シナリオ詳細
<深海メーディウム>甘い氷山と夏の思い出
オープニング
●
「かき氷を食べに行かない?」
思惑通りに竜宮幣(ドラグチップ)を集めることに成功したイレギュラーズたちは竜宮城への道を開くための戦いを挑み始めたのだが、その一方で、飛び散った竜宮幣はまだまだ残っている。
そんな最中で情報屋の男がただかき氷を食べに行かないかと誘うとは思い難い――が、この劉・雨泽(p3n000218)と言う男に限ってはそれも有り得てしまうため判断が着きづらかった。
「『フリーパレット』のことは、もう聞いているよね?」
ちゃんと、お仕事の話でした。
知らない人もいると思うから一応説明するねと告げて、雨泽はフリーパレットのことを説明する。
フリーパレット――彼らは思念の集合体であり、死んだ個人あるいは団体の想いや未練である。集まって海に漂っているだけの彼等だったが、竜宮幣が散らばったことにより、竜宮幣を依代として実体化したのだ。
思念だけの存在なため故人の記憶や人格を有してはいないが、『なにをしたい』『なにがほしい』『どこへいきたい』といった願いだけを持っている。そんな彼等の未練を満たしてあげることで彼等は成仏出来、その場には竜宮幣が残る、というのだ。
「幽霊が依頼人って、少し変わったケースだよね。
それでね、僕が会った子のお願いが『ゴージャスでデリシャスなかき氷を食べたい』だったんだよね」
「ゴージャスでデリシャスなかき氷?」
思わず反芻したあなたに、雨泽はうんと頷いて。
「そう言ってたよ。美味しいかき氷を食べてみたいのだって」
案内するフリーパレットはビーチであなたたちを待っている。
話をした感じでは幼い子どものようだったから、子どもが喜ぶだろうゴージャスでデリシャスが良いだろうねと雨泽が機嫌良さげに笑った。
「お願いを叶えてあげれば、あの子は行くべき所へ往ける。そして僕たちには竜宮幣が手に入る。美味しいかき氷も食べれる。これって双方にとっても良いこと、でしょ? あ、そうそう。お化けが苦手な子もいるかもしれないけど、安心して。フリーパレットはおどろおどろしくもない、カラフルで可愛い子だよ」
だから、どうかな? 時間が空いてるなら、付き合ってくれると嬉しいな。
良かったら君の友人にも声を掛けてみてと、雨泽が笠の垂れ布を揺らした。
●かき氷をキミに
白い砂浜にざざんと波が鳴き、海へと還っていく。
三番街(セレニティームーン)にある豊穣が出資しているシロタイガー・ビーチにある所謂海の家的なカフェ――『わだつみ亭』では、海にほど近い場所で豊穣とシレンツィオの料理がを楽しめる。
白く大きなファンの回る涼しい日陰の店内で、もしくはパラソルの下のテラス席で冷たい甘味を口にし、眼前には白い砂浜と海という絶好のロケーション。連日観光客で溢れているその店は、今日はローレットの貸し切りである。
海を望めるパラソルの下、白いチェアにちょこんと座ったフリーパレットは、雨泽に案内されてきたあなたを見るとちょこんと頭を下げた。
「ゴージャスでデリシャスなかき氷をおねがいします」
ね、言った通りでしょ?
