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シナリオ詳細

<Stahl Eroberung>プティ・アミと彩雲の晩餐

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ショコラ・ドングリス遺跡深部へ
「あ」
 ずんぐりむっくりとしていた小さな栗鼠はココサーモンを囓るのを止めてするりとアッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)の腕から飛び降りた。
 遺跡の床をとん、とんとリズミカルに確かめるように跳ねた小さな友人『プティ・アミ』
 葡萄茶色の床を走り抜けて行く長い尾を追掛けて秦・鈴花(p3p010358)は「付いていきましょうよ!」と溌剌な声音を響かせた。
「さあ、冒険だー!」
 逸る気持ちは滝つ瀬の如く。スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は密雲に隠されていた浮遊島のショコラ・ドングリス遺跡深部へと踏み入れることを決意する。
「おそろしくは、ありませんか」
 囁きの混じり込んだ不安。まだ見ぬ深部への調査はエルピス (p3n000080)の心をざらりと撫でた。粘り土が覆っていた深部への階段は暗澹たる気配が覆っている。人の気配などまるで遠く、異界の地の気配を強く感じさせた。
 雨蛙の声さえ遠く、生態系さえまるで違った浮遊島には少しの常識も伝わる気もしない。ある者はその未知に新たな冒険の気配を見出し、ある者は未知そのものを恐怖する。
 天義という教義にまみれた世界で育ったエルピスの不安は、同じ教えに耳を傾けてきたスティアはよくよく分かって居た。
「大丈夫だよ、エルピスさん。皆が一緒だもの。わくわくしない?」
「わくわく、ですか」
 終夜、恐怖を抱くよりも薄暮の空へと期待を抱いた方が良い。真珠色に揺らいだスティアの髪をさらりと撫でたのは遺跡の入り口から僅かに吹いた風。
「……だいじょうぶ、ですよ。きっと。プティ・アミも一緒です」
 ねえ、と視線を合わせたアッシュに小さな栗鼠はちち、と鳴くように首を傾いだ。ウェストポーチには小さな友人の為に食事を入れてきた。スーパーゼシュテルヴェルスフィッシュは余り好きではないだとか、ココサーモンが好物だとか。
 小さな友人のことを少し知れるだけでも喜びは溢れるから。さあ、進もう――屹度、まだ見ぬ不可思議が溢れているから。


 キューブは無機質に動き回る。天蓋にも、足場にも、キューブは音もなく動き回り、絡繰りを思わせた。
「不思議な場所ねえ」
 鈴花はううんと首を捻る。ごいん、ごいん。耳を欹てれば聞こえたのは小さな駆動音か。幾らか食用にと持ってきていたイルイルの実の在庫を確認してからスティアは迷わないようにしないとと、迷宮仕掛けの深部へとそろそろと踏み入れた。
「ここから先は……うん、特務派とのレースになるかな」
「そうですね。パトリック・アネル特務大佐の思惑こそどうあれ、この遺跡の制覇を行う勇者とは誰かというレースであるようにも感じられます」
 アッシュの背中にべったりと張り付くプティ・アミが「ちい」と鳴いた。少し、奥に幾つかの男の背中が見える。皆、皺が深く刻まれ薄汚れた軍服を着用した少し背の曲がった男の姿である。
 ――ギィン。
 ショコラ・ドングリス遺跡深部には進行を阻害するアラートが設置されていたか。
 キューブがぐるぐると動き回り、ハイアームズが飛来する。

 ――敵勢反応、発見。排除スル。

 無機質な声音が響いた。防衛機構は先の『遺跡入り口』と比べれば強固。其れだけ此処には何か護るべき物が存在するのだろう。
「……魔王イルドゼギアのことも、心配ではあります、が。このショコラ・ドングリス遺跡も、危険ですね」
「そうね。作戦名(コード)『Stahl Eroberung』……何だか骨が折れそう」
 エルピスはスカートをぎゅうと握りしめる。蒼穹の色を湛えた瞳の不安は、少しの決意に変わったか。
 鈴花は思い出す。鉄帝国軍はパトリック・アネルの独断行動で『特務派』と『軍務派』に別たれている。
『地上にあるノイスハウゼン基地との通信網を遮断』、そして『力をもってイレギュラーズを作戦から排除する』という奇怪な命令にパトリックの部下達も疑惑の目を向けている。
「……士気が低くとも、成果こそが全ての軍人とはぶつかり合うかもしれませんね」
 アッシュは嘆息した。どれだけパトリックの在り方に疑念を抱こうともひとは所属するチームへの成果を持ち帰らねばならぬのだ。
 未知だらけ――ふと、古代獣の唸り声が聞こえる。
 プティ・アミはアッシュへと危機を知らせるようにその長い尾で背を叩いた。
 電閃のような唸り。険嶺一つでも揺らがせるようなその声に。
「……じいと立ち止まっている場合では、なさそうですね」
 エルピスは動き回ったキューブを眺めてから一人そう呟いた。

