PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<深海メーディウム>飲めば極楽

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●深海にて
 紅い髪を揺らして朝葉 游夏(あさは ゆうか)は深海の祠へ至った。
 祠の奥からは超常なるがその存在感を放っている。重く深い圧力に似たそれを受け、游夏はひざまづいた。
『游夏よ』
「はい、イボロギ様、なんなりと」
『またひとり眷属が増えた』
「喜ばしいことでございます」
『より多くを引き込むのだ。我々は倍化することにこそ意義があるのだから』
「心得ております」
『しばし眠る。委細は阿真へ任せる。良きに計らえ』
「……かしこまりましてございます」
 潮が引くように祠から圧力が消えた。代わりに現れたのは游夏と同年代に見える青い髪の女だ。サメの牙をつづった首飾りをしている。
「やっほー、游夏。元気してた?」
「呼び捨てはやめろ」
 游夏は敵対心もあらわに女、阿真を睨みつけた。
「私はイボロギ様への信仰心から生まれた存在。ただの眷属であるそなたとは違うのです」
「うーん、でもイヴォンさまから名代を任せられちゃったからなー。仲良くしようよ、さみしいじゃん。あたしも游夏もイヴォンさまの眷属仲間なんだし」
「寄るな、触るな、不必要に近寄るな!」
 勢いで抱きつこうとした阿真を、游夏は本気で振り払った。
(なぜだ……なぜイボロギ様はこんな女を重用なさるのだ……。私のほうが、私のほうがずっとイボロギ様へ尽くしているというのに……)
「游夏? どうしたの?」
「やかましい! 私は上へ戻ります。神事の支度をしなくては」
「それ、あたしも見に行きたい」
 游夏は苦虫を百匹は噛み潰したような顔で振り返った。仮にも名代。その意思には逆らえない。
「……どうぞご随意に」

●豊穣・某所
「リリコちゃーん、あーそーぼー」
「風船ピエロ」パルルはにこにこしながら庭から呼びかけた。からりと障子がひらき、『無口な雄弁』リリコ (p3n000096)が姿を表す。
「……こんにちは、パルル。今日は何?」
「出かけるのサー。リリコちゃんとボクとふたりきりで! リリコちゃんもこんな陰気な屋敷に籠もってたら地縛霊になっちゃうヨ! なるならもっと陽気なオバケになろうヨ!」
 リリコはかすかに笑った。自分が死んだらパルルみたいに幽霊になれるのだろうか。あまりそうは思わない。ならどうして父は、母は、夢にも出てきてくれないのだ。人は死んだらそこまでだ。それはリリコの中で拭い難い実感となって存在していた。
「……オバケになるかはともかくとして、どこへ行くの?」
 さりげなく話を逸らすと、パルルは大喜びで依頼書を取り出した。
「これなのサ! シレンツィオの小島にあるムラでのお祭りだヨ! なんか、えーと、珍しい神事? をするのサー」
「……見せて」
 リリコが手を伸ばした。パルルがその手へさっと依頼書を渡す。
「……狂王種を倒せし勇者へ『イボロギ様』へと通ずる秘薬が授けられる……」
「リリコ、ちょっとそれ、僕にも見せて」
 背後から声をかけられ、リリコは振り向いた。そこには『孤児院最年長』ベネラー (p3n000140)が立っていた。ふたりは同じ孤児院の院生で兄貴分と妹分でもある。
「あー! でたなー! ボクとリリコちゃんの仲を引き裂く悪魔めー!」
 パルルの叫びへ、ベネラーは困ったように眉を寄せた。
「引き裂いてないよ。好きにしたらいいと思うよ。でも信仰上の理由から、死者が生者を惑わすのを認めてないってだけで」
「ソコ! ソコがダメ! ソコが悪い! リリコちゃんはずっとかわいいかわいいまんまでボクといっしょにいつまでも遊ぶのサ!」
「それ、それがだめ。それが悪い」
「……ケンカしないで」
 ベネラーは頭をかいて謝罪をすると依頼書を受け取った。
「『イボロギ様』『イボロギ様』……。ううん、どこかで聞いたんだけどな。どこだったっけ。リリコ、僕はすこしローレットの支部へ出かけてくるよ」
「あっ! ソノ依頼を見つけたのはボクなのサ! ボクの成果を取り上げる気だナ!?」
「しないよ。リリコといっしょにお茶でも飲んでお行きよ。あ、なにかあったら神無月さんに言いつけるからね?」
「……だからケンカしないで。それと、卯月さんを連れて行ってあげてね」
「うん」

