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シナリオ詳細

空からの贈り物

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 よく晴れた日のことだ。雲はまばらで透き通った青が大部分を占めている。じり、と日差しが肌を焼く。
 こんな天気の日には空飛ぶ亜竜も見えるもので――それはつまり、亜竜から自分達もよく見下ろせるということで――岩場の影や、安全な集落から出ないに限るのだ。
 日の下へ向かえるのは亜竜討伐に向かわねばならないような戦士ばかり。だから、遊びたい子供達は集落の中を自由に駆け回る。
「つかまえた!」
「鬼が変わったぞ!」
「にげろにげろー!」
 イレギュラーズから教えてもらった『隠れ鬼』で遊ぶ少年少女たち。捕まって鬼になってしまった少女は目元を覆って数を数える。
「はーち、きゅう――じゅう!」
 ぱっと目を開けたなら、見慣れた集落の景色。さあ行くぞ、と少女は隠れた友人達を探し始める。
 集落へ流れ込む空気は生ぬるく、さりとてないよりかはマシだ。少女は思わず気持ちよさに目を細め、風の吹く方を見て。それからポカンと目を瞬かせ、その足を止めた。
 蒼い空が見えた。それから浮遊島――最近、イレギュラーズ達が調査を進めてくれているという――の姿と、風に乗る真っ赤な花。
 花を咄嗟にキャッチした少女は、見たことのない花だとまじまじ見下ろして、それから再び外を見た。
 風向きの問題だろうか。ハラハラと同じ種と思しき花弁が風に乗って飛んでくる。
 それらはあの浮遊島から飛んできているように見えて、少女は友人たちに急かされるまでずっと浮遊島を見上げていたのだった。



 霊嶺リーベルタース――竜種アウラスカルトが旧居としていた浮遊島である。周囲にもいくつかの浮遊島が存在しており、まだ調査の手が入っていない場所が多いのが実情だ。
 フリアノンからは少しばかり遠いが、リトルワイバーンを借りて行けば然程の時間もかからない。時折空を飛ぶ他の亜竜と会敵することもあるが、基本的には平穏に浮遊島リーベルタース付近の丘に存在する、ワイバーンの係留施設へ至るのだ。
 未知を既知にしたならば、新たな拠点となる場所も見つかるかもしれない。ドラゴニアたちとて永遠に地下へこもっている訳にはいかないだろう。安全地帯しかり、食物しかり、今を享受してばかりではいられないのだから。
 そんな『亜竜種の生存域の拡大』の足掛かりとしてイレギュラーズたちは探索を行うことになっている――のだが。

「どうしてもダメ?」
「ワガママを言わないの!」

 少女が母親に叱られている。けれど少女にめげた様子はなく、むむむと口をへの字にしてイレギュラーズを見つめていた。
 曰く、自分もあの浮遊島まで連れて行ってほしいのだと。
 少女は戦う術を持たず、イレギュラーズにも非戦闘員を守りながら探索を行う余裕がないので――あったとしても、有事があったら困る――お分かりだろうが、少女が同行できる余地は一切ないのである。
 散々母親に嗜められた少女はようやく浮遊島へ向かうことを諦めたらしく、しかしとっても不服そうな顔でイレギュラーズたちに駆け寄ってくる。彼女がはい、と広げた両手の中を見て、イレギュラーズは目を瞬かせた。
「これは?」
「お花! あの浮遊島から飛んできたんだよ!」
 紅よりもう少し色の濃い花弁と、一輪の花。茎の部分はなく、花の部分だけで地上まで運ばれてきたらしい。少女は浮遊島のある部分を指差しながら、あそこに花畑があるのではないかと興奮し気味にイレギュラーズへ語る。
「多分あの辺りから……お願い、わたしの代わりに見てきて! それくらいならいいでしょ?」
 フリアノンの周囲は岩場の広がる山岳地帯だ。花畑というものは決して多くない。故に見たがったのだろうが――花畑が本当に存在するならば、そこは植物が育つ環境ということだ。食糧になりうる植物や、あるいは亜竜たちに狙われない畑作りが望めるかもしれない。
 浮遊島の探索ついでに探すくらいなら良いだろうと、イレギュラーズは少女に頷いて見せた。

