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シナリオ詳細

<潮騒のヴェンタータ>卵の住人たち

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●暑の夏さに当てられて
 海洋/豊穣開拓地。豊穣の中型船が停泊する浜辺にイレギュラーズ達は集められていた。
「先程までボクは三番街でバカンスを楽しんでいましたが、仕事と休みはきっちり分けるのです!」
 見覚えのある浮輪の横に立つ情報屋はエア眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げた。『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)、続けて小さく咳ばらいをして大きく告げた。
「ここまで来てもらったのは他でもないのです、依頼なのです!」
 彼女はジェスチャーを交えて説明を開始した。

 シレンツィオリゾート開拓二周年の各国主導のクルーズツアーの障害として『深怪魔(ディープ・テラーズ)』が出現、それに伴い海賊集団まで出現しておりローレットと各国が奔走している。
 そんな中、深海の都からやってきたという少女から神器『玉匣(たまくしげ)』があれば深怪魔を追い払える、との情報が入った。
 各国はその神器の修復に必要なコイン状の『竜宮幣(ドラグチップ)』を求めてイレギュラーズたちにも捜索協力を要請。
 そして夏の暑さに当てられた各国代表はサマーフェスティバルにかこつけて『どの国の代表者が最もチップを集めるか』という愉快な催しを始めてしまったのだった……。
「ここまではおさらいなのです、本題はここからなのです。その日、ボクはある人物と出会ったのです……」
 夏の暑さに当てられたユリーカはひゅーどろどろという効果音と共に謎の怪談口調で依頼の請負から詳細までを語り始めた。


●読まなくてもいい回想
 同日。
 汗も干上がるような熱が降り注ぐ三番街のビーチでサングラスを装着し、リクライニングチェアに背中を預けてリッチな休日をユリーカは過ごしていた。
 冷風機能を備えたビーチパラソルの日影でカクテル片手に優雅かましていた矢先、
「あのぅ、失礼だけれど、ユリーカ嬢でお間違いなく?」
「? 誰なのです?」
 サングラスを上げて声のした方を見れば、話しかけてきたのはにこやかに笑っている商人風の不審な人物だった。
 思わず「ぎゅあ」と声を挙げ防犯ブザーに手を掛けたユリーカだったが、不審者は声を掛けた姿勢のままにこやかに不動だったため、とりあえず距離を取って話を聞くことにとどめた。
「ボクの名前を知っているということは、何かご依頼なのです?」
「ええ、その通り。ですのでそのブザーは納めてください、心臓に悪いので」
 かくして「商人風の不審な人物」は「依頼人」へと格上げされた。

 リクライニングチェア三つ分の距離を保ったまま、ユリーカと依頼人が向かい合う。
「聡明なユリーカ嬢のことだ。『チガイ』は当然ご存じの事でしょうが……」
「ももももももちろんなのです。帰ったら毎日チガイで手を洗ってるのです」
「まさかそのような使い方があったとは……!」
 依頼人が言うチガイとは熱帯から温帯の土地の沿岸部によく自生するフルーツの事であり、手を洗っても良い匂いがして果汁で手がベタベタになるだけだったが、都合よく解釈したのか依頼人は感心したように頷きながら話を続けた。
「実は……今年出す分のチガイが急遽不足しまして」
 件の海賊集団による被害を受けたと話す。フェデリア島から出たところを襲撃され、他の積み荷と共に全体の三十パーセント近くが略奪に遭ったそうだ。
「ボクには分かるですよ、つまりその海賊をブっ潰して積み荷を奪い返して欲しいというわけですね!」
「流石ユリーカ嬢、話が早い。確かに、普通ならそうするところなのですが」
「! 特殊な事情と言うわけですね、早くゲロしちまうのです!」
 リクライニングチェアの座面を叩きながら刑事風に続きを促すユリーカに従い、依頼人は話を続ける。
「チガイの実は、フェデリアでも採取出来ます。
 話は人を雇ってここから南の沿岸へ採取に向かわせたときのこと、そこで彼らはある物を見てしまったそうなのです……」
 依頼人はひゅーどろどろという謎の効果音と怪談口調でそのことを語り始めた。