●ローレット支部にて
 ベネラーは報告書を三倍速で見ていた。となりで卯月が感心したようにその横顔を見ている。
 なんのへんてつもない人間種が秘薬を口にする瞬間、血みどろの殺戮を受け、復活するシーン。三倍速の非人間めいた動きでも、いやだからこそ凄惨さが伝わってきて、見終えたベネラーは疲労から事務用椅子へくたりと体を預けた。
「『イボロギ様が呼んでいる』……か」
 ベネラーはひじをついて考え始めた。
「この秘薬と神事に使われる秘薬が同じものだとしたら……この祭り自体に何かあるんだろうな」
 ベネラーは一息ついて立ち上がると、卯月と並んで歩き出した。

●依頼
「シレンツィオ近辺にあるカナルガエの村の神事へ潜り込んでください」
 そういってベネラーは解像度の低い画像を数枚取り出した。神事だろうか、紅い髪を揺らした巫女が捧げ持つ貝殻がメインに映されている。周りには信者とおぼしき人々や観光客の姿が見える。
「カナルガエの村ってのは、どこなんだよ」
 型破 命(p3p009483)がもっともな質問を返す。
「シレンツィオから豊穣よりへいったところにある小島です。毎年この時期になると『イボロギ様』を称える神事を行います」
「ほー、で、俺らは何すりゃいいんだ? お面かぶってかき氷でも食ってりゃいいのか?」
 裂(p3p009967)が混ぜっ返すと、ベネラーはもう一枚、写真を追加した。真新しい写真だ。それをみた裂は絶句した。
「カナルガエの村に数日前から逗留しているという巫女の一人です。裏までは取れませんでしたが、神事に深く関わっているものと思われます」
 説明を聞いているのか居ないのか、裂は写真をじっと見つめている。
「みなさんは神事の最中、村の勇者に下賜されるという秘薬を入手してください」
「大騒ぎになるだろ」
「なりますね」
 クウハ(p3p010695)がつっこむもベネラーの表情は変わらない。
「ははあ、なるほど? 逆だな? 騒ぎを起こして秘薬を強奪してこいと、そう言ってるわけだな? 楽しそうじゃん。いくいく!」
 大笑いしながら机を叩くクウハ。命もまた興味深そうに村の地図を見ている。
「大暴れすりゃいいんだろ? 己れの得意分野だ。裂、ひとつ腕比べと行こうぜ、どっちがどれだけ……裂、裂?」
「……」
 裂は渋い顔のまま写真を見ていた。やがてその口元が動く。「阿真」と。

GMコメント

夏祭りをぶっ壊そう。

みどりです。夏祭りに行く体力もなくなってくるこの暑さ。なんとかならないものでしょうか。
さて「●深海にて」はPL情報です。フレーバーなんで気にしなくて大丈夫です。

やること
1)神事の妨害
A)オプション・游夏または阿真との対話

●戦場
カナルガエの村・社近辺
崖を背にして社が建っており、そこで神事が行われます。
狂王種を倒したとされる村の勇者が3人、選出され、神輿に乗せられて社までやってきます。
皆さんは彼らが巫女から秘薬を受け取る瞬間を狙って騒ぎを起こし、乱入してください。

位置関係はこうなっています
    崖
    ↑
    社     
  阿真 游夏
村人村人村人村人村人
村人村人村人村人村人
しめ縄しめ縄しめ縄
観光客観光客観光客
観光客観光客観光客
  「皆さん」
屋台屋台屋台屋台屋台

