がぱちんと指を鳴らせば、蒼く光る魔術陣が悪魔の足元へと張られる。
「イレギュラーズ諸君への支援は、君に任せても良いのだろう?」
 そう言って、魔女はマリエッタの方を見遣る。
「ええ、もちろんです」
 マリエッタの腕に刻まれた聖印が、蒼く光る。
「今夜の私は皆さんを支える”炉”としての役目。
 ――血の魔術。その真価をもって、この場を支えましょう」
 次の瞬間、吹き荒れる魔力の風。
 マリエッタの言葉は、魔力を宿し、そのまま仲間たちの魔力へと変換されていく……。 
 悪魔への追撃の態勢が整ったその時。
「――ちょっとまって」
 イリスが先程よりも少し低い声で、……仲間たちを制止した。
「これは……」
 ウィルドの相貌から微笑みが消える。
 イリスの索敵能力、ウィルドの使役する使い魔たち。……それらから導き出された、異変。
 そして、
「――上よ!」
 卓越した五感、そして透視能力を有するアーリアのその声に――イレギュラーズたちは一斉に後方へ飛んだ。
 ……瞬間。
 轟音と共に天井が瓦解し、砂埃が舞い、視界が奪われ……。
「……新手?!」
 花丸は間を低くし、目を凝らす。
 その先に居たのは、
「そのようです。――なかなか、小賢しい相手ですね」
 アリシスの鋭い視線が、その異形の姿を射る――今度は生物というより、機械仕掛けを数多に飲み込んだ、まるで無生物かのような四肢を。


 まず神の石の確保を最優先とする。イレギュラーズたちのその方針は極めて冷静に正しかった。しかし、今宵、彼ら・彼女らの想定する以上に、神の石へと至る道中での仮称悪魔との会敵が多く、それらが熾烈を極めたことも、また事実であったかもしれない。
「問題は……”新しい”仮称悪魔が発生しているのかどうか、っていうところだけど」
 長く昏い廊下を掛けながら花丸が零すと、アーリアが「そうねぇ……」と返す。
(何かが触れたか、何がトリガーか。今のところ、それはわからないけれど……)
 ちらとアーリアは、傍を走る魔女へと視線を滑らせる。マリエッタはその挙動を確認し、口を開ける。
「レテさん、魔女さん。もしよろしければ……。
 悪魔についての情報が何かあれば、ご教授いただければと思うのですが」
 そのマリエッタの言葉に、アリシアとウィルドも無言で視線をずらす。それは今回の任務としても、そして、彼女・彼らの個人的な興味としても、気になるところであった。
「――神の石は」
 一拍の間の後、魔女は口を開いた。
「生命の多様性の原因たる一つ。ある世界の例を挙げれば、カンブリア大爆発と呼ばれる現象などが分かりやすいか。……非合理的、非連続的な生物多様性の発現。その裏に存在すると謂われている”原始の石”――それを人為的に引き起こすために検邪聖省が創り上げたのが、神の石の正体だろう」
 魔女の発言に、アリシスが口を開く。
「検邪聖省は……何の目的で、そのようなことを?」
「――それが、神の仕業だからさ」
 アリシスに対する魔女の返事に、「つまり」とイリスが続ける。
「検邪聖省は、自らが神に成り代わろうとしている……ってこと?」
「端的に言えば、そうだ」
 イリスはその魔女の回答に、肩を竦めた。
「私は……、前の依頼の時に、その石に直接触れたのだけれど。
 大丈夫だったのかしらぁ……?」
 アーリアは、今でも”その情景”を、鮮明に思い出せる。
 ――悪魔の胸を開き、体内に手を突っ込んだこと。
 腐敗した匂い、色、感触、そしてその心臓――神の石に触れたことを。
「あのときは良くやったな、アーリア。
 そして、あの時に君が取り出したのは、厳密に言えば”神の石の欠片”だ。
 検邪聖省はその欠片を基に、封じ込めに失敗した神の石本体の対抗術式を構築しようと試みたようだが、それに失敗した。検邪聖省には、最早、《Petra Deus Ex Machina》(機械仕掛けの神の石)を封じ込める手段を有さない」
「だけど……それを、魔女さんは封じ込められるんだよね?
 それって……危険なことじゃないのかな?」
 花丸が静かにそう問うと、横のレテも心配そうに魔女を見遣った。
 魔女は、にやりと口の端を歪めた。
「……まあ、それを見てのお楽しみだ。
 魔女は、現象を理解しない。
 魔女は、現象をただ知るだけだからな――」
 その言葉に、マリエッタは、唇を一ノ字に結ぶ。
 ……自分も、嘗ては――。


