シナリオ詳細
亜竜一本釣り!
オープニング
●
「「あ」」
デザストルの地に住まう青年カイと、イレギュラーズとして訪れたベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が声を出したのはほぼ同時のことであった。
「先日は災難だったな」
「いや。イレギュラーズの尽力には感謝してもしきれない」
以前、覇竜領域トライアルも初めの頃だ。カイたちドラゴニアの誘いにより、亜竜の肉を狩って共に食べたことが彼らの縁の始まりである。
アダマンアントたちの侵攻により慌ただしかったデザストルも、今は多少落ち着いた。ベネディクトはこのタイミングなら良いだろうかと口を開く。
「カイ、気になっている食材があるんだが」
ベネディクトの気になる食材――それは"魚"である。この山岳地帯に食べられる魚がいるのか、果たしてどのような味なのか。いや、魚というものが存在しなければその言葉自体が伝わらないのだが。
しかし幸いにして魚自体は存在しているらしい。最も、干して保存食にすることが多く、カイの周りでは普段の料理に出てくることはほとんどないようだ。
「むしろ、保存食以外の食べ方があるなら教えてもらいたいな」
心なしか目を輝かせるカイに、ベネディクトはふむ、と頤に手を当てる。混沌の料理なら多少理解しているつもりだが、折角なら色々な調理法を知りたいものだ。旅人の故郷で作られていたレシピなども知ることができるだろう。
「カイー! お、ベネディクトもいるのか!」
太い声に2人が振り向けば、大きな箱を担ぎ上げたゴリョウ・クートン(p3p002081)がこちらへ向かって駆けてくる。箱を地面へ下ろしたゴリョウに、カイがそれは? と問うた。
「夏野菜ってやつさ」
バベルにかけるなら、その混沌野菜はきゅうりや茄子、ピーマン、ゴーヤらしい見た目をしている。味は――ゴリョウが持ってきたのだ、各々の認識している味と一致しているかはさておいて、美味しさの保証はあると言って良いだろう。
「カイならデザストルの食材と合わせて、良いように調理できるんじゃないか?」
「それなら、先程話していた魚と合わせてみるのはどうだろうか」
ベネディクトの言葉にカイはなるほどと考え込み、ゴリョウは興味をそそられたと視線を向ける。
「デザストルに魚? そいつぁ食べてみたいもんだ!」
「だが、切って焼くくらいしか思いつかないぞ」
「それもいいと思うぜ。あとは……そうだな、他のイレギュラーズも集めて意見交換会ってのはどうだ? 魚を釣ってくれば試食だってできる」
つまるところ、また食材を狩りに行って食事を共にしようというわけだ。この場にいる者として否やはない。
「それなら釣り師を何人か集めてくるから、あんた達は戦える面々を揃えてもらえるか?」
「戦える面々……?」
あれ、魚を釣るだけなのでは?
ベネディクトが首を傾げる傍ら、さも当然のようにカイは頷く。ヤツを釣り上げた後は一苦労なのだ。
「ブハハハハッ! デカいなら食いでもあるってもんよ!」
「そうだな。あんた達が共に戦ってくれるなら、亜竜釣りも気合いが入るだろう」
うんうんと首肯するカイ。それに続こうとして――はて、とイレギュラーズ2人は首を傾げる。
今、亜竜釣りって聞こえたような。魚釣りの言い間違えか?
――それが文字通りの亜竜釣りであることを知るのは、これより僅かばかり後の話である。
●
山と山の間、谷となる部分に雨水が溜まり、池が広がって湖になる。
フリアノンのほど近くに存在するプイズィーの湖はそのようにして出来上がった。魚1匹として存在しない、静かな湖である。
「だが、無闇に近づくなと小さい頃から言い聞かされるんだ」
なぜかと問われたなら、それは亜竜がいるからに他ならない。保たれる沈黙は、獲物を待つ忍耐の時間だ。
水を飲みにくる獣や亜竜、それから足を滑らせるヒト。水面を揺らすモノあれば、それは水底から勢いよく飛び出し、獲物を引き摺り込んでしまう。
水の中で勝てる見込みはほぼないと言って良い。しかし逆に陸まで引き摺り出してしまったなら、仕留める機会もあるというものだ。
「あんた達も水には落ちないよう、気をつけてくれ」
さあ、釣りの始まりだ――カイはイレギュラーズにそう告げて、表情を引き締めた。
- 亜竜一本釣り!完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年08月16日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「シェフゴリョウ、夏野菜スペシャル! まずはメインディッシュを釣り上げるところからです!
