PandoraPartyProject

シナリオ詳細

民のため、友のため

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ひとつ……いや、ふたつ、かの。頼まれてほしいのじゃが」
 夢の都『ネフェルスト』内にあるローレットのラサ支部。そこで見つけた見知った顔に、瑛・天籟(p3n000247)は「また頼まれてくれんかのぅ」と声を掛けていた。
「あら、ふたつ? いいわよ」
「無理難題でなければ大丈夫だよ」
 返ってくるふたつ返事は、ジルーシャ・グレイ(p3p002246)とスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)のものだ。側に居たリースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)も、天籟とは初見だが「勿論です」と微笑んでくれている。
「相済まぬなぁ。助かるのじゃ~。それでのぅ、頼みと言うのはの」
「おお! ジルーシャではないか!」
 声の大きい――背も大きければ態度も大きい――フードを被って顔を隠した男に天籟の言葉は遮られた上に、ぷかぷか浮いているところをぐいっと押しやられた。思わず天籟を視線で追おうとしたジルーシャだったが、その大男が被っていたフードを取り払ったことでその視線は高い位置で留まった。
「やだ、天ちゃんじゃない。どうしたの?」
 イレギュラーズではない亜竜種が覇竜領域の外へ出るのは極稀だ。瞳を見開いて呵呵と笑う鳳・天雷(ホウ・テンライ)を見上げていれば、すぐに戻ってきた天籟が目を据わめて。
「こらぁ、雷の! わしの権限で連れてきてやったのに、勝手をするでない! まったく主という男は……! ……どちらかと言えば、これはふたつめの方の頼み事なのじゃが……まぁ、先でもよかろう。ほれ、ふたりとも挨拶をするのじゃ」
「あ、はい!」
 天雷という大きくも派手な亜竜種の後ろから、声を掛けられて肩を跳ねさせた緑のフードを被った少女が姿を見せた。最初からふたりの亜竜種たちは天籟に着いてきていたのだが、ふたりともラサやローレットが珍しいのかあちらこちらへ視線をむけるのに忙しい様子であった。
 少女がフードに手を掛けて後ろに下ろすと、クリーミーピンクの髪がさらりと溢れる。
「フリアノンから来た、白・雪花(バイ・シュファ)だよ。キミたちの仕事っぷりを見せてもらいたくて、連れていってってお願いしたんだ」
 将来冒険者になりたい雪花は、ペイトに住む幼馴染から「師父(天籟)に頼んでみれば?」と言われたのだそうだ。
「儂は鳳・天雷じゃ。そこの小さいのやジルーシャの友で、今日はその娘のお守り役じゃな」
「という訳で順番が逆になったのじゃが、ひとつめの頼み事の方はの、ラサから『玉髄の路』の交易所へ向かう商人の護衛を頼みたいのじゃ。
 そしてふたつめが、こやつらのお守りじゃ。わしは所要があって着いていってやれんのでのぅ、わしの代りに雪花のお守りは天雷が務める。天雷は腕は良いのじゃが……ほれ、このような男での」
「呵呵! 道中何事も無ければ話し相手にでもなってくれ!」
「そういうことなら、私も力になれそうだね」
「商人さんはどういった積み荷を?」
 スティアが雪花と天雷によろしくねと笑いかけ、リースリットもまたふたりに笑みを向けてから天籟へと視線を向ける。
「うむ。主な荷は薬草じゃな」
「薬草……。そう言えば、覇竜は大変だったわね」
 蟻――アダマンアントによる被害も有り、薬草が足りていない集落も多くあることは深く考えずとも解ることだ。察したジルーシャが困ったように眉を寄せると、うむと頷いた天籟が「それもあるんじゃがの」と口にして。
「わしの古くからの友で鋩・蝋流(ぼう・ろうりゅう)と言う男がおるんじゃがの、腰を痛めておってのぅ。しかしあやつはプライドが高くての、わしが腰痛に効くという薬草も内緒で色々と取り寄せてやったのじゃよ。どれが効くかわからんからのぅ……あやつに合うものが見つかれば良いと思ってのぅ」
「大変。痛み止めの香も調香しておくわね」
「おお、助かる」
「積み荷も無事にお届けいたしますね」
「私達に任せてちょうだい」