雨泽はあなたへと顔を向けてから店内へと振り返り、沢山のテーブルを合わせて作った大きなテーブルへと人差し指を向けた。
「彼処で作れるよ」
大きなテーブルにででんと存在感いっぱいに鎮座するかき氷機は、練達から雨泽が借りてきた『ふわふわアイスモンスターEXくん』。豊穣の手動でゴリゴリと氷を削った削り氷しか知らなかった雨泽が「口溶けの滑らかさが全然違う」と絶賛したものだ。
かき氷機の傍らには器やスプーン。そして赤、黄、緑、桃、透明、水色……と言った沢山の色のシロップや、練乳や黒蜜、蜂蜜、小豆、蜜柑、と言ったトッピングが用意されている。器は店内で食べるのならばガラス製の物だが、テイクアウトも出来るように使い捨て容器も用意されている。テイクアウトをした場合は、海辺を散歩しながら楽しむことも可能だ。
「此処にない材料を使いたい場合は、持ち込んでもらって大丈夫だよ」
フリーパレットを成仏させたら、恋人や友人と、もしくはひとりで。自由にかき氷パーティを楽しんでくれていい。
氷の純白を染めて。
果物で彩って。
さあ、夏を楽しもう。
- <深海メーディウム>甘い氷山と夏の思い出完了
- GM名壱花
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年08月18日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
(サポートPC3人)参加者一覧(10人)
リプレイ
●カラフルかき氷
決まっているルールはふたつ。
一人前であることと、フリーパレットの望むデリシャスでゴージャスであること。後者はフリーパレットの味覚次第だけれど、かき氷は氷とシロップで出来ているから早々変な物を持ち込まなければ大丈夫――なはず、なのだが。
「今捌くから、待っていてくれよ!」
元気よく『わだつみ亭』から飛び出していった『海の不発弾』深海・永遠(p3p010289)の手には、新鮮なマンゴーと……何故だか新鮮なサーモンがあった。
―― 何 故 ?
きっと全員の心がひとつになった瞬間だろう。
けれども永遠は全員の視線に気付かずに、魚は鮮度が命! とサーモンを捌いていくらを取り出した。魚を捌き慣れているのだろうか、手際が良い。
ガラスの器に氷を山盛りにし、その上に真っ赤なイチゴシロップを掛け、練乳をトロリ。ずっと海中に居た永遠は最近練乳を知り、甘さに驚いたものだ。だから練乳はたっぷり掛ける。
「イクラは口の中でぷちぷち弾けると意外と甘いぞ~」
まさかそれをかき氷に乗せるとは言わないよね……?
心の声がひとつになるのを感じながら、自分たちもかき氷をとイレギュラーズたちは動き出した。
「フリーパレットさん、待っていると暇じゃない?」
僕と一緒に作ってみない?
足をプラプラさせてスプーンを握っていたフリーパレットは『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)に声を掛けられると首を傾げ、それからぴょんっと白いチェアから飛び降りた。
「ぼくでもできますか?」
「うん、できるよ。ほらおいで」
ヨゾラがフリーパレットと作るのは、賑やかなかき氷。
「まずはチョコやウェハースを乗っけちゃおう!」
白い氷に挿すお菓子をフリーパレットに手渡して、挿してもらう。その間にヨゾラは使うシロップを手繰り寄せる。赤に黄色に水色。イチゴとレモン、ブルーハワイだ。
「ここからシロップを垂らせば……ほーらシロップの滑り台!」
「わあー」
ぱちぱちぱち! フリーパレットが楽しげに手を叩く。
「フリーパレットさんと海辺を散歩してきても大丈夫?」
「皆のかき氷が完成するまでなら大丈夫だよ」
早めにねと雨泽に釘を刺され、はーいとヨゾラはフリーパレットと外に出ていった。海辺を散歩しながらの氷も楽しんでもらいたかったから。
フリーパレットとヨゾラが出ていっている間も、イレギュラーズはそれぞれのかき氷を作成する。提供する順番は早い人からだ。完成した順に、溶ける前に楽しんでもらわなくてはいけない。――というのも、カラフルにシロップを使うことを選択する者が多い点からそうならざるを得ないのだ。掛けたばかりのシロップは綺麗だが、混ざった後の色も考えて掛けねば……後に待つのはなんとも言えぬ色。