 チガイ採取に雇われた男たちが訪れたのは、この後イレギュラーズたちが集められることになる海洋/豊穣開拓地の沿岸部。
『この辺りってダガヌの近くだよな、さっさとチガイを採って帰ろう』
 深怪魔や海賊集団・海乱鬼衆の情報はフェデリア島全域に周知されていた。開拓地から東に広がるダガヌ海域を中心に、それらが活動していることも。
『だな。高い金貰ってるとはいえあまり長居したくねえ』
『おっあんな崖にもチガイの木が生えてるぜ』
 男たちの一人が指さした先、眼下に見下ろす海に面した崖の中腹に立派なチガイの木が立っていた。
『ははは、すげえなあれは』
『まぁあそこまで行かなくてもこの辺にあるので数は十分だろう、さっさと採っちまおう』
 男たちは崖に生えた木に近づくことなく、チガイの実の採取作業を始めた。
 予定の数を集め終わり、港へ急ごうとした時の事だった。
 キン! ボチャン! キン! ボチャン!
 固い物がぶつかる音と、何かが水に落ちる音がした。音がしたのは、先程チガイの木が生えていた崖の辺り。
 深怪魔が崖を上がって来ているのではないか、そんな想像が男たちの脳裏を過る。
 勇気ある男の一人が、恐る恐る、崖の端から顔を出して下を覗いた。
 すると――
「海面から顔を出した半透明の怪物が、黄色い眼球で男を睨んでいたのです!」
「ギャアアアあああぁぁぁ――――――――ッッッ!!!!」
 ピーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!


●敏腕新米情報屋
「そしてボクが完全警戒モードを解いたとき、依頼の報酬と内容が仔細に書かれた紙だけがその場に残っていたのです……!」
 どうやら依頼人は身の危険を感じてスタコラとその場を後にしてしまったようだ。
 依頼の内容を見るに、報告を直接依頼人に届ける必要がない形式である。『怪物の体にある竜宮幣を回収して使ってほしい』という旨が書かれており、実に美味しい内容だ。
「チガイの実を取った怪物の一団の中に見たそうなのです。竜宮幣を」
 確かに、そう書いてある。
 怪物はもっと沢山の竜宮幣を持っているに違いないと、希望に満ち溢れた予測をユリーカは打ち立てた。

「それからこれはボクのにゅうねんな調査によって得た情報なのですが、その怪物は深怪魔で、先日豊穣の漁師がそれを初めて発見したそうなのです」
 『プラーマゴ』と呼ばれる怪物は海に同化するような青色の潰れた楕円のような物体に体を納めており、海中で漂いながら近寄ったものを攻撃するのだという。
「プラーマゴは口顎近くの一番大きな角を一度だけ射出武器として使えるらしいのです。豊穣の漁師さんも危うく大変なことになるとこだったそうなのです!」
 海面から顔を出したプラーマゴはその角を射出してチガイを落としていたらしい。
 依頼人に雇われてチガイを採っていた男たちに怪我人が出なかったのは、恐らく既に射出した後だったからだろう。事実、もう一度確認した際には、プラーマゴは海面に一匹もいなかったそうだ。
「音がした回数ですか? えーっと確か話では七か八か九か十か……そのくらいなのです!」
 ということは、プラーマゴは最大でも十体いる! というのが、ユリーカ式希望的予測パート二だ。

 そして、その深怪魔が顔を覗かせていたのがすぐ傍に聳える崖の下、その海面。今イレギュラーズたちがいる場所からは少し遠いが、視認出来る場所だ。
 事が起きたのは一刻ほど前だそうだが、今から追って捕捉できるのだろうか。
「まずは船で潮流に沿った海域まで移動してもらうです、海中に行くのはその後なのです」
 言って、木の枝でトントンと砂浜に書かれた実に個性的な地図を指す。
 とにもかくにも、まずは船で洋上へ出てからということらしい。

 こうしてイレギュラーズたちは不確定な竜宮幣と敵の数に不安を憶えながらも、装備を整えて海に送り出されることになった……。
「終わったら直接ローレットに報告へ行って欲しいのです、ボクはビー……急ぎの用事があるのです!」
 水着に着替え、浮輪を携えた敏腕新米情報屋に見送られて……。

GMコメント

●成功条件
 人数分の竜宮幣の回収

●このシナリオでは海中での戦闘が行われます。
 『暗視』および『水中行動』に該当するものを持たない人には『暗視(弱)』『水中行動(弱)』の装備を貸与しますが、スキルは自前で持っている方がシナリオ中、有利に運びます。
 今回用意されたのはそれぞれ細いリング状の装備で体のどこに装着しても効果を得られます。