 商人に引き合わされたところで天籟とは別れ、一行はラサの砂漠地帯を抜けて玉髄の路へと至る。
 道中の安全はできるだけ確保されているとは言え、亜竜たちは亜竜たちの都合で活動している。つまり――。
「おお、来おった来おった。亜竜じゃ。雪花は儂と荷馬車の側に居れ」
「うん、わかったよ。キミたち、頑張ってね!」
 雪花は危険に首を突っ込まないことを口が酸っぱくなるくらいに言われてラサ行きと商人護衛への同行が許可されている。イレギュラーズたちが来る前までは、領域(くに)を抜け出してはすぐに見つかって連れ戻されていたが、今はお目付け役有りの玉髄の路への荷馬車の護衛付き添いならば許可が降りることを知った。つまり、良い子にしていれば『次』もあるかもしれない、ということだ。
 そのため雪花は天籟との約束を守って荷馬車の影に商人とともに隠れ、天雷越しにイレギュラーズたちを見守った。
 彼等の姿が、きっと未来の自分の姿なのだ、と。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 今回は玉髄の路にて、商人の護衛をして頂きます。

●目的
 交易所までの商人(荷馬車)の護衛

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●フィールド
 『玉髄の路』と呼ばれる渓谷地帯です。
(玉髄の路:https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7900)
 玉髄の路には交易所が建設されており、そこまでの護衛をします。(商人達は直接フリアノンへは行けません。亜竜種達はまだまだ排他的なものも多いためです。)

 今回の舞台は、玉髄の路内の交易所へ向かう道です。
 進行方向向かって左側は土壁の崖(高い方)となっており、右側は崖(転がり落ちる方)とかなり低い位置に細い川が流れています。左側の崖に沿って登っていっている感じです。道の幅は、荷馬車の左右に人が一人ずつ着いて歩けるくらい(荷馬車が無ければ4人並んで歩いても隣の人に手が当たらないくらい)です。
 敵は前方、進行方向からやってきます。

 進行方向↑      高
 崖   崖川   高← →低
 崖 荷 崖川     低
 崖   崖川   な、感じです。

●タルタロワイバーン×3体
 背中に退化した小さな翼を持つ重量系亜竜。サイに近い見た目の草食亜竜で、飛べないワイバーンです。温厚な性格で、普段は人を襲ったりはしません。
 坂になっている道を、ドドドドドと駆け下りてきます。そのままにしておくと轢かれてしまうので、何とかしましょう。倒して崖下に落としてしまうのが楽ですが(彼等の死体があっても荷馬車が通れないので)、他に方法があるなら倒さなくても大丈夫です。
 強さ的にはさほど強くはありませんが、重量系タックルをして吹き飛ばします。1体で道の幅ギリギリくらいの大きさで、最初の一体から少し離れた後ろにも砂煙が上がっている点から複数体いるのだということが解ります。
 少し硬めですが高火力でオラオラァ! とすると倒せるくらいの強さ(具体的に言うとHP10000くらい)なので、手早く倒せば後続と玉突き事故が発生すること無く倒せます。
 イレギュラーズたちが押し負けてしまった場合、天雷も頑張りますが……ドドドドドと来られると荷馬車諸共吹き飛ばされると思います。

●同行者
・ラサの商人
 丸顔のカイゼル髭の男性。柔和でおっとり。
 天籟に頼まれて薬草メインに荷を運んできました。戦闘能力はありません。

・白・雪花
 亜竜集落フリアノン出身の亜竜種。
 イレギュラーズたちに紹介される前にラサの市場を天籟たちと見て回ったので、ルンルンしています。幼馴染たちへのお土産も買えた上に、覇竜領域の外に出られてとてもご機嫌です。
 魔法を嗜んでいるので少し戦えます……が、トラブルメーカー気質なので、大人しくしているように言われています。商人が危ない場合は商人を守ろうとします。