――なんて、バラエティ番組にしたら高視聴率間違いなしじゃね? P-Tuberおらんの?」
勿体ないじゃん、と『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)は首を巡らすも、名乗り出る者はいない。マジ勿体ない。練達で流せばゴリョウの料理を真似する者が続出して、ついでに料理人ゴリョウの名前だってさらに広く知れ渡るだろうに!
「ぶはははッ、それはそれで面白そうだな!」
当の『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)本人はケラケラと笑っている。Pan Tubeではゴリョウ亭を紹介されたこともあるから、もしそんなことが起こるとしてもその時の延長線のようなものだろう。
「それにしたって、覇龍の魚だけに小物じゃねぇだろうとは思ってたが……」
「ああ、確かにこうなるとはな」
『黒き葬牙』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)もゴリョウの言葉にからりと笑ってみせる。元より2人の願いで用意された場であるが、本当に亜竜を釣りに行くとは。
(ゴリョウがこの場に来てくれたのは心強いな)
自分だけでは魚(亜竜)を釣ったとて、料理を考えるには限界があるだろう。しかし彼ならばカイの知りたいことをしっかり教えてくれるはずだ。
「スィリー釣りなんて久しぶりじゃない。フリアノンの食糧番たる秦家のアタシが最高に美味しい料理を作ってあげる!」
『パンケーキで許す』秦・鈴花(p3p010358)もやる気十分。自分の知っている食材なのだ、他のイレギュラーズは想像でレシピを組み立てるとしても、鈴花や『亜竜祓い』アンバー・タイラント(p3p010470)にとって素材の味を知っていることは料理をする上で強み――というと勝負事のようだが、食糧番の家に生まれた鈴花としては負けられない気持ちだ――になる。
「……ところで、スィリーとゴリョウの合い挽きとかどうかしら?」
「えっ!?」
美味しそうじゃない? とゴリョウを見つめる彼女の言葉が冗談か否かは――本人のみぞ知るって事にしておこう。涎垂れそうだけど。
「……グゥ」
「アルペストゥス? 今のは……」
「グゥ?」
腹の虫か、はたまた唸り声か。顔を上げた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)に『煌雷竜』アルペストゥス(p3p000029)は「なぁに?」と言いたげに首を傾げて見せる。
「にしても、随分頑丈そうな竿と糸だな」
「はは、こいつじゃないと食いちぎられるんだ」
『竜驤劍鬼』幻夢桜・獅門(p3p009000)の視線に釣り人が苦笑する。それほどに強力な魚らしい。しかし美味しい料理を腹一杯食べるためには、沢山釣って倒さなければ!
「グ」
徐にアルペストゥスが翼を広げ、湖の上を飛ぶ。大きな影にこれまで静かだった湖が揺らめくが、出てくる様子はない。アルペストゥスは首をひねった。
(とぶ つかまらない?)
飛ぶものはスィリーも捕まえることが出来ないと分かっているのだろうか。
「どうだ?」
ベネディクトにアルペストゥスはゆっくりと首を振る。しかし戦闘中も飛行している存在には手出しできない、しないと言う事でもあるだろう。
「アルペストゥスも千尋も居るんだ、心強いよ。スィリーを釣った後もよろしく頼む」
「ギャウ!」
――というわけで、本来の釣り(?)に戻る。
漁師の技を教わり、見て盗む者もいれば、予め学んできたと言う者もいる。そして武器を構えておくもの、釣竿を引く手伝いをする者と様々だ。
「えーとまずエサ……いくわよゴリョウ! イズマ!」
「おうよ! まずは俺だぜ」
エサ立候補のゴリョウに釣り人たちがどよめいた。動揺する一同に、鈴花は「生き餌の方が捕まりやすそうじゃない」と返す。それは全く以てその通り――過去事例もあるらしい――であることと、ゴリョウが大丈夫だと主張したことにより、それは叶えられた。
「ほらカイ、あんたも引くのよ!」
「本当にこれ大丈夫なのか……?」
「いけるに決まってるわ。だってゴリョウって美味しそうじゃない!」
その時、カイには彼女のゴリョウを見る視線が――仲間の料理人が食材を見る時と同じに見えた。
「きたぞ! 引け!」
「せーの!!」
釣り人の言葉に鈴花が号令をかけ、釣り人数人と鈴花、カイ、アルペストゥスが思いきり竿を引く。空を舞うゴリョウに続いて水面を大きく揺らし、大きな影が飛び出した!
