PandoraPartyProject

シナリオ詳細

住まうは醍葉 救うは西瓜

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●翠の懇願、伝衛門の判断
「どうか、水都(みなと)の窮状をお救い頂けませんでしょうか―—」
 豊穣は水都領朝豊(あざぶ)にある商店、外村(とむら)屋。その客間で、水都領主である朝豊 翠(みどり)(p3n000207)が外村屋の主である外村 伝衛門に縋る様に頭を下げていた。
「そうは言わはりましてもなぁ……」
 翠の懇願とも言える要請に、伝衛門は腕を組みながら難しい顔をする。
 豊穣では様々な理由から海乱鬼(かいらぎ)衆と呼ばれる海賊となる者達が出たが、水都領である醍葉島の島民達も海乱鬼衆となった。彼らの場合は、深怪魔の出現により漁がままならなくなり、生活に困窮したことによる。
 それを知った翠は今からでも醍葉島民達を救うべく、イレギュラーズ達に捕縛を依頼。イレギュラーズ達の活躍によって、醍葉島民達は一人として命を失うことなく捕縛された。
 翠は醍葉島民達に形ばかりの裁きを下してその生活を保護する一方で、被害者達に可能な限りの賠償を行おうとした。だが、根本的な問題として水都の財政にはそれだけの余力がない。
 現在、水都は隣領沙武(しゃぶ)から狙われ続けている。幸い、侵略の魔の手はイレギュラーズ達の活躍によって退け続けているとは言え、防備のための費用は水都の財政を圧迫し続けている。
 故に、翠は伝衛門に金銭面での助力を乞うたと言うわけだ。
(翠はんの気持ちも、わからへんではないんやけどな……)
 伝衛門からすれば、翠のやろうとすることは領主として好ましいとさえ思える。だが、さすがにその額の大きさが、伝衛門を躊躇させた。
(はて、どうしたもんかいな……)
 考え込む伝衛門であったが、その試案は長くは続かなかった。水都の財政がもたなくなれば、考えられる未来は二つ。一つは、軍費を捻出するべく水都の民に重税が課される未来。もう一つは、水都が沙武に占領される未来。
 どちらにしろ、伝衛門にとっては御免被りたい未来だった。前者の場合、民の生活が苦しくなれば水都の経済は回らなくなり、伝衛門の商いも同様に苦しくなっていくことだろう。後者の場合、沙武は伝衛門の催すイベントに魔種率いる軍を差し向けてきたことから、伝衛門は商いどころか命さえ危うくなる可能性が濃厚だ。
「ええでっしゃろ、助力いたしましょ。せやけど、勘違いしてもろたら困りまっせ。
 これは、水都への『投資』や。投資を受けるからには、水都を繁栄させてもろて、
 わいが儲けられるようにしてくれへんと困りまっせ」
「ありがとう! ……ございます。このご恩は、水都の興隆を以てお返しいたします」
 釘を刺すような伝衛門の言葉に、翠は跳ね上げるように頭を上げる。そしてわずかな間だけ普通の少女の顔に戻ってパアッと笑うと、すぐに領主の顔に戻って深々と伝衛門に頭を下げた。

●吸血西瓜を収穫せよ
「よく来てくれたねぇ。待っていたよ」
「醍葉島の皆様のお力になれる依頼だと聞きまして」
「誘ってくれてありがとう、ユメーミルさん」
 ギルド・ローレットで、『夢見る非モテ』ユメーミル・ヒモーテ(p3n000203)が桜咲 珠緒(p3p004426)と藤野 蛍(p3p003861)を出迎えた。
 かつて海乱鬼衆となった醍葉島民達を捕縛するにあたって、ユメーミルは情報屋として、珠緒と蛍は依頼への参加者として関わった。そして、三人とも醍葉島民達のその後を気にかけている。
 故に、ユメーミルは伝衛門からある依頼を受けた時、珠緒と蛍のペアを誘ったのだ。
「まぁ、とりあえずついてきておくれよ。皆、もう集まってるからさ。
 依頼の詳しいことは、そこで話すとするよ」
 ユメーミルはそう言うと他のメンバーが待つ部屋へと歩き出していき、珠緒と蛍もその後をついていった。

