PandoraPartyProject

シナリオ詳細

不凋なるアマラントス

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――雨が降る。
 窓を打つ粒の存在を確かに感じられる程には。
 雨が降っている。
 ……『遊楽伯爵』ガブリエル・ロウ・バルツァーレクは曇る空の模様を見据えながら、吐息を一つ零すものだった。頬杖を突きながら窓の外を見る彼の表情は、今日も今日とて憂鬱な色に染まっている。
 彼の悩みは幾つもある。一つは、現在の幻想を――より正確には特に貴族階級の間で――騒がせていると言っていい『ある令嬢』の事だ。あえて『誰』と口には出さねども、彼女が地位を追われるという事になったのは平穏の兆しとはとても言えぬ。
 むしろ幻想に新たに波打つ何かの兆しであろうかと思う程だ……
 かの事件は恐らく根深い。故にこそ遊楽伯は立場上、迂闊に調べる為の動きすら出来ぬ程に。
 ……代わりに、己の友人たるホルンが色々調べてくれてはいるが。
 サリューを騒がせた一件だけで収束はすまいと思えばこそ――憂鬱になるものだ。
 しかし。
 なによりそれ以上に、彼の心には別の懸念があって――

「――あぁ。皆さん、ようこそお越しくださいました」

 と、その時。
 伯爵の下へと案内される複数名の影があった――
 それはイレギュラーズ。ローレットより出向いた彼らは、伯爵から直々に依頼を受けた立場であり……一体何事かと思って来てみれば。
「実は。皆さんには、些か探して頂きたいモノがあるのです。
 ……まず。当家には『アマラントス』と呼ばれる華があります。
 枯れず朽ちぬとされる『不凋花』なのです――えぇ。比喩ではなく」
「それが、一体?」
「実は此れが、盗まれまして」
 盗まれた――? と思うが、話を聞くにどうもソレは『精霊』が行った事らしい。
 アマラントスの華。伯爵家に代々昔から継がれている貴重な花であり――本物の『不凋花』であるらしい。永久に色あせず凋まない……それは花の内部に神秘でも宿っているとされており、しかしだからこそ――その神秘がまるで、精霊の類には『蜜』の様に映るのだ。
 なるべく精霊の目にも触れない様に厳重に管理されているのだが。
 極、稀に――悪戯好きな精霊などが管理を突破し、花に辿り着いてしまう事があるらしい。
「しかし屋敷の外にまで持ち出された形跡はありません」
「と、なると――この屋敷のどこかに?」
「ええ。恐らく、多くの芸術品が保管されているアトリエの方に隠されているのでは、と思うのですが……それで、皆さんの力をお借りしたいのです。アマラントスの華は貴重なモノですので、その存在自体――えぇ。私は外部で語った事も、数える程度しかありませんので」
 例え近しい友人であろうとも、アマラントスの華の事を話したことはない。
 今回に関しても、イレギュラーズとは言え――ほぼ『やむを得ず』の範疇だ。
 涸れぬ花。不死を想起させるともされるソレは、とても神秘的な代物なのだから……
 かといって、自分一人だけでこの広い屋敷を探すのは困難だ。
 故にこそイレギュラーズ達を、と思い彼らを呼んだわけで。
「屋敷の案内はさせていただきますので――よろしくお願いします」
「伯爵自ら?」
「ええ。一部は、厳重に管理されている保管庫などもありますからね。
 私も皆さんに、是非同行させてください」
 微笑む伯爵。伯爵自ら案内してくれるとはなんとも贅沢な事だが――
 わざわざ依頼人が、そこまでする必要があるのだろうか?
 そういう疑問もふと沸く、が。
 何はともあれ依頼ならば、こなしてみようか。
 七月七日。
 外は雨が降っているが、段々と弱り始めていた。
 この調子ならば、もうすぐ空が見えるだろうかと――誰かが思考をする程には。

