シナリオ詳細
Pizza Steal Horse ~鉄帝最速のピザ~
オープニング
●社訓『鉄帝最速であれ』
「諸君!」
叫びが空間を支配した。
剛毛口ひげ、片目にアイパッチ。象牙のパイプをくわえた顔の厳つさたるや、百戦錬磨の軍人に見るそれである。
ベースボールタイプの帽子には白銀の馬が描かれ、壁に並ぶトロフィーや盾にも同様のシンボルがかたどられていた。
それぞれに刻まれている名は――『ピザ・スティールホース』。
壁から上を見れば嫌でも目に付く巨大な『最速』の文字。
男は拳を振り上げて叫んだ。
「我々はピザ・スティールホース!
鉄帝最速のピザ配達業者だ!
我らの蹄は全てを乗り越え、カスタマーが空腹を感じる間もなく目の前へと届けてみせる!
あらゆる手段をもってして、最速のピザを届けるのだ! 誓いはひとつ――!」
ドン、と振り上げた拳を胸に叩き付ける。
分厚い胸板が誇らしく鳴った。
「鉄帝最速!」
叫びが空間を支配する。
されど。
その場にいるのは、この男だけだった。
がらーんとしたスタッフルーム。
壁にかかった数着の制服と帽子。
ホワイトボードに並んだスタッフ名簿には、全て『病欠』と書かれていた。
「…………」
普通なら臨時休業しちゃう事態だ。
しかし、彼は鉄帝の男。
鉄帝最速を名乗るピザ屋の店主。
ぶっちゃけ鉄帝最速を名乗る配達業者はごまんとしてどれが最速なのか誰も知らなかったりするのだが、やるからにはトップを目指すのが鉄帝流儀。そして――挑むからには逃げないのも、鉄帝流儀だ!
「今日も一日! 振り切るぜ!」
逃げない、休まない、そして諦めない。
●ピザスタッフ募集のお知らせ
「ぴざおいしいのです」
チーズをむにゅーって伸ばしてにこにこ笑顔の『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。
「お家でお腹がすいたときとか、頼めばすぐに来てくれるピザ屋さんは最高なのです。あつあつのピザがいつでも食べられるのです」
ピザのボックスを一人でかかえ、両手に一切れずつもってむにゅーってやるユリーカ。
「ピザといえば、鉄帝からピザ配達のスタッフ募集がされているのです。一日限りのスタッフですけど、場所はあの鉄帝なので……それはもうハードなのです」
ここからはユリーカのイメージでお届けしよう。
店長が注文を受けた途端、天才的な速さでピザを調理。『出来たぞ、持って行けィ!』とフリスビーみたく投げられたピザボックスを華麗にキャッチした仮スタッフ空想ユリーカ一号が馬に飛び乗りハイヨーうまー! 人の賑わう鉄帝の町を駆け抜ける駆け抜ける。
勿論目指すは最速到着。方角的に近いからって理由で人んちの庭を駆け抜け、ブロック塀を跳び越え、最悪屋内を駆け抜けてでも最速を目指すのだ。
かくして空想ユリーカ一号は『へいおまちなのです!』と言って自宅でぼーっとしてる客にフリスビーみたくピザボックスを投げつけるのだ。
そんなに振り回してピザがくずれないのかって? ボスのピザは防御技術が強いんだよ!(支離滅裂な発言)
しかしそれはただの一例。
時には戦場のど真ん中からピザ配達の注文が来ることがある。
それでもボスは『発進せよ!!』と言いながらピザボックスをシュート! キャッチした仮スタッフユリーカ二号は練達バイクに飛び乗りアクセル全開。振り切るぜなのです! とかいいながら戦場に突っ込んでいく。
襲う爆風。飛び交う銃弾。魔法と屍と剣とあれやこれやを回避回避たまには迎撃。アクションスターも真っ青の場面をくぐり抜け、塹壕でアサルトライフルばすばす撃ってる人の後ろにスライディングイン。おまたせなのです!