GMコメント

 日下部あやめと申します。どうぞ、よろしくお願いします。

●目的
 ショコラ・ドングリス遺跡の攻略
 ・古代獣『ヴァシランド』の撃破
 ・特務派軍人の撤退

●ショコラ・ドングリス遺跡深部
 プティ・アミと共にイレギュラーズが発見した遺跡。その深部はキューブなどが動き回る不可思議な空間でした。
 足場はごうんごうん、音を立てて動き回り、その時々で見る風景を変化させます。
 何らかの秘密が隠されていると推測され鉄帝国軍の攻略が行われているようです。
 迷宮のように変化するその中には花の咲き誇るかと思わせる空間、天と地が逆になったように見せかける罠なども存在し油断を誘います。

 特定エリアを通過した際にアラームが鳴り響きます。それは古代兵器を呼び寄せ、侵入者を排除しようとする罠です。
 罠の発見スキル等で回避することが可能で有る場合があります。

●エネミー『古代兵器』
 ・天空闘騎(ハイアームズ)
 ・天空機兵(セレストアームズ):機関銃
 ハイアームズはセレストアームズよりも戦闘に特化した個体です。
 機体毎に様々な格闘戦闘に長け、パワフルでタフです。また超高熱の細いビーム(神秘攻撃)を放ちます。飛行能力を持っています。
 セレストアームズは遠距離戦闘に長けた個体でありアーカーシュ全域で広く見られます。
 どちらもアラーム作動で姿を現せるほか、遺跡内を巡回しているようです。

 ・ヴァシランド(放浪彩雷) 3体
 ショコラ・ドングリス遺跡に存在する古代獣(エルディアン)です。その姿はふわふわとした雲を思わせます。
 ふわふわとショコラ・ドングリス遺跡内部を動き回っており、獲物を探しているようです。
 一見するととても美しい外見をしています。危険を感じると雲は密集し巨大なフクロウの姿に変貌します。
 飛行能力を有しており、雷撃を放ち攻撃を行ってきます。麻痺系列やショックなどのBSを保有しています。
 特徴は人を食べる所です。頭からまるっと囓ってしまいます。
 プティ・アミがヴァシランドの気配にとても反応します。

 ・ウィクナ=ハバン(影潜獣) 数は不明
 翼をもった影のように変幻自在な怪物です。小さな隙間に忍び込んで、犠牲者を待ちます。数体で群れをなし奇襲を狙い、悪夢を見せ、犠牲者の魂を啜るとされます。

 ・特務派軍人 10人程度
 パトリック・アネル特務大佐の命令を受けて、イレギュラーズを妨害してきます。
 少しばかり命令に懐疑的なので戦意は低いようではありますが、それでもお仕事なので妨害は行ってきます。

●友軍
 ・プティ・アミ
 ずんぐりむっくりとした長い尾を持ったアーカーシュのリス。お魚が好物です。アーカーシュで捕れるお魚をよく食べます。
 イレギュラーズの可愛い友人。ヴァシランドを察知する能力に長けています。ちょっとおでぶなのでおもたいです。

 ・軍務派軍人 3名
 イレギュラーズの味方をしてくれる軍人さんです。お荷物持ちにつかってあげてください。

 ・エルピス (p3n000080)
 エルピスがお供します。ヒーラー、飛行有です。皆さんの指示に頑張って従います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <Stahl Eroberung>プティ・アミと彩雲の晩餐完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年07月23日 21時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール
シラス(p3p004421)
超える者
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛
秦・鈴花(p3p010358)
未来を背負う者

