シナリオ詳細
<Stahl Gebrull>MAD HEAD
オープニング
●
「おらっ! 乗れよ、ラスタバン!」
戦友のハロルドに手を引かれて、俺はムリヤリにワイヴァーンに乗った。知らない風。けれど知っているはずの頬を撫でた。
ハロルドはいつだって強引で、引っ込み思案の俺に世界を見せてくれた。
俺にとっては、アニキみたいなものだ。
上も下も、青、青、青、青。
青一色の空……。
くるりと宙返りするワイヴァーンの背にまたがって、俺も一瞬だけ、重力のことを忘れた。自分がどちらを向いているのか分からない――。
眼下には――眼下だ、信じられない。空に浮かぶ大陸がある!
この光景を見るために生まれてきたんだ、と、俺は本気で思った。
ハロルドは俺よりも遥かに空を泳ぐのが上手い。
「な、信じられないよな。昔は俺たちも地面をはいつくばって、パンのかけらを舐めてたのによ。ラスタバン。これに乗ってる間だけはさ、大佐が信じられるか、信じられないかはおいておこうぜ。なんたって大佐は俺たちに仕事をくれた恩人だし…………俺たちがアーカシュに来れたのは大佐のおかげだ。見ろよ、この空を! 悩みなんてどうだってよくなるだろ?」
たしかにそうだ、と俺は思った。
「俺、ずっと飛行機乗りになりたかったんだ」
ハロルドがぽつりと言った。ハロルドとは20年間ずっと一緒にいたのに、そんなことちっとも知らなかった。俺みたいにラド・バウの戦士になりたかったんだと思ってた。
「ほら、あそこにレリッカの村がある」
レリッカの村。……かつての鉄帝人たちが空を目指して、たどり着いた先で築いた村。美しい村だと俺は思った。けれども、今、レリッカの村長はいない。パトリック大佐が、村から追い出したのだった。軍属に復帰させる、という名目で。
……イレギュラーズたちと敵対するのは果たして正しいのだろうか?
どうだろう。でも、ハロルドはそうすると言う。
……ハロルドは片腕を欠いている。俺たちは戦う力がなかったけれど。ハロルドは、大佐の貸してくれた金のおかげで義手をしつらえることができた。ハロルドにとって、仕事を見つけてくれたパトリック大佐は恩人なのだ。
「なあ、分からなくなったら、またここに来て、飛ぼうぜ。俺が何度だって空を見せてやるから!」
俺は昔、飛行種だったことがあった。空を飛べたことがあった。行軍で吹雪に見舞われて羽が壊死するまではそうだった。
俺は考えるのを放棄して、風に身を任せる。
……こんな中途半端な考えだから、俺は作戦に失敗したのだ。
●
「パトリック大佐が……殉職した?」
特務派としてイレギュラーズに立ち向かう……どころではなく、軍務派軍人によってあっさりと俺は負けた。地面にたたきつけられて気絶するという体たらくだ。
起きてみれば、俺の耳にはパトリック・アネル特務大佐の訃報が耳に入ってきた。……戦友のハロルドも戻ってきていなかった。
(信じられない……)
ハロルドは、この錆び付いた世界で、唯一無二の親友だった。互いに孤児で、頼るものなんてなくて――。俺たちは弱くて。
『――――』
そのときだった。
耳元で……声が聞こえた。声、というよりは機械の作動音のようなものだ。歯車のぎちぎち言うような音だった。
――なあ、分からなくなったら、またここに来て、飛ぼうぜ。俺が何度だって空を見せてやるから!