「待たせたねぇ。それじゃ、依頼の説明をするよ」
 珠緒と蛍を伴ったユメーミルが、その他のイレギュラーズ達の待つ部屋に入る。そして、ぐるりと依頼に参加する面々を見回すと、依頼について話し始めた。
 まず、醍葉島民達が困窮から海乱鬼衆となり、翠からの依頼によって捕縛されたこと。そして、醍葉島民達の生活を保護しつつ彼らによる被害を賠償するために、翠が領内の商人である伝衛門に金銭的な助力を乞い、伝衛門がそれを受けたこと。
 ただ、伝衛門にとってもその費用は正直なところ重い。それに、醍葉島民達をいつまでも保護に頼らせることは好ましくなく、彼らが自立できるならそれに越したことはなかった。
「それで、伝衛門が商品になりそうなネタを醍葉島まで探しに行ったら、面白いものを見つけたらしくてね。
 まぁ、これを見ておくれよ」
 そこまで言うと、ユメーミルは部屋にスクリーンを張り、ビデオカメラに録画した映像を映し出す。スクリーンには、森の先に広々と開けた草原のような平地を背景に、巨牛のような魔物の死体を抱えたユメーミルが映し出されていた。平地には、西瓜のような縦縞に黒い模様が走っている実が、小さいながらもところどころに見えている。
「いくよ! うおおおおおお――っ!」
 魔物の両足を両脇で抱え込んで、ユメーミルは魔物の死体をジャイアントスイングでぶん回す。数回回転して十分遠心力が付いたと判断すると、ユメーミルは魔物の死体を平地の中心へと放り投げた。すると―—。
 平地から無数の蔓が伸びていき、魔物の死体に雁字搦めに絡みついた。そして、蔓は先端をグサグサと魔物の死体に突き刺していく。
「えっ? えええっ?」
 イレギュラーズ達の中から、驚きの声が上がった。魔物の死体が、あっという間にミイラのように干からびていったのだ。
「見てのとおり、こいつは吸血タイプの食人植物のようでね。
 伝衛門は『この方がよく売れそうだから』って、『ヴァンパイア・ウォーターメロン』なんて名付けてるんだけどさ。
 こいつの実の収穫が、アンタらに頼みたい依頼だよ」
 そしてユメーミルは、話を収穫にあたっての注意事項に移していく。植物の例に漏れず火に弱いので、火気厳禁であること。殲滅が目的ではないので、必要以上に広範囲に影響する範囲攻撃を乱用しないこと。収穫する量は、確認したものの半分程度に留めておくこと。
「何で、半分なんだろ?」
「——資源保護、と言うことかしらね」
 全部収穫せずに半分残すことに首を捻ったヒィロ=エヒト(p3p002503)の問いに、そのパートナーである美咲・マクスウェル(p3p005192)が答えた。このペアは伝衛門との関わりが深く、この依頼にも伝衛門からの指名で参加していた。
 そして、美咲の推論は伝衛門の考えを言い当てていた。そこにあるからと実を全部収穫しつくしてしまっては、ヴァンパイア・ウォーターメロンは一時的な商材にしかならなくなってしまう可能性がある。実の収穫量と自生状況の関係がわからない以上、ヴァンパイア・ウォーターメロンを醍葉島の長期的な特産品とするには、とりあえず半分は残しておきたいと言うのが伝衛門の考えだった。
「あと、あそこはそれなりに広いんで、三組か四組に分かれて収穫しておくれ。手が足りなければ、アタシも手伝うからさ。
 で、収穫が終わったら伝衛門がそこからいくつか回してスイカパーティーをしてくれるって言うから、楽しみにしておきな。
 その時に一個頼まれごとを聞いてほしいって伝衛門が言ってたけど、それはその時に説明しようかねぇ」
 イレギュラーズ達は「頼まれごと」の内容が気になるようだったが、ユメーミルは難しいことじゃないからと言いつつ、イレギュラーズ達にチーム分けを促していった。

GMコメント

 こんにちは。緑城雄山です。
 今回は『一角獣の鎧の少女』の後日談となるシナリオをお送りします。
 醍葉島の奥深くに自生しているヴァンパイア・ウォーターメロンの、実の収穫をお願いします。
 収穫しようとすれば当然ヴァンパイア・ウォーターメロンは吸血しようとしてきますので、それにどうやって耐えながら収穫していくかがポイントとなるでしょう。
 収穫が終わりましたら、スイカパーティーともう一つの依頼が待っています。