GMコメント

 ご縁があればよろしくお願いします。

●依頼達成条件
 アマラントスの華を見つけ出す事。

●フィールド
 バルツァーレク家が所有する屋敷です。
 時刻は夜に差し掛かっています。雨が降っていますが、間もなく晴れそうです。
 此処では後述する『アマラントスの華』が管理されていたそうですが――恐らく精霊の類に盗まれてしまった、と言う事です。外は雨が降っていて、精霊を含め誰かが外に出た形跡はない……故にこそアトリエ内の何処かに隠されていると思いますので、皆さんは非戦スキルや目視などなどを駆使して、探し出してあげてください。

 アトリエにはガブリエルも同行しますので、彼と芸術品や素晴らしい絵画などについて話してみてもいいかもしれませんね。此処だけでしか見る事が出来ない古今東西の芸術品などを見る事が出来たりするかもしれません。

●アマラントスの華
 バルツァーレク家に代々伝わるとされる本物の『不凋花』です。
 『不凋花』とはつまり永久に涸れない花、とされる代物で、確認される限り今まで本当に一度も枯れた事がないらしいです。内部には、まるで蜜の如き神秘が詰まっているとされ……それが『不凋花』たらしめているのではないか、と思われています。

 普段は盗まれない様に厳重に管理されているのですが、なぜか管理を突破され、精霊に盗まれてしまった様です。
 しかし外に持ち出された形跡がない為、屋敷の何処かにはあると思われます。

●ガブリエル・ロウ・バルツァーレク
 遊楽伯爵と謳われる幻想三大貴族の一人です。
 今回、皆さんを招待した依頼人でもあります――
 アトリエの探索にも同行します。無事にアマラントスの華が見つけ出されれば、その後は皆さんと共にティータイムも行いたいようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 特に危険はありませんが、OP中の情報には不明点などがあったりします。

  • 不凋なるアマラントス完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2022年07月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
シルフィナ(p3p007508)
メイド・オブ・オールワークス
小金井・正純(p3p008000)
ただの女

リプレイ


 ふと。『冬尽き、別れ』クロバ・フユツキ(p3p000145)は外の様子を見据えつつ『涸れぬ花』に思考を巡らせるものだ。駆け出し錬金術士の自らにとってみれば如何なる理屈によって斯様な花が在り得るのか――大変興味深い。しかし。
「リアのやつ、何があった? 体調不良にしては……
 いや。今は何も聞くまい。リアにもリアの事情があるのだろうしな」
「正直気にはなる所だけど――リアさん自身が『そう』言うのなら、ね」
 同時に『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は『玲瓏の旋律』リア・クォーツ(p3p004937)の様子が気になる所でもあった。

『……悪いんだけど皆、今日はちょっと、その……体調が優れないから……
 私はいないものとして扱ってちょうだい。きっとそれが良いわ』

 斯様な事をリアは皆に告げていたのである。その言の意が『何処』にあるか。
「うん、わかったよ! リアちゃんはいないってことにすればいいんだね! ……でも、体調がよくないなら無理しないでね? このお仕事が終わったら、しっかり休んで元気になってくれなきゃダメだよ!」
「……でも本当にいいの? だって、今日は、リアの……それにさ。リアの想い人の……」
「――いいの。ありがとう焔、シキ」
 いずれであろうとも、リアと親しき仲である『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)や『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)はリアに言を紡ぐものだ。特にシキは折角の伯爵の屋敷への訪れ、かつ『今日と言う日』なのに良いのかと。
 だけれどもリアは止まらずに往くものだ。
 ……明らかに普段と異なる様子。些かの戸惑いがシキの中に生まれるが、しかし。
 本人がそう望むのならと……思考を重ねて。
「さて――なにはともあれ、まずはお仕事をこなさねばなりませんね。
 アマラントス、決して枯れない華を探しましょう」
「枯れぬ不凋花、ですか。黄泉には、そういった花もあった覚えがありますね。
 現実に……生者の世界に其があるのは混沌だからこそ、でしょうか。
 些か興味深い所でもあります」
 然らば『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)に『白秘夜叉』鬼桜 雪之丞(p3p002312)もまた、アマラントスの花を探さんと行動を開始するものである。二人もリアの様子には勘付いているが……
 しかし例えば伯爵との間の、二人の問題であれば干渉より見守る事も必要かと。
 それに曲りなりにも『依頼』であるのは確かなのだ。