俺は療養所を飛び出し、アーカシュの端に走る。……アイツが、そこにいる気がして。
一緒に飛び立った場所。
そこには、見慣れぬ兵器があった。人型をして遥かに大きい。アーカーシュには古代の防衛兵器が眠ると聞いていた。先の戦いで見てはいたけれど、そのどれとも違っている気がする。
「! ハロルド? ハロルド……っ!」
機械の中に、ハロルドがいた。なんだ、生きてたのか……と思ったけれども、唯一無二の相棒には深々とコードが突き刺さっている。
「なんだ、これ? おい、しっかりしろよ。アシュリーが悲しむぞ、ハロルド。帰ったら結婚するって……」
『ろしてくれ……』
急激に血液が冷えた。ハロルドの言葉が理解できなくなる。機械の音になる。
『――――』
戦友はそこにいるじゃないか。
エンジンはぬくもりがあるじゃないか。
「なあ、相棒。俺に乗れって言ってるのか?」
『――――、――――』
握手するように伸びてくるコードを、俺はしっかり握った。
「ああ、飛ぼう。一緒に。それで、こんどこそイレギュラーズを倒そう……!」
俺にはわかるよ。お前がどんなになったって。――ずっと一緒にいたからな。
●
「アルトラアームズ、それは、魔種パトリックが呼び覚ました『兵器』さ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)は淡々と語る。アルトラアームズのエンジンは人の魂、取り込まれれば殺すしかない。それは事実を切り取っていて、過不足がない。
「行方不明の特務派軍人『ハロルド』。そいつを喰って生まれた機体が目撃されている……ソイツは残念だが、壊すしかない。懸念事項はもう一つ。接触した軍人がいるらしいことだ。彼の名はラスタバン。……説得が可能であればベストではある。けれど」
パトリック大佐は、魔種に転じていた。
彼は――ラスタバンは、呼び声を受け、すでに反転している可能性もあるのだ。
- <Stahl Gebrull>MAD HEAD完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年09月01日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●最後の願いは何だった?
『いくぞ、相棒っ!』
その機体の駆動音はまるで悲鳴のようだった。
きしむ歯車の音は助けを求めているかのようだった。
本人だけが気が付かない。
飛来するドローンを、『蒼空』ルクト・ナード(p3p007354)の正確な雷撃が撃ちぬいた。
「酷い有様だな、人を兵器の贄にするなど。いや……そういう物もあるか」
「……そんな酷い兵器はすぐに破壊したいところだけど
今回はそう簡単な話ではないようだね……」
『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)には見えるだろう。しがみついてねじ曲がった、執着が。正しく別れられなかった者たちが、無理矢理につぎはいでなんとか形を保っているさまが。
間に合うかどうかはわからない。もう魔種である可能性は多分にある。
……あれは、人のいのちを燃やして動く兵器だ。
(人から兵器になってしまったハロルドと
生物兵器に元が付いた自分では全然違うだろうけど……)
違うだろうけれども、それでも。『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は気持ちが分かる。わかってしまう。
残された者がどう思うかはわかる。
……残された者は泣くのだ。
(……梨尾みたいに)
心が痛むと同時に無限の勇気が湧いてくる。後悔は数えきれないほどしたけれど、それでも、大切な思い出はいつだって勇気をくれる。
「理解はできるが、容認は出来ない
その兵器は……存在すべきではないだろう」
戦うしかない。
だから、ルクトは武器を手に取った。
「できる事なら、こうなる前に会いたかった」
『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は空を見上げた。泣いているかのような悲鳴じみた駆動音。
「ハロルドさんの魂が、惨い事に……助けられなくて、ごめんね」
「ハロルド殿……そしてラスタバン殿……君たちの心はその機体の中にまだ残っているのかな」
ヴェルグリーズの声は、決して冷たいものではないが、あるがままを眺めるようにとても冷静なものだ。対照的に、暴力を体現するかのようなハロルド機の熱線が一直線に飛んでくる。
「っ……! みんな、下がって!」
『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)のライオットシールドが光線とぶつかり、白熱する。フラーゴラは退かない。ラスタバンの命を削ったその一撃は、すさまじい威力だったが、直撃は避けた。
フラーゴラの宝石のようなオッドアイにきらめきが反射して、それでも目から希望は消えない。
「ラスタバンさんはまるで狂ってしまったかのよう……ハロルドさんの声すら届かなかったみたい」
「悲しいことでしょう、信じられないことでしょう。
己の理想を失い、己の親友を失い、己の強さを失った」
