シナリオ詳細
<Stahl Eroberung>紅の下
オープニング
●
黒曜石のように艶やかな、けれども禍々しい城の一角にそれは在る。
――ねえ、ねえ。どこにいくの。
――ねえ、ねえ。ひとりはさみしいわ。
さわさわさわ。さわさわさわ。
吹き込む風に花々が揺れる。美しかったのだろう花園は、その形を崩してなお花々を咲き乱れさせており、周囲の景色にひどく似つかわしくない。
場違いなほどに生命力を持った花の中、それが動く。
――さみしいわ。さみしいわ。
――たすけて。いっしょにいて。
さわさわさわ。さわさわさわ。
吹き込む風に音が乗る。柔らかな、ひだまりのような女の音。孤独を覚える、か弱いヒトの音。
花の中から風に乗って、ぽっかりと開いた空へ舞い上がって、どこかへ運ばれてゆく。
――どこにいくの。いっしょにいて。
――ねえ、ねえ、ねえ。
花畑の中に赤を見る。薄くて軽い、スカートやドレスといった類の赤。
それはまるで"追いかけて"と言うように、ひらりと翻って色彩を印象付ける。
けれど、それは誰も来ないと察した瞬間、その音を止めた。音だけではない、翻った赤すらも幻だったかのように失せてしまっている。
そこにあるのは手入れのされていない、植物たちの息づかいが聞こえそうなほどに静かな花園の成れの果て。
今しがたの光景は白昼夢か、それとも――。
●
「……こういうのさ、趣味が悪いって言うんでしょ」
知ってるよ、と『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は何とも言えない顔で城の風貌を仰いだ。
エピトゥシ城。それがこの城の命名だ。魔王による後詰めの城は、あの勇者王アイアンすらも踏破していない場所であり、イレギュラーズおよび鉄帝軍人がうまくことを成せば初踏破となる。
刺々しい黒曜石のような、不思議な素材でできた城は魔王城であると同時に、古代獣の製造プラントでもあると言う。
「でも、この辺りは見当たらないね……もう少し進んでみようか」
周囲を見回したシャルルの提案にイレギュラーズたちは頷いた。同じ場所に居ても発見はないし、安全確保のためには製造プラントの破壊が必要だ。張り巡らされたトラップには注意が必要だろうが、無闇に時間を浪費したくない。
一同は慎重に歩を進め、トラップを回避しながら辺りの様子を探る。幸いにして、あちこちに生えた水晶の内部で起こる電流が紫の光を弾かせ、周囲をぼうっと照らしていた。不気味ではあるが、光源としては問題ない。
不意に風が抜ける。否、風自体は何処かから何処かへと吹いていたのだが、それがひゅうと遊ぶようにころげる。
そこに含まれた匂いにイレギュラーズは首を傾げた。彼らを見てシャルルもまた疑問を呈す。
「どうかした?」
彼女は感じられなかったらしい。甘い香りがしたのだ、と言うイレギュラーズの言葉を聞いて、シャルルは小さく唸った。
「ボクはただの風に思えたけど……外から吹き込む風向きが変わって、何かの匂いを運んだのかな」
常に空気は流れており、外からやってきているのだと言うことはわかる。シャルルの言う通り、そうなのかもしれない。
ならばこれ以上気にすることもないだろう。対立してくる『特務派』の軍人を退け、早々にプラントを破壊しなければ。
皆の意見が一致した、その矢先だった。
――たすけて。
「!?」
「今のは、」
風に乗ってきた声に一同は振り返る。小さくも女性の声だった。アーカーシュの住人……とは些か考えにくいが、鉄帝軍人の中には女性も居る。もし何らかのモンスターに襲われていて、救援を求める声だったら?