・鳳・天雷
 フリアノン近くの集落に棲んでいる放浪癖のある派手な亜竜種。
 以前イレギュラーズたちにアダマンアントから助けて貰ったことがあります。
 今回は雪花のお目付け役です。友(天籟)のために請け負いました。子供に危ないことはさせるなと天籟から言われており、商人と荷馬車に被害が及びそうな場合に動きます。物量で押されない限りは大丈夫です。

●鋩・蝋流(非同行者)
 亜竜集落ペイト出身の亜竜種。
 強いが故に家督を譲ることを息子や娘達に断られているおじいちゃん。
 腰痛持ちだが、腰痛に効く薬をイレギュラーズたちに求めるのはプライドが許さなかった。が、何となくその気持ちを察した天籟(明日は我が身かもしれない)がこっそりと腰痛に効くものを探していました。今回の薬草等も内緒で用意して、ほれと何でもないように渡します。有事の際、蝋流は民の側、天籟は里長の側にいるため、長く現役で居て欲しいと天籟には思われています。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • 民のため、友のため完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ディアナ・クラッセン(p3p007179)
お父様には内緒
アンバー・タイラント(p3p010470)
亜竜祓い

リプレイ

●荷馬車ゴトゴト、玉髄の路を行く
 渓谷から見える空は、いつもよりもかなり狭い。
 視界の左は土壁が占め、右は開けているがやはりその奥に崖がある。更にそこへ『浮遊物』があればなおのことだ。
「ローレットの人たちってリトルワイバーンをこんなにも手懐けていたんだね」
 ラサの商人と御者台に腰掛けた白・雪花は空を見上げて口にした。
 ラサの砂漠地帯を越えて『玉髄の路』へと入った頃、数名のイレギュラーズたちがリトルワイバーンを呼び寄せた時には瞳を丸くしたものだ。噂では少し聞いていたものの、こんなにも懐かせられる『外の人』たちがいるだなんて。実際にその目で見るとやはり驚くものがあった。
「空からの護衛か。なる程、考えたものじゃ」
 荷馬車に着いて歩く鳳・天雷は、ふむと顎をひと撫で。ラサの商人も安全が確保されて心強いと始終穏やかな笑みを浮かべていた。
「ま、オレたちイレギュラーズにどーんと任せて、安心して進んでくれよ商人さん! 雪花ははしゃぎすぎて馬車から落ちないようにな!」
「大丈夫だよ、私しっかりしてるし」
(自分でしっかりしていると仰る方こそ不安を覚えますけれどね)
 『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)が声を掛ければ雪花が頬を膨らませながら、ちゃんと座り直す。その姿を見て心の中でそっと嘆息を零すのは『亜竜祓い』アンバー・タイラント(p3p010470)だ。しっかりと気を配る必要はあるが、仲間たちがいるため然程心配はいらないだろう。
 空に浮かんでいるリトルワイバーンは全部で4体。左手に土壁、右手に川が望める崖の狭い渓谷では、低空飛行で荷馬車の上に着けるのは羽の大きさを考えれば1体だが、他の3体は高い位置を旋回し、広い視野で危険への早期発見を務めてくれている。
「ね、ね、そういえば、皆でラサの市場を見てきたのよね? 何が一番気に入ったかしら?」
 荷馬車の隣を歩む『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)が明るく声を掛ければ、天雷はすぐに「装飾品じゃ!」と返す。
「矢張り覇竜領域で見かけぬ種類が多いのが良いな」
「私は幼馴染たちへのお菓子のお土産を買ったけれど、気に入ったものは……うーん、ひとつって決められない。全部だよ! 大きな市場って素敵だよね!」
「お買い物って楽しいわよね♪ アタシも素敵な香料とかおいしそうなスイーツを見つけたらついつい買いすぎちゃうもの」
「お金が際限なく使えたら今頃抱えきれないくらい抱えていたかも!」
「買い物を楽しんで頂けて、ラサの商人としても嬉しいです。勉強させてもらいますよ」
「あら、それじゃあ交易所に着いたら交渉させてもらってもいいかしら?」
 勿論ですと腹を揺らして笑うラサの商人と、一行は安全第一に進んでいく。
(玉髄の路も、交易の往来の安定にはまだまだ時間がかかりそうですね……)
 和やかな気配に瞳を細めた『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は、そんなことを思った。覇竜領域は亜竜種でさえも危険な地だ。商人たちが安全に行き来が出来るようになるのが一番だが――なかなかそうはさせてくれないのが亜竜の存在である。
(亜竜がいるから、盗賊は巣食えないようですけれど)
 イレギュラーズや亜竜種のように腕に覚えのある者でなければ、此処を根城にしようとは思わないだろう。その点は亜竜の恩恵でもあるような気もするが、商人たちがもっと安全に、進んで交易をしたいと思えるような環境になってもらいたいと望んでしまう。
(けれど、路を開いて本当によかった)
 危険ではあるが、こうして交易をしようとしてくれる商人がいてくれる。
 足りない物資や文化を運んでくれる商人は貴重だ。特に薬は、合う合わないがある。そのため天籟は覇竜領域だけではなく、『外』までその選択肢を広げるべく依頼した。
 リースリットは腰痛が楽になる薬があれば良いと、積み荷へと視線を送った。