「私はかき氷のことを少し勉強してからにしますね」
「俺は準備に時間が掛かるから最後の方になるかも」
ゴージャスなかき氷に悩む『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は店内にあった『名店のかき氷特集!』なる文字が見出しになっている雑誌を手にして店の隅で読み始め、『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)はこんな事もあろうかと持ってきたマジパン等を荷物から取り出している。
「ひらたいトレイはありますか?」
「うーん」
用意されている器は、ガラス製のものとテイクアウト用の使い捨てのものだ。
「かってきますの……!」
ぴゅーんっと飛び出していった『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は戻ってきたらトレイを冷やさねばならないから、彼女も暫く掛かりそうだ。
「果物を沢山用意したから、良かったら使ってね」
「俺のマンゴーの余りも使っていい」
「ありがとう、永遠さん」
オレンジ、レモン、パイナップル、キウイ、メロン、スイカ、ラズベリー。『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の前には沢山の果物たち。爽やかで、それでいて飽きが来ないように。食べやすい様に切り、器に盛れる量以外は他の皆に気前よく分けた。
「ありがたく使わせて頂きますわ♪」
ありがたくイズマからオレンジを頂戴した『悦楽種』メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)は綺麗にオレンジの下処理をする。オレンジの白い筋は重曹を溶かした熱湯で一分茹でればスルリと剥けるのだ。
硝子の器に氷を盛って、オレンジシロップと練乳。そして缶詰の蜜柑を氷に埋め込み、器の端には羽根を広げるようにオレンジを綺麗に並べたらオレンジの間には青い小さなゼリーと紅い宝石のようなチェリーを交互に添えて彩りを増した。
そうして最後にミントを一枚添えたら――。
「完成でございます!」
「ただいまー」
メルトアイのかき氷の完成とフリーパレットの帰還は同時だった。
「あら。丁度良いタイミングですわね♪」
うふふと笑ったメルトアイは早速、召し上がれとフリーパレットの前に完成したかき氷を持っていく。オレンジ色に染まるかき氷は、夕日が沈む夕刻の海。天辺から掛けた練乳の白が小波のようであった。
「わあ、きれい。それにおいしいです」
「お口にあって何よりですわ」
美味しそうにかき氷を頬張るフリーパレットを見守って、メルトアイはふと尋ねてみることにした。
「フリーパレットさんは何故かき氷を?」
「わかりません。ぼくたち、なぜだかかき氷がたべたかったのです」
フリーパレットは個ではなく、集合体だ。気付いたら海辺に居て「ゴージャスでデリシャスなかき氷がたべたいなー」っと思っていたのだそうだ。
「ぐるぐるぐるぐるかき氷ーおいしくなあれよかき氷ー♪」
「あれ、おうたがきこえます」
楽しく歌いながらかき氷を作るのは、『黄金の旋律』フーガ・リリオ(p3p010595)。彼は母から「いつも作る時は愛情を込めて作るもんだ」と教わったから、楽しく歌いながら愛情を篭めてかき氷を作っているのだ。
その歌も「完成!」の言葉で止まり、フーガがいそいそと器をフリーパレットの前へと持ってくる。
「わあ、お月さま?」
ブルーハワイとブルーベリーを混ぜたシロップの掛かったかき氷には、半月に見立てたオレンジ。生クリームと練乳が雲を表していて、わかりやすいその見た目にフリーパレットがきれいだねとうれしそうな声をあげる。
「ちょっと待ってな」
最後の仕上げはフリーパレットの前で。フーガは手早く星型のポルボロンをちょんちょんちょんと飾っていけば、本当の完成になる。ポルボロンは水分を吸ってほろりと崩れてしまうから、食べる寸前でないと難しいのだ。
「お星さまふえました」
サクサクの星は美味しくて、そればかりをスプーンで食べてしまったから『星空のかき氷』からはあっという間に星が消えてしまった。
「その星はポルボロンって言うんだ」
「ぽるぼろ」
「口に含んだまま3回願い事を唱えれば願いが叶うんだ」
