シナリオ詳細
<Stahl Gebrull>ミッション:ステルスブレイカー。或いは、マットブラックの襲撃者…。
オープニング
●戦の始まり
エピトゥシ城の門前にセレストアームズが押し寄せる。
斧を、剣を、槍を構えた鋼の巨人だ。
無言のままに前進し、いかなる攻撃を受けようとも止まることのない鋼の濁流。仲間が何体、倒れようとも一心不乱に城門へ、城壁へ、次々と武器を叩きつける。
「城の防衛は万全っす。ましてやここはローレットの新たな拠点……数で押した程度では、そう易々と落とすことは出来ないっすよ」
激しい戦闘の音に耳を傾け、イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)はそう呟いた。
ところはエピトゥシ城の一角、作戦会議室としてイフタフに貸し与えられた小さな部屋だ。
にぃ、と口角を吊り上げ作戦資料を用意するイフタフだが、同席している軍人は難しい顔をして唸り声をあげていた。
軍人の名はパルメ。
イフタフの補助につけられた、作戦司令部所属の気弱な兵士だ。
「どーしたんっすか?」
様子のおかしいパルメに気付き、イフタフは首を傾げて問うた。
パルメは数瞬、迷うように視線を左右へ彷徨わせ……意を決したように、テーブルの上へ手を置いた。
「相手はパトリック大佐です。たしかに彼は強力な兵を大勢、配下に置きました。現在起きているこの騒動を数に任せての掃討作戦とみることもできます」
「……はぁ? そりゃまぁ、十分な数の手駒がいるなら数で圧倒するのが簡単でいいっすからね。意思があるかも分からないセレストアームズの部隊を運用するとなれば、なおのこと」
「えぇ、ですが私にはそれだけとは思えません。パトリック大佐について詳しく知るわけではありませんが……私は突撃を繰り返している表の部隊が陽動であると考えます」
金属フレームの眼鏡を押し上げ、パルメは声を殺していった。
陽動。
つまり、表で派手に騒ぎ立て、裏でひっそりと別の目的を達成しようとしていると、パルメはそう予想したのだ。
目的にもよるが、実際のところ陽動作戦は効果が高い。
イレギュラーズの仲間たちも、任務の内容によっては時折使う手である。
「表のセレストアームズは、敵の第一陣とみていいでしょう。今こうしている間にも、もっと強力な部隊が攻めてきているかもしれない。そうなったら、こちらの戦力を迎撃に出すことになるのでしょうが……それこそがパトリック大佐の狙いではないかと愚考します」
「つまり、別の目的……というか作戦を同時に展開中ということっすか? でも、何を? それらしい敵影の報告は上がって来てないっすよ?」
強力な敵戦力が発見できれば、すぐに報告が来るはずだ。
しかし、現段階でイフタフの耳にはそのような報は上がって来ていない。
だが、パルメの顔色は悪いままだ。
否、先ほどまでよりも一層、顔色が悪くなっている気さえする。
「戦争は武器弾薬のみで行うものではありません」
ゆっくりと肺の空気を吐き出して、パルメは絞り出すようにそう言った。
その言葉を耳にした瞬間……イフタフは肩を跳ねさせる。
「食糧庫! どこっすか! 案内するっす!」
●マットブラック
エピトゥシ城の裏手。
陽の当らない一角にある石造りの平屋には、食料や弾薬などの備蓄が詰め込まれている。
城内にある倉庫はここ1つではないが、その中でも特に目立つ場所にある大きな物資保管庫だ。
元は城の外へ遠征していく兵士たちや、帰還して来る兵士たちのための物資を一時的に留めおくために使われていたものらしい。
現在も、鉄帝兵士たちの使う武器弾薬や、食料の類が次々と運び込まれている。
「!? イフタフさんは止まってください! 敵影……5! マットブラックに塗装された、細身のセレストアームズです!」