●特殊ルール『竜宮の波紋』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―による竜宮の加護をうけ、水着姿のPCは戦闘力を向上させることができます。
 また防具に何をつけていても、イラストかプレイングで指定されていれば水着姿であると判定するものとします。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
 投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
 ※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります


●ロケーション
 至ダガヌ海域南西部、海中。
 潜っていくと後述する『プラーマゴ』が入った潰れた楕円のような物体が沢山浮いているのが見えてきます。
 海水が緩やかに沈降しており、それとは別にプラーマゴ自身も降下しています。
 よって戦闘が長引くにつれ群れが海底へ降りて近づいていきます。『暗視』か光源を保険として持ち込むと長丁場に有利です。
 海底までの距離は作戦開始時点で不明です。

●敵
■卵殻の住人『プラーマゴ』
 水中を浮かぶように漂っている青色の果実『チガイ』と、青色の物体の中に円筒状の空洞を空けて居る深怪魔。
 全長約60センチ。
 半透明の体を持ち、頭部に黄色い球状の目が二つ。個体の強さは外殻の強度以外さほどではありません。
 複数の顎脚や角、鋭い鋏を持っており、人を殺傷するのに十分な威力誇ります。ギシャーと鳴きそうなエイリアン的見た目ですがよくよく見ると水生生物の何かに似ている。
 攻撃の際は楕円形の物体や果実から上半身を露出させて攻撃してきます。
 能動的に人を襲うわけではないようで、一定の距離に近づくと上半身を露出させ遊泳、接近後、攻撃してきます。
 角射出の有効範囲はこの一定距離より長いですが、そこへ近づかなければ放ってきません。また、射出できる個体と出来ない個体がいます。
 近づかなければただふわふわと底へゆっくり落ちていく存在です。
 ユリーカによると最大10体はいるそうで、竜宮幣を体内に持っている個体と持っていない個体がいます。

●PL事前情報(ユリーカは知らない)
 プラーマゴの総出現数は80体以上です。果実の外皮によく似た青色っぽい楕円形の物体に収まっているのが70体近くいます。
 その中の数体、紛れるようにチガイの実を外殻としたプラーマゴが数体存在します。竜宮幣もそれらの個体が持っていると予想されます。
 上半身露出時、被撃覚悟の至近距離での観察あればそれだけで竜宮幣の有無が見分けられます。
 楕円形物体、果実、いずれの外皮に対しても『至』『近』が有効で『中』は普通。『遠』『超遠』は効果が薄いようです。プラーマゴ本体には全て有効です。
 本体が見える円筒部分から本体を狙い撃ちにするのは出来なくはありませんが至難の業です。
 群れの中心から球状に一定範囲で密度様々に分布しています。プラーマゴの個体ごとの攻撃範囲に入った場合はその限りではありません。
 群れの半数が海底に辿り着くと好戦的になります。この場合『重傷』が出る可能性があります。
 PL事前情報、以上。

●果実
■『チガイ』
 鮮やかな緑色の硬い外皮を持つ果実です。
 ほどよい酸味と芳醇な甘味を持っていますが、海水に浸らせると海の青色を宿す。
 夏の清涼感を演出するために内陸の土地もよく見かけます。鮮やかな見た目もそうですが、刃物が通りやすい事もあり、フルーツカーピング(飾り切り)で特に有名です。
 今回は数体のプラーマゴがこの中に納まっています。チガイに収まった個体が竜宮幣を持っている可能性が高い。
 3,4体程度なら見ているだけでチガイ個体とそうでない個体を見分けられるかもしれませんがオススメはしません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●挨拶
 ユリーカさんの平均情報制度はC-程度だそうなので非常に正確な情報ですね。
 成功条件はあくまで「竜宮幣の回収」です。必ずしも全部倒す必要はありません。
 こじつけでも決め打ちでも良いので『判別方法』が今回の早期成功の鍵です。非戦も大いに役立つかと思います。
 最悪PC様が楽しんでいるなら「判別は『直感』でなんとかする!!」とかでもOKです。暑いので。

 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はリプレイには登場しません。

  • <潮騒のヴェンタータ>卵の住人たち完了
  • GM名豚骨
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月06日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
Meer=See=Februar(p3p007819)
おはようの祝福
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
リュビア・イネスペラ(p3p010143)
malstrøm
嶺 繧花(p3p010437)
嶺上開花!