イレギュラーズは揃って駆け出す。もう声は聞こえなかったが、甘い香りはより一層濃くなっていく。トラップで時間を取られないよう十分に警戒しながら辿り着いた先は、空の見える場所だった。
「庭……?」
「中庭かな。あれは……花畑?」
胡乱に視線が向けられたのは、中庭の真ん中あたりで群生する花だ。それを見たイレギュラーズはああそうか、と唐突に気づく。
この甘い香りにシャルルがなぜ気付かないのか。それはきっと、彼女自身のまとう匂いとよく似ているからだ。自分の匂いというのはわからないものである。
が、その当人であるシャルルはあるものを見て顔をこわばらせた。あれは、と示された先。
「……鉄帝の軍人が、同じような剣を持っていたよね。それに、この臭い」
地面へ無造作に転がる抜き身の長剣。よく見れば地面に付着している液体は――赤を帯びていないか。
けれど本当にそれだけ。他に落ちているものもなければ、人の肉体が転がっていることもない。その痕跡からして時間は経っていないはずだが、果たしてどこに行ったのか。
一気に緊迫感を孕んだイレギュラーズたちの耳に、またあの『たすけて』が聞こえる。もっと近く、もっと確かに。
まだ生きているのか。踏み込んだイレギュラーズの1人、その足を何かが素早く捉える。ぐんと体が持ち上げられ、上空へ吊り上げられた視界は花畑を見下ろして――目が、あった。
一面に広がる紅の下。伏せたモノ自身が広げた赤の上。虚ろな瞳が空までもちあげられたイレギュラーズを見て。
た す け て。
そうかたどった唇が、雫を零した頬が、助けを求めた瞳が鮮やかな紅に覆われる。それと同時、足を拘束していた蔦が仲間の攻撃によって破られた。
着地。花弁がその勢いにぶわりと舞い散る。同時に、花畑へ潜んでいたそれらが起き出し、次の獲物を見定めるように蔦を揺らした。
- <Stahl Eroberung>紅の下完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年07月24日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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あの『助けて』がどこから発されたのか、知る術は誰にもない。
どの『助けて』が本当に救いを求めていたのかも、わからない。
(ま、それでも助けてーって言われたんだしね)
『月下の華月』月季(p3p010632)は誰よりも早くその足で地を蹴り、その翼を広げて敵陣へと突撃する。状況を正確に把握できているとは言い難いが、それでもあの花たちが敵であることは解るから。
翼が纏った風が鋭利さを帯びる。斬神空波で飛び込んでいく月李を一瞥しながらも、『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は素早く視線を巡らせて「そこだ」とある一点を示した。
「そこに陣地を作るぞ! 急げ!」
この花畑――花畑とも言えぬ有様ではあるが――に生存者がいるのであれば、救出すること自体はやぶさかでもない。しかし策を講じずにただ花畑から引きずり出すだけでは、いつ増援が出るともしれない城内を移動するしかなくなる。
故にここへ安全地帯を構築し、生存者を救出次第運び込みたい――のだが。
「瓦礫は……、っ!」
城壁の周囲に瓦礫などのゴミはない。花畑の近くに転がる破片へ手を伸ばしたジェイクは、迫った蔦を見て咄嗟に手を引く。蔦は宙をきり、瓦礫の破片をごろんと自分の方へ倒しながら引っ込んでいった。
「面倒な奴らだ」
舌打ちひとつ。ジェイクは空を飛ぶ鳥を使役すると、上空からの視点で敵の位置と生存者の捜索を始める。
「シャルルさん、臭う?」
「臭う」
あそことあそこ、と指し示していく『Blue Rose』シャルル(p3n000032)の顔のなんと苦いこと。そんな顔をするとはよっぽどらしいと『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は面白そうに笑う。
「アハハッ、まあ任せてよ! ボク達であんな食人植物、あっという間に倒しちゃうから!」
「うん。……助けられる人たちも、助けないとね」
ヒィロに頷くシャルル。まだ救助は始まったばかりだが、鉄帝の軍人ならそう易々と命を手放さないはずだとも思っている。
「それにしても人語を喋って、アーカーシュアーカイブスによれば人にも擬態できるんだよね?」
「らしいね」
ヒィロの放つ闘気がカクラクトッリナ達を刺激する。援護攻撃をするシャルルは頷いた。
人に近い言葉と姿。姿だけなら人を食い物にする他のものを誘き寄せている可能性もあるが、言葉まで明確に発するとなれば狙いは人に定まっている。
(人をエサとすることに特化してきた食人植物なのかなー。つまりボク達人類の天敵?)
それならば手加減も遠慮も不要であると気づいたヒィロはにぃっと笑みを浮かべる。彼女を喰らわんとするように周囲をカクラクトッリナが蠢くが、飛び込んできた『竜剣』シラス(p3p004421)が痛烈な竜撃を食らわせた。
――たすけて。
空気が震える。けれどシラスはピクリとも眉を動かさない。
「全く、綺麗な花に棘はつきものとは言うが」
息もつかせない追撃に触手が圧倒され、後方へと追いやる勢いでシラスの手刀が振るわれる。
「こいつは御免被りたいね。そもそも、綺麗とも思えない」
どれだけ美しい貴婦人の擬態がとれるとしても、所詮はモンスターだ。人の血で色づいたドレスなんて見られたものではない。
「――でも、聞く人によっては聞いちゃうんだよね」
不思議そうな声音で『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)は呟いて、その瞳が人の手を認識したところで動き出す。近づこうとする触手は乱撃で跳ねのけて、素早く軍人の体を担いだ美咲は踵を返した。
(壁際に避難所作るそうだけど、すぐできてるかな……?)