眼鏡を押し上げパルメが叫ぶ。
何事か、と付近の兵士が困惑の表情を浮かべた。
パルメの言ったマットブラックのセレストアームズの姿など、どこにも見えないからである。
「パルメさん?」
「この眼鏡は魔道具です。潜伏系の能力を看破する類の! 手の空いている兵士は武器を構えろ! 私の指示に従って攻撃を開始! そこの貴様! 何を呆けている! 死にたくないならすぐに行動を開始しろ!」
この場で戦闘指揮が取れるのは自分だけだ。
そう判断したパルメは、声を張り上げ交戦の開始を告げる。
マットブラックに塗装されたセレストアームズ。
通称“ステルス”と名付けられた襲撃者との戦いは、ごく短時間で終わりを迎えた。
戦果を端的に表すのなら“敗北”ということになるだろうか。
セレストアームズたちを追い払うことには成功したが、パルメを初め数人の兵士が戦闘不能に陥った。
「敵の数は5体。先の戦闘では1体も破壊できませんでしたが……音や姿を消しているうえに動きが速い。そこらの兵士では接近に気付くことも不可能でしょう」
交戦から少しの後、重傷を負ったパルメは倉庫の壁に背を預け、イフタフへと情報を共有している。その全身には大火傷と、深い裂傷。セレストアームズの攻撃を集中して浴びせかけられたのだ。
愛用していた眼鏡も、すっかり壊れてどこかへ消えてしまっている。
「武装の威力は並み程度ですがとにかく速くて手数が多い。武装は鉄爪と火炎放射器……それから、小範囲に爆炎と衝撃派をばら撒く爆弾ですね」
【炎獄】の効果を備えた火炎放射器。
【滂沱】の効果を備えた鉄爪。
そして【停滞】【ブレイク】【体勢不利】【飛】の効果を持つ小型爆弾。
確認された兵装は以上の3つだ。
「この戦いがどれだけ続くかは分かりませんが……食料や武器弾薬が尽きては戦線が維持できません」
「えぇ、えぇ、分かってるっす。分かってるっすよ。パルメさんが手に入れてくれた情報、無駄にはしないっす」
こうしている間にも、ステルスたちは次の襲撃機会を窺っていることだろう。
しかし、イフタフではステルスの接近を感知できない。
頼りのパルメも重症だ。
火傷と裂傷で全身血塗れ。頼りの魔道具も破損しており、とてもでは無いが戦線に留め置いてはおけない状態にある。
「パルメさんは休んでいるっす。こっちは私が、どうにでもしてみせるっすから」
正確には、イフタフの呼集したイレギュラーズたちが……ではあるが。
こうして、ごくひっそりと「兵站を守るための作戦」……仮称“ステルスブレイカー作戦”が開始されたのであった。
- <Stahl Gebrull>ミッション:ステルスブレイカー。或いは、マットブラックの襲撃者…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年08月31日 21時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●食糧を守れ
「黒くて素早くて食糧を狙うアレを始末するんですのね〜!! こう言うと某黒光りするアイツみたいですわね」
長身痩躯のお嬢様……『自称・豪農お嬢様』フロラ・イーリス・ハスクヴァーナ(p3p010730)が大鎌を手に倉庫を見上げる。
エピトゥシ城裏手。
食糧倉庫の周辺には、背の高い草が生い茂っている。一部は戦闘の余波で禿げているが、依然として手入れが十分とは言い難い。
「しっかし草が生え散らかしていますわ。大草原超えて森ですわ」
よいしょ、とばかりに大鎌を背後へ振り被り、姿勢を低くして一閃。
前方の草を纏めて刈ると、満足そうに額に滲んだ汗を拭う。
「この調子で草を刈っていけば……あら? ちょっとそちらの兵士さん? 手が空いているのでしたら草刈りを手伝ってもらえますかしら? あぁ、草は向こうに纏めておいてくださいね。焼いた灰も良い肥料になりますの」