●エネミー
村人・眷属☓不明 EXFが非常に高く、低ファンブルです。致死毒、窒息、退化などのBSを使用してきます。また、マークブロックを使用します。
村人・その他及び観光客☓たくさん 人間種と海種が多いです。うっかり殺してしまうとあとが大変なので気をつけましょう。
見分け方は簡単です。向かってくるのが眷属。逃げるのがその他と観光客です。

●その他
・游夏 本名・朝葉 游夏 何十年も前から神事を担当している巫女です。その若さは秘薬を飲んだから、だそうですが……?
・阿真 本名・深覗・阿真 裂さんの妻、でした。なぜこんなところにいるのでしょうか。謎ですね。

このシナリオは「それに関してはあてがある。任せておけ。https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8169」とリンクしていますが、読む必要はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
 あなたは「イヴォン・ドロン・シー」について、知っていてもいいし、知らなくてもいい。

  • <深海メーディウム>飲めば極楽完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
優しき水竜を想う
武器商人(p3p001107)
闇之雲
シラス(p3p004421)
竜剣
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
型破 命(p3p009483)
金剛不壊の華
裂(p3p009967)
大海を知るもの
フーガ・リリオ(p3p010595)
世界で一番幸せな旦那さん
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

リプレイ


「いぼろぎ、イボロギねぇ……」
 資料の山に埋もれながら『闇之雲』武器商人(p3p001107)は紅茶を口に含んだ。すべらかなそれが喉を通り過ぎていくのを感じながら続きを開始する。
「実に不可思議な音の響きだ。聞き慣れない単語を聞き取れるように、無理に直したような音。ヒヒ」
「調子はどうよ旦那」
『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)がひょいと顔を出した。
「ずいぶんと長生きの魔種のようだね。かなり古い年代まで遡れる。かと言ってなにをしているかと探れば、これがようとしてしれない。あえて言えば眷属を増やしている、くらいか。ニンゲンへ友好的でもあるし、そうでない時もある。ふむ、興味深い」
「いや、興味抱いてる場合じゃないだろ」
「わかるのは、ひとつだけだ」
 壁へ背を預けていた『大海を知るもの』裂(p3p009967)が腕を組む。
「今回の依頼、これだけは言える。俺みたいなやつをこれ以上増やすわけにはいかねぇ。あの魔種の好き勝手にはさせねぇ、これはそういう依頼だ。阿真の隣にいる女も何考えてやがるかはしらねぇが、秘薬とやらはどうみたって怪しいだろうよ」
 一息つき、裂は天井を見上げる。
(飲まされそうになってるやつに何があるかなんて……俺は知ってるはずだ)
 視線を下げ、武器商人とクウハを見やる。その瞳には強い意思が宿っていた。
「必ず止めてみせる、必ずだ」