「皆さん。お手数おかけしますが……何卒、よろしくお願いしますね」
「は、はい。初めまして、バルツァーレク伯爵……微力ながら、力を尽くします」

 それに。当の遊楽伯爵自身も共に来るのだからと――
 『はじまりはメイドから』シルフィナ(p3p007508)は初めて会う伯爵に些かの緊張をもってして彼に接するものである。貴族階級の頂点に立つ幻想三大貴族の一人……ガブリエルはその中でも穏やかな人物であるが、どうしても心が張りつめてしまう。
 それでも。己に成し得ることを果たさんと。
 屋敷の中に――歩を進めるものであった。


 捜索の手は屋敷の各地に広がっていた。
 何処に在るのかと。その中でもシキは、感情を探知する術をもってして件の精霊の位置を探らんとする。悪戯好きな精霊であれば、きっと楽しい感情を抱いている筈だ――
「でも悪戯は私だって得意分野なんだよ? さぁ、どこに隠したのかな……?」
 己が盗む側なら、きっと己もそうであろうから。
「ふむ。如何に隠れ上手であろうとも、他に気配がないのであればいずれは見つけることが叶いそうですね……しかし伯爵様のアトリエたるや流石と申しますか華々しい。此方の、日本刀らしきモノは――?」
「あぁ其方は豊穣で発見されたという代物ですね。なんでも『無』の字を刻む、優れた刀匠の一品だとかで……一説によるとあちらの貴族階級のお歴々に幾つも献上した事がある者の作品なのだとか」
 次いで雪之丞もまた式神を操りて捜索の目を増やすものだ。
 幸いと言うべきかアトリエは彼女の予測通り整然と飾られている上に、彼女達以外の一般人などの余計な気配はない――つまり自分達以外の気配がないかに集中するだけでいいのだ。美しき並びに異変がないかはシキも警戒している所であり、着々と捜索の輪は広がっていく。
 途上。珍しき芸術があらば伯爵に語り掛ける余裕もあるもので。
 然らば正純もまた芸術品に関しては興味を抱く所もあるものだ。
「なんと。豊穣由来の一品すら伯爵の御手許には届くのですね。
 ふむ……『無』の字……天香家にも関わりがありそうでしょうか……」
「はは。さて、私は豊穣の細かい所まではなんとも」
 特に豊穣の名が出れば、なんとなしにも心の針が向く。
 同時に想うは天香の名を継ぐ遮那の事も、だ。伯爵と遮那の二人……互いに穏やかであるし気も合いそうだと。いずれ対面できる時があれば紹介したい所でもある。
「輝かしき芸術品の数々……目を奪われてしまいそうですが。
 だからこそ精霊が隠れそうな場所にも幾らか見当はつくものです」
 とは言え依頼の事も忘れてはいない。
 正純は視線をあちらこちらに。精霊が混んで隠れそうな場所……
 芸術品の陰などにいないかと捜索して。
「不凋花ですか……精霊が持っていくなど、不運ですね。
 ですがご安心ください――必ず見つけてみせますので」
「ええ、シルフィナさんありがとうございます……
 そういえば。今日は、なんと申しますか。
 その……『他の方』はいらっしゃらないのですか?」
「ん――何の事? ローレットから来た人員って事?
 今日はここにいるメンバーだけでのお仕事って聞いてるよ? ねっ、シキちゃん!」
「そうだね。此処にいるメンバーだけで全員だよ――
 と、伯爵。これはどんな美術品なんだい? 珍しい形の壺だね」
「あぁそれは最近、海洋の海底で発見されたという代物でして……」
「あ! 伯爵伯爵こっちは!? な、なんでパ、パルスちゃんのライブ姿の絵画が!?」
 その時。花を探すシルフィナに言を掛けつつ伯爵もまた周囲に視線を。
 しかしそれは精霊を探す、というよりも『他に誰か』がいないかと――斯様な意が含まれながら焔やシキに問いかけるものだ。伯爵が言っているのは……リアの事であろうか。しかし彼女から既に頼まれている二人は口裏を合わせて伯爵の気を引かんとする。
 数多の美術品を指差し解説を求め……さすればその間に当のリアは。
「……ありがとね皆」
 只管に。伯爵の目に留まらぬ――陰から陰へと移動するものだ。
 絶対に出会わぬ為に。とにかく視線の欠片にすら映らぬ様に……注意して移動を。
 時には幻を操る術をもってしてでも、だ。
 壁や花々。自らの丈程はある石像などを顕現させて身を潜める。さすれば。
「やれやれ……ま。貸し、にしておいてやるよ」
「? クロバさん、どうかしましたか――?」
「いいやなんでも。それより伯爵、この先にある、古ぼけた地図だがこれは……」
 クロバもまたその動きを援護する様に、伯爵の気逸らしに務めるものだ。
 彼女があそこまで徹底するのであれば余程の理由があるのだろう。
 ならばリアの望みの儘にしてやるものだ。そして広がった捜索と、それらから得た情報を基に精霊がまだ潜めそうな場所を割り出していく。更には彼に宿りし数多の芸術の知識を用い……精霊が好みそうな価値のある芸術品をも見出して。
「そうそう。アマラントスの外見はどんなものなのかしら?」
「外見ですか。そうですね、色は純白で……アネモネにも少し似ているでしょうか」
「ふぅん――こんな感じに?」
 と。レジーナが伯爵へと語り掛け花を再現してみるものだ。
 それは彼女に宿りしギフトの一端。あくまでも聞いた情報からである故に全く同じモノではないかもしれないが……『しおれない』と、別の世界では意味される花の造型は知っておきたい所であるし、精霊がコレに釣られてくれれば尚に万々歳。
 まぁそこまで上手くいく期待はしていないが、と。
「ところで、何故アトリエに精霊が逃げ込んだと思うのかしら。我は専門家ではないから分からないのだけれども精霊にはそういう性質があるのかしら? それとも何か他に手掛かりでもあって?」
「ふむ……外に出た形跡がありませんでしたからね。また、このアトリエには様々な代物がありまして……中には多少の魔力を宿したモノもあります。そういったモノに精霊が惹かれる事も稀にあるのです」
「成程。で、伯爵。率直に尋ねるけれど、リアさんと何かあったりしたのかしら?」
 直後。レジーナは、紡いだ。
 それは只の直感だけれども。ヘタな誤魔化しはダメよ。
「いえ、それは。その……」
「深く問うつもりはないわ。でも、ヘタな誤魔化しはダメよ」
 『状況』をなんとかしたいのなら、歪曲的な形ではダメなのだ。
 彼女の明らかにおかしい様子は――少し、本当に心配になるから。
「…………私は」
 さすれば。口ごもる伯爵。
 あぁやはり何かあったのだなと。誰の目にも分かり――と、その時。