『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)は弓を引いた。
天星弓・星火燎原の弦は美しくしなり、パシュ、とゆるやかな間をおいて、放たれた矢は、無軌道に動いていたはずのピットをいくらか撃ち抜いている。
「だけど、それは自分の全てを捨てていい理由にはならないのです」
『やるな! よし、俺たちも本気を――全部を、全部を壊そう!』
そこにあるのは狂気だけだ。
(もし、止められるのならば……止めたい。
どんな状況であっても、まだ出来る事があるのなら諦めたくはないの)
あそこにまだ、人のままのラスタバンはいるだろうか。
『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)は嵐のような火の粉にひるまず、治癒を唱える。
「まだ少しでもその意思が絶えていないのなら、必ず助けます。もし、意思が絶えてしまっているのなら、ここで親友を謀るモノとともに倒します」
「その通りです。魔種化は不可逆であり、魔種になってしまったら我々は倒すしかない
それが特異運命座標の役割」
『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は己の理想を胸に抱き、しかし過度に期待したりはしない。
「あなたがそちらに行ってしまうのであれば、討ちます」
まっすぐに、書架守は言った。
●まだ間に合うのなら、手を差し伸べる
(ウェールさんが言ってた。ハロルド機の破壊がラスタバンさんの反転を後押しするかも、って)
じぶんだったら、そう思うだろうから……と。
タイムはふるふると頭をふる。助けたい、と強く思う。
「フラーゴラさん、正純さん、ルクトさん、ドローンの方は任せたわね……!」
「はい! お任せください」
「一人でも、贄となる者を減らすために。ラスタバンを討たせてもらう」
正純とルクトが答え、それから――。
「うん、まかせ――」
フラーゴラの声は爆発音にかき消される。それで、タイムは少し驚いたけれど、そんなことで倒れる仲間ではないと信じているから、自分のやるべきことに集中する。
案の定、土煙の中からは無事なフラーゴラが現れる。
「だいじょうぶ」
(ドローンの数は多いけど頼りになる3人だもの。きっと抑えてくれる)
もしもまだ救えるのなら、救いたい。
『よし、ハロルド。ドローンの操縦は自動だ。俺たちは向かってくる敵の撃破だけに集中する。……ああ、俺たちはずっと親友だもんな!』
(ワタシたちの声が届くかな……ううん、届かせなきゃ!
ハロルドさんの分まで声を乗せるように!)
フラーゴラはぎゅっと掌に力を込めて、己を奮い立たせる。
「鬼さんこちら……!」
爆風の吹き荒れる嵐の中、一筋の風が通る。どっちにいけばいいかわかる。導くかのように、風が通るようなさわやかな匂い。誘うかのように。全ての感覚を研ぎ澄ませ、フラーゴラは落ち着いて、と自分に言い聞かせる。
(敵が……近づいてくる)
ルクトは敵をにらむ。
ドローンビットがあれだけとは限らないのがやっかいなところだ。
(数的不利は空戦を行う上で避けたい所だ、集中砲火を受けた際の被害が悪化しやすい。敵が平面上に配置される地上戦とは異なり、空戦は立体的な対応が必要だ。だから、自分こそが最適だろう)
ルクトは素早く『偽翼』を動かした。……動いてくれる。頼りにしている。
(あれは……)
ヨゾラに攻撃を向けていたドローンがミサイルで吹き飛んだ。
ルクトのミサイルポッドだ。攻撃を迎え撃ち、なお突き抜けて飛んでいく。
「他の味方の邪魔をされては困るからな……。貴様らの相手は私だ……行くぞ!」
ルクトはぎりぎりのところで切り返し、舞うように飛び上がる。限界を超える軌道でもなんなくついていく。……振り切る。
「止めるためにも、邪魔なものは片付けなければなりません」
正純が矢を放つ姿勢は美しかった。一射が過たずに敵を射止める。
●失ったものは戻らない
(まだ、あきらめなくていいんだよね)
タイムはしっかり前を見据える。
後退したハロルドに、正純はまとめて矢を放っていた。コックピットは、無傷だ。……まだ、可能性はあるって、そう思っていていいんだよね。
「彼の気持ちを鑑みるに、そうなる前のパトリック・アネルは……少なくとも悪人ではなかったのでしょう。
しかし彼等の恩人であったパトリック大佐はもう居らず、魔種へと堕ちました」
ドラマが鞘から刀を抜いた。……失ったものは戻らない。二度と。そう知っている。
振動。
『!? っ……』
ハロルドは進路を変えざるを得ない。風じゃない。これは単なる空気抵抗だとか反動とは違う。魔力だ。魔術の主を探して地上を見回す。
『あのハーモニアか!』
「空中戦に関しては俺はあまり得手ではないからね」
ヴェルグリーズは舞い上がり、そして急降下する。縫い止めるようにエクス・カリバーが鋭く機体の羽を貫いた。
『はっ……得手ではない? どこが……っ。いいだろう、いったん相手してやろう』
ハロルド機はドラマに引き寄せられている。地上すれすれにいる今は、こちらのフィールドに持ち込んだといっていい。
(地上付近で戦えるのならわたし達の力も存分に発揮できる筈……!)