 異変が起きたのは、その道行きが半分を越えた辺りだろうか。リトルワイバーンに乗っているイレギュラーズたちも交代で休息を取り、「私がリトルワイバーンに乗ってるって知ったら、お父様はきっと開いた口が塞がらないわ」と笑みを浮かべて『お父様には内緒』ディアナ・クラッセン(p3p007179)が再度浮かび上がった頃、リトルワイバーンで空からの護衛をしていたイレギュラーズのひとりが異変に気が付いた。
「何か来ているな。――亜竜か?」
 黄土色のリトルワイバーン――ジーヴァに跨る『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)だ。「皆!」と上空で鋭く声を発すれば、『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)と『白秘夜叉』鬼桜 雪之丞(p3p002312)もそれを視界に納めた。
 足場どころか低空の狭さも限られているこの場所では、かなり高い位置を飛ばねば複数のリトルワイバーンは活動できない。低空飛行を確保するのならば一体か、綺麗に場所をずらす、または川側にもう一体横並びになるか……といったとこだろう。そのため三体のリトルワイバーンはかなり上空に居り、三人の声は一本道の坂道を進んでいっている商人たちの耳には入らない。けれど中間地点――荷馬車の上で低空飛行しているディアナは上空の仲間たちの異変に気付くと、リトルワイバーンにバサリと大きく翼をはためかせ荷馬車とともに進む仲間たちの意識を引いた。
「あら。何かあったみたいね」
 竪琴をポロンと鳴らしたジルーシャが渓谷に多く棲まう風精霊たちに呼びかけ、上空の仲間たちの声を届けてもらう。
「どうかしたの?」
「土煙が見えたよ。今、マカライトが先行して見に行った所」
「私も見に行ってきますね!」
「何か大きな生き物がこちらへ向かっている可能性があります」
 まだ距離がかなりあり、それが何かは解らない。けれど警戒するに越したことはないだろう。
「商人さん、馬車を止めて頂戴。そして雪花さんと天雷さんの二人は、馬車と商人さんを守ってほしいの」
「うむ、儂は此処におればよいのじゃな」
「うん、わかったよ。商人さん、馬車を止めたら後ろに隠れようね」
「は、はい……!」
「大丈夫よ、商人さん。あなたと積み荷は私たちが必ず護るもの」
 出来れば荷馬車には下がってもらいたいけれど、それは不可能だ。荷馬車が後方に下がる場合は転回する必要があり、それができるだけの足場はこの一本道には存在しない。
 だから、ディアナが前に立つ。荷馬車のすぐ上から、どうどうとラサの商人が止めた荷馬車の前に降り立ち、更にそこから少し距離を開けるべくリトルワイバーンに歩かせ、まだ見えぬ何かに備えた。
「大きな亜竜がこちらに向かって来ている! それも複数体だ!」
「かなり大きいのが来ます。道幅ギリギリです!」
 マカライトの後を追って先行し、索敵しにいっていたリースリットも叫び、仲間たちを呼ぶ。
 左側は切り立った土壁の崖なため、開けているのは右側の――落ちれば川へと落下する崖側しか無く、躱してやり過ごすことはできない。駆けてくる亜竜は坂道なため速度が出ている。そして亜竜自身にも簡単には止められない点を考えれば、止めるならば早く止めねばならない。幸い、上空をイレギュラーズたちが飛んで遠くまで見通してくれたから、距離はかなり開いている。最後の要となるディアナを残し、飛行可能なイレギュラーズたちは進行方向に薄らと視認でき始めた土煙へと向かっていった。
「万が一仲間たちを抜けたら私が対処するわ」
 だから商人や雪花は安心して、とディアナが告げて。
「おお、来おった来おった。亜竜じゃ。雪花は儂と荷馬車の側に居れ」
「うん、わかったよ。キミたち、頑張ってね!」
「ああ! ここは任せた、ディアナ!」
 天雷が雪花と商人を荷馬車の後ろへと向かわせると、風牙もまた、仲間を追って坂道を駆けていく。
「道が狭いのもありますが、亜竜が大きいですね。私達では上を取ることくらいしか出来そうにありません」
 前方から駆け下りてくる亜竜――タルタロワイバーンを土煙の中か視認できるほどに近付いたアンバーが、そう断じた。
 左側の土壁との間に身を滑り込ませる――それもギリギリではあるためぶつかる、または擦られたり吹き飛ばされる危険を恐れないのならば――なら、リトルワイバーンに騎乗していない者たちにしか出来ないだろう。
 けれども。
 上空から地面へ垂直に攻撃をすることでその動きを幾らか軽減することは可能であろうし、飛行していない仲間が吹き飛ばしでタルタロワイバーンの体を川の方へと傾けさせた後ならば上空から斜めに跳ね飛ばすことも可能となるはずだ。
「タイミングを合わせましょう」
 狭さのせいで、リトルワイバーンは一列にしか並べない。
 そのため、アンバーの提案はこうだ。
 左崖壁に背をピッタリとくっつける形で川側向きで一列に騎乗していないイレギュラーズたちが並び、その上空――と言うよりは道の左半分側だが――を3メートルの高さを保った状態でリトルワイバーンに騎乗したイレギュラーズたちも川側向き一列に並ぶ。まずは騎乗していないイレギュラーズたちが吹き飛ばし効果のある技を一斉に叩き込み、体が傾き隙間が出来たところを狙ってリトルワイバーンに騎乗したイレギュラーズたちが追撃をする。
 一体目で試して見なくては可能かどうかは解らない。それで駄目なら――殺すしか止める方法はないだろう。荷馬車までの距離はかなり開けているから、それも可能だ。
「それでいこうよ。見た所怒っているとかそういう雰囲気はないし」
「そうですね、どちらかと言うとお腹を空かせているか、通り道な雰囲気を感じられます」
 スティアと雪之丞が浅く顎を引き、同意を示す。
 駆け下りてくるタルタロワイバーンには鋭い爪も、牙もない。そのことから草食亜竜なのだろうことが推察された。彼等の棲み家に足を踏み入れているのは商人やイレギュラーズたち側なのだ。命を奪わないで済むのならばそれに越したことはない。幸い右側の崖の下はごうごうと川が水音を立てているため、上手く落とせば亜竜たちが命を落とすことはないだろう。