 だが、それが容易でないとイレギュラーズたちはすぐ知ることとなる。
 浮遊島へ降り立ってすぐ、見えたのは――自分たちよりも、天へ向かって伸びる木よりも大きな亜竜の姿であった。

GMコメント

●成功条件
 亜竜『マラクル』の討伐
 サブ:ショコラトル・コスモスの花を見つける

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 浮遊島は未知が多く、情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。

●フィールド
 霊嶺リーベルタースの周囲に存在する浮遊島のひとつ。島自体はそこまで大きくなさそうです。風光明媚な場所ですが、いつから住み着いているのか、大きな亜竜の姿が認められます。
 少女が手にしたというショコラトル・コスモスの花は上空からパッと見ただけでは発見できませんでしたが、木々に隠れてしまっていた等の可能性もあります。
 非戦スキルを用いて探索すれば何か見つかるかもしれませんし、他の敵性生物が出てくるかもしれません。
 ただし、亜竜『マラクル』の討伐を完了しなければ、探索を勧めることは容易でないでしょう。

 ワイバーンを持っていないイレギュラーズには集落より貸与されるため、浮遊島までの移動には支障ありません。浮遊島に見つかっている洞窟へワイバーンを係留させることができます。

●亜竜『マラクル』
 2足歩行する巨大亜竜。翼は退化しており、背中に小さくその名残がある程度。恐らく飛ぶことは出来ないでしょう。現状、島の端へ来る姿は確認されていません。また、他に同様の個体は見当たりません。巨体のため、2人でのマークorブロックでなければ足を止められなさそうです。
 目的を持って移動しているわけではなさそうで、お腹が空いたらそのあたりにある木や石などを食べています。もしかしたらそこに生物が混ざっているのかも知れませんが、少なくとも肉ではないものも食べられることに違いありません。
 その巨体は分厚い表皮に覆われており、一撃は重く範囲を薙ぎ払ってきます。【乱れ系列】【麻痺系列】のBSが想定されます。石を抉れるほどの爪や、木をもげるほどの腕力にも注意が必要です。
 その他、広範囲への【封殺XX】判定を起こす鳴き声を発することがあります。
 また、手となる前足が存在するため、道具足りうるものを使ってくる場合があります。薙ぎ払った時に折れた木とか。

●ご挨拶
 愁と申します。
 まずは安全確保をしつつ、少女が手にした花の咲く場所も見つかると良いですね。
 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 空からの贈り物完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月20日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
ディアナ・クラッセン(p3p007179)
お父様には内緒
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
月季(p3p010632)
黒き流星