ここが、自分たちの領域だ。
タイムは一歩も引かなかった。
(取り込まれた操縦手はどうなってます!? ……間に合って欲しい気持ちばかり先行してはだめね、落ち着かないと)
『ッ――』
一撃。だが、ドラマは受け止める。
「魔種となった身が完全な形で元に戻るコトは過去に一度も確認されていません。そう云う意味では……殉職と言うのはあながち間違いではないかも知れませんが、パトリック・アネルはまだ生きていますよ」
『アネル……』
その名前に、一瞬だけ、ハロルドとラスタバンのどちらか、いや、両方が立ち止まったかに思える。ほんの一瞬のことだった。
「直接剣を交えた私が保証します」
熾烈な溜めの後、砲口がドラマを向く。
ドラマはひるまなかった。
『ハハ、ハハハハ!』
鉄帝人ならばいままで大きな武器を振るう大男などをいくつも見たことがある。
だが、それも絶対の強さではないことを知っている。
完全なるリトルブルー。ドラマの振るう剣は美しく、蒼く。ハロルドらは空を思い出していた。
このハーモニアは、あの人と剣を交えたらしい。
あながちまちがってもいないのだろう。
生きている、ということも。
あの人と戦うと思ったことはなかった。隣で戦いたいとか、役に立ちたいとは……。
ドラマを通じて、ほんのわずかにパトリック・アネルを知る。
(そうか、大佐。大佐は――こんな人だったのか)
『っちい! いったん飛ぶぞ、相棒』
「……させない!」
制御不能なブリンクスターを携えて、ウェールは跳ぶ。風の切れ味をその手に、幾重もの装甲を切り裂いていく。
「そうはさせない!」
ウェールはずっと、ハロルドに。機体の中の『親友』に、耳を傾け続けている。
(懐かしいのか――)
頭の痛くなるノイズ。恨み。負の感情――けれどもその中にはきっと聞かなければならない、教えてやらなければならない言葉があると思ったから。
(貴方の親友へ伝えたい言葉はないか?)
ウェールはなおも問いかけ続ける。
また、ぽたりと液体が落ちる。あれは、ラスタバンの命だ。
『戦える、俺はまだ戦える!』
「ダメよ、これ以上は……どうか止まって」
タイムは、敵にも祈るような気持ちで陣を展開した。
●機を、堕とす
『くそ、自動操縦じゃあ――ムリだ!』
ルクトの神鳴神威が、空中で瞬いている。そちらにわずかでも目をやれば、正純がまとめて矢を放ってくる。
ぽたり。ラスタバンの生命が落ちる。ドローンで隙を作り、ハロルド機はいったん空に逃れようとする。
「させない!」
フラーゴラが食らいつくように叫んだ。花吹雪が乱れて、ドローンが堕ちる。
『くっ……』
「ここををおさえたら、もう少しおはなしできる!
だから……邪魔、しないで!」
イレギュラーズたちにあるのは憎しみだろうか。はたまた、殺意だろうか。けれどもそこに咲いたのが素朴な朝顔──日の出の魔法であったから、一瞬だけ太陽よりもまぶしく感じられた。
モーニンググローリー。見たことがないものだ、とラスタバンは思った。
ああ、……空に来たら新しい発見をしようって、思っていたっけ。
「おねがい、負けないで!」
「ありがとう、フラーゴラさん!」
朝に咲く花からのバトンを、ヨゾラが受け取る。終わらせてあげたい。苦しみを……この連鎖を。まだ叶うなら、引き剥がしてやりたい。
『俺たちの邪魔をするな!』
――呼び声が聞こえる。
すべてを焼き尽くせと。すべてを壊せと。
けれども、それは、いらない。必要ないものだ。
ヨゾラははっきりと拒絶する。
(僕は怒ってるけど、魂を弄ぶ者由来の憤怒なんて受け付けられない)
イレギュラーズたちが抱いているのは殺意ではない。
『……どうして』
どうして、イレギュラーズたちは飛べるのだろう。何を燃料にくべて、なにをかんがえて……。
「また飛ぶのかい? もう少し、ここにいて欲しいな」
『っ……』
ヴェルグリーズの一撃が翼に突き刺さる。
「ドラマ殿!」
「油断している暇はありませんよ」