結論から言えば、できていない。戦闘が行われる前であればそれなりのスピードで進んだだろうが、既に敵も出現している状況だ。敵の妨害を退けながらともなれば、必然的に作業は遅れる。
救助者を運んできた美咲は思い切って安全地帯とする場所の地面を抉る。瓦礫を調達し、バリケードを構築することが難しいのならば、いっそ下へ掘り進めてしまった方が早い。
美咲のマスク越しに香る甘さが僅かに頭の奥を痺れさせる。小さく頭を振れば霧散してしまうが、まともに吸ったならこうはいかないだろう。
(存在し得ない『助けを求める声』に反応してしまったのも、この匂いのせい……?)
救助者の意識はない。幸い大きな怪我はなさそうだが、あの花に眠らされたのか。
「カクラクトッリナがこっちに気付いてるよ」
「そのままいけそう?」
「やってみる」
『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)が狙撃銃を構える。今でも綺麗な花畑だと思うが、あの花に擬態した怪物を倒したなら、もっと美しくなるのだろうか。それとも寂れてしまうのだろうか。
(何にしたって、あの怪物を倒すのが今回のお仕事。私たちが動くことで、救える人達がいる)
発砲音をひとつ。カクラクトッリナの触手がぱしんと弾かれたように仰け反る。次の照準を定めるハリエットの視界に蒼い空が映った。
「武器商人、そこよ!」
「ヒヒヒヒ、了解。可愛いコたち、我(アタシ)と遊ぼうか?」
隠れるカクラクトッリナを見破った『希望の星』燦火=炯=フェネクス(p3p010488)の言葉に、『闇之雲』武器商人(p3p001107)がゆらりと向かう。口元に絶えず笑みを浮かべ、害をなすわけでもないのに――嗚呼、"アレ"を存在させてはいけないと本能が警鐘を鳴らす。
(随分とまあ、イイ趣味したデザイナーがいたようだね)
最もモンスターたちが後に住み着いたのか、元からこのようなものなのか定かではないが。何はともあれ早々にここから退け、生存者を救出したいところである。
「姿が見えないなら、蔦の中に埋もれているやもしれんね。もしくはもうその口の中だったりするのかい?」
ね、ね。教えておくれよ。何なら我(アタシ)の血肉をくれてやってもいい。腹を壊すやもしれんがね!
クスクスクス。笑う武器商人に周辺のカクラクトッリナが集っていく。うちの一体に極光撃を叩き込んだ燦火は、カクラクトッリナが隠れていた場所に軍人の体が転がっているのを見た。
(なるほど、自分たちの体で隠していたのね)
大切な食料は自分の身で護るといったところか。ずいぶんと食い意地の張った食人植物だ。
ヒィロや武器商人が敵を引き付ける最中、ようやく簡易的ながらも塹壕が完成する。早速救助者を運び込んだ美咲へハリエットは狙撃銃の構えを降ろさず口を開いた。
「私はこの場に残るよ。攻めてくる敵がいれば防戦する」
「ええ、お願い」
ここから届かない敵や実際の救助は自分や仲間の役目だと頷く美咲。守ってばかりではカクラクトッリナを全滅させることはできないし、カクラクトッリナに集中し過ぎては守りたいものも守れない。
「……あと、もしも。もう息のない人を見つけたら、その人も連れてきて貰えないかな」
ハリエットは僅かな逡巡と共にお願い事を増やす。これはハリエットの個人的なお願い事だった。生存者でないのなら、カクラクトッリナたちを倒すことに専念した方がより迅速に倒せるだろう。けれど、それでも、ハリエットは彼らも此処に居た一員だから、無かった事にするのではなくて弔ってやりたいのだ。
美咲は善処すると首肯して、カクラクトッリナたちが蠢く花畑へその身を躍らせに行く。それとは入れ違いにハリエットの方へ駆けてくるのは月李だ。
「そこ退いて! 後ろから来てる!」
足元の花々や蔦をものともせず、月李は翼を羽ばたかせながら飛び込むように塹壕へ到達する。その通路を開けたハリエットは、追いかけるように高速で移動してい来るカクラクトッリナへ向けて照準を合わせた。的確な狙撃でカクラクトッリナが怯んでいる間に月李が簡易塹壕から出て来て翼を広げた。
「相手して貰えて助かったー。奴さんには諦めてもらお!」