「……そちらは私が召喚した幻想の兵士ですね。本物はあちらで警備に当たっていますので」
幻影に話しかけていたお嬢様へ、『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)はおそるおそると言った様子で待ったをかけた。
「それと倉庫の近くの草刈りもほどほどにお願いします。バリケードや落とし穴を仕掛けているので」
土嚢を抱えた『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)が話に加わる。
このまま城を拠点とするなら、いずれ草刈りも必要となるはずだろう。しかし、それは今ではない。
おほほ、と誤魔化すように笑ったお嬢様は、そこで倉庫の前に座った巨大なポメラニアンに気付いた。
「……あちらは? もしかして新手の魔物では?」
「茶太郎は俺の供回りだよ……あぁ、茶太郎も何か解る様なら教えてくれ」
キリ、と表情を引き締めたポメラニアンへ手をあげて『黒き葬牙』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)はルーキスと一緒に土嚢を運ぶ。
多少でも敵の足止めになれば良し。
そうでなくとも、空いた時間をただ待っているだけというのも芸がない。
城の裏手に倉庫が2つ。
片方は本物の倉庫。もう片方は『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)の作った幻影の倉庫だ。
「私は食事も必要としませんが、皆さんはそうはいきませんでしょうし……なにより、人の生存、そして心身の健康には、食事という行為や栄養というモノが不可欠です」
倉庫の周囲を警備しながら『愛知らば』グリーフ・ロス(p3p008615)が言葉を零す。今もそこかしこで戦闘が行われているが、参加している兵士やイレギュラーズにも休息や栄養補給は必要だ。
人の体とは、口から摂取した食物により構成される。単に血肉となるだけでなく、各種栄養素も十全な活動には欠かせない。単純な話、脳を機能させるにも糖分は必要となる。
そう考えれば、兵糧攻めは城を落とすには良い手だろう。
「ひっひっひ。闇に紛れて襲い掛かる……そういう手合いなら、そこらの影からこちらの様子を窺っていても不思議ではないでしょうね。ちょっとそこの影、照らせませんか?」
『こそどろ』エマ(p3p000257)が指差したのは、塀と倉庫の中間部分だ。
盗賊としての経験からか、およそ敵の潜んでいそうな場所に辺りは付けている。
「うむ。任されよ」
慎重に影を見やるエマの横を、百合子は堂々と抜けていく。
「っ……眩しい。それ、どうやって光ってるんです?」
「うん? 知らんのか? 美少女って光るからな」
「聞いているのは“どうやって”光ってるかってことで、“なぜ”じゃないんですよね」
とは言ったものの、光があれば助かるのは事実。
暗がりへ進む百合子の周囲へ、エマはじぃと目を凝らす。
音もなく『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)が樹木の枝の上へ乗る。
視線を左右へ彷徨わせ、敵の気配を探っているのだ。
食糧庫を狙うのは、都合5体のセレストアームズ。マットブラックに塗装された隠密性に優れた機体だ。通称“ステルス”と呼ばれるそれの性能と、瑠璃の得意分野は非常に似通っている。
「ゆえに軽々に出し抜かれては、忍びの者など恥ずかしくて名乗り辛くなってしまいます」
例えば、樹木の影や枝の上など、姿を隠すのにぴったりだ。
歩けば、動けば、必ず物音がするのだが、風に揺れる木や草はそれを上手く隠してくれる。
しかし、姿や音を消すことは出来ても、質量を無くすことが出来るわけでは無いのだ。