 荷馬車からかなり距離を取った場所で並び、タルタロワイバーンを待ち構えるイレギュラーズたち。
 先頭いるのは、リトルワイバーンたちと同じ高さで低空飛行しているジルーシャだ。ごくりと喉が鳴るが、ここで引いてはオネエがすたる。
 タルタロワイバーンと左側の間には、掠るか、それともぶつかるかも解らない程の隙間のみ。そこで崖の土壁に背を着けているリースリットと風牙が無事である可能性を少しでも祈らねばならない。
「来るわ! それじゃあ皆、よろしくね」
「ああ! 頼んだぞ、ジルーシャ!」
「ジルーシャさん、お願いします」
 竪琴を爪弾き、精霊たちの力を借りて集めるのはラサの砂塵。少しでもタルタロワイバーンの速度を緩められないかと、砂嵐を纏わせる。
 少し、スピードが僅かに落ちた。
 すかさずリースリットと風牙が真横から《衝術》と《ソニック・インベイジョン》をすぐに放てる状態にし、極力背中の壁へと体をくっつけ待機する。ダカダカドドドと土煙を立て、タルタロワイバーンがふたりに迫る。チッと鼻先をタルタロワイバーンの硬い体皮が掠め、熱が集う――が、今だ!
「行きます!」
「行け――!」
 ふたりから見えない何かが飛び、タルタロワイバーンに衝撃が走る。
 ぐらり、巨体が傾げば――。
「続くよ!」
「殺したくはありません。退いてください」
「押し込む――!」
 スティアの声に続き、リトルワイバーンに乗ったイレギュラーズたちも各々吹き飛ばしの技を放つ。横腹は無理でも、背に、顔に、軸足に、狙える隙間を部位を狙い、畳み掛けた。
「たお――」
「――れた!」
 タルタロワイバーンの体が視界の外へと消えていき、バチャーーーーンと大きく上がった水音にワッと歓声が上がった。
「まだです。次が来ますよ、気を抜かず」
 狭い渓谷で仲間たちの邪魔に鳴らないように自前の翼で高く飛び、仲間たちに状況を逐一知らせているアンバーが皆の気持ちを引き締める。見える砂埃はあと二度――二匹のタルタロワイバーンが前方から駆け下りてくることだろう。
 けれど既に一度、イレギュラーズたちは成功を体験した。
 同じことを繰り返せば荷馬車は守れることだろう。