 降り立った村は、はりつめた興奮で満ち溢れていた。これから起きる神事への待望。村の勇者への羨望とかすかな嫉妬。村人たちは誰もが怒鳴り合うように思い思いにしゃべくっていて、蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。それをしめ縄越しに観光客が眺めては、自らもあの興奮の万分の一でも体感したいと切望している。
 熱気あふれる空気にもかかわらず『竜剣』シラス(p3p004421)は冷たく言い放った。
「胡散臭ぇ村だな」
 その一言は喧騒へかき消されていく。シラスはイボロギなるものがなんたるかを直感的に理解していた。少なくとも魔種か、それに類するもの。ヒトに害為すモノであるのは明らかだ。磨き抜かれたシラスの直感がそう告げている。
「ま、事が起こるまでは楽しませてもらうか。まだ巫女も現れてないしな」
 もくもくとたこ焼きを食べ、そのへんの観光客を装う。目立たないことが肝心だし、目立たないよう振る舞うのは得意だった。
「旦那は?」
「先に行ってる。裂を連れて」
 クウハの問へ、『金剛不壊の華』型破 命(p3p009483)が答えた。その顔はどこか心配そうだ。
(神様ね、己れはあんまり信心深くねえんだが。それよりも心配なのが裂の方だ。色々あるんだろうが、何かあったらすぐ助太刀に回れるように気をつけておかねえと)
 ただでさえ高い背を、さらに伸ばして、命は神事が行われるという祭壇をのぞきこんだ。何の変哲もない岩舞台だ。おそらくはここに巫女が立ち、村の勇者へ秘薬を授けるのだろう。
 クウハは思う。
(報告書のものと同じなら、秘薬を飲めば碌なことにならんだろう。少なくとも、まともなニンゲンではなくなるだろうな。イボロギ様とやらの眷属にでもなれんなら、信者としちゃ勇者どころか化け物になっても惜しくねェってか)
 思いにふけりながら、クウハは唇の端を片方あげた。
(下手すりゃソイツは魔種かもしれんのになァ?)
 大きく伸びをしたクウハもまた祭壇へ目をやった。
「馬鹿は信仰に踊らされるとはよく言ったもんだ。永遠なんてもんが、あるわけねェだろ」
「ふふ、そんなところが……」
「あんだよ」
「なんでもないよ」
 隣に立っていた『黄金の旋律』フーガ・リリオ(p3p010595)が微笑みを返す。
(クウハと本格的に依頼がこなせるなんて、うれしいな……)
 そんな思いは胸に秘め、イレギュラーズとしての顔を見せる。
「ヤバそうなことを止めるためにも頑張らないとな」
 かき氷をしゃくりと口に含む。海からのねばついた湿気に反して快い冷たさ。フーガはしばしの涼を楽しんだ。
 近くでは『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)と『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)がひそひそ超えで話し合っている。
「肉種を作る薬とは別物なのだよな?」
「さあ、調べてみないとわからないわ。それにしても、ふーん、秘薬、秘薬ねえ。ニンゲンの用意するそれは大抵ロクでもないことが多いんだけど、コレはどうなのかしら」
 それを聞いたアーマデルの心中へ針が一刺しした。
(秘薬……クスリか、『永続的な力を得る為』のモノは大抵ろくなもんじゃない。それが必要な場合もないとはいえないが……)
 そっと拳を握り込む。
(俺には、きっと必要だったのだ、そう思いたい)
「さーて、と」
 内側へ落ち込んでいたアーマデルはオデットの掛け声に浮上した。
「それじゃあちょっと上へ行ってくるわ。あとは任せたわよ」
 ふわりとオデットの体が浮き上がる。空から急襲する算段なのだ。周囲の視線に気をつけながらオデットは上へ上へと昇っていく。
「イボロギ様といいなんかきな臭い? 変な感じがするんだけど。知るためには調べなきゃいけないってわけね。まあ、暴れるのは得意分野よ。せいぜい派手に暴れるとするわ」
 オデットの愛らしい瞳が、危険な色に染まった。


「……というわけでね。かの神のことはポツリポツリと伝え聞いてはいるが、やはり巫女の口から語ってもらえるほうが偉大さがわかりやすいからね。お聞かせいただいても?」
「何も言うことはありません」
 游夏を相手に武器商人と裂は交渉へ持ち込んでいた。武器商人は商売を全面に押し出し、秘薬の販売のメリットを連ねたが、游夏自身は何も語る気がないようだった。
(これは少々分が悪いね)
 隣りにいる裂とハイテレパスで会話する。
「私はこれでも心が広いつもりです。商人風情が神事前のこの忙しいときにやってきても追い返さない程度には。村へ伝わる歴史ある秘薬を、よりによって商売の種にしようなどと、実に腹立たしい。お帰り願いたい」
「それでは失礼するよ。時間をとってくれて感謝する」
 武器商人が椅子から立ち上がりかけたその時だった。
「裂! 裂! ああ、裂!」
 部屋へ飛び込んできた影があった。青い髪の、サメの牙の首飾りをした女だった。
「……てめぇは」
「阿真よ……うれしい。会いに来てくれたんだ、裂。ねえ、游夏。裂のための秘薬も作ってあげて。游夏ならそれができるでしょう?」
「だまりなさい阿真」
「裂は強いんだから。眷属にすればきっとイボロギさまも……」
「だまりなさいと言っているのです!」
 游夏の剣幕に阿真は驚いたように黙り込んだ。
「お帰りください、神事がもうすぐ始まりますので。ここであったことは内密に願います」
 あくまで高圧的な姿勢を崩さない游夏と、苦い顔を隠そうともしない裂。その合間でまどっている阿真。武器商人は裂の背をたたき、帰りを促した。そして振り返る。
「なるほど、秘薬を作っているのはキミだったのかい、游夏。言っておくけれど……」
 一息置いて武器商人は嗤った。
「秘薬が裏ルートに乗せられて高額で売買されていることは把握済みなんだ。出所がこの村だってことも突き止めてある」
「……なんですって」
「サヨナキドリをなめるでないよ、ヒヒ」
 憤怒に染まった游夏を置いて武器商人は部屋を出た。