「……あっ! いた、いたよ、アレが精霊さんだ……!」
「ふむ。やはりいましたか――これも星の導きでしょうか」

 焔と正純が見つけた。白き花を手に携えた、小さな精霊を。
 ……が、大きな声は出さない。こっそりと、精霊と意志を疎通させる術を持って話しかける程度に留めるものだ――さすれば精霊も気付き。怒られると思ったのか慌てて逃げんとする動きを見せるが。
「あぁ待って。その花を返してほしいんだ。大事なものらしくてさ。
 それがないと私の親友がきっと悲しい顔をしてしまう……それは避けたいんだ」
 其処へと至ったのがシキだ。
 悪戯好きなのは、いい。だって気持ちは分かるからね。
 私が君の気のすむまで遊びに付き合うよ。一緒に悪戯もしちゃう。だから、ね?
「そのお花はね、とても……とても大事な物なの。ね? 良い子だから……ちゃんと返してくれれば、後で御礼に沢山音楽を聞かせてあげるから。さ、こっちに頂戴?」
 と、説得を行っていれば――リアも精霊を発見するものだ。
 ここでも伯爵の目はないかと一度注意しながら……精霊へと語り掛ける。
 意地悪しないで返して頂戴。大丈夫、怒らないから。
「お願い――」
 リアは手を伸ばす。
 ……ガブリエル様の顔なんて見るつもりはなかった。今だってずっと、ずっと。
 だけれども――その花だけはどうか返してあげてほしいと、願いながら。

『~~♪ ~~~♪』
「おっと――返してくれるんだね。うん、ありがとう――また会おうね」

 さすれば。直接意志を交わせる術によって交渉しやすかったが故か? 精霊はイレギュラーズ達へと花を返すものだ。シキの手の平に……落とされるのは、件のアマラントスの花で。
「……これが『不凋花』ですか。ふむ。不思議な感覚があるものですね……
 ひとまず、特に傷ついている様子でないのは幸いでしょうか」
「ああ。伯爵に報告しに戻るとしようか」
 同時。雪之丞やクロバも、その花を確かに見据えるものだ。
 純白にして永遠に涸れぬとされる『不凋花』
 その輝きを……


「おぉ……見つけて頂けましたか。
 ありがとうございます。なんと御礼を申し上げて良いか……」
「ううん、いいんだよ! それよりもお茶会までしてくれるなんてこっちが御礼をいう感じだよ! ……でもさ。今まで盗まれたことがなかったものが持っていかれちゃうなんて、何か理由があったのかな?」
 そして伯爵へとアマラントスの花を手渡すイレギュラーズ。
 これで依頼は完了だが――お礼にと、伯爵は皆を茶会に招待するものだ。
 上質なクッキーや紅茶が揃った場……にて。しかし焔は率直な意見を一つ。
 ――そもそもなぜ花が盗まれてしまったのか?
 今までにそんな事は無かったはずだし厳重に管理されていたんだよね……?
「たとえば。たとえばなんだけどね? それを探してって依頼を出して。普通の方法じゃ会えないような人に来てもらうために……元々、盗み出せる隙を作っておいたとか」
「つまり――誰かに会いたくてイレギュラーズに依頼したのかい? 伯爵」
「…………」
「正直な所、私も踏み込ませすぎな気もしていましたが、意図としてはそちらが本命で……? いえ、余計な事を言いました。忘れて下さい」
 同時。クロバや正純も似たような疑問を口にするものだ。