「今だ!」
アンバーの全身全霊を込めた大喝が陸側へスィリーを吹っ飛ばし、すかさずイズマが攻撃を仕掛けていく。スィリーは罠だったことに気付いたようだが、目の前にいるエサ(ゴリョウ)の魅力に思わず突進をかました。ベネディクトが容易に戻らせるわけにはいかないと、氷の刃を纏った武器を大きく振る。
「千尋!」
「べーやんナイスぅ!」
肉薄する千尋が自らの傷も顧みず、素早い連撃を繰り出していく。ちりちりと衝撃を受けた鱗が千尋へ更なる傷を負わせていくが、なんのそのだ。
「大人しくして貰おうか!」
獅門の強力な一撃とカイの拳がスィリーの肉を叩き、鈴花の魔砲が表皮を焼く。スィリーも美味しく食べる前に美味しく焼かれてはたまらないと、爪を振りかぶり尻尾で払う大暴れぶりだ。
そんな生きの良い魚は――大層美味しそうに見える。
アルペストゥスは澄んだ青の瞳にスィリーを映し、大きく翼を広げる。より強い攻撃で、トドメが刺せるように。確実に仕留めるのだ。
「いいぞ、その調子だ! イテェ!」
組みついて逃亡を阻止するゴリョウの肩にスィリーが齧りつくが、存外噛みつきにくかったらしい。スィリーはどこなら柔らかそうか、と考えたのかその視線をゴリョウの腹肉へ向ける。
「悪いが、ゴリョウさんを食べる前にここで力尽きて貰うぞ」
イズマは確実に捉えるべく、ゴリョウとは90度ずらした角度からスィリーを妨害する。身動きの取れない敵へアンバーは大薙刀を手に肉薄した。
「さて、こちらの食材と外界の食材……どのようになるか楽しみです」
「ええ! 美味しく頂きましょう!」
併せて鈴花が攻撃を叩き込み、尾の攻撃をひらりと避けた千尋がここぞと魔拳を繰り出した。冠位殺しにしてアルバニアキラーの一撃が敵へとめり込み――その体躯が大きく揺らいで、地面に転がる。
「……大丈夫そうだ」
「この魚は釣り師の皆に任せても?」
ベネディクトの言葉に退避して遠目から見ていた釣り師たちが大きく頷く。ベネディクトは彼らへ頭を下げた。
イレギュラーズたちは順調に1匹ずつスィリーをおびき寄せ、仕留めていく。しかしこれだけ毎回ひっかかるとなると敵もチョロい。
「今だ、釣り上げてくれ!」
「よっしゃあ! 引け引けー!!」
生き餌になったイズマの声掛けで、獅門を始めとした面々により強く陸側へ竿が引かれる。何度目かのスィリーも、イズマの鳴らす音に引き寄せられて爪を振りかぶった。受け止めるイズマの横合いから、アンバーが逃走妨害にかかる。
「グルルル……!」
威嚇の声を上げるアルペストゥスが衝術でごろんごろんと地に転がし、すかさずベネディクトの振るう氷の刃がスィリーを襲った。
順調そうでいて、実のところはそうでもない。誰もが度重なる戦闘に、心身ともに疲れが蓄積している状態だ。対するスィリーは水から上がったばかりなので体力も有り余っていると言った所か。
「でもこっちが倒れる前に殴ればいいのよ!」
「ぶははははッ、そうさな! やってやろうぜ!」
鈴花の強気な発言にゴリョウはいつも通り大きく笑って。2人の攻撃に合わせて千尋が持つ魔性の当て勘が『ここだ』と囁く、そのままに。
「っけぇぇぇ!!」
力強い一撃がスィリーの体に響く。軽く吹っ飛んで地を転がったスィリーはぴくりともしなかった。
――そろそろこちらも限界か。
そう思われた一同だが、イズマの「もう1匹だけいかないか」という言葉に頷いた。
「俺はやるぜ」
「いいじゃない、食べる分が増えるわ」
美味しいものがたんまり食べたい。そんな意思がイレギュラーズ一同を突き動かす。