 オデットの瞳に神輿が写っている。祭りの興奮は今や最高潮。三人の男たちが神輿の上で大きなうちわを振っている。今回選出されたという村の勇者たちだろう。
「これだけ見たら豊穣でよくある祭りなんだけど」
 祭壇で勇者を待つ巫女へと視線を走らせる。
「問題はこのヒトたちよねー」
 紅い髪を揺らす游夏は堂々とした立ち振舞だ。今も巌の如き荘厳さでもって勇者の到着を待っている。一方阿真のほうはどこか悄然としている。せっかくの巫女衣装が台無しだ。
『フラれた フラれた』
『阿真 フラれた』
 けらけらと笑う精霊たち。
(フラれたってどういう意味?)
 オデットが思考をめぐらせようとしたその時、神輿が人の列を割って祭壇前へついた。
「時間ね」
 勇者が神輿から飛び降り、祭壇の前で膝立ちになる。游夏が進み出て手首を切り、阿真がもつシャコガイの貝殻へ自分の血を流し入れる。圧迫して止血したのち、そのシャコガイを受け取った游夏は、そうしてできあがった秘薬を勇者たちへ渡そうとした。
「させないっ!」
 オデットは翼の光を解放した。同時に急降下しながらゲーミング林檎を祭壇へ投げつけた。1680万色が弾け飛び、あたりを閃光が明るく染め上げる。
「地上で花火が見れるなんてすてきでしょ? たーまやー。なんちゃって」
 同時にどぉんと観光客側で音がした。きらきら舞い散る紙吹雪のなかでフーガが星夜ボンバーを放っている。
「どけどけー! この花火の餌食になりたくなきゃ逃げろー!」
 なんだなんだ、何が起きた。ざわめきが広がっていく。会場は混乱状態に陥った。それぞれがそれぞれに逃げようとしているものだから人の塊ができている。こどもの手を握ったままどいてくれと絶叫する親。足の悪い老婆をしっかりと抱きしめて人波から守ってやる老人。そんな人々をすり抜けて、明確な悪意がイレギュラーズへ迫る。
 頬を切られたフーガが人波に隠れた敵を見定めようと目をカッと見開く。
「へ、へへ、いるね。けど、おいらだってイレギュラーズだ。喧嘩を売っておいてただで済むと思うなよ」
 そんなフーガの背後で凶刃がひらめく。刃と刃がぶつかりあう音がして、裂が姿を表した。ギラギラと光る目はフーガでさえぞっとするものだった。裂はその勢いのままどなりつける。
「その儀式、待ったをかけさせてもらうぜ! 痛い目見たくねぇやつはすっこんでなぁ!」
 正面から強引に押し通る裂の背後へアーマデルがついた。ツーマンセルを組むことで死角をなくそうという魂胆だ。
「あいにくとこの場はイレギュラーズが征した。東側の道を通って村へ逃げ帰れ」
 村人を扇動しつつアーマデルは影のように裂へ付き従う。時折振りかぶられる刃は、かつての聖女の悲しみが迎え撃つ。背筋が寒くなるような不協和音。しかし未練の結晶はただ殺めるだけではない。向かってくる相手を気絶させていく慈悲の技だ。
「ガッ。ぐっ」
 正面に立っている裂が人混みに乗じた攻撃を受ける。しかし耐え忍ぶ。前へ前へ、祭壇を目指して人混みをかき分けるようにして進んでいく。その動きは緩慢であり、とても荒波を泳いでいるとは思えない。
 だがそれでいいのだ。彼らは陽動なのだから。
「ここを聖域とみなす。荒れ地も沼地も美しき岸辺となる。芳醇なる乳と蜜の川が流れ、幸いと誉れが汝を包むだろう。唯一人の人が、その恩寵をここへ与えん」
 フーガが唱えたサンクチュアリが裂たちの傷を癒やしていく。裂けた肌がもとに戻り、痛みが消えていく。
「背中は任せてくれ!」
「ああ、頼んだ!」
 フーガの元気な声に裂もどなりかえす。
「村人も観光客も減ってきているな」
 アーマデルは冷静に場を分析した。つまり残っているのは……。
「そろそろ遠慮はしなくて良さそうだ」
 空へ合図を送るとオデットが優雅に飛び回りながら、神気閃光を撃ちまくる。被弾する人々。しかしそれでもなお向かってくる姿はまるで何かに操られているかのようだ。
 それとも、アーマデルは思う。
 操られることこそが、彼らの意思なのだろうか。
 彼は嫌悪に顔を歪めた。