リプレイ


 葡萄茶色の床が広がっている。天蓋には同じく、草臥れた色彩の天井が存在して居た。霄漢に存在する天空の浮遊島アーカーシュ――その場所にひそりと存在して居た遺跡にはショコラ・ドングリス遺跡という愛らしい名前が付けられた。
「空の上にこんな遺跡が浮いていたなんてな」
 そう呟いて周囲を見回せば『竜剣』シラス(p3p004421)の脳裏に過ったのは果ての迷宮であっただろうか。幻想王国の地下へと至る勇者王の悲願。彼はこの地に根付いた魔王の伝説と深く関わり合いがあるらしい。初めて足を踏み入れたアーカーシュの様子にも驚嘆の限りだがショコラ・ドングリス遺跡は鉄帝国の軍人達が挙って制覇を目指す場所となっている。
「これは是が非でも奥を拝んでやりたい……観光に来たんじゃあないんだがな、楽しくなってきたぜ」
 唇が描いた三日月が青年の幼さを僅かに滲ませた。同じく幼い少年のように逸る心は風巻の如く『虹を心にかけて』秋月 誠吾(p3p007127)の足を進ませた。
「遺跡攻略とか、RPGみたいで心躍るよな。まーリアルで経験するとか、俺の人生ほんと色々ありすぎるだろ? て言いたくなるがさておいて」
 くつくつと喉を鳴らして笑う。ゲームの中で体験するような遺跡攻略。問題点はセーブポイントや復帰ポイントがあるわけではないというリアリティ。
 青みがかった灰の瞳はアーカーシュの島影ひとつに大いに光を宿した事だろう。此れより始まる冒険は心震わせ、新天地と呼ぶに相応しい未来を開いてくれる筈だと誰もが信じていたからだ。
 それでも、只一人。
「ど、どどどど――……」
 壊れたラジオプレイヤーのように『パンケーキで許す』秦・鈴花(p3p010358)の声音が震える。喉奥から何とか絞り出した音は緊張の色彩が滲み、キャンバスにぼとりと落とされたかのように辺りに広がった。
「ど、どどどどうしましょ名前つけた遺跡がなんかすごいところ!? 今から名前変えられない!?」
 慌てた様子でぐん、と『聖女の殻』エルピス (p3n000080)に詰め寄った鈴花は『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)の腕に抱かれて居た小さなともだち、プティ・アミにも「ダメ!?」と声を掛ける。エルピスとプティ・アミは同じような角度で首を傾いでから、はて、と言いたげに睫を震わせた。
「かわいいお名前です」
「ちぃ、ちぃ」
 アッシュはプティ・アミが『ショコラ・ドングリス遺跡』と名付けられたことを酷く気に入っているのだと通訳をした。アッシュや『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)、『深緑魔法少女』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)が鈴花と共に訪れた際に発見された遺跡には深部に繋がる通路が隠されていたのだ。
 アーカーシュでの命名権利。それを小さなともだちプティ・アミにも肖って名付けたのだから当然のこと、友人は誇らしげだ。
「……解ったわよ、ショコラ・ドングリス遺跡の名付け親として! 踏破してみせるわ!」
 ふんす。そう息を吐いた鈴花に『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)は「か弱そうな名前でとっても愛着が湧く遺跡ね!」と手を打ち合わせて微笑む。
「未知の遺跡を冒険だー! 深部には何があるのかなーって考えるとわくわくするよね。頑張っていこー! ね! みんな!」
 えいえいおーと拳を振り上げるスティアにリディアは大きく頷いた。スティアは精霊達へと声を掛け力を貸してと祈るようにささやいて。ささめきごとを囀るような小さなともだちはここでも力になってくれることだろう。
「『目的』は遺跡の踏破を目指せば自ずとクリアできそうですね」
「そうね! 遺跡攻略レースだもの。この疲れ知らずの鉄の脚の見せ所ね! か弱いみんなが罠に引っかからないよう、頑張るわ!」
 亀の甲より年の功。長く生きてきたのだから冒険もサバイバルもお手の物。罠だってちょちょいのちょいっと解決してみせると胸を張ったガイアドニスのその一声の通り、単純な遺跡攻略だけではない。
 前人未踏。未知の領域。不可侵であったその場所。人の手が及ばぬ空の遺跡。そう言葉を並べ立てれば其れだけでもドラマティックでサバイバルが待ち受けているというのに。
「ここでもコソコソと特務派が動いてるみたいだね。絶対に思い通りにはさせないようにしよう!」
『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)はばしりと拳を打ち合わせてそう言った。鉄帝国は二分化されて、特務大佐の旗の下に集う軍人達が我先にと攻略を目指しているらしい。
 深部に繋がる通路を歩みながらリディアは「ここから先――油断せぬように行きましょう」と魔力を込めた花のブレスレットに力を通わせた。