「ぼくたちのおねがい、今かないました」
「なら『生まれ変わったらやりたいこと』はどうだ」
個ではないから、願いを思いつくのも難しい。うーんと悩むフリーパレットの代りにポルボロンを一粒口にしたフーガは「来世でも美味いかき氷が食べれますようにと」願ってやった。
「かき氷、おいしいです」
「ああ、おいしいだろ。おいらも此処に来てから知ったんだ」
「どんなのですか? お星さま?」
「宝石の山みたいな氷山でさ……」
ルビーのようにきらめく苺山と水晶のように透き通った氷山。
何度思い出しても、あの時感じた感動は忘れられない。
「よし、フリーパレット! 次はイクラマンゴー蜂蜜練乳かき氷だ!」
「いくらまんごーはちみつれんにゅう」
次にフリーパレットの眼前に置かれたのは、永遠特製かき氷。苺シロップと練乳を掛け、マンゴーを飾り、イクラをまぶし、蜂蜜を掛けたものである。
キラキラぷるぷるのイクラと氷をすくい、まずは一口。
「どうだ? デリシャスだろ!」
「……よくないです」
「全部美味しいのに!?」
確かにひとつひとつの素材はそうだろうが、一緒に食べればそうではないことをきっと海中育ちの永遠は知らないのだ。
「よし、出来たよ。どうかな、フリーパレット」
輪切りや花形に切られた果物を美しく飾ったかき氷が二人分、イズマの手で運ばれてきた。俺も一緒に食べるねとフリーパレットの隣に座って、綺麗な虹色だろう? と笑うイズマは色が混ざらないようにシロップを掛けるのに苦心したのだと言う。段々と溶けた色水が底で混ざってしまうのはご愛嬌。
「紅茶もどうぞ」
順番に味の違う氷を一口ずつ食べていっているフリーパレットは既にいくつもかき氷を食べているから、かれが次に食べる果物を選んでいる間に温かな紅茶も用意して。
「動くかき氷って知ってるか?」
「うごく……?」
「正確には小さな氷山に手足が生えたモンスターだ。倒すと何故かかき氷になる」
ドカンと手で爆破するような動きをすれば、フリーパレットは目を丸くする。
「たべれるのですか?」
「ああ。しかも何故か美味しい」
へええとかき氷を食べるのを忘れて口を開けてしまっているフリーパレットに、イズマは溶けちゃう溶けちゃうと促した。溶けてしまうと、果物は黒い海に浮かぶことになってしまうのだ。
(皆さん、続々とかき氷を完成させておりますわね……!)
順番にフリーパレットの元へイレギュラーズたちがかき氷を手に向かい、既に半数は終えている。時間が空いたら雑談をしているのだろう。楽しげな会話が聞こえてきて、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は密かに焦った。何故なら彼女は、初めて食べた思い出のかき氷を再現したいのに、まだそれが完成していないのだから。
ふわふわな氷に海洋らしい南国の果物。それから小豆と苔のような不思議な色のシロップまでは思い出せたのに、何かあとひと味が足りない気がするのだ。
皆が掛けている練乳を掛けてみた。けれどまだ何か足りない。
(あとひと味ですのに……!)
けれど悩めば悩むほど氷は溶けてしまう。
(も、もうこれで――!)
適当に調味料を手に取ったヴァレーリヤは溶かす前にとフリーパレットの元へと向かった。
「これもかけていいのですか? ソース?」
「あっ、それは……」
「わあ! おいしい!」
「えっ、美味しい? 頑張った甲斐がございますわ」
「このくろいのはなんですか? チョコではないですね」
適当に掴んだから解らないヴァレーリヤの代りに、雨泽が黒蜜だねと告げていた。結局『あの味』の再現には至らなかったけれど、ヴァレーリヤも後から練乳黒蜜宇治金時を食べてみようと決めたのだった。
「わたしも完成ですの……!」
四角形の平たいトレイを持ったノリアも大急ぎでフリーパレットの元へと向かった。
「名付けて『アイスパレット』ですの」
キンキンに冷やしたとは言え、トレイに伸ばして乗せたかき氷では薄いから、普通のかき氷よりも早く溶けてしまう。その上フリーパレットがいるのは外のテラス席。氷はきっと、あっという間に溶けてしまう。
氷を敷き詰めただけのトレイは真っ白だ。どうすればいいのと首を傾げるフリーパレットの前で既に溶け始めている。
「シロップでおえかきができますの」
夢中になると溶けて色が混ざってしまうのでお早めに……!