……とまあ、ハチャメチャにハチャメチャをかけあわせた混沌サラブレットみたいな配達を日夜行なっているのだ。
「離職率はいまんとこ零パーセントらしいのです。スタッフの皆さんは誕生日パーティーの牡蠣にあたったそうなのです。
『ローレットのみんなは魔種もパンチするマッスルヒーローなのでピザ配達くらい余裕だろ!』という気持ちで依頼してくれたので、ここはひとつ応えてみるのも粋なのです! うまうま!」
- Pizza Steal Horse ~鉄帝最速のピザ~完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年08月23日 20時45分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●鉄帝的更衣室ガタリ
シャツを脱ぐ音、はだける音。
竹籠に衣服を畳んで置いて、赤と白でぱっきりカラーリングされたピザ屋の制服に袖を通すは『月影の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)。
「ちょっと大怪我しちゃったからリハビリがてらに軽いバイトをしようと思ったけど」
シャツのボタンを首まで閉じて、サンバイザーを被る。額に輝く白銀の馬のシンボルと、『Pizza StealHorse』のロゴがきらりと光った。
「思ったよりハードな……いえいえ、頑張りませんと!」
ぱちんと自分の頬を叩き、弥恵は更衣室のカーテンを開けた。
「おはようございます!」
「おはよう! 今日も振り切ろうぜ!」
百戦錬磨の傭兵みたいなボスがパイプくわえたまま親指を立てた。
一方こちらは男子更衣室。
『太陽の勇者様』アラン・アークライト(p3p000365)はサンバイザーをきっちり被ってから鏡を見た。飲食は清潔感が肝要。客前に出るなら身だしなみも肝心だ。
「……って、勇者がピザ配達かよ。異世界に来て脳筋王国でピザ配達するなんて思いもよらなかったぜ」
とか逆異世界転生モノみたいなことを言うアラン。魔王がバーガーショップでバイトするアニメを彷彿とさせる。たしか勇者はテレアポしてた。
「えへへ、でも楽しそうだね」
『かげひなたに』千代・ヒナゲシ(p3p006319)がうきうきした調子で鏡に割り込んでくる。
「戦場でもどこでもピザを食べたいって鉄帝のひとは、とってもピザ好きなんだね。お口にダイレクトデリバリーなんて思わなかった」
「そういうもんかね」
「しかし鉄帝の奴らって身体が強そうなイメージだったが牡蠣にやられるなんてな」
『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)が反対側から鏡に割り込んできた。なんかナチュラルに男子更衣室にいるけど性別はわかんないものとする(コンプライアンス)。
「それよりもここの牡蠣ってやべぇのか?」
「たしか全長20メートルって聞いたな」
「やべえな……まぁそれは置いといてピザは美味いしここは早い。鉄帝最速を名乗るなら仲間の中でも最速を目指すぜ」
スタッフルームへやってくると、『千法万狩雪宗』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)たちが既にスタンバイしていた。
「私の全力を以て、熱々のピザを戦場の勇士達にお届けしようではないか。なぁに、腹を空かせた勇士達の為なら、たとえ火の中、水の中!」
ボスの空気にあてられたのか汰磨羈なりの順応性なのか、目に☆が入る勢いでやる気を出していた。
「決して諦めないその心意気……実に騎士道精神」
完全にピザ屋のバイトと化した『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)が胸に拳を当てて叫んだ。
