PandoraPartyProject

シナリオ詳細

深渦の匣

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 キヒッ――
 ヒヒヒッ――――

 何処からか笑い声が聞こえた。それは、もう遠く。


「海に大きな穴が開いているのです」
 そう告げた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は何処か深刻そうに告げた。
 海洋から少し離れた島々。首都リッツ・パークから少し距離がある為に気付く事が遅かったというのはソルベ・ジェラート・コンテュールの言だ。
「周辺で海獣が大暴れなのですよ。これでは海の治安が狂ってしまうのです」
 ユリーカは云う。海には様々な物が住まう。
 無論、その海に『大きな穴が開いている』という言葉は衝撃的なものだが――
「穴が開いている……というと語弊があるでしょうか。
 海で渦が巻かれていて、それで穴が開いている様に見えるのです」
 どういう状況なのかを判断してきて欲しいというユリーカはその穴に近づく事が困難なのだと不安げに告げた。
「その……穴に行くまでの海上に海種を思わせる何かがいるそうで……」
 それは人の形をしているが、泥のようにも見えるのだという。
 恐らくは人ならざるものではないか、とユリーカはそう言った。
「ボクは、そう言った術を使う存在を少ぉしだけ知っています。
 幻想のサーカス事変の時に逃亡した――『チェネレントラ』」
 彼女はネクロマンサーであり、屍骸を扱う事に長けている。海洋での目撃情報が出ているとそう、告げた。
「でも、チェネレントラの姿は此処にはないのです。ですが、チェネレントラとは違う他の魔種が『遊び』に来ているそうで……」
 危険な事には変わりないのですよ、とユリーカは不安げにそう言った。
「その魔種の名前はアリサ。皆さんがこういう事件に巻き込まれることを楽しんでいると思っているみたいなのです。
 妬ましいから殺しちゃえ。海の上ならこっちのもんだって感じだと思うのです」
 海の上は頼りない。海種ならば危険度はぐっと減るだろうが。魔種と屍骸の前では陸と違い不安は大きくなる。
「し、死なないで帰ってきて欲しいのです」
 情報があまりに少ない事を申し訳ないとユリーカは頭を下げて、不安げに「がんばって欲しいのです」と小さく告げた。


 大きな穴が開いている。渦だ。楽し気な渦が其処にはある。
 きっと、特異運命座標という奴らはここに遊びに来るだろう。
 羨ましい、面白い事ばかり彼らは見つけるから――羨ましい。羨ましい。
「そうだ、邪魔しよ。面白いばっかり続いてるなんて、なんて、なんて『妬ましい』んだろう」

GMコメント

 夏です。海に遊びに行くのって良きじゃないですか。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
 但し、アリサや屍骸に関しての情報精度はBです。
 渦に関しての情報はD(ほぼありません)となる為にCと定義しております。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●成功条件
 ・大渦の調査(非戦等を使用することで可能)
 ・周辺でうろつく魔種『アリサ』の討伐

●魔種『アリサ』
 楽しい事ばっかりで妬ましいわ妬ましいわ妬ましいわ。
 泥の様な姿をした魔種です。お分かりですか、海種ですという様に下半身は魚を模しています。
 何処からか渦の周りをうろうろする屍骸たちと遊び、楽しんでいます。
 妬ましいアタックです。言葉にはよく騙されますし、短慮です。

●屍骸×20
 個体の戦力は高くありませんが海に引き摺り落とし全力で殺しにかかってきます。
 一人狙いって強いんだよ。海種を深海に引き摺り落とせばそのままどこかへ連れ去ってしまうかもしれませんね。

●大渦
 海にぽかりと空いた大渦。上空より見ても闇が広がっているだけです。
 渦は勢いが強く巻き込まれる可能性がある為に余り近寄るのは賢明ではありません。
 あくまで情報を持ち帰る事が大事なため深追いはユリーカが重々気を付けてくれとローレットにて話していました。

 どうぞ、ご武運を。

  • 深渦の匣Lv:4以上完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年08月25日 21時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アクア・サンシャイン(p3p000041)
トキシック・スパイクス
エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
枢木 華鈴(p3p003336)
ゆるっと狐姫
シュリエ(p3p004298)
リグレットドール