タイムに治療を任せ、敵陣に勇ましく敵陣に切り込んだドラマの一撃が貫いた。
『離せ……っ!』
一撃が、くる。
後ろからビットが、前からはレーザーがくる。
しかし、フラーゴラは引かなかった。
「ワタシは盾。この盾撃ち抜かせないよ……!」
『俺たちはあきらめない!』
機体が大きく開き、ドローンが排出される。しかし、ルクトはそれを予想していた。フラーゴラも、敵の動きに注意を払っていた。
(うん、真っ直ぐ、予想通り)
フラーゴラは跳ねる。
ならこちらはジグザグに動く。動いてみせる。ばちん、とレーザーではじかれた石碑が真っ二つになった。
震えない。今、どくわけにはいかないから。怖いとかは、あとで考えよう。
「こっちを見て……! ワタシたちの声を聞いて!」
「まだ、まだ負けない!」
フラーゴラは叫んで、ルクトを庇った。
「ありがとう、おかげでまだ戦える」
(いや、撃ち尽くしたはずだ――)
「これで終わりかって? 残念だが、ドッグファイトの始まりだ」
SAG。ソードエアリアル・グラデーションは通常であれば取り回しの非常に難しい武器である。
だが……ここには、十分な空間がある。天も地も、周りの空間すべてがルクトに味方する。
(空中で大槍を持つなど初めてだが、やってみせよう)
「来い、ファム・ファタール。実戦だ、力を借りるぞ」
ドラマを庇って、タイムが前に立った。
ヨゾラは仲間たちがまだ立っていることを信じて、ただ、コーパスを奏でる。
ウェールが放ったカードが、吹雪となってハロルドにぶつかる。
『あ……』
『フォーカード』
『うそだろ!? ……お前、なんかズルしたろ!?』
「懐かしいのか?」
思い浮かんだのは、かつてのすがた。
ハロルドにもう意思はない、でも、かつての戦友との思い出が聞こえる。……息子との思い出がよみがえり、ウェールは、不意に目頭が熱くなった。
そしてなお、強く切り札を握りしめるのだった。
「別れは辛いし寂しい、あったかもしれないこの先の幸せを思えば未練だって募るものだ」
完璧な別れなんて、そうそうあるものじゃない。ヴェルグリーズは知っている、何度も見送ってきた……。
「だからといってキミが同じように魔種の手で利用されることを友人が望むとでも?」
『望んでるさ、俺たちは親友だった!』
ぽたり。
動きが鈍る。ラスタバンではない。ハロルド機が出力を僅かに落としたのだ。
「聞こえないのかい?」
助けを求める微かな声が。
「キミの友人は助けを求めてる、それをキミが聞いてあげなくてどうするんだ」
●最後の言葉
『畜生、ぜんぶだめってことあるか!?』
爆発音によって、ラスタバンは、頼みのドローンの助けが来ないことを悟る。ゆっくりと落ちて地面に突き刺さる。
コードが緩んだ。コクピットの装甲が割れる。
「ねえ! 誰か手伝って!」
コードが緩んだ隙に、タイムは操縦席に向かって掌を差し伸べる。割れる破片もものともしないで。
「もう沢山飛んだでしょう? そろそろあなたを待つ人の元へ帰りましょう?
ハロルドさん、お願い。彼はまだ間に合うの
親友なら、どうかその手を離してあげて」
(助ける! 絶対に)
ウェールはハロルドに手を伸ばす。
まだ、まだ、希望はあると信じたかった。
きっとハロルドがいないと、生きて居られないんだ。
(俺がラスタバンで、梨尾がハロルドだったら
俺は正気に戻りたくない、戻れたとしても途中で挫折する)
「ウェールさん!」
「大切な人が助けられないのはつらいよな
楽にしてやることしかできない現実なんて認めたくないよな」
ウェールがゆっくりと歩み寄っていく。
「それでお前がこのまま反転して死ぬまで暴れたら、親友の墓参りに来てくれる人は何人いる?
墓を建てる人がいるのか?結婚前に亡くなったのなら愛が冷めるかもしれない
大佐の言いなりになってイレギュラーズの敵となったから縁を切られるかもしれない
誰も墓を作らなければ無縁塚行き、祈られてもその他大勢の一人だ
大切な親友の冥福を祈れる人は!