ゴリョウを生き餌に釣り上げられたスィリーを、イズマの津波がより陸へ押し出すように攻め立てる。合わせてゴリョウが引き付けたなら、アンバーの薙刀による暴力的な一撃が牙を剥いた。スィリーはぶんぶんと尾ヒレを振るい、ベネディクトの体が吹っ飛ぶ。
「おう、大丈夫か?」
「すまない、助かった」
背後で受け止めた千尋はすぐさま駆け出し、あと少し戦うのも惜しいというような性急さで連撃を叩き込む。ベネディクトは後に続いて鋭く踏み込み、直死の槍で貫いた。
「足を引きずってるわ! 徹底的に叩くわよ!」
「おう!」
鈴花の声掛けと共に、獅門もともに動かなくなるまで攻撃を叩き込まんと飛び込んでいく。それでも逃げ帰ろうとしたスィリーは空から落ちた大きな影に飛び出しかけたが――。
「グゥ」
――遅い。横合いから爪で押し倒したアルペストゥスは、露わになった喉元へ向けて大きく口を開けた。
これは被捕食者。自分たちは捕食者。食物連鎖はこうあるべきなのだと言うように、その牙がスィリーの息の根を止めたのだった。
●
「グゥ」
狩ったうちの1匹を口にくわえ、のしのしとアルペストゥスはフリアノンへの道を行く。続く釣り師たちは軽々とスィリーを抱え上げながらも、前を進む古代竜には興味津々だ。
竜ではあるものの竜種に非ず、亜竜にも非ず。異世界より呼ばれしモノが人に限らないことに驚きはあれど、先ほどの奮闘を見て恐怖する者はいない。
他の亜竜に遭遇することもなくフリアノンへ帰還したイレギュラーズ一行は早速調理場へと足を運んだ。何せ今は夏、鮮度はあっという間に落ちていくのだ!
「釣れたてだものね、生で食べられるものがいいわ」
夏野菜もあるならカルパッチョなんてどうだろう、と鈴花は1匹のスィリーを器用にさばいていく。ここは適当に出来ない肝心な工程だ。それは勿論、綺麗に切り身にするためでもあるけれど、何より大事な事は"骨まで全て味わえること"だから。
(解ってるのよ。覇竜はまだ、外より資源も、知識も乏しいって)
だから少しでも捨てるものはないように。最後のひとかけまで食べられるように――代々食物の調達管理を行う家系だからこそ、大切なことは教わってきた。それは例えイレギュラーズとなり、覇竜領域を出たとしても変わらない。
「その切り身、少し頂いても良いでしょうか」
「勿論よ。アンバーは何を作るの?」
鈴花が捌いたスィリーの切り身を分けて貰ったアンバーは、アクアパッツァというものを作るのですと微笑む。鈴花と同じくフリアノン出身の彼女もまた、これまで手の込んだ料理を見ることは決して多くなかったが、イレギュラーズとなってからは各国を渡れるようになり、多少なりとも知識は増えた。
魚介の煮込み料理であるアクアパッツァは海洋で見かけた料理だ。あの時作り方を聞いてみて良かった、と思いながらアンバーは手際よく夏野菜を切り、一緒に煮込む。
「ゴリョウさん、刺身はいけるかい? 練達から仕入れたMY醤油はここにあるぜ!」
ワクワクとした感情を押さえきれないと言うような千尋に、ゴリョウは任せとけと胸元を叩く。ゴリョウにとってはここからがある種本番である。
「まぁ味を知るにはベストだな。まずは刺身といくぜ! 無論、各員のリクエストもあれば応えるからな!」
調理場に立ったゴリョウは非常に手際よく、複数品を同時並行で調理する。スィリーの魚肉は一部を素揚げして、切って炒めた野菜と合わせて揚げ出し風野菜餡かけに。昆布締めの押し寿司や揚げたての天ぷらが次々と卓へ並ぶ。
「すげぇ! これは美味そうだ……!!」
獅門は目の前に置かれた山盛りの天ぷらに目を輝かせ、早速一口。さく、と衣の鳴る音に続いて感じるスィリー肉の食感に獅門の表情が一気に緩んだ。