「……そこですか」
木の根元付近で、ほんの僅かだが空気の流れが乱れている。
何かにぶつかり軌道を変えた落ち葉を目にして、瑠璃は眼鏡を押し上げた。
●ステルス・ブレイカー
ふぃやー! ふぃやー! と何かが鳴いた。
「なんだ?」
土嚢を積む作業を止めて、ルーキスが視線を巡らせる。
おそらく動物の鳴き声だが、その正体が分からない。
「皆様、この鳴き声はテンですわ! きっと敵を発見し……ってことは襲撃始まってるのですわ!!」
ただ1人、フロラだけがその正体に気が付いた。大鎌を振り上げ示した先には、たしか瑠璃が向かったはずだ。
木の枝から飛び降りながら、瑠璃が腕を一閃させる。
撒き散らされた黒い泥が、姿を消したステルスたちに降りかかる。姿を隠した敵は確かに脅威だが、居場所が分かってしまえば対処のしようもあるはずだ。
「敵は……2体! 警戒を!」
瑠璃が叫んだ瞬間に、カチと金属の音が鳴る。
瑠璃の鼻腔を擽ったのは、可燃性のガスの匂いだ。咄嗟に瑠璃は顔の前で腕を交差し、身体を丸めた。
直後、ごうと空気が唸る。
ステルスの放った火炎放射が、瑠璃の全身を包み込む。
時を同じく。
エマたちの方にも動きがあった。
「っと、っとと! わぁっ!」
慌てた様子で、エマは素早く後方へ跳んだ。その足元を何かが抉る。
地面を抉り、草を千々に引き裂いたのはきっとステルスの爪だろう。
じゃり、と敷き詰められた砂利が鳴る。
「これ2体……いや、3体!?」
短刀を構えエマは斬撃を受け止める。
その左右を、2体のステルスが駆け抜けた。姿を消したステルスの位置を、エマの目は正確に補足するが……仲間たちでは、そう上手くは敵の位置も分かるまい。
「まぁ、分からなくても……グリーフさんは3歩前進! サルヴェナーズさんは右へ3メートル!」
仲間たちへ敵の位置を伝えると、エマは自分の目の前にいるステルスへと向き直る。
数度、エマの短刀とステルスの爪が打ち合った。
速度の上ではエマが優勢。膂力と切れ味はステルスが優位か。
「っ……!?」
エマの短刀が弾かれる。
その胸部を、ステルスの爪が深く抉った。
白い影が宙を舞う。
地面に両の足を着けたグリーフが、頭の上で腕を交差した。その腕へ数本の裂傷が走る。
白い肌が裂け、赤いオイルが飛び散った。
敵の姿は見えないが、動きを止めることには成功したようだ。だが、姿が見えねば決定打を叩き込むことも難しい。
「グリーフ殿、大事はないか!」
「えぇ。簡単には倒れませんので……巻き込んでいただいても構いません」
見えなくとも、確かに爪はそこにあるのだ。
グリーフは手首を返し、素手でステルスの爪を掴んだ。その隙に百合子が駆ける。拳を振り上げ、強く地面を蹴りつけて……。
ころん、と。
グリーフの足元に、手榴弾が転がった。
爆炎がステルスごとグリーフを飲み込んだ。
全身を焼かれながらも、グリーフはステルスを離さなかった。爆発に巻き込まれたステルスは少なくないダメージを負っただろう。
そして……。
「敵はまだそこにおるな!」
「えぇ、ここに抑えています」
爆炎を突き破り、百合子が飛びだす。
炎に焼かれることなど構わず、最短距離で敵の眼前へと迫ったのだ。
「兵站潰しとは分かっておるな! 吾も昔は収穫直前の畑に火を付けたりしたわ!」
一撃。
踏み込みと同時に放った拳が、ステルスの腹部を撃ち抜いた。
一瞬、景色が揺らぎステルスの姿が顕わになる。ステルスブラックに塗装された、長身痩躯の機械の体。
「だが、吾がやるのは良くても敵がやるのは阻止せねばな! ゆくぞぅ!」
追撃。
まずは胸を、次に喉を、続いて顎を……殴打のラッシュを叩き込んだ。
そして一撃。
ステルスの顔面へ渾身の殴打を叩き込み、その機能を停止させる。