●成功条件
・ヴァンパイア・ウォーターメロンの収穫

●失敗条件
 火の使用
 【識別】のない範囲攻撃の多用
 限度を超えたヴァンパイア・ウォーターメロンの収穫

 ※最初の2つについては、ヴァンパイア・ウォーターメロンの項で説明します。
  最後の1つについては、故意にそうするようなプレイングが来なければ問題ないレベルのものですが、一応記述しています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 醍葉島の奥にある、森の中に広がる開けた平地。時間は昼間。天候は晴天。
 環境による戦闘へのペナルティーはありません。

 けっこうな広範囲にわたるため、ヴァンパイア・ウォーターメロンの収穫は3組ないし4組に分かれて行って頂きます。そのため、チーム分けはしっかりと明記をお願いします(記述されていない場合は、ランダムでチーム分けをします)。

●ヴァンパイア・ウォーターメロン ✕ とにかくたくさん(各1)
 醍葉島の奥に自生する、吸血スイカです。
 個体としては別々ですが、今回のシナリオでは便宜上、群体としてそれぞれのチームが向かう場所に各1体と言う扱いとします。
 獲物が植生地に入ってくれば、無数の蔓を絡みつかせて拘束し、蔓の先端を突き刺して獲物の体液を吸います。
 ただ、その身は普通のスイカよりも瑞々しくかつ甘く、収穫が困難であることさえクリアできれば醍葉島の特産品として商売になると、伝衛門は見ています。

 植物の例に漏れず火に弱く、しかも延焼する速度が速いため、【火炎】属性のついている攻撃、あるいは【火炎】属性がついていなくともフレーバーで火が用いられている、ヴァンパイア・ウォーターメロンに着火してしまうと判断される攻撃やそう言った装備の使用はNGです。

 なお、今回の特殊ルールとして、ヴァンパイア・ウォーターメロンの各部位は別個体として扱います。具体的には、以下のとおりです。

 ・絡みついて吸血しようとしてくる蔓
 ・それ以外の蔓や葉
 ・地面の上で実っている実
 ・根元と地中の根

 絡みついてくる蔓を引きちぎるのに関しては、単体攻撃でも可能とします。まとめて蔓を掴んで引きちぎったり、一刀両断するようなイメージをして頂ければよいかと思います。
 失敗条件に「【識別】のない範囲攻撃の多用」とあるのは、【識別】のない範囲攻撃は「絡みついて吸血しようとしてくる蔓」以外も巻き込んでヴァンパイア・ウォーターメロンにダメージを与えてしまうので、それが多用されるとヴァンパイア・ウォーターメロンの生命力に危機的な影響を与えてしまうためです。

・攻撃手段
 蔓 物/至~超/単 【多重影】【変幻】【連】【追撃】【邪道】【鬼道】【ブレイク】【出血】【流血】【失血】【滂沱】【足止】【泥沼】【停滞】【退化】【封殺】

 蔓を絡みつかせて、吸血してきます。一撃の威力は大きいものではないのですが、いろいろと厄介なものがついてきています。

●外村 伝衛門
 今回の依頼人にして、ヒィロさんの関係者です。水都にグラオ・クローネの風習を伝えた商人でもあります。
 ヒィロさん、美咲さんとは伝衛門が初めてローレットに依頼をしてからの付き合いであり、今回の依頼でもヒィロさんと美咲さんは、伝衛門からの指名を受けています。
 翠の懇願に応えて醍葉島民の生活維持や彼らが海乱鬼衆となった時の被害の賠償費用の捻出を請け負いましたが、その負担が重いこともあり醍葉島で新しい商材を探していたら、ヴァンパイア・ウォーターメロンを発見しました。