リプレイ


 サマーフェスティバルにかこつけた竜宮幣集めの熱気、それを象徴するような強い日差しが海に降り注いでいる。
「ユリーカちゃんの嘘つきいいいい!!!!」
 そんな広大な夏の海に『おはようの祝福』Meer=See=Februar(p3p007819)の叫びが轟いた。
 赤い水着に着替えたMeerの眼前。海中の眼下に見えるプラーマゴたちは優雅に漂っており……、
 夥しかった。
「ははは、こりゃ壮観だ」
「笑ってる場合じゃないよー縁さん!」
 敏腕新米情報屋の辣腕具合には『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)の苦笑する顔にも開始前から疲れが見えた。
 それもそうだろう。
 壮観と言った縁が数えたプラーマゴの総数はおよそ八十強。予想の八倍、イレギュラーズと比較すれば十倍だ。
 海水とプラーマゴの群れの色差を海に差し込む光が演出している。
 鰯や鮪の群れを連想させるその光景は彼の言う通り「見ようによっては見事」であろう。
「うん……いや駄目だろうこれは」
 だが視界を掌で塞いで天を、海面を仰ぐ『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)もまた同様に事の次第を嘆いていた。
 夏と言えば海だ、ビーチだ、リゾートだ。彼自身もまた、必要に駆られてではあるものの民族戦士風の水着に着替えている。
 情報屋と言えど、まして年頃の娘ともなれば浮かれもするだろうという、彼の中にあった穏やかさは既に心の海底に沈んでいた。
 ……うん、俺もそんな気はしていた。だってユリーカ殿だから。色々やらかしてる話は聞いているし、平穏無事恙なくとはいかぬだろうとは俺も思っていた。
「しかしこれは……」
 ……話を聞いた時からどーにも分からなかったんだ。なんというかふわふわしているというか。やだなーこわいなーとか思いながら海に潜ってみるとやっぱりどう見ても十体程度なんて数じゃないものなぁ。
 唖然としてしまい、これまた思わず海面を仰ぎそうになる『報恩の絡繰師』黒影 鬼灯(p3p007949)。
「まあとっても沢山ね! 表面が光に当たる度に色が変わってるみたいで綺麗!」
「――!」

 ――妻が今日も可愛い――

「ああ、そうだな!」
 そして彼の腕にある章殿こと章姫のはしゃぎようを見た瞬間に鬼灯の中の負の感情はすべて吹き飛んでいった。
「これはローレットに直接抗議とかしたら通るだろうか」
「私はするよ! 絶対する! お土産持って行く!」 
「まあ、こういう部分を補うのも俺らの仕事ってことかねぇ……」
 一行は甘い空気に侵食される海水を受けながら今後のプランを打ち立てることにした。

 時折円筒の穴から覗ける、プラーマゴたちの二つの目玉がこちらを捉えていないところを見るに、まだ気付かれてはいないようだ。
 あるいは気付いていても近づかなければ気に留めない性質なのだろうか、ただ静かに、ゆっくり、ゆっくりと海底を目指しているは。
「この中から竜宮幣っていうのを探さなきゃいけないんだよね……」
 若干目が遠くを見ているMeerの言う通り、眼前に広がる八十以上いるプラーマゴの中から八個は竜宮幣を見つけなければならない。何故かって、それが依頼だからだ。
 竜宮幣を持っている個体と持っていない個体がいるのは間違いないだろう。もしこれら全てのプラーマゴが竜宮幣を持っていたとしたら苦労はない。
「キラキラの貝を探せばいいの?」
「ああ、飛び切り綺麗なのを一緒に探そう」
 海水が章姫の体に障るかもしれないとかそういう不安からも解放されている鬼灯は、改めて彼女へ贈る貝を探すことに集中する。
 プラーマゴは海の色に酷似した何かに収まっている。
 その姿かたちはほぼ全くと言って良い程に、同じである。
 事前に鬼灯が描いていたチガイの完璧な模写を思い返してみても、そこにある差異に気付けるものはほとんどいないだろう。
 しかしそれこそが竜宮幣を持っている個体を見分ける鍵になるならばと、タンキニ姿の『malstrøm』リュビア・イネスペラ(p3p010143)はじいっとプラーマゴ同様に海中で漂いながら群れを見つめていた。
「多いね、うん。いや、多い、よね。……でも」
 見分けられないこともない。
 チガイの実に収まっている個体と、似た何かに収まっている個体。
 鬼灯の描いた模写の色合いは海の中ではすっかり変わっているが、リュビアには色彩の濃淡、陰影の映りが海中でもわかるのだろう。
 だが、それはすぐに海と群れに紛れて見失ってしまう。
「チガイを持っていったプラーマゴの体に竜宮幣があるという話だったな」
「まあ……それもあの嬢ちゃんを信じるならの話だがな」
 ウェールと縁の頭に浮かぶ、イレギュラーズを見送った先日二十歳を迎えたばかりの彼女には悪意の欠片もない。ただ、いつも通りにやらかしてくれただけ。
「「……」」
 今回はこれ以上のやらかしがないことを祈るばかりであった。