リプレイ


 イレギュラーズの出発直前にある少女から齎された願い事。それへ真っ先に是を返したのは、少女と同じドラゴニアである『月下の華月』月季(p3p010632)だった。
「まーワタシたちに任せとけって! よーわからんけどいけるっしょ!」
「ほんとう!?」
 ぱっと目を輝かせる少女。その手にしたショコラトル・コスモスからふわりと甘い香りが広がって、月李は少女の前で目線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「ところでそれショコラなの? 食べちゃダメ?」
「ダメー!!」
「ふふ、じゃあ食べないから少しだけ貸して貰ってもいいかな?  私は魔女だから、お花の気持ちもちょっとわかるんだよ」
 くすくすと笑う『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)に少女は「魔女さん!」と目を輝かせて。しかし絶対に食べちゃダメだよ、と念押しは忘れずに、ショコラトル・コスモスの花をアレクシアへ渡す。
「ありがとう。お花のことなら任せてね」
「やっぱり行っちゃダメ?」
「こら! 我儘を言うんじゃありません!」
 優しいお姉さんに本音を漏らせば、すぐさま怖いお母さんの雷が降ってくる。肩を落とした少女の傍らに『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は膝をついて、少女の顔を見上げた。
「今は連れて行けないが、いずれは行けるようになるかもしれない。その時のために、きっとその花を見つけてくるよ」
「……うん!」
 かくして、イレギュラーズは空へと飛びあがる。月李は自前の翼で飛んで行っても良いのだが、動き出しから付かれる訳にはいかないとワイバーンを借りていった。
「やっぱ空が最高じゃんね!」
 ひゅう、と応えるように耳元で風が鳴る。後に続く『カモミーユの剣』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)は乗り慣れない、わずかな緊張と共に「頼むよ」とタイニーワイバーンの背を撫でた。
 少女は連れてこられないが、あんな様子で頼まれたら断る訳もなく、また気合を入れない訳にもいかないだろう。良い報告を持って帰らなければ。
(……それに、あんなに綺麗な花弁が咲いてる花畑ならきっと、良い眺めだろうから。良いお土産話になりそうだ)
 誰に? それは、彼の脳裏に浮かんだあの人に。
「あれが今回向かう浮遊島……」
 『千紫万考』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は視界に入った特定の島に小さく呟く。アーカーシュも浮遊島であったが、デザストルにもあるとは思いもよらなかった。
 それに――浮遊島に咲く赤い花。ジョシュアがかつて探していたそれと同じではないだろうけれど、気になって仕方がないのも事実だ。
「楽しみです。まさか向かう事が出来るなんて思いませんでした」
「お花も絶対に見つけ出してあげないとね!」
 『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)に『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はうんうんと頷いて。さあ、浮遊島はもうすぐだ。
 洞窟へと降り立ち、ワイバーンたちを係留させたイレギュラーズ一行は洞窟の陰から外の様子を窺う。島に近づいてすぐ、亜竜の巨体が見えたためだ。
「あんなのがいたら、連れてきてあげられないよ!」
「ええ……どっちみち、倒さないと花を探すこともできないわ」
 ファミリアーとなる小動物を探した『お父様には内緒』ディアナ・クラッセン(p3p007179)だが、あの亜竜がいるためか周囲にそれらしき影はない。捜索は後回しになりそうだ。