「お任せください。必ずやこの窮地を乗り切ってみせましょう! よろしくおねがいします!」
すごい余談だが、いつも全力の鉄帝マンといつも真面目な天義マンはたまに意気投合することがある。お互いをヘナチョコとか無神論者とかいってばかにすることもあるらしいけど、今回は前者側パターンだった。
現に画に描いたような鉄帝マンの『黒鉄の意志』カノープス(p3p001898)もリゲルとウマが合っていた。
「これこそ鉄帝、というものだな。離れて久しいがやはり良いものだ。全力でお届けしよう」
ぎょいーんと謎の音を立ててヘルメットの内側から赤い目を光らせるカノープス。
ビッと親指を立てる『雲水不住』清水 洸汰(p3p000845)。
「因みにオレの好きなピザは肉がたっぷり乗ってるやつ! 特に照焼チキンが乗ったりしてたら最高だなー!」
「私はマルゲリータが好――」
ジリリリリン! 黒電話が鳴り響く。
響くと同時に謎のジェットで受話器が飛び、それをボスがキャッチ。
「何ィ!? ボンバ一家にミックスピザ五枚? かしこまりィ!」
とか言ってる間にいつのまにかピザができあがり、ギラリと輝く鋼鉄のピザボックスに突っ込まれた。
「出番だ天義マン! 持って行けィ!」
「リゲル=アークライト、アルタイル・ホワイトホース――行きます!」
カタパルト(?)から発進した白馬とそれに跨がるリゲル。
さあ、配達の始まりだ!(TRPGでよく使う戦闘導入テキストのノリで)
●白馬に乗ったピザ屋
ブルーンという誇らしげな声と共に白馬が鉄柵を飛び越える。
通りがかる人々が振り返っては叫ぶのだ。
「あれはなんだ!」
「馬か?」
「騎士か?」
「いや――」
馬に跨がり片手にはピザボックスを平手持ちする男、リゲル。
「ピザ屋だ!」
「ピザ・スティールホースです! 貴方の元へ熱々トロトロの極上のピザを! 最速でお届け致します!」
ピザ持って馬操ってる最中でありながらピッと敬礼してみせるリゲル。背景に散るイケメン粒子(アニメとかでよくかかるフォーカス的ななにか)。
無数の馬車や人を追い越して走るリゲル。地図によれば配達先はこの先だ。しかし舗装されたトンネル道路は馬車で渋滞していた。
「なんの、アルタイル!」
最後尾の馬車を白馬で飛び越えたリゲルは、その勢いのままいくつもの馬車の間をすり抜けて走ってゆく。
「申し訳ありません! お許しを!」
叫びながら追い抜く白馬と白銀馬シンボルの制服を見て、馬車から顔を出したゴリラ風の鉄帝マンがにやりと笑った。
「フッ、今日も平和だぜ」
やがて白馬は目的の家へたどり着き、塀を跳び越えたアルタイルより二段ジャンプで跳躍したリゲルはクロスアームで窓を破りつつ屋内へ突入。
リビングを転がって着地運動をとると、ソファに座って映画みてたゴリラ風の鉄帝マンたちにサッとピザボックスを突きだした。
「ピザ・スティールホースを、今後とも宜しくお願い致します!」
天義ナイトスマイル!
「「グッジョブ!!」」
アーンド鉄帝ホームスマイル!
「よし! パカお! オレ達の華麗なフットワークと仕事ぶり、見せてやろうぜ!」
洸汰は鋼鉄のピザボックスを手のひらと肩で上手に乗せると、鉄帝の商店街をパカダクラにのって駆け抜けた。
パカダクラってのんびり屋だしアルパカもラクダもマックス速度めっちゃ低いらしいけど軍馬と同じスピード出ることにしようや今日は。
「今日のオレはピザ配達人! 今日は友達じゃなくピザを守るぜ! いやむしろ……ピザは友達だぜー!」
目に☆を浮かべて叫ぶ洸汰。
おっと目の前で爆発だ。
商店街の蕎麦屋が揚げ玉をボンバーしすぎたせいで店が吹き飛んだらしい。瓦屋根と襖とテーブルと店主が吹っ飛んでくるが、洸汰はピザボックスを盾にして完全防御。
なに、ピザを守ってるのにピザを盾にするのかだって? こいつは優秀な盾なんだよ!
さらにはおおっと目の前のうどん屋から暴れ牛だ!