「ローレットのひとたちって、すごいんだね」
「呵呵! そうじゃな。幼馴染たちへの良い土産話ともなろう」
 どうやら安全そうだと察知して荷馬車の後ろから商人と一緒にぴょこりと顔を出した雪花に、腕を組んで傍観の構えの天雷が笑う。
「ねえ、商人さん。これに懲りずに、また来てくれる?」
 きっと常人には亜竜が駆けてくるだけでも恐ろしいことだ。
 亜竜種たちとの交易を続けるのならば、今回のようなことも、今回よりももっと大変なことも避けて通ることは出来ないだろう。その身で体験して、それでも来てくれるかと今問うのはズルいだろうか。そう考える雪花が「困らせてごめんね」と口を開く前に、商人が口を開く。
「ええ、勿論です。勿論、ローレットの皆様方が護衛をしてくださるのでしょう?」
 それならば安心して交易が行なえます。
 にっこりと笑うラサの商人に雪花は明るい笑みを向け、「ローレットの人たちにお願いしておく!」と大きく頷いた。
「危険は排除した。もう大丈夫だ」
「お~い、もう進んでいいぞ」
「ありがとう、キミたち!」
 マカライトと風牙に雪花が大きく手を振った。危険と隣り合わせとなったリースリットと風牙は鼻の頭や体に怪我を負ってはいるが元気そうにしているのが見え、荷馬車の守りに着いていたディアナが小さく吐息を零す。
「む。人数が足りておらんようじゃが」
「どいてもらった亜竜が無事か見に行ってくれているのよ」
「たまたま道でかち合っちゃったって事でしょうし、怪我して無ければいいけど」
「玉髄の路の安全を確保するためにも、亜竜の生態も調べる必要がありそうですね」
「う~ん、それはかなり難しそうだよね」
 荷馬車の元へと戻ってきたイレギュラーズたちへ感謝を告げながら商人が御者台へ戻り、雪花もまたその隣に腰掛けた。
「あ、戻ってきましたね」
「亜竜、大丈夫だったよ」
 体が大きいからか流されていなかったし、怪我も治療してきた。
 戻ってきたスティアの言葉に、一同はホッとした顔つきになって。
「それじゃあ俺はまた警戒を、と」
「私も。交易所まであと半分、気を抜かずに行きましょうね」
 集まるとリトルワイバーンでぎゅうぎゅうね、なんて笑い合ってから、大きく翼を羽撃かせる。
「引き続きよろしくお願いしますね」
 柔和なラサの商人の笑みは、交易所に着くまで――交易所に着いてからも、崩れることはなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

薬草と痛み止めの香は、無事に覇竜領域へと届けられました。
お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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