「はぁ……」
 『戦支柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)の吐いた深いため息が水泡となって昇っていく。
 とにかく動きやすければ何でもよかったメーヴィンは競泳用水着に身を包んでいた。
(海は嫌いなんだけど……)
 どこかぼんやりとした表情でプラーマゴの群れを眺めるメーヴィンの顔からは、それが何故なのかまでは読み取れない。
「いざという時は助けるが、あまり深く群れの中に入り過ぎるなよ」
 気乗りはしないが、仕事は仕事だ。
 プラーマゴの群れへと突撃を始めた『嶺上開花!』嶺 繧花(p3p010437)の背中に向けて放った言葉は彼女の耳に届いているだろうか。
「近くで見れば竜宮幣があるかどうかわかるはず!」
 躊躇なく群れへと近づいていき、その手に着けた手甲でプラーマゴの殻を殴りつける。
 殻は奥深くまでめり込んでから打撃の衝撃でボールのように弾かれたが、流石に一撃で致命傷とはいかない様だ。
 その証拠に殴られたプラーマゴはインパクトの瞬間から遅れて体を露出させて繧花へと迎撃を試みた。
 ズルリという音が聞こえそうな動作で出てきたプラーマゴは、半透明の体と黄色の目を持っている。竜宮幣を持っている個体なら、このタイミングで繧花の視点からはそれが判別できるが、『無い』。
「うわー外れだー!」
 嘆く繧花の頭上から体を出したプラーマゴが近づいていたが、すぐにそれに気が付つくと全身を回転させる要領で近づいてきていたプラーマゴ二体を手甲が吹き飛ばした。
「あーこっちも外れ!」
 十体に一体は竜宮幣を持った個体がいるはず(希望的観測に基づく)だ。闇雲に突撃を行っても見点けられる可能性は十分にある。
「俺に任せな!」
 ぐんと速度を上げて繧花と共に群れの下へと潜っていった『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)。上下で群れを挟む形になり、ローラー作戦でも始めようかという具合だが、彼の思惑は少し違う。
「お前らが海底を目指しているのか、なんでかは知らねえ」
 人語を話さず、和解も求めないプラーマゴたちの目的など理解出来るはずもないが、ルカは下へ向かうほど冷たくなる海の海流の速度よりも僅かに速く、プラーマゴたちが下へ向かっていることに気付いていた。
「一匹だろうが底に着けるなんざ思うなよ!」
 群れの下部に風穴を開けるような勢いで突撃していくルカ。プラーマゴたちは射程内に入った彼を攻撃しようと動き出すが、暴風の如き衝撃がそれを許さなかった。