リプレイ


 波が揺れている。まるで、怯える様に。
 波が揺れている。どこまでも、飲み喰らうように。
 獣の咆哮の如く囂々と音を立てている。魚達も怯えてどこかへ行った。囂々と音を立てる其れを拒絶することなく『業に染まる哭刃』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)は迫りゆく。
「正体不明の渦、そして『魔種』……調査に戦闘に、退屈しない内容だな。
 だが、相手が魔種なら気を引き締めていかないとな。――死線を潜る」
 正体不明と繰り返して『High Score』シュリエ(p3p004298)は僅かにふるりと体を震わせた。大渦は近づけば近づく程にその存在感を感じさせる。
「未知の超常現象って奴かにゃー。なかなか好奇心をそそられるにゃ。……ちょい怖いけど!」
「確かにのう。未知の超常現象を調査するわらわ達の仕事さえも、あの魔種にとっては楽しいものに見えるんじゃな」
 狐の耳をぴこぴこと動かして『くるくる幼狐』枢木 華鈴(p3p003336)は渦の存在を確かめる様に視線を揺れ動かした。
「まぁ、見た事ない物を見、聞いた事ない物を聞くというのはなかなか刺激に溢れる体験なんじゃが……屍骸で溢れている上に、肝心の渦自体が危険という話じゃからな」
 華鈴にとって未知というものは知的好奇心をそそられるものであるというのは十分に理解できる。勿論、シュリエにとってもそうだ。
 好奇心をそそられようとも、この場が死地であることは十分理解できている。『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)は事前情報で得ている『死骸』と『大渦』、そして『魔種』がどのように紐づく関係性であるのかを悩まし気に小さく呟いた。
「分からない事だらけだけど……この国で大きい顔される訳にもいかないのよね」
「ああ。腐っても相手は魔種だからな……。囂々とした音ばかりで『聞き分けるのも難しい』が、確かに誰かいる様だ」
 大怪盗になったならば使おうと考えていた名刺サイズのカードを確かめて『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)はゆっくりと息を飲む。誰かがいる、とその言葉を聞けば『凛花』アクア・サンシャイン(p3p000041)の表情も硬くなる。
「……超常現象かしら? これは自然に起こったわけではない――けれど……」
 それはアクアが感じる事のできるすべて。水棲動物の行動で発生するのか、それとも深く己の持ち得る知識で考えれども、そこにあるのは『水棲生物』や『自然発生』のものではないという確かな感覚。
「生物や現象が浮かばないなら私にはお手上げね……、でも、分かったことが有る。
 これは『自然現象』ではない以上、人為的に発生させられているもので、それに――」
「魔種が待って居るというなら罠なのかしら……? ああ、それも妬ましいわ。
 人を憎んで、海種の様な魔種……要素要素は私と似ているところがあるけれど……下半身が魚、一人で複数の相手が出来る、そしてなによりも、素直に人を妬めるだなんて、とても妬ましいわ……」
 歯噛みするように『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)は只、静かにそう言った。
 この渦に隠れる魔種は素直に他人を妬むのだという。嗚呼、それって、それってとっても「妬ましい」
「私も、あぁやって妬む事が出来れば……元の世界でも普通に過ごせたのかしら……」
「妬むという感情も己の欲望故。『どっち』かなぁ。己の欲望の為に死ねる奴と死ねない奴がいるみたいだけど。
 どっちかなぁ、前者なら――好きに慣れそうな気がする」
 くるくると、瞳は揺れ動く。『双色の血玉髄』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)は喉慣らし、腰から伸びた触腕を揺らした。
「尤も。僕が好きになったやつは大抵死んでしまうけど」


 ごうん、ごうん、と。まるで何かが稼働する様に静まり返っていた海に響く音は轟音そのもの。
 命綱として船に分散させたロープ。戦闘環境を事前に整えたサンディは追加用の救助用ロープを準備し、聞き耳を立てた。