●ユメーミル・ヒモーテ
 ローレットの情報屋で、ヒィロさん、美咲さん以外の皆さんに今回の依頼の話を持ってきました。
 過去の経験から醍葉島の島民達に感情移入しているところがあり、イレギュラーズ達からの要請(プレイング中での明示が必要です)があれば、ヴァンパイア・ウォーターメロンの収穫に参加します。
 イレギュラーズほどではないとは言え、怪力かつ頑健であるため、蔓を引きちぎる役も大盾を構えて蔓を寄せ集める役も、どちらもそれなりにこなせるでしょう。
 スイカパーティーについては、プレイングで言及されない限りは登場しません。

●醍葉島民達
 海乱鬼衆となった者達は労役と言う処分が下されましたが、給金は水都から普通に出ているので、結果として彼等は多少の不自由は伴うものの働き口を見つけただけと言うことになります。
 そうでない者達は、醍葉島で水都から食料等の供給を受けながら生活しています。
 なお、彼らは収穫したヴァンパイア・ウォーターメロンの運搬も担っていますが、プレイング中で特に言及がない限り、リプレイ中には基本的には登場しません。

●スイカパーティー
 ヴァンパイア・ウォーターメロンの収穫が終わったら、その労を労うために、伝衛門がその一部を皆さんに振舞ってくれます。存分に、甘くてジューシーな西瓜を味わって下さい。
 なおその際に、ヴァンパイア・ウォーターメロンのCM素材としてイレギュラーズ達のスイカパーティーの様子を撮影させてほしいと言う依頼が示されます。ですがこれについては、基本的には普通にヴァンパイア・ウォーターメロンを美味しく食べて頂ければ大丈夫です(もちろん、撮影を意識したプレイングをして頂いてもOKです)。

●描写予定
 今回のリプレイは、以下の配分で描写していく予定です。
 序盤の心情などの描写:ヴァンパイア・ウォーターメロンの収穫:スイカパーティー=1:1:1

 ただしこれはあくまで予定であって、皆さんのプレイングやリプレイ執筆時の状況によって、内容や配分が変動することは予めお断りしておきます。

●関連シナリオ(経緯を詳しく知りたい方向けです。基本的に読む必要はありません)
 『 <潮騒のヴェンタータ>一角獣の鎧の少女』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8158

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしています。

  • 住まうは醍葉 救うは西瓜 完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼
型破 命(p3p009483)
金剛不壊の華

リプレイ

●ヴァンパイア・ウォーターメロンの実を求めて
 豊穣は水都領、醍葉島奥地の森林を八人のイレギュラーズ達が進む。目的は、この先の平原に自生する吸血植物ヴァンパイア・ウォーターメロンの実の収穫だ。
「ぶはははッ、流石の混沌! 豊穣でも、愉快な生態の食材があるモンだねぇ!」
「吸血してくる蔓を持つスイカか……かなり危険かもしれない植物だが、それを名産品にするのは面白いな」
 『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)の豪快な笑い声に、『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)が応じた。
 ヴァンパイア・ウォーターメロンは、獲物が近付けば蔓を伸ばして絡め取り、その血を吸い取ってミイラの如く干からびさせる。そんな植物の実を島の名産にしようと言う試みに、シューヴェルトは関心を抱き、依頼への参加に名乗りを上げた。
 もっとも、シューヴェルトが名乗りを上げたのは単純にヴァンパイア・ウォーターメロンへの関心だけではない。天義の騎士を祖に持つ故か、シューヴェルトは幻想の貴族としては善性が著しく強いこともあり、ヴァンパイア・ウォーターメロンを醍葉島の名産にせざるを得なくなった事情を知って捨て置けなかったと言う部分もあった。
(――明日食うものにも困ると、人は獣になっちまうんだ。よくわかるぜ)
 そもそもの発端は、深怪魔の出現により漁がままならくなり生活に窮した醍葉島の島民達が、海乱鬼衆と言う海賊となったことだ。そして、かつて飢えにより野垂れ死にしかけたことがある『金剛不壊の華』型破 命(p3p009483)は、生きるために海賊とならざるを得なかった醍葉島民達に共感さえ覚えている。なればこそ。
(己れが出来ることであれば、いくらでも手伝ってやりてえ)
 そう命は思い、シューヴェルトと同様にこの依頼に参加していた。
(他に被害が出る海賊稼業とは言え、やむを得ず行われていたものを、珠緒らが力づくで止めさせてしまいましたからね……)
 『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は、水都領主からの依頼により、海乱鬼衆となった醍葉島民達の捕縛に参加した一人だ。
 だが、その際に醍葉島民達を精神的に責めるような手法を採った事に、珠緒は謝罪さえしたいほどの心苦しさを感じている。それだけに、今回の依頼で醍葉島民達の生活に寄与することで、多少なりとも詫びとしたいところであった。
 珠緒のパートナーであり、共に醍葉島民達を捕縛した『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)には、珠緒のそんな心苦しさがよく理解出来てしまう。しかし、蛍としては大切なパートナーにずっとそんな心情でいて欲しくはない。ましてや、これからが依頼の本番だ。なので。
「これはまた、随分奇っ怪な特産品を見付けてきたものね!?
 今回はボク達が収穫するとして、今後イレギュラーズの都合が付かない場合はどうするつもりなのかしら?」
 そんな話題を振って、珠緒の思考の方向を変えにかかった。珠緒はその気遣いに心の中で感謝しつつ、蛍に応える。
「伝衛門さんは、必ず誰かが依頼に応じてくれると自信を持っているようでしたけれど……」
 ――だが結果として、蛍のこの懸念は杞憂に終わることになる。