「ゴリョウさん、ムニエルもどうかな?」
「おう、任せとけ!」
イズマのリクエストに快諾したゴリョウは、調理場に立ったベネディクトにおやと肩眉を上げた。視線を受けた彼は手にした小瓶を揺らす。
「スパイスか?」
「ああ。この間、ラサのバザーで仕入れたんだ」
カレーのスパイスということなので、白身魚を焼いてこれで味をつけるだけで十分料理になる。と、そこへ興味深くカイが見ていることに気付いた。
「カイ、良かったら一緒に作ってみないか? これで味を付けるだけで普段とは変わると思う」
「なるほど、外つ国の香辛料か……是非やらせてくれ!」
ベネディクトへ大きく頷いたカイ。そんな2人の様子にふっと笑みを浮かべたゴリョウは、本気の逸品を仕込むべく動き出す。
「なあ、ベネディクトの旦那! このカレー味? ってやつ便利だな」
ベネディクトが持ち込み、カイが調理した白身魚のカレー風味焼きを齧った獅門が感心したように顔を上げる。スパイス独特の食欲をそそる香りと味が口腔で広がり、例え臭みなどがあったとしてもうまくかき消してしまうだろう。
「そうか……それならこれまで食べにくかった食材にも使えそうだな」
カイは考え込みながら呟く。どうやらこれまでにそのような食材は存在していたらしい。どうしたのかと聞けば、なるべく保存食として取って置くとのことだった。
「待たせたな! 今回の逸品、蕪蒸しだ!」
ゴリョウが皿をどんと出す。スィリーの魚肉を蒸した上に、白っぽいものが乗っている。とろみのある銀餡はスィリーの身から取れる出汁などだろうか。
「見栄えも素晴らしいな……! 味は――」
早速食べたイズマが最高に幸せ、という表情を浮かべた。美味しかったのは間違いない。
「この上に乗っている白いものは?」
「メレンゲとすり下ろした蕪だな! 蒸すとこうなるんだ」
カイが感嘆の声を上げる傍らに、ゴリョウは清酒とお猪口を置く。これらと合わない訳がないのだ。
流石ゴリョウだな、とベネディクトも一口含んで顔を綻ばせる。彼の飯を食べると言うだけでも、イレギュラーズの中でだって羨ましがられる程だ。
「腕前も良いが、人徳もある。素晴らしい料理人なんだ」
「ぶはははッ、そんなに褒められても出るのは料理だけだぜ?」
「それは尚更、他のイレギュラーズに羨ましがられてしまうな」
呵々と笑うゴリョウと、それに笑って返すベネディクト。彼に続いて蕪蒸しを食べたカイは目を丸くして、それからふっと笑う。
「こういう味になるのか……あんたの飯を何度も食わせて貰っていたら、羨ましがられるだけじゃ済まなそうだ」
「そんなこたぁないさ。オメェさんの提供してくれた折角の食材だ」
料理人だけが居ても成り立たないのだとゴリョウは笑う。その言葉にそれもそうだなとカイは首肯したのだった。
「なあ、カイや漁師さんたちが知ってるような漁師メシってのはあるのか?」
ご当地メシがあるなら食ってみたいと目を輝かせる千尋。それなら干物を持ってこようかとカイが席を立つ。元々干物にしてから食べているので、その方が"いつもの飯"らしくなるだろう。
「いいね、頼むぜ! べーやんはちゃんと食ってるか?」
「うむ、どれも美味い。俺はまだ食い足りんくらいだ。千尋は?」
「俺もまだいけるぜ!」
おかわりはあっただろうか、と千尋の言葉にベネディクトが視線を巡らせる。そこに「あるわよ」と声をかけたのは鈴花だ。
「こっちのお代わりなら沢山作ったわ。だから……これとこれの作り方、教えてよねっ」
これとこれ、と示したのはカレー風味焼きと蕪蒸しである。アンバーのアクアパッツァ然り、どうして外にはこんなに美味しいものがあるのか!