 ――し、

「なんだ……?」
 サンディの言葉にゆっくりと、顔を上げたヴェノムの唇が釣り上がる。

 ―わた、

「わた、……し?」
 サンディが顔を上げれば、その気配にエンヴィの身が際立った。ぞわ、と背筋に感じたそれをアクアは確かな敵の出現と感じ、身構える。
 拠点とした船へと手を伸ばし迫りくる屍骸の存在。アクアが魔装具を嵌めた掌に力を籠める。
「海も愚か、空も無理。それから、聞こえる声は『女』のもの……調査を手っ取り早く進めたいけれど」
 アクアは確かめる様にゆっくりと渦の中より現れたそれを払う。有毒ガスの霧が周囲に展開されてゆく。その様子を見遣り、エンヴィは古代遺跡で発掘された魔力銃に手をかける。呪いを帯びたその感覚を確かめて、集中を研ぎ澄ませたエンヴィの心の底から渦巻く嫉妬(あくい)が霧へと姿を変える。
「お呼びじゃないっすよ」
 ギリギリに停泊した船の上から、ヴェノムは船底を蹴り上げ跳ねる。鼓投下した小舟が渦へと引き込まれる様子は『自然発生』のそれと異なり、全てを飲み喰らうかのようで。その中央より屍骸がわいてくる様子に心躍らせたヴェノムの唇が釣りあがる。
「魔種(アリサ)は?」
「ふふ……妬ましいわ。目的意識をもってここに来たのね。あはは、そんなの妬ましいに決まってるじゃない」
 地団駄を踏みながら姿を見せた女。泥の様な瞳を向けて、彼女はざぱりと『渦の中から』その姿を現した。
(渦の中から……?)
 クロバは魔種の動きを確かめる様に眺めている。黑き刀を手にし、現れた女へと死神としての敵意をむき出しにした青年は「お前がアリサか」と確かめる様に問い掛けた。
「さぁ、戦う(あそぶ)とするか!! 魔種!!」
「遊ぶならそれも良いわ。けれど、ふふ、なぁんにもわからないうちに海に消えなさいな」
 泥に濡れたかのように曇った瞳に僅かに光が差す。その言葉にぴくりと耳を揺れ動かして、シュリエが思い出した情報は『アリサは直ぐに挑発にのる』というものだった。
「え? 何? 下っ端だからこの渦も知らにゃい?超ウケるんだけど」
 くすくすと笑ったシュリエに対し、苛立ったようにアリサが全力でその身を突進させる。ぐん、と走り込むそれを受け止めたイリスは背中には矜持を――そして、立ち向かうべき『国家の悪』を見据える。
「私と海洋の美少女の座をかけて小勝負しにきたと聞いて!」
 入れ替わる様にその距離を縮めた華鈴は確かめるように目を凝らす。未知の存在であればアナザーアナライズが有効であることを彼女はよく理解していた。
(過去、ここには何かがあった……? その痕跡は『渦の中に時折覗いた家屋』で分かるのじゃが……)
 未知たる渦は人為的作用が齎されている。そして、何かがその中にある事はよくわかる。
 屍骸に集中攻撃を重ねた華鈴をが纏うのは『枢木華鈴は可愛い』という確かな証左。そう、それが彼女がこの混沌世界から与えられたプレゼントだ。
 アリサはその様子にも妬ましいと水面をばしゃりと叩いた。利己的で、幼稚。何よりも子供の様に拗ねるその様子は有態に言ってしまえば『少女』だ。
 イリスは最悪海に落とされたとしても己が一番有利であると理解していた。生憎だが海の周囲には『魚達の姿はない』。人為的な渦だからか、それもと別の理由があるのか意図的に魚達がこの場所を避けて居ることがわかる。
「何……? 私より調査してるの? 妬ましい妬ましい妬ましい妬ましいっ」
「……妬ましいとかよく分からないのって、恵まれてたのかなぁ」
 アリサがばしゃばしゃと水面を叩く。その様子にさえ、イリスは風と小さく息を吐きだした。
 華鈴の許へと飛び掛かり、可愛いなんて妬ましいと言わんばかりの魔種の形相にアクアはすごいわねと小さく呟いた。
 出来る限り彼女の火力を下げておきたいのだというアクアは毒霧を以て周辺の屍骸の対処を行い、アリサが近接距離に引き込まれる事を確認してゆく。
「素直に動けるだなんて……妬ましいわ……」
 ぶつぶつと呟くエンヴィにアリサは「余所者(うぉーかー)は私達と同じ所に何て落ちてこないじゃない、妬ましいわ」と声を荒げた。
「……ええ、そうね……」
「呼声に誘われることも転化することもなく、妬めるなんて妬ましい妬ましいわ、妬ましい」
 地団駄を踏むアリサは「あの人の様に綺麗に妬めたら、あの子の様に素直に妬めたら」とその表情を汚泥の様に変化させ唇をぎりりと噛み締める。