 ――神の石を最初に視認したのは、イリスだった。
「あれは……」
 壁越しに映ったその形状。黒色立方体のそれは、極めて艶やかに、地面から一メートルほど浮かんでいた。
「――ウィルドさん、どうかな」
「ええ、間違いないでしょう。ファミリアたちが妙に騒いでいます。
 ……あれが、神の石とやらですか。――実に興味深い」
 イリスの問いかけに、ウィルドが微笑みながらそう答えると、アリシスも目を細めて神の石であろう物体がある方向を見つめる。
 アリシスのギフト、霊視眼は、見えざるモノを視る眼。神の石自体から放たれる異様な力の流れ――それが、アリシスには明確に感じ取れた。
 イレギュラーズたちは、神の石へと走る。
 それは、三階の最も広い部屋、その中央に存在していた。
「では、お願いします」
「承知」

 ウィルドに促され、魔女は神の石へと歩み寄る。

 近づくにつれ、魔女の長く美しい髪が、逆立っていく。

 神の石は、微小に振動していた。

 魔女が、石に触れる。

 ――瞬間。

「――来る」
「……!」

 ―――衝撃。

「悪魔が……!」

 ――――轟音。

「レテさんから離れないでっ!」

 ―――――暗転。


 レテが目を開けた時、そこは正しく混沌であった。
 激しい攻撃と防御の音。
 響き渡る声。
 眼前には、六人のイレギュラーズと。
 ――四体の仮称悪魔が、存在していた。
「……そんな、一体だけでも強敵なのに……」
「――心配は無用よ」
 レテが絶望したかのように零した言葉に、……イリスがしっかりとした口調でそう言い切った。――一体の悪魔から放たれた魔弾を盾で跳ね返しつつ、イリスは続ける。
「これでも、私たち。こんな死線は、たくさん潜り抜けているしね。
 だから――貴女も絶対に守り通すわよ」
 反撃とばかりに、イリスは神聖の魔弾を放ち、
「その通りだよ!」
 イリスの言葉に花丸が続ける。……しかして、花丸の眼前には、二体の巨躯から放たれる凄絶なる打撃が――。
「危ない!」
 レテが叫ぶのと同時。壮絶な衝撃音が響き、――其処には、悪魔二体を両腕の拳で受け止めている花丸の姿があった。
「もし倒れたとしても、もう一度立ち上がる!
 私たちは何度だって立ち上がれる!
 ――だから、絶対に二人とも守ってみせるんだから……!」
 花丸の相貌に浮かぶのは、この危機的状況にあって、笑顔。それが幾許かの強がりを孕んでいたとしても……花丸は、決してその拳を降ろしたりはしない……!
「――いやはや」
 ……そして、花丸とはちょうど背を向けて対向する位置で、ウィルドも二体の巨躯を抑え込んでいた。
「流石にこれは、少し骨が折れますね」
 スーツの下に隠された肉体が、隆起する。鍛え上げられた肉体が、悲鳴をあげる。それでも浮かぶ表情は――ああ、花丸とはその爽やかさは異なるけれど……さりとてやはり、微笑。
「私が言える立場じゃありませんがね。
 そこのお嬢さんではありませんが、なぜそこまで体を張ってこんな事してるんです?」 ウィルドは身体を震わせながらも――魔女を振り返り、問うた。
 ……魔女の顔には、苦悶が満ちていた。
「――ふ、レテにも言ったが。私なら出来る。それが全てさ。
 私は石を知っている。私はその事を知っている。だから私は……」
 魔女は蟀谷に無数の汗を滴らせながら、レテを見遣る。
「……これから起こる全ての事象をその子に示し、そして、この災厄を終わらせて見せよう」
 ――この顛末を、きっと、私は知る必要がある。
 魔女とレテとのそのやり取りを見て、マリエッタは本能的にそう感じていた。
(私の知らない私。失った記憶の中の私。
 ――”血の魔女”と呼ばれていたであろう、”別の私”が囁くんです)
 マリエッタが腕を伸ばす。
 彼女の足元に、――これまでとは比べ物にならない、深紅の魔術術式が展開される。
 ――巡り巡る血のように、果てのない循環の理。
 それは、或いは最古の魔法。
「……だから、これは」
 人智を巡る。
「あなたを救う、理由になる筈です――!」
 ――或いは、最果ての魔法。
 吹き荒ぶのは、真紅の魔力……!
「……ほう」
 魔女が目を細める。眼前で展開されたマリエッタの苛烈な魔術は、この歴然とした窮地を、瞬間的に対当にまで引き戻してしまったのだから……!
 そして、その隙を、アリシアは見逃さない。
 この時が、今宵与えられた、数少ない勝機であることを、アリシアは理解している。
(――神の石の存在、その性質。……その力の何たるか。
 見届けさせて頂きましょう、その異端とも云える、異境異教の神秘を)
 アリシアは戦乙女の槍の柄を強く握りしめ――己が姿に円環の理を付帯させながら、一際大きく、そして、力強く……その槍を一閃する。
 その切っ先が、描く。
 皚々の軌跡。
 雪を踏みしめるように、――丹念に。
 白々の軌跡。
 天を覆うように、――大胆に。
「嘆きなさい――その傀儡が如き生を」
 再度アリシアが槍を奮い、全ての軌跡が収束する。
 それは、悪魔たちをなぞり。
 纏わり。
 絞めつけ。
 やがて、拘束となり――。
「――まだ、飲み足りないのかしら?
 いいえ、でも今日は、店じまい。
 パラリジ・ブランはもう、あなたには降らない……」
 アーリアの瞳が妖しく濡れる。
「だからこれは、アントルメ。
 きっと甘い、最後の思い出を――私と」
 ぱちん、とアーリアの細い指が鳴らす。