飛びたつと同時、速度を上げる月李。呼吸を不要とした体では満ちる甘ったるさもなんてことはない。おりゃあと声上げ速力を威力へと変じれば、ぶち当たったカクラクトッリナはぐんにゃりと力を失って倒れ伏した。
しかして"彼女ら"は群れである。まだ赤の貴婦人たちは新たに踏み入って来た人間たちを食糧にすることを諦めておらず、そうできるだけの頭数も残っている。
「自然のお花はそんな物欲しそうにしてないもんだよ? このイヤしんぼめ!」
シャルルが臭いで目星をつけ、ヒィロが闘志でその場から引き離す。そうして敵と距離が出来た場所を、シラスは温度視覚で要救助者がいないか確認するのだ。
(まさか庭師みたいな真似事をやるとはな)
生存者がカクラクトッリナ本体の下に隠されていることがあるのは既に判明済だ。しかし本当にそれだけなのだろうか。隠せない分の人間はどこへ行ったのか。
生きてさえいるのなら、たとえ土に埋められていようと蔦でつるされていようと体温を発している筈だ。すくえる命を救うべく、シラスはしかと目を凝らす。
「まあ、鉄帝の奴らとしちゃ自分たちが初踏破したかったんだろうが、悪いな」
ジェイクはヒィロの引き付けた敵に向けて銃弾の雨を降らせながらも、一番弱まっている敵へラフィング・ピリオドを撃ち込む。
今、このエピトゥシ城内ではいくつかの勢力がある。イレギュラーズと、味方になる鉄帝軍人と、敵になる鉄帝軍人。敵側が何を思って――というよりは、敵大将が何を思って――いるのかは知らないが、初踏破と聞けば誰だって心躍るだろう。であればこそ、負けられないとも思うのだ。
ここでカクラクトッリナの餌食になりかけた軍人は、初踏破は叶わなくとも命があるだけ儲けもの、と思ってもらおうではないか。
美咲は担ぎ上げようとした軍人の左腕の負傷を見て、一時処置を行ってから担ぐ。運んだ先で回復を行っているのは燦火だ。
「負傷したら一旦後退してきてくれる? この人たちから離れられないから!」
「わかった。ヒィロたちにも伝えておくね」
助かると燦火が首肯する。怪我の程度は様々だが、やはり時間が経過する程重症になっている気がする。
――カクラクトッリナが文字通り"喰っている"のだ。
小さな悲鳴と共に鮮血が飛ぶ。血の臭いが濃くなる。嫌な臭いだとシャルルは顔を顰め、仲間たちへ伝達する。
「これ以上人を傷付けさせない。ここで、おしまい」
ハリエットは今まさに人の腕を喰らったカクラクトッリナを中心に、弾幕を張って敵を一網打尽にする。焦らず、正確に、守るべきを巻き込まないように。
「ヒヒ、随分香りも濃くなってきたね」
武器商人はくらりと酩酊するような感覚に振り回されながらも、破滅の呼び声を発し続ける。自分を倒すのは難しいのだと、自負がある。だからこそ如何なる状況においてもすべきことは変わらない。
塹壕まで迫るカクラクトッリナの動線に立ち塞がり、軍人達のところまで行かせまいとするハリエット。すかさずジェイクが敵の体を撃ち抜き、脅威を覚えさせることで後退させる。敵同士が集まったところへ、すかさず燦火が氷の魔術を発動させた。
――たすけて。
――たすけて。
重なりすぎず、けれど確かに声が響く。まるて本物と勘違いさせるかのようだ。
ジェイクは惑わされない。声だけではなく、人助けセンサーによる本当の想いを拾い上げる。なによりここまで来て本物の花とカクラクトッリナを見間違うことなどありはしない。
「そっち任せていーい?」
「ああ」
月李はシラスへ要救助者を任せて、カクラクトッリナへ。その反応速度のままに攻撃を叩きつければ、カクラクトッリナがモンスターらしい――淑女らしからぬ音を上げる。
「出来る限り助けたいからさ。悪いけど倒れてよね」
結局助けられませんでした、なんて後味の悪いことになりたくない。誰だって目指すのはハッピーエンドだ。
「もう大丈夫だ、後で手当てしてやるから死ぬなよ」
「うぅ……」
シラスの声に呻き声を上げる軍人。朦朧とではあるが意識もあるようだ。シラスは全力で安全地帯まで後退し、燦火に後を任せると再び花畑へ駆けだしていく。
「あとは?」
「ワタシは感じないなー」
シラスの問いに月李が返し、ジェイクと美咲も同じだと頷く。じゃあ一気にやっちゃおう! と傷だらけになりながらにぱっと笑った。