牛すじうどんを作ろうと鉄帝牛をさばこうとしたら逃げられたらしいぞ。全長3メートルくらいの人を殺しそうな牛が真正面から迫ってくる。
「いくぜー! パカおー!」
伊達に騎乗戦闘はとってねえ。洸汰は一旦ピザボックスをフリスビーみたく天空に投げると、パカダクラと共にジャンプ。
自らも激しい防御姿勢をとるとブロッキングパカバッシュを暴れ牛の額に叩き込んだ。
ブモーと言って大地に沈む暴れ牛。
駆け抜ける洸汰は落ちてきたピザボックスをキャッチしつつパカダクラから下りてスライディング。
「おまたせ!」
開いたボックスの中のピザは、作りたての綺麗な姿を保ったシーフードピザだった。
一方その頃鉄帝ファイター街をバイクで張りし抜けるのはペッカート。
ヘルメットに刻まれた白銀馬のシンボルがきらりと光る。
「俺もこれが終ったらピザ注文しようかなぁ。お持ち帰り割引とかありそうだし」
ひねるアクセル。ふかすエンジン。
ピザ配達ようのバイクだからって手は抜かない。スクーターなんて勝負にならないドゥカティ的モンスターバイクにものっすごい前傾姿勢で跨がっていた。
すると目の前を通るトラック馬車。このままじゃ激突するが、ここで輪動制御の出番だぜ。
「最速目指すって言ったもんな……ボス!」
アクセルをひねったまま派手にバイクを倒しピザボックスを手に持ったままバイクごとスライディング。
車体下部スペースをギリギリですり抜ける。ハンドルの端がトラックを、ピザボックスの角が地面をこすって火花を散らすがギリギリで耐え抜いて体勢をたてなおすと、そのまままっすぐ突っ走る。
すると目の前に見える格闘ジム。迂回する気なんてまるでないペッカートは表玄関からバイクで突入。
お互い殺し合う勢いでスパークリングしているボクサーやフェンサーやゴリラたちを軽く撥ねて(無論彼らにはノーダメージだ)突っ切ると、その先に配達先が見えた。
ブレーキアンドスライド。
激しく砂を巻き上げて停車したペッカートの手には鋼鉄のピザボックス。
「よう、待たせたな」
●戦場ピザデリバリー
超高高度飛行に耐える千代は、しかし今日ばかりは低空飛行を維持していた。
ボスのピザは高高度に弱いって聞いたからだ。
「それに塹壕があるような戦場なら、俺っていい的になっちゃうよねぇ」
民間人を撃ちゃあしないとは思うが、流れ弾に当たったり敵に間違われたりしたらアウトだ。なればこそ、地面すれすれの高速飛行が求められる。
高度約2メートル。
身を抜けてゆく風を翼でとらえ、千代は目を細めた。
腕に抱えるはピザボックス。
正面に見えるは鉄条網。
軽い上昇と共に眼前に見えてきたのは無数の古代ミサイルだった。
相手を選ばず追尾して爆発する古代兵器。そうここは鉄帝のいくさば。古代兵器の飛び交う地獄。火薬の臭いに導かれ、地獄の炎に照らされて、千代は豪快なバレルロールを敢行した。
真横ギリギリを飛ぶミサイルが、後方で爆発する。
きりもみ回転をして地面へ落ちるも受け身をとって前進を維持。足を地面につけたまま、千代は荒野のごとき戦場を走った。
前線が見える。数十メートルを挟んで二つの勢力がぶつかり合っている。銃弾や魔法が飛び交い、爆発と死の霧がはびこり、剣と拳ぶつかっている。
そのうちの一つ。石でできた即席塹壕の中がデリバリー先だ。
「いまだ……」
スライディングで潜り込め。
ボックスを投げて差をつけろ。
「食らえーっ、ボスの! そして俺の! 乾坤一擲ーっ」
回転して飛ぶピザボックスを、スナイパーライフルのスコープを覗いていた戦士は見もせずに背面キャッチ。
親指を立てて『ビューティフォー』と呟いた。
汰磨羈は戦場を駆け抜ける。
飛来する古代ミサイルも荒れ狂う古代ゴーレムも、紛れ込んだ野生のキラーマシンも切り捨てて走り抜ける。
「さぁ、ショータイムだ」
戦場のうしろに残してきた愛馬を想い、決意を胸にかき抱く汰磨羈。
手にしたピザボックスに己の霊力を伝達させると、回転しながら飛んできた岩をピザボックスで一刀両断。
「なんだ貴様は!」
「分からんがとりあえずぶっ殺そう!」
剣や斧を装備しこちらを振り返る兵士。敵か味方かはたまた客か。
客でないなら用は無い。
「貴様をピザの具にしてやろうかァ!」
世紀末魔王みたいなことを言って跳躍する汰磨羈。彼女の放つなんかよくわからない気合いと高い跳躍と無駄に加わった回転とピザボックスの陽光反射におもわず身体を硬くする戦士たち。
が、次の瞬間汰磨羈は彼らの背後に着地した。
そう、客でないなら用は無い!