「うーん、おえかき」
「たとえば、あおいシロップの海に、パインの太陽やオレンジの船とか」
「うみをかきます」
かき氷のことで頭がいっぱいなフリーパレットはすぐに描きたい絵が思い浮かばなくて。だから今目の前に広がる風景を白い氷に描いた。
「あっ、お父さんこっちこっち!」
実は助っ人を呼んでいた『おはようの祝福』Meer=See=Februar(p3p007819)は浜辺に見えた人物にテラスから大きく手を振った。
Meerの実家は『隠れ宿・polarstern』という店を営んでおり、父はクリームソーダ作りが得意なのだ。冷たくて甘いものと言えばクリームソーダが思い浮かんだMeerはクリームソーダのようなかき氷を作ろうと思って父にレシピを教えてと頼んだのだった。
お父さんは手を出さないでと口にするところが何だか授業参観のようで、仲間たちの視線が微笑ましくて少し恥ずかしい。
Meerが選んだのは、フリーパレットの前でのショー形式。
ショーみたいに楽しく歌って、作る過程も楽しんでもらうものだ。
♪冷たく深い海の底は 光もささない暗闇の色
♪上へ上へと目指せば オーロラ映して光の色
♪氷山の上に降り注げ きらめく星夜は七つ色
♪さあさあ召し上がれ この北極星と歌は道標
緑、黄緑、水色、青、紫――。
お店の色に近づけたいから、順番は大事。間違えないように歌に合わせてふわふわの氷にシロップを掛け、途中で氷も追加して綺麗なグラデーションを硝子の器に描かせる。
「バニラアイスとソフトクリーム、フリーパレットくんはどっちが好みかなぁ?」
「やわらかいのがすきです」
「了解、ソフトクリームだね」
最後にお星さまのような金平糖を散らせば、polarsternクリームソーダ風かき氷の完成だ。
「『楽しい思い出をお土産に旅立てますように』っておまじないも込めたからね!」
「ありがとうです! わあ、いろんな味がしますね!」
ひとくち食べる度にフリーパレットがメロン? とかリンゴ?とか首を傾げて食べていくのがどこか可愛らしい。目の前で美味しそうに食べてくれる姿が嬉しくて眺めていたら、うんうんと何だかいい顔をしている父の姿が視界に入って――お父さんってば、もう!
「フリーパレットさん、私のも召し上がって下さい」
半年前まで村娘だったマリエッタなりのゴージャスを考えて作った力作のかき氷は、エメラルド色。本に乗っていたメロン味のかき氷の色に、一目惚れをしてしまったのだ。
飾るフルーツは少なめに、練乳は自由に掛けられるように容器を用意した。
「実は私も、かき氷を食べるのは初めてなんですよ」
「そうなのですか?」
このリゾート地はあまりにも『都会』な雰囲気で、マリエッタには縁のない場所だったはずだったのだ。けれど世界は不思議なもので、そんな場所に今、マリエッタは身を置いている。
「実はあなたの色に似せようと思ったのですが……カラフルにするには初心者では難しいですね」
「みどり、すきです。おねえさんの目と同じ色」
気付いてくれたとマリエッタは嬉しげに微笑んで。
「私や皆さんとの思い出の味として味わってほしいなぁ……なんて思いながら作ったのですよ」
そう言って、マリエッタも一口味わってみる。
冷たい氷と甘いメロンシロップの味。
シンプルなのも美味しそうだねと笑う仲間たちの声。
おいしいおいしいと食べてくれるフリーパレット。
全て纏めて、今日という夏の日の思い出だ。
「フリーパレットさん、お待たせ! すごいのを作ってきたよ」
最後は史之作のかき氷なのだが――彼はサンデーグラスを持ち込んでいた。
グラスの下部には青いゼリーに赤と黒。
「これはなんですか?」
「金魚だよ」
ゼリーの中を泳ぐ金魚たちとの境目にチョコを敷いて照明を仕込み、その上からがかき氷だ。赤と青のシロップを左右から回しがけ、持ち込んだマジパンのひょっとこお面とうちわのアイシングクッキー、それから――。
「これで仕上げ」
小さな手持ち花火を刺して日をつければ、夏祭り満喫かき氷パフェの完成だ。
「俺が初めてかき氷を食べたのは夏祭りだったからね」