 エンヴィの瞳が覗き込んだのはアリサの長所。彼女は自由に泳ぐ事が出来るが――エンヴィはぴくり、とその身を揺らした。
(……あの魔種、『屍骸を操る能力を持っていない』のね……?)
 尤も立派な長所となり得る死骸を操る能力。ネクロマンシーと言う訳でもないだろうアリサの裏に何者かが屍骸を操っていることをエンヴィは知る。
 大量に群がる死骸を巻き込みながら攻撃を続けるサンディ。渦の中に落ちた石がドボン、と音を立て沈みゆくのを感じながら彼はアリサに「楽しい地図があるんだ」と唇を釣り上げる。
「楽しむのは――みぃんな死んでからって『あの子』が言っていたわ」
「あの子? 誰っすか? その子は『美味しい』?」
 至近距離に攻め込んで。ヴェノムの瞳がきらりと笑う。惜しむ物は何もないという様に渦に警戒しながらも飛び込むヴェノムは愛おし気にアリサを見遣った。
「そうか、前者か」
 愛しいモノを、貴いモノを。踏み躙らずに入られないのだとヴェノムは爛々と瞳を輝かせた。
 奪い、喰らい、蹂躙する。否、そうせずにはいられない。その為には生き死には些細な事だ。落として堕として、貶めて。それ以外に何が必要か。
 楽し気なヴェノムに視線を奪われたアリサに好機と言わんばかりにクロバが攻め込んだ。
「左手があるだろ? コイツ伸びるからお前の後ろから行けるぜ」
「……?」
 振り仰いだアリサの許へと全力攻撃を放つ。アリサの反撃は熾烈そのものだ。癒しがない編成では、魔種が相手となれば一撃が重い。
 深呼吸で息を整えたイリスはその現状に気付き唇を噛み締める――短期決戦に持ち込むにも『魔種はやはり強い』。
 子供の様に興味をあちらこちらに揺らすアリサだが、彼女は魔種と呼ばれるだけあって、その脅威は確りと感じられる。サンディは調査よりも生き残る事が最優先だと理解していると船でギリギリと音を立てる命綱の感覚を確かめた。
「教えて貰おうか。『この屍骸は何処から来てる』んだ?」
「アリサは知らない。妬ましいもの、妬ましいわ、『あの子』ったら海の底で拾い物するんだもの」
 歯噛みして、ぶつぶつと呟くアリサ。その言葉にクロバとサンディは顔を見合わせる。
 アクアは『あの子』という存在がネクロマンサーである事を察知し、何事か考える様な仕草を見せた。
「あの子の名前は?」
「教えないわ、妬ましいもの。アリサより皆、そっちがいいんでしょ」
 ぶつぶつと呟いて。横殴りの様に殴りつけた一撃に華鈴の体が船に打ち付けられる。
 は、と顔を上げるシュリエは「にゃっ」と驚いた様に身を竦ませた。時間が経過し、アリサの体力が削られるごとに『彼女の周りの屍骸は減る』が、彼女の苛烈な攻撃は増していく。
「逃げる気はないのかにゃ」
「ないわ、ないもの、逃げて帰る場所があるの? 妬ましい、妬ましいわっ」
 歯を剥きだし飛び掛からんとするアリサ。特異運命座標を殴りつけ、首をぶるぶると振りながら襲い来る様子にクロバとヴェノムは相対する。
 短期決戦を狙えど、不利を強いられる戦場と体力の残存より、傷を負う事は重々理解していた。
 しかし、命を大事にという方針上、誰もが『死に至る』深追いをしない事をサンディは念押しするように命綱を確かめて。
「ああああああああああああああああ! 妬ましいわっ!
 仲間がいて、ここにみんなできてっ! 妬ましい、妬ましい!」
 唐突に声を上げたアリサは「あの子も、あの人も、あいつだって、アリサの相手はしてくれないもの」と絶叫した。
「妬ましい? あぁ、その感情は理解できるさ。――オレも欲しがりだからな!!!!!」
 クロバが吼える。少量でもいい、簡易飛行が出来るならばそれで好機が掴めるとその身を宙に浮かせて。
 クロバの一撃にぐらりとアリサのその脚が縺れる。海に落ちていくその身を追い掛けて『事故の様に』ヴェノムは飛び込んだ。
「賭けてもらうぜぇ。命」
 噛み付く様に飛び込んでヴェノムのその身から赤黒く滴るそれが海に交じり込む。
 潮の香りに鉄分の匂いが混ざり、アリサの胸の奥深くに差し込まれたドリル。
 ――まだ、軌跡を乞うには足りえるものがない。
「……妬ましいわ。まだ、遊び、足りない、のに」
 噛み付く様に手を伸ばす。アリサの指先がヴェノムの手首を掴む。
「――――」
 ぱちり、と瞬くヴェノムの唇が俄かに釣りあがった。