 陽動はうまくいった。当然その裏には奇襲班の存在がある。
「こっちだ!」
 アノニマスを発動し、誰でもない誰かとなったシラスが命とクウハを先導する。パニックを起こしている人々の塊を大きく迂回して、祭壇へと駆けつけた。
「おらァっ!」
 クウハが勇者たちへ大鎌を振るう。血しぶきが飛び散り、クウハのフードを濡らす。わずかに眉を寄せたクウハはなおも一撃をくりかえす。数々の不調が勇者たちの体へ刻みつけられていく。
「さすがに狂王種を倒しただけあってタフだな、なら気絶するまで相手してやるよ」
 自分ごと回転しながら大鎌での攻撃。薄く研ぎ澄まされた刃が肉をはむ。悲鳴があがり、クウハは反射的に嘲笑った。
 勇者たちは傷つきながらも巫女二人の壁となるべく陣形を形作る。だがそれは命の思うツボだった。
「とっとと去ねぃ!」
 巫女をまきこんでの鬼の如き大喝。そのあまりの衝撃に勇者たちと巫女は飛び散った。地へ体を滑らせた游夏が余韻でくらくらする頭をあげ、うめく。
「秘薬、秘薬は……」
「ここにあるぜ」
 シラスが微笑を浮かべながら手の中のシャコガイを見せた。そのなかにあるとろりとした赤い液体も。シラスの鳶指は何ものをも逃さない。姿勢を崩した巫女から秘薬をスリとることなど朝飯前だった。
 游夏が鬼のような形相でシラスへ襲いかかる。
「返しなさい、返せ!」
「ハハッ、そう言わずに分けてくれよ、俺も勇者なんでね。ん?」
 キリキリと魔力の糸が縦横無尽に張り巡らされた。游夏の仕業だろう。捕まれば切り裂かれるのは目に見えている。
「じゃ、撤収するとしようか」
 シラスは平然と背を向けて逃げ出した。人よりも器用に動ける彼は村人たちの追いすがりも超えていく。そのあとをクウハと命が続いていく。
「逃げるな卑怯者!」
「ご馳走さん、屋台は美味かったぜ」
 游夏の叫びにも3人は足を止めない。
「悪ぃな。此処の神様、ちょいときな臭い話が出てんだよ。叩けば埃が出るのはどいつも同じだが、ここの神様とやらはさすがにヤクいぜ」
 命は息を大きく吸い、武器商人のいる方向へ大喝をかます。
「ん?」
「おやァ?」
 それに気づいたのはほぼ同時だった。刃の如き衝撃波とも言える命の大喝、それによってちぎれかけた村人の体がみるみるうちに修復されていく。
「げ、キモ」
「以前見たとおりだねぇ」
 内側から糸で縫うように綴じられていく肉体。
(おいおいマジかよ。これじゃあ……)
 命は自分で自分の想像にぞっとした。豊穣支部長として、金で換算する傾向のある彼として、この村での出来事は秘事のままがよかろうと思われた。
「なにしてる、ここは旦那へ任せて撤退だ!」
「わかってらぁ!」
 クウハへやりかえすと、命は両足へ力を込めスピードをあげた。