「仮に謀反を起こすのだとして、あまりに勇み足に感じます。
 事実、未だ誰も最深部に到達していないのです……つまり、誰も此の浮遊島の真価を計れないはず」
 其れこそ、予めこの価値を知っているかどうか――特務大佐の心の全容は見えやしない。恐らくは彼に纏わる情報で勇み足になる理由は存在して居た。
 アッシュの肩にしがみ付くようにして「ちい、ちい」と鳴いたプティ・アミは『大丈夫?』と問うようで。
「はい。ちょっぴり重たいです。重たいですが……此れは此れで良しかと。危険な目には遭わせたくは、ないですから」
 柔らかく真珠色の瞳を細めたアッシュの華奢な肩にずんぐりむっくりとした小さなともだちは少し大きすぎて。それでもプティ・アミは重要なことを教えてくれた。

 ――きらきらの雲と、こわい影が潜んでいるよ。だから気をつけてね。ぼくも教えるから。

 ちぃ、ちぃ。そう鳴きながらアッシュに忠告してくれた優しいともだちはこの遺跡内部に潜むモンスターを察知することができるらしい。
 か弱くて、直ぐにでも死んでしまいそうな可愛い栗鼠。ガイアドニスから見遣れば本当に小さな赤ん坊のようにも感じられる栗鼠は愛おしくて堪らない。意地悪な遺跡の多重トラップに警戒して、プティ・アミを護るのだと気負う『おねーさん』の前をずんずんと進むスティアは「凄いねえ」と周囲を見回した。
「足場も動くんだ。キューブがごうごう、音を立てていて不思議な空間だね!」
「……これでは地図を作ってもあまりアテにはならないでしょうか? 何かのヒントになればいいのですけれど」
 ううんと首を捻ったリディアにスティアは「足場が動くんだもんねえ」と周囲を見回して。鈴花がぐいっとその首根っこを捕まえた。
「スティア、ずんずん行き過ぎちゃだめよ! 何処でアラームが鳴るか分からないんだもの」
「ぎゃあ。う、うん、そうだね。あ、お腹空いたら言ってね。私が発見した実を持ってきたんだ」
 友達の姿になると言われているのだと可笑しそうに笑ったスティアの手にはイルイルの実。実を食べて「案外美味しいわね」とイルイルの実を囓った鈴花をエルピスはまじまじと眺めていた。不安げにカンテラを握りしめ、周囲をきょろりと見回すアクアマリンの瞳は未だ現状に慣れては居ないようで。
「怖い? でもちょっとだけ、探検なんてわくわくしない?」
「その……正直、おそろしいのです。けれど、わくわくも、します」
 皆さんと一緒だから、と紡いだエルピスに「でしょう」と悪戯っ子のように笑った鈴花は古代兵器を呼び寄せるアラートは皆で出来る限り対処をしているからスティアの首根っこを掴む必要は本当はなかったのだとこっそりと打ち明けた。エルピスの思い詰めたかんばせが、少しだけ気になったからだ。
 差し足抜き足、忍び足。聞き耳を立てながら出来うる限りの自分たちの痕跡を消し去って、そろそろと歩くガイアドニスは「何か聞こえるわ?」と頬に手を当て首を傾いで。
「……聞こえてくるのは足場が動く音だが……っと、足場不安定とかそういうレベルじゃねーな?
 移動だけならこいつで何とかするが、戦う際にはちと気を付けねーとな。何が来るんだ?」
 ジェットパックは頼りの綱。誠吾は足元のキューブから落ちないようにと気をつけながら周囲に目を光らせる。シラスは念のためにと幻影を駆使して敵の気を惹けるようにと工夫をしていた。自身達がアラームをけたたましく鳴らす罠に警戒しているように特務派軍人とてその罠を警戒しているはずだ。
 シラスはワイヤーツールセットを駆使して遺跡に備わっている罠を敢えて再度設置した。足止めの為に幾つか作成した彼はプティ・アミの警戒の声に小さく頷く。
「プティ、奴らのおでまし? プティのことは頼りにしてるから護らせて貰うよ!」
 長い尾をアッシュに絡めていたプティ・アミが「ちぃ」と鳴いた。誰かが来るぞ、気をつけろ。それは通訳が存在せずとも良く分かる。拳に力を込めてから、イグナートは前線を睨め付けた。