「まったく本当にめんどくさい奴らであるな! 正面からどーんと来れば楽であるのに!」
溢れる汚泥に、蛇や蠍や羽虫の群れが這う。
サルヴェナーズが足止めしているステルスが、ごうと火炎を吐き出した。
高温の炎は容赦なくサルヴェナーズの肌を焼くが、彼女を絶命させるには至らない。
「……かかりましたね」
瞳を覆う布を引き剥がし、サルヴェナーズは魔眼をステルスへと向ける。
業火の中、もつれるようにサルヴェナーズとステルスは泥の中へと転がった。相変わらずステルスの姿は見えないが、跳ねる汚泥がその居場所を教えてくれる。
「誰か手の空いている方は!」
サルヴェナーズはステルスを抑え込むのに一杯で、攻勢に移れないでいる。
しかし、彼女の声は確かに仲間の耳に届いた。
「当たれですわ〜〜!!」
お嬢様が舞い降りたのだ。
高く跳躍した姿勢から、フロラが鎌を振りあげる。
陽光を反射し、大鎌の刃が不気味に光った。
「っ……それ、狙えてますか?」
落下してくるフロラへと、サルヴェナーズは問いかける。
「当たれと願いましたわ!」
“狙え”であって“願え”では無いが……既に手遅れだ。
ままよ、とばかりにサルヴェナーズは歯を食いしばる。
一閃。
振り下ろされた大鎌が、ステルスの胴を貫いた。
森を抜けたステルスが、手榴弾を投げつける。
悲鳴をあげて兵士たちが後ろへ下がった。
直後、爆発。
爆炎と衝撃が撒き散らされて、倉庫の1つが燃え尽きた。
「残念ながら、そちらは幻影です」
爆炎を突っ切りルーキスが前へ。
ステルスは1時撤退を選択したのだろう。
しかし、足元に仕掛けられた落とし穴を踏み抜いて、ほんの一瞬動きが止まる。
「そこかっ!」
ルーキスが何かを投擲する。
投げられたそれはカラーボールだ。
弾けたボールが絵具を辺りに撒き散らす。それはべったりとステルスの体に付着して、己の居場所を明らかにした。
「任務は達成せねばならんのだろが──此方としてはそれを許す訳にはいかんのでな!」
位置が分かれば、攻撃の精度も増すだろう。
一撃。
疾走の勢いを乗せたベネディクトの槍が、ステルスの右肩を貫いた。
紫電が弾けて、ステルスの左腕が地面に落ちる。
姿勢を低くしたまま、下方から抉るようにもう1撃。
ステルスは爪で、ベネディクトの槍を弾いただろう。
しかし、残った片腕を防御に使えばステルスの胴はがら空きになる。
「っ……はぁぁっ!」
怒声と共にルーキスが駆ける。
大上段より振り下ろした刀が、ステルスの肩から胴を斬り裂いた。速度と手数に長けた調整を為されているのか、装甲の厚さは大したものでは無いようだ。
「っぐ!?」
ステルスの前蹴りが、ルーキスの体を後ろへ転がす。
転倒しながらも、ルーキスは腕を伸ばしてステルスの右腕を掴む。鋭い爪で手の平が裂けるが、これでステルスは防御の姿勢を取れないだろう。
「倉庫に被害が出てしまえば元も子もないからな」
ルーキスの血が飛び散った。
金の髪を返り血で濡らし、ベネディクトは前進。
片手に剣を、片手に槍を。
同時にそれをステルスの胸に突き刺して、動力機関を破壊した。
●補給前線
ルーキスの刀と、百合子の拳がステルスの胴を引き裂いた。
完全に機能が停止したのを確認し、エマがその場に座り込む。姿の見えないステルスを1人で引き付けていたのだろう。腕や肩には深い裂傷を負っている。
それでも下半身のダメージが少ないのは、ステルスの攻撃を回避するのに“脚”が何より重要だと考えたためだろう。
「多少集中攻撃をもらっても大丈夫……とはいえ、痛いものは痛いですね。抜かれるよりはマシですが」
額から流れる血を拭い、エマは盛大な溜め息を零す。
鋭い爪が瑠璃の腹部に突き刺さる。
血を吐きながら、瑠璃は笑った。
返り血や泥で汚れた身体では、もはや隠密性は発揮できない。