「伝衛門さんからのご指名だから、絶対美味しいものが食べられるよ! って喜び勇んで来てみたら……思ってたとーり!
 ここでしか取れない特産品スイカだなんて、これはもうご馳走になるしかないよね!!」
 ヴァンパイア・ウォーターメロンを食べるのが楽しみで仕方ないといった様子ではしゃいでいるのは、『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)だ。ヒィロは今回の依頼人である外村 伝衛門が初めてローレットに依頼を出してからの付き合いであり、今では伝衛門が依頼を出すにあたっては必ず指定されるほどになっていた。
 ついでに言うならば、珠緒が言うように誰かが必ず依頼に応じると伝衛門が自信を持っていたのは、ヒィロとパートナーの『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)の存在があったからだ。
 なお、ヴァンパイア・ウォーターメロンが危険な吸血植物であることについては、「食欲の前には、命の危険だってむしろ良いスパイスになるんだよー!」の一言でヒィロは片付けてしまっている。
 それを聞いた時、何ともヒィロらしいと美咲はクスリと笑ってしまったものだった。
 それにしても、と美咲は疑問を抱く。
「水都の状況、そんな酷いの?」
「酷いと言うことはないが、楽ではないのも確かだろうな」
 これまで水都領主からの依頼の全てに参加してきた、『竜驤劍鬼』幻夢桜・獅門(p3p009000)が美咲に答える。水都は隣領沙武からの侵略に対して、幾度もの防衛戦と救援戦を行ってきた。最近は沙武四天王と呼ばれる将を何人も失ったことから直接侵攻されることはなくなっていたが、それでも備えを疎かには出来ず、少なからぬ兵力を西に駐留させている。
 それらの戦費が水都の財政を圧迫しているのは、獅門にも容易に想像がつくところであった。
「魔種や肉腫の討伐ってことで、もっと上からの依頼にできないものかしら」
 そう美咲は嘆息したが、実際には困難な話である。水都や沙武は豊穣の中でも辺境であり、高天京の影響力が及ばない。故に、高天京から依頼を出すというわけにもいかず、沙武に対しては水都領主がローレットに依頼を出して対応せざるを得なかった。
「それはともかく、民を大切にされる領主さんと、お得意先の伝衛門さん。
 依頼主に不足はないし、美味しいものなら頂くのも合わせて、よりWin-Winってね」
「おう! 吸血するってのはおっかねぇけど、売り物になるくらい美味いのは興味あるな。
 西瓜パーティーが楽しみだぜ」
 思考を切り替えて美咲が気合いを入れると、獅門はうんうんと頷きつつヴァンパイア・ウォーターメロンの収穫終了後に胸を躍らせた。