後方はハリエットとジェイクの狙撃チーム、そして回復も行う燦火が強烈な氷の魔術を用意しているので憂いはない。武器商人とヒィロが残っているカクラクトッリナを集め、美咲の乱撃が一網打尽にせんと放たれる。
「終わりだぜ、赤の貴婦人」
シラスの竜撃がカクラクトッリナの体を貫いていく。もう気遣う必要のある者はいないと知って武器商人はにぃと唇に弧を描いた。
「可愛いコたち、水葬は好きかい?」
どこからともなく水が巻き上がる。それはひどく高い、カクラクトッリナたちよりも高い壁を為して――一気に決壊し、彼女らを押し流した。
「やっと終わり? ヒドい目にあったねぇ」
やれやれと溜息をつくヒィロの頭を美咲が撫でる。それだけで彼女のご機嫌は直ってしまうのだけれども、そうそうに帰りたい気持ちは中々なくならない。
「自然の神秘も自然の驚異もお腹一杯だよー」
「ヒヒヒ、そうかい」
「そう! 人間にとって一番自然な環境――町に帰るのが一番!」
武器商人はそうかいそうかいと笑って。その場を去り際に、カクラクトッリナも――本物の花畑もなくなったそこを一瞥した。
これだけ禍々しい城の中に存在するというだけで不自然な存在だったのだ。本当はこの何もない空間こそが本来正しい形だったのかもしれない。
(……なんてね。本当にそうかもわからないさ)
ただ一つ言えるのは――ここにはもう何もないという事実だけである。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
無事にカクラクトッリナは討伐され、軍人も救出できました。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
カクラクトッリナの全滅
サブ目標:生存者の救出
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。
●フィールド
エピトゥシ城の一角にある庭で、周囲は城壁で囲まれているものの空は解放感があります。
それなりの広さがあり、一面に真っ赤な花が咲いています。かつては美しい花園だったと思われます。普通の花と、カクラクトッリナの擬態部分が交じり合っているようです。
周囲には軍人の持ち物と思しき物が点在しており、持ち主である軍人の生死、及び人数は不明です。
庭から城の通路へ入るにはそこまで距離が開いていませんが、城内のトラップやモンスターを考えると安全とは言い難いでしょう。
●カクラクトッリナ(屍擬花)×??体
古代獣(エルディアン)であり、赤いドレス姿の人間にも擬態できる大きな花の怪物です。会話できません。喋りはします。
通常は20体程度の群れで行動するとされ、このフィールドにも複数の敵影が確認されています。ただし、会敵時点で全ての敵が姿を現しているとは限りません。
地表を素早く移動することが可能で、蔦に似た触手で相手を捉え、鋭い牙でかぶりついてきます。周囲に満ちた甘い香りは時として判断力を鈍らせるようです。
本体は基本的に地表を移動しますが、触手は遠距離攻撃を行うことが可能です。攻撃には【出血系列】【乱れ系列】【足止系列】等のBSが想定されます。
また、フィールド上にいる襲い掛かりやすい人間の体に対して捕食を行い、食らった血肉の量に応じて回復します。該当者が複数いた場合、【HA回復】【Mアタック??】の攻撃を行います。
●友軍
・『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
かつての世界では精霊だったというウォーカーの少女。花畑と似たような香りを纏っており、カクラクトッリナの匂いに判別がつきにくい代わりに、そこに混じった血の臭いは皆様より鮮明に嗅ぎ分けられます。
戦闘中は神秘アタッカーとして、後方から皆様の援護攻撃を行います。指示があれば従います。
●ご挨拶
愁と申します。
古代獣を倒し、安全を確保しましょう。生存者がいれば救助しても良いです。
それでは、よろしくお願い致します。
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