残り1体となったステルスが、イレギュラーズの防衛網を突破して食糧庫を破壊することは不可能に近い。
そして、何より……。
「逃がすつもりもありません。強化パーツとして使えるかもしれませんし」
血に濡れた腕を前へと伸ばした。
その手の平に集約した魔力が、黒く不吉な魔弾を形成する。
腹部に刺さった爪が抜け、滂沱と血潮が溢れだす。
傷口を押えることもせず、瑠璃は魔弾をステルスの頭部へと放つ。
「では、ごきげんよう」
半壊した頭部がごろりと地面に転がった。
軽い動作で鎌を肩へと担いだフロラは、口元に手を当て空を仰いで「ほほほ」と笑う。
上品なのか、豪快なのか。
「これで皆様のごはんは守られましたわ! 食べものを粗末にする奴には天罰が下るのですわ〜〜!!」
なにはともあれ、ステルス5体はこれですべて撃破されたのであった。
エマと瑠璃、そしてルーキスの3人はグリーフとサルヴェナーズが治療のために城の中へと運んでいった。
残るベネディクトと百合子、フロラは引き続き食糧庫の警備に当たる。
ステルスは全滅させたが、伏兵がいないとも限らないからだ。
「無事な兵士たちは周辺の警戒と“ステルス”の残骸回収を急げ! あぁ、それと焼きおにぎりを用意しているので、落ち着いた時にでも食べてくれ。腹が減ってはなんとやら、だろう?」
兵士の指揮は手慣れたものだ。
ベネディクトに統率された兵士たちは、迅速に警戒とステルスの回収作業を進めていく。
10分もすれば、周囲の安全も確保できることだろう。
その間の警戒と、不測の事態への対応が百合子とフロラの役割だ。
「煤けていますが、傷の手当は不要ですの?」
「そちらこそ、細かな傷が多いようだが治療は不要か?」
「知りませんの? お嬢様はこの程度の怪我、唾付けとけば治るんですのよ」
「そうか。それはすまなかった。それと、美少女はこの程度の怪我を火傷とは言わない」
顔を見合わせ、百合子とお嬢様は呵々と笑った。
美少女とお嬢様、通じ合うものがあったのだろう。
なお、握手を交わす2人の様子を、兵士たちは黙って遠目に眺めていた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
ステルスたちは無事に討伐されました。
皆さんの活躍により、食料は無事に守られました。
今回はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
ごはん、だいじ、とても。
GMコメント
●ミッション
食糧倉庫の防衛。
セレストアームズ“ステルス”5体の撃破。
●ターゲット
・セレストアームズ“ステルス”×5
長身痩躯のセレストアームズ。
マットブラックに塗装されており、自身のたてる音や自身の姿を消す能力を持つ。
動きが素早い反面、装甲は薄い。
食糧倉庫の破壊を目的としているようだ。
兵装は火炎放射器、鉄爪、小型爆弾の3つ。
火炎放射器:神中貫に中ダメージ、炎獄
鉄爪:物近単に大ダメージ、滂沱
小型爆弾:神中範に小ダメージ、停滞、ブレイク、体勢不利、飛
●フィールド
エピトゥシ城裏手。
陽の当たらない場所にある石造りの平屋、食糧倉庫。
現在は食料や武器弾薬の類が詰め込まれている。
前線からは離れており、また現在は敵勢力の進行中であるため、こちらの防衛に割ける人員は少ない。
長らく放置されていたことから、周囲には幾らかの雑草や樹木が蔓延っている。
また、倉庫の背後には城壁が聳えている。
ステルスたちがどのようなルートで、倉庫まで接近したかは不明。
※倉庫周辺には、5名ほどの友軍兵士がいて警備を行っている。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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