●いざ収穫
 ヴァンパイア・ウォーターメロンの自生地の周辺に着いたイレギュラーズ達は、四つのペアに分かれて東西南北からヴァンパイア・ウォーターメロンの実の収穫を開始した。
 東から収穫を行うのは、ゴリョウとシューヴェルトのペア。
「さぁ、行くぜぇ!」
 全身を金色の駆動鎧『牡丹・御神酒』で固めたゴリョウが、ヴァンパイア・ウォーターメロンの中に突っ込み、蠢きだした蔓にジッと金色の瞳を向ける。その視線を感じたかどうかは不明だが、無数の蔓がゴリョウを獲物と見て絡みついてきた。
 常人であれば動く事さえも不可能となりただ吸血されていくだけだろうが、守りに長けた歴戦のイレギュラーズであるゴリョウからすれば、動きを止められる程ではないし、吸血も命の危険を感じるほどではない。
 そしてゴリョウが後退すれば、ゴリョウに絡みついた蔓も引っ張られてピンと張っていく。
「今だぜ! やってくれ!」
「ああ! 任せてくれ!」
 ゴリョウの合図を受けて、シューヴェルトがピンと張った蔓だけを先祖伝来の剣舞で以て次々と斬り裂いていく。
 何度かこれを繰り返して吸血能力を持った蔓だけを一掃しながら、ゴリョウとシューヴェルトは次々とヴァンパイア・ウォーターメロンを収穫していった。
 なお、この手法は後に、醍葉島民達が安全にヴァンパイア・ウォーターメロンの実を収穫する方法の例として伝衛門に共有された。囮の人形や、動物あるいは魔物の死体に縄を付けてヴァンパイア・ウォーターメロンの近くに落とし、吸血能力を持つ蔓が絡みついたところで縄を引っ張れば、絡みついた蔓がピンと張るのでそこを切れば良い、と言うわけだ。
 後にこの手法が研究され、翌年以降は醍葉島民達が自力でヴァンパイア・ウォーターメロンの実を安全に収穫できるようになったと言う。

 西から収穫を行うのは、珠緒と蛍のペア。
「ボクが蔓を引き付けるから、珠緒さんは収穫をお願いするね」
「ええ、お気を付けて下さいませ」
 そんな会話を交わしてから、チートコードによる強化と勝利のルーン『ティール』の加護を受けた蛍が、ヴァンパイア・ウォーターメロンの中へと突入していく。
(珠緒さんに触手……もとい、蔓が巻き付く絵なんて、絶対許さない!)
 その強固な意志を以て、蛍は自身の周囲に満開の桜の結界を幾重にも展開する。無数の蔓が、結界を展開している蛍を目掛けて絡みつきにかかった。
 蛍はそれらの蔓のほとんどを避けきったが、完全にとは行かず数本の蔓に絡みつかれる。だが。
(血を扱う者として、大切な方の血を万一にでも奪わせはしません――瞬時に、断ち切ります)
 背中に光の翼を生やした珠緒が、その翼をバサリ、と羽ばたかせる。すると、幾つもの羽根が周囲に舞い散り、蛍に絡みついた蔓をたちまちのうちに断ち切っていった。
 こうしてお互いにお互いへの愛の重さを発揮しながら、珠緒と蛍もヴァンパイア・ウォーターメロンの実を収穫していった。

 南から収穫を行うのは、ヒィロと美咲のペア。
 チートコードで自身を強化し、英霊の鎧を纏ったヒィロがヴァンパイア・ウォーターメロンの中へと突き進んでいく。
「ボクが相手だよ! 血を吸いたいなら、かかって来たら?」
 ヒィロは、己の中に迸る闘志を周囲一帯に叩き付けるように放った。すると、その闘志に触発されてか無数の蔓がヒィロに絡みつこうと襲い掛かる。だが、蔓のほとんどはヒィロを捉えることが出来ず、ヒィロが避けきれなかった蔓も英霊の鎧に弾かれた。
「さすが、ヒィロね。それじゃ、ぱぱっと斬り払いましょ」
 英霊の鎧の護りもあるとは言え、一切蔓に絡みつかせなかったヒィロの技量に感嘆しつつ、美咲はヒィロの周囲で包丁を縦横無尽に振るう。ヒィロに伸びたヴァンパイア・ウォーターメロンの蔓は、綺麗さっぱりと斬り払われた。
 盾役のヒィロが敵を誘引して隙を作り、美咲が隙だらけの敵を殲滅する。幾度となく繰り返されてきた二人の普段通りの連携の前には、ヴァンパイア・ウォーターメロンの蔓は敵たり得なかった。ヒィロと美咲もまた、こうして次々とヴァンパイア・ウォーターメロンの実を収穫。