「なつまつり」
こんなに豪華じゃなくて、とにかく甘くて、口当たりはジャリジャリのかき氷。
夏の暑さと、暗闇に咲いた大輪の華。
それが史之の忘れられない思い出の1ページ。
「――あ」
照明の熱でチョコが溶け、ゼリーに落ちた。小さく笑った史之はまあ食べてとフリーパレットを促した。
「おいしかったですー」
かき氷を十人前。贅沢にたくさん食べたフリーパレットはとても満足そうな声を出す。
「美味しかったか? それは良かった」
「ほうじ茶はいる? 温まるよ」
「わあ、ありがとうです」
たくさんのゴージャスでデリシャスなかき氷を食べ、(少し分かりづらいが)フリーパレットの表情もニコニコとしているようだ。史之から熱いから気をつけてと言われたほうじ茶へふーふーと息を吹き込んでいる間に、かれの姿は湯気の向こうへと溶けるように消えていく。
「行ってしまいましたわね」
最初からそこに何も無かったかのように、ふわりとフリーパレットは消えてしまった。残ったのはイレギュラーズたちが用意した分だけの空の器と、皆の心に残った思い出だけ。
「主よ、貴方の元へ旅立つ魂にどうか慈悲を。貴方の御許でも、美味しいかき氷が食べられますように」
ヴァレーリヤは旅立った魂たちの事を思い、胸の前で手を組んだ。
「おう。待たせたな」
「ゴリョウさん!」
フリーパレットが消えた後、後から声を掛けられた面々もわだつみ亭へとやってくる。連絡を受けてから嫁さんに美味いものを食わせてやらねばとシロップ作りを始めたゴリョウもその一人だ。
大きな腕で抱えた箱には、イチゴ、レモン、メロン、マンゴー、ベリーと言ったゴリョウ特製シロップが入っているらしく、皆が使えるようにと大きなテーブルにドンと置いた。
ぴょんと跳ねたノリアは彼に近寄って、一緒に描きましょうと新たな真白の『キャンバス』へと彼を誘う。
勿論絵の具は、大好きな彼の特製シロップだ。
好きに使ってくれとのゴリョウの一声で、それじゃあ遠慮なくと他のイレギュラーズたちも思い思いにシロップを手に取り、それぞれのかき氷タイムを楽しんでいく。
「イズマも食べるか?」
「うん? ありがとう……って」
オリジナルかき氷を勧め合うのも楽しみのひとつ。
ありがとうと言いかけたイズマの視線は、永遠の手元で止まる。
「ん、これか? サーモンかき氷だ」
永遠の前にあるのは、ふわふわかき氷にサーモンを乗せたものである。刺身の鮮度のために氷が敷いてある状態と違うのだろうかと考えるイズマの隣で永遠は美味しそうに生魚かき氷を食べ、イズマは彼にも紅茶を淹れてあげた。
「良かったら、貴方のを少し分けて頂けませんこと?」
「ああ、ポルボロン? 勿論だよ」
「皆様のかき氷、美味しそうですわよね! 私のオレンジ味もおすすめですわ!」
「お父さん、これとっても美味しいよっ」
フリーパレットへのかき氷で美味しそうと気になったかき氷を交換し合う姿に、お父さん監修かき氷を父と一緒に頬張る姿。それぞれのかき氷の前での楽しげな様子を眺めながら、ハリエットも大きなテーブルでガラスの器に真白の氷を盛った。
(何にしようかな)
沢山のシロップから選ぶのはとても悩ましい。練乳や添え物でまた味が変わるから、かき氷は奥が深いのだ。
「良かったら君も一緒にどう?」
丁度祝音とかき氷を作り終えた雨泽がハリエットを誘う。
一人よりも皆で食べたほうがきっと楽しいから。
「食べるのがもったいない……」
祝音と雨泽のかき氷はお揃い。猫の顔型に盛った氷にとろりと桃のシロップを掛け、祝音が持参した猫クッキー。
悩んだ末にハリエットが選んだのは、最近何かと気になる優しい――抹茶色。その色を見てふと綻ぶ口元は、きっと想う誰かを頭に描いた証だろう。
「いただきまー……あ、きーんってする!」
猫クッキーの可愛さに負けないぞ! とスプーンに山盛りにしたのがいけなかったのかもしれない。襲う頭痛に三毛猫パーカーをギュッと握る。
「ん、私も……! かき氷の罠ですね」
「かき氷に頭痛は付き物だけれど、ゆっくり食べようね」
三人は笑いあい、しゃくりと氷を崩していった。