墓を建てて好物を供えられる人は今ここにいるお前だけなんだよ!」
ウェールは噛みつくように叫んだ。
「親友を楽にしてやる事は代わりに俺がやる
夢とかはお前が叶えてやれ!!」
最後まで共にありたいのなら。
がこん、とコックピットが外れる。
けれども、……もう戻れないと告げている。
ラスタバンは魔種だ。ハロルド機が、やぶれかぶれに立ち上がる。
「それ以上の被害を防ぐ為にも
二人が魔種に利用され続けない為にもこの手で討ち果たすよ」
ヴェルグリーズははっきりとコードを断った。
「貴方の尊敬した恩人は、貴方の大切な親友は本当にこんな騒乱を撒き散らすだけの存在ですか。
貴方と親友の愛した、飛んでいた空はこんな空でしたか。
貴方の乗るそれは、本当に親友ですか。
きちんと、感じてください。見てください」
正純の言葉で、少しだけ動きが鈍る。
ラスタバンではなく、ハロルドの動きが。
(魔種ハロルドを殺す事は、ラスタバンさんが大切な友達を喪う事でもある)
「ハロルドさん、君の願いが
ラスタバンさんを反転させずに生かす事なら叶えたい
叶えたかった……でも、もうできない」
ヨゾラははっきりと決別を告げる。
「……君をそうした奴を嗤わせる事になるから」
(ラスタバン殿とハロルド殿がどういった経緯でこうなったのか詳しくは分からないけれど、二人とも魔種の手で利用されて終わるだなんてそんな悲しいことが許されていいはずがない)
「魔種になり、戻ってきたものはいません」
ドラマが言った。
もう戻れない位置にいる。でも、ハロルドは別だ。彼を帰そうとしている。
――それが叶わないのであれば。
(もう、戻れないのであれば)
悟った正純は弓を引く。きりきりとしなる音がした。不吉な音色は、より大きな不吉を吹き飛ばすためのもの。
よろよろと舞い上がるだけの、舞い上がろうとして落っこちる機体。
弓を引き、矢を放つ。
どこまでも正確に。そして確実に。
間違うことはない。それは、引き返せない道であるから。
その羽根を削ぎ、地に落とす。
「僕は皆に言われるまで気づけなかったけど
……きっと、忘れてはいけないんだ」
ヨゾラの夜の星が空に輝く。墜ちた相手と交差するように。
『きれいだなあ……』
「ウェールさん、ウェールさん」
「うん……?」
堕ちた場所はちょうど花畑の上で、ウェールはタイムに呼ばれて起き上がった。
「だめだっ、たのか?」
「いや、もとから助からなかった」
助けてほしかった。親友を。
殺してほしかった。誰かを殺す前に。
そういうことだったのだろうかと、あとから解釈を付けるのは自由だ。はっきりしているのは、イレギュラーズの戦いによって苦しまなかったことだ。
「……せめて二人一緒に、弔うと致しましょう」
「おやすみなさい」
ドラマが作った墓標に、フラーゴラは花を手向ける。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
二人の顛末は二人にとっては最良のものだったと思います。
お疲れさまでした!
GMコメント
布川です。
そうやってフラグを建てるから!
●目標
・アルトラアームズ(天空機将)『ハロルド』の破壊
・特務派軍人、「ラスタバン」の説得、ないし討伐
※ラスタバンは、すでに「呼び声」の影響を受け、魔種になっている可能性があります。その場合は討伐するしかないでしょう。
●状況
アーカーシュ地上部上空、西側の空。
●敵
アルトラアームズ(天空機将)『ハロルド』
(操縦手「ラスタバン」)
「ハロルド! 俺たちが力を合わせて、倒せなかった敵がいるか?」
『――――』
「ああ、そうだな!」
・ハロルド機の特徴は高火力です。殺傷力の高い物理攻撃を放ってきます。
物理による範囲攻撃、ブレイク単体攻撃、必殺単体攻撃が確認されています。
シナリオ開始時は空中を主な戦場として戦いますが、ダメージを受けると地上に落下して飛べなくなります。あるいは任意で地上に降りることもあるでしょう。地上では機動や反応、EXAが落ちます。
特務派軍人『ハロルド』の魂によって作動しています。コードが絡みつき一体となっているようです。
ラスタバンはまだ完全に融合はしていませんが、時間の問題と思われます。
また、魔種である可能性・魔種に転じる可能性もあります。注意が必要です。
ドローンビット×15?(推定)
神秘攻撃を行うビットです。貫通するビームを放ちます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
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