「――最低限ですが、準備できました」
 マリエッタは自身の魔力効率を最大限まで引き上げ、アレクシアたちへ癒しの力を付与する。亜竜マラクルの様子を窺っていたイズマが3つ数えたら出よう、と皆へ告げた。
 さん、に、――いち。
 洞窟から一斉にイレギュラーズたちが躍り出て、マラクルへ向かって駆けていく。もう少し内陸の方にいるのですぐさま攻撃とはならないが。
「じゃ、一発ボコらせてもらうよ!」
 月李がさらに速度を上げ、機動の慣性を刃としてマラクルの表皮を傷付けにいく。しかし、思ったよりも表皮が固い。
「マジで? やばいじゃん!」
 目を丸くしながらすぐさま後退する月李に追いつき、ジョシュアが片手銃を構えた。
「止まってもらいますよ……!」
 勘の良い遠距離攻撃が、振り返ったマラクルの足関節を狙うように発砲される。アレクシアはジョシュアの横を駆け抜け、マラクルの前で魔力塊を炸裂させた。
「おいで! 私が相手だよ!」
「――っ、気をつけて! 右手に岩を持っています!」
 追いかけるように駆けていたシャルティエは、握っている何かを看破するなり大声で仲間たちへ知らせた。あんなものを勢いよく投げつけられたら、例えイレギュラーズであっても危険な事に変わりない。
 叩きつけられる一閃に、ディアナの放った力が敵を追い詰めんと取り巻く。そこへ勢いよく投擲されたのは焔が父より授けられた神の炎、それが形成する槍だ。
「いっけぇーーっ!!」
 風を切り飛んでいくそれはまるで火の鳥のようだ。神の炎が焼けないものなどなく、表皮の奥深くまで亜竜の肉を焦がす。自身へ強力な魔法を付与したイズマはマラクルを見上げた。
「オァァァアアア―――」
 焼かれたことに対する痛みか、それとも"食べ物"がやって来た歓喜か。マラクルが叫び、びりびりと鼓膜を刺激する。飛来した岩をアレクシアが良ければ、ドォンと大きな音を立てて近くの地面にクレーターを作った。
(あれがまともに当たったら……)
 目も当てられない、モザイク必須な光景間違いなしである。しかしそれに冷や汗をかいている暇もなく、マラクルの尻尾がぶんと大きく振られた。
「わぁっ!?」
 尻尾の動きに伴い、突風が吹き荒れる。周囲にあった木々の葉が無惨に散らされていった。これはいけないとアレクシアは木々や岩の少ない場所へ誘導を始める。
「アレクシアちゃん、こっちは任せて!」
 この亜竜を倒す為であればやむなしと、マラクルの近くで武器にされそうなものを焔が破壊して進んでいく。できるだけ自然を傷付けたくはないが、マラクルに有利な状況は極力作りたくない。
 そうしてなるべくただの平野である場所を探しながらも、シャルティエたちはマラクルへ攻撃を仕掛ける。先ほどの尻尾による攻撃もそうだが、この巨体となると攻撃範囲の規模も相当だ。亜竜の動きには気をつけて、予兆を感じたらすぐさま動かなければ間に合わない。
 マラクルの移動に伴って自身らも動きながら、ジョシュアは遠方より弾幕を張る。相変わらず強固な表皮だが、数打てば当たるとはよく言ったもので。ぐらりと体をよろめかせたマラクルへすかさずディアナのファントムチェイサーが刺さる。斬神空波で突っ込んでいった月李が敵の攻撃を警戒し、素早く後退した。
「……生き物にとっては当たり前の事をしているだけなのよね、この亜竜も」
 自身の放った悪意で苦しむマラクルに呟くディアナ。逃げるのであれば追うつもりは無いが、あの様子だと死ぬまで向かってきそうだ。
(それなら、命を奪うしかないわ)
 こちらも逃げ帰る訳にはいかない。あの少女の為にも、ゆくゆくのドラゴニアたちの為にも。
 アレクシアの魔力が練り上げられ、神滅の魔剣を創造する。構えたアレクシアと共に自らの血を媒介として竜狩りの大槍を携えたマリエッタも鋭く肉薄した。
「流石にしぶといな……! これが全力でできる最後の一撃だ!」
 星月夜を秘めた魔導銃が的確に敵を狙う。全力で高火力を出していたから、あっという間に魔力が尽きてしまうけれども、その前に倒れてしまうよりずっとマシだ。
 イズマから立て続けに放たれる凶弾は、確実にマラクルの体力を削いでいた。加えて、その魔弾が敵を怯ませ動きを止める。
「今だ!」
 掛け声とともに繰り出されるイレギュラーズの猛攻。アレクシアが薄紅色の魔力に包まれ、傷を癒している間にジョシュアがアレクシアを狙わんとする亜竜の腕へ向かってデッドエンドワンを撃ち抜く。
「交代するよ!」
 颯爽と滑り込んだ焔が自分へと対象の戦意を向けさせる。あともう少しだ、誰ひとりとして倒れてなるものか!
「アレクシアさんこちらへ!」
 マリエッタの声にアレクシアが頷き、後退する彼女と入れ替わるようにディアナが前へと出た。
「あともう少し、かしら……!」
 ひらりと舞う鉄扇。艶やかに振られるそれは存外重く、マラクルの体を打ち付ける。月李も全力で仕留めにかかるべく、肉薄してソニックエッジを叩きつけた。
「行けるか?」
「はい!」
 戻った魔力を振り絞ったイズマが魔弾を放つ。シャルティエは力強く跳躍し、魔弾のめり込んだ箇所めがけて重く、鋭く――トリガーを引きながら機械剣を振り抜いた。
 勢いよく血が噴き出し、巨体を濡らしていく。たたらを踏んだマラクルは、しかしそのまま踏ん張れずにどうと横へ倒れ込んだ。