 北から収穫を行うのは、獅門と命のペア。
「あの吸血西瓜、己れも仕入れてみてーなぁ」
「お? 如何した?」
 遠くからヴァンパイア・ウォーターメロンを眺めつつ呟いた命に、獅門が問う。
「うちの旦那が、面白がってくれるかもしれねえ」
「西瓜パーティーなんてやるぐらいだ。一つ二つくらいは、土産に持たせてもらえるだろ」
「そうか。なら、そのためにも収穫の手伝いを頑張らねえと。よろしく頼むな、獅門」
「俺の方こそよろしくお願いするぜ、命の旦那!」
 そんな会話を交わしつつ、二人はヴァンパイア・ウォーターメロンの近くまで至った。
「さぁ、幻夢桜・獅門が推参だ! どんどん、かかって来いよ!」
 獅門が名乗りを上げながら、ヴァンパイア・ウォーターメロンの中へと突入していく。すると獅門の口上を聞いたのか、あるいはただ獲物が来たことを察知したのか、無数の蔓が獅門を絡め取っていく。
「すまん、獅門。もう少し踏ん張っててくれ」
「なぁに、何てことねえよ」
 獅門に絡みついてきた蔓を次々と引き千切りながら、命はヴァンパイア・ウォーターメロンの実の収穫を進めていく。獅門自身も、どうと言うことはない様子で命に応えながら、破竜刀を振るって自身を狙ってきた蔓を次々と斬っていった。

●スイカパーティー!
「いやぁ、おおきにおおきに。ほな、存分に食べとくんなはれ」
 収穫されたヴァンパイア・ウォーターメロンの実は、伝衛門の元に集められた。伝衛門はその中からいくつかを選り分けて、イレギュラーズに振る舞っていく。スイカパーティーの始まりだ。
 ちなみに、伝衛門はただヴァンパイア・ウォーターメロンをイレギュラーズ達に振る舞っているわけではない。イレギュラーズ達が美味しそうにヴァンパイア・ウォーターメロンを食べる様子を撮影し、ヴァンパイア・ウォーターメロンの宣伝材料とするつもりなのだ。
(スイカの美味しい食べ方とか華のある画ってやつは、ゴリョウの旦那や女性陣にお任せするぜ!)
 伝衛門の思惑など関係ないと言った風に、獅門は良く冷えたヴァンパイア・ウォーターメロンを次から次へと豪快に食べていく。ヴァンパイア・ウォーターメロンを冷やしているのは、命が喚んだ雹だ。
 その命も、伝衛門に掛け合って土産の分を確保したこともあって、ホクホク顔で獅門と共にヴァンパイア・ウォーターメロンにむしゃぶりついていく。
 シャクッと言う歯触りと共にヴァンパイア・ウォーターメロンの実を噛んでいけば、口の中に蕩けるような甘さの果汁が広がっていく。なるほど、伝衛門が特産品にしようとするのも納得の美味さだ。
 ちなみに、獅門も命も宣伝材料となることは特に意識していないが、この食べっぷりはそれ自体がヴァンパイア・ウォーターメロンの美味さを証明しているようなものであり、意図せずいい宣伝材料となっている。

「この美味さなら、味付けは塩分補給を兼ねた塩だけでいいだろうな」
「ああ。この質なら、柑橘汁入れて青臭さ抑えたり砂糖入れたりなんて小細工は要らねえ」
 シューヴェルトはヴァンパイア・ウォーターメロンを使ったジュースを、そしてゴリョウはコンフィチュールやジャムを作っている。共に、ヴァンパイア・ウォーターメロン自体と共にこれらの加工品も醍葉島の名物となればと思ってのものだ。
 わずかに塩の入ったジュースはヴァンパイア・ウォーターメロンの甘さを引き立てつつ渇きを癒やしてくれるし、コンフィチュールは形の残っている果実が完全に煮詰めきったジャムと違って食感にアクセントをもたらしてくれる。そして何よりジャムはその味もさることながら、格段に保存期間を延ばし、遠方への運搬も容易としていた。
「なるほど……これは、面白いでんな」
「おう。このジャムをかき氷や葛餅にかけたりすれば、高天京でも人気の逸品になるんじゃねぇか?」
「それはいい案でんな! 有難く、頂戴しまっせ!」
 元々伝衛門は、ヴァンパイア・ウォーターメロンをシレンツィオ・リゾートに向けて売り出すことしか考えていなかった。だが、ゴリョウの提案に高天京でも売り出すことが視野に入ると、素早く脳内で算盤を弾き輸送コストと利益を算出する。そして、商売になると判断するとゴリョウの案を採ることにした。この辺りは伝衛門、商人として機を見るに敏である。