「シャー!」
汰磨羈は謎の奇声をあげてダッシュを再開。
高下駄が大地を踏むたび焼き跡をつけて、眼前にそびえる古代砲台跡へと跳躍する。
回転。足からマナジェットを噴射して更に回転。砲台跡のてっぺんを崩壊させまき散らす鋼鉄の流星群。
それに戦士たちが気を取られているそのさなか、敵も味方もわきにおき、汰磨羈はある人物の前に着地した。
アンド、ピザボックスオープン。
「熱々の鉄帝ピザを喰らえッ!」
真正面から顔面へ叩き付けたピザ。
対して髭ずらの巨漢は背後から迫る敵をパンチで十メートルほど吹き飛ばしてから、サムズアップで振り返る。
「デーリシャスッ!」
「もってくれよ――プロメテウス・フレア!」
魔力ジェットが火を噴いて、フレアパターンの描かれたボードが空を飛ぶ。
サーフボードもさながらにバランスをとって乗るはアラン。
彼の手にはピザボックス。それ以外にはなにもない。
脳内に走るストップウォッチがコンマ一秒を刻む。
エンプティシグナルを発するボードの魔石。赤い点滅とブザー音に舌打ちし、アランは派手に跳躍した。
着地想定地点を目測。着陸姿勢に移行。
すると大地を割って巨大なミミズ型モンスターが現われた。
そう、ここは巨大ミミズ駆除業者の仕事場である。男たちはあちこちで人でも殺しそうな巨大ミミズにバックドロップをかけたり銃で蜂の巣にしたり刀で八つ裂きにしたりしている。
そんな中でピザ配達人がすることは一つ。
「死んどけェ――!」
自らを炎の矢としたアランの流星キック。
巨大ミミズの口から体内を通り体表を突き破って飛び出して、地面を派手にえぐりながら強制着陸した。
「ピザ、お待たせいたしましたァァァアア!!!」
投擲するピザボックス。投擲されるゴールド。
空中で交わされたピザと金は回転しながら互いの手に収まり、たった一瞬だけ顔を見合ったピザ配達人アランと名も知らぬ戦士はニッと歯を見せて笑い合った。
「死ぬなよ」
「ああ、冷めたピザは悲しいからな」
互いに背を向け、走り出す。男はミミズを殺すため、男は次のピザを配達するため。
今日も、男たちは走り続ける。
●鋼のピザデリバリー
「破ァ――!」
積み重なったコンクリートブロックの山をショルダータックルで突き抜けるカノープス。
タックルの破壊力をそのままに、彼はあらゆるものを突き抜けていく。
それは市場の屋台であり。情事にふける男女の寝室であり。血みどろで殴り合うストリートファイターの裏路地であった。
近いから楽なのではない。近いからこそ全力なのだ。
秒で届けるくらいの心意気を、ピザ屋はもっていた。勿論それは蕎麦屋やラーメン屋も例外ではない。
時に別の出前業者と方向が重なる時があり、狭い民家の隙間をどちらかが先に通らねばならない時がある。
ギョンと謎の音を立てて赤い目を光らせたカノープスは蕎麦屋の繰り出す真空回し蹴りを跳躍で回避。
『飛んだ!?』という声を背にエネルギージェットを噴射しながら宙を舞い、狭い隙間を通って表通りへと飛び出す。
表通りでは唐揚げ屋が勢い余って屋台を爆発させポップコーン屋が調子に乗って屋台を爆発させていたがなあにこんなの普通のことだ。
「今日も鉄帝は平和だな」
カノープスは笑みのようなものを浮かべ、爆裂する空気に真正面から突っ込んだ。
例え火の中水の中。カノープスは耐えしのぐ。ピザボックスを守るため、店のシフトを守るため。彼の心は鋼となった。
かくして民家の塀を突き破って現われたカノープスは、焼けた音をたてるピザボックスを家主へと開いて見せた。
「ピザ・スティールホールだ。ピザの配達に来た」
「OK、グッジョブ!」
コーラ片手に、家主はピザを素手でつかみ、かじりついた。
ここまでの流れをお読みの皆様にお聞きしたい。
こんなのピザ配達じゃないわ。ピザを持った猛獣よ! って思うかい?