 無数のキューブの間から美しい彩雲が覗く。その下から迫り来るのは影に潜んだウィクナ=ハバン。翼が出した騒音がその居場所をよく分からせる。
「来たね! もー! 遺跡探索がしたいんだから邪魔をしないでよねっ!」
 出来うる限り的を避けてきたからこそ余力は十分。スティアは頬を膨らませ、聖域を作り出す。ひらり、舞い散った天使の羽と共に鳴り響いたのは魔力の旋律。かみさまの福音は迫り来るウィクナ=ハバンだけではなくヴァシランドをも引き寄せるスティアに「おねーさんにもちょうだいな」とガイアドニスがにんまりと微笑んだ。
「スティアちゃんがヴァシランドを引き寄せるなら、影の子はちょうだいな!」
 愛おしい小さな幻想種。彼女の華奢な肩に全てを背負わせないのだ。愛は無敵で最強なのだから。盲目にも瞳を輝かせたガイアドニスの亜麻色の髪がふわりと揺れる。
 行く手を阻んだモンスターを薙ぎ払う鉄火仙流の秘術。鋭利な一撃は練り上げた気によってモンスター達へと炸裂した。
 痛烈なる光の瞬き。そう感じさせる乱撃をその視界に収めて、リディアの魔性の呼び声に亡霊達の慟哭が重なり合った。
「後ろ……来てるな」
 シラスはぽそりと呟いた。武装に頼ることなく見た目や難しさを重視したアクロバティックな攻撃を叩きつけるシラスは地を蹴り飛ばす。ヴァシランドの美しき彩雲がスティアの身を『囓ろうと』するならば、其の儘その場所に縫い止めれば良いだけだ。
「俺は齧られたくねーんだよ! 消えてくれ! 頭から齧るとか何のホラーだよ全く!」
 頭からまるっと囓って美味しく頂かれて堪るかと叫んだ誠吾は眩き恒星の名を冠する盾を構えてヴァシランドを押し返す。審判の一撃を振り下ろし、牙をも立てるように一撃を叩きつける。
「本当よね。ヴァシランドに食べられるわけにはいかないし、むしろ食材適性を付与して美味しく食べてやるんだから!」
 頬を膨らませる鈴花も背後から聞こえる足音に気付いて居た。だからこそ、全力でヴァシランドを吹き飛ばす。眠れる潜在能力を湧き上がらせればきゅうと腹が鳴き声を上げる。腹ぺこになって動けなくなる前に複数のモンスター全てを薙ぎ払うことこそが此処からのテーマなのだから。
「プティ・アミ、下がっていてくださいね」
 ちぃ、ちぃ。そう小さなともだちの真似をしてみても『ひとの言葉でいいよ』とアッシュに優しく声を掛けてくれるプティ・アミ。優しいともだちのファインプレーには後でお礼のお食事を上げると約束して、眩い光を放ち続ける。
「美しい彩雲。その姿だけならば、秘宝のように感じられるでしょうか。けれど、欲しいのは其れではないのだから」
 造りものはなんだって美しい。仮初めのいのちはたくさんの犠牲の上できらきらときらめくから。黒い穢れをも感じさせぬようにひらりと朱を裂かせる短刀は小さく軋む光を帯びた。
 アッシュの囁き。プティ・アミがちいと鳴いて合図をすればガイアドニスは「ふふ、か弱い子が来たのね」と愛を孕んだ瞳を向ける。
「でも、だめよ。まだまだ、大切で愛おしい子達を抱き締めてあげなくっちゃならないのですから! 待っていてね?」
 痛みを却けるようにリディアは祈る指先を折った。
「待って下さい!」
 少女の声音にびくりと特務派の軍人達の肩が揺らいだ。ヴァシランドさえ却けられればウィクナ=ハバンは屹度、一度は引く筈だ。
 福音の気配、自らの膝が折れてしまわぬようにと支えるスティアの前で立ち回っていたイグナートは背後の軍人をちらりと一瞥してから先ずは目の前のヴァシランドだと意識を拠り戻す。
「お互いの被害拡大を防ぐために形だけ戦って被害拡大を防ぐために撤退したということにすれば、貴方方だって戦わなくて良いはずです!」
「軍務だ」
 銃を構えた軍人にエルピスは「ひどい」と息を漏した。シラスは仲間達に少しばかり前進するように合図をする。
 追い縋る軍人達が一歩踏み出した時――アラートが鳴った。
「悪いな、意地悪させてもらったぜ」
 ごうごうと足場が音を鳴らす。少しだけの時間稼ぎ。その間に傷だらけになろうとも対処すべき人食いの彩雲は最早、僅かにその身を霞ませた。