「ええと、気にせずこちらをいただけばよいのですね? はい。で、食べ方はどの様に……」
「それはもう古式ゆかしく、切り分けたスイカを素直に頂くのよ……美味しいわね!」
 珠緒は宣伝材料がどうこうと言うのが気になったものの、普通にヴァンパイア・ウォーターメロンを食べていれば大丈夫とのことなので、それは気にせずヴァンパイア・ウォーターメロンを味わうことにした。
 だが、どう食べればいいのかわからず困惑した様子を見せる。そんな珠緒の横に、食べやすくカットしたヴァンパイア・ウォーターメロンを持ってきた蛍が歩み寄って、一切れ味見とばかりに自身の口に入れる。
「ね、珠緒さん。あーんして!」
「はい、あーん……」
 ヴァンパイア・ウォーターメロンの美味さに感動した蛍は、この感動を二人で分かち合わないともったいないとばかりに、別の一切れを手に取ると珠緒に口を開ける様に求める。珠緒が口を開くと、蛍は手にした一切れをその中に入れた。
「ん……瑞々しい甘さが、口の中いっぱいに広がりますね」
 ヴァンパイア・ウォーターメロン自体の甘さもさることながら、大切なパートナーである蛍と共に味わっていると言う事実が、ヴァンパイア・ウォーターメロンの甘さを一段と増しているように珠緒には思えた。
「これは、珠緒だけでは勿体ないというもの。ささ、蛍さんもあーん、ですよ」
 今度は逆に、珠緒が蛍にヴァンパイア・ウォーターメロンを食べさせる。それを繰り返しながら、珠緒と蛍はヴァンパイア・ウォーターメロンの様に甘い時間を過ごしていた。

「このスイカパーティーも、お仕事の一環なんだっけ?」
「そうね。宣伝協力でも、しっかり決めるわよ」
 ヒィロの疑問に美咲は答えつつ、術を用いてヴァンパイア・ウォーターメロンの実を凍らせる。そして、凍った実と氷を合わせて、滑らかになるまで攪拌。
 そうして出来た紅いシャーベットドリンクをグラスに移し、皮付きの実とハートストローで飾る。すると……。
「どうだ!」
 グラスの中にあるのは甘く冷たいだが、その姿から連想するのはひと夏の熱い恋。そんな一杯の出来上がりだ。
「いかが? お先にいただくね!」
「えっ? スイカのシャーベットドリンクを、このハートストローで美咲さんと恋人飲み!?」
 美咲がハートストローの片方に口を付けてシャーベットドリンクを飲み始めれば、ヒィロもドギマギしながらハートストローのもう片方に口を付けてシャーベットドリンクを飲み始める。
(はにゃ~~、甘くて美味しくて、美咲さんが目の前で微笑んでて幸せ~……)
 味覚と視覚からもたらされる幸福感に、ヒィロは撮影映えなど忘れたかのような蕩けた笑顔を見える。その笑顔に、美咲はヴァンパイア・ウォーターメロンが大人気となることを確信していた。

成否

成功

MVP

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク

状態異常

なし

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍により収穫されたヴァンパイア・ウォーターメロンは、きっと醍葉島の新たな特産品となり、醍葉島民達の生活を助けることになるでしょう。

 MVPは、ゴリョウさんにお送りします。醍葉島民達が自力でヴァンパイア・ウォーターメロンを収穫できるようにする手法のアイデアと、ヴァンパイア・ウォーターメロンを売り出すための様々なアイデアの二つが決め手でした。
 ヴァンパイア・ウォーターメロンのコンフィチュールやジャムをかけたかき氷や葛餅は、私も食べてみたいです(^^)

PAGETOPPAGEBOTTOM