だったら走ればいいだろ!(玄○哲章の声で)
「嘘でしょ? これが普通なの? 嘘でしょ……?」
カタパルトに『接続』された弥恵は首をぶんぶん振った。鋼鉄のピザボックスには『天下無敵』というステッカーが貼られていた。これは天地無用の間違いじゃ無いのとボスに尋ねたら『俺のピザがひっくり返ったくらいで崩れるわけがねえ』と当たり前みたいに言っていた。
「ないない、聞いてない。こんな仕事だって聞いてなキャアアアアアアアア!!」
弥恵は天高く射出された。
スローモーション。
ピザボックスを抱きしめて、ゆっくりと靡く髪。通り過ぎる雲。めぐる走馬燈。幼い頃に見たメリー。家の前で踊るスイートロールおじさん。ジェット噴射で飛ぶダルメシアン。レッドカーペットをバク転で駆け抜ける自分。
「……ってこれ私の記憶じゃない!」
くるくる回って両足から着地した弥恵は、腕をY字にしてぴしりと背筋を伸ばした。
『おー』と言って拍手するまわりの人々。
「身体……鍛えててよかった……」
じーんとしびれるつま先から指のさき。弥恵は生きていることを実感した。
この先の配達は案外普通だった。
暴れ牛が飛び出したりポップコーン屋台が爆発したくらいだった。
もうこのお仕事自体が彼女の災難みたいなもんだったのかもしれない。
そして人間さるもの慣れるもの。
「ピザのお届けに参りました、今日は舞姫のお届けサービスですよ♪」
くるくる回って片足ブレーキ。扉を蹴破る勢いで民家に突入すると、片手に乗せたピザボックスを突きだした。
こうして、本日のピザ配達業務は終了した。
だが明日もピザ配達人たちは職場に復帰し、ピザを届け続けるだろう。
この世に人が、生きる限り!
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete!
――Good Job!
GMコメント
ピザおいしいのです。
ブロッコリーとエビのピザがおいしいのです。
【オーダー】
一日の間ピザ配達のお仕事をすること、です。
ただしこの配達にはいくつかパターンがあります。
PCの特技や好み、絵面的な良さで分担して配置してください。
各パターンごとに2~3人いればいいカンジです。
・パターン1:お馬さん配達・バイク配達
馬や練達バイクにのって町中を駆け抜け、とにかく最速でピザを届けます。
その際人をひいたりものを壊したりすると減点(?)になるので、華麗な騎乗テクニックで町を駆け抜けてください。
すごく少ないケースですけど、『俺が馬だ』とか『俺がバイクになることだ』みたいな人は自力で突っ走っていいですよ。その際非戦闘時ということですごいスピードが出てることにしてOKです。
・パターン2:戦場ピザ配達
今まさにどっかと紛争中の戦場に飛び込んで塹壕とかにピザを届けます。後衛テント? そんなものはない。戦闘中の兵士に直接喰わせるのだ。
このとき戦場を駆け抜けることになるので、戦闘スペックがものをいいます。
大事なのは防御・回避・機動力。あと耐性とかクリティカルとか諸々です。最悪敵を倒してもいいですが、戦闘するターン数がもったいないので基本駆け抜けてください。全力移動はプレイングに書いて無くてもデフォでやっているものとします。
移動方法はこのときに限り徒歩や飛行もアリとしますが、超高高度での飛行移動はナシとします。ボスのピザは高高度に弱いって聞いたのです。
・パターン3:近場の配達
町の中。すぐ近くからの注文に、ダッシュで応える配達方法です。
民家を飛び越えたり塀を登ったりというフリーランニング的移動方法がデフォになります。空を飛んでもいいっちゃいいですが、その際別の業者との衝突や流れ弾にご注意ください。最悪酷い怪我を負います。
【おまけ解説】
・ピザの注文と調理の話
依頼人でもあるピザ・スティールホースの店長こと『ボス』はピザを作るのが死ぬほど早いという特技をもっています。なので調理や箱詰めその他の作業は全てボスがこなします。
どうしても『私調理と事務を担当したいんです』という方がいたら手伝ってもOKですが、プレイングガイドがなく濃厚なプレイングを自力で書けないと結果がすごくすかすかな感じになるのでご注意ください。
注文をとる方法は……その、あるんですよ、いろいろ。深く突っ込むと後々厄介なのでそこにはノータッチでお願いします。
あとボスの本名はボスです。親から『ボスになれ!』て名付けられました。直球なのも鉄帝らしさ。
【アドリブ度】
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。
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