 ――面白かったから、教えたげるわ。あなた好みの莫迦みたいなシンデレラがね、一人で海の都をお散歩してるのよ。


「……妬ましいな」
 ゆらりと身を揺らし、少年が姿を現す。ウミウシを思わせるその衣裳に、瞳は嗤わず渦に飲み込まれゆくアリサの腕をぐいと掴む。
「妬ましいぜ」
 歯噛みした彼を見遣り、ヴェノムは『新種の魔種の出現』を察知した様にその身を屈めた。
「戦いに来たわけじゃないんだ」
「そんな言葉、聞き分けるとでも?」
「……生憎、遊んでる時間もないんだ。妬ましい、遊んでて羨ましい限りだぜ」
 ぶつぶつと呟く彼は魔種の死骸を拾い上げ、渦の中へとその身を潜らせた。とぷり、と沈む少年の身を追い掛ける様にクロバとヴェノムが身を乗り出すが、大渦の中心に沈んでいった少年の体は最早もう見えない。
 戦闘が終了したならば海の中からの調査をと身を乗り出したエンヴィは深く息を吸い込み海の中へととぷりと沈んでいった。
「なっ」
 ぐい、と誰かに手を引っ張られた感覚を感じ取りエンヴィは息を飲む。ぎりぎりと腕を締め付ける感覚がする。
「ッ―――」
 痛覚を刺激するそれから逃れんと腕を振り上げるエンヴィに気付いたサンディが浮き輪を投げ入れるがその身はまだ『上がって』はこない。
 彼女を助け無ければ、とサンディが上げた声にイリスは頷く。目に見える脅威は排除したが、そうか、この渦には――
「まだ、誰かいるの……!?」
 水に親和し、不自由なく泳ぐイリスはエンヴィの腕を掴む。一人でダメならば二人ならと救いの手を差し伸べたイリスにエンヴィは頷くが……ぐい、と持ち上げた彼女の軽い体は今は何かに絡みつかれたかのように重い。
 命綱をと引き上げんとするサンディの傍ら深く息をついていたヴェノムがその瞳をぎょろりと動かす。
「綱、切れてるじゃないっすか」
 人為的にナイフで切り裂かれたような命綱。重みを感じず、空振りした綱の先を眺めてヴェノムはぺろりと舌なめずりを一つ。
「ど、どうしたにゃ!?」
 びくりと体を震わせたシュリエがにゃんにゃんメルシーボムを構え、息を深く仕込む。ファミリアーを使役し、周囲の様子を確認していたシュリエの五感が感じ取ったのは渦の中に誰かがいるという『実感』だった。
「な、何か」
「どうしたのじゃ? ……何が見えたのじゃ」
 釣り竿を垂らしていた華鈴にシュリエがふるふると首を振る。先程から投げ込んだ浮は鋭い力で引かれ、戻る事を良しとしていない。
「『何か』あるのね。渦の中には。それだけでも収穫だわ」
 アクアはやっとの事で海より顔を出したエンヴィと警戒しながらも助けに向かっていたイリスに手を差し伸べ小さく息を吐く。
 泳げぬクロバは戦う(あそぶ)ことを終えた事で安堵していたのか、仲間達の調査結果を聞かんと息を飲む。
「渦の中に誰かが居たのにゃ」
「……誰かに引っ張られる感覚がしたわ。妬ましい、なんて声は聞こえなくて――あれは、楽しそうな」
 蒼褪めたエンヴィにイリスは大きく頷く。シュリエは渦の奥に引き込まれては戻って来れないと静かに息を飲み、沈みゆく太陽を眺めていた。
 イリスはいう。エンヴィが引き摺られていくその先、見えたものがある。
 ――海の中にあったのは『古代都市』の様な朽ちた場所だった、と。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

エンヴィ=グレノール(p3p000051)[重傷]
サメちゃんの好物
クロバ・フユツキ(p3p000145)[重傷]
深緑の守護者
ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)[重傷]
大悪食
イリス・アトラクトス(p3p000883)[重傷]
光鱗の姫
枢木 華鈴(p3p003336)[重傷]
ゆるっと狐姫

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 少し、進展いたしました。海はまだまだ怖い事ばかりですよ。

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