 マラクルの巨体が地面を大きく揺らし、ぴくりとも動かなくなって暫し。
「それじゃあお花探しだね!」
「おっけおっけ。ま、頑張ればなんとかなるっしょ!」
 焔の言葉に親指をぴっと立てて任せろというように月李が頷く。実際手掛かりなんてそんなにないけれど、空から見るだけでわからなくとも目を凝らしたり、ショコラトル・コスモスの匂いを探したりとやりようはあるはずだ。
「……食べていたりしませんよね、マラクルが」
 ふと何とも言えない表情でマリエッタはマラクルの遺骸を見る。あれも亜竜の一種であるし、その表皮などは頑丈なのでいずれ集落の戦士たちが皮を剥いだり、食べられる肉は切り分けていくだろう。しかし自分たちで腹を裂くのは避けたいし、例え裂いたとしても出てくるのはきっと――いや、やめておこう。この可憐な花が逞しく根付いていることを祈るばかりである。
「どこに咲いてるんですかーっと。あ、ちょっと聞かせてもらえる?」
 月李は近くでマラクルの被害を免れた木にこういう花を探している、と伝えてみる。アレクシアもまた、花畑の存在や紅い花を見たことはないかと近くを飛び始めた虫たちに聞いてみた。
「動物、動物……」
 焔はもう少し進んで、マラクルから逃げて居そうな動物を探してみる。この島にマラクル以外の動物がいないとは思えないが……さて。
「いた! あっごめんね大きな声出しちゃった! 逃げないでー!」
 ガサリと草むらから出てきた兎っぽい生き物が、焔の声にびっくりしたようすで慌てて踵を返す。焔は追いかけなだめすかし、漸く本来の質問まで辿り着いたのだった。
 本来住まう生き物へ問いかける者がいる一方で、自らの足で探しに出る者も少なくない。ジョシュアは良く見える視界のなかで、ショコラトル・コスモスと似ている種が咲きやすい場所を重点的に調べていく。マリエッタもショコラトル・コスモスそのものの記述は記憶から掘り返せなかったが、近いと思しき種類の生態や群生地はばっちりだ。
(上空から見て見つからなかったなら、木々の深い所にあるのかな……?)
 ひとまず地道に足を動かし辺りを捜索していたシャルティエだが、ふと空を見上げてみる。調査段階ではそこまで時間をかけて空から見ていないようだから、マラクルの倒れた今ならもう少しじっくり見ることもできるだろう。とはいえ、他の亜竜に見つかる可能性もあるから慎重に動かなくては。
 もしかしたら花畑自体でなくとも、地上から見つけにくい道など手掛かりは得られるかもしれない。シャルティエは自身のタイニーワイバーンを係留させている洞窟へと踵をかえした。
(ちゃんと咲いている場所を見つけられたらいいのだけれど)
 ディアナはファミリアーで近くにいた小動物を使役し、その視界からショコラトル・コスモスを探す。何かに遮られているのであれば、大きな木や岩の影、花に近い色の何かを探していこう。
「あなたはあちらの方向をお願いできる?」
「ああ、わかった」
 イズマはディアナが放ったファミリアーの方角を見て、別々の方向へ2体のファミリアーを放つ。手がかりにするのは色と香りだ。
「そうだ、島の外周も見て貰えるかな?」
「外周? ……ああ、風で飛んでくるからということね? わかったわ」
 ディアナはひとつ頷いて、ファミリアーの進んだ方向をじっと見据える。もう暫し待てば、島の外周――風の舞う場所へ出るだろうから。