 精霊に盗まれた、というのは事実だった訳だが。その前に、どうして精霊が盗むことが出来たのか――という疑問点を追求すれば『そういう事』なのではないかと。伯爵は、なんとも、困ったような微笑みを見せるだけで……それ以上『何』とは言わないが。
 でももしそうなら。
(だとしたらその人のことが凄く大切なんだね。
 今まで秘密にしてたお花の事を話すことになっても会いたかったんだから)
 焔は、思考するものだ。彼の……伯爵の、想いの強さに。
「――ま、いいさ。とりあえずこの花、興味があって聞きたい事もあってな……
 この花は一体いつからあるんだ? それと、可能なら蜜を採取してみたいんだが」
 そして。クロバが後学の為にとアマラントスへの疑問を口にすれ、ば。
「さて……確認しうる限りでは、バルツァーレク家の初代から保管されているとは聞きます。そして蜜ですが。実は、これに蜜はないんですよ」
「……蜜がない?」
「ええ。これは涸れぬ花。完成され、完結している花。
 故にこそ――虫や蝶などを寄り添わせる必要を花が見出していないのです」
 だからこそ純度の高い魔力が内包されている……とも伝えられている。
 正純がアマラントスの花を見据えてみれば確かになんらかの魔力を感じ得るものだ――込められている神秘に、一体どのような効力があるのか。一見した限りでは言う程高純度には見えぬが……?
「ふむ……しかし別の見方をすれば精霊を誘い出しているようにも見えて、不思議なものですね。例え完璧であったとしても生きているなら、何物も飲まず食わずには居られずの筈……」
 同時。伯爵の説明に、アマラントスを覗き込む様に見据えながら疑問を呈すは――雪之丞だ。
 不凋花。成程、完璧が故にこそ蜜を出さぬ、と。
 しかし。純粋な生物を寄せずとも、此度の様な精霊を寄せる事はある。
 ……ならば。かの花が宿す真の蜜とは、精霊を捕食するための餌、などというのは。
「穿ち過ぎた見方でしょうか」
「……ふむ。面白い見解ですね。
 考えた事はありませんでしたが……斯様な見方もあり得ましょうか。
 黄金に目が眩む人間がいる様に、花の蜜に目が眩む精霊がいるというのも……」
 伯爵の手の内に収まっている純白のアマラントス。
 雪之丞は。その神秘の内面を見据える様に――窺い続けて――
「ねえ伯爵。これはただのお節介だけどさ」
 と、その時。言を紡いだのはシキだ。
「今日って何の日かわかる? 七夕だけどさ、それだけじゃなくて……
 『おめでとう』の一言だけでも伝えてほしいの」
「それは――」
「当然、リアにだよ」
 私は。リアと君のあいだに何があったかはよく知らないけど。
 あの子に幸せになって欲しい気持ちは誰にも負けないつもりだし。
 ……あんな暗い顔をさせ続けたくないのは、伯爵も一緒じゃないかな?
「雨も、もうすぐあがるみたいだから」
「ああ――今日は七夕の夜でしたか。通りで身体が痛むわけです。
 ……しかし。やはりこの時期の星空は、綺麗ですね」
 そして。シキが視線を外へと向ければ――いつの間にやら雨は上がっていた。
 さすれば正純が体をさするものだ。特に、機械と生身の境目を……
 彼女に宿りし祝福は、時に体を縛る鎖でもあるから。