 戦い終えて日が暮れて。
 一行は村から遠く離れた街道で即席の宿を取っていた。
 火をおこしたシラスの傍らで、クウハがシャコガイを受け取る。静かに目を閉じ、集中した彼はすぐにシャコガイを放り出した。
「キメェ!」
「っとと、あぶない」
 フーガが放り出されたシャコガイを受け取る。
「どうしたんだ、何が視えたんだクウハ」
「なんか、ミミズみたいなのが山ほどうぞうぞしてた」
「虫がいるってことか?」
「そうじゃねェの」
「そうか、虫……」
 フーガはシャコガイの中身を眺めた。それから首を傾げた。
「ん、それじゃあ、あの紅い髪の巫女さんの血は虫だらけってこと?」
「だろうな」
「ええー、それはちょっと、気分悪いかも」
 裂の相槌にオデットが顔をしかめる。
「今日の相手……眷属というべきか。そいつが復活する様子を皆も見ただろう?」
「うん、見た。傷口がぶちぶちーってなって、肉でできたぬいぐるみでも相手している気分だったわ」
「俺が相手をした眷属もそうなった。どれだけ傷を受けても平然としていた。英雄の怨嗟の前には無意味だったが」
「思ったんだが」
 命がアーマデルのあとに口を挟んだ。
「あんなもんが作れるなんて知られたら、無敵の軍隊として喉から手を出すほど欲しがる輩がこの村へ押しかけてこないか」
「そうさせないための『イボロギさま』なんだろう」
 シラスが手を叩いて汚れを落としながら立ち上がった。
「表向きは神より授ける秘薬ということにしておけば、数は出回らない。イボロギとやらの正体も隠せる」
「で、裏ルートを使い高値で売り捌くと。これも情報を隠匿し、数を抑えるためだろう。慎重な手段を取っているね、ヒヒ」
 おそらくは、と前置きして裂は言った。
「『あいつ』は増えることを目的にしている。だが闇雲に眷属を増やすと正体がばれて討伐対象になる。だから游夏とやらを使って自分を祀り上げさせてるんだ」
「『あいつ』ってだれ?」
 オデットが光の翼をゆらめかせながら問うた。
「『イヴォン・ドロン・シー』。俺の女を眷属にしやがったやつだ」
 裂は苦渋に満ちた顔で笑ってみせた。
「裂……」
 シラスが声をかけるも裂の表情は変わらない。ただ村の方を見ている。
「……あいつが、あんなやつが、阿真なわけねえ」
 その背にへばりついた複雑な心境。皆の脳裏に悲しげに裂を見つめていた巫女の姿がよみがえる。戦いの最中も、引くでもなく驚くでもなく、ただ裂を見つめていた一人の女。いつかはあの女とも相対せねばならないのだろうか。そしてその背後にいる輩とも。
 生ぬるい風がふいた。とてつもない何かが闇にひそんでいる。誰もがそんな気がしてたまらなかった。

成否

成功

MVP

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
優しき水竜を想う

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

陽動と奇襲に分かれての神事の妨害、お見事でした。
MVPはバリバリに目立ちまくってたあなたへ。

またのご利用をお待ちしています。

PAGETOPPAGEBOTTOM