「随分とまあ派手にやるな」
 縁もまた群れの下部のプラーマゴから当たる算段であった。長手甲を装着した水着姿の彼だが、このような薄着で戦闘を行うのは如何なものかと考える。
「角飛ばしてくるんだろこいつらは、そんなもん当たったら絶対痛ぇぞ、と」
 心配を口にしながらも、その手に携えた刀でプラーマゴを薙ぎ払う。直後に探知範囲内に入られたプラーマゴたちが体を出して縁に向かって件の角を射出する。
 どのように射出しているかは不明だが、確かにその速度は人に致命傷を与えうるものだった。寸での所で躱した縁の肌に薄く赤い筋が走っており、少し遅れて血が出始める。
「こちとら水着なんだ、ちっとくらい手加減して欲しいもんだ」
 それでもなお飄々とした口調で薄く笑いを浮かべている縁には余裕が見て取れる。
 確かに角射出は脅威だが、体を出してから照準を合わせて放つ性質上、避けるのは難しくない。
 そして先の刀の手応え。形も似ていれば性質も似ているのか、簡単に刃が通る。
「殴りやすい、切れやすい。これで時間さえ許してくれりゃ全滅させてから探すんだけどな!」
 ルカの握る両手剣がプラーマゴを斬り潰す。動き回るルカに周囲のプラーマゴが反応して半透明の体を露出させていく。
「あああいたー!!」
 溜を作って繧花の手甲から打ち出された一撃が一体のプラーマゴを撃ち抜く。
「コイツか!」
 ルカに向けて振り下ろされた鎌腕を身を捩って躱し、勢いに任せて振るった剣でプラーマゴを両断。分かたれた合間から昇る白い液体とは別に、海底に向かって花弁のように落ちていく竜宮幣を掴み取る。
「ようやく一つゲットーーってうわー!! ルカさん一杯来てるよ!」
「おっとやべえか!」
 次々と放たれる角をかろうじて剣で防ぎながらその場を離れようとするが、行く手を遮るように次々とプラーマゴが上から振ってくる。
「ふむ、海底が近いのかもしれんな。速度が速くなっているように見える」
 群れの外側からメーヴィンが抉りこむように泳ぐ。
 ルカの周囲に集まり始めていた数体のプラーマゴとすれ違いざまに触れると、メーヴィンの去った後ろで内から発生した無数の棘によって剣山に変わっていった。
「そういえば周り暗くなって来てるね」
「宝探しに夢中になっちまってたが、海底に着く前にこいつらの数を減らすこともやっとかねえとな」
 ダガヌ海域は未だ調査が進んでいない海域。この辺り一帯の水深を知る者もおらず、何処が海底なのか不明だ。
 もし光が届かなくなる二百から三百メートル付近ということなら時間の猶予は残されていない。
「ホントに10体だけだったらこんな苦労しなかったのにい!」
 繧花の言葉はもっともである。
 しかも発見からすでに一時間経ってからイレギュラーズは集められているので、そもそもの制限時間が少ないのだ。

「無理は元々だな」
 ため息交じりに呟くウェールもそれは承知していた。同時にせめてキッチリ依頼をこなして抗議の声が通るようにしなくてはと意気込む。
 ファミリアーを使役して視界を増やしたウェールの目にはプラーマゴが収まる殻の障害など無いに等しい。角のない個体がいれば、高確率で竜宮幣を持っているという情報をどこまで信用していい物かは悩みものだが、今はそれを頼りにする他ない。
 プラーマゴの周囲を泳ぎ回るイカとタコ。しきりにキョロキョロ目が動いているのは彼らこそがウェールの視界だからだ。
「見つけた」
 一体のプラーマゴが目印となる蛸墨に包まれる。と同時に、ウェールは黒く染まっていく視界が消えたことを感じ取った。
「ん、あれね」
 プラーマゴに捕食される蛸の最期を見ていたリュビアは緩い加速を掛けてプラーマゴの探知範囲を避けながら『目印』に近づいていく。
 竜宮幣を持たない個体も、囲まれるのを防ぐためには仕留めていくべきなのだろうが、対処をしている内にウェールのファミリアーが付けた目印が海水で流れてしまう。
「その前に、回収してしまおう」
 軽く平坦な語調とともに振るわれた大顎を思わせる一撃は、リュビアの語気とは反対に凄まじい威力でプラーマゴを砕いて見せた。
 回収した竜宮幣をしまいつつ周囲に漂うプラーマゴたちを警戒したリュビアの目が一点で止まる。
「ウェールさん、あそこにいるのとか、どうかな」
 すかさず、呼び戻したイカを泳がせてリュビアの視線の先へ向かわせる。
「どうやら、お手柄だな」
 そのわずかな違いはウェールの知る由もなかったが、リュビアの目にはチガイとそうでないものの差が見えていたらしい。
「イカ墨だからすぐに消えないのがいいね」