 ――満天の星空が見うる時こそに。

 天の川。そう形容されし程の輝きが天にあって。
「あぁ。今日は七日でしたね。然らば、伯爵はご存知ですか?」
 次いで。雪之丞もまた、伯爵へと問うものである。
 空に掛かる星の川。
 ――そこで一年に一度だけ、逢瀬が叶う恋物語を。
「故に。星空を眺めるのも一興かと。そして感じ得ることが在らば……」
 お心の儘に、動く事も良いのではないですか?
「貴族としては自由にならないでしょう。立場というのもある事でしょう。
 ――でも男としてはどうしたいのかしらね?」
「私は………、………むっ?」
 更に続けざま。レジーナも言を紡いで……と同時。
「伯爵様? どうかされましたか?」
「いえ。今……なんとも、匂いがした様な……」
 ガブリエルが開かれた窓の外を覗くように視線を向けた。
 シルフィナが怪訝そうに問えば。
 伯爵の嗅覚に、なにやら見知った匂いがしたのだ。
 ほんの微かに。雨の匂いに紛れていたが、しかし……
「……リアさん、やはり?」
 それは、いつも。
 リア・クォーツが伯爵と会う時に付けていた香水の匂いに、似ていた。
 ……然らばその視線の果て。空の輝きに紛れる様に彼女はいる。
 偶然にも雨が止んだから。せめてアマラントスを一目だけでもと思いて……
「……っ、ぅ。なにやってるのかしら、ホントに」
 頭が痛い。体調が悪いのは、きっとクオリアの所為だろう。
 だけれども、どうして?
 どうして……この胸の奥で、痛みが走るのだろうか?

 ……ガブリエル様の、馬鹿。

 雨は、もう降っていなかったけれど。
 たった一粒の雨粒が――誰かの頬に流れていたかもしれなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お待たせしました。依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 一夜の出来事。なんとも、色々な想いが込められていた様です……
 ありがとうございました。

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