「――太陽のある方角の端っこ?」
 アレクシアは風の精霊に話を聞いて、目を瞬かせた。花をひとつ運んでしまう程の風だから何か情報があるはずだと思ったものの、その方角には大きく岩がそびえたつばかりで花の咲くような場所はなかったはずである。
 しかしその岩の外周にいくつかの横穴があるのだと、ワイバーンを駆ってきたシャルティエから聞かされた一同は向かってみることにした。もしその横穴になくとも、周辺を探してみれば良い。
 係留させていた洞窟からワイバーンたちに乗り、一同は島の外を回り込む。ジョシュアは風に乗る匂いを感じようと大きく鼻で息を吸った。
(……今でも僕は、貴女に花を見せたかったと思ってしまうのです)
 珍しい花がこの地にはあるらしい。夢幻のような噂ではあるが、それは艶やかな紅い花を咲かせるという。その話を聞いたのも、花を咲かせたくて奮闘したのも懐かしくて、けれどあの想いは薄れない。
 太陽が育てた土。精霊が愛した水。空から降って来た種子。そろえばすぐに芽が出て花が咲くと言うあの噂の花は、このショコラトル・コスモスなのだろうか。
 そうであるか否かは定かでないけれど、今回は待っている少女がいる。また探し出せなかったなんて情けないことはできないと、ジョシュアは気を引き締めた。
「あそこです」
 シャルティエが岩場の外に出来た横穴を指す。ジョシュアは風に乗る甘い香りを皆に伝え、アレクシアは預かって来た花の思いに顔を綻ばせた。
「わぁ! 綺麗なお花畑だよ!」
「本当ですね……ここなら、マラクルの被害にも遭っていないでしょう」
 はしゃぐ焔の傍らでマリエッタが興味深く辺りを見まわす。イズマは早速この花畑や風景を録画するようだった。きっと集落へ戻れば喜ばれるだろう。
 横穴はさしたる奥行きもなく、太陽が西日になる時間帯は全体を照らし出してくれるほど。そう大人数で来られる場所ではないようだが、ちょっとした隠れ家といった雰囲気であった。その中心で身を寄せ合っているのは紛れもなく、預かって来たショコラトル・コスモスと同じ類だろう。
「頑張れば足で来ることもできなくは……なさそうですけれど」
 ひょいと横穴から顔を出したシャルティエは、今にも崩れそうな細い崖の道に難しい表情を浮かべる。ちゃんと補強や整備をしてあげないと危険そうだ。
「あの子の為に1株くらい持って行ってあげてもいいかな?」
 ショコラトル・コスモスの前でしゃがんだ焔は、しかし環境が変われば育たなくなるだろうかと思いなおす。持って行ってあげたら喜ぶだろうけれど、枯れてしまったら酷く悲しむに違いない。
「やっぱりここを安心して遊びに来られるような場所にして、連れてきてあげたいね」
「ええ、実際にこの花畑を見せてあげましょう。今日はこれで我慢してもらうしかないけれど……」
 ディアナは落ちていた花弁を拾い集め、ハンカチに包む。花畑が見つかったと言う話はこれを見せれば納得してもらえるだろう。空を飛ぶ以上、亜竜たちに接触する危険は常に付きまとうが、いずれはどうにかしてこの花畑を見せてあげたいものだ。
「皆、見てくれ。夕陽が……」
 イズマの声に一同が外へ視線を向ける。
 沈みゆく太陽がデザストルの山岳地帯を橙に照らす光景は、思わず口を噤んでしまう程に美しかった。

成否

成功

MVP

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子

状態異常

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[重傷]
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)[重傷]
炎の御子

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 無事にショコラトル・コスモスの花畑も見つかったようです。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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