「あっ! 鬼灯くんまた黒いのが出てるわ!」
「うん、あちらはウェール殿とリュビア殿に任せても問題ないだろう」
 離れたところで二つ目の墨の目印が噴出したのを章姫と鬼灯の二人は見ていた。
 無論眺めているだけではない。鬼灯の手繰る糸、プラーマゴ同士の間に張り巡らされたそれが群れ一部の速度を減じさせている。
 徐々に徐々に、作り出された海中渋滞。
「Meer殿!」
「おっけーいくよー!」
 合図と共にMeerの魔法によって作り出された熱砂の嵐が、塊となって渋滞を始めていたプラーマゴたちを一気に包み込む。
 ミキサーにかけられるようにぐるぐると海中を旋回させられるプラーマゴたち。魔法によって生まれたダメージは大した傷を与えられていなかったが、Meerたちの目的はそこではない。
「どう? どう?」
(章殿、静かに)
 鬼灯に言われて口を小さな手で押さえる章姫。問われていたMeerは集中しているようで、目を閉じたまま耳を立てている。
 直ぐ近くで嵐の渦に巻き込まれているプラーマゴたち、彼ら同士が接触する音だけをMeerは拾おうとしていた。
「~~~~っわかったぁー!」
 難しい顔で俯いていたMeerの声がはじけると同時、1体のプラーマゴが土壁の魔法で押さえつけられた。
「承知!」
 幕を開くように土壁を剥がし、空繰の糸がプラーマゴを殻の中から引きずり出して躍らせる。
 プラーマゴの眼前で幾重にも折り重なっていく糸の塊が、短い音を立ててプラーマゴへ伸び、竜宮幣を取り出した。
「キラキラしていて貝殻みたいね!」
「ああ、とても綺麗だ」
 Meerが聞き分けていたのはチガイとそうでないものの音差だ。
 離れた場所では他の戦闘音も鳴っている。地上とは音の伝わり方も異なる海中で、衝突音を聞き分けるのは至難の技のはずだ。
「音も覚えたし、このやり方ならまた見つけられそうだね」
 それにしても、とMeerは思う。殻の中に紛れ込んだならまだしも、何故プラーマゴたちの体の中に竜宮幣が入り込んでいるのだろうか。捕食した際の異物として残っていた、と考えるのが妥当な線ではある。
 なんにせよ今回の目的は竜宮幣の回収だ。
「一杯チガイも持って帰るからねー! 待っててよー!」

 下部組の善戦と元々プラーマゴは脅威的個体ではないこともあり、人数分の竜宮幣集めは完了した。
「人数分以上集めて『ぎゃふん』と言わせたかったが……」
 プラーマゴの群れは既にその数を半数程度にまで減らしていた。
 しかし、そのほとんどが海底に辿り着いている。
「さっき確認した感じだと、他に竜宮幣持ちはいなかったのだろう?」
「ああ、残念ながら」
 ウェールは意気込んでいただけにその気持ちも強いのだろうが、執着するほどのことではない。メーヴィンがそう聞いた時には、もうその事を嘆いてはいなかった。
 海底に辿り着いたプラーマゴたちはどこへ向かうでもなく、直立させた殻の中から頭上遠くにいるイレギュラーズたちをじっと見ていた。
「気味が悪いな」
 縁はそう言ってから竜宮幣を海中で高く放り、すっかり遠くなってしまった海面を見る。
「そろそろ海水浴は終わりにするか」
「あぁ賛成だ」
 心底と言った様子のメーヴィンが我先にと海面へ向かうのを追うように、全員で海から揚がることにした。



「章殿、海は楽しかったかい?」
「ええ、人魚姫になった気分だったわ」

「それに鬼灯くんが一緒だったんだもの!」

「あーっ! そうだよ中身がなーいっ! 食べられてる!」
 浜辺に戻って来たMeerの第一声はそれだった。チガイを沢山持って抗議へ向かおうと思っていたが、プラーマゴが使っていたのは虫?食いだし、この辺りのチガイは軒並み収穫済みだ。
 リュビアは浜に揚げられたチガイの内部を観察していた。
「元から空洞ってことはないだろうしね。プラーマゴもチガイ食べるんだね」
「一応、食える部分も残っちゃいるが……虫? の食べ残しはなぁ」
 ルカの言う通り、チガイは商人が扱っているそうだし、市場に行けば売っているのだ。わざわざ虫食いを食べるというのは憚られる。
「……もうこれでいいかな」
「いいのか……」
「お土産だもん! 戦利品を持っていってあげるべき!」
 そうして穴空きチガイを乗せた馬車はビーチへ向かっていった。

 ディナーにはまだ少し早い時間だ。
 サマーフェスティバルの熱気は、未だ冷めてはいない。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 無事人数分の竜宮幣Get。お疲れ様でした。
 これから暑本番と言った夏さですが、皆様も夏さにあてられないようお気をつけください。
 ご参加本当にありがとうございました。

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