 暫くの後、追い縋るようにやってきた軍人達を前にしてプティ・アミが避難するようにちぃと鳴く。
「……島を荒らすのはやめていただけませんか? この子も、いやがっています」
 アッシュの言葉に軍人は緊張と疲弊の滲んだ声で「軍務だ!」と叫んだ。その様子は悲痛そのもの。誠吾は大きく肩を竦めて嘆息してからやれやれと目を伏せる。
「お前さん達、お仕事ごくろーさんだな。ここは諦めて退いたらどうだ?」
「……だが……!」
 撤退を促したのは彼等とは本質的に敵ではなかったから。特務大佐の急な命令で敵対することとは相成ったが士気が低いのは見て取れる。
 彼等とて戸惑っているという事だろう。アッシュは後ろ手にナイフをそっと隠す。いざとなればどさくさに紛れて意識を奪ったとすればいい。少女の鋭い刃は後ろ手に隠された。その気配を感じながら誠吾は命を奪いたくはないと彼等に告げた。
「しかし、軍人であれば上官命令には――」
「うん、分かる。分かるけど……できれば退いてくれないかな?
 貴方達がやっていることは本当に正しいことなの? ……私にはそうは見えないかな」
 いきなりのことだったもの。そう呟いたスティアに特務派の軍人達も惑いはあったのか、ぐうと息を呑んで立ち止まる。
 この遺跡の深部を一緒に目指そうと心躍らせハイキングのように進むならまだしもひと同士で殺し合う。それが正しいとは思えないとスティアが首を振る。
「ていうか解ってるでしょ、なんかおかしいって」
 軍人だろうと命令の前にひとりの人間なんだからと告げる鈴花に軍人達は俯いた。特務大佐は確かに突如として方針変更を出した。それに彼等も戸惑わなかった訳がない。違和感を大事になさいと叱るような声音にそれでもと唇を噛んだ軍人をイグナートは一喝した。
「こんなコソコソと火事場泥棒の様なマネをして恥ずかしくないのか!? ゼシュテルの軍人なのか!?
 私欲でこの島を荒そうって言うならオレたちを超えてからにしろ! ゼシュテル人としての誇りを思い出させてやるよ!!」
 イグナートが拳を硬く作り上げれば軍人達はたじろいだ。ラド・バウでもよくその名を聞くイグナートや幻想でも名を轟かすシラスが目の前に居るのだ。
「此処で退いて……軍務に違反しても……」
「そもそも、違反にもならないだろう。俺達に却けられて撤退しただけ。
 この遺跡を踏破するのは俺(イレギュラーズ)達だし、お前達は敵に負けただけだ」
 そう言ってのけたシラスは動き回るキューブの足場を眺めてから一歩踏み出した。
 この先に何があるかは分からない。士気が低く、惑う彼等では命を落とす可能性さえある。ガイアドニスが「理由をプレゼントしちゃう!」と優しい声音で語りかければ軍人達はその声音に縋るように見遣った。
「補給できない状態での人員喪失は軍として避けるべきよね?
 上司に振り回されても頑張ってるか弱い軍人さんだもの。命は助けてあげたいわ! だから、これ以上は止めましょうよ」
「――、」
 俯いた軍人へガイアドニスは「帰り道は分かる?」と膝を折って語りかける。その場に取り残されることになる軍人達を不憫に思いながらイレギュラーズはショコラ・ドングリス遺跡を更に進んだ。
 その先に何があるのだろう。誠吾は首を捻る。これだけの防衛機構だ。お宝と呼ぶべき者か、それとも侵入者には渡せぬ古代の力が眠っているのか。
 いずれにせよ、何があるのかは分からない。小石を投げ入れれば防衛の為に動き回るハイアームズ達がぐるりぐるりとキューブの通路の進路妨害を続けて居る。
「はい、食べてね」
 スティアが手渡すイルイルの実で小腹を満たし、まだ続くであろう遺跡ダンジョンの内部を眺め遣ってからイグナートは「ゼシュテルにとって良いことがあるのか、ないのか」とぼやいた。
「それを、見極めねばなりませんね。最奥に潜むものは、果たして何か――我々の目で見定めましょう」
 ちぃ。プティ・アミの返事にアッシュは小さく頷いて、最奥へと続く通路をゆっくりと進んだのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)[重傷]
天義の聖女
ガイアドニス(p3p010327)[重傷]
小さな命に大きな愛

あとがき

 この度はショコラ・ドングリス遺跡での探索お疲れ様でした。
 可愛いおともだちプティ・アミも皆さんと探索が出来てとても喜んでいることだと思います。
 この先に何が待ち受けているのか……とても、楽しみですね。

 それではまた、ご縁がありますことをお祈りしております。

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