「でーきた! 行こう、ライゼ!」
「ああ」
ヨゾラは明るく友人のライゼンデに笑いかけ、ふたりはレモン味のかき氷を手にわだつみ亭を後にする。
「ライゼってば、火を入れなくていいのかーなんて言うからびっくりしたよ」
ざざんと鳴る波の音を楽しみながら海辺を歩きながらひんやりとしたかき氷を楽しみながら口にするのは、つい先程のこと。彼は料理には何でも念入りに火を通そうとするから、ヨゾラは毎回止めなくてはいけない。
思い出してふふっと漏れる笑みに、冷たい氷を口に運んだライゼンデが視線を向ける。
「これからも一緒に遊ぼうね、ライゼ!」
夏の海と、真っ青の太陽。海鳥の鳴く声と綿飴みたいな白い雲を背景に、レモンのような爽やかな笑顔が弾けた。
これからも、その先も。
来年も、再来年も。
沢山の思い出を作っていこう――。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
フリーパレットはたくさんのゴージャスでデリシャスなかき氷を食べて満足しました。
フリーパレットのために考えてくださってありがとうございます。
皆さんにとっても素敵な夏の思い出になりますように!
GMコメント
練乳の掛かってるかき氷が好きです、壱花です。
●シナリオについて
フリーパレットの願いを叶え、竜宮幣を得ましょう。
今回の個体のお願いは『ゴージャスでデリシャスなかき氷を食べたい』です。フリーパレットのために、美味しいかき氷を作ってあげて下さい。
フリーパレットは最大10名分のかき氷を食べることになるので、特大サイズ等は食べれません。通常の一人前サイズでお願いします。因みにこのフリーパレットの魂は子供なので、梅酒掛け等のかき氷は美味しいと感じません。
また、フリーパレットにとっては初めてのかき氷になります。あなたの『初かき氷体験談』等を一緒に食べながら聞かせてあげるとより満足することでしょう。
フリーパレットの願いを叶えたら、存分にかき氷を楽しめます。
●フリーパレット
カラフルな見た目ですが、死んだ人たちの未練であったり、思念の集合体です。
竜宮幣に砂鉄のように結びつくことで実体化しているため、願いを叶えて未練を晴らしてあげることで成仏し、竜宮幣をドロップします。
・好きなもの
甘いもの、果物、お菓子、珍しいもの、美味しいもの
●ゴージャスでデリシャスなかき氷
一般的な氷やシロップ、練乳、小豆等は用意されています。かき氷機は練達からふわふわ氷が作れる最新のかき氷機『ふわふわアイスモンスターEXくん』を借りてきているので、雪のように真っ白でふわふわなかき氷が作れます。
シレンツィオ内で採れそうなフルーツを採りに行ったり、シレンツィオ内には無い食材を持ち込んだりしても大丈夫です。
あなただけのかき氷を作ってみて下さい。
●EXプレイング
開放してあります。
文字数が欲しい、関係者さんとかき氷を楽しみたい、等ありましたらどうぞ。
可能な範囲でお応えいたします。
●特殊ドロップ『竜宮幣』
当シナリオでは通常参加者全員(サポートは含まれません)にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります
●サポート参加について
イベントシナリオ感覚でどうぞ。
フリーパレットが消えた後、同じ空間でオリジナルかき氷を作ってかき氷タイムを楽しめます。
恋人や友人が通常参加者にいる場合は、お互いに【お相手ID】or【グループ名】を記載ください。一方通行の場合は描写されません。
サポート参加同士でも同上です。
シナリオ趣旨・公序良俗等に違反する内容は描写されません。
※サポート参加者には竜宮幣のドロップはありません
●NPC
呼ばれれば、弊NPC『浮草』劉・雨泽(p3n000218)がご一緒します。
誰かとかき氷を食べたいけど……等、お気軽にお声がけください。
桃のコンポートが乗った、桃シロップ掛けのかき氷を作っています。
それでは、素敵なプレイングをお待ちしております。
Tweet