「アアアアアアア――!」

 ――鮮血。
 アーリアの眼前で。
 ――鮮血。
 その異形の図体の中心から放出された、無数の血棘。
 ――鮮血。

 ……なんて、甘いデセール。


「封じ込めが――終わるわよ」
 イリスの言葉に、イレギュラーズたちの視線は魔女へと移る。
「……っ!」
 魔女の表情が一際歪み。
 突如、これまでになく大きく振動し、光り輝いた神の石は。
 ――そのまま、魔女の腹部へ突き刺さり、その体内へと取り込まれた。
「魔女さん……!」
「待ってください、悪魔が……」
 花丸が魔女に駆け寄ろうとし、ウィルドは悪魔の様子の変化に気づく。視線の先では、残る悪魔たちの姿が煙の様に消失していた。
 アリシアが周囲の様子を伺う。廃墟に満ち満ちていた不吉な空気は消え去り、其処に残っているのは、正しくいつもの夜であった。
(神の石を生体に取り込んだ瞬間、悪魔が消えた……)
 顎に手を当てたアリシアは、視線を魔女へと向ける。
(つまり――神の石が齎す生命の力を、生体の力を以て抑制した……ということですか)
 アリシアがその現象を考察するなか、花丸はレテと共に魔女を抱き抱える。
「……大丈夫ですか?」
 駆け寄ってきたウィルドが、魔女に問いかける。
「……ああ、死んではいないようだ」
「随分無茶をされる方だ。……善人は嫌いじゃありませんがね」
「けれど、傷が……」
 ウィルドの言葉に続き、花丸が手当てしようと手を出すが、「いや、止めておけ」と魔女はそれを断った。
「ありがとう、花丸。……だが、その傷口には、触れない方が良い」
 魔女はレテの肩によりかかり、立ち上がる。「せめて、向こうに行くまで手伝うよ」と花丸がレテとは反対側から魔女を支えると、今度は魔女も止めなかった。
 離れ行くその魔女の背中に、マリエッタが問いかける。
「魔女さん。……貴女の名前は?」
 魔女が振り返る。
 何時もの、皮肉気な微笑みを携えて。
「……知っている者は私を、エリスと呼ぶ」
 そう言って、踵を返して離れていく魔女。
 その名を反芻したのはマリエッタだけでなく、……イリスも同様に。
(――レテ、忘却の河の名であり、原義では隠匿。
 ……即ち、”覆い隠すもの”の意)
 イリスは、魔女に肩を貸すレテを見遣る。
(そして、”忘却”を産み落としたのは、紛れも無く――)

 やがて魔女とレテの姿は、検邪聖省の隊列の中へと消えていく。
 アーリアは、その様子をじいと眺めていた。
 そして、魔女エリスの言葉を思い返す。
(――魔女を殺す、の意図するところは)

 恐らく、今日。

「悪魔を殺して、魔女を殺して――私、次はきっと”神”を殺すのね」

 魔女が――偉大な魔女が、死んだのだ。

成否

成功

MVP

マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

状態異常

なし

あとがき

 四肢を拘束された一人の女が、暗く深い石造りの円柱の底で、立っている。
 視界を与えるのは疎らに灯された火の光だけ。
 天上は見えない。
 おおよそ人が住まうところではない。
 ならばこれは、正しく”封印”だった。
 ――一人の男が、その内壁を螺旋状に伝う、永遠にも思える長さの回廊をこつこつと降りてくる。
ゆっくりと歩を進めたその男は、やがて、女の眼前に立つ。
 女はにやりと嗤った。それを見て、対面の男の表情が歪む。
「異端の魔女が、忌避すべき魔女が、卑しい魔女が、汚らわしい魔女が。
 ――そんな魔女が、我々の神だというのかね」
 男は祭服の懐から短刀を取り出す。
 それは、只の短刀ではない。
「神殺兵装『第七聖典』か。そんな古典的兵器を未だに重宝しているとはな。
 ――やめておけ。お前たちは何度道を間違えば気が済む」
「偽りの神など要らぬ。
 私たちは、私たちの信ずる神の名の元にる――何度だってやり直せる」
 二人の頭上から怒声が聞こえてくる。
 それはこの男の凶行を止めるための物であった。

「――何度だってやり直せるんだ」

 男は――そう、繰り返した。

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