ベネディクトとゴリョウはそんな鈴花の様子に二ッと笑って頷く。門外不出というわけでもなし、これで覇竜の食事事情が少しでも良くなっていくのなら是非にと言ったところか。
「鈴花が作ったのは……炊き込みご飯か」
ベネディクトはふわりと香ったそれに目を細める。骨もアラも出汁にして、野菜と共に炊き込んだご飯はそれだけで何杯でもいけそうだ。
「まだスィリーが残っているなら、すり身にしても良いかもな」
イズマが食べ進めながらふと思いつく。白身魚ならかまぼこなどへの加工もできるだろう。普段とは食感が変わって面白いかもしれない、とイズマもまた調理場へと席を立った。
「アルペストゥス、オメェさんも食えてるか?」
「ギャーウッ!!」
ゴリョウにアルペストゥスは嬉しそうな鳴き声を上げる。野菜の入った料理は彼にとって新鮮で、まず観察から入ったけれども。美味しい匂いと他ならぬ仲間の作った料理であるから、口をつけるのに時間はかからない。
フンフン、クンクン。ぱくり、ボフンッ!
「えっなに今の音」
鈴花がびっくりして振り返った先では、嬉しそうに食事へありつくアルペストゥスの姿があった。
「漁師さんたちも楽しんでるー? 盛り上がって行こうぜ!! ウェーーーーーイ!!!」
「「イエーーーーーーイ!!」」
千尋の声に釣り人たちも酒のコップを掲げる。
この宴会があった翌日から、あの湖に住まうスィリーをいかに絶滅させず、なるべく安全に狩るかという話し合いがなされはじめたらしい。ゴリョウはカイからそれを聞いて、彼らの技術と環境でも手軽に作れるレシピを書き溜めたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
まさか生き餌が用意されているとは思いませんでした。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
亜竜『スィリー』の討伐
サブ:スィリーを捌いて調理し、美味しく食べる!
●情報制度
このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。
●フィールド
フリアノンから程近い場所にある湖『プイズィー』のほとり。
湖は魚1匹たりとも泳いでおらず、刺激しなければ非常に静かです。水の中には絶対入らないように気を付けてください。
湖のほとりは多少の緑があるものの、ゴツゴツとした岩肌も目立ちます。また、両脇を山に挟まれているため、立ち位置によっては射程が狭まります。
なお、他の危険生物に遭う可能性があるため、戦闘が完了次第すぐの撤退を強く推奨します。間違ってもその場で宴会を始めないでください。
●スィリー×12
水棲の亜竜です。魚にワニの手足がついたような姿をしています。全長は大人くらいのサイズです。見た目はちょっと不気味ですが、栄養価は高いそうです。白身魚の類で味は淡白めです。
捕食以外は水底でじっとしていることで、不要な体力消費を抑えています。ただし大きな影が見える、ないしは重いものが水の中へ落ちてくるとすぐに飛び出してくるので、引き寄せるのはチョロいです。騙されたと気がつくとすぐ湖の中へ戻ろうとします。
脚力があり、鋭い爪とヒレを持っています。隙あらば湖に叩き込まれますのでご注意ください。鱗は【反】がついています。反応高めのアタッカーです。
また、突進や、尾鰭ではたくことによる【飛】攻撃が確認されています。
おそらく湖にはまだスィリーが潜んでいるのですが、深追いはしない方が得策でしょう。
●友軍
・カイ
亜竜種の青年です。黒曜石のような黒髪と、灰色の瞳を持ちます。趣味は料理。
肉弾戦を得意とし、それなりに戦える戦士です。指示があれば従います。
スィリーは干物にしたものしか食べたことがないので、イレギュラーズが他の調理法を知っているなら是非知りたいと思っています。
・釣り師×10
亜竜種の釣り師たちです。カイからイレギュラーズが討伐してくれると聞き、やる気を出しています。
戦闘中は比較的安全な場所まで勝手に避難するので心配ありません。戦闘後は、倒したスィリーを担いで帰ってくれます。
頑丈な釣り竿に人を模したカカシをくくりつけて、湖の上で影をちらつかせてから思いきりスィリーを陸側まで引き寄せる、というのが亜竜一本釣りだそうです。うっかりするとそのまま水底に連れて行かれて餌にされるため、それなりの技量がいる……らしいです。
●ご挨拶
愁と申します。
魚(亜竜)を狩って美味しくいただきましょう。
スィリーを狩ったあとはフリアノンにある調理場で調理が可能です。ゴリョウさんの持ってきた夏野菜が大量にあるため、そちらを使用することもできます。
それでは、よろしくお願いいたします。
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